事業者に建物を貸す土地活用の契約で確認したいこと|期間・中途解約・賃料改定・原状回復・転用をどう決めるか

カフェ店舗の入口でタブレットを手に設備を確認する男性

執筆者:

カテゴリ:

,

土地に建物を建てて、店舗や事務所、物流施設などの事業者に一括で貸す活用は、一般に「建て貸し」と呼ばれます。事業者の希望に合わせて建物を建てることから、「オーダーメイド賃貸」「リースバック方式」と呼ばれることもあります。

建て貸しでは、オーナーが建物への投資と借入れを引き受け、その回収を一つの事業者からの賃料に頼ることになります。そのため、収支が成り立つかどうかは、賃料の額だけでなく、契約期間、中途解約、賃料の改定、原状回復、事業者が撤退した後の建物の扱いといった契約条項で大きく変わります。

この記事では、事業者から建て貸しの提案を受けたオーナーが、契約書に署名する前に確認しておきたい点を整理します。

建て貸しとは:土地だけを貸す場合との違い

事業者に土地を提供する方法は、大きく「土地だけを貸す(借地)」と「建物を建てて貸す(建て貸し)」に分かれます。

項目土地だけを貸す(借地)建物を建てて貸す(建て貸し)
建物の所有者事業者オーナー
オーナーの投資原則なし建築費(借入れを伴うことが多い)
収入地代家賃(地代より高い水準になりやすい)
契約に適用される主なルール借地借家法の借地の規定借地借家法の建物賃貸借の規定
事業者が撤退したとき原則として更地で戻る(定期借地の場合)建物がオーナーの手元に残る

建て貸しは、借地より高い収入を得られる可能性がある一方で、建物と借入れのリスクをオーナーが負う形です。定期借地で土地だけを貸す場合の考え方は、関連記事「定期借地で土地を貸すときの考え方」で整理しています。

なお、住宅の分野で「リースバック」というと、自宅を売却した後もその家を借りて住み続ける仕組みを指すことが一般的です。土地活用でいう建て貸しとは別のものなので、提案書の用語は中身で確認しましょう。

最初に決まること:普通建物賃貸借か、定期建物賃貸借か

建て貸しの契約は、借地借家法の「建物の賃貸借」に当たります。ここで最初に確認したいのが、普通建物賃貸借(普通借家)と定期建物賃貸借(定期借家)のどちらで契約するかです。この選択によって、後に説明する中途解約や賃料改定の考え方が大きく変わります。

項目普通建物賃貸借定期建物賃貸借
契約の終了期間満了時も、オーナーからの更新拒絶には正当事由が必要期間満了により更新なく終了
契約の方式定めなし公正証書による等の書面。更新がない旨の事前説明(書面の交付)が必要
終了の通知更新しない場合は期間満了の1年前から6か月前までに通知期間1年以上の場合、満了の1年前から6か月前までに終了の通知が必要
賃料の増減請求特約にかかわらず、賃料が不相当になれば増減を請求できる賃料改定に関する特約があれば、増減請求の規定は適用されない
賃借人に不利な特約更新等に関する規定に反する特約で賃借人に不利なものは無効方式等を満たせば、更新がない旨を定められる

※借地借家法第26条〜第30条・第32条・第38条をもとにAEGISが整理。

普通建物賃貸借では、契約期間が満了しても、オーナーの側から契約を終わらせるには正当事由が必要です。建物を建てて貸す以上、長く借りてもらうこと自体は望ましいことですが、将来、別の用途に建て替えたい、土地を売却したいといったときに、契約を終わらせにくいという面があります。

定期建物賃貸借は、期間満了で確実に終了させられる一方、方式や事前説明、終了の通知の手続を一つでも欠くと、定期建物賃貸借としての効力を主張できなくなるおそれがあります。契約書の作成段階で、方式と手続の流れを確認しておきましょう。

確認1:契約期間と借入期間はそろっているか

建て貸しでは、建築費を金融機関から借り入れることが多く、賃料で返済を賄う前提で計画が組まれます。ここで確認したいのは、契約期間と借入期間の関係です。

  • 契約期間が借入期間より短い場合、契約終了後の返済を、次の借り手からの賃料や手元資金で賄う必要があります。
  • 契約期間中であっても、中途解約が認められていれば、実質的な契約期間はさらに短くなります。
  • 建物の耐用年数や、大規模修繕が必要になる時期も、期間の設計に関わります。

提案書では「20年契約」のように長期の期間が示されていても、中途解約の条項によって実際に賃料が保証される期間はそれより短いことがあります。期間と解約条項は必ずセットで読みましょう。

確認2:中途解約をどう定めるか

中途解約は、建て貸しの契約で最も重要な条項の一つです。事業者は、業績や事業戦略の変化に応じて撤退できるよう、解約の余地を求めることが一般的です。一方、オーナーにとっては、解約は投資の回収計画が途中で崩れることを意味します。

確認したい点は次のとおりです。

  • 中途解約ができない期間(解約不能期間)を設けるか、その長さ
  • 解約できる場合の予告期間
  • 解約時の違約金や、残りの期間の賃料の一部を支払う定めの有無
  • 建設協力金や保証金の残額との精算の方法

定期建物賃貸借について、借地借家法は居住用の建物(床面積200㎡未満)に限り、転勤や療養などやむを得ない事情があるときに賃借人からの中途解約を認めています。事業用の建て貸しはこれに当たらないため、中途解約の可否と条件は、契約の定めによって決まることになります。だからこそ、契約書の文言が重要です。

確認3:賃料の水準と改定の方法

長期の契約では、契約時の賃料がそのまま続くとは限りません。

普通建物賃貸借では、借地借家法により、賃料が経済事情の変動などによって不相当になったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって賃料の増減を請求できるとされています。つまり、「一定期間は賃料を減額しない」と定めても、事業者から減額を求められる可能性は残ります。一方、定期建物賃貸借では、賃料の改定に関する特約を定めれば、この増減請求の規定は適用されません。

確認しておきたいのは次の点です。

  • 賃料を固定するのか、一定期間ごとに見直すのか
  • 見直す場合の基準(固定資産税などの負担、物価の指標、周辺の賃料水準など)
  • 賃料が下がった場合に、借入れの返済に支障が出ないか

賃料改定の条項は、事業者との力関係が表れやすい部分です。収支計画では、賃料が一定程度下がった場合のシナリオも作っておくと安心です。

確認4:建設協力金・保証金の扱い

建て貸しでは、事業者がオーナーに対して、建築費の一部として建設協力金を預ける形がとられることがあります。オーナーにとっては借入れを抑えられる利点がありますが、性格としては事業者からの借入れであり、契約期間中に分割で返還していくのが一般的です。

  • 返還の方法(賃料との相殺か、別途の支払いか)と期間
  • 利息の有無
  • 中途解約時に、未返還の残額をどう精算するか
  • 建物や土地に担保を設定するか

賃料と相殺して返還する仕組みの場合、事業者が途中で撤退すると、オーナーは賃料収入を失う一方で、残額の扱いをめぐって協議が必要になることがあります。協力金の返還条件と中途解約の条項は、必ず一緒に確認しましょう。

また、オーナーに相続が起きたときに建設協力金の返還債務が残っていれば、相続人が引き継ぐことになります。相続税の計算では、被相続人の債務で確実と認められるものは遺産から控除できるとされていますが(国税庁 No.4126)、具体的な扱いは契約の内容に応じて確認が必要です。

確認5:原状回復と内装・設備の所有区分

事業者の仕様に合わせた建物では、内装や設備の多くを事業者が自ら施工することがあります。契約終了時に揉めやすいのが、どこまでを元に戻すのか、誰の費用で行うのかです。

住宅の賃貸借では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が、通常の使用による損耗や経年変化は賃貸人の負担とする考え方を示しています。ただし、このガイドラインは民間賃貸住宅を対象としたものです。事業用の建て貸しでは、契約で原状回復の範囲を具体的に定めておくことがより重要になります。

  • オーナーが施工する部分(躯体・外装・基本設備)と、事業者が施工する部分(内装・専用設備)の区分
  • 契約終了時に、事業者が施工した部分を撤去するか、そのまま残すか
  • 残す場合に、事業者から買取りを求められないか

借地借家法には、賃借人がオーナーの同意を得て付加した造作を、契約終了時に時価で買い取るよう請求できる「造作買取請求権」の定めがありますが、これは特約で排除できるものとされています。契約書でどう定めているかを確認しておきましょう。

確認6:撤退後の転用と、オーナー側の売却・相続

建て貸しの建物は、特定の事業者の業態に合わせた造りになっていることが多く、事業者が撤退した後、次の借り手が見つかるか、ほかの用途に転用できるかが、出口の価値を左右します。

  • 天井高、床の荷重、駐車場の台数など、ほかの業態でも使える汎用性があるか
  • 用途を変える場合に、建築の手続や都市計画上の制限がないか(たとえば、用途を変更して床面積200㎡を超える一定の特殊建築物とする場合は、原則として建築確認の手続が必要です〔建築基準法87条〕)
  • 事業者の承諾なく、オーナーが土地・建物を売却できるか

建物の賃貸借は、登記がなくても建物の引渡しがあれば、その後に建物を取得した人に対しても効力があるとされています。つまり、オーナーが建物を売却したり、相続が起きたりしても、賃貸借契約は新しい所有者に引き継がれるのが原則です。売却や相続の場面では、契約の内容がそのまま資産の価値と流動性に影響します。

撤退の可能性をあらかじめ事業計画に織り込む考え方は、関連記事「土地活用の事業計画で撤退基準を決める」で解説しています。

税金と承継で押さえておきたいこと

建て貸しは、相続税の評価にも影響します。建物を建てて貸している土地は「貸家建付地」として、自用地としての価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を掛けた額を差し引いて評価します(国税庁 No.4614)。また、要件を満たせば、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(200㎡までの部分について50%の減額)の対象となりえますが、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象外とされています。ただし、相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け(特定貸付事業)を続けていた場合は、新たに貸し始めた土地でも対象になります(国税庁 No.4124)。貸付用不動産の評価の見直し(通達案)で建物が新しい評価の対象になっても、この特例は使えると考えられます。

ただし、評価が下がることと、財産として分けやすいことは別の問題です。一つの事業者に一括で貸している建物は、相続人の間で分けにくく、契約の残存期間や事業者の状況によって売却価格も大きく変わります。

契約前のチェックリスト

確認項目確認したい内容
契約の型普通建物賃貸借か定期建物賃貸借か。定期の場合の方式・事前説明・終了通知
期間契約期間・解約不能期間と、借入期間・耐用年数・大規模修繕時期の関係
中途解約予告期間、違約金、残存期間の賃料の扱い
賃料固定か改定か、改定の基準、減額時の返済への影響
建設協力金・保証金返還方法、利息、中途解約時の精算、担保
原状回復施工区分、撤去の範囲、造作の扱い
転用・売却建物の汎用性、用途変更の制約、売却時の承諾
承継相続人が契約と債務を引き継げるか、分け方

AEGISの視点

建て貸しの提案書には、多くの場合、長期の契約期間と安定した賃料、建築費と返済の計画が示されています。AEGISは、提案書を読むときに「賃料がいくら入るか」よりも先に、「どのような場合に、その賃料が途絶えるか」を契約書から読み取ることが大切だと考えています。

中途解約、賃料改定、建設協力金の精算、原状回復——これらの条項は、いずれも「事業者の事業がうまくいかなくなったとき」に意味を持ちます。そして、その局面で建物と借入れを抱えるのはオーナーです。事業者の事業計画や財務を確認することと、契約条項でリスクの分担を決めておくことは、表裏一体の作業です。

また、建て貸しの契約は20年、30年と続くことが多く、その間にオーナー側の相続が起きることを前提に考える必要があります。契約と建物、借入れ、建設協力金の返還債務を、誰がどのように引き継ぐのか。建て貸しを「土地の活用」としてだけでなく、家族が引き継ぐ事業の一つとして設計することが、長く続く土地活用につながると考えています。介護施設や保育所など、公的制度に支えられた事業者に貸す場合の特有の論点は「介護・保育施設に土地を貸すときの考え方」で整理しています。

土地を貸す・活用する・売却するという大きな選択肢の比較は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で解説しています。

貸家建付地の評価や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 建て貸しは、オーナーが建物への投資と借入れを引き受け、一つの事業者からの賃料で回収する土地活用です。
  • 普通建物賃貸借か定期建物賃貸借かによって、契約の終了、賃料の増減請求、手続の要件が大きく変わります。
  • 契約期間と借入期間、中途解約の条件、賃料改定の方法、建設協力金の精算は、セットで確認することが大切です。
  • 事業用の原状回復は、住宅向けのガイドラインに頼らず、施工区分と撤去の範囲を契約で具体的に定めておきましょう。
  • 事業者の撤退後の転用のしやすさと、オーナー側の売却・相続まで見通して契約を判断することが重要です。

よくある質問

Q. 建て貸しの契約は、普通建物賃貸借と定期建物賃貸借のどちらがよいですか?

一概には言えません。普通建物賃貸借は事業者にとって安心感があり、長く借りてもらいやすい一方、オーナーから契約を終わらせるには正当事由が必要です。定期建物賃貸借は期間満了で確実に終了させられ、賃料改定の特約も定められますが、方式や事前説明、終了通知の手続を守る必要があります。将来の土地の使い方や借入期間とあわせて選ぶことが大切です。

Q. 20年契約なら、20年間の賃料は保証されているのですか?

契約期間が20年でも、中途解約が認められている場合は、事業者が予告期間を経て解約できる可能性があります。違約金の定めがあっても、残りの期間の賃料全額が支払われるとは限りません。契約期間と解約不能期間、違約金の内容を一緒に確認しましょう。

Q. 「賃料を減額しない」という特約を入れておけば安心ですか?

普通建物賃貸借では、借地借家法により、賃料が不相当になった場合には契約の条件にかかわらず増減を請求できるとされているため、減額しない特約があっても減額を求められる可能性は残ります。定期建物賃貸借で賃料改定に関する特約を定めた場合は、この増減請求の規定は適用されません。

Q. 建設協力金を受け取ると、何に注意すればよいですか?

建設協力金は事業者からの借入れの性格を持ち、契約期間中に返還していくのが一般的です。返還方法、利息の有無、中途解約時の残額の精算を確認してください。賃料と相殺して返還する仕組みでは、事業者が撤退した場合の扱いが特に重要です。オーナーの相続時には、返還債務が相続人に引き継がれます。

Q. 事業者が撤退したら、建物はどうなりますか?

建物はオーナーの所有として残ります。次の事業者を探すか、ほかの用途に転用するか、取り壊すかを検討することになりますが、建物が特定の業態に合わせた造りの場合、転用に大きな費用がかかることがあります。契約前に、建物の汎用性と撤退時の原状回復の範囲を確認しておくことが大切です。

関連するAEGISのソリューション

この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

  • 事業型不動産活用:保有不動産に合う事業を判定し、事業モデルの選定から開業・運営までを支援します。
  • 事業創造型土地活用:保有する土地・建物に合う事業を判定し、相続税の備えと承継までを一体で検討します。
  • 不動産オーナーの方へ:3つの独自分析で承継の負担と資金を確認し、不動産ごとの方針を決める支援の流れをまとめています。
  • 高所得者の方へ:所得と資産の両面から、税負担と資産形成を整理する支援をまとめています。
  • 不動産の最適保有設計(POD):個人・法人等の取得形態と、税引後の手残り・融資・出口を、物件の購入前に設計します。

参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、P.425-427、P.452-453
  • 『二訂版 実務家必携 実務借地権課税』中野欣治 編、大蔵財務協会、P.210-215

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。