カテゴリー: 事業型不動産活用

立地と事業の適合性、投資、運営、契約、継続体制を考えるための解説です。

  • 古い店舗・倉庫を改修して事業に使う|用途変更の手続・建物の安全性・改修費の税務を先に確認する

    古い店舗・倉庫を改修して事業に使う|用途変更の手続・建物の安全性・改修費の税務を先に確認する

    シャッターを閉めたままの店舗や、使わなくなった倉庫。取り壊して建て替えるには費用がかかり、かといってそのままでは固定資産税だけがかかり続けます。こうした建物を改修し、カフェや教室、工房、地域の交流拠点などとして使い直す活用は、初期投資を抑えながら土地と建物に新しい役割を与える方法として関心が高まっています。

    結論から言えば、古い店舗・倉庫を改修して事業に使うときは、工事の見積りより先に「建物の履歴」「用途変更の手続」「安全性」の3点を確認し、そのうえで改修費の税務と事業の組み立てを検討することが大切です。建物の状態や書類によっては、思っていた用途に使えなかったり、改修費が想定を大きく上回ったりするためです。

    改修して使う(コンバージョン)とは

    既存の建物の構造を生かしながら、内装や設備を改修して、元とは異なる用途に使うことを、一般にコンバージョン(用途転換)と呼びます。店舗を飲食店や教室に、倉庫を工房やスタジオに、といった使い方がその例です。

    建替えと比べると、次のような違いがあります。

    比較の視点既存建物を改修して使う取り壊して建て替える
    初期投資抑えやすいが、建物の状態次第で増える大きいが、見積りの見通しは立てやすい
    開業までの期間比較的短い設計・確認・工事で長くなりやすい
    建物の制約既存の構造・規模・法令上の状態に縛られる現行の規制の範囲で自由に計画できる
    事業の試しやすさ小さく始め、様子を見ながら広げやすい事業の規模を先に決める必要がある
    建物の残り期間老朽化の程度により限られる長期の利用を前提にできる

    改修による活用は「小さく始めて、事業の手応えを確かめる」のに向いています。一方で、建物の状態や法令上の制約という「見えにくいリスク」を抱えている点に注意が必要です。

    確認1:建物の「履歴」を書類でたどる

    最初に確認したいのは、その建物が建築時から現在までどのような手続を経てきたかです。

    • 確認済証・検査済証:建築時に建築確認を受け、工事完了後の検査に合格したことを示す書類です。手元にない場合でも、自治体の建築指導担当の窓口で、確認や検査の記録(台帳記載事項証明書など)を確認できることがあります。
    • 建築計画概要書:建築確認の際に作成された建物の概要で、自治体で閲覧できる場合があります。
    • 登記と現況の一致:登記上の床面積や構造と、実際の建物が合っているかを確かめます。増築部分が未登記の場合、建築時の手続を経ていない可能性もあります。
    • 建築された時期:建築時期によって適用されていた耐震基準などが異なります。

    検査済証がない、増築の手続が不明といった建物では、用途変更の手続を進める前に、建物が当時の基準に適合していたかを調べ直す必要が出てくることがあります。この調査に時間と費用がかかる場合もあるため、事業の計画より先に書類を集めるのが現実的な順番です。

    確認2:用途変更の手続が必要か

    建築確認が必要になる場合

    建築基準法では、学校、病院、劇場、集会場、百貨店、旅館、共同住宅、倉庫など、法律の別表に掲げる用途の「特殊建築物」について、その用途に供する部分の床面積の合計が200平方メートルを超えるものを、建築確認の対象としています(第6条第1項第1号)。既存の建物の用途を変更して、その用途の床面積が200平方メートルを超える特殊建築物とする場合にも、確認の手続(いわゆる用途変更の確認申請)が必要になります(第87条。政令で定める類似の用途相互間の変更を除きます)。

    国土交通省によれば、平成30年の建築基準法改正により、既存建築ストックの活用を進める観点から、用途変更に伴って建築確認が必要となる規模の見直しが行われました(令和元年6月25日施行)。小規模な建物の用途変更では、確認の手続が不要となる場合が広がっています。

    ただし、確認の手続が不要であることと、法令の基準を満たさなくてよいことは別の話です。変更後の用途に求められる防火・避難などの基準を満たしているかは、手続の有無にかかわらず確認が必要です。具体的な要否と基準は、建築士や自治体の窓口で個別に確認してください。

    なお、現行の建築基準法(令和7年4月1日施行の改正後)では、2階建て以上または延べ面積200平方メートル超の建物などについて、用途を変えない場合でも、大規模の修繕や大規模の模様替をするときは建築確認が必要とされています(第6条第1項)。改修の範囲が大きい場合は、この点もあわせて確認が必要です。

    用途地域と区域の制限

    建物の用途は、都市計画の用途地域によっても制限されます。たとえば住居系の用途地域では、一定の規模を超える店舗や、作業場を伴う事業が認められないことがあります。また、市街化調整区域にある建物の用途を変更する場合は、別途の許可が必要になることがあります。その場所で、その事業ができるかを、建物の手続とは別に確認しておきます。

    確認3:建物の安全性と事業の基準

    用途が変わると、建物に求められる安全性の水準も変わります。

    • 耐震性:古い建物では、現在の耐震基準を満たしていないことがあります。特に昭和56年5月31日以前に新築の工事に着手した建物は、法令上「地震に対する安全性が明らかでない建築物」の要件とされています(建築物の耐震改修の促進に関する法律施行令3条)。多くの人が利用する事業に使う場合は、耐震診断と必要に応じた補強を検討します。
    • 防火・避難:飲食店や教室などは、倉庫や事務所と比べて、避難経路や内装の不燃化などの基準が厳しくなることがあります。
    • 消防用設備:用途によって必要な消防用設備が異なります。所轄の消防署への事前の相談が欠かせません。
    • 事業の許認可:飲食店の営業許可など、事業ごとの許認可や施設基準を満たす必要があります。
    • 設備の容量:給排水、電気容量、換気、空調などが、新しい用途に足りるかを確認します。

    これらの対応費用は、内装工事の見積りには含まれていないことがあります。「安全性と基準への適合にいくらかかるか」を先に見積もることで、改修か建替えかの判断がぶれにくくなります。

    確認4:改修費の税務(資本的支出と修繕費)

    改修にかかった費用は、税務上、その年の経費(修繕費)になるものと、建物の取得価額に加えて減価償却していくもの(資本的支出)に分かれます。

    国税庁によれば、固定資産の価値を高めたり耐久性を増したりする支出は資本的支出とされ、その例として「用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用」が挙げられています(法人税基本通達7-8-1、個人の場合はタックスアンサーNo.1379)。店舗や倉庫を別の用途に使うための改修は、原則として資本的支出に当たると考えておく必要があります。

    一方、通常の維持管理や、壊れた部分を元に戻すための費用は修繕費とされます。また、形式的な基準として、次のような場合は修繕費として扱うことが認められています。

    • 一の修理・改良等の費用が20万円に満たない場合、またはおおむね3年以内の周期で行われる場合
    • 資本的支出か修繕費か明らかでない金額で、60万円に満たない場合、または前期末(個人は前年末)の取得価額のおおむね10%相当額以下である場合

    実務上は、用途変更の工事と、あわせて行う傷んだ部分の補修を一体の工事として発注することが多く、その区分が問題になります。用途変更を目的とした一連の工事の中で行われる補修は、用途変更の費用に含めて資本的支出と判断される可能性があります。見積書や請求書の段階で工事の内容を分けておくと、後の判断がしやすくなります。

    なお、改修にあたって撤去した既存の内装や設備の帳簿価額は、除却損として処理できる場合があります。いずれも具体的な判断は工事の内容によって異なるため、工事の発注前に税務の扱いを確認しておくと安心です。

    確認5:固定資産税と、事業用の資産

    固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に課される税金で、家屋は再建築価格を基準とする方法で評価され、土地と家屋は3年ごとに評価が見直されます(総務省)。大がかりな改修を行った場合、その内容によっては家屋の評価に影響することがあります。

    また、事業のために取り付けた設備や備品は、家屋とは別に、事業用の資産(償却資産)として固定資産税の申告の対象になることがあります。改修後の税負担も事業の収支に織り込んでおきましょう。

    事業との組み合わせ方:自分で使うか、貸すか

    改修した建物を事業に生かす形は、大きく二つです。

    • オーナー(またはオーナーの会社)が自ら事業を行う:改修の内容を事業に合わせて決められる一方、事業のリスクも負います。土地・建物を個人が持ち、事業は会社が担う形にする場合の論点は、関連記事「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」で解説しています。

    • 改修して事業者に貸す:改修をオーナーが行うか、借りる事業者が内装を行うかによって、費用負担・賃料・退去時の原状回復の範囲が変わります。契約の前に、誰が何を負担し、退去時に何を残すかを取り決めます。

    どちらの場合も、事業が想定どおりに進まなかったときの出口を、改修前に考えておくことが大切です。撤退の条件と方法の決め方は、関連記事「土地活用の事業計画で撤退基準を決める」で整理しています。

    改修か、建替えか、売却か

    改修で進めるかどうかは、次のような順番で判断すると整理しやすくなります。

    確認の順番確認すること改修が難しいサイン
    1. 書類検査済証、建築計画概要書、登記と現況手続の履歴がたどれず、調査の負担が大きい
    2. 法令用途変更の手続、用途地域、区域の制限予定の用途が認められない
    3. 安全性耐震、防火・避難、消防、設備容量補強・設備更新の費用が建替えに近づく
    4. 収支改修費、税務、固定資産税を含む事業収支建物の残り期間内に投資を回収できない
    5. 承継土地・建物・事業を誰が引き継ぐか承継する家族が事業や建物の維持を望まない

    いずれかの段階で改修が難しいと分かれば、建替えや売却、更地での活用も含めて比較し直します。土地の活用方法全般の比較は、関連記事「土地を貸す以外の活用方法とは」が参考になります。

    AEGISの視点

    使われなくなった店舗や倉庫は、多くの場合「負担」として語られます。しかしAEGISは、既存の建物を「事業を小さく試せる場」として捉え直すことに意味があると考えています。

    建替えを前提にすると、大きな投資と長期の借入れが先に決まり、事業の中身が後から合わせられがちです。改修による活用では、地域にどのような需要があるか、自分たちがどのような事業を担えるかを、比較的小さな投資で確かめることができます。手応えがあれば次の投資へ、なければ別の活用へと進む判断がしやすくなります。

    一方で、古い建物には書類・法令・安全性という見えにくい論点があり、改修費の税務や固定資産税、将来の承継にも影響します。工事の見積りを取る前にこれらを確認し、建物・事業・税務・承継を一つの計画として見ることが、改修による活用を成功させる前提だとAEGISは考えています。

    土地と建物の活用を「貸す・活用する・売却する」の全体から考える視点は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で整理しています。

    不動産の改修や事業化に伴う税務・承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 古い店舗・倉庫を改修して事業に使う方法は、初期投資を抑えて事業を試しやすい一方、建物の状態と法令上の制約に左右されます。
    • まず検査済証などの書類で建物の履歴を確認し、用途変更の手続と用途地域などの制限、耐震・防火・消防などの安全性を確認します。
    • 用途変更のための改修費は、原則として資本的支出に当たります。工事の内容を区分しておくことが大切です。
    • 固定資産税や事業用の資産の申告も含めて、事業の収支を作ります。
    • 書類・法令・安全性・収支・承継の順に確認し、難しい場合は建替えや売却も比較します。

    よくある質問

    Q. 床面積が200平方メートル以下なら、用途変更の手続は何もいりませんか?

    建築確認の手続が不要となる場合があっても、変更後の用途に求められる防火・避難などの基準を満たす必要があります。また、用途地域の制限、消防用設備、事業ごとの許認可は別に確認が必要です。建築士や自治体の窓口で個別に確認してください。

    Q. 検査済証がない建物は、事業に使えませんか?

    直ちに使えないわけではありませんが、用途変更の手続などで建物の適法性を確認する場面では、調査や図面の作成などに時間と費用がかかることがあります。自治体で確認・検査の記録を調べられる場合もあるため、まずは記録の有無を確認することから始めます。

    Q. 改修費は、すべてその年の経費にできますか?

    用途変更のための模様替えや改造に直接要した費用は、原則として資本的支出となり、建物の取得価額に加えて減価償却します。通常の維持管理や原状回復のための費用は修繕費となりますが、用途変更と一体で行う補修は区分が問題になるため、工事の発注前に確認しておくことをおすすめします。

    Q. 耐震補強の費用はどう扱われますか?

    耐震補強は、一般に建物の価値や耐久性を高めるものとして資本的支出と考えられることが多いですが、工事の目的や内容によって判断が分かれることがあります。補助制度を設けている自治体もあるため、あわせて確認するとよいでしょう。

    Q. 改修して貸す場合と、自分で事業を行う場合では、どちらがよいですか?

    貸す場合はリスクが小さい代わりに収益も限られ、自ら事業を行う場合は収益の可能性が広がる代わりに事業のリスクを負います。オーナーや家族が事業に関われるか、撤退時にどうするか、将来誰が引き継ぐかを踏まえて選ぶことが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、第1章(印刷 p.2-6、p.31)
    • 『減価償却資産の取得費・修繕費(基本通達ケース・スタディと質疑応答)』河手博・成松洋一 共著、税務研究会出版局、第2編(印刷 p.406-409、p.512-513、p.545-547)
    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、第4章(印刷 p.189-192、p.203、p.252-253)
  • 相続した農地・生産緑地をどうするか|続ける・貸す・転用するを、特定生産緑地と納税猶予から比べる

    相続した農地・生産緑地をどうするか|続ける・貸す・転用するを、特定生産緑地と納税猶予から比べる

    相続した農地をどうするかは、「農業を続ける」「農地のまま貸す」「宅地などに転用する・売却する」の3つの方向から考えるのが基本です。ただし、宅地とは異なり、農地には生産緑地の指定、相続税の納税猶予、農地法の許可といった固有の制度が重なっています。どの選択肢を選ぶかによって、過去に猶予された相続税と利子税の納付が必要になったり、固定資産税の負担が大きく変わったりすることがあります。

    この記事では、主に都市部の市街化区域内にある農地、とくに生産緑地を相続した方を想定して、判断の前に確認したいことと、3つの選択肢の比べ方を整理します。

    まず確認したい4つのこと

    選択肢を比べる前に、相続した農地が「どのような状態にあるか」を確認します。同じ農地でも、次の4点によって取れる選択肢が大きく変わります。

    1. 区域:市街化区域か、市街化調整区域か。三大都市圏の特定市に当たるか
    2. 生産緑地の指定:生産緑地か。特定生産緑地の指定を受けているか、その指定期限はいつか
    3. 納税猶予の適用:今回の相続や過去の相続で、相続税の納税猶予を受けている(受けようとしている)か
    4. 家族の意向:農業を続けたい相続人がいるか、誰が農地を取得するか

    生産緑地かどうかは、市区町村の都市計画の担当課で確認できます。固定資産税の課税明細書や名寄帳の記載から分かる場合もあります。

    生産緑地と特定生産緑地の仕組み

    生産緑地とは

    生産緑地は、市街化区域内の農地のうち、良好な生活環境の確保に効用があり、一定の規模(原則500㎡以上、市区町村の条例により300㎡以上まで引下げ可能)を備えた農地について、都市計画で指定されるものです。指定されると、建物の新築や宅地の造成などには市町村長の許可が必要になり、農業に必要な施設などを除いて、原則として農地以外には使えなくなります。

    その代わり、固定資産税では、市街化区域内の農地に適用される宅地並みの課税に対し、生産緑地には軽減措置が講じられています。また、後で説明する相続税の納税猶予の対象にもなります。

    買取りの申出と行為制限の解除

    生産緑地の所有者は、次のいずれかに当たる場合、市町村長に対して時価での買取りを申し出ることができます。

    • 生産緑地の告示の日から30年を経過したとき(特定生産緑地は指定期限日以後)
    • 農業の主たる従事者が死亡したとき、または農業に従事できない故障を有するに至ったとき

    申出の日から3か月以内に所有権の移転が行われなかった場合には、行為の制限が解除され、宅地への転用などが可能になります。

    特定生産緑地とは

    平成29年の生産緑地法の改正で、告示から30年を迎える前に、市町村長が所有者の同意を得て特定生産緑地に指定できる制度が設けられました。特定生産緑地は、買取りの申出ができる時期が10年先送りされ、さらに10年ごとに指定期限を延長できます。

    特定生産緑地の指定を受けなかった生産緑地は、買取りの申出をしない場合でも、これまでの税制上の措置が受けられなくなるとされています。指定期限がいつ到来し、延長するかどうかは、相続した後の判断に直結する論点です。

    相続税の納税猶予の仕組み

    どのような制度か

    農業を営んでいた被相続人などから、一定の相続人が農地等を相続し、農業を続ける場合には、一定の要件のもとで、農地等の価額のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税の納税が猶予されます(国税庁 No.4147)。三大都市圏の特定市の市街化区域内にある農地は、生産緑地地区内の農地など一定のものに限って対象になります。

    猶予された税額が免除される場合

    猶予された相続税は、農業を続けた相続人が死亡した場合などに免除されます。市街化区域外の農地では、申告期限の翌日から20年間農業を続けた場合も免除の対象になりますが、生産緑地など都市営農農地等(東京都の特別区や三大都市圏の特定の市の市街化区域内にある、生産緑地地区内の農地など)を有する相続人は、この20年での免除の対象外とされています(租税特別措置法70条の6)。つまり、都市部の生産緑地で納税猶予を受ける場合は、原則として生涯にわたり農業を続けることが前提になります。

    猶予が打ち切られる場合

    次のような場合には、猶予されていた相続税の全部または一部と、利子税をあわせて納付する必要があります。

    • 特例の対象となった農地等の面積の20%を超えて、譲渡・贈与・転用などをした場合(20%以下の場合は、その割合に応じて納付)
    • 農業経営を廃止した場合
    • 3年ごとの継続届出書を提出しなかった場合
    • 生産緑地について買取りの申出をした場合
    • 特定生産緑地の指定を受けなかった場合、指定期限の延長をしなかった場合、指定が解除された場合

    利子税は、猶予期間に応じて計算されるため、猶予を受けてから年数が経っているほど負担が大きくなりえます。なお、相続時精算課税の適用を受ける農地等には、この特例は使えません(国税庁 No.4147)。

    相続税の評価:生産緑地は利用の制限を反映する

    生産緑地は、生産緑地でないものとして評価した価額から、買取りの申出ができるまでの期間に応じた割合(5%〜35%)を控除して評価します(財産評価基本通達40-3)。課税時期に買取りの申出ができる生産緑地は5%の控除です。農業の主たる従事者が亡くなった場合には、相続人は買取りの申出ができる状態になるため、控除の割合が小さくなることがあります。

    市街化区域内の農地の評価は、宅地であるとした場合の価額から宅地造成費を差し引く方法が基本で、宅地に近い水準の評価になることが少なくありません。また、小規模宅地等の特例は、建物や構築物の敷地である宅地等が対象で、農地は対象外とされています(国税庁 No.4124)。農地の相続では、評価額が高いわりに特例による減額が見込めず、納税資金をどう確保するかが大きな論点になります。納税資金の準備の考え方は、関連記事「相続税の納税資金をどう準備するか」で整理しています。

    3つの選択肢を比べる

    項目農業を続ける農地のまま貸す転用・売却する
    生産緑地の指定維持(特定生産緑地の指定・延長)維持買取りの申出→制限解除
    相続税の納税猶予継続(都市部では原則終身)一定の貸付けなら継続しうる打切り(猶予税額と利子税を納付)
    固定資産税軽減措置が続く軽減措置が続く宅地並みの課税へ
    家族の負担営農の担い手が必要借り手の確保と契約管理開発・活用・売却の判断と資金
    将来の自由度低い低い(ただし営農の負担は軽い)高い

    ※AEGIS作成。具体的な扱いは、区域・指定の状況・納税猶予の適用の有無によって異なります。

    農業を続ける

    相続人の中に農業を続けたい人がいる場合は、最も制度に沿った選択肢です。納税猶予を受ければ、相続時の納税負担を大きく抑えられます。一方で、都市部の生産緑地では猶予が原則として終身にわたり、途中で営農をやめれば利子税を含めた納付が必要になります。その相続人が、本当に生涯農業を続けられるかを、家族で現実的に話し合うことが出発点です。

    農地のまま貸す

    自ら耕作するのは難しいが、農地としては残したい場合の選択肢です。従来、農地を貸すと農地法の規定により契約が更新されやすく、返してもらいにくいことが、貸付けをためらう理由になっていました。

    平成30年に制定された都市農地の貸借の円滑化に関する法律(都市農地貸借法)では、生産緑地地区内の農地について、市町村長の認定を受けた事業計画に従って貸し付ける場合、農地法の許可が不要とされ、農地法の法定更新の規定も適用されないこととされています。さらに、この仕組みによる貸付け(認定都市農地貸付け)や、市民農園としての貸付け(農園用地貸付け)、農地中間管理事業の仕組みを使った貸付け(特定貸付け)では、一定の要件のもとで相続税の納税猶予が継続されます。貸付けの方法を誤ると猶予が打ち切られるおそれがあるため、制度の要件に沿った貸し方かどうかを事前に確認することが大切です。

    転用・売却する

    宅地として活用したり売却したりする場合は、生産緑地の買取りの申出を行い、市町村が買い取らず、ほかの農業者へのあっせんも成立しなければ、3か月後に行為の制限が解除されます。市街化区域内の農地の転用は、農業委員会への届出で足りるのが原則です。

    ただし、納税猶予を受けている場合は、買取りの申出の時点で猶予が打ち切られ、猶予税額と利子税の納付が必要になります。また、生産緑地でなくなれば固定資産税は宅地並みの課税になり、保有コストが上がります。解除後に土地をどう使うか(売却、定期借地、賃貸住宅、事業用地など)の計画と、納付に必要な資金の見通しを申出の前に立てておくことが重要です。土地を貸す場合の考え方は、関連記事「定期借地で土地を貸すときの考え方」で解説しています。

    判断の順番

    順番確認すること主な確認先
    1区域、生産緑地・特定生産緑地の指定と指定期限市区町村の都市計画の担当課
    2過去の相続を含む納税猶予の適用状況、打切り時の税額と利子税の見込み過去の申告書、税理士
    3相続人の営農の意向と、担い手の有無家族、農業委員会
    4貸付けの可能性(都市農地貸借法、市民農園など)市区町村、農業委員会
    5転用した場合の活用・売却の見通しと収支不動産・建築の専門家
    6相続税の納税資金と、ほかの財産を含めた分け方税理士、家族

    実務上注意したいポイント

    • 主たる従事者の死亡と買取りの申出:相続をきっかけに買取りの申出ができるようになりますが、相続人が納税猶予を受ける場合には、申出が猶予の打切り事由になります。申出の要否は、納税猶予の方針と一体で判断しましょう。
    • 指定期限の管理:特定生産緑地の指定期限の延長をしなかった場合も、納税猶予の打切り事由になります。期限を家族で共有しておくことが大切です。
    • 申告期限との関係:相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。納税猶予を受けるかどうかは、この期間内に、遺産分割とあわせて判断する必要があります。納税猶予を受ける相続人は、申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められることについて農業委員会の証明を受けることや、申告期限までに担保を提供することが必要です(租税特別措置法70条の6、同法施行令40条の7)。
    • 相続による取得の届出:相続で農地を取得した場合、農地法の許可は不要ですが、農業委員会への届出が必要です。

    具体的な適用の可否や税額は、農地の状況と家族の事情によって異なります。

    AEGISの視点

    都市部の農地の相続では、「今回の相続税をいくら抑えられるか」に目が向きがちです。納税猶予は確かに大きな効果がありますが、AEGISは、猶予を受けることは、将来の土地の使い方を長期にわたって固定する選択でもあると考えています。

    生産緑地で納税猶予を受ければ、農業を続ける相続人は原則として生涯その選択に縛られます。途中で営農が難しくなったとき、貸付けで猶予を継続できるのか、転用して猶予税額と利子税を納めるのか。その判断の時点で、手元に資金があるか、ほかの財産で対応できるかによって、取れる選択肢は変わります。

    そこでAEGISは、農地を「誰が、いつまで、どのような形で関わるか」という時間軸の上で設計することをおすすめしています。営農を続ける期間、貸付けに切り替える可能性、転用するとしたらその後の活用の姿、そしてそのときの納税資金。これらを、宅地や金融資産などほかの財産の分け方と一緒に考えることで、家族にとって無理のない選択が見えてきます。自宅や賃貸物件の敷地など、小規模宅地等の特例の対象となる土地を誰が取得するかとの組み合わせは「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」で解説しています。

    土地を貸す・活用する・売却するという大きな選択肢の比較は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で解説しています。

    農地の評価や納税猶予など資産税の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続した農地は、「続ける」「農地のまま貸す」「転用・売却する」の3つの方向から考えます。
    • 生産緑地は原則として農地以外に使えませんが、告示から30年経過(特定生産緑地は指定期限日以後)や主たる従事者の死亡などで買取りの申出ができ、3か月で行為制限が解除されます。
    • 都市部の生産緑地で相続税の納税猶予を受ける場合、原則として終身の営農が前提となり、買取りの申出や特定生産緑地の指定を受けないことなどで猶予が打ち切られ、利子税を含めた納付が必要になります。
    • 都市農地貸借法による貸付けなど一定の貸付けでは、農地のまま貸しながら納税猶予を継続できる場合があります。
    • 生産緑地の相続税評価は利用制限を反映して減額されますが、小規模宅地等の特例は使えないため、納税資金の計画が重要です。

    よくある質問

    Q. 父が亡くなりました。生産緑地はすぐに売却できますか?

    農業の主たる従事者が亡くなった場合は、市町村長に買取りの申出ができます。市町村が買い取らず、あっせんも成立しないまま申出から3か月が経過すると、行為の制限が解除され、売却や転用が可能になります。ただし、相続人が納税猶予を受ける場合は申出が猶予の打切り事由になるため、納税猶予を受けるかどうかと一緒に判断してください。

    Q. 特定生産緑地の指定を受けないと、どうなりますか?

    特定生産緑地の指定を受けなかった生産緑地は、買取りの申出をしない場合でも、これまでの税制上の措置が受けられなくなるとされています。また、納税猶予を受けている場合は、指定を受けなかったことや、指定期限の延長をしなかったことが猶予の打切り事由になります。指定期限の到来前に、家族で方針を確認しておきましょう。

    Q. 納税猶予を受けている生産緑地を、人に貸すことはできますか?

    都市農地貸借法に基づく認定都市農地貸付けや、市民農園としての農園用地貸付けなど、一定の貸付けであれば、要件のもとで納税猶予が継続されます。一方、制度の要件に沿わない貸付けは猶予の打切り事由になりえます。貸し付ける前に、制度上の手続と要件を確認してください。

    Q. 納税猶予が打ち切られると、どのくらいの負担になりますか?

    猶予されていた相続税額に加え、猶予期間に応じた利子税を納付する必要があります。利子税の割合は、都市営農農地等の有無などによって異なり、特例基準割合に応じて軽減される仕組みもあります。猶予期間が長いほど負担は大きくなりうるため、具体的な金額は過去の申告内容を基に試算することが大切です。

    Q. 生産緑地にも小規模宅地等の特例は使えますか?

    使えません。小規模宅地等の特例は、建物や構築物の敷地として使われている宅地等が対象で、農地は対象外とされています。生産緑地の相続税評価には、買取りの申出ができるまでの期間に応じた減額の仕組みがありますが、納税資金の計画は別途立てておく必要があります。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、大蔵財務協会、P.416-426
    • 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、P.42-47
    • 『〔机上調査→現地調査→役所調査→評価〕4STEPで身につく〈入門〉土地評価の実務』風岡範哉・田中泰男 著、清文社、P.376-391
  • 土地活用を事業化するときの検討事項|相続税対策の転換期に、事業収支・初期投資・運営体制・出口をどう設計するか

    土地活用を事業化するときの検討事項|相続税対策の転換期に、事業収支・初期投資・運営体制・出口をどう設計するか

    土地を賃貸住宅や駐車場として貸すのではなく、地域の需要に応える事業の場として活用する——いわゆる「事業型」の土地活用への関心が今後高まっていくと予想しています。

    その背景には、賃貸アパートや賃貸マンションの建築・取得を中心としてきた不動産の相続税対策が、大きな転換期を迎えていることがあります。

    結論から言えば、土地活用を事業化するときは、「不動産の収支」と「事業の収支」を分けて作り、両者をつないで見ることが出発点です。そのうえで、初期投資の回収、運営の担い手、計画を見直すときの出口、そして次の世代への承継までを一つの計画として描いておけば、事業型の活用は、土地に賃貸とは違う新しい価値を生み出す選択肢になります。

    なぜ今、土地活用の事業化を考えるのか

    「賃貸不動産を持てば相続税対策になる」という前提が変わる

    これまで不動産を使った相続税対策が有効とされてきたのは、不動産の市場価格と相続税評価額との間に差が生じるためでした。これに対し、令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)を受けて、国税庁は法令解釈通達「貸付用不動産の評価について(案)」を公表し、意見公募を行っています。

    通達案では、課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築した貸付用不動産は、路線価や固定資産税評価額を基礎とする従来の方法ではなく、原則として通常の取引価額に相当する金額で評価するとされ、令和9年(2027年)1月1日以後の相続・遺贈・贈与に適用するとされています。本記事の確認時点(2026年10月)では最終的な通達はまだ出ていませんが、予定どおり実施されれば、相続税評価額の圧縮を主な目的として賃貸不動産を取得・建築する手法は、従来ほどの効果を期待できなくなる可能性があります。

    もっとも、すべての賃貸不動産が対象になるわけではなく、貸付事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例が一律に廃止されるわけでもありません。大切なのは、「賃貸不動産を持つこと自体が相続税対策になる」という発想を見直し、不動産そのものの収益力に目を向けることです。制度の詳しい内容は、関連記事「貸付用不動産の相続税評価の見直しとは」で整理しています。

    事業型の活用には、収益面と税務面の両方で可能性がある

    土地の立地や地域特性に合った事業を組み合わせれば、賃貸住宅の供給競争とは別の需要を取り込み、事業の収益として土地の価値を引き出すことができます。

    税務面でも、オーナー自身や同族会社が実際に事業を営む宅地等は、要件を満たせば小規模宅地等の特例で特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等として400㎡まで80%の減額の対象となり得ます。貸付事業用宅地等の200㎡まで50%と比べると、扱いが異なります。ただし、建物を事業者に貸すだけでは特定事業用宅地等には当たらず、同族会社の場合も株式の保有割合、事業の実態、土地の利用関係、申告期限までの保有などの要件を満たす必要があり、後で見るとおり、評価の見直しによって同族会社を通じた形の効果が変わる可能性もあります。事業としての収益性と税務上の適用要件を、それぞれ検証することが前提です。

    だからこそ、事業化の検討を丁寧に進めることが、これからの土地活用の成否を分けます。以下では、その検討事項を順に整理します。

    事業化すると、何が変わるのか

    賃貸経営では、オーナーの主な収入は家賃です。土地活用を事業化すると、収入は事業の売上になり、その大きさは需要の捉え方と運営の質によって決まります。

    観点賃貸経営事業型の活用
    収入の源泉入居者からの家賃事業の利用者からの売上(または事業会社からの家賃)
    収入を左右するもの立地・家賃相場・空室需要・価格・運営品質・人材
    費用管理費・修繕費・税金・返済上記に加え、人件費・仕入・広告・運営費
    初期投資建物の建築費建物に加え、内装・設備・開業準備・運転資金
    計画を見直すとき売却・建替え事業の見直しに加え、建物の転用・売却

    検討すべき項目は増えますが、その分、需要に合った事業を選べば、賃貸では得られない収益と、地域の中で土地が果たす役割を生み出すことができます。

    1. 収支は「二階建て」で作る

    事業型の活用では、収支を次の二つに分けて作ることをおすすめしています。

    • 不動産の収支:土地・建物を持つ側の収支。地代・家賃収入、固定資産税、借入金の返済、修繕費など。
    • 事業の収支:事業を運営する側の収支。売上、人件費、仕入、家賃(不動産側への支払い)、広告費など。

    オーナー自身が両方を担う場合でも、あえて分けて作る意味があります。事業の業績が不動産側に支払える家賃の水準を決め、その家賃で不動産側の投資が回収できるかが決まる、というつながりが見えるからです。両方の収支がかみ合っているかを確かめることで、全体として無理のない計画になります。

    2. 事業収支は「要素に分解」して作る

    事業の売上を「年間○○万円」と一つの数字で置くと、その根拠を検証できません。次のように要素に分解して、それぞれの前提を明示します。

    • 売上 = 利用者数(定員・稼働率)× 単価 × 利用頻度
    • 人件費 = 必要な人員数 × 1人あたり人件費(利用者数や営業時間に連動させる)
    • その他の費用 = 家賃、水道光熱費、広告費、消耗品など

    利用者が増えれば人員や面積も増える、といった実態に即した連動を組み込むことが、見通しの精度を高めます。前提を分解したら、次の3つの見方で確認します。

    1. 損益分岐点:利用者数や単価がどの水準を超えれば黒字になるか。
    2. 感応度:稼働率や単価が少し変わったときに、利益がどれだけ動くか。
    3. ケース分析:楽観・標準・慎重の3ケースで、それぞれ資金が回るか。

    慎重なケースでも資金が回る計画にしておけば、借入れの設計にも自信を持って臨めます。

    3. 初期投資と回収を「期間」で見る

    事業型の活用の初期投資には、建物の建築費や設計・監理費、内装・設備・備品、開業前の採用・研修・広告などの準備費用、事業が軌道に乗るまでの運転資金があります。

    確認したいのは、投資額の大きさだけではありません。回収にかかる期間と、建物や設備の使用期間・借入期間との関係です。

    • 借入れの返済期間と、事業の見通しが立つ期間が合っているか
    • 内装や設備の更新時期が、借入れの返済計画と無理なく両立するか
    • 計画を見直すことになった場合に、借入れをどう返すか

    不動産の価値は、一般に、そこから得られる純収益と期待される利回りの関係で見積もられます。安定した収益を生む事業の場になれば、建物そのものの価値や、将来の借入れ・売却の選択肢も広がります。

    4. 運営体制:誰が、どのように担うか

    事業型の活用の成否を大きく左右するのが、運営の担い手です。

    運営の形オーナーの関与主な論点
    事業者に建物(または土地)を貸す小さい事業者の信用力、契約期間、中途解約・原状回復の条件
    事業者と協力して運営する中程度役割分担、費用・収益の配分、意思決定の方法
    オーナー個人が自ら運営する大きい人材の確保・育成、運営ノウハウ、許認可、相続が起きたときの事業の継続
    オーナーの会社(同族会社)で運営する大きい上記に加え、建物を会社に貸す場合の評価見直しの影響

    これまでは、オーナー個人が土地と建物を持ち、事業は同族会社が担うという「所有と運営を分ける」形がよく検討されてきました。しかし、建物を同族会社に貸せば、その建物はオーナーにとって貸家にあたり、取得・新築から5年以内であれば冒頭の新しい評価方法の対象となり得ます。そのため、オーナー個人が自ら事業を営む形と比べて、どちらが土地と事業の将来に合うかを検討することが、これまで以上に大切になります(後述の「7. 個人で営む事業は、途切れさせない承継の仕組みとセットで」も参照してください)。所有と運営を分ける設計の考え方は、関連記事「土地所有者と事業運営会社を分ける設計」で解説しています。

    また、事業の種類によっては、施設の基準や事業の許認可が求められます。建てられる建物の用途は用途地域などで制限され、市街化調整区域では建物を伴う開発が厳しく制限されます。事業の要件と土地の要件の両方を満たすかを、計画の早い段階で確認しておくことが大切です。

    5. 計画を見直すときの出口を、先に用意しておく

    事業を始める前に、計画を見直す条件と方法を決めておくことは、後ろ向きなことではありません。むしろ、出口の道筋があることで、思い切った判断ができるようになります。

    • 見直しの基準:どの指標(稼働率、収支、資金残高など)が、どの水準になったら計画を見直すか。
    • 建物の転用性:他の事業や用途に転用しやすい造りか。間取りや設備を汎用的にしておけるか。
    • 契約の出口:事業者に貸す場合の契約期間と中途解約の条件、定期借地や期間を定めた契約の活用。
    • 残る負担:見直し時に残る借入れ、原状回復や解体の費用。

    借地借家法の事業用定期借地権等のように、期間の満了によって土地が戻ることを前提にできる仕組みを使えば、オーナーが土地を貸す側に立つ場合の出口をあらかじめ定めやすくなります。

    6. 承継までをつないで見る

    土地活用の事業化は、10年、20年という時間軸で続くものです。その間にオーナーの世代交代が起きることも想定しておく必要があります。

    • 土地と事業を、それぞれ誰が引き継ぐか:土地を引き継ぐ家族と、事業を担う人が同じとは限りません。
    • 事業の運営会社の株式をどう扱うか:運営会社がオーナー一族の会社である場合、株式の承継も論点になります。
    • 小規模宅地等の特例の要件:特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等・貸付事業用宅地等のいずれも、相続税の申告期限までの事業の承継・継続や保有などの要件があります。また、特定事業用宅地等と貸付事業用宅地等では、相続開始前3年以内に新たに事業や貸付事業の用に供された宅地等は、一定の場合を除き対象外とされています(貸付事業用は、相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付けを続けていれば対象)。事業を始める時期も含めて、早めに計画しておくことが大切です。

    7. 個人で営む事業は、途切れさせない承継の仕組みとセットで

    事業型の土地活用では、これまで、オーナーが土地と建物を持ち、オーナー一族の会社(同族会社)に貸して事業を営む形がよく検討されてきました。土地は特定同族会社事業用宅地等として小規模宅地等の特例の対象となり得るうえ、所有と運営を分けやすいためです。

    しかし、貸付用不動産の評価見直しの通達案では、対象を「借家権の目的となっている家屋」とその敷地としています。オーナーが建てた建物を同族会社に貸せば、その建物はオーナーにとって貸家にあたり、取得・新築から5年以内であれば、原則として通常の取引価額に相当する金額で評価されることになります。特例の要件そのものは通達案で変わっていませんが、同族会社を通じて事業を営む形では、これまで想定されてきた効果が得られなくなる可能性があります。最終通達や今後の実務の取扱いによっては、さらに慎重な判断が求められる場面も考えられます。

    そこで改めて重要になるのが、オーナー個人が自ら事業を営むという形です。オーナー自身が事業に使う建物は、借家権の目的となる家屋ではないため、通達案で評価見直しの対象として掲げられていません。また、その敷地は、要件を満たせば特定事業用宅地等として400㎡まで80%の減額の対象となり得ます。ただし、どの形をとる場合でも、評価の差だけを目的にした計画は避けるべきことに変わりはありません。

    一方で、個人で営む事業には、会社とは異なる弱点があります。オーナーが亡くなると、事業用の預金口座は相続の手続が終わるまで動かしにくくなり、屋号や取引先との契約、事業用の土地・建物を誰が引き継ぐかが決まるまで、事業が止まってしまうおそれがあります。特定事業用宅地等の特例を受けるには、相続税の申告期限までに親族が事業を引き継ぎ、続けていることなどが求められるため、相続が起きても事業を途切れさせない仕組みを、事業を始める段階から用意しておくことが欠かせません。

    AEGISでは、こうした個人で営む事業の承継に備えて、商号の登記、事業用資金の管理を後継者に託す民事信託(いわゆる家族信託)、事業用不動産の承継先を定める遺言などを組み合わせ、事業を次の世代へつなぐための事業承継の仕組みを整えています。どの形で事業を営み、土地と事業をどうつなぐかは、土地の条件やご家族の状況によって最適な答えが変わります。事業型の土地活用を検討される段階から、承継の設計まで含めてご相談いただけます。

    事業化の検討チェックリスト

    項目確認すること
    目的なぜ事業化するのか。収益・地域への貢献・承継のどれを重視するか
    土地の条件用途地域、市街化区域か否か、接道、権利関係
    需要人口動態、利用者層、競合、価格帯
    事業収支要素分解した前提、損益分岐点、3つのケース
    不動産収支家賃・地代の水準、返済、修繕、税金
    初期投資総額、資金調達、回収期間と借入期間の関係
    運営体制担い手(オーナー個人か同族会社か)、役割分担、許認可
    出口見直しの基準、建物の転用性、契約の出口、残る負担
    税務・承継評価見直しの影響、小規模宅地等の特例の要件、土地と事業の承継者、個人事業を途切れさせない仕組み(商号・民事信託・遺言)、運営会社の株式

    AEGISの視点

    事業型の土地活用は、建築の計画から始まりがちです。しかしAEGISは、事業の計画が先、建物の計画は後だと考えています。地域の需要と運営の担い手が見えたときに初めて、必要な建物の規模や仕様が決まるからです。

    そしてもう一つ大切にしているのが、事業の成否と土地の承継を切り離して考えられるようにしておくことです。所有と運営の関係、契約の出口、見直しの基準をあらかじめ設計しておけば、土地という家族の資産を守りながら、事業に挑戦することができます。

    AEGISグループでは、不動産を単なる賃貸収入の源泉としてではなく、地域の需要に応える事業を生み出すための経営資源として考えています。その実行を担うアイジスソーシャルインパクト株式会社(AEGIS SOCIAL IMPACT)が、土地の立地、エリア特性、地域の人口構成、周辺の競合状況などを分析して事業モデルを検討し、AEGISグループの税務・不動産・資産承継の専門性と組み合わせて、事業収益だけでなくオーナーの資産形成や将来の承継までを見据えた設計を目指しています。オーナー個人で事業を営む場合には、商号の登記、事業用資金の民事信託、事業用不動産の遺言を組み合わせた事業承継の仕組みまで、一体で設計することができます。不動産の相続税対策が転換期を迎える今だからこそ、土地を「貸す資産」から「事業を生み出す資産」へと捉え直すことが、一つの重要な選択肢になるとAEGISは考えています。

    土地の選択肢全体の比べ方は関連記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」、賃貸以外の活用の型は「土地を貸す以外の活用方法とは」で整理しています。

    ▶ アイジスソーシャルインパクトの事業型土地活用について詳しく見る

    まとめ

    • 貸付用不動産の評価の見直し(通達案)により、相続税評価額の圧縮を主な目的とした賃貸不動産の取得・建築は、従来ほどの効果を期待できなくなる可能性があります。不動産そのものの収益力を高める事業型の活用が、重要な選択肢になります。
    • 事業に使う宅地等は、要件を満たせば小規模宅地等の特例で400㎡まで80%の減額の対象となり得ますが、収益性と適用要件はそれぞれ検証が必要です。
    • 収支は「不動産の収支」と「事業の収支」の二階建てで作り、事業収支は要素に分解して、損益分岐点・感応度・3つのケースで確認します。
    • 初期投資は回収期間と借入期間・設備の使用期間の関係で見ます。
    • 評価の見直しにより、同族会社を通じて事業を営む形では想定していた効果が得られない可能性があり、オーナー個人が事業を営む形が改めて重要になります。その場合は、商号・事業用資金・事業用不動産の承継まで含めて、事業を途切れさせない仕組みを用意しておくことが欠かせません。
    • 運営の担い手、見直しの基準と出口、承継までを事業を始める前に描いておくことで、事業型の活用を長く続けられます。

    よくある質問

    Q. 事業型の土地活用は、賃貸経営より収益性が高いのですか?

    立地と地域の需要に合った事業を選べば、賃貸住宅の供給競争とは別の需要を取り込み、賃貸より大きな収益を生むことがあります。一方で、人件費や運営費がかかり、運営の質によって業績が変わるため、要素に分解した事業計画で、慎重なケースでも資金が回るかを確かめておくことが大切です。

    Q. 貸付用不動産の評価の見直しで、事業型の活用にはどのような影響がありますか?

    通達案の対象は、借家権の目的となっている家屋とその敷地です。オーナーが自ら事業を営む建物と、建物を事業者や同族会社に貸す建物とでは、評価の扱いが異なり得ます。どの形で土地と建物を持ち、誰が事業を運営するかによって評価や小規模宅地等の特例の区分が変わるため、事業の計画とあわせて確認することが大切です。最終的な通達の内容も確認が必要です。

    Q. オーナー個人で事業を営むと、相続のときに事業が止まりませんか?

    対策をしていなければ、オーナーが亡くなった後、事業用の口座が動かしにくくなったり、屋号や契約、事業用の土地・建物の引継ぎ先が決まるまで事業が止まったりするおそれがあります。特定事業用宅地等の特例を受けるには申告期限までの事業の承継・継続も求められるため、商号の登記、事業用資金の民事信託、事業用不動産の遺言などを組み合わせて、事業を途切れさせない仕組みを事業開始の段階から用意しておくことが大切です。

    Q. 事業計画のシミュレーションは、どの程度の期間で作ればよいですか?

    少なくとも借入れの返済期間をカバーする期間で作ることをおすすめします。建物を伴う場合は、設備の更新や大規模修繕の時期も含めて、10年から30年程度の見通しを持っておくと判断しやすくなります。

    Q. 自分で事業を運営できない場合、事業化はあきらめるべきですか?

    あきらめる必要はありません。事業者に建物や土地を貸す方法や、事業の運営を担う会社と協力する方法もあります。オーナーが担える役割に応じて、運営の形を選ぶことができます。

    Q. 事業を始めた直後に相続が起きた場合、特例は使えますか?

    国税庁によれば、小規模宅地等の特例では、特定事業用宅地等と貸付事業用宅地等について、相続開始前3年以内に新たに事業や貸付事業の用に供された宅地等は、一定の場合を除き対象外とされています。事業を始めた時期と、申告期限までの承継・継続の要件を、個別に確認する必要があります。

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  • 土地を貸す以外の活用方法とは|相続税対策の転換期に考えたい、「貸す」から「事業に活かす」土地活用

    土地を貸す以外の活用方法とは|相続税対策の転換期に考えたい、「貸す」から「事業に活かす」土地活用

    土地活用と聞くと、アパートやマンションを建てて貸す、あるいは駐車場として貸す、という方法を思い浮かべる方が多いと思います。とくに相続税対策としては、賃貸アパートや賃貸マンションの建築・取得が、長く有力な選択肢の一つとされてきました。

    しかし、その前提はいま大きく変わろうとしています。結論から言えば、貸付用不動産の相続税評価の見直しによって、「賃貸不動産を持つこと自体が相続税対策になる」という従来の発想は見直しを迫られています。これからの土地活用では、土地を「貸す資産」としてだけでなく、地域の需要に応える「事業を生み出す資産」として捉え直すことが、重要な選択肢になります。この記事では、制度の変化と、土地を事業に活かす考え方、そのときに確認したいことを解説します。

    不動産の相続税対策は、大きな転換期を迎えている

    これまで不動産を使った相続税対策が有効とされてきた背景には、不動産の市場価格と相続税評価額との間に差が生じることがあります。土地は路線価などを基に、建物は固定資産税評価額を基に評価され、さらに賃貸している不動産は借家人の権利の分だけ評価が下がります。その結果、購入価格や建築費と比べて、相続税評価額が大きく下がることがありました。

    これに対し、令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)で「相続税等の財産評価の適正化」が掲げられ、国税庁は法令解釈通達「貸付用不動産の評価について(案)」を公表して意見公募を行っています。通達案の主な内容は次のとおりです。

    • 課税時期前5年以内に、対価を伴う取引で取得・新築された貸付用不動産(アパート・賃貸マンション・貸しビルなどの貸家とその敷地)は、路線価や固定資産税評価額を基礎とする従来の方法ではなく、原則として課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価する
    • 取得価額が取得時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、取得価額を基に計算した金額の100分の80で評価することもできる
    • 不動産小口化商品の対象となっている貸付用不動産は、取得の時期にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額で評価する
    • 令和9年(2027年)1月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した財産の評価に適用する

    本記事の確認時点(2026年10月)では、最終的な通達はまだ出ていません。ただし、この見直しが予定どおり実施されれば、相続税評価額の圧縮を主な目的として賃貸不動産を取得・建築する手法は、従来ほどの効果を期待できなくなる可能性があります。

    もっとも、すべての賃貸不動産が新しい評価方法の対象になるわけではありません。通達案では、5年を超えて保有している貸付用不動産や、土地だけを貸している土地(貸宅地)は対象外とされ、以前から持っている土地や相続した土地に、通達制定日までに建てた(建築中を含む)建物についての経過措置も示されています。また、貸付事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例が、一律に廃止されるわけでもありません。

    重要なのは、個別の制度の細部よりも、「賃貸不動産を持つこと自体が相続税対策になる」という従来の発想を見直す必要があるということです。見直しの詳しい内容は、関連記事「貸付用不動産の相続税評価の見直しとは」で整理しています。

    これからは「貸す」だけでなく「事業に活かす」視点が重要になる

    不動産を所有する目的は、相続税評価額を引き下げることだけではありません。本来、不動産は、そこに住む人、働く人、集まる人に価値を提供することで、継続的な収益を生み出す資産です。

    これからの土地活用では、単に建物を建てて貸すのではなく、その土地の立地や地域特性に合った事業を組み合わせ、不動産そのものの収益力を高めることが、これまで以上に重要になると考えられます。

    土地活用の方法は、建物の所有者と運営者の組み合わせで、おおむね次の型に整理できます。

    型建物を持つ人運営する人オーナーの収入オーナー側の役割
    ① 土地のまま貸す(建物なし)または借地人借地人・利用者地代・駐車場収入土地の管理
    ② 建物を建てて入居者に貸すオーナーオーナー(管理は委託可)家賃賃貸経営
    ③ 建物を建てて事業者に貸すオーナー入居する事業者家賃(事業者から)事業者の選定と契約
    ④ 事業を自ら営むオーナー(またはオーナーの会社)オーナー個人(またはオーナーの会社)事業収益事業の経営
    ⑤ 売却・交換する(手放す)—売却代金—

    「貸す以外」の活用とは、主に③や④を指します。とくに④は、土地が生み出す価値を、家賃ではなく事業の収益として受け取る形です。地域に必要とされる事業が育てば、土地は賃貸住宅の供給競争とは別の需要を取り込み、地域の中で長く役割を果たす場所になります。

    なお、①の中でも、借地借家法の事業用定期借地権等を使い、事業者に土地を一定期間貸して事業者が建物を建てて運営する方法があります。専ら事業の用に供する建物(居住用を除く)の所有を目的とし、存続期間を10年以上50年未満として公正証書で設定するもので、期間の満了で土地が戻ることを前提にできます。

    地域の需要から、その土地に合う事業を考える

    事業と組み合わせた活用は、建物を貸すこと自体ではなく、その場所で必要とされる事業を起点に考えます。

    たとえば、子育て世帯の多い地域であれば教育・運動関連の事業、高齢化が進む地域であれば生活支援に関わる事業、交通利便性の高い地域であれば地域住民の利用を見込めるサービス事業、といったように、地域の需要から逆算して土地の使い方を決めるという発想です。

    事業の選定にあたっては、次のような点を総合的に検討します。

    • 地域の人口動態:人口と世帯構成が、これからどう変わっていくか
    • 競合の状況:同じ種類の施設やサービスが周辺にどれだけあるか
    • 利用者の需要:何人の利用者が、いくらの単価で、どのくらいの頻度で利用するか
    • 必要な初期投資:建物・内装・設備・開業準備・運転資金の総額と調達方法
    • 運営体制:誰が事業を担い、人材をどう確保するか

    賃貸住宅であれば周辺の家賃相場が判断の手がかりになりますが、事業の場合は需要を要素に分解して確かめることが、計画の精度を高めます。事業化の具体的な検討の進め方は、関連記事「土地活用を事業化するときの検討事項」で詳しく解説しています。

    事業型不動産活用は、税務面でも扱いが異なる可能性がある

    不動産を単に賃貸する場合と、オーナー自身や同族会社が実際に事業を営む場合では、相続税上の取扱いが異なることがあります。代表的なものが、小規模宅地等の特例です。国税庁によれば、次のように区分されています。

    区分主な対象限度面積減額割合
    特定事業用宅地等被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業を除く)に使われていた宅地等400㎡80%
    特定同族会社事業用宅地等被相続人及びその親族等が発行済株式等の50%超を有する一定の法人の事業(不動産貸付業等を除く)に使われていた宅地等400㎡80%
    貸付事業用宅地等被相続人等の不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業に使われていた宅地等200㎡50%

    一定の要件を満たす特定事業用宅地等や特定同族会社事業用宅地等では400㎡まで80%の評価減が認められる一方、貸付事業用宅地等では200㎡まで50%の評価減となります。この違いは、不動産の事業活用を検討するうえで重要なポイントです。

    ただし、次の点には注意が必要です。

    • 建物を事業者に貸すだけでは、特定事業用宅地等に該当するわけではありません。第三者の事業者に貸す場合は、オーナーにとっては不動産貸付業であり、貸付事業用宅地等の区分になります。
    • 同族会社が事業を営む場合も、さまざまな要件があります。株式の保有割合、会社の事業の実態、土地の利用関係(会社から相当の対価を受けて貸しているかなど)、申告期限までその法人の役員である親族が取得し保有を続けることなどを満たす必要があります。
    • 相続開始前3年以内に新たに事業や貸付事業に使い始めた宅地等は、特定事業用宅地等・貸付事業用宅地等とも、一定の場合を除き対象外とされています。
    • 冒頭の評価の見直しとの関係では、誰が事業を営むかによって扱いが変わり得ます。この点は次の項目で詳しく説明します。

    事業を行えば必ず相続税が軽減される、というものではありません。事業としての収益性と、税務上の適用要件を、それぞれ検証することが不可欠です。特例の区分は、事業として成り立つ活用を選んだ結果として決まるものと考えるのが健全です。

    評価の見直しで、「誰が事業を営むか」がより重要になる

    事業型の土地活用では、これまで、オーナーが土地と建物を持ち、オーナー一族の会社(同族会社)に貸して事業を営む形がよく検討されてきました。土地は特定同族会社事業用宅地等として小規模宅地等の特例の対象となり得るうえ、所有と運営を分けやすいためです。

    しかし、貸付用不動産の評価見直しの通達案では、対象を「借家権の目的となっている家屋」とその敷地としています。オーナーが建てた建物を同族会社に貸せば、その建物はオーナーにとって貸家にあたり、取得・新築から5年以内であれば、原則として通常の取引価額に相当する金額で評価されることになります。特例の要件そのものは通達案で変わっていませんが、同族会社を通じて事業を営む形では、これまで想定されてきた効果が得られなくなる可能性があります。最終通達や今後の実務の取扱いによっては、さらに慎重な判断が求められる場面も考えられます。

    そこで改めて重要になるのが、オーナー個人が自ら事業を営むという形です。オーナー自身が事業に使う建物は、借家権の目的となる家屋ではないため、通達案で評価見直しの対象として掲げられていません。また、その敷地は、要件を満たせば特定事業用宅地等として400㎡まで80%の減額の対象となり得ます。ただし、どの形をとる場合でも、評価の差だけを目的にした計画は避けるべきことに変わりはありません。

    一方で、個人で営む事業には、会社とは異なる弱点があります。オーナーが亡くなると、事業用の預金口座は相続の手続が終わるまで動かしにくくなり、屋号や取引先との契約、事業用の土地・建物を誰が引き継ぐかが決まるまで、事業が止まってしまうおそれがあります。特定事業用宅地等の特例を受けるには、相続税の申告期限までに親族が事業を引き継ぎ、続けていることなどが求められるため、相続が起きても事業を途切れさせない仕組みを、事業を始める段階から用意しておくことが欠かせません。

    AEGISでは、こうした個人で営む事業の承継に備えて、商号の登記、事業用資金の管理を後継者に託す民事信託(いわゆる家族信託)、事業用不動産の承継先を定める遺言などを組み合わせ、事業を次の世代へつなぐための事業承継の仕組みを整えています。どの形で事業を営み、土地と事業をどうつなぐかは、土地の条件やご家族の状況によって最適な答えが変わります。事業型の土地活用を検討される段階から、承継の設計まで含めてご相談いただけます。

    事業と組み合わせるときに確認したいこと

    事業型の活用を長く続けるために、計画の早い段階で次の点を確認します。

    法規制:その事業の建物を、その土地に建てられるか

    用途地域によって、建てられる建物の用途や規模が制限されます。都市計画法上の市街化調整区域は「市街化を抑制すべき区域」とされ、建物を伴う開発は原則として厳しく制限されますが、周辺の住民の日常生活に必要な施設など一定の条件のもとで開発が認められる場合があります(都市計画法34条)。具体的な可否は都道府県等の許可基準や条例によります。事業の種類によっては、施設の基準や事業の許認可も必要です。

    運営:誰が事業を担うか

    ③のように外部の事業者に貸すのか、④のようにオーナー自身(またはオーナーの会社)で運営するのか、あるいは事業の運営を担う会社と協力するのかによって、オーナーの役割と収益の受け取り方が変わります。自ら運営する場合は、人材の確保と運営の仕組みづくりが中心的な論点になります。オーナー個人で営むか同族会社で営むかによって、評価や承継の扱いも変わります。

    出口:計画を見直すときの道筋を用意しておく

    事業用の建物は特定の用途に合わせた造りになりやすいため、転用しやすい間取りや設備にしておく、契約期間や中途解約の条件を整えておくなど、計画を見直すときの道筋を最初から用意しておくと、安心して事業に踏み出せます。

    承継:土地と事業を、それぞれ誰が引き継ぐか

    土地を引き継ぐ家族と、事業を担う人が同じとは限りません。オーナー個人で事業を営む場合は、事業を引き継ぐ家族が、事業用の土地・建物と事業用の資金、屋号や取引先との契約をまとめて引き継げるよう、遺言や民事信託で道筋をつけておくことが大切です。土地を持つ人と事業を運営する会社を分ける設計も選択肢の一つですが、前の項目で見たとおり評価見直しの影響を受け得るため、個人で営む形と比べて検討します。所有と運営を分ける設計の考え方は、関連記事「土地所有者と事業運営会社を分ける設計」で解説しています。

    AEGISが考える、新しい不動産活用

    AEGISグループでは、不動産を単なる賃貸収入の源泉として捉えるのではなく、地域の需要に応える事業を生み出すための経営資源として考えています。

    その実行を担うのが、アイジスソーシャルインパクト株式会社(AEGIS SOCIAL IMPACT)です。土地の立地、エリア特性、地域の人口構成、周辺の競合状況などを分析し、その場所に適した事業モデルを検討します。さらに、AEGISグループの税務・不動産・資産承継に関する専門性を組み合わせることで、事業収益だけでなく、オーナーの資産形成や将来の承継までを見据えた設計を目指します。オーナー個人で事業を営む場合には、商号の登記、事業用資金の民事信託、事業用不動産の遺言を組み合わせた事業承継の仕組みまで、一体で設計することができます。

    不動産の相続税対策が転換期を迎える今だからこそ、土地を「貸す資産」から「事業を生み出す資産」へと捉え直すことが、一つの重要な選択肢になるとAEGISは考えています。賃貸・事業・売却を含めた選択肢全体の比べ方は、関連記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で整理しています。

    ▶ アイジスソーシャルインパクトの事業型土地活用について詳しく見る

    まとめ

    • 令和8年度税制改正の大綱を受けた通達案では、取得・新築から5年以内の貸付用不動産を、原則として通常の取引価額に相当する金額で評価する方向が示されています(令和9年1月1日以後の相続等に適用予定)。
    • 実施されれば、相続税評価額の圧縮を主な目的とした賃貸不動産の取得・建築は、従来ほどの効果を期待できなくなる可能性があります。ただし、すべての賃貸不動産が対象になるわけではなく、小規模宅地等の特例が一律に廃止されるわけでもありません。
    • これからの土地活用では、立地や地域特性に合った事業を組み合わせ、不動産そのものの収益力を高める視点が重要になります。
    • 事業に使う宅地等は、要件を満たせば小規模宅地等の特例で400㎡まで80%の減額の対象となり得ますが、事業の収益性と税務上の要件はそれぞれ検証が必要です。
    • 評価の見直しにより、同族会社に建物を貸して事業を営む形では想定していた効果が得られない可能性があり、オーナー個人が事業を営む形が改めて重要になります。その場合は、相続が起きても事業を途切れさせない承継の仕組みを、あらかじめ用意しておくことが欠かせません。
    • 具体的な方法は、土地の条件とオーナー・家族の状況によって異なります。

    よくある質問

    Q. これから賃貸アパートを建てても、相続税対策にはならないのですか?

    通達案が予定どおり実施されると、取得・新築から5年以内の貸付用不動産は、原則として通常の取引価額に相当する金額で評価されるため、評価額を下げる効果は従来より小さくなる可能性があります。ただし、5年を超えて保有した後の評価や、経過措置の対象になるケースなどもあり、影響は個別に異なります。相続税評価だけで判断せず、賃貸事業としての収支や、事業型の活用との比較もあわせて検討することが大切です。

    Q. アパート経営以外で、土地を収益化する方法はありますか?

    あります。店舗・医療・福祉・教育などの事業者に建物を貸す方法、事業用定期借地権等で事業者に土地を貸す方法、地域の需要に応える事業をオーナー自ら営む方法などがあります。どの方法が合うかは、土地の条件と地域の需要、オーナーが担える役割によって異なります。

    Q. 土地を事業に使うと、相続税で有利になりますか?

    小規模宅地等の特例では、事業(不動産貸付業等を除く)に使われていた宅地等は400㎡まで80%、不動産貸付業等に使われていた宅地等は200㎡まで50%の減額が、一定の要件のもとで認められます。ただし、建物を事業者に貸すだけでは事業用の区分にはならないこと、同族会社の場合の株式保有割合や事業の実態、申告期限までの継続・保有の要件、相続開始前3年以内に新たに事業に使い始めた宅地等の扱いなどがあり、適用の可否は個別に確認が必要です。

    Q. 自分で事業を運営する自信がない場合はどうすればよいですか?

    事業者に建物や土地を貸す方法のほか、事業の運営を担う会社と協力する方法もあります。土地を持つ側と事業を運営する側の役割を分けて設計すれば、オーナーが担える範囲から事業型の活用を始めることもできます。

    Q. 同族会社ではなく、オーナー個人で事業を営むと何が違いますか?

    オーナー自身が事業に使う建物は、借家権の目的となる家屋ではないため、通達案で評価見直しの対象として掲げられていません。敷地も、要件を満たせば特定事業用宅地等の対象となり得ます。一方、個人の事業は、オーナーが亡くなると口座が動かしにくくなるなど、事業が止まりやすい面があります。商号の登記、事業用資金の民事信託、事業用不動産の遺言などで、事業を途切れさせない仕組みをあわせて用意しておくことが大切です。

    Q. 市街化調整区域の土地でも、事業に使えますか?

    市街化調整区域では建物を伴う開発が厳しく制限されますが、周辺住民の日常生活に必要な施設など、一定の条件のもとで認められる場合があります。可否は自治体の基準によるため、早い段階で確認することをおすすめします。

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    • 事業型不動産活用:保有不動産に合う事業を判定し、事業モデルの選定から開業・運営までを支援します。
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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 定期借地で土地を貸すときの考え方|一般定期借地と事業用定期借地の違いと、土地が戻るまでの設計

    定期借地で土地を貸すときの考え方|一般定期借地と事業用定期借地の違いと、土地が戻るまでの設計

    定期借地とは、契約で定めた期間が満了すると更新されずに終了し、土地が地主に戻ることを前提とした借地です。普通の借地では、期間が満了しても正当な理由がなければ契約が続くことが多く、「一度貸すと戻ってこない」と言われてきました。定期借地は、この不安を制度として解消する仕組みです。

    ただし、「戻ってくる」ことが決まっているからこそ、いつ、どのような状態で戻るのか、その間に家族の誰が地主になっているのかを、契約の段階から設計しておく必要があります。

    この記事では、一般定期借地と事業用定期借地の違いを整理したうえで、地代・一時金・返還時の取り決め、相続税の評価、承継までを含めて、定期借地で土地を貸すときの考え方を解説します。

    定期借地とは:普通借地との違い

    借地借家法では、建物の所有を目的とする借地権の存続期間を原則30年としたうえで、期間満了時には更新を前提とする仕組み(普通借地)を置いています。これに対して、平成4年8月に施行された借地借家法で、更新のない借地として次の3つの類型が設けられました。

    類型存続期間建物の用途契約の方式期間満了時
    普通借地30年以上制限なし定めなし更新が原則(地主の更新拒絶には正当事由が必要)
    一般定期借地50年以上制限なし(住宅も可)公正証書等の書面(電磁的記録も可)更新なしで終了
    事業用定期借地10年以上50年未満専ら事業用(居住用を除く)公正証書更新なしで終了
    建物譲渡特約付借地30年以上制限なし定めなし地主が建物を相当の対価で買い取り、借地権が消滅

    ※借地借家法第3条・第22条〜第24条をもとにAEGISが整理。

    この記事では、土地活用の提案で特に多い一般定期借地と事業用定期借地を中心に扱います。

    一般定期借地と事業用定期借地の違い

    用途:住宅を建てられるかどうか

    最も大きな違いは、借地人が建てる建物の用途です。一般定期借地には用途の制限がなく、戸建住宅やマンションの敷地としても使われます。一方、事業用定期借地は、専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く)の所有を目的とするものに限られます。店舗、事務所、物流施設などが典型です。

    入居者が生活の場として暮らす施設が「居住の用」に当たるかどうかは、施設の類型によって整理が分かれうる論点です。用途の判断に迷う場合は、契約前に専門家とともに確認しておくことが大切です。

    期間:50年以上か、10年以上50年未満か

    一般定期借地は50年以上の期間を定める必要があります。事業用定期借地は10年以上50年未満で、30年以上50年未満の場合は「更新しない」「建物の買取りを請求しない」等の特約を定める形、10年以上30年未満の場合は法律上当然に更新等の規定が適用されない形になっています。

    地主の側から見ると、一般定期借地は「孫の代まで土地が戻らない」長さであり、事業用定期借地は「自分か子の代で土地が戻る」長さになりえます。期間の違いは、そのまま承継の設計の違いになります。

    契約の方式:公正証書が必要かどうか

    一般定期借地の特約は、公正証書による等の書面(電磁的記録を含む)で定める必要があります。事業用定期借地は、契約そのものを公正証書で行わなければなりません。方式を欠くと定期借地として扱われないおそれがあるため、契約書の作成段階から方式を確認しておきましょう。

    契約で決めておきたい5つのこと

    定期借地は「期間が来れば戻る」制度ですが、戻るまでの数十年間に何が起きるかは契約の書き方で大きく変わります。地主として、少なくとも次の5点は契約前に確認しておきたいところです。

    1. 期間と、土地が戻る年

    契約期間から、土地が戻る年を具体的に書き出します。そのとき自分は何歳か、地主はすでに子や孫に替わっているか、戻った土地をどう使いたいかを考えると、期間の長さが自分の家族にとって妥当かどうかが見えてきます。

    2. 地代の水準と改定の方法

    長期の契約では、地代を固定するか、一定期間ごとに見直すかが重要です。固定資産税などの負担が増えたときに地代が追いつかないと、手取りが年々減っていきます。改定の時期、改定の基準(公租公課の変動、物価の指標など)を契約に定めておくと、後の話し合いの土台になります。

    3. 一時金:権利金・保証金の性格

    定期借地では、設定時に権利金や保証金などの一時金が授受されることがあります。

    • 権利金:返還しない一時金です。税務上は、受け取った額(保証金などを特に有利な条件で預かったことによる経済的利益を含みます)が土地の価額の2分の1を超えると、借地権の設定が資産の譲渡とみなされ、譲渡所得として扱われます(所得税法施行令79条・80条)。
    • 保証金:契約終了時に返還する預り金です。地主はその間、資金を手元に置けますが、数十年後に返還する債務を負っていることになります。
    • 前払賃料(前払地代):契約期間の賃料の一部または全部を、設定時に一括して前払いする方式です。国税庁の文書回答(平成17年)では、一定の書式例に準拠した契約書で前払賃料を契約期間の賃料に均等に充てることを定め、実態も契約どおりである場合、地主は「前受収益」として計上し、各年の賃料相当額を収入に算入する取扱いが示されています。返還を要しないため、保証金とは性格が異なります。

    保証金は、運用の仕方によって所得税の扱いが変わります。業務用の資金に充てた場合や、それ以外の用途に使った場合には、利息に相当する経済的利益を不動産所得の収入に算入する取扱いがあるのに対し、預貯金などの金融資産で運用している場合はその計算を要しないとされています。保証金を建物の建築資金や借入れの返済に充てるかどうかは、税務と返還資金の両面から考えたいポイントです。

    4. 建物の扱いと、返還時の状態

    一般定期借地や30年以上の事業用定期借地では、契約の更新や建物の再築による期間の延長をせず、借地人が建物の買取りを請求しない旨を定めることができます。そのうえで実務上は、期間満了時に借地人が建物を取り壊して更地で返還することを契約に明記するのが一般的です。

    ここで見落とされやすいのが、解体の費用を誰が、どう確保するかです。数十年後に借地人の経営状態が悪化していれば、解体されないまま建物が残るおそれもあります。保証金を解体費用の担保として位置付ける、返還前の一定期間に協議を始める旨を定めるなど、出口の実行を担保する工夫を検討しましょう。地中の基礎や埋設物、土壌の状態をどこまで戻すかも、事業用地では特に確認したい点です。

    5. 中途解約・譲渡・転貸・担保

    借地人の事業が途中で立ち行かなくなった場合の扱いも重要です。

    • 借地人からの中途解約を認めるか、認める場合の予告期間と違約金
    • 借地権の譲渡や転貸を認める条件(地主の承諾の要否)
    • 借地人が建物に担保を設定する場合の取扱い
    • 地代の滞納が続いた場合の解除の条件

    事業用定期借地では、借地人が撤退した後に別の事業者へ借地権を引き継げるかどうかで、地主の収入の安定性が大きく変わります。

    税金:保有中と相続時にどう影響するか

    相続税評価:底地は「自分で使う土地」より低く評価される

    定期借地権が設定されている土地(底地)は、相続税の評価上、自分で使っている土地(自用地)としての価額から、定期借地権等の価額を控除して評価するのが原則です(国税庁 No.4613)。定期借地権等の価額は、設定時に借地人に帰属する経済的利益(権利金や保証金による利益、地代の水準など)と、残存期間を基に計算します(国税庁 No.4611)。

    ただし、この原則で計算した額より、自用地の価額から次の割合を控除した額の方が低い場合は、低い方で評価します。

    課税時期における残存期間自用地の価額から控除する割合
    5年以下5%
    5年超10年以下10%
    10年超15年以下15%
    15年超20%

    ※国税庁 No.4613 をもとにAEGISが作成。

    また、一般定期借地の底地については、課税上弊害がない限り、借地権割合の地域区分に応じた「底地割合」(55%〜75%)を用いる個別の評価方法が設けられています(国税庁 No.4612)。ただし、借地人が地主の親族や、地主が役員となっている同族会社などである場合は「課税上弊害がある」とされ、この方法は使えません。家族や自分の会社に定期借地で貸す場合は、特に注意が必要です。

    評価の考え方から分かるとおり、残存期間が短くなるほど底地の評価は自用地に近づきます。土地が戻る時期に近づくにつれて相続税の評価は上がっていくため、相続の時期によって負担が変わる点を押さえておきましょう。

    小規模宅地等の特例

    貸し付けている土地は、要件を満たせば貸付事業用宅地等として、200㎡までの部分について50%を減額する小規模宅地等の特例の対象となりえます。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象外とされています。ただし、相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け(特定貸付事業)を続けていた場合は、新たに貸し始めた土地でも対象になります(国税庁 No.4124)。

    評価が下がることと、財産としての価値や分けやすさは別の問題です。土地活用を相続税評価だけで判断しない考え方は、関連記事「土地活用を相続税評価だけで判断しないために」で解説しています。

    土地が戻るまでを、時間軸で設計する

    定期借地の検討では、契約の締結時だけでなく、契約期間全体を時間軸に並べて考えることをおすすめします。

    時期地主側で考えること
    設定時期間・用途・地代・一時金・返還条件を決める。土地が戻る年と、その時点の地主を想定する
    契約期間中地代の改定、保証金の管理、借地人の経営状況の確認。地主の相続が起きた場合の承継者と分け方
    満了の数年前借地人と返還の段取りを協議。解体・整地の時期と費用負担、戻った土地の使い道を検討
    返還後更地としての売却、別の活用、自己利用などを選ぶ。相続税評価は自用地に戻る

    この表を作ってみると、多くの場合、契約期間中に地主の相続が少なくとも一度は起きることに気付きます。底地を誰が引き継ぐか、保証金の返還債務を誰が負うか、地代収入を誰が受け取るかを、遺言や遺産分割の方針とあわせて考えておくことが大切です。

    実務上注意したいポイント

    • 方式を守る:事業用定期借地は公正証書、一般定期借地は書面での特約が必要です。方式を欠くと普通借地と扱われるおそれがあります。
    • 保証金を「使い切らない」:返還時期が数十年先でも、返還の原資を計画しておくことが必要です。
    • 解体費の担保を考える:更地返還の約束だけでは、借地人の経営悪化に備えられないことがあります。
    • 家族・同族会社に貸す場合は評価方法に注意:一般定期借地の底地の個別評価は使えない場合があります。
    • 借地人の事業の継続性を見る:事業用定期借地では、地代は借地人の事業の成否に左右されます。

    具体的な契約内容や税務上の扱いは、土地の条件、借地人、契約の内容によって異なります。

    AEGISの視点

    定期借地は、土地を手放さずに長期の安定収入を得られる一方で、数十年間、土地の使い道を借地人に委ねる選択でもあります。AEGISは、定期借地を検討するとき、「地代はいくらか」より先に、「この土地は、いつ、誰の手に、どのような状態で戻るのか」を考えることが大切だと考えています。

    一般定期借地を選べば、土地が戻るのは孫の代になるかもしれません。事業用定期借地であれば、自分の世代か子の世代で土地が戻り、その時点の周辺環境に合わせて改めて活用を考えられます。どちらがよいかは、地代の多寡だけでなく、家族の承継の計画、ほかの財産との組み合わせ、相続税の納税資金によって変わります。

    また、定期借地は「貸す」選択肢の一つにすぎません。同じ土地で、建物を建てて事業者に貸す、自ら事業を営む、売却するといった選択肢と並べて比べたうえで選ぶことが、後悔の少ない判断につながると考えています。建物を建てて事業者に一括で貸す場合の契約の考え方は「事業者に建物を貸す土地活用の契約で確認したいこと」で、介護・保育施設の事業者から提案を受けた場合の確認点は「介護・保育施設に土地を貸すときの考え方」で整理しています。

    土地を貸す・活用する・売却するという大きな選択肢の比較は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で解説しています。

    底地の評価や一時金の税務など、資産税の観点からの考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。

    まとめ

    • 定期借地は、期間満了により更新なく終了し、土地が地主に戻ることを前提とした借地です。
    • 一般定期借地は50年以上・用途の制限なし・書面での特約、事業用定期借地は10年以上50年未満・居住用を除く事業用・公正証書での契約が必要です。
    • 地代の改定、権利金と保証金の性格、更地返還と解体費の担保、中途解約や譲渡の条件を契約で確認しておくことが大切です。
    • 底地の相続税評価は自用地より低くなりますが、残存期間が短くなるほど自用地に近づきます。家族や同族会社に貸す場合は評価方法に注意が必要です。
    • 契約期間中に地主の相続が起きることを前提に、土地が戻るまでを時間軸で設計しておくことが重要です。

    よくある質問

    Q. 一般定期借地と事業用定期借地は、地主にとってどちらが有利ですか?

    一概には言えません。一般定期借地は期間が50年以上と長く、住宅用にも貸せますが、土地が戻るのはかなり先になります。事業用定期借地は期間を10年以上50年未満で設定でき、比較的早く土地が戻りますが、借り手は事業者に限られ、地代は借地人の事業の成否に左右されます。土地が戻った後の使い道や、家族の承継の計画とあわせて選ぶことが大切です。

    Q. 定期借地で貸した土地は、本当に期間満了で戻ってきますか?

    定期借地は、法律上、期間満了で更新なく終了する仕組みです。ただし、契約の方式を欠いていると定期借地と認められないおそれがあります。また、実際に更地で戻るかどうかは、借地人が建物を取り壊して返還する義務を果たせるかにもかかっています。解体費用の担保や、満了前の協議の段取りを契約で定めておくことをおすすめします。

    Q. 保証金を受け取ったら、自由に使ってよいのですか?

    保証金は契約終了時に返還する預り金です。使い道に法律上の制限はありませんが、数十年後に返還する債務であることに変わりはありません。また、建物の建築資金など業務用の資金に充てるか、預貯金などで運用するかによって、所得税の扱いが変わる場合があります。返還の原資と税務の両面から使い道を考えることが大切です。

    Q. 定期借地にしている土地は、相続税の評価が下がりますか?

    定期借地権が設定された底地は、原則として自用地の価額から定期借地権等の価額を控除して評価され、自分で使っている土地より低くなります。一般定期借地の底地には、課税上弊害がない限り底地割合を用いる評価方法もあります。ただし、残存期間が短くなるほど評価は自用地に近づき、借地人が親族や同族会社である場合などは特例的な評価方法が使えないことがあります。

    Q. 自分の会社に定期借地で土地を貸すことはできますか?

    契約としては可能です。ただし、一般定期借地の底地の個別評価は、借地人が地主の親族や、地主が役員となっている法人などである場合には「課税上弊害がある」として使えません。また、親族や同族会社との間の土地の貸借には、地代の水準などをめぐって別の税務上の論点が生じることがあります。会社に貸す場合は、評価と法人税・所得税の扱いをあわせて確認することをおすすめします。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『二訂版 実務家必携 実務借地権課税』中野欣治 編、大蔵財務協会、P.1-3、P.189-199、P.210-215
    • 『〔机上調査→現地調査→役所調査→評価〕4STEPで身につく〈入門〉土地評価の実務』風岡範哉・田中泰男 著、清文社、P.343-345
  • 土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは|所有と運営を分ける意味と、税務・承継で注意したいこと

    土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは|所有と運営を分ける意味と、税務・承継で注意したいこと

    土地を事業の場として活用するとき、「土地や建物は誰が持ち、事業は誰が運営するのか」という問いは避けて通れません。オーナー個人が土地を持ち、事業はオーナーが関わる会社が運営する——このように所有と運営を分ける設計は、事業型の土地活用や、同族会社が使う不動産の扱いでよく見られる形です。

    結論から言えば、所有と運営を分ける意味は、「事業のリスクと成果」と「土地という資産」を切り分け、それぞれを適した人に、適した形で引き継げるようにすることにあります。ただし、分ければ自動的に有利になるわけではありません。分けた両者の間の貸し借りの条件を適切に設計しなければ、税務上の思わぬ課税や、承継時の混乱を招くことがあります。

    所有と運営を分ける、とはどういう形か

    所有と運営の分け方には、いくつかの典型的な形があります。

    形土地建物事業の運営両者の関係
    Aオーナー個人運営会社運営会社個人が会社に土地を貸す
    Bオーナー個人オーナー個人運営会社個人が会社に建物を貸す
    C資産管理会社資産管理会社運営会社会社間で土地・建物を貸す
    D運営会社運営会社運営会社分けない(参考)

    どの形をとるかによって、誰が建物の投資を負担するか、誰に家賃・地代が入るか、相続のときに何を誰が引き継ぐかが変わります。不動産を個人と法人のどちらで持つかの比較や、資産管理会社の活用は、それぞれ別の論点として検討が必要です。

    分けることの意味

    1. 事業のリスクと土地を切り分けられる

    事業には、業績の変動や撤退の可能性があります。土地と事業を同じ主体が持っていると、事業の不振がそのまま土地の処分につながることもあります。所有と運営を分けておけば、事業を見直す場面でも、土地を家族の資産として維持しやすくなります。

    2. 承継の担い手を分けられる

    土地を引き継ぐ人と、事業を担う人が同じとは限りません。たとえば、土地は家族全体の資産として承継しつつ、事業は経営を担える後継者や外部の事業者に委ねる、という組み立てが可能になります。

    3. 事業の売却・提携・入れ替えがしやすくなる

    運営会社の株式や事業を他者に引き継ぐ場合でも、土地は手元に残せます。逆に、事業者を入れ替えて土地を別の事業に使うことも検討しやすくなります。

    4. 収益の性格を区別して管理できる

    土地・建物から得る地代・家賃と、事業から得る利益を分けて管理することで、それぞれの採算が見えやすくなります。

    分けるときに確認したいこと

    地代・家賃の水準と契約

    所有者と運営会社が同族関係にある場合、地代や家賃をいくらにするかは、当事者だけで決められてしまいます。しかし、その水準は税務上の扱いに影響します。周辺の相場や、事業がその家賃を負担できるかを踏まえて設定し、契約書で条件を明確にしておくことが基本です。

    借地権の課税関係:法人が関わる土地の貸し借り

    特に注意したいのが、形A(個人の土地に運営会社が建物を建てる)のように、建物の所有を目的として土地を貸す場合です。

    土地の貸し借りでは、権利金や地代の授受の有無・水準によって、借地権の課税関係が変わります。個人間の無償の貸し借り(使用貸借)については、国税庁の通達で、建物の所有を目的とする使用貸借による使用権の価額は零として取り扱い、その土地を相続などで取得した場合は自用地として評価する旨が示されています。

    一方、貸し手または借り手が法人である場合は、個人間と同じ考え方にはならず、権利金を授受しないことが借地権の認定課税につながることがあります。こうした場面のために、契約で将来土地を無償で返還することを定め、その旨を税務署に届け出る「土地の無償返還に関する届出」という手続(法人税基本通達13-1-7を根拠とするもの)が設けられています。届出の有無や地代の水準によって、借地権の課税関係や、相続時の土地の評価、運営会社の株式評価への影響が変わるため、形Aを選ぶ場合は契約の段階から確認しておく必要があります。

    国税庁の通達では、土地の自用地としての価額に対しおおむね年6%程度の地代を「相当の地代」としています(法人税の取扱いでも、当分の間は年6%とされています)。権利金を受け取らずに相当の地代を受け取っている場合や、賃貸借で「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合、その土地(貸宅地)は自用地としての価額の80%で評価されます。あわせて、被相続人が同族関係者となっている同族会社に土地を貸している場合には、自用地としての価額の20%相当額が借地権の価額としてその会社の株式評価上の純資産価額に算入されます。土地と株式の両方を同じ家族が承継する場合、土地の評価が下がった分の一部が株式の評価に移る、と捉えると全体像をつかみやすくなります。

    相続時の評価と小規模宅地等の特例

    所有と運営を分けると、相続のときに土地がどの区分で評価されるかも変わります。

    • 個人の土地・建物を運営会社に貸している場合(形B)、土地は貸家の敷地として評価が検討されます。
    • 個人の土地を運営会社に貸し、会社が建物を持つ場合(形A)、土地は貸宅地として扱われ、上記の届出や地代の条件によって評価が変わります(相当の地代や無償返還の届出がある場合は自用地としての価額の80%、地代を受け取らない使用貸借で無償返還の届出がある場合は自用地としての価額)。

    小規模宅地等の特例についても、国税庁によれば、被相続人及び親族等が発行済株式等の50%超を有する一定の法人の事業(不動産貸付業等を除く)に使われていた宅地等は「特定同族会社事業用宅地等」として400㎡まで80%の減額の対象となり得ます。この区分では、相続税の申告期限においてその宅地等を取得した親族が法人の役員であることや、申告期限まで宅地等を保有することなどの要件があります。また、被相続人などから法人への土地(または建物)の貸付けが、相当の対価を得て継続的に行うものなど特例上の「事業」に当たることが前提とされており、無償(使用貸借)で貸している場合はこの区分の対象になりません。一方、運営会社の事業が不動産貸付業等にあたる場合や、要件を満たさない場合は、貸付事業用宅地等(200㎡まで50%)として検討されるか、特例の対象外となります。

    どの区分に当たるかは、土地・建物を誰が持ち、運営会社にどのような条件で貸しているか、運営会社の事業が何か、誰が引き継ぐかによって変わります。設計の段階で、承継の場面まで想定して確認しておくことが重要です。

    会社間・個人と会社間の取引を記録する

    所有者と運営会社の間では、賃貸借契約、賃料の支払い、修繕費の負担区分などを、第三者との取引と同じように書面と記録で残しておくことが大切です。後から取引の実態を説明できることが、税務上も、承継時の家族間の理解のうえでも支えになります。

    管理の手間とコスト

    主体を分ければ、契約管理、会計・申告、資金管理の手間が増えます。分けることで得られる効果が、その手間に見合うかも確認します。

    承継の設計:土地と株式をどう引き継ぐか

    所有と運営を分けた場合、承継の対象は「土地(または資産管理会社の株式)」と「運営会社の株式」の二つになります。

    • 土地の承継:誰が引き継ぐか、共有にしないか、納税資金をどう確保するか。
    • 運営会社の株式の承継:経営を担う後継者に議決権を集めるか、外部への承継も視野に入れるか。
    • 両者の関係の継続:承継後も賃貸借契約が続くこと、地代・家賃の見直しの方法を、関係者が理解しているか。
    • 意思の残し方:遺言などで、土地と株式の承継の方針を明確にしておくか。

    土地を引き継ぐ人と運営会社を引き継ぐ人が異なる場合、両者の利害は「地代・家賃の水準」で直接ぶつかります。承継の前に、その水準の考え方や見直しのルールを決めておくことが、承継後の関係を安定させます。

    AEGISの視点

    AEGISは、土地を起点とした事業を設計するとき、「誰が持つか(所有)」と「誰が営むか(運営)」を、最初から別々の問いとして扱うことを大切にしています。

    土地は、家族が長い時間をかけて受け継いできた資産です。一方、事業は、地域の需要や担い手の状況に応じて形を変えていくものです。この二つを一体で持ち続けると、どちらかの事情がもう一方を縛ることがあります。所有と運営を分けることは、土地を守りながら事業に挑戦し、事業を育てながら土地を次の世代に引き継ぐための、承継を前提とした設計だと考えています。

    ただし、その効果は、地代・家賃の設定、借地権の扱い、特例の区分といった細部の設計に支えられて初めて得られます。税務だけを見て形を決めるのではなく、事業の継続性と家族の承継の方針を先に定め、そのうえで税務上の扱いを確認する——その順番が重要です。

    賃貸以外の活用の型は関連記事「土地を貸す以外の活用方法」、選択肢全体の比べ方は「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」、評価だけで判断しない考え方は「土地活用を相続税評価だけで判断しないために」で解説しています。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    不動産の所有形態や同族会社との取引に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 所有と運営を分ける設計は、事業のリスクと土地という資産を切り分け、それぞれに合った承継を可能にするものです。
    • 典型的には、個人が土地を貸す形、個人が建物を貸す形、資産管理会社が貸す形があります。
    • 法人が関わる土地の貸し借りでは、権利金・地代・無償返還の届出の有無によって借地権の課税関係が変わります。
    • 小規模宅地等の特例の区分も、所有・貸借の形や運営会社の事業内容によって変わります。
    • 承継の前に、地代・家賃の水準と見直しのルールを決めておくことが、承継後の関係を安定させます。

    よくある質問

    Q. 土地を持つ人と事業を運営する会社を分けると、節税になりますか?

    分けること自体が節税を目的とするものではありません。分ける意味は、事業のリスクと土地の切り分けや、承継の担い手を分けられることにあります。税務上の扱いは、地代・家賃の水準や貸し借りの形によって有利にも不利にもなり得るため、個別に確認が必要です。

    Q. 自分の土地に、自分が経営する会社の建物を建てる場合、何に注意すべきですか?

    建物の所有を目的として法人に土地を貸すことになるため、権利金や地代の扱いによって借地権の認定課税の問題が生じることがあります。契約で将来の無償返還を定めて税務署に届け出る「土地の無償返還に関する届出」の手続もあるため、建築前の段階で確認しておくことが大切です。

    Q. 家族の会社に土地を無償で貸すことはできますか?

    当事者間の契約としては可能ですが、貸し手または借り手が法人である場合は、個人間の使用貸借と同じ考え方にはならず、税務上の課税関係が生じることがあります。地代の水準や届出の要否を含めて、事前に確認することをおすすめします。

    Q. 特定同族会社事業用宅地等とは何ですか?

    小規模宅地等の特例の区分の一つで、被相続人及び親族等が発行済株式等の50%超を有する一定の法人の事業(不動産貸付業等を除く)に使われていた宅地等をいいます。国税庁によれば400㎡まで80%の減額の対象となり得ますが、申告期限において宅地等を取得した親族が法人の役員であることや、宅地等を保有し続けることなどの要件があります。なお、法人への貸付けが無償(使用貸借)の場合は対象になりません。

    Q. 土地と運営会社の株式を、別々の子に引き継いでも問題ありませんか?

    可能ですが、承継後は地代・家賃の水準をめぐって両者の利害が対立することがあります。承継の前に、賃貸借の条件や見直しのルール、遺言などによる承継方針を明確にしておくことが望まれます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 事業者に建物を貸す土地活用の契約で確認したいこと|期間・中途解約・賃料改定・原状回復・転用をどう決めるか

    事業者に建物を貸す土地活用の契約で確認したいこと|期間・中途解約・賃料改定・原状回復・転用をどう決めるか

    土地に建物を建てて、店舗や事務所、物流施設などの事業者に一括で貸す活用は、一般に「建て貸し」と呼ばれます。事業者の希望に合わせて建物を建てることから、「オーダーメイド賃貸」「リースバック方式」と呼ばれることもあります。

    建て貸しでは、オーナーが建物への投資と借入れを引き受け、その回収を一つの事業者からの賃料に頼ることになります。そのため、収支が成り立つかどうかは、賃料の額だけでなく、契約期間、中途解約、賃料の改定、原状回復、事業者が撤退した後の建物の扱いといった契約条項で大きく変わります。

    この記事では、事業者から建て貸しの提案を受けたオーナーが、契約書に署名する前に確認しておきたい点を整理します。

    建て貸しとは:土地だけを貸す場合との違い

    事業者に土地を提供する方法は、大きく「土地だけを貸す(借地)」と「建物を建てて貸す(建て貸し)」に分かれます。

    項目土地だけを貸す(借地)建物を建てて貸す(建て貸し)
    建物の所有者事業者オーナー
    オーナーの投資原則なし建築費(借入れを伴うことが多い)
    収入地代家賃(地代より高い水準になりやすい)
    契約に適用される主なルール借地借家法の借地の規定借地借家法の建物賃貸借の規定
    事業者が撤退したとき原則として更地で戻る(定期借地の場合)建物がオーナーの手元に残る

    建て貸しは、借地より高い収入を得られる可能性がある一方で、建物と借入れのリスクをオーナーが負う形です。定期借地で土地だけを貸す場合の考え方は、関連記事「定期借地で土地を貸すときの考え方」で整理しています。

    なお、住宅の分野で「リースバック」というと、自宅を売却した後もその家を借りて住み続ける仕組みを指すことが一般的です。土地活用でいう建て貸しとは別のものなので、提案書の用語は中身で確認しましょう。

    最初に決まること:普通建物賃貸借か、定期建物賃貸借か

    建て貸しの契約は、借地借家法の「建物の賃貸借」に当たります。ここで最初に確認したいのが、普通建物賃貸借(普通借家)と定期建物賃貸借(定期借家)のどちらで契約するかです。この選択によって、後に説明する中途解約や賃料改定の考え方が大きく変わります。

    項目普通建物賃貸借定期建物賃貸借
    契約の終了期間満了時も、オーナーからの更新拒絶には正当事由が必要期間満了により更新なく終了
    契約の方式定めなし公正証書による等の書面。更新がない旨の事前説明(書面の交付)が必要
    終了の通知更新しない場合は期間満了の1年前から6か月前までに通知期間1年以上の場合、満了の1年前から6か月前までに終了の通知が必要
    賃料の増減請求特約にかかわらず、賃料が不相当になれば増減を請求できる賃料改定に関する特約があれば、増減請求の規定は適用されない
    賃借人に不利な特約更新等に関する規定に反する特約で賃借人に不利なものは無効方式等を満たせば、更新がない旨を定められる

    ※借地借家法第26条〜第30条・第32条・第38条をもとにAEGISが整理。

    普通建物賃貸借では、契約期間が満了しても、オーナーの側から契約を終わらせるには正当事由が必要です。建物を建てて貸す以上、長く借りてもらうこと自体は望ましいことですが、将来、別の用途に建て替えたい、土地を売却したいといったときに、契約を終わらせにくいという面があります。

    定期建物賃貸借は、期間満了で確実に終了させられる一方、方式や事前説明、終了の通知の手続を一つでも欠くと、定期建物賃貸借としての効力を主張できなくなるおそれがあります。契約書の作成段階で、方式と手続の流れを確認しておきましょう。

    確認1:契約期間と借入期間はそろっているか

    建て貸しでは、建築費を金融機関から借り入れることが多く、賃料で返済を賄う前提で計画が組まれます。ここで確認したいのは、契約期間と借入期間の関係です。

    • 契約期間が借入期間より短い場合、契約終了後の返済を、次の借り手からの賃料や手元資金で賄う必要があります。
    • 契約期間中であっても、中途解約が認められていれば、実質的な契約期間はさらに短くなります。
    • 建物の耐用年数や、大規模修繕が必要になる時期も、期間の設計に関わります。

    提案書では「20年契約」のように長期の期間が示されていても、中途解約の条項によって実際に賃料が保証される期間はそれより短いことがあります。期間と解約条項は必ずセットで読みましょう。

    確認2:中途解約をどう定めるか

    中途解約は、建て貸しの契約で最も重要な条項の一つです。事業者は、業績や事業戦略の変化に応じて撤退できるよう、解約の余地を求めることが一般的です。一方、オーナーにとっては、解約は投資の回収計画が途中で崩れることを意味します。

    確認したい点は次のとおりです。

    • 中途解約ができない期間(解約不能期間)を設けるか、その長さ
    • 解約できる場合の予告期間
    • 解約時の違約金や、残りの期間の賃料の一部を支払う定めの有無
    • 建設協力金や保証金の残額との精算の方法

    定期建物賃貸借について、借地借家法は居住用の建物(床面積200㎡未満)に限り、転勤や療養などやむを得ない事情があるときに賃借人からの中途解約を認めています。事業用の建て貸しはこれに当たらないため、中途解約の可否と条件は、契約の定めによって決まることになります。だからこそ、契約書の文言が重要です。

    確認3:賃料の水準と改定の方法

    長期の契約では、契約時の賃料がそのまま続くとは限りません。

    普通建物賃貸借では、借地借家法により、賃料が経済事情の変動などによって不相当になったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって賃料の増減を請求できるとされています。つまり、「一定期間は賃料を減額しない」と定めても、事業者から減額を求められる可能性は残ります。一方、定期建物賃貸借では、賃料の改定に関する特約を定めれば、この増減請求の規定は適用されません。

    確認しておきたいのは次の点です。

    • 賃料を固定するのか、一定期間ごとに見直すのか
    • 見直す場合の基準(固定資産税などの負担、物価の指標、周辺の賃料水準など)
    • 賃料が下がった場合に、借入れの返済に支障が出ないか

    賃料改定の条項は、事業者との力関係が表れやすい部分です。収支計画では、賃料が一定程度下がった場合のシナリオも作っておくと安心です。

    確認4:建設協力金・保証金の扱い

    建て貸しでは、事業者がオーナーに対して、建築費の一部として建設協力金を預ける形がとられることがあります。オーナーにとっては借入れを抑えられる利点がありますが、性格としては事業者からの借入れであり、契約期間中に分割で返還していくのが一般的です。

    • 返還の方法(賃料との相殺か、別途の支払いか)と期間
    • 利息の有無
    • 中途解約時に、未返還の残額をどう精算するか
    • 建物や土地に担保を設定するか

    賃料と相殺して返還する仕組みの場合、事業者が途中で撤退すると、オーナーは賃料収入を失う一方で、残額の扱いをめぐって協議が必要になることがあります。協力金の返還条件と中途解約の条項は、必ず一緒に確認しましょう。

    また、オーナーに相続が起きたときに建設協力金の返還債務が残っていれば、相続人が引き継ぐことになります。相続税の計算では、被相続人の債務で確実と認められるものは遺産から控除できるとされていますが(国税庁 No.4126)、具体的な扱いは契約の内容に応じて確認が必要です。

    確認5:原状回復と内装・設備の所有区分

    事業者の仕様に合わせた建物では、内装や設備の多くを事業者が自ら施工することがあります。契約終了時に揉めやすいのが、どこまでを元に戻すのか、誰の費用で行うのかです。

    住宅の賃貸借では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が、通常の使用による損耗や経年変化は賃貸人の負担とする考え方を示しています。ただし、このガイドラインは民間賃貸住宅を対象としたものです。事業用の建て貸しでは、契約で原状回復の範囲を具体的に定めておくことがより重要になります。

    • オーナーが施工する部分(躯体・外装・基本設備)と、事業者が施工する部分(内装・専用設備)の区分
    • 契約終了時に、事業者が施工した部分を撤去するか、そのまま残すか
    • 残す場合に、事業者から買取りを求められないか

    借地借家法には、賃借人がオーナーの同意を得て付加した造作を、契約終了時に時価で買い取るよう請求できる「造作買取請求権」の定めがありますが、これは特約で排除できるものとされています。契約書でどう定めているかを確認しておきましょう。

    確認6:撤退後の転用と、オーナー側の売却・相続

    建て貸しの建物は、特定の事業者の業態に合わせた造りになっていることが多く、事業者が撤退した後、次の借り手が見つかるか、ほかの用途に転用できるかが、出口の価値を左右します。

    • 天井高、床の荷重、駐車場の台数など、ほかの業態でも使える汎用性があるか
    • 用途を変える場合に、建築の手続や都市計画上の制限がないか(たとえば、用途を変更して床面積200㎡を超える一定の特殊建築物とする場合は、原則として建築確認の手続が必要です〔建築基準法87条〕)
    • 事業者の承諾なく、オーナーが土地・建物を売却できるか

    建物の賃貸借は、登記がなくても建物の引渡しがあれば、その後に建物を取得した人に対しても効力があるとされています。つまり、オーナーが建物を売却したり、相続が起きたりしても、賃貸借契約は新しい所有者に引き継がれるのが原則です。売却や相続の場面では、契約の内容がそのまま資産の価値と流動性に影響します。

    撤退の可能性をあらかじめ事業計画に織り込む考え方は、関連記事「土地活用の事業計画で撤退基準を決める」で解説しています。

    税金と承継で押さえておきたいこと

    建て貸しは、相続税の評価にも影響します。建物を建てて貸している土地は「貸家建付地」として、自用地としての価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を掛けた額を差し引いて評価します(国税庁 No.4614)。また、要件を満たせば、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(200㎡までの部分について50%の減額)の対象となりえますが、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象外とされています。ただし、相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け(特定貸付事業)を続けていた場合は、新たに貸し始めた土地でも対象になります(国税庁 No.4124)。貸付用不動産の評価の見直し(通達案)で建物が新しい評価の対象になっても、この特例は使えると考えられます。

    ただし、評価が下がることと、財産として分けやすいことは別の問題です。一つの事業者に一括で貸している建物は、相続人の間で分けにくく、契約の残存期間や事業者の状況によって売却価格も大きく変わります。

    契約前のチェックリスト

    確認項目確認したい内容
    契約の型普通建物賃貸借か定期建物賃貸借か。定期の場合の方式・事前説明・終了通知
    期間契約期間・解約不能期間と、借入期間・耐用年数・大規模修繕時期の関係
    中途解約予告期間、違約金、残存期間の賃料の扱い
    賃料固定か改定か、改定の基準、減額時の返済への影響
    建設協力金・保証金返還方法、利息、中途解約時の精算、担保
    原状回復施工区分、撤去の範囲、造作の扱い
    転用・売却建物の汎用性、用途変更の制約、売却時の承諾
    承継相続人が契約と債務を引き継げるか、分け方

    AEGISの視点

    建て貸しの提案書には、多くの場合、長期の契約期間と安定した賃料、建築費と返済の計画が示されています。AEGISは、提案書を読むときに「賃料がいくら入るか」よりも先に、「どのような場合に、その賃料が途絶えるか」を契約書から読み取ることが大切だと考えています。

    中途解約、賃料改定、建設協力金の精算、原状回復——これらの条項は、いずれも「事業者の事業がうまくいかなくなったとき」に意味を持ちます。そして、その局面で建物と借入れを抱えるのはオーナーです。事業者の事業計画や財務を確認することと、契約条項でリスクの分担を決めておくことは、表裏一体の作業です。

    また、建て貸しの契約は20年、30年と続くことが多く、その間にオーナー側の相続が起きることを前提に考える必要があります。契約と建物、借入れ、建設協力金の返還債務を、誰がどのように引き継ぐのか。建て貸しを「土地の活用」としてだけでなく、家族が引き継ぐ事業の一つとして設計することが、長く続く土地活用につながると考えています。介護施設や保育所など、公的制度に支えられた事業者に貸す場合の特有の論点は「介護・保育施設に土地を貸すときの考え方」で整理しています。

    土地を貸す・活用する・売却するという大きな選択肢の比較は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で解説しています。

    貸家建付地の評価や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 建て貸しは、オーナーが建物への投資と借入れを引き受け、一つの事業者からの賃料で回収する土地活用です。
    • 普通建物賃貸借か定期建物賃貸借かによって、契約の終了、賃料の増減請求、手続の要件が大きく変わります。
    • 契約期間と借入期間、中途解約の条件、賃料改定の方法、建設協力金の精算は、セットで確認することが大切です。
    • 事業用の原状回復は、住宅向けのガイドラインに頼らず、施工区分と撤去の範囲を契約で具体的に定めておきましょう。
    • 事業者の撤退後の転用のしやすさと、オーナー側の売却・相続まで見通して契約を判断することが重要です。

    よくある質問

    Q. 建て貸しの契約は、普通建物賃貸借と定期建物賃貸借のどちらがよいですか?

    一概には言えません。普通建物賃貸借は事業者にとって安心感があり、長く借りてもらいやすい一方、オーナーから契約を終わらせるには正当事由が必要です。定期建物賃貸借は期間満了で確実に終了させられ、賃料改定の特約も定められますが、方式や事前説明、終了通知の手続を守る必要があります。将来の土地の使い方や借入期間とあわせて選ぶことが大切です。

    Q. 20年契約なら、20年間の賃料は保証されているのですか?

    契約期間が20年でも、中途解約が認められている場合は、事業者が予告期間を経て解約できる可能性があります。違約金の定めがあっても、残りの期間の賃料全額が支払われるとは限りません。契約期間と解約不能期間、違約金の内容を一緒に確認しましょう。

    Q. 「賃料を減額しない」という特約を入れておけば安心ですか?

    普通建物賃貸借では、借地借家法により、賃料が不相当になった場合には契約の条件にかかわらず増減を請求できるとされているため、減額しない特約があっても減額を求められる可能性は残ります。定期建物賃貸借で賃料改定に関する特約を定めた場合は、この増減請求の規定は適用されません。

    Q. 建設協力金を受け取ると、何に注意すればよいですか?

    建設協力金は事業者からの借入れの性格を持ち、契約期間中に返還していくのが一般的です。返還方法、利息の有無、中途解約時の残額の精算を確認してください。賃料と相殺して返還する仕組みでは、事業者が撤退した場合の扱いが特に重要です。オーナーの相続時には、返還債務が相続人に引き継がれます。

    Q. 事業者が撤退したら、建物はどうなりますか?

    建物はオーナーの所有として残ります。次の事業者を探すか、ほかの用途に転用するか、取り壊すかを検討することになりますが、建物が特定の業態に合わせた造りの場合、転用に大きな費用がかかることがあります。契約前に、建物の汎用性と撤退時の原状回復の範囲を確認しておくことが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、P.425-427、P.452-453
    • 『二訂版 実務家必携 実務借地権課税』中野欣治 編、大蔵財務協会、P.210-215