「土地はあるので、あとは建物と事業の資金さえあれば」——土地を持つ方が自ら事業を始めようとするとき、こう考えることは少なくありません。確かに土地の取得費がかからない点は大きな強みです。しかし、建物や設備、開業準備、事業が軌道に乗るまでの資金は、土地とは別に用意する必要があります。
結論から言えば、土地所有者が事業を始めるときの資金計画は、①必要な資金を種類と時期で分け、②土地が担う役割(担保・費用構造・出資の対象)を整理し、③自己資金・融資・補助金・事業者との共同を、それぞれの性質に合う部分に割り当てるという順番で考えるのが基本です。
この記事では、土地を持つ方ならではの資金計画の考え方を解説します。一般の創業者向けの融資制度の詳細は、関連記事「創業融資の準備」で扱っています。
まず「何に・いつ・いくら」必要かを分ける
資金計画の出発点は、どこからお金を集めるかではなく、何に、いつ、いくら必要かを明らかにすることです。土地を使った事業では、必要資金を次の4つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 資金の種類 | 主な内容 | 必要になる時期 | 合う資金の出し手の例 |
|---|---|---|---|
| 建物・設備の資金 | 建物の建築・改修、設備、内装、什器 | 開業前にまとめて | 長期の融資、自己資金、事業者との共同 |
| 開業準備の資金 | 設計費、許認可の手続、採用・研修、広告 | 開業前に分散して | 自己資金 |
| 運転資金 | 仕入れ、人件費の立替え、売上の回収までのずれ | 開業後に継続して | 短期・中期の融資、自己資金 |
| 赤字期間の資金 | 事業が軌道に乗るまでの赤字の補てん | 開業後数年 | 自己資金、余裕を持たせた融資枠 |
見落とされやすいのが4つ目の赤字期間の資金です。新しい事業は、開業直後から計画どおりの売上になるとは限りません。この期間を支える資金がないと、事業そのものに見込みがあっても資金が先に尽きてしまいます。事業収支の作り方は、関連記事「土地活用を事業化するときの検討事項」で解説しています。
土地は資金計画の中で何をしてくれるか
土地を持っていることは、資金計画の中で主に次の3つの役割を果たします。
1. 費用構造を軽くする
土地を買ったり借りたりする必要がないため、地代や土地の取得に伴う借入れの返済がありません。これは事業の損益分岐点を下げ、赤字期間を短くする効果があります。ただし、固定資産税などの保有コストは引き続きかかります。
2. 借入れの担保になり得る
土地は、金融機関から借入れを行う際の担保として評価されることがあります。ただし、担保の評価額は土地の時価や相続税評価額とは一致しないのが一般的で、事業用の建物と一体で評価されることもあります。また、担保があるからといって必ず融資が受けられるわけではなく、金融機関は事業計画と返済の見通しを重視します。
3. 「現金の自己資金」とは別物である
土地を持っていても、それは手元の現金ではありません。融資の相談では、事業にどれだけ自分の資金を投じるかが問われることが多くありますが、土地の価値がそのまま現金の自己資金と同じように扱われるとは限りません。開業準備や赤字期間の資金は現金で必要になるため、土地とは別に現金をどれだけ用意できるかを確認しておきます。
土地の貸し方が税務と承継に影響する
オーナー個人が土地を持ち、事業は自分の会社で行う場合、個人から会社へ土地をどのような条件で使わせるか(地代を受け取るか、無償か、建物を誰が建てるか)によって、借地権や相続税評価、相続税の特例の扱いが変わります。所有と運営を分ける設計の論点は、関連記事「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」で整理しています。
資金の出し手ごとの特徴
自己資金
最も自由度が高い資金です。開業準備や赤字期間の資金など、融資や補助金が使いにくい部分に充てます。家族の資金を使う場合は、贈与なのか貸付けなのか、出資なのかを明確にしておきます。
融資
建物・設備のような長期の投資には、長期の融資が向いています。創業期の代表的な制度として、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」があります。公庫のウェブサイトによれば、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方を対象に、設備資金・運転資金を融資する制度で、融資限度額は7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内)とされています(2026年10月7日確認)。担保・保証人は相談に応じるとされ、適正な事業計画とそれを実行する能力が求められます。
民間の金融機関からの借入れや、自治体の制度融資を組み合わせることもあります。いずれも、事業計画の確かさが審査の中心になる点は共通です。
補助金
補助金は、国や自治体が事業者の新しい取組みを支援するために支給するもので、原則として返済は不要です。中小企業庁のポータルサイトでは、販路開拓、設備投資、新事業への進出、省力化などを支援する補助金が紹介されています。
ただし、資金計画の上では次の性質に注意が必要です。
- 後払いである:補助金は、事業を実施した後に実績を報告し、検査を受けてから受け取る精算払いが原則です。いったん全額を自分で支払う資金が必要です。
- 交付決定前の発注は対象外:交付決定の日より前に発注・契約・支払いをした経費は、原則として補助の対象になりません。開業スケジュールと公募・審査の時期を合わせる必要があります。
- 採択されるとは限らない:審査があるため、申請しても必ず採択されるわけではありません。
- 事業後の管理が続く:補助対象経費の書類は事業終了後も一定期間の保管が求められるなど、受け取った後にも守るべき事項があります。
このため、補助金は「採択されれば計画が楽になる上乗せ」と位置付け、補助金がなくても成り立つ資金計画を先に作っておくことが大切です。創業時に使える補助金・助成金の種類や会計処理は、関連記事「創業時に使える補助金・助成金」で扱っています。
事業者との共同
自ら全額を負担しない方法として、事業のノウハウを持つ事業者と組む選択肢もあります。
- 事業者が建物・設備を負担し、オーナーは土地を貸す:オーナーの資金負担は小さくなりますが、事業の収益は事業者のものとなり、オーナーは地代を受け取る立場になります。
- オーナーが建物を建て、事業者に貸す:建物の資金はオーナーが負担し、家賃で回収します。
- 共同で会社をつくり、出資する:オーナーと事業者がともに出資し、事業の収益とリスクを分け合います。出資比率、役割、意思決定の方法、関係を解消するときのルールを事前に決めておく必要があります。
共同の形を選ぶほど資金負担は軽くなりますが、その分、事業への関与や収益の取り分、土地の使い方の自由度が変わります。
組み合わせの順番
資金の出し手は、次の順番で組み合わせると考えやすくなります。
- 事業計画から必要資金を4種類に分けて見積もる
- 自己資金(現金)で何を賄えるかを決める:開業準備と赤字期間の資金を優先
- 長期の投資を融資でどこまで賄えるかを確認する:返済額が事業の資金繰りで無理なく払えるか、悲観ケースでも確認
- 補助金は上乗せとして検討する:受け取るまでのつなぎ資金を含めて計画
- 不足する場合は、事業者との共同や事業規模の見直しを検討する
5番目で「事業規模を小さくして始める」ことも、立派な選択肢です。初めから大きな建物を建てるより、小さく始めて手応えを確かめるほうが、資金計画に無理が生じにくくなります。
個人で始めるか、会社で始めるか
土地をオーナー個人が持ったまま、事業を個人で行うか会社で行うかによっても、資金計画は変わります。
- 借入れの主体:会社が借りる場合でも、代表者が保証を求められることがあります。
- 担保の提供:個人の土地を会社の借入れの担保に提供する場合、その土地は会社の事業リスクと結び付きます。
- 資金の流れ:個人が会社に資金を貸すのか、出資するのかで、返済や将来の相続での扱いが異なります。
会社で始める場合の事業計画と資本金の考え方は、関連記事「会社設立前に決めておきたい事業計画と資本金」で解説しています。
承継の視点:資金計画は家族の将来にも関わる
土地を使った事業の資金計画は、オーナーの代で完結しません。
- 借入れと担保は引き継がれる:オーナーに相続が起きた場合、土地とともに担保の負担や保証の問題を家族が引き継ぐことになります。
- 相続税の特例との関係:国税庁によれば、小規模宅地等の特例では、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は、一定の場合を除き対象外とされています。また、申告期限までの事業の承継・継続などの要件もあります。事業を始める時期と、家族の承継の見通しを重ねて考えておくことが大切です。
- 家族の理解:土地を担保に入れることや、事業に資金を投じることについて、土地を引き継ぐ家族と方針を共有しておくと、後の対立を防ぎやすくなります。
AEGISの視点
土地を持つ方が事業を始めるとき、「土地があるから大丈夫」という安心感が、資金計画を甘くしてしまうことがあります。AEGISは、土地を「資金の代わり」ではなく「事業の条件を良くしてくれる土台」として捉えることが大切だと考えています。
土地は地代のかからない事業の場を提供し、借入れの担保にもなり得ます。しかし、開業準備や赤字期間を支えるのは現金であり、借入れを返すのは事業の収益です。そして土地に負担をかける資金計画は、その土地を引き継ぐ家族の選択肢にも影響します。
だからこそ、事業の資金計画と、土地の所有・承継の計画は一体で考える必要があります。融資・補助金・事業者との共同は、どれが優れているかではなく、事業の段階と家族の将来にどう合うかで選ぶもの——それがAEGISの考え方です。
土地の活用全体の比較は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で整理しています。
土地の所有形態と承継、相続税の特例に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 資金計画は、必要資金を「建物・設備」「開業準備」「運転資金」「赤字期間」に分けることから始めます。
- 土地は費用構造を軽くし、担保になり得ますが、現金の自己資金と同じではありません。
- 融資は長期の投資に、自己資金は開業準備と赤字期間に、補助金は後払いを前提とした上乗せとして位置付けます。
- 資金が不足する場合は、事業者との共同や事業規模の見直しも選択肢です。
- 土地の貸し方、担保、相続税の特例など、資金計画は承継にも関わります。具体的な判断は個別の事情によって異なります。
よくある質問
Q. 土地を持っていれば、融資は受けやすくなりますか?
土地は担保として評価されることがあり、プラスの材料になり得ます。ただし、金融機関は事業計画と返済の見通しを重視するため、担保があるだけで融資が受けられるわけではありません。担保の評価額も、時価や相続税評価額とは異なるのが一般的です。
Q. 土地を自己資金として扱ってもらえますか?
扱いは金融機関や制度によって異なり、土地の価値が現金の自己資金と同じように評価されるとは限りません。開業準備や赤字期間には現金が必要になるため、土地とは別に、事業に投じられる現金を確認しておくことが大切です。
Q. 補助金を前提に資金計画を作ってもよいですか?
補助金は審査があり、採択されるとは限りません。また、事業の実施後に受け取る後払いが原則で、交付決定前の発注は対象外とされています。補助金がなくても成り立つ計画を先に作り、補助金は上乗せとして位置付けることをおすすめします。
Q. 資金が足りない場合、事業者と組むべきですか?
事業者と組むと資金負担は軽くなりますが、収益の取り分や土地の使い方の自由度が変わります。事業者が建物を負担して土地を借りる形、オーナーが建物を建てて貸す形、共同で出資する形などを比較し、自分たちがどこまで事業に関わりたいかで選ぶことが大切です。
Q. 事業を始めた直後に相続が起きたら、どうなりますか?
国税庁によれば、小規模宅地等の特例では、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は、一定の場合を除き対象外とされています。借入れや担保も家族に引き継がれるため、事業開始の時期と承継の見通しを、あらかじめ家族と共有しておくことが大切です。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html
確認日:2026-10-07 - 中小企業庁 ミラサポplus「補助金とは」
https://mirasapo-plus.go.jp/subsidy/guide/
確認日:2026-10-07 - 中小企業庁 ミラサポplus「人気の補助金」
https://mirasapo-plus.go.jp/subsidy/
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
確認日:2026-10-07
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