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  • 表明保証と売主の責任|会社を売った後に損害賠償を求められないための契約と準備

    表明保証と売主の責任|会社を売った後に損害賠償を求められないための契約と準備

    会社を売却して代金を受け取った後に、買い手から「聞いていなかった未払残業代が見つかった」「過去の申告について追徴課税を受けた」として、損害の補償を求められる——。こうした売却後のトラブルの多くは、株式譲渡契約の表明保証と補償の条項をめぐって起こります。

    結論から言えば、売主が売却後の請求リスクを抑えるために大切なのは、①会社の実情を買い手に正確に開示すること、②表明保証の範囲と、責任の上限・期間・対象を契約で明確に区切ること、③それでも残るリスクに備えて受取額の使い方を考えておくことの3つです。この記事では、表明保証と補償の仕組み、売主として確認したい条項、表明保証保険、そして補償をめぐる税務上の論点までを整理します。

    表明保証とは

    表明保証とは、契約の一方の当事者が、相手方に対して、ある時点において一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証するものです。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、このように説明されています。

    会社の売却(株式譲渡)では、主に売主が買い手に対して、たとえば次のようなことを表明保証します。

    • 売主が株式を適法に保有しており、株式に担保などの負担がないこと
    • 開示した決算書が適正に作成されていること
    • 開示した債務以外に、簿外の債務や未払いの賃金がないこと
    • 税金の申告と納付を適正に行ってきたこと
    • 重要な契約や許認可に問題がないこと、訴訟がないこと

    そして、表明保証した内容が事実と違っていたことで買い手に損害が生じた場合に、売主がその損害を補う約束が補償条項です。買い手は売却前の調査(デュー・ディリジェンス、DD)で会社を調べますが、限られた時間ですべてを調べ尽くすことはできません。調べきれなかったリスクを売主に負担してもらうための仕組みが、表明保証と補償だといえます。

    売主が表明保証する主な事項と、責任につながりやすい論点

    表明保証の対象は多岐にわたりますが、中小企業の売却で売主の責任につながりやすい論点を、AEGISでは次のように整理しています。

    区分表明保証の主な内容売主の責任につながりやすい論点
    売主・株式株式の保有、株主構成、潜在株式がないこと名義株、株券発行会社なのに株券が発行されていない、過去の株式移動の記録の不備
    財務決算書の適正性、簿外債務がないこと引当金の未計上、保証債務、リース・未払金の漏れ
    税務申告・納付の適正性役員給与・交際費等の処理、消費税、源泉所得税、将来の税務調査での追徴
    労務法令の遵守、未払賃金がないこと未払残業代、みなし残業の運用、社会保険の加入漏れ
    契約・許認可重要な契約・許認可の有効性株主が変わると解除できる条項、許認可の要件違反
    法令・紛争法令違反・訴訟がないことクレームや紛争の予兆、行政からの指導
    情報開示開示資料が真実かつ正確であること開示漏れ、口頭説明と資料の食い違い

    ※一般的な整理です。実際の対象と表現は、取引ごとに契約で定めます。

    中でも労務は、売却後に問題が見つかりやすい分野だといわれます。未払残業代のように、金額が大きくなりやすく、過去にさかのぼって請求されうる債務は、売主にとって大きなリスクになります。

    責任の範囲を決める条項

    表明保証の違反があった場合に、売主がどこまで責任を負うかは、契約の定め方で大きく変わります。売主として確認したい主な条項は次のとおりです。

    補償の期間

    補償を請求できる期間を定める条項です。期間が長いほど、売主は長く不安を抱えることになります。実務では、すべての事項を同じ期間にするのではなく、事項の性質によって期間を分ける例があります。たとえば、株式の帰属のように取引の根幹に関わる事項は長め、一般的な事項は短め、税務については更正の期間を意識して定める、といった形です。期間の定めがないと、いつまで責任を負うのかが不明確になるため、必ず明記してもらうことが大切です。

    補償の上限(キャップ)

    補償額の上限を定める条項です。買い手は譲渡代金の全額を上限にしたいと考えがちですが、売主は代金から税金や手数料を差し引いた後の金額しか手元に残りません。上限は、譲渡代金の一定割合や一定額など、交渉で決まります。

    補償の下限(フロア)

    少額の損害についてまで補償を請求されないよう、一定額に満たない損害は対象外とする条項です。1件あたりの損害額が一定額に満たなければ免責する方式や、損害の合計が一定額を超えた場合に補償する方式などがあります。

    「知る限り」「重要な点において」という限定

    表明保証に「売主の知る限り」という限定を付けると、売主が知らなかった事実については責任を負わない形になります。また「重要な点において」という限定を付けると、軽微な不一致は違反にならない形になります。こうした限定をどこまで入れられるかは、売主の責任の重さを左右します。

    開示した事項の例外

    DDの過程で買い手に開示した事項や、契約の別紙に列挙した事項を、表明保証の対象から除く定め方があります。リスクを「隠す」のではなく「開示して例外にする」ことが、売主にとって最も確実な防御になります。

    代金の一部の留保

    補償の支払いを確実にするため、譲渡代金の一部を一定期間、金融機関などに預ける(エスクロー)、あるいは代金の一部を後払いにする、といった方法がとられることもあります。売主にとっては、代金の一部をすぐに使えないことになるため、対象とする損害と期間を限定するよう交渉することが考えられます。

    中小M&Aガイドラインの考え方

    中小M&Aガイドライン(第3版)では、DDや表明保証をめぐり当事者間でトラブルに発展しうるリスクとその対応策を解説し、仲介者・FAに求める対応が追記されました。売主の立場から押さえておきたいのは、次のような考え方です。

    • 表明保証の内容は、DDの結果を踏まえて検討されるべきものであること
    • DDを経ずに、定型的に期間や上限のない表明保証を設けることには慎重であるべきこと
    • 期間や責任の上限が設定されていない場合や、適用場面が明確でない場合には、売主が過大な責任を負い争いにつながるおそれがあることを、仲介者・FAが説明すべきとされていること

    DDは買い手のための調査と思われがちですが、十分なDDが行われないと、その分だけ表明保証で売主が負うリスクが重くなるという関係にあります。DDに協力し、指摘された事項を価格や契約条件の中で整理しておくことは、売主自身を守ることにもつながります。

    表明保証保険とは

    表明保証保険は、売主が一定の事項を真実・正確であると表明保証していたにもかかわらず違反があった場合に、それによる損害を填補する保険です。ガイドラインの用語集でも、このように説明されています。

    保険を利用すると、表明保証違反による損害を保険で補う形になり、売主が直接補償を負担する範囲を小さくできる場合があります。売主にとっては売却後の不安を和らげ、買い手にとっては売主の支払能力に左右されずに補償を受けられるという意味があります。一方で、保険料の負担をどちらが持つか、どのような事項が補償の対象外となるか、売主の故意による違反をどう扱うかなどは、保険契約ごとに定められます。利用を検討する場合は、保険の補償範囲と株式譲渡契約の条項がかみ合っているかを、専門家と確認することが大切です。

    補償を受け取った・支払った場合の税務上の論点

    表明保証違反によって売主が買い手にお金を支払った場合、その性質によって税務上の扱いが変わりうる点にも注意が必要です。

    専門書籍では、買い手が受け取る金額が譲渡対価の調整として扱われる場合には、買い手側では株式の取得価額の減額となり、損害賠償として扱われる場合には、買い手側で収益が計上されるという整理が示されています。また、補償金が売主から買い手ではなく、売却された会社に支払われる場合には、その会社で収益が計上されるとされています。

    個人の売主の側では、売却時に株式の譲渡所得として申告分離課税(所得税15%・住民税5%、別途復興特別所得税)で課税を受けた後に、代金の一部を返すことになります。所得税には、申告した税額が多すぎた場合に法定申告期限から原則5年以内に減額を求める「更正の請求」の仕組みがありますが、補償の支払いを理由に過去の譲渡所得を減額できるかどうかは、その支払いの性質や契約の定め方によって判断が分かれうるとされています。

    このため、補償条項を設ける段階で、支払いを「譲渡価額の調整」として定めるのか、支払先を誰にするのかを、税務の観点からも確認しておくことが望まれます。具体的な取扱いは事案ごとに異なるため、税理士に確認してください。

    売主が今からできる準備

    表明保証の責任を軽くする最善の方法は、契約交渉の技術よりも、売却前に会社の実情を整え、説明できる状態にしておくことです。

    • 労務の点検:勤怠と賃金計算の運用、みなし残業の設計、社会保険の加入状況を確認し、問題があれば売却前に是正する
    • 税務の点検:過去の申告で判断が分かれそうな処理を洗い出し、必要に応じて修正しておく
    • 株式と契約の整理:株主名簿、株券の発行状況、過去の株式移動の記録、重要な契約の条項を確認する
    • 開示の姿勢:気になる事項は早めに開示し、価格や契約条件の中で手当てする

    売却前に整えたい会計・契約・組織の具体的な内容は関連記事「M&Aの前に整えたい会計・契約・組織」で、買い手がどのような視点で調査するかは「会社を買う前に確認したいリスク」で解説しています。

    AEGISの視点

    会社の売却では、譲渡価格に注目が集まります。しかしAEGISは、売主にとっての本当の受取額は「譲渡代金 −(税金・手数料)− 売却後に返す可能性のある金額」だと考えています。表明保証と補償の条項は、この最後の項目の大きさと期間を決めるものです。

    たとえば、補償の期間中は、受け取った代金の一部を返す可能性が残ります。その期間に、受取額のほとんどを不動産の購入や家族への贈与に充ててしまうと、万が一の請求に応じられなくなるおそれがあります。売却後の資産設計を考えるときは、補償の上限と期間を踏まえて、一定の資金を流動性の高い形で手元に置いておくといった配慮が必要です。売却後の資産の守り方は関連記事「会社売却後の資産をどう守り、どう使うか」で解説しています。

    また、表明保証は売主の責任を定めるものですが、売主の経営者保証の解除のように、買い手に果たしてもらうべき約束もあります。契約交渉は、売主と買い手の双方が負う義務を一つの契約の中でバランスさせる作業です。支援機関の選び方を含めた売却の進め方は「M&A仲介を使う前に確認したいこと」で、売却準備の全体像は「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

    売却に伴う税務や、売却後に残る資産の構造に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 表明保証は、売主が会社や株式について一定の事項が真実かつ正確であると表明し保証するもので、違反による買い手の損害を補う約束が補償条項です。
    • 売主の責任の大きさは、補償の期間、上限、下限、「知る限り」などの限定、開示事項の例外、代金の留保の定め方で大きく変わります。
    • 中小M&Aガイドライン(第3版)では、DDを経ずに期間や上限のない表明保証を定型的に設けることには慎重であるべきとされています。
    • 表明保証保険を利用すると、売主が直接負う補償の範囲を小さくできる場合がありますが、補償範囲と契約条項の整合を確認する必要があります。
    • 補償の支払いは、その性質によって税務上の扱いが異なりうるため、契約段階で税務の観点からも確認することが大切です。

    具体的な条項の内容や税務上の取扱いは、取引の内容や当事者の状況などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 表明保証は、売主が必ず応じなければならないものですか?

    株式譲渡契約では、売主の表明保証はほぼ必ず求められます。ただし、その範囲、期間、上限、限定の付け方は交渉で決まります。応じるかどうかではなく、「どこまで、どの条件で応じるか」を、DDの結果を踏まえて調整するものと考えるのが現実的です。

    Q. 補償の期間や上限には、決まった相場がありますか?

    法律で決まった基準はなく、取引の規模や会社の状況、DDの範囲によって交渉で決まります。事項の性質ごとに期間を分けたり、上限を譲渡代金の一定割合としたりする例があります。期間や上限の定めがない契約は売主の負担が過大になるおそれがあるため、必ず定めを置くよう求めましょう。

    Q. DDで買い手が見落とした問題も、売主が責任を負うのですか?

    契約の定め方によります。表明保証の対象となる事項について事実と違っていれば、買い手が見落としていたかどうかにかかわらず、補償を求められる可能性があります。売主の側から問題を開示し、表明保証の例外として契約に記載しておくことが、最も確実な備えになります。

    Q. 表明保証保険は、売主と買い手のどちらが加入するものですか?

    取引によって異なり、保険料の負担も交渉で決まります。中小M&Aガイドライン(第3版)の用語集でも、売主用と買主用の表明保証保険があると説明されており、購入にあたっては一般にDDの結果をまとめた報告書などを保険会社に提出し、引受審査を受ける必要があるとされています。いずれの場合も、保険で補われる範囲と、売主が直接負う責任の範囲を契約上はっきりさせておくことが大切です。

    Q. 補償金を支払った場合、売却時に納めた税金は戻りますか?

    支払いの性質や契約の定め方によって扱いが異なりうるため、一律には言えません。譲渡価額の調整として整理できるかどうかが論点になりますが、更正の請求が認められない可能性も指摘されています。補償条項を設ける段階で、税理士に確認しておくことをおすすめします。

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    • M&A:会社売却の方針・取引条件・税引後の受取額・売却後の資産管理を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『中小企業M&AのFA業務マニュアル』渡部潔 著、中央経済社、2025年、P.275-285
    • 『企業買収の実務プロセス』木俣貴光 著、中央経済社、2010年、P.249-253、P.261-267
    • 『新版 サクサクわかる!M&Aの税務』佐藤信祐 著、清文社、2024年、P.44-45
  • 個人事業を第三者に譲る方法|譲渡する資産・契約・のれんの税金と、譲った後の手続き

    個人事業を第三者に譲る方法|譲渡する資産・契約・のれんの税金と、譲った後の手続き

    長年営んできた店や事務所を、身内ではない第三者に引き継いでもらう。後継者のいない個人事業主にとって、これは廃業に代わる現実的な選択肢です。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、個人事業主は事業を譲り渡す側に含まれるものとして扱われています。

    ただし、個人事業には会社の「株式」がありません。会社であれば株式を売ることで事業をまるごと渡せますが、個人事業では設備、在庫、契約、顧客との関係、従業員、屋号といった事業の構成要素を一つひとつ相手に移すことになります。そのため、何を譲るかの整理、契約や許認可の引継ぎ、譲渡代金の税金、譲った後の廃業手続きまでを、あらかじめ見通しておくことが大切です。

    この記事では、個人事業を第三者に譲るときの全体像を、引き継ぐもの・税金・手続きの順に整理します。

    個人事業の譲渡とは

    個人事業の譲渡は、事業主個人が、事業に使っている資産や契約上の立場などをまとめて相手に売る取引です。会社が事業を売る「事業譲渡」と似ていますが、売り手が個人であり、代金も事業主個人が受け取る点が異なります。

    会社の売却では株式譲渡が選ばれることが多く、その場合は会社と従業員・取引先との関係は原則としてそのまま続きます。株式譲渡と事業譲渡の違いは関連記事「株式譲渡と事業譲渡の比較ポイント」で解説していますが、個人事業の譲渡では選択肢が事業の譲渡に限られるため、「何を、どの条件で移すか」を個別に決める作業が中心になります。

    譲り受ける側は、同業の個人事業主、近隣で事業を広げたい会社、独立を目指す従業員などさまざまです。譲り受け側が会社であれば、個人事業を会社が引き継ぐ形になります。

    何を譲るのか:譲渡対象を整理する

    最初に、事業を構成するものを洗い出し、譲るもの・残すもの・相手と別に契約するものに分けます。AEGISでは、次のような一覧で整理することをおすすめしています。

    区分具体例移し方・確認したいこと
    設備・備品内装、厨房機器、機械、車両、パソコン時価の目安を確認し、個別に譲渡価額を決める
    在庫商品、材料譲渡日時点で棚卸しを行い、価額を確定する
    不動産自己所有の店舗・事務所・土地売却するか、所有したまま貸すかを選ぶ
    賃借物件テナントとして借りている店舗貸主の承諾、契約の結び直し、敷金の扱い
    取引契約仕入先、販売先、外注先との契約相手方の同意を得て契約上の地位を移す、または結び直す
    顧客との関係顧客名簿、会員、予約個人情報の取扱いに注意し、引継ぎの方法を決める
    従業員雇用している従業員本人の同意を得て新しい雇用主と契約する
    屋号・ブランド店名、ロゴ、ウェブサイト、電話番号使用を認めるか、商標登録の有無、債務との関係
    許認可飲食店営業、各種の登録・許可多くは譲り受け側が新たに取得する必要がある
    のれん立地、顧客基盤、ノウハウ、信用個別資産の合計を超える対価として評価する

    ここで大切なのは、「残すもの」も意識的に決めることです。たとえば、店舗の土地建物を自分で所有している場合、建物ごと売る方法のほかに、所有したまま譲り受け側に貸し、賃料収入を得る方法もあります。売掛金や借入金は、譲渡の対象に含めず、事業主が自分で回収・返済する形をとることも多くあります。どこまでを譲渡対象にするかは、相手と個別に決めます。

    契約・許認可・従業員を引き継ぐときの注意

    個人事業の譲渡では、契約関係が自動的には移りません。相手方の協力が必要になる場面が多いため、スケジュールに余裕を持たせることが大切です。

    賃貸借契約

    テナントとして借りている店舗を譲り受け側が使い続ける場合、借主の立場を移すには原則として貸主の承諾が必要です(民法612条1項)。貸主によっては、新しい借主と契約を結び直し、敷金を一度返還して改めて差し入れてもらう扱いを求めることもあれば、敷金をそのまま引き継ぐ扱いを認めることもあります。どちらになるかで譲渡代金の計算も変わるため、早めに貸主の意向を確認しておきましょう。

    取引先・顧客

    仕入先や販売先との契約は、相手方の同意を得て契約上の地位を移すか、譲り受け側と新たに契約を結んでもらう必要があります。顧客名簿などのデータは譲渡の対象にできても、顧客が引き続き利用してくれるかどうかは別問題です。特に、事業主個人の技術や人柄に顧客がついている業種では、一定期間、前の事業主が一緒に顧客に紹介したり、業務を手伝ったりする引継期間を設けることが、事業価値を保つうえで重要になります。

    許認可

    事業に必要な許可や登録の多くは、事業主個人に与えられたものです。事業を譲っても許認可が自動的に移るとは限らず、譲り受け側が改めて申請する必要がある場合が多くあります。取得までに時間がかかる許認可がある業種では、譲渡日を許認可の取得時期に合わせて決める必要があります。業種ごとの扱いは、所管の行政機関で確認してください。

    従業員

    従業員の雇用契約を譲り受け側に移すには、従業員一人ひとりの同意が必要です。勤務条件が変わる可能性もあるため、譲渡の方針が固まった段階で、丁寧に説明する場を設けることが望まれます。

    屋号

    店名などの屋号を譲り受け側が引き続き使う場合、商法の規定により、前の事業主の事業上の債務について譲り受け側も責任を負うことがあるとされています(商法17条1項。譲り受け側が会社の場合は会社法24条2項・22条)。譲渡後遅滞なく、譲り受け側が債務を引き受けない旨を登記するか、両者から債権者にその旨を通知した場合には、この責任は生じないとされています(商法17条2項)。そのため、屋号を引き継ぐかどうか、引き継ぐ場合に債務をどう扱うかは、譲り受け側にとっても重要な確認事項です。

    譲渡代金の税金:資産ごとに所得の種類が変わる

    個人事業の譲渡で受け取る代金は、まとめて一つの所得になるのではなく、譲った資産の種類ごとに所得の区分が変わります。主な区分は次のとおりです。

    譲った資産所得の区分ポイント
    商品・材料などの在庫(棚卸資産)事業所得通常の売上と同じく事業所得になる
    機械・備品・車両などの事業用資産譲渡所得(総合課税)一部の少額の減価償却資産などは事業所得になる
    土地・建物譲渡所得(分離課税)他の所得と分けて税額を計算する
    のれん(営業権)譲渡所得(総合課税)とされることが多いが、事業所得・雑所得とされる場合もある権利としての実体があるかどうかが問われる

    国税庁によれば、譲渡所得の対象となる資産には土地、借地権、建物、機械器具などが含まれ、事業者の棚卸資産の譲渡は事業所得または雑所得となります。土地・建物等は分離課税、それ以外の資産は総合課税とされています。

    総合課税の譲渡所得は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引き、さらに特別控除(その年の短期・長期の譲渡益の合計に対して50万円)を差し引いて計算します。所有期間が5年を超える資産の譲渡(長期譲渡所得)は、その2分の1が課税の対象となり、他の所得と合算して税額を計算します。

    のれんの扱いは個別に確認が必要

    のれん(営業権)の対価は、一般には総合課税の譲渡所得として扱われることが多いとされています(国税庁の質疑応答事例でも、新聞販売権の譲渡に伴う代償金を営業権の譲渡対価として譲渡所得の収入金額とする取扱いが示されています)。ただし、事業主個人の技能や顧客との信頼関係に強く依存する事業では、譲り渡せる「資産」としての営業権が存在するとは言えないとして、譲渡所得ではなく雑所得と判断された裁決例もあります。士業の業務を承継させた際の対価について、こうした判断が示された例が知られています。国税庁の個別通達でも、税理士が業務を廃止して得意先を他の税理士に引き継いだ対価は、得意先のあっせんの対価として雑所得として取り扱うこととされています(昭和42年7月27日付)。

    のれんの対価がどの所得になるかで、税負担は大きく変わります。のれんとして受け取る金額の根拠(何に対する対価なのか)を契約書で明確にし、引継期間の業務の対価と区別しておくことが大切です。具体的な扱いは事案ごとに異なるため、顧問税理士と事前に確認することをおすすめします。

    消費税

    消費税の課税事業者が事業用の資産を売却した場合、その売却は消費税の課税対象になります。設備やのれんの譲渡には原則として消費税がかかり、土地の譲渡は非課税です。そのため、譲渡代金を資産ごとに区分しておくことは、消費税の計算のうえでも欠かせません。

    譲った後の手続き

    事業を譲った後は、事業主として次のような手続きが必要になります。

    • 個人事業の廃業等届出書:事業を廃止した場合、その年分の確定申告期限までに、納税地の税務署に提出します(所得税法229条、国税庁 タックスアンサーNo.2090)。
    • 消費税・青色申告に関する届出:消費税の課税事業者であった場合や、青色申告をしていた場合は、関連する届出の要否を確認します。
    • 最後の確定申告:廃業した年は、事業所得と、事業用資産の譲渡による譲渡所得などをあわせて申告します。廃業後に生じる費用の扱いにも注意が必要です。
    • 従業員・社会保険・各種契約の整理:雇用保険・社会保険の手続き、電話・リース・保険などの契約の解約や名義変更を行います。

    譲渡代金の受取りと廃業の時期が年をまたぐ場合などは、どの年の所得になるかも確認しておきましょう。

    実務上注意したいポイント

    • 譲渡代金の内訳を契約書で明確にする:設備、在庫、のれん、引継期間の業務の対価などを区分しておくと、所得区分や消費税の判断が明確になり、後の説明もしやすくなります。
    • 帳簿と資産の一覧を整える:設備の取得時期・取得価額・減価償却の状況が分からないと、譲渡所得の計算も買い手の判断も難しくなります。
    • 引継期間の条件を決める:前の事業主が残る期間、役割、報酬、競業を避ける範囲と期間を、契約で合意しておきます。
    • 相談先を早めに確保する:国が設置する事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的な相談窓口や、M&Aの支援機関、税理士を組み合わせて相談すると、相手探しと税務・契約の確認を並行して進められます。

    AEGISの視点

    個人事業の譲渡は、会社の売却に比べて規模が小さく、手続きも簡単だと思われがちです。しかしAEGISは、個人事業の譲渡こそ「事業」と「事業主個人の財産・生活」が切り離されていないことを前提に設計すべき取引だと考えています。

    個人事業では、店舗の不動産、事業用の預金、事業の借入れ、家族の働き方が、事業主個人の財産や暮らしと一体になっています。どの資産を譲り、どれを残すかは、譲渡代金の額だけでなく、引退後の収入や、残る不動産を将来どう承継するかという相続の論点とも直結します。たとえば店舗を売らずに貸す選択は、毎年の賃料収入をもたらす一方で、不動産の管理と承継を引き受けることを意味します。

    また、事業の価値の多くが事業主個人に結びついている場合、価値を引き継いでもらうには時間が必要です。後継者となる親族がいる場合には個人版事業承継税制という選択肢もあります(関連記事「個人版事業承継税制で個人事業を引き継ぐ」)。第三者への譲渡と親族への承継、さらに廃業を、早い段階で並べて比べておくことが、最も納得のいく判断につながるとAEGISは考えています。万が一に備えた遺言の準備については関連記事「個人事業主が遺言で備えること」、会社売却の準備の全体像は「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

    事業用資産の譲渡や、残す不動産の税務・承継に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 個人事業には株式がないため、第三者に譲る場合は、設備・在庫・契約・顧客との関係・従業員・屋号などを個別に移す「事業の譲渡」になります。
    • 賃貸借契約や取引契約は相手方の承諾・同意が必要で、許認可は譲り受け側が新たに取得する必要がある場合が多くあります。
    • 譲渡代金は、在庫は事業所得、事業用資産は総合課税の譲渡所得、土地・建物は分離課税の譲渡所得というように、資産ごとに所得区分が変わります。
    • のれん(営業権)の対価は、事業の実態によって所得区分の判断が分かれることがあるため、契約で対価の内容を明確にし、事前に確認することが大切です。
    • 事業を廃止した場合は、その年分の確定申告期限までに廃業等届出書を提出し、関連する届出と最後の確定申告を行います。

    具体的な税務上の取扱いや手続きは、事業の内容や譲渡の条件などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 個人事業でもM&Aの支援を受けられますか?

    受けられます。中小企業庁の中小M&Aガイドラインでも、個人事業主は事業を譲り渡す側に含まれています。小規模な事業の場合は、公的な相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センターや、インターネット上のマッチングの場を利用する方法もあります。手数料や支援の範囲は事前に確認しましょう。

    Q. のれん代として受け取った金額には、どのくらい税金がかかりますか?

    総合課税の譲渡所得とされる場合、特別控除(年間50万円)を差し引いた後、所有期間が5年を超えるものは2分の1が課税対象となり、他の所得と合算して累進税率で計算します。ただし、事業主個人への依存度が高い事業では、雑所得と判断された例もあります。税額は他の所得の状況によっても変わるため、個別に試算することが大切です。

    Q. 店舗の建物と土地は売らなければいけませんか?

    必ずしも売る必要はありません。所有したまま譲り受け側に貸す方法もあります。売却すれば一度にまとまった資金を得られ、貸せば賃料収入が続く一方で、管理や将来の相続の論点が残ります。引退後の生活資金と、不動産を誰に引き継ぐかを合わせて検討しましょう。

    Q. 事業を譲った後、廃業の届出はいつまでに出せばよいですか?

    国税庁の案内では、個人事業の廃業等届出書は、事業の廃止等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに、納税地の税務署に提出することとされています。消費税や青色申告に関する届出が必要になる場合もあるため、あわせて確認しましょう。

    Q. 屋号をそのまま使ってもらっても問題はありませんか?

    屋号を引き継ぐことはできますが、譲り受け側が屋号を続けて使う場合、商法の規定により前の事業主の事業上の債務について責任を負うことがあるとされています(商法17条。債務を引き受けない旨の登記や債権者への通知をすれば責任は生じません)。譲り受け側との間で債務の扱いを明確にし、必要な手続きを専門家と確認しておくことが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『実務家のための「基本書&ハンドブック」 要点 譲渡所得【第一編 総説・不動産譲渡の特例等関係】』塩野入文雄 著、法令出版、2020年、P.14-24
    • 『中小企業M&AのFA業務マニュアル』渡部潔 著、中央経済社、2025年、P.192-199
    • 『M&A・組織再編成の税務詳解Q&A』佐藤信祐・松村有紀子・後藤柾哉 著、中央経済社、2020年、Q14-2

  • 会社分割で事業を切り分けて引き継ぐ|分社型・分割型の違い、手続、適格要件と課税、分割後の株価まで

    会社分割で事業を切り分けて引き継ぐ|分社型・分割型の違い、手続、適格要件と課税、分割後の株価まで

    会社分割とは、会社が営む事業に関する権利義務の全部または一部を、他の会社(既存の会社または新しく設立する会社)に包括的に引き継がせる、会社法上の手続です。

    複数の事業を持つ会社では、「この事業は長男に、あの事業は次男に」「本業は買い手に譲り、不動産は家族に残す」といった形で、事業を切り分けて引き継ぎたいという場面があります。会社分割は、こうした切り分けを、契約や従業員を個別に移し替えることなく行える点に特徴があります。

    結論からいえば、会社分割は「グループ内での切り分け」や「親族への承継」では税制適格になりやすく、「切り分けた後に第三者へ売る」場面では非適格になりやすいという性質があります。どの順番で、どの形の分割を使うかによって、税負担も株価も大きく変わります。この記事では、その判断の材料を整理します。

    会社分割の4つの形

    会社分割は、受け皿となる会社が既存か新設か、分割の対価となる株式を誰が持つかによって、次の4つに分けられます。

    • 吸収分割/新設分割:事業を既存の会社に引き継がせるのが吸収分割、分割により新しく設立する会社に引き継がせるのが新設分割です(会社法2条29号・30号)。
    • 分社型分割/分割型分割:対価の株式を分割した会社自身が持つのが分社型分割(子会社をつくる形)、対価の株式を分割した会社の株主に交付するのが分割型分割(兄弟会社をつくる形)です(法人税法2条12号の9・12号の10)。
    形分割後の関係主な使い道
    新設分社型分割元の会社の下に100%子会社ができる持株会社化、事業ごとの子会社化、子会社株式の売却
    新設分割型分割同じ株主が持つ兄弟会社ができる事業ごとに別々の後継者へ承継、不動産と事業の分離
    吸収分社型分割既存の会社へ事業を移し、その株式を元の会社が持つグループ内の事業の付け替え
    吸収分割型分割既存の会社へ事業を移し、その株式を株主が持つ兄弟会社間の事業の付け替え

    会社法上の手続

    会社分割の手続は、合併とほぼ同じ骨格を持っています。

    1. 分割契約の締結(吸収分割)または分割計画の作成(新設分割)
    2. 株主総会の特別決議による承認(会社法783条1項、804条1項、309条2項12号)。ただし、移す資産の帳簿価額が分割する会社の総資産額の5分の1以下の場合など、株主総会を省略できる簡易分割の定めがあります(会社法784条2項、805条)。
    3. 事前開示・事後開示
    4. 債権者保護手続:官報公告と知れている債権者への個別催告を行い、異議を述べる機会を与えます(会社法789条、799条、810条)。分社型分割では、分割後も分割した会社に請求できる債権者は対象外とされるため、債務を移さない場合などには手続が不要になることがあります。分割型分割では原則として必要です。
    5. 労働契約の承継手続:「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」に基づき、対象となる労働者への通知などを行います(同法2条)。会社分割では、個々の労働者の同意がなくても労働契約が承継されるため、その代わりに通知や異議申出の手続が定められています。
    6. 登記

    なお、分割する会社が、引き継がれない債務の債権者を害することを知って分割した場合、その債権者は承継した会社に対して債務の履行を請求できるとする規定もあります(会社法759条4項ほか)。財務状態の悪い会社で「良い事業だけを移す」ような分割には、法的な制約がある点に注意が必要です。

    税制適格要件と課税

    適格分割になれば簿価で移る

    法人税法上、会社分割は原則として資産・負債を時価で移転したものとして扱い、分割した会社で含み損益が課税されます(法人税法62条1項)。ただし、税制適格要件を満たす「適格分割」であれば、帳簿価額で移転したものとして扱われ、その時点では課税されません。

    適格要件は、分割前後の資本関係によって3つの類型があります(法人税法2条12号の11、法人税法施行令4条の3)。

    類型主な要件
    完全支配関係(100%)のある会社間対価として株式以外の資産を交付しないこと、分割型分割では株式を持株割合に応じて交付すること、分割後も完全支配関係が続く見込みであること
    支配関係(50%超)のある会社間上記に加え、分割事業の主要な資産・負債の移転、分割事業の従業者のおおむね80%以上の引継ぎ、分割事業の継続の見込み
    共同で事業を行うための分割上記に加え、事業関連性、事業規模または特定役員の引継ぎ、株式の継続保有などの要件

    オーナーの株主構成で判定する場合、オーナー個人と親族の持分を合わせて完全支配関係・支配関係を判断します。

    「分割後に売る」と非適格になりやすい

    適格要件には「分割後も関係が続く見込み」が含まれます。そのため、分割した直後に、切り出した会社の株式を第三者に売却することが予定されている場合は、完全支配関係や支配関係の継続が見込まれず、非適格分割になりやすくなります。非適格分割では、分割した会社で移転資産の含み益に課税され、分割型分割の場合には株主にみなし配当が生じることもあります(法人税法24条1項2号)。

    M&Aで一部の事業だけを渡す場合は、「切り出した会社を売る」のか「残した会社を売る」のか、あるいは分割ではなく事業譲渡にするのかで、税負担が大きく変わります。株式譲渡と事業譲渡の比較は、関連記事「株式譲渡と事業譲渡の比較ポイント」で解説しています。

    流通税

    不動産を移す分割では、登録免許税がかかります。不動産取得税については、分割事業の主要な資産・負債の移転、事業の継続、従業者のおおむね80%以上の引継ぎなどの要件を満たす分割による取得は非課税とされています(地方税法73条の7第2号、同法施行令37条の14)。要件を満たさない場合は課税されるため、不動産の多い会社では事前の確認が欠かせません。

    許認可・契約の引継ぎ

    会社分割は包括承継のため、取引先との契約や雇用契約は原則として承継会社に引き継がれます。ただし、契約に「会社分割などの組織再編があれば相手方が解除できる」といった条項(いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項など)がある場合は、相手方との調整が必要です。

    許認可は、業法ごとに扱いが異なります。

    • 分割により当然に承継されるもの
    • 事前に行政庁の認可などを受けることで承継できるもの(たとえば建設業法17条の2は、分割により建設業の全部を承継させる場合の事前認可の制度を定めています)
    • 承継できず、新たな取得が必要なもの

    許認可が承継できない事業を切り出すと、新しい会社で許認可を取り直すまで事業ができないことがあります。どの事業を「移す側」にし、どの事業を「残す側」にするかは、許認可の扱いから逆算して決めることが現実的です。

    分割後の株価への影響

    会社分割の後は、元の会社と新しい会社の株式をそれぞれ評価することになります。相続税・贈与税の評価では、次の点に注意が必要です。

    • 新設会社は開業後3年未満の会社として、原則として純資産価額方式で評価されます(財産評価基本通達189(4))。
    • 不動産だけを残した会社は、総資産に占める土地等の割合が高くなり、土地保有特定会社に該当する可能性があります(同通達189(3))。
    • 分社型分割で子会社株式を持つことになった会社は、総資産に占める株式等の割合によって株式等保有特定会社に該当する可能性があります(同通達189(2))。

    分割は株価を「下げる」ための手段ではなく、事業ごとの価値を「見えるようにする」手続だと考えた方が、判断を誤りにくくなります。

    実務上注意したいポイント

    • 分割の目的と、分割後の株主構成を先に決める:誰がどの会社の株式を持つのかが決まらないと、分社型か分割型かも決まりません。
    • スケジュールに余裕を持つ:債権者保護手続には1か月以上の異議申述期間が必要です。官報掲載や労働者への通知の期限から逆算します。
    • 不動産の扱いを決める:会社分割で事業と不動産を分ける場合、分割後に事業会社が不動産会社から借りる条件(賃料・期間)も同時に決めておきます。会社売却前のオーナー個人所有の不動産の整理は「会社売却の前に整理したいオーナー個人所有の事業用不動産」も参考になります。

    • 金融機関・取引先への説明:借入れや保証をどちらの会社に残すかは、債権者保護手続とあわせて金融機関と調整が必要です。

    AEGISの視点

    会社分割は、事業を「切る」手続であると同時に、家族や関係者との関係を「分ける」手続でもあります。

    AEGISは、会社分割を検討するとき、税制適格になるかどうかより先に、「分けた後のそれぞれの会社が、単独で続いていけるか」を確かめることが大切だと考えています。不動産だけを持つ会社は安定しているように見えても、修繕や借入れの返済を誰が担うのかが曖昧なままでは続きません。事業だけを持つ会社は、賃料負担が増えて利益が圧迫されることもあります。

    また、兄弟それぞれに会社を渡す分割型分割は、相続のときの公平性の議論を先取りするものでもあります。分割の前に、各社の価値と将来の見通しを家族で共有しておくことが、後の争いを防ぐ一番の準備になります。売却を視野に入れるなら、いつから何を準備すべきかの全体像は親記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で、グループ全体の整理の順番は「グループ会社を合併や株式交換で整理する」で解説しています。

    会社分割と承継・評価の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 会社分割は、事業に関する権利義務を包括的に他の会社へ引き継がせる手続で、分社型・分割型、吸収・新設の組合せで4つの形があります。
    • 手続には、株主総会の特別決議、債権者保護手続、労働契約の承継手続、登記などが必要です。
    • 適格分割なら簿価で移転しますが、分割後に第三者へ売却する予定があると、関係継続の見込みがなく非適格になりやすくなります。
    • 許認可は業法ごとに承継の可否が異なり、どちらの会社に事業を残すかの判断材料になります。
    • 分割後は各社の評価区分(開業後3年未満、土地保有特定会社、株式等保有特定会社)が変わり得ます。具体的な適否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 会社分割と事業譲渡は何が違いますか?

    会社分割は権利義務を包括的に引き継ぐため、契約や雇用を個別に移し替える必要が原則としてありません。事業譲渡は個々の資産・契約を選んで移すため、取引先や従業員の個別の同意が必要になります。一方、事業譲渡は簿外債務を引き継ぎにくいという面があり、目的によって使い分けます。

    Q. 兄弟それぞれに別の事業を承継させるには、どの分割を使いますか?

    一般的には新設分割型分割で兄弟会社をつくり、その後、各会社の株式をそれぞれの後継者に移す方法が検討されます。分割の時点で株主が持株割合に応じて株式を受け取り、その後の贈与や売買で整理します。分割後の株式の移転の予定が適格要件に影響することがあるため、順番の設計が重要です。

    Q. 分割で切り出した会社の株式を売却するとどうなりますか?

    分割後に支配関係が続かない見込みとなるため、非適格分割となる可能性が高くなります。その場合、分割した会社で移転資産の含み益に課税されます。売却を予定している場合は、事業譲渡や、残す側の会社を売る設計なども含めて比較します。

    Q. 会社分割で従業員を移すには、本人の同意が必要ですか?

    会社分割では、分割契約・分割計画に定めた労働契約は、原則として本人の同意なく承継会社に引き継がれます。その代わり、労働契約承継法に基づく通知や、一定の場合の異議申出の手続が定められています。

    Q. 会社分割の手続には、どのくらいの期間がかかりますか?

    債権者保護手続には1か月以上の異議申述期間が必要で、準備や官報掲載の期間を含めると数か月を見込むのが一般的です。許認可の承継に行政庁の手続が必要な場合は、さらに期間を要することがあります。

    関連するAEGISのソリューション

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    • M&A:会社売却の方針、取引条件、税引後の受取額、売却後の資産管理までを検討します。
    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどを比較しながら承継計画を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『これだけ!組織再編&事業承継税制(第3版)』佐藤信祐・長谷川太郎 著、中央経済社、2022年、第1編第2章(P.75-112)
    • 『中小企業M&AのFA業務マニュアル』渡部潔 著、中央経済社、2025年、第1部第5章(P.59-73)
  • 親族内承継・従業員承継・M&Aの比較|自社に合う承継方法を選ぶための判断基準

    親族内承継・従業員承継・M&Aの比較|自社に合う承継方法を選ぶための判断基準

    事業承継の方法は、大きく親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎ(M&A)の3つに分けられます。

    「子どもが継がないなら会社を売るしかない」「従業員に継がせたいが、株式を買い取るお金がない」——承継方法を考えるとき、多くのオーナーはこうした二者択一の発想に陥りがちです。しかし実際には、それぞれの方法に異なる強みと課題があり、組み合わせて設計できる余地もあります。

    結論から言えば、承継方法は「誰が会社を率いるか(経営)」と「誰が会社を持つか(所有)」を分けて考えたうえで、自社の状況に合う組み合わせを選ぶことが大切です。この記事では、3つの方法の特徴を比較し、選ぶための判断基準を整理します。

    3つの承継方法とは

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」では、事業承継の類型を次の3つに整理しています。

    承継方法引き継ぐ相手主な特徴
    親族内承継現経営者の子をはじめとした親族関係者に受け入れられやすく、早期に後継者を決めれば準備期間を長く取れる。相続や贈与により、所有と経営を一体で引き継ぎやすい
    従業員承継親族以外の役員・従業員能力のある人材を見極めて承継でき、社内で長く働いてきた人であれば経営方針の一貫性を保ちやすい
    社外への引継ぎ(M&A)株式譲渡や事業譲渡などにより社外の第三者親族や社内に適任者がいなくても広く候補を求められ、現経営者は売却による対価を得られる

    ガイドラインでは、かつては親族内承継が中心だったものの、近年は親族内承継の割合が減り、従業員承継やM&Aの割合が増える傾向にあることも示されています。ガイドラインが紹介する2015年の中小企業庁の調査では、在任期間の長い経営者層では9割以上が親族内承継だったのに対し、直近5年間では親族内承継の割合が約35%まで減少し、親族外承継が65%以上に達したとされています。親族に後継者がいることは、もはや前提ではなくなりつつあります。

    5つの観点で比較する

    3つの方法の違いを、オーナーの意思決定に関わる5つの観点で比較します。

    観点親族内承継従業員承継M&A
    後継者の確保候補が限られる。本人の意思と適性が前提候補は社内に限られる。経営者としての経験は別途必要候補を社外に広く求められる。相手が見つかるかは会社の魅力次第
    株式の移転と資金贈与や相続で移すことが多く、納税資金が論点後継者が株式を買い取る資金の調達が最大の課題になりやすい買い手が対価を支払う。オーナーは売却代金を得る
    家族への影響後継者以外の家族との公平性、遺留分が論点親族株主の理解が必要家族に残る財産は株式から金融資産に変わる
    経営者保証後継者が保証を引き継ぐことへの抵抗が課題になり得る保証を引き継ぐ負担が、後継者の決断を左右しやすい買い手の信用力などにより解除や移行が交渉される
    経営の継続性理念や関係者との関係を引き継ぎやすい方針の一貫性を保ちやすい経営方針が変わる可能性がある。従業員の処遇などを交渉で確認

    この表から分かるのは、どの方法にも「乗り越えるべき課題」があり、その課題の種類が異なるということです。親族内承継では家族と税金、従業員承継では資金と保証、M&Aでは相手探しと会社の磨き上げが、それぞれ中心的な論点になります。

    承継方法を選ぶための判断基準

    自社に合う方法を考えるときは、次の問いを順に確認していくと整理しやすくなります。

    1. 承継の目的は何か

    会社を家業として一族で継いでいきたいのか、事業と従業員の雇用が続くことを最優先にしたいのか、オーナー自身や家族の資産を確保したいのか。目的によって、適した方法は変わります。

    2. 経営を担える人は誰か

    親族に意思と適性のある人がいるか、社内に経営を任せられる役員・従業員がいるか。いない場合や、育成に時間が足りない場合は、社外への引継ぎが現実的な選択肢になります。後継者が決まっていない段階でもできる準備はあります(関連記事:後継者が決まる前にできる準備)。

    3. 株式を誰が持つか

    経営を担う人と株式を持つ人は、必ずしも同じでなくてもかまいません。たとえば、経営は従業員出身の後継者に任せ、株式は当面オーナー家が持ち続けるという形もあり得ます。ただしその場合は、経営者と株主の役割分担や、将来の株式の行き先を決めておく必要があります(関連記事:事業承継で経営権と株式をどう設計するか)。

    4. 株式の移転に必要な資金を誰が、どう用意するか

    親族内承継なら贈与税・相続税の納税資金、従業員承継なら後継者の買取資金が論点です。従業員承継では、後継者が出資する会社を設立し、金融機関の融資や投資ファンドの出資を組み合わせて株式を取得する方法(いわゆるMBO)が検討されることもあります。この場合、投資ファンドが株主となるため、経営の自由度や将来の株式の買戻しについて事前に確認しておく必要があります。

    5. どれだけの時間が残されているか

    後継者の育成には年単位の時間がかかります。M&Aでも、会社の価値を高め、相手を探し、条件を交渉するには十分な時間的余裕が必要とされています。残された時間は、選べる方法の幅を左右します。

    M&Aを選ぶ場合に知っておきたいこと

    社外への引継ぎを検討する場合、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)が参考になります。このガイドラインは、後継者不在の中小企業が第三者に事業を引き継ぐことを念頭に、経営者向けと支援機関向けの内容で構成されています。

    ガイドラインでは、中小M&Aの一般的な流れとして、意思決定、仲介者・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)の選定、企業価値の評価(バリュエーション)、相手探し(マッチング)、交渉、基本合意、デューデリジェンス(買い手による調査)、最終契約、クロージング、M&A後の取組みといった段階が示されています。

    また、仲介者やFAの手数料の考え方、経営者保証を買い手側にどう引き継ぐか、あるいは解除するかといった、売り手の経営者が事前に理解しておきたい論点も整理されています。M&Aは一度進めると後戻りが難しい手続きであるため、支援機関に依頼する前に、こうした全体像を把握しておくことが望まれます。

    売却を視野に入れた準備をいつから、何から始めるかについては、関連記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 一つの方法に早く決めすぎない:親族への承継を前提に準備しつつ、社外への引継ぎの可能性も残しておくなど、複数の選択肢を並行して検討する期間があってもかまいません。
    • 会社の「磨き上げ」はどの方法でも役立つ:業務の属人性を減らし、財務を整え、会社と個人の資産の境界を明確にすることは、親族・従業員・第三者のいずれに引き継ぐ場合でも、承継のしやすさを高めます。
    • 経営者保証を早めに確認する:保証の扱いは、どの方法でも後継者や買い手の判断に影響します。借入れと保証の状況を早い段階で整理しておきます。
    • 家族の理解を先に得る:M&Aや従業員承継を選ぶ場合でも、株式を持つ家族や、将来の相続人の理解は欠かせません。

    AEGISの視点

    承継方法の比較は、「誰に継がせるか」という問いとして語られることが多いテーマです。しかしAEGISは、承継方法の選択を「経営・所有・財産を、それぞれ誰に、どの形で引き継ぐかの組み合わせを選ぶこと」と捉えています。

    経営は社内の後継者に、株式は家族に、会社が使う不動産は資産管理の主体に——というように、引き継ぐものを分けて考えると、3つの方法の間にも多くの中間形が見えてきます。また、M&Aによって株式が売却代金という金融資産に変わる場合、その資産を家族の将来や社会への還元にどう活かすかという、新しい問いが始まります。

    どの方法を選ぶにしても、大切なのは、オーナー自身が「事業を通じて何を残したいのか」を言葉にし、それに照らして方法を選ぶことです。税金や価格は重要な判断材料ですが、それだけで方法を決めると、事業や家族にとって大切なものを見落とすことがあるとAEGISは考えています。

    事業承継をどこから始めればよいか、全体像は関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で解説しています。

    承継に関わる株式評価や資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 事業承継の方法は、親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎ(M&A)の3つに大きく分けられます。
    • 近年は親族内承継の割合が減り、従業員承継やM&Aが増える傾向にあります。
    • 親族内承継は家族と税金、従業員承継は資金と保証、M&Aは相手探しと会社の磨き上げが、それぞれ中心的な課題になります。
    • 承継の目的、経営を担える人、株式を持つ人、資金、残された時間の5つの問いで整理すると、自社に合う方法が見えやすくなります。
    • 経営と所有を分けて考えると、3つの方法の中間的な組み合わせも選択肢になります。
    • 具体的な方法の選択は、会社と家族の個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 親族に後継者候補がいる場合は、親族内承継を選ぶべきですか?

    必ずしもそうとは限りません。候補者本人の意思と適性、会社の将来性、家族の意向などを確認したうえで判断することが大切です。親族内承継を前提にしつつも、他の方法と比較しておくことで、より納得感のある選択ができます。

    Q. 従業員に継がせたいのですが、株式を買い取る資金がないと言われました。どうすればよいですか?

    後継者が出資する会社を通じて、金融機関の融資や投資ファンドの出資を組み合わせて株式を取得する方法などが検討されます。また、経営は従業員に任せ、株式は当面オーナー家が持ち続けるという形も考えられます。いずれも、会社の収益力や将来の株式の行き先を含めた設計が必要です。

    Q. M&Aで会社を売ると、従業員はどうなりますか?

    雇用の継続や処遇は、買い手との交渉で決まる事項です。売り手のオーナーとしては、従業員の雇用や処遇について希望する条件を早い段階で整理し、交渉の中で確認していくことが重要です。

    Q. M&Aを検討するなら、まず何をすればよいですか?

    中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」で手続きの全体像と、仲介者・FAの手数料や経営者保証などの論点を把握しておくことが第一歩になります。そのうえで、自社の強みや課題、会社と個人の資産の関係を整理しておくと、支援機関との相談が具体的になります。

    Q. 承継方法は途中で変更できますか?

    準備の段階であれば、状況の変化に応じて見直すことは可能です。ただし、後継者の育成や株式の移転、M&Aの交渉などは、進むほど後戻りが難しくなります。方針を変える可能性がある場合は、早めに関係者と共有しておくことが望まれます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 繰越欠損金がある会社の売買|株主が変わった後に使えるか、合併で引き継げるか、価格にどう反映するか

    繰越欠損金がある会社の売買|株主が変わった後に使えるか、合併で引き継げるか、価格にどう反映するか

    結論からお伝えすると、株式譲渡で会社を買った場合、対象会社の繰越欠損金は原則としてそのまま対象会社に残り、買収後も使うことができます。株主が変わったこと自体で、欠損金が消えるわけではありません。

    ただし、使えなくなる場面が三つあります。

    一つ目は、50%超の株式を取得した後5年以内に、旧事業の廃止と大規模な資金の受入れなど一定の事由が生じたとき(いわゆる「欠損等法人」の制限)。

    二つ目は、買収後に合併などの組織再編を行い、欠損金を他の会社へ移そうとするとき。

    三つ目は、買い手のグループに入ったことで「中小法人等」に当たらなくなり、1年に控除できる金額が小さくなるときです。

    この記事では、繰越欠損金がある会社を売る側・買う側の双方が押さえておきたい仕組みと、価格への反映の考え方を整理します。

    繰越欠損金とは

    繰越欠損金とは、過去の事業年度に生じた税務上の赤字(欠損金額)のうち、まだ使い切っていない部分を、将来の黒字(所得)と相殺するために繰り越しているものです。

    法人税法では、青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額を、その後の各事業年度に繰り越して所得から控除できるとされています(法人税法57条)。主なルールは次のとおりです。

    • 繰越期間:各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度の欠損金額が対象です(平成30年4月1日前に開始した事業年度に生じた欠損金額は9年)。
    • 控除の順序:古い事業年度に生じたものから順に控除します。
    • 控除の上限:中小法人等は、その年の所得の金額の全額まで控除できます。中小法人等以外の法人は、原則として所得の金額の50%が上限です。
    • 申告の要件:欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出していることが必要です。

    ここでいう中小法人等には、資本金1億円以下の普通法人などが含まれますが、資本金5億円以上の法人などの「大法人」に発行済株式の全部を保有されている法人は除かれます(国税庁 タックスアンサーNo.5762)。この点は、後で述べる「大企業グループへの売却」で意味を持ちます。

    株式譲渡なら欠損金は会社に残る

    会社の売買には、大きく分けて株式譲渡と事業譲渡があります。両者の違いは、関連記事「株式譲渡と事業譲渡の比較ポイント」でも整理しています。

    繰越欠損金の観点から見ると、違いは明確です。

    取引の形繰越欠損金はどこに残るか買い手から見た意味売り手から見た意味
    株式譲渡対象会社にそのまま残る将来の所得と相殺できる可能性がある。ただし5年間は欠損等法人の制限に注意欠損金の価値を株価の交渉材料にできる余地がある
    事業譲渡事業を売った会社(売り手側の会社)に残る欠損金は引き継げない事業の譲渡益と自社の欠損金を相殺できる場合がある
    合併などの組織再編要件を満たす場合に限り、合併法人等へ引き継げる支配関係が生じてから5年以内は引継ぎ・使用に制限がかかることがある再編の方法によって評価が変わる

    ※AEGISが法人税法57条・57条の2と国税庁の情報をもとに整理。実際の適用可否は個別事情により異なります。

    株式譲渡では、会社という「器」はそのままで、株主だけが入れ替わります。そのため、対象会社が過去に積み上げた欠損金も、原則として対象会社にとどまります。一方、事業譲渡では、事業に属する資産や契約が買い手に移るだけで、欠損金は移りません。欠損金を持つ売り手側の会社は、事業の譲渡益と自社の欠損金を相殺できる場合がある、という形で関わることになります。

    株主が変わった後の制限:「欠損等法人」とは

    制度の趣旨

    株式譲渡で欠損金が残るのであれば、「欠損金を多く持つ休眠会社を安く買い、そこへ利益の出る事業を入れて税金を減らす」という行為も考えられます。これを防ぐために設けられているのが、特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)です。

    制限がかかる流れ

    制限は、次の三つがそろったときにかかります。

    1. 特定支配関係が生じたこと:他の者が、対象会社の発行済株式の50%を超える株式を直接または間接に保有する関係などが生じたこと
    2. その時点で欠損金や評価損資産を持っていること:特定支配関係が生じた日(支配日)の属する事業年度において、それより前の事業年度の欠損金額、または含み損のある一定の資産(評価損資産)を有していること。この法人が「欠損等法人」です
    3. 支配日以後5年以内に、一定の事由に該当したこと

    3の「一定の事由」として、法人税法57条の2第1項には次のようなものが掲げられています。

    • 支配日の直前に事業を営んでいなかった会社が、支配日以後に事業を開始すること
    • 支配日の直前に営んでいた事業(旧事業)のすべてを廃止する、または廃止が見込まれる場合に、旧事業の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れや出資の受入れを行うこと
    • 買い手側が対象会社に対する一定の債権を第三者から取得している場合に、旧事業の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れ等を行うこと
    • 上記の場合に、対象会社が被合併法人となる適格合併を行うなどすること
    • 支配日の直前の社長などの役員がすべて退任し、かつ、旧事業に従事していた使用人のおおむね20%以上がいなくなり、旧使用人が従事しない事業の事業規模が旧事業のおおむね5倍を超えること

    これらに該当すると、その該当日の属する事業年度(適用事業年度)以後は、それより前に生じた欠損金を繰越控除できなくなります。あわせて、評価損資産を売却等したときの損失についても損金算入が制限される規定があります(法人税法60条の3)。

    通常の事業承継型M&Aでは「該当しないこと」を確認する

    後継者不在の会社を買い、従業員や取引先とともに事業を続けるという一般的な事業承継型のM&Aでは、旧事業を続けることが前提ですから、通常はこれらの事由に当たりにくいと考えられます。ただし、注意したいのは次のような計画です。

    • 買収後に既存事業を縮小・撤退し、買い手側の別事業を対象会社に移して大きく育てる計画
    • 旧経営陣が全員退任し、従業員の配置も大きく変える計画
    • 金融機関などから対象会社向けの債権を割安で買い取ったうえで、大規模な資金を入れる計画

    いずれも経営上は合理的な判断であることが少なくありません。だからこそ、買収後5年間の事業計画が欠損等法人の事由に近づいていないかを、税務の側から事前に点検しておく必要があります。

    合併など組織再編で引き継ぐときの制限

    買収後に対象会社を買い手の会社と合併させ、一つの会社にまとめたいと考えることもあります。グループ会社を合併や株式交換で整理する際の全体像は、関連記事「グループ会社を合併や株式交換で整理する」で扱います。

    非適格合併では引き継げない

    被合併法人の繰越欠損金を合併法人が引き継げるのは、税制上の要件を満たす「適格合併」の場合に限られます(法人税法57条2項)。適格の要件を満たさない合併では、被合併法人の欠損金は引き継がれません。

    支配関係が生じて5年以内の適格合併にも制限がある

    適格合併であっても、合併の当事者間の支配関係(50%超の保有関係)が、合併事業年度開始の日の5年前の日などから継続していない場合には、被合併法人の欠損金のうち一定の部分を引き継げないとされています(法人税法57条3項)。また、合併法人側がもともと持っていた欠損金についても、同様の場合に使用が制限されることがあります(同条4項)。

    ただし、合併が「共同で事業を行うための合併」として政令で定める要件(いわゆるみなし共同事業要件)を満たす場合などは、この制限はかかりません。要件は事業の関連性や規模、役員の引継ぎなど複数にわたり、該当するかどうかの判定は個別に行う必要があります。

    つまり、「買ってすぐ合併」は、欠損金の観点からは慎重に検討すべき選択肢です。合併の時期を遅らせる、合併ではなく子会社のまま運営する、といった選択肢と比べたうえで判断することになります。

    見落としやすい「控除限度」の変化

    欠損金そのものが残っていても、1年に控除できる金額が変わることがあります。

    先に述べたとおり、中小法人等は所得の全額まで欠損金を控除できますが、資本金5億円以上の大法人に発行済株式の全部を保有される法人は中小法人等から外れ、原則として所得の50%までしか控除できません。上場会社などの大企業グループが100%買収する場合、対象会社の資本金が1億円以下であっても、この影響を受けます。

    欠損金を何年で使い切れるかは、価格の前提に直結します。売り手が「欠損金はすべて使える」という前提で価格を考えていても、買い手の属性によってはその前提が崩れることがあります。

    欠損金は価格にどう反映されるか

    欠損金の「価値」は将来の所得次第

    欠損金は、将来の所得と相殺できて初めて税負担を軽くする効果を持ちます。所得が出なければ、繰越期間が過ぎて消えてしまいます。そのため、価格への反映を考えるときは、次の順で確認するのが基本です。

    1. 残高と発生年度:申告書の別表で、どの年度の欠損金がいくら残っているか
    2. 期限:古い欠損金から、いつ期限を迎えるか
    3. 発生原因:一時的な損失(資産の売却損など)によるものか、本業の継続的な赤字か
    4. 将来の所得見込み:買収後の事業計画で、いつ、どの程度の所得が見込めるか
    5. 制限の有無:欠損等法人の事由、組織再編の予定、控除限度の変化

    売り手・買い手それぞれの視点

    確認項目買い手が確認したいこと売り手が準備しておきたいこと
    欠損金の残高・期限申告書の別表と一致しているか、期限切れが近いものはないか年度別の発生・使用の推移を説明できる資料
    発生の原因本業の収益力に問題がないか赤字の原因と、すでに手当てした内容の説明
    過去の申告の適正さ税務調査で欠損金が減額されるリスクはないか過去の税務調査の結果、更正の有無
    買収後の計画欠損等法人の事由や組織再編の制限に当たらないか事業継続を前提とした引継ぎ計画
    控除の上限自社グループに入った後も中小法人等として扱われるか買い手の属性による前提の違いの理解

    ※AEGISが整理。欠損金の価値をどこまで価格に織り込むかは、交渉で決まる事柄です。

    買い手の立場からは、欠損金は「使える見込みがある範囲で、慎重に評価する」ものです。過去の申告に誤りがあれば欠損金が減額される可能性もあるため、買収前の調査で確認しておきたい項目の一つになります。買収前の調査全般については、親記事「会社を買う前に確認したいリスク」で整理しています。

    売り手の立場からは、欠損金を「会社の隠れた資産」として主張したくなるかもしれません。しかし、その価値は買い手の事業計画と属性に左右されるため、根拠のない上乗せは交渉を難しくします。むしろ、欠損金の内訳と発生原因を正確に説明できるように準備することが、信頼につながります。

    実務上注意したいポイント

    • 欠損金があっても、赤字の会社であることに変わりはない:欠損金は税負担を軽くする可能性があるだけで、事業の収益力を示すものではありません。
    • 株式取得の比率と時期を記録しておく:50%超の取得がいつ生じたかは、欠損等法人の判定でも、組織再編の5年判定でも起点になります。段階的に株式を取得する場合は特に注意が必要です。
    • 5年間の計画を税務と経営で共有する:事業の入替えや役員・従業員の大幅な入替えは、経営判断として行われるものです。その判断の前に税務上の影響を確認できる体制を作っておきます。
    • 租税回避と見られる取引に注意する:法令上の要件に形式的に当たらなくても、税負担の不当な減少を目的とした行為は、行為計算の否認規定などで問題とされる可能性があります。
    • 具体的な判定は個別に行う:特定支配関係の範囲や事由の判定には、政令で定める細かな要件があります。取引の設計段階で専門家に確認することをおすすめします。

    AEGISの視点

    繰越欠損金がある会社の売買では、議論が「欠損金をいくらで評価するか」に集中しがちです。しかしAEGISは、欠損金を「買収後の経営計画と税務の整合を確かめるための指標」として捉えることが大切だと考えています。

    欠損等法人の制限も、組織再編の引継ぎ制限も、背景にあるのは「事業の実態を伴わない欠損金の利用を認めない」という考え方です。言い換えれば、引き継いだ事業を本気で立て直し、そこで生まれた所得と過去の欠損金を相殺するという、本来の姿に沿った計画であれば、制度と衝突しにくいということでもあります。

    売り手のオーナーにとっても、欠損金は会社の歴史の一部です。なぜ赤字が生じ、どう立て直してきたのかを説明できることは、価格以上に、買い手が安心して事業を引き継ぐための材料になります。株式の売却価格だけでなく、売却後の会社が続いていく姿まで含めて設計することが、AEGISの考えるM&Aの税務です。

    事業承継・M&Aに伴う税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 株式譲渡では、対象会社の繰越欠損金は原則として会社に残り、買収後も使える可能性があります。
    • ただし、50%超の株式取得後5年以内に、旧事業の廃止と大規模な資金の受入れなど一定の事由が生じると、欠損金は使えなくなります(欠損等法人の制限)。
    • 合併で欠損金を引き継げるのは適格合併に限られ、支配関係が生じて5年以内の合併では引継ぎや使用に制限がかかることがあります。
    • 大法人の100%子会社になると、中小法人等の扱いから外れ、控除の上限が所得の50%になることがあります。
    • 欠損金の価値は将来の所得次第です。残高・期限・発生原因・計画・制限を順に確認し、価格への反映は慎重に考えます。

    よくある質問

    Q. 赤字の会社を買えば、自社の利益と相殺できますか?

    株式譲渡で子会社にした場合、グループ通算制度を採用していなければ、子会社の欠損金は子会社自身の所得としか相殺できません。親会社の利益と相殺するには合併などの組織再編が必要になりますが、適格合併であることに加え、支配関係が生じてから5年以内の合併などでは引継ぎに制限がかかることがあります。「赤字会社を買えば自社の税金が減る」という単純な関係にはなりません。

    Q. 株式の50%以下しか取得しない場合は、欠損等法人の制限は関係ありませんか?

    欠損等法人の制限は、他の者が50%を超える株式を直接または間接に保有する関係などが生じた場合が対象です。ただし、間接保有や関係者の保有を含めて判定するため、自社単独の保有比率だけで判断するのは危険です。段階的に取得する予定がある場合も、将来の時点で該当する可能性を見ておく必要があります。

    Q. 買収後に事業内容を変えたいのですが、欠損金は使えなくなりますか?

    事業内容を変えたこと自体で直ちに使えなくなるわけではありません。制限がかかるのは、旧事業のすべての廃止と大規模な資金の受入れの組合せなど、法令で定められた事由に該当した場合です。ただし、事業の入替えや役員・従業員の大幅な入替えは事由の判定に関わるため、計画段階で確認しておくことをおすすめします。

    Q. 会社を売る側として、欠損金について何を準備すればよいですか?

    申告書の別表をもとに、欠損金の年度別の発生・使用・残高の推移と、赤字の原因を説明できる資料を準備しておくとよいでしょう。過去の税務調査の結果も確認されることがあります。欠損金の価値は買い手の事業計画や属性によって変わるため、価格の前提として一方的に主張するより、正確な情報開示を優先するほうが交渉は進みやすくなります。

    Q. 事業譲渡で会社の事業を売る場合、欠損金はどうなりますか?

    事業譲渡では、欠損金は買い手に移らず、事業を売った会社に残ります。売った会社に事業の譲渡益が生じる場合、その会社の欠損金と相殺できることがあります。ただし、譲渡後に会社をどうするか(清算するか、別の事業を続けるか)によって、税務と手取りの見通しは変わるため、取引の形と合わせて検討します。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • M&A:会社売却の方針・取引条件・税引後の受取額・売却後の資産管理を検討します。
    • 税務顧問と経営管理:税務申告・会計・納税予測・資金繰りをつなぐ経営支援を行います。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『M&A・組織再編成の税務詳解Q&A』佐藤信祐・松村有紀子・後藤柾哉 著、中央経済社(第10章 欠損等法人)
    • 『組織再編税制大全』佐藤信祐 著、清文社(第12章 欠損等法人)
    • 『M&Aを成功に導く 税務デューデリジェンスの実務〈第3版〉』デロイト トーマツ税理士法人 編、中央経済社、P.83-84
  • グループ会社を合併や株式交換で整理する|手法の選び方、税制適格の要件、承継・売却を見据えた整理の順番

    グループ会社を合併や株式交換で整理する|手法の選び方、税制適格の要件、承継・売却を見据えた整理の順番

    オーナー企業では、事業の拡大や節目ごとの判断の積み重ねで、関連会社が少しずつ増えていきます。気づけば、休眠に近い会社、不動産だけを持つ会社、株主が少しずつ違う会社が並び、誰も全体像を説明できない――そうしたグループは珍しくありません。

    グループの整理(グループ内再編)とは、合併・株式交換・会社分割・現物分配などの手法を組み合わせて、会社の数と資本関係を目的に合った形に組み替えることです。

    結論からいえば、整理は「どの手法を使うか」より先に「整理した後のグループの姿」と「整理の順番」を決めることが重要です。多くのグループ内再編は税制適格要件を満たしやすい一方、株主構成や支配関係が生じた時期によっては、繰越欠損金が使えなくなる、不動産取得税がかかる、少数株主の扱いで手続が止まる、といった問題が起こります。この記事では、手法の選び方と、承継・売却を見据えた整理の順番を整理します。

    なぜグループを整理するのか

    整理の目的は、主に次の4つです。

    1. 承継しやすくする:後継者が引き継ぐ株式を一本化し、会社ごとに株主がばらばらな状態を解消する
    2. 売却しやすくする:M&Aの対象とする事業と、オーナー側に残す資産を分ける
    3. 管理コストを下げる:決算・申告・登記などの手間や、会社ごとの固定費を減らす
    4. 経営判断を速くする:会社をまたいだ資金・人・資産の配分を一元的に行えるようにする

    目的が違えば、ゴールの形も違います。承継が目的なら「持株会社の下に事業会社を並べる」形が、売却が目的なら「売る事業を一つの会社にまとめ、売らない資産を別の会社に移す」形が候補になります。

    主な手法とその特徴

    グループ内再編で使われる主な手法を、オーナーが比べるべき観点で整理すると次のとおりです。

    手法何が起こるか向いている場面主な注意点
    合併2つ以上の会社が1つになる会社の数を減らす、休眠会社・赤字会社を整理する繰越欠損金の引継制限、許認可・契約の承継、債権者保護手続
    株式交換既存の会社を100%親会社とする親子関係をつくる関連会社を持株会社や中核会社の傘下に入れる少数株主の扱い、親会社株式の割当て、交換比率の算定
    株式移転新設の持株会社の下に既存の会社を入れる複数の会社を1つの持株会社の下にまとめる新設会社の評価区分、維持コスト
    会社分割事業の一部を他の会社に移す事業と不動産の切り分け、事業の付け替え適格要件(関係の継続)、労働契約の承継、許認可
    現物分配100%子会社の資産を親会社に配当で移す孫会社の子会社化、不要資産の移転分配可能額の範囲内、個人株主がいると不適格
    株式の売買株式を買い集めて資本関係を変える少数株主からの買取り、持合いの解消買取資金、税務上の時価

    持株会社の新設そのものの目的とつくり方は関連記事「持株会社(ホールディングス)をつくる目的」で、会社分割の詳細は「会社分割で事業を切り分けて引き継ぐ」で解説しています。

    税制適格の要件と、グループ内再編で注意したい点

    グループ内再編は適格になりやすい

    法人税法上、合併や分割は原則として資産・負債を時価で移転したものとして扱われますが、税制適格要件を満たせば帳簿価額で移転し、その時点では課税されません。適格要件は、当事者間の関係に応じて次の3つの類型に分かれます(法人税法2条12号の8・12号の11・12号の17ほか、法人税法施行令4条の3)。

    • 完全支配関係(100%)のある会社間:対価として株式以外の資産を交付しないことと、完全支配関係が続く見込みであることが中心です。
    • 支配関係(50%超)のある会社間:これに加えて、従業者のおおむね80%以上の引継ぎや事業の継続の見込みなどが求められます。
    • 共同で事業を行うための再編:さらに事業関連性などの要件が加わります。

    オーナー個人とその親族が株式の過半数を持つ会社どうしは、支配関係のある会社間として判定されるのが通常です。そのため、グループ内再編の多くは、一定の要件を満たせば適格になります。

    繰越欠損金の「5年」に注意する

    注意が必要なのは、赤字会社を含む合併です。適格合併であっても、合併する会社どうしの支配関係が、合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日(または設立の日など)から継続していない場合には、原則として被合併会社の繰越欠損金の引継ぎが制限されます(法人税法57条3項)。合併する側の会社の繰越欠損金の使用や、含み損のある資産の損失の計上にも同様の制限があります(法人税法57条4項、62条の7)。

    つまり、最近買収した会社や、最近支配関係ができた会社との合併では、欠損金が引き継げないことがあるということです。共同事業要件などを満たせば制限がかからない場合もありますが、判定は個別の確認が必要です。

    少数株主がいる場合

    株式交換や合併で少数株主に親会社の株式を交付すると、少数株主がグループの中核会社の株主として残ることになります。親会社が子会社の発行済株式の3分の2以上を直接保有している場合は、少数株主に金銭を交付しても金銭等不交付要件の対象とならない取扱いがあり(法人税法2条12号の8括弧書ほか)、現金を対価とする合併や株式交換で少数株主を整理する方法が検討されることもあります。ただし、少数株主の理解を得ることや、買取価格の妥当性を説明できることが前提です。

    税金以外に確認したいこと

    • 会社法上の手続:合併・株式交換・分割は、原則として株主総会の特別決議が必要です(会社法309条2項12号)。規模の小さい再編では簡易手続(会社法796条2項など)が、90%以上の議決権を持つ親会社との再編では略式手続が使える場合があります。合併や分割では債権者保護手続も必要です。
    • 不動産取得税:合併による不動産の取得は非課税です(地方税法73条の7第2号)。分割は一定の要件を満たす場合に限り非課税、現物分配や売買は同条の非課税の対象として掲げられていません。不動産の多いグループでは、手法によって流通税の負担が大きく変わります。
    • 許認可・契約:合併や分割では、許認可の承継に行政庁の手続が必要な業種や、承継できない業種があります。取引先との契約に組織再編を理由とする解除条項がないかも確認します。
    • 自社株の評価:再編後の各社の資産構成や利益が変わると、相続税評価上の会社区分(株式等保有特定会社・土地保有特定会社・開業後3年未満の会社など)も変わり得ます。

    承継・売却を見据えた整理の順番

    グループ整理は、一度にすべてを行うより、段階を踏む方が失敗しにくくなります。AEGISが考える基本的な順番は次のとおりです。

    段階やること確認したいこと
    1. 現状の可視化全社の株主・持株比率・役員・資産・借入れ・許認可を一覧にする名義株、持合い、休眠会社、保証の有無
    2. 目標の形を決める承継・売却・管理のどれを優先するかを決め、整理後の資本関係図を描く誰がどの会社の株式を持つか
    3. 株主の整理少数株主からの買取り、名義株の整理、持合いの解消買取価格、資金、株主との合意
    4. 資本関係の整理株式交換・株式移転で親子関係を整える適格要件、交換比率
    5. 資産・事業の付け替え会社分割・現物分配・売買で資産と事業を移す流通税、許認可、欠損金
    6. 会社数の削減合併や清算で不要な会社をなくす欠損金の制限、債権者保護

    順番を誤ると、たとえば「先に合併してしまい、後から売却対象の事業を切り出すのに分割が必要になる」「株主の整理をしないまま株式交換をして、少数株主が親会社に残る」といった手戻りが生じます。

    AEGISの視点

    グループ会社が増えるのは、多くの場合、その時々の合理的な判断の結果です。新規事業を別会社にした、不動産を別に持った、取引先の要請で会社を分けた――一つひとつには理由がありました。だからこそ、整理するときには、「なぜその会社があるのか」を一社ずつ確かめるところから始めることが大切だとAEGISは考えています。

    そのうえで、整理後のグループの姿を、税金の面だけでなく、誰が経営し、誰が株式を持ち、どの資産をどの会社に置くかという「所有と承継の設計図」として描きます。組織再編の手法は、その設計図を実現するための道具にすぎません。

    また、再編には時間がかかります。欠損金の5年の判定のように、時間の経過そのものが条件になる要素もあります。承継や売却の時期が見えてきてから慌てて再編するのではなく、数年単位の計画として進めることが、選択肢を広く保つことにつながります。会社売却の準備をいつから始めるかの全体像は、親記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。グループ内で個々の資産を移す方法としては、「現物分配で子会社の資産を親会社へ移す」も参考になります。

    グループ再編と承継・評価の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • グループ整理は、承継・売却・管理コスト・経営判断のいずれを優先するかで、目指す形が変わります。
    • 合併・株式交換・株式移転・会社分割・現物分配・株式の売買には、それぞれ向いている場面と注意点があります。
    • グループ内再編は税制適格になりやすい一方、支配関係が5年以内に生じた会社との合併などでは繰越欠損金の制限に注意が必要です。
    • 不動産取得税・許認可・少数株主・自社株の評価など、税金以外の確認事項も手法の選択を左右します。
    • 現状の可視化 → 目標の形 → 株主の整理 → 資本関係 → 資産・事業の付け替え → 会社数の削減、という順番で進めると手戻りが少なくなります。具体的な進め方は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 休眠会社は合併で整理するのと清算するのと、どちらがよいですか?

    休眠会社に資産や繰越欠損金がほとんどなければ、清算の方が手続を単純にできる場合があります。一方、不動産を持っている場合は、合併なら不動産取得税が非課税となるため、合併が有利になることがあります。資産の内容、欠損金の有無、手続の期間を比べて判断します。

    Q. 赤字の子会社を合併すれば、その欠損金を使えますか?

    適格合併であれば、被合併会社の繰越欠損金を引き継げるのが原則です。ただし、支配関係が合併の日の属する事業年度開始の日の5年前から継続していない場合などは、引継ぎが制限されます。共同事業要件などを満たす場合の例外もあるため、個別の確認が必要です。

    Q. 株式交換と株式移転は何が違いますか?

    株式交換は既存の会社を親会社にして他の会社を100%子会社にする手続、株式移転は新しく設立する会社を親会社にする手続です。既存の中核会社や資産管理会社を親会社にしたい場合は株式交換、新しい持株会社をつくりたい場合は株式移転が候補になります。

    Q. 兄弟会社を親子会社に組み替えることはできますか?

    株式交換により、一方の会社を他方の100%子会社にすることができます。オーナー個人とその親族が両社の株式を持っている場合は、グループ内の再編として税制適格要件を満たしやすくなりますが、交換比率の算定や、組み替え後の株価への影響を確認しておく必要があります。

    Q. グループ整理にはどのくらいの期間がかかりますか?

    手法と会社の数によりますが、債権者保護手続には1か月以上の期間が必要で、株主の整理や価格の算定を含めると、1年以上の計画になることも珍しくありません。承継や売却の時期から逆算して、早めに着手することが望まれます。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • M&A:会社売却の方針、取引条件、税引後の受取額、売却後の資産管理までを検討します。
    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税務からみたM&A・組織再編成のストラクチャー選択』佐藤信祐 著、中央経済社、2022年、第5章(P.257-278)
    • 『新版〔目的別〕組織再編の最適スキーム 法務・会計・税務』貝沼彩・北山雅一・清水博崇・齊藤修一 著、清文社、2020年、第3章(P.162-188)
    • 『令和7年版 図解組織再編税制』中村慈美 著、大蔵財務協会、2025年、第8章(P.501-518)
  • 会社を買った後の最初の100日|従業員・取引先・お金の流れ・旧オーナーからの引継ぎをどう進めるか

    会社を買った後の最初の100日|従業員・取引先・お金の流れ・旧オーナーからの引継ぎをどう進めるか

    会社を買った後の最初の100日で目指すべきことは、「事業を止めずに、人とお金の流れを自分たちの管理下に置き、旧オーナーから必要な知識を受け取ること」です。売上を伸ばす施策や大きな組織改革は、その後でも遅くありません。

    M&Aは契約の締結と代金の決済(クロージング)で一区切りを迎えますが、買い手にとっての本番はそこから始まります。従業員は不安を抱え、取引先は様子を見ており、社内の決裁やお金の流れは、まだ旧オーナーのやり方のままです。この時期の対応を誤ると、キーパーソンの離職や取引の縮小といった形で、買収の前提が崩れることがあります。

    この記事では、買収後の統合作業(PMI:Post-Merger Integration)のうち、中小企業の買い手オーナーが最初の100日で取り組みたいことを、順番に整理します。

    PMIとは何か、なぜ「最初の100日」なのか

    中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、PMIを「クロージング後の一定期間内に行う経営統合作業」と説明しています。また、中小企業庁は令和4年3月に、中小企業のPMIの「型」を示す「中小PMIガイドライン」を策定・公表しており、M&A成立前の取組(プレPMI)を含むPMIのプロセス全般について、会社の規模等に応じた取組を紹介しています。

    「100日」という区切りは、法令や制度で定められたものではありません。ただ、クロージング直後の数か月は、従業員や取引先が新しい経営者を見極める期間であり、同時に、旧オーナーの協力を得やすい期間でもあります。中小M&Aガイドラインでも、クロージング後の引継ぎ等の作業には3か月〜1年程度の時間を要することが多いとされています。最初の100日は、この引継ぎの土台を作る期間と考えるとよいでしょう。

    PMIはクロージング前から始まっている

    最初の100日を円滑に進めるには、クロージング前の準備が欠かせません。買収前の調査(デュー・ディリジェンス)で見つかった課題は、価格や契約条件の調整に使われるだけでなく、買収後に何から手を付けるかを決める材料になります。買収前の調査については、関連記事「会社を買う前に確認したいリスク」で整理しています。

    クロージング前に決めておきたいのは、次のような事項です。

    • 統合の方針:対象会社の独立性をどの程度残すか、どの機能から自社のやり方に合わせるか
    • クロージング当日の発表の段取り:誰が、いつ、誰に、何を伝えるか
    • 旧オーナーの関与:引継ぎ期間、役職、報酬、協力の範囲(最終契約で定めることが多い)
    • 契約上の手当て:賃貸借契約や取引基本契約にある、株主や経営者が変わった場合の条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)への対応

    特に最後の点について、中小M&Aガイドラインでは、リース・賃貸借・金銭消費貸借等の契約の名義変更や保証人の変更について、クロージング前に相手方との協議を始めることが多いと指摘しています。

    最初の100日でやること:時期ごとの整理

    時期人(従業員・組織)お金(決裁・資金・会計)関係(取引先・金融機関)旧オーナーからの引継ぎ
    クロージング当日〜1週間全従業員への説明、キーパーソンとの個別面談預金口座の権限・印鑑・決裁権限の確認と変更主要取引先・金融機関への挨拶と説明引継ぎの範囲と進め方の確認
    〜1か月不安や疑問の聞き取り、当面の処遇の明示支払・入金の流れと承認ルールの統一、月次の数字の把握契約の名義・条件の確認、保証人変更の手続き業務フロー・取引慣行・人間関係の聞き取り
    〜3か月役割分担の見直し、評価・給与制度の差異の把握会計方針・勘定科目・締め日の統一、税務の届出の確認取引条件の再確認、関係維持の方針決定社長個人に依存していた業務の移管
    〜100日中期の組織方針の共有予算と資金繰りの仕組みの定着新体制での関係の定着引継ぎ完了の確認と、その後の関与の整理

    ※AEGISが中小M&Aガイドラインの記載等を踏まえて整理した目安です。会社の規模や取引の形によって、順番や期間は変わります。

    以下、領域ごとに要点を見ていきます。

    人:従業員への説明とキーパーソンの確保

    最初の説明で伝えること

    従業員にとってM&Aは、ある日突然知らされる出来事であることが少なくありません。最初の説明では、次の点を誠実に伝えることが大切です。

    • なぜこの会社を引き継いだのか(買い手の思い)
    • 当面、何が変わらないのか(雇用、給与、勤務地、日常の業務など)
    • 何が変わる可能性があり、それはいつ頃、どう決めるのか
    • 不安や質問を誰に伝えればよいのか

    「何も変わりません」と言い切ってしまうと、後で制度を見直す際に信頼を失います。変わらないことと、これから一緒に考えることを分けて伝える方が、結果として誠実です。

    キーパーソンとの個別面談

    中小企業では、特定の従業員が取引先との関係や技術・ノウハウを一手に担っていることがよくあります。クロージング直後の早い段階で個別に話をし、役割への期待と処遇を伝えることが、離職の防止につながります。

    雇用関係と制度の違い

    株式譲渡では会社そのものは変わらないため、従業員の雇用は原則としてそのまま続きます。一方、事業譲渡の場合は、従業員の雇用を引き継ぐための手続きが別に必要になり、中小M&Aガイドラインでも、事業譲渡の場合の作業として給与体系・就業規則その他の人事労務関係の統一が挙げられています。

    いずれの場合も、買い手の会社と給与水準や評価制度が違うことは珍しくありません。最初の100日では、制度を急いで統一するよりも、違いを把握し、見直しの方針と時期を示すことを優先します。

    お金:決裁・資金管理・会計の統一

    決裁と資金の権限を最初に押さえる

    買い手オーナーが最初の1週間で確実に行いたいのが、お金の流れに関する権限の確認と変更です。

    • 預金口座のインターネットバンキングの権限、通帳・印鑑・カードの管理者
    • 支払の承認者と承認の上限額
    • 会社のクレジットカードや経費精算のルール
    • 旧オーナーと会社の間の貸付金・借入金、立替えの有無

    旧オーナーの個人的な支出が会社の経費として処理されていた場合、そのルールを新体制に合わせて改める必要があります。会社と個人の区別を明確にすることは、税務上も重要です。

    月次の数字が見える状態にする

    中小企業では、決算書は作っていても、月次の損益や資金繰りを把握する仕組みが整っていないことがあります。最初の1か月で、月次試算表と資金繰り表を作れる状態にし、締め日や勘定科目の使い方を買い手の会社と揃えていきます。

    関係:取引先と金融機関への対応

    主要な取引先には、クロージング直後に新しい経営者が直接挨拶に出向き、取引を継続する意思を伝えることが基本です。取引の継続に不安を持たれやすい相手から優先して訪問します。

    金融機関との関係では、旧オーナーの経営者保証の扱いが重要な論点になります。中小M&Aガイドライン(第3版)では、旧オーナーの経営者保証を買い手側に移行させる想定であったにもかかわらず移行しない、といったトラブルが指摘されています。保証の解除や移行は、最終契約で定めた内容に沿って、クロージング後速やかに進めます。旧オーナーとの信頼関係を保つうえでも、買い手が責任をもって取り組むべき事項です。

    旧オーナーからの引継ぎ

    旧オーナーは、数字に表れない知識の持ち主です。取引先ごとの経緯や約束事、従業員の人柄や関係、設備の癖、地域との関わりなど、文書になっていない情報が多くあります。

    中小M&Aガイドラインでも、クロージング後も譲り渡し側の経営者は円滑な引継ぎに向けて誠実に対応する必要があるとされ、最終契約で協力義務を定めている場合はそれを果たす必要があるとされています。引継ぎを実のあるものにするため、買い手の側でも次の点を意識します。

    • 引継ぎの期間・頻度・範囲を、旧オーナーと書面で確認する
    • 旧オーナーにしかできない業務(特定取引先との窓口、見積りの判断など)を洗い出し、移管の順番を決める
    • 旧オーナーの役職と社内での発言の位置づけを明確にし、従業員が「誰の指示に従えばよいか」迷わないようにする

    旧オーナーの立場から見た引継ぎの期間や報酬の考え方は、関連記事「M&A後に売り手オーナーが担う役割と条件」で扱っています。

    税務の統合:最初に確認したい手続きと論点

    税務は目立たない分野ですが、手続きの漏れが後の負担につながります。最初の3か月で確認しておきたい事項は次のとおりです。

    確認事項内容留意点
    事業年度(決算期)買い手と決算期を揃えるか定款等の会計期間を変更した場合は、遅滞なく所轄税務署長への届出が必要(法人税法15条)
    役員給与役員の交代に伴う報酬の改定期中の改定は、職制上の地位の変更などの臨時改定事由による場合などを除き、損金算入に影響することがある
    会計方針減価償却・引当金・収益の計上基準など統一は翌期からとするなど、無理のない時期を選ぶ
    過去の申告買収前の調査で見つかった論点修正が必要なものは、新体制で速やかに対応方針を決める
    組織再編の予定合併等で会社を一つにするか繰越欠損金の引継ぎ制限など、税務上の影響を事前に確認する

    ※AEGISが法人税法・国税庁の情報をもとに整理。届出書の種類や期限は個別事情により異なります。

    役員給与については、国税庁のタックスアンサーNo.5211で、定期同額給与として認められる改定の範囲(事業年度開始から3か月以内の改定、臨時改定事由による改定、業績悪化改定事由による減額改定)が示されています。新しい代表者の報酬をいつ、いくらに改定するかは、決議の時期とあわせて検討します。代表者の急逝や交代に伴う増額が臨時改定事由に当たるかどうかは、地位や職務の内容に重大な変更があったかで判断され(法人税法施行令69条1項1号、法人税基本通達9-2-12の3)、承継や交代があれば当然に認められるわけではありません。

    また、買収後に対象会社を自社と合併させる予定がある場合は、繰越欠損金の扱いに注意が必要です。詳しくは関連記事「繰越欠損金がある会社の売買」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 「変えないこと」を決めるのも統合の一部:対象会社の強みである現場の裁量や取引先との関係まで、自社流に合わせる必要はありません。
    • 数字の把握を最優先にする:月次の損益と資金繰りが見えない状態で、改革に着手しないようにします。
    • 旧オーナーの協力に頼りすぎない:引継ぎ期間は有限です。期間中に「誰が何を引き継ぐか」を具体的に決めておきます。
    • 情報発信の窓口を一つにする:買い手側の複数の担当者がばらばらに指示を出すと、現場が混乱します。
    • 公的なツールも参考にする:中小企業庁は、中小PMIガイドラインのほか、PMI実践ツールと活用ガイドブックも公表しています(令和6年3月策定)。

    AEGISの視点

    PMIというと、制度やシステムの統合を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかしAEGISは、中小企業のPMIの中心は「旧オーナーが一人で担っていた役割を、新しい体制の誰に、どう分けて渡すか」にあると考えています。

    中小企業では、経営者が営業・人事・資金管理・取引先との関係を一人で抱えていることが珍しくありません。株式を取得しても、こうした役割は自動的には移りません。最初の100日は、その役割を一つずつ確認し、新しい担い手に渡していく期間です。

    もう一つ大切にしたいのは、統合の過程を「会社の器」と「オーナー個人の資産」の整理と切り離さないことです。対象会社が使う不動産を誰が持つか、旧オーナーとの貸借関係をどう清算するか、買い手グループの中で会社をどう位置づけるか。これらを早い段階で整理しておくことが、数年後の再編や承継の選択肢を広げます。

    会社を買うことは、事業とともに、そこで働く人と、旧オーナーが築いてきた関係を引き受けることです。その重みを受け止めたうえで、最初の100日を丁寧に過ごすことが、M&Aを成功に近づけると考えています。

    なお、売り手の立場から「渡せる会社」を整える準備については、親記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で整理しています。買い手として引き継ぐ際にも、どこが整っていて、どこが整っていないかを見極める視点として役立ちます。

    まとめ

    • 最初の100日の目標は、事業を止めずに、人とお金の流れを管理下に置き、旧オーナーから必要な知識を受け取ることです。
    • PMIはクロージング前から始まります。統合方針、当日の発表、旧オーナーの関与、契約上の手当てを事前に決めておきます。
    • 従業員には「変わらないこと」と「これから考えること」を分けて伝え、キーパーソンとは早期に個別に話をします。
    • 決裁・口座の権限、月次の数字、取引先・金融機関への対応、経営者保証の移行を優先して進めます。
    • 決算期の変更届出、役員給与の改定時期、会計方針の統一、組織再編時の欠損金など、税務の手続きと論点も早めに確認します。

    よくある質問

    Q. PMIは、買収後いつまでに終わらせるべきですか?

    法令などで定められた期限はありません。中小M&Aガイドラインでは、クロージング後の引継ぎ等の作業に3か月〜1年程度を要することが多いとされています。最初の100日で土台を作り、制度の統一や組織の見直しは、その後1年程度をかけて進めるのが現実的です。

    Q. 従業員への説明は、買い手と旧オーナーのどちらが行うべきですか?

    両者がそろって説明する形が望ましいと考えます。旧オーナーが会社を託した理由を語り、買い手が今後の方針と当面変わらないことを伝えることで、従業員の不安は和らぎやすくなります。説明の内容と順番は、クロージング前に両者で打ち合わせておきます。

    Q. 買収した会社の決算期は、自社に合わせて変更すべきですか?

    グループとしての管理や決算の作業を考えると、揃えるメリットはあります。ただし、変更すると変更前後で事業年度が短くなる期間が生じ、申告の回数や税務の計算にも影響します。定款等の会計期間を変更した場合は、遅滞なく所轄税務署長に届け出る必要があります。

    Q. 旧オーナーにはどのくらいの期間、会社に残ってもらうべきですか?

    業種や引き継ぐ内容によって異なります。特定の取引先との関係や技術が旧オーナー個人に依存している場合は、一定期間の関与が必要です。一方で、関与が長引くと、従業員が誰の指示に従えばよいか迷う原因にもなります。期間と役割を最終契約や覚書で明確にしておくことが大切です。

    Q. 統合のために、外部の専門家はどの段階で関わるべきですか?

    クロージング前、特に買収前の調査の段階から関わってもらうのが理想です。調査で見つかった課題をもとに、統合の優先順位を決められるからです。税務・労務・法務など、分野ごとに論点があるため、それぞれの専門家と統合の計画を共有しておくと、手続きの漏れを防げます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『企業買収の実務プロセス』木俣貴光 著、中央経済社(第3部 第12章 統合準備、第13章 経営統合)
    • 『M&Aを成功に導く 税務デューデリジェンスの実務〈第3版〉』デロイト トーマツ税理士法人 編、中央経済社(第7章 税務デューデリジェンスとPMI)