投稿者: AEGIS

  • 遺贈寄附とは何か|遺言で財産の一部を社会に遺す方法と、家族への配慮

    遺贈寄附とは何か|遺言で財産の一部を社会に遺す方法と、家族への配慮

    遺贈寄附とは、遺言によって、亡くなった後に財産の一部(または全部)を公益法人・NPO法人・学校法人・自治体などに寄附することです。

    生前の寄附と違い、手元の資金を減らさずに「最後に社会へ何を遺すか」を決められる点が特徴です。一方で、遺言の書き方、寄附する財産の種類、受け取る団体の選び方によって、税金や手続の負担が大きく変わります。家族がいる場合は、家族の生活や遺留分への配慮も欠かせません。

    この記事では、遺贈寄附の基本的な仕組みと、遺言で寄附を実現するために確認したいことを、税務と家族の両面から整理します。

    遺贈寄附とは:社会に財産を遺す3つのルート

    「亡くなった後の財産を社会に役立てる」方法は、大きく次の3つに分けられます。本人が遺言で決めるのか、家族に託すのかによって、確実性と税務の扱いが異なります。

    ルート誰が寄附を決めるか実現の確実性主な税務の論点
    遺言による寄附(遺贈)本人(遺言で指定)遺言が有効で、受け手が受け入れれば実現現物の場合は本人のみなし譲渡と非課税の特例
    相続人による相続財産の寄附相続人(本人の希望を受けて)相続人の判断に委ねられる相続税の非課税の特例(申告期限までの寄附)
    遺言による公益信託の設定本人(遺言で信託を設定)受託者の引受けと行政庁の認可が必要公益信託の税制

    本記事では、このうち中心となる遺言による寄附と、それを補う相続人による相続財産の寄附を扱います。信託を使う方法は、関連記事「公益信託の新制度と財団の違い」で比較しています。

    財団の設立まで含めた社会貢献の全体像は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    特定遺贈と包括遺贈の違い

    民法は、遺言者が遺言によって、財産の全部または一部を「包括」または「特定」の名義で処分できると定めています。遺贈寄附でも、どちらの形で書くかが最初の分かれ目です。

    • 特定遺贈:「〇〇銀行の預金のうち1,000万円を〇〇財団に遺贈する」のように、対象の財産を特定する方法です。受け手は指定された財産だけを受け取ります。
    • 包括遺贈:「財産の3分の1を〇〇法人に遺贈する」のように、割合で指定する方法です。民法上、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持つとされるため、借入金などの債務も割合に応じて引き継ぎ、遺産分割の協議にも加わることになります。

    受け手の団体から見ると、包括遺贈は債務の引継ぎや遺産分割への参加という負担を伴います。そのため、金銭による特定遺贈を基本とし、不動産などは換価してから寄附する形(いわゆる清算型の遺贈)を指定する例が多く見られます。不動産や非上場株式の現物は受け入れていない団体もあるため、書く前に受け手の方針を確認しておくことが大切です。

    なお、受遺者は遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄できるとされています。受け手が受け取れない財産を指定すると、本人の想いが実現しないまま終わることもあります。

    遺贈寄附にかかる税金

    遺贈寄附の税務は、「どの財産を」「誰が寄附するか」によって変わります。ここでは、オーナーが特に押さえておきたい3つの論点を整理します。

    1. 相続税:寄附した部分は家族の課税対象から外れる

    遺贈によって財産を受け取った法人は、原則として相続税の納税義務者にはなりません(相続税法第1条の3は、納税義務者を個人として定めています)。遺贈寄附した財産は家族が取得しないため、その分は家族の相続税の課税対象に含まれない、というのが基本的な考え方です。

    ただし、受け手が一般財団法人などの持分の定めのない法人で、寄附によって寄附者の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、その法人を個人とみなして相続税が課される仕組みがあります(相続税法第66条第4項)。家族が役員を占める法人に遺贈する場合は、特に注意が必要です。

    2. 所得税:不動産・株式の遺贈には「みなし譲渡」がある

    含み益のある不動産や株式を法人に遺贈すると、亡くなった本人がその財産を時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に所得税がかかるのが原則です(国税庁タックスアンサーNo.3105)。この所得税は、相続人が本人に代わって行う準確定申告で納めることになり、実質的には家族の負担になります。

    公益法人等への遺贈で一定の要件を満たし、国税庁長官の承認を受けた場合には、この所得税を非課税とする特例があります(租税特別措置法第40条)。国税庁によれば、遺贈の場合の承認申請は遺贈をした人の相続人と包括受遺者が行い、期限は原則として寄附の日から4か月以内(その前に準確定申告の期限が来る場合はその期限まで)です。

    承認の要件には、寄附財産が原則として2年以内に受け手の公益目的事業に直接使われることなどが含まれます。たとえば、賃貸用の建物を遺贈して受け手がそのまま賃貸し、賃料を活動に充てる形は、「直接使われた」とは扱われないとする解説もあります。現物の遺贈は、受け手がその財産を何に使うかまで決めておく必要があるということです。金銭の遺贈であれば、みなし譲渡の問題は生じません。

    3. 相続人が相続財産を寄附する場合の特例

    遺言がなくても、相続人が本人の希望を受けて、相続した財産を寄附することができます。相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに国・地方公共団体や公益財団法人などの一定の法人に寄附した場合、または公益信託の信託財産とするために支出した場合には、その財産を相続税の課税対象としない特例があります(租税特別措置法第70条、国税庁タックスアンサーNo.4141)。

    この特例には、次のような条件があります。

    • 寄附先は、公益社団法人・公益財団法人、社会福祉法人、認定NPO法人など一定の法人に限られ、公益認定を受けていない一般財団法人は含まれません
    • 寄附を受けた法人が、2年以内に対象法人でなくなったり、財産を公益目的の事業に使っていなかったりする場合は適用されません
    • 寄附した人や親族が、寄附先を通じて特別の利益を受けている場合は適用されません
    • 相続税の申告書に、寄附した財産の明細書など一定の書類を添付する必要があります

    この特例は、寄附の時点ですでに設立されている法人が対象とされています。「相続後に家族で財団を設立して寄附する」という形では使えない点に注意が必要です。また、相続人の判断に委ねる方法であるため、本人の想いを確実に実現したい場合は、遺言で指定しておくほうが確実です。

    受け手をどう選ぶか

    遺贈寄附の受け手を選ぶときは、想いに合う活動をしているかに加え、次の点を確認しておくと安心です。

    • 法人の種類:公益財団法人、認定NPO法人、学校法人、地方公共団体など。法人の種類によって、税の特例の対象になるかどうかが変わります。
    • 遺贈の受入方針:金銭のみか、不動産や有価証券も受け入れるか。換価の手間を受け手が担えるか。
    • 使途の指定:特定の事業や地域に使ってほしい場合、その指定を受け入れてもらえるか。基金や冠の名称を付けられるか。
    • 継続性:遺言を書いてから実際に寄附が行われるまで、何年も空くことがあります。受け手の活動が続いていくか、定期的に見直すことが大切です。

    可能であれば、遺言を書く段階で受け手と事前に相談し、受入れの可否や手続の流れを確認しておくと、死後の行き違いを減らせます。

    家族への配慮と遺留分

    遺贈寄附は、本人の財産を本人の意思で処分するものです。ただし、家族がいる場合には、遺留分に配慮する必要があります。

    民法では、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分が認められており、その割合は、直系尊属のみが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1とされています(これに各自の法定相続分を掛けた割合が、各相続人の遺留分になります)。兄弟姉妹には遺留分がありません。

    遺留分を侵害する遺贈があった場合、遺留分を持つ相続人は、受遺者に対して遺留分侵害額に相当する金銭を請求できます。この請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始の時から10年を経過すると行使できなくなります。

    寄附を受けた団体が家族から請求を受けるのは、本人が最も望まない展開でしょう。寄附の割合を決める際は、家族の生活に必要な財産と遺留分を先に確保し、その外側で寄附額を決めるのが基本です。遺言の中に、寄附を選んだ理由や家族への想いを書き添えておく(付言事項)ことも、家族の理解を得るうえで役立ちます。

    遺言の形式と執行の準備

    遺贈寄附は遺言があって初めて実現するため、遺言が確実に見つかり、確実に執行されることが重要です。

    • 遺言の形式:公正証書遺言のほか、自筆証書遺言を法務局で保管する制度もあります。保管制度では、遺言者の死亡後に、遺言者があらかじめ指定した人へ保管の事実を通知する仕組みも設けられています。
    • 遺言執行者の指定:遺言では、遺言を実行する遺言執行者を指定できます。寄附先への連絡、財産の換価、引渡しまでを担う人を決めておくと、家族の負担を軽くできます。
    • 財産の特定:口座や不動産の表示を正確に書き、財産の内容が変わったときは遺言を見直します。

    遺言と民事信託(いわゆる家族信託)をどう組み合わせるかは、関連記事「遺言と家族信託の使い分け」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 金額より先に「割合」と「順番」を決める:家族の生活資金・納税資金・遺留分を確保した後に、寄附に回す部分を決めます。
    • 現物は「使い道」とセットで考える:不動産や株式は、みなし譲渡と非課税の特例の要件を踏まえ、換価して寄附するか現物で寄附するかを決めます。
    • 納税資金を確認する:遺贈寄附で家族の相続税は減りますが、準確定申告の所得税が生じる場合は、その資金をどこから出すかも確認します。
    • 相続人がいない場合は特に早めに:子や兄弟姉妹がいない場合、遺言がなければ財産が最終的に国庫に帰属することもあります。この点は関連記事「相続人がいない場合、財産はどうなるか」で扱っています。

    AEGISの視点

    遺贈寄附は「財産が残ったら寄附する」ものと考えられがちです。しかしAEGISは、遺贈寄附を相続設計の一部として、最初から「何を、誰に、どれだけ遺すか」の中に位置付けるものと考えています。

    家族に渡す財産、会社や事業に残す財産、社会に遺す財産。この3つを同じ一枚の上に並べると、遺留分や納税資金とのぶつかり方、現物で遺すか換価して遺すかといった判断が具体的になります。逆に、寄附だけを切り離して遺言に書き込むと、家族の手続や税負担が想定外に重くなることもあります。

    もう一つ大切なのは、寄附の理由を言葉にすることです。なぜその団体なのか、なぜその割合なのか。その説明が家族に届いていれば、遺贈寄附は家族にとっても誇りになり得ます。財産を遺す行為を、想いを引き継ぐ行為に変えることが、遺贈寄附の本当の価値だとAEGISは考えています。

    遺贈寄附に伴う財産評価やみなし譲渡、相続税の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 遺贈寄附とは、遺言によって亡くなった後に財産の一部を公益法人・NPO法人などに寄附することです。
    • 受け手の負担を考え、金銭による特定遺贈や、換価してから寄附する形が多く使われます。包括遺贈では受け手が債務も引き継ぎます。
    • 不動産や株式を法人に遺贈すると本人にみなし譲渡課税が生じ得ますが、国税庁長官の承認を受けた場合の非課税の特例があります(申請は原則4か月以内)。
    • 相続人が相続税の申告期限までに一定の法人へ相続財産を寄附した場合の非課税の特例もありますが、対象法人や2年以内の使用などの条件があります。
    • 家族がいる場合は、遺留分と家族の生活資金を先に確保し、寄附の理由を伝えておくことが大切です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 遺贈寄附は、少額でもできますか?

    できます。遺言で特定の金額を指定する方法であれば、財産の規模にかかわらず利用できます。受け手の団体によっては最低額や受入れの条件を設けている場合もあるため、事前に確認しておくと安心です。

    Q. 遺言を書いた後に、寄附先を変えることはできますか?

    遺言は、本人がいつでも新しい遺言を作ることで変更や撤回ができます。受け手の活動内容や本人の考えが変わることもあるため、数年ごとに内容を見直すことが望まれます。

    Q. 自宅などの不動産をそのまま寄附できますか?

    受け手が不動産の受入れに応じれば可能ですが、受け入れていない団体も少なくありません。また、法人への遺贈はみなし譲渡の対象となり、非課税の特例を受けるには、受け手がその不動産を公益目的の事業に直接使うことなどの要件があります。換価して金銭で寄附する方法とあわせて比較することをおすすめします。

    Q. 遺言がなくても、家族が代わりに寄附すれば同じ効果がありますか?

    相続人が相続税の申告期限までに一定の法人へ寄附すれば、その財産を相続税の対象外とする特例があります。ただし、寄附するかどうかは相続人の判断になり、寄附先も既存の一定の法人に限られます。本人の想いを確実に実現したい場合は、遺言で指定しておく方が確実です。

    Q. 寄附先の団体が遺留分の請求を受けることはありますか?

    あります。遺贈が相続人の遺留分を侵害している場合、遺留分を持つ相続人は受遺者である団体に金銭の支払いを請求できます。寄附の割合を決める前に遺留分を計算し、家族と話し合っておくことが、団体と家族の双方を守ることにつながります。

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    • 家族信託と遺言:家族信託と遺言を活用し、資産の管理と承継の体制を検討します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『令和2年版 租税特別措置法第40条関係通達逐条解説』大野隆太 編、大蔵財務協会
  • 繰越欠損金がある会社の売買|株主が変わった後に使えるか、合併で引き継げるか、価格にどう反映するか

    繰越欠損金がある会社の売買|株主が変わった後に使えるか、合併で引き継げるか、価格にどう反映するか

    結論からお伝えすると、株式譲渡で会社を買った場合、対象会社の繰越欠損金は原則としてそのまま対象会社に残り、買収後も使うことができます。株主が変わったこと自体で、欠損金が消えるわけではありません。

    ただし、使えなくなる場面が三つあります。

    一つ目は、50%超の株式を取得した後5年以内に、旧事業の廃止と大規模な資金の受入れなど一定の事由が生じたとき(いわゆる「欠損等法人」の制限)。

    二つ目は、買収後に合併などの組織再編を行い、欠損金を他の会社へ移そうとするとき。

    三つ目は、買い手のグループに入ったことで「中小法人等」に当たらなくなり、1年に控除できる金額が小さくなるときです。

    この記事では、繰越欠損金がある会社を売る側・買う側の双方が押さえておきたい仕組みと、価格への反映の考え方を整理します。

    繰越欠損金とは

    繰越欠損金とは、過去の事業年度に生じた税務上の赤字(欠損金額)のうち、まだ使い切っていない部分を、将来の黒字(所得)と相殺するために繰り越しているものです。

    法人税法では、青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額を、その後の各事業年度に繰り越して所得から控除できるとされています(法人税法57条)。主なルールは次のとおりです。

    • 繰越期間:各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度の欠損金額が対象です(平成30年4月1日前に開始した事業年度に生じた欠損金額は9年)。
    • 控除の順序:古い事業年度に生じたものから順に控除します。
    • 控除の上限:中小法人等は、その年の所得の金額の全額まで控除できます。中小法人等以外の法人は、原則として所得の金額の50%が上限です。
    • 申告の要件:欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出していることが必要です。

    ここでいう中小法人等には、資本金1億円以下の普通法人などが含まれますが、資本金5億円以上の法人などの「大法人」に発行済株式の全部を保有されている法人は除かれます(国税庁 タックスアンサーNo.5762)。この点は、後で述べる「大企業グループへの売却」で意味を持ちます。

    株式譲渡なら欠損金は会社に残る

    会社の売買には、大きく分けて株式譲渡と事業譲渡があります。両者の違いは、関連記事「株式譲渡と事業譲渡の比較ポイント」でも整理しています。

    繰越欠損金の観点から見ると、違いは明確です。

    取引の形繰越欠損金はどこに残るか買い手から見た意味売り手から見た意味
    株式譲渡対象会社にそのまま残る将来の所得と相殺できる可能性がある。ただし5年間は欠損等法人の制限に注意欠損金の価値を株価の交渉材料にできる余地がある
    事業譲渡事業を売った会社(売り手側の会社)に残る欠損金は引き継げない事業の譲渡益と自社の欠損金を相殺できる場合がある
    合併などの組織再編要件を満たす場合に限り、合併法人等へ引き継げる支配関係が生じてから5年以内は引継ぎ・使用に制限がかかることがある再編の方法によって評価が変わる

    ※AEGISが法人税法57条・57条の2と国税庁の情報をもとに整理。実際の適用可否は個別事情により異なります。

    株式譲渡では、会社という「器」はそのままで、株主だけが入れ替わります。そのため、対象会社が過去に積み上げた欠損金も、原則として対象会社にとどまります。一方、事業譲渡では、事業に属する資産や契約が買い手に移るだけで、欠損金は移りません。欠損金を持つ売り手側の会社は、事業の譲渡益と自社の欠損金を相殺できる場合がある、という形で関わることになります。

    株主が変わった後の制限:「欠損等法人」とは

    制度の趣旨

    株式譲渡で欠損金が残るのであれば、「欠損金を多く持つ休眠会社を安く買い、そこへ利益の出る事業を入れて税金を減らす」という行為も考えられます。これを防ぐために設けられているのが、特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)です。

    制限がかかる流れ

    制限は、次の三つがそろったときにかかります。

    1. 特定支配関係が生じたこと:他の者が、対象会社の発行済株式の50%を超える株式を直接または間接に保有する関係などが生じたこと
    2. その時点で欠損金や評価損資産を持っていること:特定支配関係が生じた日(支配日)の属する事業年度において、それより前の事業年度の欠損金額、または含み損のある一定の資産(評価損資産)を有していること。この法人が「欠損等法人」です
    3. 支配日以後5年以内に、一定の事由に該当したこと

    3の「一定の事由」として、法人税法57条の2第1項には次のようなものが掲げられています。

    • 支配日の直前に事業を営んでいなかった会社が、支配日以後に事業を開始すること
    • 支配日の直前に営んでいた事業(旧事業)のすべてを廃止する、または廃止が見込まれる場合に、旧事業の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れや出資の受入れを行うこと
    • 買い手側が対象会社に対する一定の債権を第三者から取得している場合に、旧事業の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れ等を行うこと
    • 上記の場合に、対象会社が被合併法人となる適格合併を行うなどすること
    • 支配日の直前の社長などの役員がすべて退任し、かつ、旧事業に従事していた使用人のおおむね20%以上がいなくなり、旧使用人が従事しない事業の事業規模が旧事業のおおむね5倍を超えること

    これらに該当すると、その該当日の属する事業年度(適用事業年度)以後は、それより前に生じた欠損金を繰越控除できなくなります。あわせて、評価損資産を売却等したときの損失についても損金算入が制限される規定があります(法人税法60条の3)。

    通常の事業承継型M&Aでは「該当しないこと」を確認する

    後継者不在の会社を買い、従業員や取引先とともに事業を続けるという一般的な事業承継型のM&Aでは、旧事業を続けることが前提ですから、通常はこれらの事由に当たりにくいと考えられます。ただし、注意したいのは次のような計画です。

    • 買収後に既存事業を縮小・撤退し、買い手側の別事業を対象会社に移して大きく育てる計画
    • 旧経営陣が全員退任し、従業員の配置も大きく変える計画
    • 金融機関などから対象会社向けの債権を割安で買い取ったうえで、大規模な資金を入れる計画

    いずれも経営上は合理的な判断であることが少なくありません。だからこそ、買収後5年間の事業計画が欠損等法人の事由に近づいていないかを、税務の側から事前に点検しておく必要があります。

    合併など組織再編で引き継ぐときの制限

    買収後に対象会社を買い手の会社と合併させ、一つの会社にまとめたいと考えることもあります。グループ会社を合併や株式交換で整理する際の全体像は、関連記事「グループ会社を合併や株式交換で整理する」で扱います。

    非適格合併では引き継げない

    被合併法人の繰越欠損金を合併法人が引き継げるのは、税制上の要件を満たす「適格合併」の場合に限られます(法人税法57条2項)。適格の要件を満たさない合併では、被合併法人の欠損金は引き継がれません。

    支配関係が生じて5年以内の適格合併にも制限がある

    適格合併であっても、合併の当事者間の支配関係(50%超の保有関係)が、合併事業年度開始の日の5年前の日などから継続していない場合には、被合併法人の欠損金のうち一定の部分を引き継げないとされています(法人税法57条3項)。また、合併法人側がもともと持っていた欠損金についても、同様の場合に使用が制限されることがあります(同条4項)。

    ただし、合併が「共同で事業を行うための合併」として政令で定める要件(いわゆるみなし共同事業要件)を満たす場合などは、この制限はかかりません。要件は事業の関連性や規模、役員の引継ぎなど複数にわたり、該当するかどうかの判定は個別に行う必要があります。

    つまり、「買ってすぐ合併」は、欠損金の観点からは慎重に検討すべき選択肢です。合併の時期を遅らせる、合併ではなく子会社のまま運営する、といった選択肢と比べたうえで判断することになります。

    見落としやすい「控除限度」の変化

    欠損金そのものが残っていても、1年に控除できる金額が変わることがあります。

    先に述べたとおり、中小法人等は所得の全額まで欠損金を控除できますが、資本金5億円以上の大法人に発行済株式の全部を保有される法人は中小法人等から外れ、原則として所得の50%までしか控除できません。上場会社などの大企業グループが100%買収する場合、対象会社の資本金が1億円以下であっても、この影響を受けます。

    欠損金を何年で使い切れるかは、価格の前提に直結します。売り手が「欠損金はすべて使える」という前提で価格を考えていても、買い手の属性によってはその前提が崩れることがあります。

    欠損金は価格にどう反映されるか

    欠損金の「価値」は将来の所得次第

    欠損金は、将来の所得と相殺できて初めて税負担を軽くする効果を持ちます。所得が出なければ、繰越期間が過ぎて消えてしまいます。そのため、価格への反映を考えるときは、次の順で確認するのが基本です。

    1. 残高と発生年度:申告書の別表で、どの年度の欠損金がいくら残っているか
    2. 期限:古い欠損金から、いつ期限を迎えるか
    3. 発生原因:一時的な損失(資産の売却損など)によるものか、本業の継続的な赤字か
    4. 将来の所得見込み:買収後の事業計画で、いつ、どの程度の所得が見込めるか
    5. 制限の有無:欠損等法人の事由、組織再編の予定、控除限度の変化

    売り手・買い手それぞれの視点

    確認項目買い手が確認したいこと売り手が準備しておきたいこと
    欠損金の残高・期限申告書の別表と一致しているか、期限切れが近いものはないか年度別の発生・使用の推移を説明できる資料
    発生の原因本業の収益力に問題がないか赤字の原因と、すでに手当てした内容の説明
    過去の申告の適正さ税務調査で欠損金が減額されるリスクはないか過去の税務調査の結果、更正の有無
    買収後の計画欠損等法人の事由や組織再編の制限に当たらないか事業継続を前提とした引継ぎ計画
    控除の上限自社グループに入った後も中小法人等として扱われるか買い手の属性による前提の違いの理解

    ※AEGISが整理。欠損金の価値をどこまで価格に織り込むかは、交渉で決まる事柄です。

    買い手の立場からは、欠損金は「使える見込みがある範囲で、慎重に評価する」ものです。過去の申告に誤りがあれば欠損金が減額される可能性もあるため、買収前の調査で確認しておきたい項目の一つになります。買収前の調査全般については、親記事「会社を買う前に確認したいリスク」で整理しています。

    売り手の立場からは、欠損金を「会社の隠れた資産」として主張したくなるかもしれません。しかし、その価値は買い手の事業計画と属性に左右されるため、根拠のない上乗せは交渉を難しくします。むしろ、欠損金の内訳と発生原因を正確に説明できるように準備することが、信頼につながります。

    実務上注意したいポイント

    • 欠損金があっても、赤字の会社であることに変わりはない:欠損金は税負担を軽くする可能性があるだけで、事業の収益力を示すものではありません。
    • 株式取得の比率と時期を記録しておく:50%超の取得がいつ生じたかは、欠損等法人の判定でも、組織再編の5年判定でも起点になります。段階的に株式を取得する場合は特に注意が必要です。
    • 5年間の計画を税務と経営で共有する:事業の入替えや役員・従業員の大幅な入替えは、経営判断として行われるものです。その判断の前に税務上の影響を確認できる体制を作っておきます。
    • 租税回避と見られる取引に注意する:法令上の要件に形式的に当たらなくても、税負担の不当な減少を目的とした行為は、行為計算の否認規定などで問題とされる可能性があります。
    • 具体的な判定は個別に行う:特定支配関係の範囲や事由の判定には、政令で定める細かな要件があります。取引の設計段階で専門家に確認することをおすすめします。

    AEGISの視点

    繰越欠損金がある会社の売買では、議論が「欠損金をいくらで評価するか」に集中しがちです。しかしAEGISは、欠損金を「買収後の経営計画と税務の整合を確かめるための指標」として捉えることが大切だと考えています。

    欠損等法人の制限も、組織再編の引継ぎ制限も、背景にあるのは「事業の実態を伴わない欠損金の利用を認めない」という考え方です。言い換えれば、引き継いだ事業を本気で立て直し、そこで生まれた所得と過去の欠損金を相殺するという、本来の姿に沿った計画であれば、制度と衝突しにくいということでもあります。

    売り手のオーナーにとっても、欠損金は会社の歴史の一部です。なぜ赤字が生じ、どう立て直してきたのかを説明できることは、価格以上に、買い手が安心して事業を引き継ぐための材料になります。株式の売却価格だけでなく、売却後の会社が続いていく姿まで含めて設計することが、AEGISの考えるM&Aの税務です。

    事業承継・M&Aに伴う税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 株式譲渡では、対象会社の繰越欠損金は原則として会社に残り、買収後も使える可能性があります。
    • ただし、50%超の株式取得後5年以内に、旧事業の廃止と大規模な資金の受入れなど一定の事由が生じると、欠損金は使えなくなります(欠損等法人の制限)。
    • 合併で欠損金を引き継げるのは適格合併に限られ、支配関係が生じて5年以内の合併では引継ぎや使用に制限がかかることがあります。
    • 大法人の100%子会社になると、中小法人等の扱いから外れ、控除の上限が所得の50%になることがあります。
    • 欠損金の価値は将来の所得次第です。残高・期限・発生原因・計画・制限を順に確認し、価格への反映は慎重に考えます。

    よくある質問

    Q. 赤字の会社を買えば、自社の利益と相殺できますか?

    株式譲渡で子会社にした場合、グループ通算制度を採用していなければ、子会社の欠損金は子会社自身の所得としか相殺できません。親会社の利益と相殺するには合併などの組織再編が必要になりますが、適格合併であることに加え、支配関係が生じてから5年以内の合併などでは引継ぎに制限がかかることがあります。「赤字会社を買えば自社の税金が減る」という単純な関係にはなりません。

    Q. 株式の50%以下しか取得しない場合は、欠損等法人の制限は関係ありませんか?

    欠損等法人の制限は、他の者が50%を超える株式を直接または間接に保有する関係などが生じた場合が対象です。ただし、間接保有や関係者の保有を含めて判定するため、自社単独の保有比率だけで判断するのは危険です。段階的に取得する予定がある場合も、将来の時点で該当する可能性を見ておく必要があります。

    Q. 買収後に事業内容を変えたいのですが、欠損金は使えなくなりますか?

    事業内容を変えたこと自体で直ちに使えなくなるわけではありません。制限がかかるのは、旧事業のすべての廃止と大規模な資金の受入れの組合せなど、法令で定められた事由に該当した場合です。ただし、事業の入替えや役員・従業員の大幅な入替えは事由の判定に関わるため、計画段階で確認しておくことをおすすめします。

    Q. 会社を売る側として、欠損金について何を準備すればよいですか?

    申告書の別表をもとに、欠損金の年度別の発生・使用・残高の推移と、赤字の原因を説明できる資料を準備しておくとよいでしょう。過去の税務調査の結果も確認されることがあります。欠損金の価値は買い手の事業計画や属性によって変わるため、価格の前提として一方的に主張するより、正確な情報開示を優先するほうが交渉は進みやすくなります。

    Q. 事業譲渡で会社の事業を売る場合、欠損金はどうなりますか?

    事業譲渡では、欠損金は買い手に移らず、事業を売った会社に残ります。売った会社に事業の譲渡益が生じる場合、その会社の欠損金と相殺できることがあります。ただし、譲渡後に会社をどうするか(清算するか、別の事業を続けるか)によって、税務と手取りの見通しは変わるため、取引の形と合わせて検討します。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『M&A・組織再編成の税務詳解Q&A』佐藤信祐・松村有紀子・後藤柾哉 著、中央経済社(第10章 欠損等法人)
    • 『組織再編税制大全』佐藤信祐 著、清文社(第12章 欠損等法人)
    • 『M&Aを成功に導く 税務デューデリジェンスの実務〈第3版〉』デロイト トーマツ税理士法人 編、中央経済社、P.83-84
  • グループ会社を合併や株式交換で整理する|手法の選び方、税制適格の要件、承継・売却を見据えた整理の順番

    グループ会社を合併や株式交換で整理する|手法の選び方、税制適格の要件、承継・売却を見据えた整理の順番

    オーナー企業では、事業の拡大や節目ごとの判断の積み重ねで、関連会社が少しずつ増えていきます。気づけば、休眠に近い会社、不動産だけを持つ会社、株主が少しずつ違う会社が並び、誰も全体像を説明できない――そうしたグループは珍しくありません。

    グループの整理(グループ内再編)とは、合併・株式交換・会社分割・現物分配などの手法を組み合わせて、会社の数と資本関係を目的に合った形に組み替えることです。

    結論からいえば、整理は「どの手法を使うか」より先に「整理した後のグループの姿」と「整理の順番」を決めることが重要です。多くのグループ内再編は税制適格要件を満たしやすい一方、株主構成や支配関係が生じた時期によっては、繰越欠損金が使えなくなる、不動産取得税がかかる、少数株主の扱いで手続が止まる、といった問題が起こります。この記事では、手法の選び方と、承継・売却を見据えた整理の順番を整理します。

    なぜグループを整理するのか

    整理の目的は、主に次の4つです。

    1. 承継しやすくする:後継者が引き継ぐ株式を一本化し、会社ごとに株主がばらばらな状態を解消する
    2. 売却しやすくする:M&Aの対象とする事業と、オーナー側に残す資産を分ける
    3. 管理コストを下げる:決算・申告・登記などの手間や、会社ごとの固定費を減らす
    4. 経営判断を速くする:会社をまたいだ資金・人・資産の配分を一元的に行えるようにする

    目的が違えば、ゴールの形も違います。承継が目的なら「持株会社の下に事業会社を並べる」形が、売却が目的なら「売る事業を一つの会社にまとめ、売らない資産を別の会社に移す」形が候補になります。

    主な手法とその特徴

    グループ内再編で使われる主な手法を、オーナーが比べるべき観点で整理すると次のとおりです。

    手法何が起こるか向いている場面主な注意点
    合併2つ以上の会社が1つになる会社の数を減らす、休眠会社・赤字会社を整理する繰越欠損金の引継制限、許認可・契約の承継、債権者保護手続
    株式交換既存の会社を100%親会社とする親子関係をつくる関連会社を持株会社や中核会社の傘下に入れる少数株主の扱い、親会社株式の割当て、交換比率の算定
    株式移転新設の持株会社の下に既存の会社を入れる複数の会社を1つの持株会社の下にまとめる新設会社の評価区分、維持コスト
    会社分割事業の一部を他の会社に移す事業と不動産の切り分け、事業の付け替え適格要件(関係の継続)、労働契約の承継、許認可
    現物分配100%子会社の資産を親会社に配当で移す孫会社の子会社化、不要資産の移転分配可能額の範囲内、個人株主がいると不適格
    株式の売買株式を買い集めて資本関係を変える少数株主からの買取り、持合いの解消買取資金、税務上の時価

    持株会社の新設そのものの目的とつくり方は関連記事「持株会社(ホールディングス)をつくる目的」で、会社分割の詳細は「会社分割で事業を切り分けて引き継ぐ」で解説しています。

    税制適格の要件と、グループ内再編で注意したい点

    グループ内再編は適格になりやすい

    法人税法上、合併や分割は原則として資産・負債を時価で移転したものとして扱われますが、税制適格要件を満たせば帳簿価額で移転し、その時点では課税されません。適格要件は、当事者間の関係に応じて次の3つの類型に分かれます(法人税法2条12号の8・12号の11・12号の17ほか、法人税法施行令4条の3)。

    • 完全支配関係(100%)のある会社間:対価として株式以外の資産を交付しないことと、完全支配関係が続く見込みであることが中心です。
    • 支配関係(50%超)のある会社間:これに加えて、従業者のおおむね80%以上の引継ぎや事業の継続の見込みなどが求められます。
    • 共同で事業を行うための再編:さらに事業関連性などの要件が加わります。

    オーナー個人とその親族が株式の過半数を持つ会社どうしは、支配関係のある会社間として判定されるのが通常です。そのため、グループ内再編の多くは、一定の要件を満たせば適格になります。

    繰越欠損金の「5年」に注意する

    注意が必要なのは、赤字会社を含む合併です。適格合併であっても、合併する会社どうしの支配関係が、合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日(または設立の日など)から継続していない場合には、原則として被合併会社の繰越欠損金の引継ぎが制限されます(法人税法57条3項)。合併する側の会社の繰越欠損金の使用や、含み損のある資産の損失の計上にも同様の制限があります(法人税法57条4項、62条の7)。

    つまり、最近買収した会社や、最近支配関係ができた会社との合併では、欠損金が引き継げないことがあるということです。共同事業要件などを満たせば制限がかからない場合もありますが、判定は個別の確認が必要です。

    少数株主がいる場合

    株式交換や合併で少数株主に親会社の株式を交付すると、少数株主がグループの中核会社の株主として残ることになります。親会社が子会社の発行済株式の3分の2以上を直接保有している場合は、少数株主に金銭を交付しても金銭等不交付要件の対象とならない取扱いがあり(法人税法2条12号の8括弧書ほか)、現金を対価とする合併や株式交換で少数株主を整理する方法が検討されることもあります。ただし、少数株主の理解を得ることや、買取価格の妥当性を説明できることが前提です。

    税金以外に確認したいこと

    • 会社法上の手続:合併・株式交換・分割は、原則として株主総会の特別決議が必要です(会社法309条2項12号)。規模の小さい再編では簡易手続(会社法796条2項など)が、90%以上の議決権を持つ親会社との再編では略式手続が使える場合があります。合併や分割では債権者保護手続も必要です。
    • 不動産取得税:合併による不動産の取得は非課税です(地方税法73条の7第2号)。分割は一定の要件を満たす場合に限り非課税、現物分配や売買は同条の非課税の対象として掲げられていません。不動産の多いグループでは、手法によって流通税の負担が大きく変わります。
    • 許認可・契約:合併や分割では、許認可の承継に行政庁の手続が必要な業種や、承継できない業種があります。取引先との契約に組織再編を理由とする解除条項がないかも確認します。
    • 自社株の評価:再編後の各社の資産構成や利益が変わると、相続税評価上の会社区分(株式等保有特定会社・土地保有特定会社・開業後3年未満の会社など)も変わり得ます。

    承継・売却を見据えた整理の順番

    グループ整理は、一度にすべてを行うより、段階を踏む方が失敗しにくくなります。AEGISが考える基本的な順番は次のとおりです。

    段階やること確認したいこと
    1. 現状の可視化全社の株主・持株比率・役員・資産・借入れ・許認可を一覧にする名義株、持合い、休眠会社、保証の有無
    2. 目標の形を決める承継・売却・管理のどれを優先するかを決め、整理後の資本関係図を描く誰がどの会社の株式を持つか
    3. 株主の整理少数株主からの買取り、名義株の整理、持合いの解消買取価格、資金、株主との合意
    4. 資本関係の整理株式交換・株式移転で親子関係を整える適格要件、交換比率
    5. 資産・事業の付け替え会社分割・現物分配・売買で資産と事業を移す流通税、許認可、欠損金
    6. 会社数の削減合併や清算で不要な会社をなくす欠損金の制限、債権者保護

    順番を誤ると、たとえば「先に合併してしまい、後から売却対象の事業を切り出すのに分割が必要になる」「株主の整理をしないまま株式交換をして、少数株主が親会社に残る」といった手戻りが生じます。

    AEGISの視点

    グループ会社が増えるのは、多くの場合、その時々の合理的な判断の結果です。新規事業を別会社にした、不動産を別に持った、取引先の要請で会社を分けた――一つひとつには理由がありました。だからこそ、整理するときには、「なぜその会社があるのか」を一社ずつ確かめるところから始めることが大切だとAEGISは考えています。

    そのうえで、整理後のグループの姿を、税金の面だけでなく、誰が経営し、誰が株式を持ち、どの資産をどの会社に置くかという「所有と承継の設計図」として描きます。組織再編の手法は、その設計図を実現するための道具にすぎません。

    また、再編には時間がかかります。欠損金の5年の判定のように、時間の経過そのものが条件になる要素もあります。承継や売却の時期が見えてきてから慌てて再編するのではなく、数年単位の計画として進めることが、選択肢を広く保つことにつながります。会社売却の準備をいつから始めるかの全体像は、親記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。グループ内で個々の資産を移す方法としては、「現物分配で子会社の資産を親会社へ移す」も参考になります。

    グループ再編と承継・評価の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • グループ整理は、承継・売却・管理コスト・経営判断のいずれを優先するかで、目指す形が変わります。
    • 合併・株式交換・株式移転・会社分割・現物分配・株式の売買には、それぞれ向いている場面と注意点があります。
    • グループ内再編は税制適格になりやすい一方、支配関係が5年以内に生じた会社との合併などでは繰越欠損金の制限に注意が必要です。
    • 不動産取得税・許認可・少数株主・自社株の評価など、税金以外の確認事項も手法の選択を左右します。
    • 現状の可視化 → 目標の形 → 株主の整理 → 資本関係 → 資産・事業の付け替え → 会社数の削減、という順番で進めると手戻りが少なくなります。具体的な進め方は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 休眠会社は合併で整理するのと清算するのと、どちらがよいですか?

    休眠会社に資産や繰越欠損金がほとんどなければ、清算の方が手続を単純にできる場合があります。一方、不動産を持っている場合は、合併なら不動産取得税が非課税となるため、合併が有利になることがあります。資産の内容、欠損金の有無、手続の期間を比べて判断します。

    Q. 赤字の子会社を合併すれば、その欠損金を使えますか?

    適格合併であれば、被合併会社の繰越欠損金を引き継げるのが原則です。ただし、支配関係が合併の日の属する事業年度開始の日の5年前から継続していない場合などは、引継ぎが制限されます。共同事業要件などを満たす場合の例外もあるため、個別の確認が必要です。

    Q. 株式交換と株式移転は何が違いますか?

    株式交換は既存の会社を親会社にして他の会社を100%子会社にする手続、株式移転は新しく設立する会社を親会社にする手続です。既存の中核会社や資産管理会社を親会社にしたい場合は株式交換、新しい持株会社をつくりたい場合は株式移転が候補になります。

    Q. 兄弟会社を親子会社に組み替えることはできますか?

    株式交換により、一方の会社を他方の100%子会社にすることができます。オーナー個人とその親族が両社の株式を持っている場合は、グループ内の再編として税制適格要件を満たしやすくなりますが、交換比率の算定や、組み替え後の株価への影響を確認しておく必要があります。

    Q. グループ整理にはどのくらいの期間がかかりますか?

    手法と会社の数によりますが、債権者保護手続には1か月以上の期間が必要で、株主の整理や価格の算定を含めると、1年以上の計画になることも珍しくありません。承継や売却の時期から逆算して、早めに着手することが望まれます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税務からみたM&A・組織再編成のストラクチャー選択』佐藤信祐 著、中央経済社、2022年、第5章(P.257-278)
    • 『新版〔目的別〕組織再編の最適スキーム 法務・会計・税務』貝沼彩・北山雅一・清水博崇・齊藤修一 著、清文社、2020年、第3章(P.162-188)
    • 『令和7年版 図解組織再編税制』中村慈美 著、大蔵財務協会、2025年、第8章(P.501-518)
  • 会社を買った後の最初の100日|従業員・取引先・お金の流れ・旧オーナーからの引継ぎをどう進めるか

    会社を買った後の最初の100日|従業員・取引先・お金の流れ・旧オーナーからの引継ぎをどう進めるか

    会社を買った後の最初の100日で目指すべきことは、「事業を止めずに、人とお金の流れを自分たちの管理下に置き、旧オーナーから必要な知識を受け取ること」です。売上を伸ばす施策や大きな組織改革は、その後でも遅くありません。

    M&Aは契約の締結と代金の決済(クロージング)で一区切りを迎えますが、買い手にとっての本番はそこから始まります。従業員は不安を抱え、取引先は様子を見ており、社内の決裁やお金の流れは、まだ旧オーナーのやり方のままです。この時期の対応を誤ると、キーパーソンの離職や取引の縮小といった形で、買収の前提が崩れることがあります。

    この記事では、買収後の統合作業(PMI:Post-Merger Integration)のうち、中小企業の買い手オーナーが最初の100日で取り組みたいことを、順番に整理します。

    PMIとは何か、なぜ「最初の100日」なのか

    中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、PMIを「クロージング後の一定期間内に行う経営統合作業」と説明しています。また、中小企業庁は令和4年3月に、中小企業のPMIの「型」を示す「中小PMIガイドライン」を策定・公表しており、M&A成立前の取組(プレPMI)を含むPMIのプロセス全般について、会社の規模等に応じた取組を紹介しています。

    「100日」という区切りは、法令や制度で定められたものではありません。ただ、クロージング直後の数か月は、従業員や取引先が新しい経営者を見極める期間であり、同時に、旧オーナーの協力を得やすい期間でもあります。中小M&Aガイドラインでも、クロージング後の引継ぎ等の作業には3か月〜1年程度の時間を要することが多いとされています。最初の100日は、この引継ぎの土台を作る期間と考えるとよいでしょう。

    PMIはクロージング前から始まっている

    最初の100日を円滑に進めるには、クロージング前の準備が欠かせません。買収前の調査(デュー・ディリジェンス)で見つかった課題は、価格や契約条件の調整に使われるだけでなく、買収後に何から手を付けるかを決める材料になります。買収前の調査については、関連記事「会社を買う前に確認したいリスク」で整理しています。

    クロージング前に決めておきたいのは、次のような事項です。

    • 統合の方針:対象会社の独立性をどの程度残すか、どの機能から自社のやり方に合わせるか
    • クロージング当日の発表の段取り:誰が、いつ、誰に、何を伝えるか
    • 旧オーナーの関与:引継ぎ期間、役職、報酬、協力の範囲(最終契約で定めることが多い)
    • 契約上の手当て:賃貸借契約や取引基本契約にある、株主や経営者が変わった場合の条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)への対応

    特に最後の点について、中小M&Aガイドラインでは、リース・賃貸借・金銭消費貸借等の契約の名義変更や保証人の変更について、クロージング前に相手方との協議を始めることが多いと指摘しています。

    最初の100日でやること:時期ごとの整理

    時期人(従業員・組織)お金(決裁・資金・会計)関係(取引先・金融機関)旧オーナーからの引継ぎ
    クロージング当日〜1週間全従業員への説明、キーパーソンとの個別面談預金口座の権限・印鑑・決裁権限の確認と変更主要取引先・金融機関への挨拶と説明引継ぎの範囲と進め方の確認
    〜1か月不安や疑問の聞き取り、当面の処遇の明示支払・入金の流れと承認ルールの統一、月次の数字の把握契約の名義・条件の確認、保証人変更の手続き業務フロー・取引慣行・人間関係の聞き取り
    〜3か月役割分担の見直し、評価・給与制度の差異の把握会計方針・勘定科目・締め日の統一、税務の届出の確認取引条件の再確認、関係維持の方針決定社長個人に依存していた業務の移管
    〜100日中期の組織方針の共有予算と資金繰りの仕組みの定着新体制での関係の定着引継ぎ完了の確認と、その後の関与の整理

    ※AEGISが中小M&Aガイドラインの記載等を踏まえて整理した目安です。会社の規模や取引の形によって、順番や期間は変わります。

    以下、領域ごとに要点を見ていきます。

    人:従業員への説明とキーパーソンの確保

    最初の説明で伝えること

    従業員にとってM&Aは、ある日突然知らされる出来事であることが少なくありません。最初の説明では、次の点を誠実に伝えることが大切です。

    • なぜこの会社を引き継いだのか(買い手の思い)
    • 当面、何が変わらないのか(雇用、給与、勤務地、日常の業務など)
    • 何が変わる可能性があり、それはいつ頃、どう決めるのか
    • 不安や質問を誰に伝えればよいのか

    「何も変わりません」と言い切ってしまうと、後で制度を見直す際に信頼を失います。変わらないことと、これから一緒に考えることを分けて伝える方が、結果として誠実です。

    キーパーソンとの個別面談

    中小企業では、特定の従業員が取引先との関係や技術・ノウハウを一手に担っていることがよくあります。クロージング直後の早い段階で個別に話をし、役割への期待と処遇を伝えることが、離職の防止につながります。

    雇用関係と制度の違い

    株式譲渡では会社そのものは変わらないため、従業員の雇用は原則としてそのまま続きます。一方、事業譲渡の場合は、従業員の雇用を引き継ぐための手続きが別に必要になり、中小M&Aガイドラインでも、事業譲渡の場合の作業として給与体系・就業規則その他の人事労務関係の統一が挙げられています。

    いずれの場合も、買い手の会社と給与水準や評価制度が違うことは珍しくありません。最初の100日では、制度を急いで統一するよりも、違いを把握し、見直しの方針と時期を示すことを優先します。

    お金:決裁・資金管理・会計の統一

    決裁と資金の権限を最初に押さえる

    買い手オーナーが最初の1週間で確実に行いたいのが、お金の流れに関する権限の確認と変更です。

    • 預金口座のインターネットバンキングの権限、通帳・印鑑・カードの管理者
    • 支払の承認者と承認の上限額
    • 会社のクレジットカードや経費精算のルール
    • 旧オーナーと会社の間の貸付金・借入金、立替えの有無

    旧オーナーの個人的な支出が会社の経費として処理されていた場合、そのルールを新体制に合わせて改める必要があります。会社と個人の区別を明確にすることは、税務上も重要です。

    月次の数字が見える状態にする

    中小企業では、決算書は作っていても、月次の損益や資金繰りを把握する仕組みが整っていないことがあります。最初の1か月で、月次試算表と資金繰り表を作れる状態にし、締め日や勘定科目の使い方を買い手の会社と揃えていきます。

    関係:取引先と金融機関への対応

    主要な取引先には、クロージング直後に新しい経営者が直接挨拶に出向き、取引を継続する意思を伝えることが基本です。取引の継続に不安を持たれやすい相手から優先して訪問します。

    金融機関との関係では、旧オーナーの経営者保証の扱いが重要な論点になります。中小M&Aガイドライン(第3版)では、旧オーナーの経営者保証を買い手側に移行させる想定であったにもかかわらず移行しない、といったトラブルが指摘されています。保証の解除や移行は、最終契約で定めた内容に沿って、クロージング後速やかに進めます。旧オーナーとの信頼関係を保つうえでも、買い手が責任をもって取り組むべき事項です。

    旧オーナーからの引継ぎ

    旧オーナーは、数字に表れない知識の持ち主です。取引先ごとの経緯や約束事、従業員の人柄や関係、設備の癖、地域との関わりなど、文書になっていない情報が多くあります。

    中小M&Aガイドラインでも、クロージング後も譲り渡し側の経営者は円滑な引継ぎに向けて誠実に対応する必要があるとされ、最終契約で協力義務を定めている場合はそれを果たす必要があるとされています。引継ぎを実のあるものにするため、買い手の側でも次の点を意識します。

    • 引継ぎの期間・頻度・範囲を、旧オーナーと書面で確認する
    • 旧オーナーにしかできない業務(特定取引先との窓口、見積りの判断など)を洗い出し、移管の順番を決める
    • 旧オーナーの役職と社内での発言の位置づけを明確にし、従業員が「誰の指示に従えばよいか」迷わないようにする

    旧オーナーの立場から見た引継ぎの期間や報酬の考え方は、関連記事「M&A後に売り手オーナーが担う役割と条件」で扱っています。

    税務の統合:最初に確認したい手続きと論点

    税務は目立たない分野ですが、手続きの漏れが後の負担につながります。最初の3か月で確認しておきたい事項は次のとおりです。

    確認事項内容留意点
    事業年度(決算期)買い手と決算期を揃えるか定款等の会計期間を変更した場合は、遅滞なく所轄税務署長への届出が必要(法人税法15条)
    役員給与役員の交代に伴う報酬の改定期中の改定は、職制上の地位の変更などの臨時改定事由による場合などを除き、損金算入に影響することがある
    会計方針減価償却・引当金・収益の計上基準など統一は翌期からとするなど、無理のない時期を選ぶ
    過去の申告買収前の調査で見つかった論点修正が必要なものは、新体制で速やかに対応方針を決める
    組織再編の予定合併等で会社を一つにするか繰越欠損金の引継ぎ制限など、税務上の影響を事前に確認する

    ※AEGISが法人税法・国税庁の情報をもとに整理。届出書の種類や期限は個別事情により異なります。

    役員給与については、国税庁のタックスアンサーNo.5211で、定期同額給与として認められる改定の範囲(事業年度開始から3か月以内の改定、臨時改定事由による改定、業績悪化改定事由による減額改定)が示されています。新しい代表者の報酬をいつ、いくらに改定するかは、決議の時期とあわせて検討します。代表者の急逝や交代に伴う増額が臨時改定事由に当たるかどうかは、地位や職務の内容に重大な変更があったかで判断され(法人税法施行令69条1項1号、法人税基本通達9-2-12の3)、承継や交代があれば当然に認められるわけではありません。

    また、買収後に対象会社を自社と合併させる予定がある場合は、繰越欠損金の扱いに注意が必要です。詳しくは関連記事「繰越欠損金がある会社の売買」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 「変えないこと」を決めるのも統合の一部:対象会社の強みである現場の裁量や取引先との関係まで、自社流に合わせる必要はありません。
    • 数字の把握を最優先にする:月次の損益と資金繰りが見えない状態で、改革に着手しないようにします。
    • 旧オーナーの協力に頼りすぎない:引継ぎ期間は有限です。期間中に「誰が何を引き継ぐか」を具体的に決めておきます。
    • 情報発信の窓口を一つにする:買い手側の複数の担当者がばらばらに指示を出すと、現場が混乱します。
    • 公的なツールも参考にする:中小企業庁は、中小PMIガイドラインのほか、PMI実践ツールと活用ガイドブックも公表しています(令和6年3月策定)。

    AEGISの視点

    PMIというと、制度やシステムの統合を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかしAEGISは、中小企業のPMIの中心は「旧オーナーが一人で担っていた役割を、新しい体制の誰に、どう分けて渡すか」にあると考えています。

    中小企業では、経営者が営業・人事・資金管理・取引先との関係を一人で抱えていることが珍しくありません。株式を取得しても、こうした役割は自動的には移りません。最初の100日は、その役割を一つずつ確認し、新しい担い手に渡していく期間です。

    もう一つ大切にしたいのは、統合の過程を「会社の器」と「オーナー個人の資産」の整理と切り離さないことです。対象会社が使う不動産を誰が持つか、旧オーナーとの貸借関係をどう清算するか、買い手グループの中で会社をどう位置づけるか。これらを早い段階で整理しておくことが、数年後の再編や承継の選択肢を広げます。

    会社を買うことは、事業とともに、そこで働く人と、旧オーナーが築いてきた関係を引き受けることです。その重みを受け止めたうえで、最初の100日を丁寧に過ごすことが、M&Aを成功に近づけると考えています。

    なお、売り手の立場から「渡せる会社」を整える準備については、親記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で整理しています。買い手として引き継ぐ際にも、どこが整っていて、どこが整っていないかを見極める視点として役立ちます。

    まとめ

    • 最初の100日の目標は、事業を止めずに、人とお金の流れを管理下に置き、旧オーナーから必要な知識を受け取ることです。
    • PMIはクロージング前から始まります。統合方針、当日の発表、旧オーナーの関与、契約上の手当てを事前に決めておきます。
    • 従業員には「変わらないこと」と「これから考えること」を分けて伝え、キーパーソンとは早期に個別に話をします。
    • 決裁・口座の権限、月次の数字、取引先・金融機関への対応、経営者保証の移行を優先して進めます。
    • 決算期の変更届出、役員給与の改定時期、会計方針の統一、組織再編時の欠損金など、税務の手続きと論点も早めに確認します。

    よくある質問

    Q. PMIは、買収後いつまでに終わらせるべきですか?

    法令などで定められた期限はありません。中小M&Aガイドラインでは、クロージング後の引継ぎ等の作業に3か月〜1年程度を要することが多いとされています。最初の100日で土台を作り、制度の統一や組織の見直しは、その後1年程度をかけて進めるのが現実的です。

    Q. 従業員への説明は、買い手と旧オーナーのどちらが行うべきですか?

    両者がそろって説明する形が望ましいと考えます。旧オーナーが会社を託した理由を語り、買い手が今後の方針と当面変わらないことを伝えることで、従業員の不安は和らぎやすくなります。説明の内容と順番は、クロージング前に両者で打ち合わせておきます。

    Q. 買収した会社の決算期は、自社に合わせて変更すべきですか?

    グループとしての管理や決算の作業を考えると、揃えるメリットはあります。ただし、変更すると変更前後で事業年度が短くなる期間が生じ、申告の回数や税務の計算にも影響します。定款等の会計期間を変更した場合は、遅滞なく所轄税務署長に届け出る必要があります。

    Q. 旧オーナーにはどのくらいの期間、会社に残ってもらうべきですか?

    業種や引き継ぐ内容によって異なります。特定の取引先との関係や技術が旧オーナー個人に依存している場合は、一定期間の関与が必要です。一方で、関与が長引くと、従業員が誰の指示に従えばよいか迷う原因にもなります。期間と役割を最終契約や覚書で明確にしておくことが大切です。

    Q. 統合のために、外部の専門家はどの段階で関わるべきですか?

    クロージング前、特に買収前の調査の段階から関わってもらうのが理想です。調査で見つかった課題をもとに、統合の優先順位を決められるからです。税務・労務・法務など、分野ごとに論点があるため、それぞれの専門家と統合の計画を共有しておくと、手続きの漏れを防げます。

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    書籍

    • 『企業買収の実務プロセス』木俣貴光 著、中央経済社(第3部 第12章 統合準備、第13章 経営統合)
    • 『M&Aを成功に導く 税務デューデリジェンスの実務〈第3版〉』デロイト トーマツ税理士法人 編、中央経済社(第7章 税務デューデリジェンスとPMI)
  • 後継者が決まる前にできる事業承継の準備|今のうちに整えておきたい6つのこと

    後継者が決まる前にできる事業承継の準備|今のうちに整えておきたい6つのこと

    「後継者が決まらないから、事業承継の話はまだ先」——そう考えているオーナーは少なくありません。しかし、事業承継の準備の多くは、誰に継ぐかが決まっていなくても進められるものです。

    むしろ、後継者が未定の期間こそ、承継先が親族であっても、社内の役員・従業員であっても、社外の第三者であっても共通して必要になる「土台づくり」に集中できる時期です。この記事では、後継者が決まる前に整えておきたい準備を6つに整理して解説します。

    結論:後継者未定でも「継げる会社」にする準備はできる

    後継者が決まる前にできる準備は、大きく言えば次の3つの方向に分けられます。

    1. 会社を知る:自社の強み、社長に依存している部分、財務や株主の状況を見える化する
    2. 会社を整える:経営体制や財務を磨き上げ、誰が引き継いでも経営できる状態に近づける
    3. 境界を整える:会社とオーナー個人の財産・債務・保証の関係を整理する

    これらは、後継者候補にとって「引き継ぎたい」と思える会社にすることでもあり、結果として後継者の選択肢を広げることにもつながります。

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」でも、事業承継に向けたステップとして、計画策定や承継の実行の前に「経営状況・経営課題等の把握(見える化)」と「事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)」を位置付けています。

    準備1:社長に依存している部分を書き出す

    中小企業では、取引先との関係、技術やノウハウ、重要な判断の多くが社長個人に集中していることがあります。こうした要素は、決算書には表れませんが、事業の価値そのものです。

    まず取り組みたいのは、次のような項目を書き出すことです。

    • 社長が直接担っている取引先・金融機関との関係
    • 社長しか知らない業務の手順や判断基準
    • 社長の承認がなければ動かない意思決定
    • 会社の強みが「人」に依存しているのか、「仕組み」として組織に根付いているのか

    ポイントは、特定の個人と一緒に去ってしまう強みと、仕組みとして会社に定着している強みを見分けることです。前者が多いほど、承継には時間がかかります。後継者が決まる前から、属人的な強みを少しずつ組織の仕組みへ移していくことが、承継をスムーズにします。

    準備2:経営と財務を磨き上げる

    「磨き上げ」とは、事業承継に向けて会社の価値や経営の安定性を高める取り組みです。事業承継ガイドラインでも、本業の競争力強化や経営体制の総点検などが例示されています。

    後継者が未定の段階で特に意識したいのは、次の点です。

    • 決算の透明性:会社の実態が決算書から読み取れる状態か。私的な支出と事業の支出が混在していないか
    • 組織の役割分担:役員・幹部社員の職務や権限が明確か
    • 事業の将来性:今後も収益を生む事業と、見直しが必要な事業を区別できているか

    親族が継ぐ場合でも、社内の人材が継ぐ場合でも、社外へ引き継ぐ場合でも、「中身が分かり、仕組みで回る会社」は評価されやすく、引き継ぐ側の不安も小さくなります。

    準備3:株主構成を把握し、分散を防ぐ

    後継者が誰であれ、会社を安定して経営するには、一定の議決権を確保する必要があります。株主総会の普通決議(役員の選任など)は原則として出席株主の議決権の過半数、特別決議(定款変更など)は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条・341条)。

    後継者が決まる前に確認しておきたいのは、次のような点です。

    • 株主名簿に記載された株主と、実際の出資者が一致しているか(いわゆる名義株の有無)
    • 親族、元役員、取引先などに株式が分散していないか
    • 定款に、株式の譲渡制限や、相続人等に対する売渡請求の定めがあるか

    株式は、相続のたびに分散が進む傾向があります。分散した株式を後から集約するには、相手方との交渉や買取資金が必要になり、時間がかかります。後継者が決まってから集約を始めるのでは間に合わないことがあるため、早めに状況を把握しておくことが大切です。

    準備4:会社と個人の財産・債務の関係を整理する

    オーナー企業では、会社と個人の財産が入り組んでいることが珍しくありません。

    確認したい関係承継時に起こり得ること
    会社が使う土地・建物をオーナー個人が所有している株式とは別に不動産の承継先を決める必要がある
    オーナーから会社への貸付金がある貸付金は相続財産となり、後継者以外の相続人が取得することもある
    会社の借入れにオーナーが経営者保証をしている後継者が保証を引き継ぐかどうかが論点になる

    経営者保証については、事業承継ガイドラインでも後継者にとって承継の障害になり得ることが指摘されており、金融機関向けには事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則も設けられています。保証の内容や解除の可能性は、金融機関との関係も含めて早めに確認しておきたい項目です。

    準備5:自社株式の評価額と相続税のおおよその水準を知る

    自社株式の評価額は、業績や会社の財産の状況によって変動します。評価額を知らないまま時間が経つと、業績が良いほど評価額が上がり、後から対策の選択肢が狭まることがあります。

    後継者が決まる前の段階では、精緻な計算までは必要ありません。次の2点を把握しておくだけでも、判断の材料になります。

    • 現時点での自社株式のおおよその評価額と、その主な要因
    • オーナー個人に相続が発生した場合の相続税のおおよその水準と、納税資金の見通し

    なお、相続税の申告・納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。万一に備えるという意味でも、現状の水準を知っておくことには意味があります。

    準備6:承継の選択肢と「後継者に求める条件」を言葉にする

    後継者が決まらない理由の一つは、オーナー自身が「どのような人に継いでほしいか」を整理しきれていないことにあります。

    • 経営者としてどのような資質・経験を求めるか
    • 経営を任せる人と、株式を持つ人は同じである必要があるか
    • 親族、社内の役員・従業員、社外の第三者のうち、どの選択肢を排除しないか

    事業承継ガイドラインでも、後継者がいない場合の選択肢としてM&Aなどの社外への引継ぎが示されています。最初から選択肢を狭めず、それぞれの可能性を並べて比較できる状態にしておくことが、後の判断を楽にします。

    実務上注意したいポイント

    • 準備を「後継者探し」と同一視しない:上記の準備は、後継者が誰になっても無駄になりません。
    • 税金の対策だけを先行させない:株価を下げる対策などを先に実行すると、承継方針が決まった後に組み直しが必要になることがあります。
    • 期限のある制度を意識する:法人版事業承継税制(特例措置)を利用するには、令和9年(2027年)9月30日までに特例承継計画を都道府県に提出する必要があります(中小企業庁)。利用の可能性があるなら、後継者の目処とあわせて早めに検討しておきたいところです。
    • 万一の事態に備える:オーナーが急に経営できなくなった場合に、誰が会社の意思決定を担い、株式の議決権をどう行使するのかも、後継者が未定の段階から考えておくべき論点です。

    AEGISの視点

    後継者が決まらない期間を、AEGISは「所有と経営の形を、白紙から考え直せる貴重な時間」と捉えています。

    後継者が決まると、多くの場合「その人に株式も経営もすべて渡す」前提で話が進みます。しかし本来、会社を率いる人と、会社を所有する主体は、同じである必要はありません。経営は社内の人材に任せ、株式は家族が保有し続ける。あるいは、会社の不動産は資産管理会社が持ち、事業会社は身軽にする。事業を通じて得た価値の一部を、財団などを通じて社会に還元していく——こうした設計は、後継者が決まってからでは選びにくく、時間のある今だからこそ検討できるものです。

    どの形が適しているかは、事業の性質や家族の状況によって大きく異なります。大切なのは、後継者が決まるのを待つのではなく、どのような人が現れても引き継げる会社と所有の形を、オーナー自身が先に描いておくことです。

    事業承継の全体像や整理の順番については、関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で解説しています。

    まとめ

    • 事業承継の準備の多くは、後継者が決まる前から進められます。
    • 「会社を知る」「会社を整える」「会社と個人の境界を整える」の3方向で準備するのが基本です。
    • 株主構成の整理や経営者保証の確認は、時間がかかるため早めの着手が重要です。
    • 後継者に求める条件や承継の選択肢を言葉にしておくことが、後継者選びを前に進めます。
    • 準備の内容や優先順位は、会社と家族の状況によって異なります。

    よくある質問

    Q. 後継者がいない場合、廃業するしかないのでしょうか?

    そうとは限りません。親族以外にも、社内の役員・従業員や、M&Aによる社外への引継ぎといった選択肢があります。事業承継ガイドラインでも、後継者がいない場合の選択肢としてM&A等が示されています。どの選択肢が現実的かを比較するためにも、会社の見える化や磨き上げを先に進めておくことが有効です。

    Q. 後継者が決まる前に、自社株式を贈与しておいたほうがよいですか?

    承継先が決まっていない段階で株式を移すと、後から経営権の集中が難しくなるおそれがあります。まずは評価額と株主構成を把握し、方針が定まった段階で移転の方法や時期を検討するのが一般的な順番です。具体的な判断は個別事情によって異なります。

    Q. 分散している株式は、どのように集約すればよいですか?

    株主との合意による買取り、会社による自己株式の取得、定款の定めに基づく相続人等への売渡請求などの方法が考えられます。ただし、それぞれ手続きや税務上の取扱い、買取資金の確保といった論点があるため、株主構成と会社の状況を踏まえて検討する必要があります。

    Q. 会社が使っている不動産をオーナー個人が持っている場合、何に注意すべきですか?

    株式を後継者に渡しても、不動産が別の相続人に渡ると、会社が事業用不動産を使い続けられるかが不安定になることがあります。不動産の所有者を誰にするか、会社との賃貸借の条件をどうするかを、株式の承継とあわせて考えておくことが大切です。

    Q. 準備は何から手を付けるのが現実的ですか?

    まずは、株主名簿と定款、直近の決算書、オーナー個人の主な財産と保証の一覧をそろえることから始めるのが現実的です。資料がそろうと、どこに課題があるかが見えやすくなります。

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    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。
    • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    その他参考資料

  • 事業承継は何から始めるべきか|後継者・株式・税金・経営体制を整理する順番

    事業承継は何から始めるべきか|後継者・株式・税金・経営体制を整理する順番

    「そろそろ事業承継を考えなければ」と思ったとき、多くのオーナーが最初に手を付けるのは、後継者を誰にするかという問いか、相続税がいくらかかるかという試算のどちらかです。どちらも重要ですが、いずれか一つから始めると、他の論点が後回しになり、あとで組み直しが必要になることがあります。

    結論から言えば、事業承継は「誰に継ぐか」を決める前に、「何を継ぐのか」を棚卸しすることから始めるのが、遠回りに見えて最も確実です。この記事では、後継者・株式・税金・経営体制という4つの論点を、どの順番で、どの深さまで整理すればよいかを解説します。

    事業承継とは何を引き継ぐことか

    事業承継というと「社長が交代すること」をイメージしがちですが、実際に引き継ぐものはもっと広範囲です。

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」では、事業承継の構成要素を次の3つに整理しています。

    構成要素主な内容
    人(経営)の承継経営権・代表者の地位、経営者としての役割
    資産の承継自社株式、事業用資産、債権・債務など
    知的資産の承継人材、技術・ノウハウ、顧客との関係、経営理念など、貸借対照表に表れない資産

    AEGISでは、オーナーの意思決定という観点から、これをさらに次の4つの視点で捉え直すことをおすすめしています。

    • 経営:誰が会社を率い、意思決定するのか
    • 所有:誰が株式(議決権)を持ち、会社を支配するのか
    • 財産:会社の財産とオーナー個人の財産をどう区分し、どう次世代へ移すのか
    • 家族:後継者以外の家族の意向や公平感をどう扱うのか

    この4つは互いに影響し合います。たとえば「経営は長男に任せたい」という判断(経営)は、「株式を長男に集中させる」という判断(所有)を必要とし、それは「他の相続人に何を渡すか」(財産・家族)という問題を生みます。どれか一つだけを先に確定させると、他の視点で無理が生じるのはこのためです。

    なぜ「早く始める」ことが重要なのか

    事業承継ガイドラインは、経営者がおおむね60歳頃には事業承継の準備に着手することが望ましいとしています。また、後継者の育成を含めた準備には、3年以上を要するケースが半数を超え、10年以上かかるケースも少なくないことが示されています。

    早く始めるべき理由は、単に時間がかかるからだけではありません。

    • 選択肢が多いうちに判断できる:株式の移転方法(贈与・売買・相続など)や時期は、時間があるほど比較・分散ができます。
    • 後継者の育成に時間を充てられる:経営者としての経験は、短期間では身に付きません。
    • 不測の事態に備えられる:健康上の問題などで承継が突然始まると、準備不足のまま相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)を迎えることになります。

    「まだ元気だから」「後継者が決まっていないから」は、準備を先送りする理由にはなりません。後継者が未定でも進められる準備は数多くあります(関連記事:後継者が決まる前にできる準備)。

    最初に整理すべきこと:4つの視点の「現状把握」

    事業承継の第一歩は、現状を正確に知ることです。事業承継ガイドラインも、準備の必要性を認識したあとのステップとして「経営状況・経営課題等の把握(見える化)」を挙げています。

    AEGISでは、4つの視点ごとに次の項目を確認することから始めます。

    経営:会社は「社長がいなくても」回るか

    • 業績の推移と、今後数年の見通し
    • 社長個人に依存している業務・判断・取引先との関係
    • 幹部社員の役割分担と、意思決定の仕組み

    社長しか知らないこと、社長しか決められないことが多いほど、承継には時間がかかります。

    所有:株式は今、誰が何株持っているか

    • 株主名簿と実際の株主が一致しているか
    • 親族や元役員などに株式が分散していないか
    • 定款に株式の譲渡制限や相続人等に対する売渡請求の定めがあるか

    会社の重要事項は株主総会で決まります。役員の選任などの普通決議は原則として出席株主の議決権の過半数、定款変更などの特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条・341条)。後継者が安定して経営するには、どの程度の議決権を確保できるかを早い段階で把握しておく必要があります。

    財産:会社と個人の境界はどうなっているか

    • 自社株式のおおよその評価額
    • オーナー個人の財産のうち、自社株式・不動産・金融資産の割合
    • 会社が使っている不動産をオーナー個人が所有していないか
    • オーナーから会社への貸付金、会社借入れに対する経営者保証

    中小企業では、会社の事業と個人の財産が密接につながっていることが少なくありません。この境界が曖昧なままだと、株式だけを移しても事業が回らない、あるいは相続のときに想定外の論点が出てくることがあります。

    家族:誰が、何を望んでいるか

    • 後継者候補本人に、継ぐ意思があるか
    • 後継者以外の家族が、会社や財産についてどう考えているか
    • 配偶者や子の生活資金をどう確保するか

    家族の意向は、税金や株価よりも数値化しにくい一方で、承継の成否を最も大きく左右する要素の一つです。

    整理する順番:「方針」→「方法」→「税金」

    現状が見えたら、次は判断の順番です。AEGISでは、次の順で整理することをおすすめしています。

    1. 方針を決める:事業を継続するか、誰に(親族・社内・社外)引き継ぐ方向か、いつ頃を目安にするか
    2. 経営と所有の設計を決める:経営をいつ、誰に任せるか。株式をいつ、どの方法で、誰に移すか
    3. 財産全体の配分を考える:後継者以外の家族に何を渡すか、納税資金をどう確保するか
    4. 税金を最適化する:上記の方針の範囲内で、税負担を抑える方法を検討する

    ここでのポイントは、税金の最適化を最後に置くことです。税負担の軽減は重要ですが、税金を基準に経営や所有の設計を決めると、後継者の経営権が不安定になったり、家族間の公平が損なわれたりすることがあります。税金は「方針を実現するための手段の一つ」として位置付けるのが、長期的に見て合理的です。

    なお、経営を任せる時期と株式を移す時期は、必ずしも同じである必要はありません。たとえば、代表者は早めに交代し、株式は段階的に移すといった設計も考えられます。

    また、株式の引き継ぎ先は家族や社内・社外の後継者だけとは限りません。会社の経営と議決権は後継者に任せ、株式の一部(たとえば議決権のない配当優先株式)を財団に寄附して、配当を社会貢献に充てるという「社会貢献を軸にした承継」の形もあります。自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団に基金を設ける形であれば、後継者に財団運営の負担を残さずに済みます(AEGISが設立したアイジスレガシー財団もその一つです)。事業承継税制との比較は関連記事「法人版事業承継税制(特例措置)を使うか・使わないかの判断」で、財団の設計は「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    事業承継税制には期限がある

    非上場株式の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する「法人版事業承継税制(特例措置)」を利用するには、事前に「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。中小企業庁によれば、提出期限は令和9年(2027年)9月30日まで、対象となるのは平成30年(2018年)1月1日から令和9年(2027年)12月31日までの贈与・相続等です。

    制度の利用を検討する可能性があるなら、期限から逆算して早めに方針を整理しておくことが大切です。ただし、この制度は適用後も一定の要件を継続して満たす必要があり、利用が適しているかどうかは会社や家族の状況によって異なります。

    経営者保証も承継の論点になる

    会社の借入れに対する経営者保証は、後継者にとって事業承継の障害になり得ることが、事業承継ガイドラインでも指摘されています。金融機関向けには、事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則も設けられています。借入れの状況と保証の有無は、早い段階で確認しておきたい項目です。

    計画は「完成させる」より「共有する」

    事業承継の準備は、資料を作ること自体が目的ではありません。現経営者と後継者候補、家族、幹部社員が、同じ現状認識と方向性を共有できているかが重要です。事業承継計画の具体的な項目については、関連記事(事業承継計画に含める項目)で詳しく解説しています。

    AEGISの視点

    事業承継は、税務の問題として語られることが多いテーマです。しかしAEGISは、事業承継を「会社の所有と経営の形を、次の世代に合わせて設計し直す機会」と捉えています。

    オーナーが築いてきたものは、会社だけではありません。会社が使う不動産、個人の金融資産、家族との関係、地域や社会とのつながり——それらはすべて、事業承継のときに同時に動きます。会社の株式だけを見て最適化しても、不動産の所有形態や家族の生活資金、あるいはオーナー自身の「事業を通じて社会に何を残したいか」という思いが置き去りになれば、承継は本当の意味で完了しません。

    そのためAEGISでは、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として整理し、その上で個々の対策を位置付けることを重視しています。最初の一歩は、精緻な計算ではなく、オーナー自身の言葉で「何を、誰に、どのような形で残したいか」を書き出してみることです。

    事業承継に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 事業承継で引き継ぐのは、経営・所有・財産・家族にまたがる「事業の全体」です。
    • 最初に行うべきは、後継者の決定や税金の試算ではなく、4つの視点での現状把握です。
    • 整理の順番は「方針 → 経営と所有の設計 → 財産全体の配分 → 税金の最適化」が基本です。
    • 準備には年単位の時間がかかります。60歳前後を一つの目安に、早めに着手することが望まれます。
    • 事業承継税制の特例措置を検討する場合は、特例承継計画の提出期限(令和9年9月30日)に注意が必要です。

    具体的にどの対策が適しているかは、会社の状況や家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 後継者が決まっていなくても、事業承継の準備は始められますか?

    始められます。株主構成や会社と個人の財産の関係の整理、社長に依存している業務の見える化、自社株式の評価額の把握などは、後継者が誰であっても必要になる準備です。むしろ、これらを進めることで後継者の選択肢が広がることもあります。

    Q. 事業承継は何歳頃から準備すべきですか?

    中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、おおむね60歳頃には準備に着手することが望ましいとされています。後継者の育成を含めると3年以上かかるケースが半数を超えるため、年齢にかかわらず「思い立ったとき」が着手のタイミングと考えるのが現実的です。

    Q. まず相続税の試算から始めるべきではないのですか?

    試算自体は早い段階で行う価値があります。ただし、試算結果だけを基準に対策を決めると、経営権や家族間の公平といった他の重要な要素が後回しになりがちです。試算は現状把握の一部として行い、対策の判断は方針を決めた後に行うのが望ましい順番です。

    Q. 経営を譲るタイミングと株式を渡すタイミングは同じでなければなりませんか?

    同じである必要はありません。代表者の交代と株式の移転を段階的に分けて設計することも可能です。ただし、後継者が経営判断を行うために必要な議決権を、どの時点でどの程度確保できるかは慎重に検討する必要があります。

    Q. 事業承継税制は必ず使ったほうがよいのですか?

    一概には言えません。納税の猶予・免除を受けられる一方で、適用後も一定期間にわたって要件を満たし続ける必要があり、会社の将来の選択肢(組織再編や売却など)に影響することもあります。制度の期限を意識しつつ、自社の方針に合うかどうかを確認したうえで判断することが重要です。制度を使わない場合の選択肢には、贈与や売買のほか、株式の一部を財団に寄附して経営権は後継者に残す、社会貢献を軸にした承継もあります。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

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