電子帳簿保存と電子申告への対応|中小企業・個人事業主が「義務」と「選択」を分けて整える方法

スキャナーで書類を読み取り、ノートパソコンで確認する様子

電子帳簿保存法への対応で、中小企業や個人事業主が必ず行わなければならないのは「電子取引データの保存」です。メールやWebサイト、クラウドサービスなどで受け取った請求書・領収書などのデータは、紙に印刷して終わりにせず、データのまま保存する必要があります。

一方、会計ソフトで作った帳簿を電子データで保存する「電子帳簿等保存」や、紙の書類をスキャンして保存する「スキャナ保存」は、要件を満たせば選べる任意の制度です。また、法人税等の電子申告(e-Tax)が義務になっているのは、主に資本金1億円を超える法人などであり、多くの中小企業にとって電子申告は選択の問題です。

この記事では、「義務」と「選択」を分けたうえで、最低限やるべきこと、やると得なこと、令和9年(2027年)からの見直しまでを整理します。

電子帳簿保存法の三つの区分

電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、帳簿や書類の保存方法について、紙に代えて電子データで保存する方法を定めた法律です。保存の区分は、次の三つに分かれます。

区分対象義務か任意か中小企業・個人事業主の判断の目安
電子帳簿等保存会計ソフト等で最初から電子的に作成した帳簿・決算書類など任意会計ソフトを使っていれば検討しやすい。要件を満たせば紙での保存が不要に
スキャナ保存取引先から紙で受け取った請求書・領収書など任意紙の量が多く、保管場所や検索に負担がある場合に検討
電子取引データ保存メール・Web・クラウド等で授受した取引情報義務(所得税・法人税の保存義務者)すべての事業者が対応する。まずここから

※AEGISが電子帳簿保存法、国税庁の情報、書籍の記載をもとに整理。

法人の帳簿書類の保存期間は、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間で、欠損金が生じた事業年度などは10年間です(国税庁 タックスアンサーNo.5930)。電子データで保存する場合も、この期間を通じて要件を満たした状態を保つ必要があります。

義務:電子取引データの保存

対象となる取引

電子帳簿保存法7条は、所得税と法人税の保存義務者が電子取引を行った場合には、その取引情報に係る電磁的記録(電子データ)を保存しなければならないと定めています。たとえば、次のような取引が対象です。

  • メールに添付されたPDFの請求書・領収書を受け取った
  • ネット通販やWebサイトで購入し、領収書をダウンロードした
  • クラウドの請求書サービスや受発注システムで取引情報を授受した

自社が送った請求書のデータ(控え)も対象になります。

保存の要件:真実性と可視性

電子取引データの保存には、大きく分けて二つの要件があります(電子帳簿保存法施行規則4条)。

① 改ざんを防ぐための措置(真実性の確保)

次のいずれかの措置をとります。

  • タイムスタンプが付されたデータを受け取る
  • 受け取った後、速やかに(または一定の期間内に)タイムスタンプを付す
  • 訂正・削除の履歴が残る、または訂正・削除ができないシステムで授受・保存する
  • 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、それに沿って運用する

中小企業や個人事業主にとって、最も取り組みやすいのは事務処理規程による方法です。規程を定めるだけでなく、そのとおりに運用し、規程を備え付けておくことが求められます。

② 確認できる状態にする措置(可視性の確保)

  • ディスプレイやプリンタ等を備え付け、データを速やかに出力できるようにしておく
  • システムの概要書などを備え付ける(自社開発のシステムを使う場合など)
  • 取引年月日・取引金額・取引先で検索できるようにする(検索要件)

検索要件が不要になる場合

検索要件は、ファイル名に日付・金額・取引先を入れて規則的に保存するなどの方法でも満たせますが、次のいずれかに該当し、税務調査等の際にデータの提示・提出の求め(ダウンロードの求め)に応じられるようにしていれば、検索要件の全部が不要になります(同規則4条1項)。

  • 基準期間(個人は前々年、法人は原則として前々事業年度)の売上高が5,000万円以下の事業者である
  • データを出力した書面を、取引年月日その他の日付と取引先ごとに整理された状態で提示・提出できるようにしている

要件を満たせない場合の「猶予措置」

保存要件に従って保存できなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認め、かつ、税務調査等の際にデータのダウンロードの求めと、データを出力した書面の提示・提出の求めの両方に応じられるようにしている場合は、改ざん防止や検索の要件を満たさずにデータを保存することが認められています(同規則4条3項)。

令和5年12月31日までの電子取引に設けられていた「宥恕措置」(出力した書面の保存で足りるとする経過措置)は、すでに廃止されています。現在の猶予措置では、データそのものを保存しておくことが前提である点に注意が必要です。

選択:電子帳簿等保存とスキャナ保存

電子帳簿等保存と「優良な電子帳簿」

会計ソフトで作成した仕訳帳や総勘定元帳などは、一定の要件を満たせば、紙に出力せずデータのまま保存できます。さらに、訂正・削除の履歴の保存、帳簿間の相互関連性、日付・金額・取引先による検索機能の確保などの要件を満たす「優良な電子帳簿」として、あらかじめ届出書を提出しておくと、その帳簿に記録された事項に関して過少申告があった場合の過少申告加算税が5%軽減されます(電子帳簿保存法8条4項、国税庁「電子帳簿保存法の概要」)。

個人事業主の場合は、優良な電子帳簿による保存が青色申告特別控除の金額にも関わります。詳しくは関連記事「個人事業主の青色申告と記帳」で解説しています。

スキャナ保存

紙で受け取った請求書や領収書は、スキャナやスマートフォンで読み取り、一定の要件を満たして保存すれば、原本を廃棄できるようになります。令和5年度の税制改正(令和6年1月1日以後に適用)では、解像度等の情報の保存要件や入力者等の情報の確認要件が廃止され、帳簿との相互関連性の確保が必要な書類が契約書・請求書・領収書などの「重要書類」に限定されるなど、要件が緩和されています。ただし、読み取りの解像度や階調などの要件自体は残っており、入力の期限やタイムスタンプ等の要件もあります。

紙の量が少ない事業者にとっては、無理にスキャナ保存を導入せず、紙で保存する方が合理的な場合もあります。

不正があった場合の重加算税の加重

スキャナ保存したデータや電子取引データに関して、隠蔽・仮装があり重加算税が課される場合には、通常の重加算税に、その部分の税額の10%が加算されます(電子帳簿保存法8条5項)。データは改ざんの痕跡が残りにくい一方で、不正が判明したときの負担は重くなる仕組みです。

電子申告(e-Tax)の義務と選択

法人税法75条の4は、事業年度開始の時の資本金の額が1億円を超える法人や通算法人などの「特定法人」について、法人税の申告をe-Taxで行わなければならないと定めています。この義務化は、令和2年(2020年)4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。

資本金1億円以下の中小法人や個人事業主にとって、e-Taxは現時点では選択です。ただし、e-Taxには次のような利点があります。

  • 申告書の提出や受付の確認がオンラインで完結する
  • ダイレクト納付などの電子納税と組み合わせられる
  • 税務調査等で求められた資料を、e-Taxでデータ提出できる場面がある
  • 個人事業主の青色申告特別控除では、e-Taxによる申告が控除額の要件に関わる

会社設立時に、会計ソフト・電子保存・e-Taxを一体で整えておくと、後から仕組みを変える手間を減らせます。創業期の会計・税務の整え方は、関連記事「創業初年度の会計・税務・資金管理」で整理しています。

令和9年(2027年)からの見直し

令和7年度の税制改正では、請求書等の電子取引データを自動で保存し、帳簿に自動で連携する仕組みに対応した制度が設けられました。電子帳簿保存法8条5項が改正され、国税庁長官が定める基準に適合するシステム等を使い、一定の要件を満たして保存されている電子取引データについては、上記の重加算税の10%加重の対象から除かれます。e-Govでは、この改正後の規定が令和9年1月1日施行の未施行版として掲載されています。

あわせて、個人事業主については、こうした仕組みを使って電子取引データを保存している場合などに、令和9年分以後の青色申告特別控除の額に関わる見直しも行われています(前掲の関連記事「個人事業主の青色申告と記帳」参照)。

対応の優先順位

優先度取り組み対象
1(必須)電子取引データをデータのまま保存し、事務処理規程を定めるすべての事業者
2(必須)保存場所・ファイル名のルールを決め、検索できる状態にする(または検索要件不要の条件を確認)すべての事業者
3(推奨)会計ソフトを電子帳簿等保存の要件に合わせ、優良な電子帳簿の届出を検討する会計ソフトを使う事業者
4(推奨)e-Taxと電子納税を導入する義務のない中小法人・個人事業主
5(選択)紙の書類のスキャナ保存を導入する紙の量が多い事業者

※AEGISが整理した目安です。業種や取引の形によって優先度は変わります。

実務上注意したいポイント

  • 「印刷したから大丈夫」は通用しない:電子取引データは、データそのものの保存が前提です。
  • 社内ルールは「誰が・どこに・どう名付けて保存するか」まで決める:担当者ごとに保存方法がばらばらだと、検索や提示ができません。
  • 経費精算・個人カードの利用分も対象になり得る:役員や従業員が受け取った領収書データの扱いも決めておきます。
  • クラウドサービスの解約に注意:サービスを解約するとデータが閲覧できなくなる場合があります。保存期間を通じて確認できる状態を保ちます。
  • 最新の要件は国税庁の一問一答で確認する:要件は改正で変わってきました。

AEGISの視点

電子帳簿保存法への対応は、「税務署に言われたからやる作業」と捉えられがちです。しかしAEGISは、これを「会社のお金の記録を、誰が見ても追える状態にする仕組みづくり」と考えています。

取引データが決まった場所に、決まったルールで保存されていれば、月次の数字を早く正確に把握でき、資金繰りや納税の予測にもつながります。オーナーが急に不在になったときや、事業を後継者や第三者に引き継ぐときにも、記録が整っている会社ほど説明がしやすく、引継ぎが円滑です。

制度改正は、事業者にとって負担に感じられることが少なくありません。それでも、改正を「自分の会社の仕組みを見直す機会」として捉え直すことはできます。改正情報を自分ごととして点検する考え方は、親記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」で整理しています。

まとめ

  • 電子帳簿保存法の対応で必須なのは、電子取引データをデータのまま保存することです。
  • 保存には、改ざん防止の措置(事務処理規程など)と、確認・検索できる状態の確保が必要です。売上高5,000万円以下などの場合は、ダウンロードの求めに応じることを条件に検索要件が不要になります。
  • 要件を満たせない相当の理由がある場合の猶予措置も、データの保存とダウンロード・出力書面の提示が前提です。
  • 電子帳簿等保存・スキャナ保存は任意ですが、優良な電子帳簿には過少申告加算税の軽減があります。
  • e-Taxの義務は資本金1億円超の法人などが対象です。令和9年からは電子取引データの保存に関する見直しも予定されています。

よくある質問

Q. 小規模な会社でも、電子取引データの保存は必要ですか?

必要です。電子取引データの保存は、所得税・法人税の保存義務者であれば規模にかかわらず対象です。ただし、基準期間の売上高が5,000万円以下で、税務調査等の際のダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、検索要件は不要です。改ざん防止の措置は、事務処理規程を定める方法で対応できます。

Q. メールで受け取ったPDFの請求書を印刷して保存していれば足りますか?

足りません。令和5年12月31日までの取引に認められていた宥恕措置は廃止されており、現在はデータそのものを保存する必要があります。保存要件を満たせない相当の理由がある場合の猶予措置でも、データの保存と、ダウンロードの求め及び出力書面の提示・提出に応じられることが条件です。

Q. 紙で受け取った領収書もスキャンしなければなりませんか?

スキャナ保存は任意です。紙で受け取った書類は、紙のまま保存しても問題ありません。紙の量が多く、保管や検索に負担がある場合に、要件を確認したうえで導入を検討するとよいでしょう。

Q. 中小企業も法人税の電子申告が義務ですか?

法人税法で電子申告が義務とされているのは、事業年度開始の時の資本金の額が1億円を超える法人や通算法人などです。資本金1億円以下の中小法人は義務ではありませんが、e-Taxを使うと提出や納付の手続を効率化できます。

Q. 電子帳簿保存法に対応した会計ソフトを使えば、それだけで十分ですか?

ソフトが要件に対応していても、保存のルールや運用が伴わなければ要件を満たせません。誰が、どのデータを、どこに保存するかを決め、事務処理規程を整え、実際にそのとおり運用することが必要です。ソフトの機能と社内の運用を合わせて点検しましょう。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、P.96-109

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。