カテゴリー: 法改正・制度改正

変更内容と施行時期、影響する方、検討すべき対応を整理します。

  • 相続土地国庫帰属制度で土地を手放すには|引き取られない土地の要件・負担金・相続放棄や売却との比較

    相続土地国庫帰属制度で土地を手放すには|引き取られない土地の要件・負担金・相続放棄や売却との比較

    相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺贈によって取得した土地を、一定の要件を満たす場合に、負担金を納めて国に引き取ってもらう制度です。令和5年(2023年)4月27日に始まりました(法務省)。

    ただし、どのような土地でも引き取ってもらえるわけではありません。建物が残っている土地や境界がはっきりしない土地は申請の段階で却下され、崖や埋設物などがあって管理に過大な費用がかかる土地は審査で不承認となります。また、審査手数料に加えて、原則20万円の負担金を納める必要があります。

    この記事では、制度を使える人と使えない土地、費用と手続の流れを整理したうえで、相続放棄・売却・活用と比べて、どのような土地なら国庫帰属を選ぶ意味があるかを、オーナーの判断の視点から解説します。

    相続土地国庫帰属制度とは

    この制度は、所有者不明土地の発生を予防することを目的に設けられました。「遠方に住んでいて使う予定がない」「周囲に迷惑をかけないよう管理し続ける負担が大きい」といった理由で、相続した土地を手放したいというニーズが高まっていることが背景にあります(法務省)。

    それまで、相続した土地だけを手放す一般的な方法はほとんどありませんでした。相続放棄をすれば土地を受け継がずに済みますが、預貯金や自宅などほかの財産もすべて受け継げなくなります。売却や寄附は、買い手や受け手が見つからなければ成立しません。国庫帰属制度は、「ほかの財産は相続したうえで、特定の土地だけを国に引き渡す」ための選択肢として位置付けられます。

    申請できる人

    • 相続または遺贈(相続人に対する遺贈)によって土地の所有権を取得した人
    • 制度が始まる前(令和5年4月27日より前)に相続した土地も対象です
    • 共有の土地は、共有者全員で申請する必要があります。共有者全員で共同申請する場合は、相続以外の方法で持分を取得した共有者も加わることができます

    一方で、売買や生前贈与で取得した土地は対象外です(法務省Q&A)。親から生前に贈与を受けた土地を後から手放したいと考えても、この制度は使えません。この点は、生前の財産移転を検討する段階で知っておきたいポイントです。

    引き取ってもらえない土地:却下要件と不承認要件

    制度の利用で最も重要なのが、対象外となる土地の要件です。法務省は、申請の段階で直ちに却下となる土地と、審査の結果として不承認となる土地を分けて示しています(相続土地国庫帰属法2条3項・4条・5条)。

    申請の段階で却下される土地

    • 建物がある土地
    • 担保権や使用収益権(抵当権、賃借権など)が設定されている土地
    • 通路など、他人による利用が予定されている土地
    • 土壌汚染されている土地
    • 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地

    審査の結果、不承認となる土地

    • 一定の勾配・高さがある崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
    • 土地の管理・処分を妨げる工作物、車両、樹木などが地上にある土地
    • 除去しなければならない有体物が地下にある土地
    • 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
    • その他、通常の管理・処分に過分な費用・労力がかかる土地

    要件を見ると分かるとおり、国が引き取るのは「更地で、境界が明らかで、権利関係が整理され、特別な管理を要しない土地」が基本です。裏返せば、申請の前に建物の解体、抵当権の抹消、境界の確認、残置物の撤去などを所有者側で済ませておく必要がある場合が少なくありません。

    費用:審査手数料と負担金

    費用金額・内容納めるタイミング
    審査手数料土地1筆あたり14,000円(収入印紙。却下・不承認でも返還されない)申請時
    負担金国有地となった後の10年分の標準的な管理費用を考慮して算定。原則20万円承認とあわせて届く負担金の額の通知を受けた日から30日以内
    申請前の準備費用建物の解体、境界の確認・測量、残置物の撤去、抵当権の抹消など(土地の状況による)申請前

    負担金は原則20万円ですが、市街化区域や用途地域内の一部の宅地、農用地区域などの一部の田畑、森林は、面積に応じて算定されます(法務省。算定方法は同法施行令5条で、土地の区分と面積の区分ごとに定められています)。隣接する同じ区分の2筆以上の土地は、一つの土地とみなして負担金を算定するよう申し出ることもできます(同施行令6条)。具体的な金額は、法務省が公表している算定方法で事前に確認しておくとよいでしょう。

    見落とされやすいのは、表の3行目の「申請前の準備費用」です。建物の解体費用は、構造や立地、地中の杭や埋設物の有無によって大きく変わります。境界標が見当たらない土地では、測量や隣地所有者との立会いが必要になることもあります。制度の手数料と負担金だけで比較すると、総額の見積りを誤るおそれがあります。

    手続の流れ

    1. 事前相談:土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局で相談できます
    2. 承認申請:申請書と添付書類を提出し、審査手数料を納めます。申請書の作成を代行できる専門家は、弁護士・司法書士・行政書士とされています
    3. 審査:書面審査に加え、法務局の担当者による現地調査が行われることがあります。標準処理期間は8か月とされ、事案によってはそれを超えることもあります
    4. 承認・負担金の納付:承認とあわせて負担金の額が通知され、その通知を受けた日から30日以内に負担金を納めると、その時点で土地の所有権が国に移ります。期限までに納めないと承認の効力が失われます(同法10条・11条)

    なお、偽りその他不正の手段で承認を受けたことが判明した場合は、承認が取り消され、損害賠償責任を負う可能性があるとされています(法務省Q&A)。申請時に把握している土地の状況は、正確に伝えることが前提です。

    運用状況から見えること

    法務省の統計(令和8年8月31日現在)によると、制度開始からの申請件数は5,997件、そのうち国庫に帰属した件数は3,119件です。一方、却下は85件、不承認は100件、取下げは1,139件となっています。

    取下げの主な理由を見ると、「有効活用の見込みが生じた」が586件と最も多く、「却下・不承認であることが判明した」が405件と続きます。申請をきっかけに隣地所有者や自治体などとの話が進み、結果として国庫帰属以外の形で土地の行き先が決まるケースが少なくないことがうかがえます。

    申請件数を地目別に見ると、田・畑が2,335件、宅地が2,091件、山林が902件です。農地や山林など、売却が難しい土地の受け皿として使われている様子が読み取れます。

    相続放棄・売却・活用との比較

    使わない土地を相続したとき、国庫帰属は選択肢の一つにすぎません。AEGISでは、次のように整理して比較することをおすすめしています。

    選択肢向いている場面主な注意点
    活用する(貸す・事業に使う)立地や需要があり、収益化の見込みがある初期投資・管理体制・撤退時の扱い
    売却する(隣地所有者への売却を含む)買い手が見つかる、または隣地に需要がある価格の折り合い、測量・解体などの売却準備
    寄附する(自治体・団体など)受け手に具体的な利用目的がある受け手が限られ、成立は相手次第
    国庫帰属売却・活用が難しく、要件を満たす状態にできる相続・遺贈で取得した土地に限る。手数料・負担金・準備費用
    相続放棄財産全体として負債が多い、または相続したい財産がない土地だけを選んで放棄することはできない。期限あり

    相続放棄との違い

    相続放棄は、家庭裁判所への申述によって、被相続人の権利や義務を一切受け継がないことにする手続です。申述は、原則として自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければなりません(裁判所)。

    相続放棄は「財産全体を受け継ぐかどうか」の判断であり、特定の土地だけを放棄することはできません。これに対して国庫帰属は、相続した後に、土地を一筆ごとに手放すかどうかを判断できる制度です。期限も設けられていないため、相続後しばらく管理してみてから判断することもできます。

    売却・活用との順番

    国庫帰属は負担金を支払って手放す方法です。売却できれば対価を受け取れますし、活用できれば収益が生まれます。そのため一般的には、「活用・売却の可能性を確かめる → 難しければ寄附や国庫帰属を検討する」という順番で考えるのが自然です。統計で「有効活用の見込みが生じた」ことによる取下げが多いことも、この順番が実務的であることを示しています。

    実務上注意したいポイント

    • 相続登記を先に済ませる:国庫帰属を申請するにも、相続した土地の権利関係を明確にしておく必要があります。相続登記の申請は義務化されており、期限があります。
    • 共有のまま相続しない:共有の土地は共有者全員でなければ申請できません。遺産分割の段階で、手放す予定の土地を誰が取得するかを決めておくと、後の手続が進めやすくなります。
    • 境界と現況の確認を早めに行う:境界標の有無、越境物、残置物、地中の埋設物などは、売却する場合も国庫帰属を申請する場合も確認が必要です。
    • 固定資産税と管理責任は帰属まで続く:国庫に帰属するまでは所有者です。審査期間中も草刈りや安全確認などの管理は欠かせません。
    • 具体的な可否は法務局で確認する:要件への該当性は土地ごとに判断されます。申請前に法務局の相談を活用すると、準備の範囲を見極めやすくなります。

    AEGISの視点

    国庫帰属制度は、「相続した土地は持ち続けるしかない」という状況に出口を設けた点で、意義の大きい制度です。一方でAEGISは、この制度を「最後の出口」として位置付け、その手前で検討すべきことを先に整理することが大切だと考えています。

    使っていない土地にも、隣地の所有者にとっては価値がある、地域の事業者が駐車場や資材置き場として求めている、といった需要が隠れていることがあります。立地や面積によっては、賃貸以外の事業で活用できる場合もあります。また、負担金と準備費用を払って手放すことと、低い価格でも売却することのどちらが合理的かは、土地ごとの管理コストや将来の見通しによって変わります。

    さらに、この制度は相続・遺贈で取得した土地が対象です。将来、子どもが使わないと分かっている土地がある場合、生前贈与で渡すと国庫帰属を使えなくなる点も含めて、「誰に、どの財産を、どの方法で渡すか」を相続全体の設計の中で考える必要があります。遺言で手放す予定の土地の取得者を定めておくことも、相続人の負担を減らす一つの方法です。

    相続した実家が空き家になった場合の売却・賃貸・保有の比較は関連記事「相続した実家が空き家になったときの選択肢」で、相続登記の義務化への対応は「相続登記と住所等変更登記の義務化への対応」で解説しています。農地を相続した場合の考え方は「相続した農地・生産緑地をどうするか」も参考になります。制度改正を自分の承継計画にどう当てはめるかは、「税制改正は自分の承継計画に関係するか」で全体像を整理しています。

    不動産の承継や評価にかかわる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 相続土地国庫帰属制度は、相続・遺贈で取得した土地を、要件を満たせば負担金を納めて国に引き取ってもらう制度です(令和5年4月27日開始)。
    • 建物がある土地、担保権が設定された土地、境界が不明な土地などは申請段階で却下され、崖や埋設物などがある土地は不承認となります。
    • 費用は審査手数料(1筆14,000円)と負担金(原則20万円、一部の土地は面積に応じて算定)に加え、解体や測量などの準備費用がかかることがあります。
    • 相続放棄は財産全体の判断、国庫帰属は土地ごとの判断です。活用・売却の可能性を確かめたうえで、出口の一つとして検討するのが現実的です。
    • 具体的な可否は土地ごとに異なるため、法務局での事前相談を活用することが望まれます。

    よくある質問

    Q. 相続してから何年も経っている土地でも申請できますか?

    申請できます。制度が始まった令和5年4月27日より前に相続した土地も対象とされています(法務省Q&A)。国庫帰属の申請には期限がないため、相続してから時間が経った土地でも検討できます。

    Q. 親から生前に贈与を受けた土地は対象になりますか?

    対象になりません。この制度を利用できるのは、相続または遺贈(相続人に対する遺贈)で土地を取得した人です。売買や生前贈与で取得した土地は対象外とされています。

    Q. 古い家が建ったままの土地でも申請できますか?

    建物がある土地は、申請の段階で却下される要件に当たります。原則として建物を解体してから申請することになります。解体を予定している場合の扱いは、申請予定の法務局に事前に相談しておくと安心です。

    Q. 兄弟で共有している土地はどうなりますか?

    共有の土地は、共有者全員で申請する必要があります。共有者のうち一人でも同意しない場合は申請できません。手放す可能性のある土地は、遺産分割の段階で単独の取得者を決めておくことも検討に値します。

    Q. 負担金はいつ、いくら払うのですか?

    負担金は原則20万円で、承認とあわせて届く負担金の額の通知を受けた日から30日以内に納めます。一部の宅地・農地と森林は面積に応じて算定されます。期限までに納めないと承認の効力が失われるため、資金をあらかじめ準備しておくことが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、2023年(2024年第5刷)、第4章 土地の調査・土壌汚染の調査(印刷 p.196-197、p.282)、第10章 建物解体(印刷 p.444-445)
  • 区分所有法の改正でマンション所有者に何が変わるか|決議要件の見直し・新しい再生手法と、所有者が備えたいこと

    区分所有法の改正でマンション所有者に何が変わるか|決議要件の見直し・新しい再生手法と、所有者が備えたいこと

    マンションのルールの土台である区分所有法が大きく改正され、令和8年(2026年)4月1日から施行されています。結論から言えば、今回の改正で変わったのは「管理組合が物事を決めやすくなった」ことと、「老朽化したマンションを建て替える以外の選択肢が増えた」ことです。

    決めやすくなるということは、裏を返せば、総会に参加しない所有者や連絡がつかない所有者の意思は、これまでより反映されにくくなるということでもあります。自宅として住んでいる方だけでなく、投資用に貸している方、親から相続したまま管理を任せきりにしている方こそ、影響を確認しておきたい改正です。

    この記事では、改正の要点を法務省の資料に沿って整理したうえで、所有者の立場ごとに何に備えるべきかを考えます。マンションの相続税評価については、関連記事「居住用マンションの相続税評価はどう変わったか」で扱っています。

    改正の概要:いつから、何が変わったのか

    今回の改正は、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第47号)によるものです。令和7年5月30日に公布され、区分所有法などの改正部分は令和8年4月1日に施行されました(法務省)。

    改正の柱は大きく二つです。

    • 管理の円滑化:集会(管理組合の総会)の決議を出席者の多数決で行えるようにする、所在が分からない区分所有者を決議の母数から除く、管理されていない専有部分・共用部分に裁判所が管理人を選任する制度を設ける、海外に住む所有者のための国内管理人の仕組みを設ける、など
    • 再生の円滑化:建替え決議の要件を一定の場合に緩和する、一棟リノベーション・建物と敷地の一括売却・取壊しなどを多数決で行えるようにする、建替え時の賃借人への補償の仕組みを設ける、など

    あわせて、国土交通省は令和7年10月17日に「マンション標準管理規約」を改正し、改正法に合わせた規約のひな型を示しています。

    管理の決議はどう変わったか

    普通決議:出席者の過半数で決まる

    管理費の額や修繕の実施など、日常的な事項を決める普通決議は、改正前は「区分所有者全員の頭数と議決権の各過半数」が原則でした。改正後は、総会に出席した区分所有者の頭数と議決権の各過半数で決まるのが法律上の原則になりました(区分所有法39条1項)。ここでいう出席者には、当日出席した人だけでなく、議決権行使書や委任状を提出した人も含まれます。

    ただし、普通決議の要件はもともと規約で別の定めを置くことが認められており、多くの管理組合は規約で独自の要件を定めています。実際にどの要件で決まるかは、自分のマンションの規約を見る必要があります。

    特別決議:定足数を満たせば、出席者の4分の3で決まる

    規約の変更や、形状・効用の著しい変更を伴う共用部分の変更などの特別決議は、改正前は区分所有者全員を母数として頭数と議決権の各4分の3以上が必要でした。改正後は、区分所有者と議決権の各過半数が出席すること(定足数)を前提に、出席者の頭数と議決権の各4分の3以上で可決できるようになりました(共用部分の変更は区分所有法17条1項、規約の変更は31条1項)。定足数は規約で引き上げることができ、共用部分の変更の4分の3の割合は、規約で2分の1を超える範囲まで引き下げることもできます。

    さらに、共用部分の変更のうち、次の場合は、要件が3分の2以上に緩和されます(同法17条5項)。

    • 共用部分の設置や保存の瑕疵によって他人の権利などが侵害され、またはそのおそれがある場合に、その瑕疵の除去に必要な変更(耐震性・防火性の不足、外壁等の剥落のおそれ、給排水管等の腐食などが典型例として説明されています)
    • 高齢者や障害者の移動の円滑化(バリアフリー化)のために必要な変更

    既存の規約はどうなるか

    改正法の施行の際に効力を持っている規約のうち、改正後の区分所有法に抵触する定めは、施行日から効力を失うとされています(改正法附則9条2項)。施行前に招集手続が始まった総会には改正前の規定が適用されるなど、経過的な取扱いも定められています。規約の見直しが済んでいなくても、法律上は改正後の要件で決議できる場面があるということです。

    項目改正前の原則改正後の原則
    普通決議全区分所有者の頭数・議決権の各過半数出席者の頭数・議決権の各過半数(規約で別段の定め可)
    一般的な特別決議全区分所有者の頭数・議決権の各4分の3以上各過半数の出席(定足数)+出席者の各4分の3以上
    共用部分の変更(緩和事由あり)上記と同じ各3分の2以上
    建替え・建物敷地売却など建替えは全区分所有者の各5分の4以上全区分所有者を母数に各5分の4以上(一定の事由で4分の3)

    ※AEGISが法務省資料・専門書籍をもとに整理した概要です。正確な要件は条文と各マンションの規約で確認してください。

    所在等不明の区分所有者を決議の母数から除く仕組み

    相続後に登記が放置されて相続人が分からない、住所を調べても連絡がつかない——こうした区分所有者がいると、全員を母数とする決議では「反対」と同じ扱いになり、必要な決議が成立しにくくなっていました。

    改正後は、裁判所が所在等不明と認めた区分所有者を、すべての決議の母数から除外できる制度が設けられました(区分所有法38条の2。除外された区分所有者は集会での議決権を有しないとされます)。建替えのように全区分所有者を母数とする決議でも、除外された人は母数に入りません。

    所有者の側から見ると、これは「連絡がつかない状態を放置すると、自分の持分が意思決定から外される」ことを意味します。相続したマンションの登記や住所の変更を後回しにしていると、管理組合からの通知が届かず、知らないうちに除外の手続が進む可能性もあります。相続登記や住所等の変更登記の義務化への対応は、関連記事「相続登記と住所等変更登記の義務化への対応」で整理しています。

    建替え・再生の決議はどう変わったか

    建替え決議:原則5分の4、一定の事由があれば4分の3

    建替え決議は、改正後も区分所有者全員を母数として頭数と議決権の各5分の4以上が原則です。ただし、次のような客観的な事由がある場合は、4分の3以上に緩和されました(区分所有法62条。各事由の基準は法務大臣が定めます)。

    • 耐震性の不足
    • 火災に対する安全性の不足
    • 外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれ
    • 給排水管等の腐食などによる衛生上の問題
    • バリアフリー基準への不適合

    建て替えない再生も、多数決で選べるように

    改正前は、老朽化したマンションの再生は「建替え」が中心でした。改正後は、次の手法も建替えと同等の多数決(原則5分の4、一定の事由で4分の3)で行えるようになりました。

    • 建物更新(一棟リノベーション):建物の骨格を残しながら、全体を大規模に改修する
    • 建物敷地売却:建物と敷地を一括して売却する
    • 建物取壊し敷地売却:建物を取り壊したうえで敷地を売却する
    • 取壊し:建物を取り壊す

    敷地を売却する決議では、頭数と議決権に加えて、敷地利用権の持分の価格の割合も多数決の基準に組み込まれます。また、政令で指定された大規模な災害で被災した場合は、被災区分所有法の特例により、建替えや建物更新、敷地売却、取壊しなどの決議要件が「3分の2」に緩和される仕組みも設けられています。

    賃借人がいる場合:補償金と賃貸借の終了

    建替え決議がされた場合に、賃借人に金銭の補償をすることを前提として、専有部分の賃貸借を終了させる制度が設けられました。賃貸借の終了を請求した日から6か月を経過すると賃貸借は終了し、その専有部分の区分所有者は、賃借人に対し、賃貸借の終了により通常生ずる損失の補償金を支払わなければなりません。賃借人は、補償金の提供を受けるまでは明渡しを拒むことができるとされています(区分所有法64条の2)。

    投資用に区分所有マンションを貸している方にとっては、補償金の支払義務は貸している区分所有者自身にあるため、建替え等が決まったときに、賃借人との関係をどう整理するか、補償の負担や時期をどう見込むかが、新たに考えるべき論点になります。

    管理されていない部屋・共用部分と、海外に住む所有者

    改正法では、マンションに特化した財産管理の制度も設けられました。

    • 所有者不明専有部分管理制度:所在等不明の区分所有者の専有部分について、裁判所が選任する管理人に管理させる制度。管理人が保存・利用・改良の範囲を超える行為(売却など)をするには、裁判所の許可が必要です(区分所有法46条の2・46条の3)
    • 管理不全専有部分管理制度・管理不全共用部分管理制度:ごみの放置や配管の腐食の放置、外壁の剥落の危険など、管理されていない状態の専有部分・共用部分を、裁判所が選任する管理人に管理させる制度

    また、区分所有者が国内に住所等を有しない場合(または有しないこととなる場合)に備えて、国内管理人を選任できる仕組みが設けられました。国内管理人は、保存行為や、総会の招集通知の受領、議決権の行使、管理費等の支払いなどを行うことができます。規約で国内管理人の選任を義務付けることも可能です。

    さらに、区分所有建物の管理について、区分所有者が相互に協力しなければならないという責務も明記されました(区分所有法5条の2)。

    所有者の立場別に見る影響

    同じ改正でも、マンションとの関わり方によって備えるべきことは異なります。

    所有者の立場主な影響確認したいこと
    自宅として居住修繕・規約変更が決まりやすくなる。建替え以外の再生も選択肢に長期修繕計画、修繕積立金の水準、総会資料
    投資用に賃貸総会を欠席すると意思が反映されにくい。建替え時は賃借人への補償が論点に管理会社任せの範囲、議決権行使の方法、賃貸借契約
    相続したまま保有登記・住所が古いと通知が届かず、所在等不明として扱われるおそれ相続登記、住所変更、管理費の引落し口座
    海外に居住国内管理人の選任を規約で求められる可能性規約の改正状況、代理人の確保

    ※AEGISによる整理です。実際の影響はマンションの規約・築年数・管理状況によって異なります。

    投資用マンションの管理を管理会社に委ねている場合でも、総会での議決権行使は所有者自身の判断です。管理委託の範囲や契約の確認点は、関連記事「賃貸管理を委託するときの契約の確認点」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 総会資料を「読むだけ」にしない:出席者多数決では、議決権行使書を出さないことがそのまま「判断を他の人に委ねる」ことになります。議案の要領は招集通知に示されるので、毎年の資料に目を通し、意思表示をする習慣をつけておきたいところです。
    • 規約の改正状況を確認する:改正法に抵触する規約は効力を失いますが、どの定めが残り、どこが改正されたかはマンションごとに異なります。
    • 「再生」の議論が始まったら早めに情報を集める:建替え・一棟リノベーション・敷地売却のどれを選ぶかで、所有者の負担や受け取る対価、退去の時期は大きく変わります。
    • 税金は再生の手法ごとに考え方が異なる:建物と敷地を売却する場合は譲渡所得の課税が問題になり得るなど、手法によって税務上の扱いが変わります。具体的な取扱いは個別に確認が必要です。

    AEGISの視点

    区分所有マンションは、所有権を持っていても、建物の将来を自分一人では決められない資産です。今回の改正は、その「決められなさ」を和らげるものですが、同時に、関与しない所有者の意思が反映されにくくなるという側面を持っています。

    AEGISは、マンションを保有するオーナーにとって大切なのは、改正の条文を覚えることよりも、「このマンションの将来の意思決定に、誰が、どのように関与するのか」を家族の中で決めておくことだと考えています。高齢の親が保有している場合、相続で子が複数で引き継ぐ場合、海外に住む家族が取得する場合——いずれも、総会の通知を誰が受け取り、誰が判断するのかが曖昧になりやすい場面です。

    また、老朽化が進んだマンションでは、「持ち続ける」「再生に参加する」「早めに手放す」の比較が現実的な課題になります。評価・収益・管理の負担・承継をあわせて考えることで、制度の変化を受け身ではなく、判断の機会として生かせます。改正情報を自分の資産に引き寄せて点検する考え方は、Pillar記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」でも整理しています。

    不動産の保有と承継に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 改正区分所有法は令和8年4月1日に施行され、管理と再生の両面で決議要件が見直されました。
    • 普通決議・特別決議は出席者を基準とする多数決が原則となり、所在等不明の区分所有者を母数から除く制度もできました。
    • 建替え決議は一定の事由があれば4分の3に緩和され、一棟リノベーションや敷地売却なども多数決で選べるようになりました。
    • 賃借人への補償、国内管理人、管理不全の部屋への管理人制度など、投資用・相続したマンションの所有者に関わる仕組みも加わりました。
    • 決めやすくなった分、所有者が意思表示をしないことの影響は大きくなります。規約・総会資料・登記と連絡先を点検しておくことが出発点です。

    よくある質問

    Q. 改正法は、改正前に建てられたマンションにも適用されますか?

    適用されます。改正後の規定は施行前に生じた事項にも原則として適用され、改正後の法律に抵触する既存の規約の定めは施行日から効力を失うとされています。ただし、施行前に招集手続が始まった総会など、経過的に改正前の規定が適用される場面もあります。

    Q. 総会を欠席して委任状も出さなかった場合、どう扱われますか?

    改正後の出席者多数決では、欠席して議決権も行使しなかった人は、決議の母数(出席者)に含まれません。結果として、出席した人や議決権行使書・委任状を提出した人の判断で物事が決まることになります。賛否を示したい場合は、議決権行使書などで意思表示をしておくことが大切です。

    Q. 建替え決議は、改正後は4分の3で決まるのですか?

    原則は改正後も5分の4です。耐震性の不足や外壁等の剥落のおそれ、給排水管等の腐食、バリアフリー基準への不適合など、法律が定める客観的な事由がある場合に限り、4分の3に緩和されます。

    Q. 投資用マンションの賃借人は、建替えが決まったらすぐに退去しなければなりませんか?

    改正法では、建替え決議がされた場合に、補償金の支払いを前提として賃貸借を終了させる制度が設けられました。請求の日から6か月で賃貸借は終了し、補償金は貸している区分所有者が支払うこととされています(区分所有法64条の2)。賃借人は補償金の提供を受けるまで明渡しを拒むことができるとされています。手続や期間の詳細は、実際に建替え等が具体化した段階で、契約内容とあわせて確認する必要があります。

    Q. 海外に住んでいる家族がマンションを相続した場合、何に注意すればよいですか?

    改正法では、国内に住所等を有しない区分所有者のために国内管理人を選任できる仕組みが設けられ、規約で選任を義務付けることもできます。総会の通知を確実に受け取り、議決権を行使できる体制を、相続の段階から考えておくことが望まれます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『Q&A マンション標準管理規約の改正 ―区分所有法改正と社会状況の変化に対応する標準管理規約の見直し―(令和7年10月改正)』渡辺晋 著、公益財団法人マンション管理センター 発行/大成出版社 発売、2026年、第1編(P.9-18)
    • 『マンション総会運営マニュアル ―管理組合の意思決定プロセスはこれでクリアに―』東京弁護士会 弁護士業務改革委員会 マンション部会 編、新日本法規出版、2026年、第1章(P.14-21)
  • 防衛特別法人税は中小企業にどう影響するか|計算の仕組み・基礎控除500万円・申告の流れと資金計画

    防衛特別法人税は中小企業にどう影響するか|計算の仕組み・基礎控除500万円・申告の流れと資金計画

    防衛特別法人税は、令和8年(2026年)4月1日以後に開始する事業年度から、法人税を納める法人に課される新しい税です。税額は、(基準法人税額 − 基礎控除額500万円)× 4% で計算されます(国税庁、根拠法13条・14条)。基準法人税額が基礎控除額以下であれば、税額は生じません。

    結論から言えば、基礎控除が500万円あるため、基準法人税額(後述)が年500万円以下の会社(1年決算の場合)では税額は生じません。中小企業の多くはこの範囲に収まると考えられますが、注意したいのは、税額がゼロでも申告は必要とされていることです。また、利益水準が高い会社や、今後の成長で利益が増える会社では、納税予測や資金計画に織り込んでおく必要があります。

    この記事では、防衛特別法人税の仕組みを確認し、所得水準ごとの影響の目安、申告の流れ、内部留保や配当方針への影響を整理します。

    防衛特別法人税とは

    防衛特別法人税は、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法」(以下「根拠法」)に基づいて創設された税で、各事業年度の所得に対する法人税を課される法人が納税義務者になります(国税庁「防衛特別法人税が創設されました」)。

    性格としては、法人税額を基準に一定割合を上乗せする付加税です。会社の所得に直接税率をかけるのではなく、まず通常の方法で計算した法人税額を出し、その金額をもとに計算します。

    なお、個人についても、令和9年分以後の所得税について、基準所得税額に1%の税率で課する防衛特別所得税が創設され、あわせて復興特別所得税の税率が1.1%に引き下げられます(所得税法等の一部を改正する法律〔令和8年法律第12号〕、令和8年3月31日公布。財務省・国税庁)。オーナー経営者にとっては、会社側と個人側の両方で動きがある点も押さえておきたいところです。

    計算の仕組み

    国税庁の案内に基づき、計算の流れを整理すると次のとおりです。

    手順内容
    1. 基準法人税額を求める所得税額控除・外国税額控除など、法律で定められた一定の税額控除を適用しないで計算した法人税額(根拠法10条)
    2. 基礎控除額を差し引く基準法人税額から500万円を控除(事業年度が1年に満たない場合は、500万円×その事業年度の月数÷12)
    3. 税率をかける残額(課税標準法人税額)に4%をかける

    ポイントは2つあります。

    • 基準法人税額は、すべての税額控除を適用する前の金額ではありません。適用しないで計算するのは、法人税法の所得税額控除・外国税額控除・分配時調整外国税相当額の控除・仮装経理に基づく過大申告の更正に伴う控除と、租税特別措置法の一部の控除(外国子会社合算税制等に係る外国法人税等の控除、産業競争力基盤強化商品〔半導体を除く〕の生産に係る税額控除など)に限られます(根拠法10条)。賃上げ促進税制などそれ以外の税額控除は、適用した後の法人税額が基準法人税額になります。
    • 基礎控除の500万円は「所得」ではなく「法人税額」から差し引くものです。所得金額に置き換えると、かなり大きな利益水準に相当します。

    中小企業への影響の目安

    資本金1億円以下の普通法人の法人税率は、所得のうち年800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分が23.2%とされています(国税庁 No.5759。15%は租税特別措置法による軽減税率で、現行法では令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象です〔同法42条の3の2〕。所得が年10億円を超える事業年度などには別の税率が適用されます)。この前提で、所得水準ごとの防衛特別法人税の目安をAEGISで試算すると次のとおりです。

    年間の所得金額法人税額(概算)防衛特別法人税(概算)
    1,000万円約166万円0円
    2,000万円約398万円0円
    3,000万円約630万円約5万円
    5,000万円約1,094万円約24万円
    1億円約2,254万円約70万円

    ※1年決算、資本金1億円以下の普通法人で軽減税率の適用対象、税額控除がなく、法人税額=基準法人税額と仮定した概算です。実際の税額は、会社の区分や税額控除の有無、事業年度の月数などによって異なります。地方法人税や法人住民税・事業税などは含めていません。

    この前提では、法人税額が500万円に達するのは所得がおよそ2,400万円を超えるあたりからです。それを超えると、超えた部分の所得に対して、おおむね0.9%強(23.2%×4%)の負担が上乗せされるイメージになります。

    つまり、多くの中小企業にとって、防衛特別法人税そのものの金額は大きくありません。一方で、利益が数千万円から数億円規模の会社では、毎期数十万円から数百万円単位の負担となり得るため、納税予測に組み込む必要があります。

    申告・納付の流れ

    国税庁の案内では、申告・納付について次のように示されています。

    • 申告書の様式:法人税の申告書と一体の様式とされ、防衛特別法人税の記載欄は別の用紙(別葉)になっています。
    • 税額ゼロでも申告が必要:防衛特別法人税額が0円であっても申告は必要です。基礎控除以下の会社でも、申告書の提出を忘れないようにする必要があります。
    • 申告期限:各課税事業年度終了の日の翌日から2か月以内に、納税地の所轄税務署長に提出します。法人税の申告期限の延長を受けている場合は、その延長された期限になります(根拠法25条)。
    • 中間申告:令和9年(2027年)4月1日以後に開始する事業年度から、法人税の中間申告書を提出すべき法人は、防衛特別法人税についても中間申告が必要になります。
    • グループ通算制度:通算法人の場合、基礎控除額は各法人の基準法人税額に応じて配分する仕組みが設けられています。

    最初の対象となる事業年度と申告期限は、決算期によって異なります。1年決算の会社を例に整理すると、次のとおりです。

    決算期最初の対象事業年度初回の申告期限(原則)
    3月決算令和8年4月1日〜令和9年3月31日令和9年5月31日
    6月決算令和8年7月1日〜令和9年6月30日令和9年8月31日
    9月決算令和8年10月1日〜令和9年9月30日令和9年11月30日
    12月決算令和9年1月1日〜令和9年12月31日令和10年2月29日

    ※事業年度終了の日の翌日から2か月以内という原則に基づく目安です。期限が土日祝日に当たる場合の取扱いや、法人税の申告期限の延長を受けている場合の延長後の期限は、個別に確認してください。

    すでに令和8年4月以後に事業年度が始まっている会社では、今期の決算から対象になります。自社の事業年度の開始日を確認し、決算・申告の手順に防衛特別法人税の申告書の作成を組み込んでおくことが大切です。

    資金計画・内部留保・配当方針への影響

    納税予測と資金繰りへの織り込み

    税額が生じる会社では、決算前の納税予測と資金繰り表に、防衛特別法人税を新しい項目として加える必要があります。中間申告が始まる事業年度以降は、期中の納税のタイミングも変わります。利益が基礎控除の境目付近にある会社は、「今期は税額が生じるか」を決算前に確認しておくと安心です。

    役員報酬と会社の利益のバランス

    オーナー企業では、利益を役員報酬として個人に払うか、会社に残すかを検討する場面があります。防衛特別法人税は、会社に残した利益にかかる税負担をわずかに引き上げる要素です。ただし、その影響は所得水準によっては小さく、個人側の所得税・住民税や社会保険料、個人側の改正の動きもあわせて考える必要があります。税率の差だけで報酬水準を決めないことが大切です。

    内部留保と配当方針

    会社に利益を蓄えて将来の投資や借入れの返済に備える方針自体は、防衛特別法人税によって大きく変わるものではありません。一方で、利益水準が高く、内部留保が厚い会社では、配当や役員退職金の時期、設備投資の計画などを含めて、会社と個人の資金配分を見直す機会にもなります。

    資産管理会社や小規模な法人

    不動産を保有する資産管理会社など、所得が大きくない法人では、多くの場合税額は生じません。ただし、申告書の提出は必要とされているため、申告漏れが起きないよう決算・申告の手順に組み込むことがポイントです。

    実務上注意したいポイント

    • 最初の対象事業年度を確認する:令和8年4月1日以後に開始する事業年度が対象です。決算期によって初回の申告時期が異なります。
    • 基準法人税額の範囲を確認する:所得税額控除・外国税額控除など法律で定める一定の控除は適用しないで計算するため、これらの控除を受けている会社は、実際の法人税額より基準法人税額が大きくなることがあります。賃上げ促進税制などその他の税額控除は適用後の金額で計算するため、両者を区別して確認します。
    • 損金にはならない:防衛特別法人税は、法人税と同様に所得の金額の計算上、損金の額に算入されません(根拠法43条による法人税法38条1項の読替え)。
    • ゼロ申告を忘れない:税額が生じなくても申告は必要です。
    • 中間申告の開始時期に備える:令和9年4月1日以後開始の事業年度から、中間申告の対象になる会社があります。
    • 地方税への波及は別途確認する:本記事では国税としての防衛特別法人税を扱っています。住民税・事業税など地方税との関係は、個別に確認してください。

    AEGISの視点

    防衛特別法人税は、多くの中小企業にとって、金額としてのインパクトは限定的です。それでもAEGISがこの改正を取り上げるのは、新しい税が加わるときこそ、税負担とキャッシュフローの全体を見直すよい機会だと考えているからです。

    法人税、地方税、社会保険料、個人の所得税・住民税、そして配当や退職金にかかる税金は、それぞれ別々に議論されがちです。しかしオーナーにとって大切なのは、会社と個人を合わせて、いつ、どれだけの資金が手元に残るかです。新しい税を一つの項目として決算予測と資金繰りに組み込み、利益水準の変化に応じて役員報酬・内部留保・配当の配分を点検する——その習慣が、制度が変わっても揺らがない経営の基盤になるとAEGISは考えています。

    税負担とキャッシュフローの考え方は、Pillar記事「税負担とキャッシュフローをどう両立させるか」で、会社と個人の資金配分は「役員報酬・配当・内部留保の考え方」で、納税を織り込んだ資金計画は「資金繰り表の作り方」で解説しています。制度改正全体の考え方は「税制改正は自分の承継計画に関係するか」をご覧ください。

    まとめ

    • 防衛特別法人税は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、法人税を課される法人に課されます。
    • 税額は(基準法人税額−基礎控除額500万円)×4%で計算し、基準法人税額は所得税額控除・外国税額控除など法律で定める一定の税額控除を適用しないで計算した法人税額です(すべての税額控除を戻すわけではありません)。
    • 基準法人税額が500万円以下(1年決算の場合)の会社では税額は生じませんが、税額がゼロでも申告は必要です。
    • 申告期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内で、令和9年4月1日以後開始の事業年度から中間申告の対象になる会社があります。
    • 利益水準が高い会社では、納税予測・資金繰り・役員報酬・内部留保・配当の配分に織り込むことが大切です。

    よくある質問

    Q. いつの決算から関係しますか?

    令和8年4月1日以後に開始する事業年度からです。3月決算の会社であれば令和9年3月期、12月決算の会社であれば令和9年12月期が最初の対象になります。

    Q. 赤字や少額の利益の会社でも申告は必要ですか?

    国税庁の案内では、防衛特別法人税額が0円であっても申告は必要とされています。法人税の申告書と一体の様式になっているため、法人税の申告とあわせて忘れずに提出することが大切です。

    Q. 中小企業でも税額が生じるのはどのくらいの利益からですか?

    税額控除がない資本金1億円以下の普通法人で、軽減税率の適用対象となる会社を前提にすると、法人税額が500万円を超えるのは、年間の所得がおよそ2,400万円を超えるあたりからです。実際には会社の区分や税額控除の有無によって変わるため、自社の数字で確認してください。

    Q. 賃上げ税制などで法人税が少なくなっている場合はどうなりますか?

    賃上げ促進税制の税額控除は、基準法人税額の計算で適用しないこととされている控除には含まれていません(根拠法10条)。そのため、賃上げ促進税制を適用した後の法人税額が基準法人税額となり、控除で法人税が少なくなれば、防衛特別法人税の計算の基礎も小さくなります。一方、所得税額控除や外国税額控除などは適用しないで計算するため、これらの控除を受けている会社では、実際に納める法人税より基準法人税額が大きくなることがあります。

    Q. 防衛特別法人税のために、役員報酬を増やしたほうがよいですか?

    防衛特別法人税だけを理由に役員報酬を変えることはおすすめしません。役員報酬を増やすと個人の所得税・住民税や社会保険料が増える一方、会社の資金は減ります。会社と個人を合わせた手取りと、会社の将来の資金需要を見たうえで判断することが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、P.14、P.17-19
  • 不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項|保有不動産と承継計画の何を見直すか

    不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項|保有不動産と承継計画の何を見直すか

    不動産は、多くのオーナーにとって財産の中で大きな割合を占めます。そのため、不動産の相続税評価に関する制度が変わると、相続税の見込み額だけでなく、誰に何を渡すか、納税資金をどう確保するか、どの形で保有するかといった承継計画の前提にまで影響が及ぶことがあります。

    結論から言えば、制度変更があったときは、「評価額がいくら変わるか」を計算する前に、「自分の不動産のうち、どれが対象になり得るか」を取得時期・取得方法・保有形態の3つの軸で仕分けることから始めるのが確実です。この記事では、近年の制度変更の例を踏まえ、保有不動産と承継計画の点検事項を整理します。

    不動産の相続税評価はどのように決まり、なぜ変わるのか

    相続税法は、相続や贈与で取得した財産の価額を「取得の時における時価」によると定めています。この時価の具体的な算定方法は、国税庁の財産評価基本通達で定められており、土地であれば路線価方式や倍率方式、建物であれば固定資産税評価額を基にした方法などが用いられます。

    不動産の評価が変わる要因は、大きく3つあります。

    変わる要因内容頻度の目安
    評価の基準となる価格の更新路線価や評価倍率などが毎年公表される毎年
    通達の改正評価方法そのものが見直される不定期(必要に応じて)
    税制改正特例の要件、加算期間、評価の考え方などが変わる毎年度の改正で項目ごと

    このうち、承継計画の前提を大きく揺るがしやすいのは、評価方法そのものの見直しです。近年は、相続税評価額と市場で取引される価格との差(乖離)に着目した見直しが続いています。

    近年の制度変更の例

    例1:居住用の区分所有財産(分譲マンション)の評価

    国税庁は、令和5年9月28日付で「居住用の区分所有財産の評価について」という通達を定めました。近年の取引実態等を踏まえ、分譲マンションの一室について、築年数、総階数、所在階、敷地持分の狭小度を反映した「評価乖離率」を基に補正を行う仕組みです。令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産に適用されています。

    なお、地階を除く階数が2以下の建物や、居住用の専有部分が3室以下ですべてを所有者やその親族が居住用に使っているものなどは、対象外とされています。

    例2:貸付用不動産の評価の見直し(令和8年度税制改正の大綱・国税庁の通達案)

    令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)では、「相続税等の財産評価の適正化」として、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、次の見直しを行うとされました。

    • 被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する(課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80に相当する金額によって評価することができる)
    • 不動産特定共同事業契約や、信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産は、取得の時期にかかわらず、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する
    • 令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用する(ただし、1つ目の見直しは、改正を通達に定める日までに、被相続人等が5年前から所有している土地に新築をした家屋〔建築中のものを含む〕には適用しない)

    具体的な取扱いは通達で定められます。国税庁が公表した通達案「貸付用不動産の評価について」では、大綱の内容が次のように具体化されています(2026年10月9日時点では意見公募中で、最終通達は出ていません)。

    • 対象は、課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築された貸付用不動産(借家権の目的となっている家屋とその敷地)。取得の時期は原則として引渡しの時で判定する
    • 取得価額が取得時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、土地は「取得価額×地価変動率」、建物は「取得価額-償却費」の100分の80で評価できる
    • 収用・交換・一定の買換えで取得したものや、5年以内に取得したものではない建物の増改築部分などは対象外
    • 経過措置として、通達制定日までに、その日前5年以内に取得したものではない土地や、5年以内に相続等で取得した土地に新築した家屋(建築中を含む)は対象外。通達制定日はまだ決まっていない(AEGISは、意見公募の締切(2026年10月18日)を踏まえ、10月下旬から11月上旬になる可能性が高いとみています)
    • 「特定小口化商品」は、元本等相当額の90%などを使う簡便な方法がある

    例3:生前贈与の加算期間の延長

    不動産を生前に贈与する計画にも、制度変更は影響します。令和5年度の改正により、暦年課税の贈与を相続財産に加算する期間は相続開始前3年から7年へと段階的に延びており、国税庁によれば、令和13年1月1日以後の相続では相続開始前7年以内の贈与が加算の対象となります。

    制度変更があったときの点検事項

    制度変更の情報に接したら、保有不動産を次の観点で点検します。AEGISでは、評価の前に「仕分け」を行うことを重視しています。

    点検1:取得時期と取得方法

    • 不動産ごとに、いつ、どのような方法で取得したか(購入、新築、相続、贈与など)を一覧にします。
    • 貸付用不動産の評価の見直しのように、「課税時期前5年以内」「対価を伴う取引」といった条件が付く改正では、取得時期と取得方法がそのまま対象かどうかの判断材料になります。
    • 自分が所有している土地に建物を新築した場合など、取得の経緯によって扱いが分かれる可能性がある点にも注意が必要です。

    点検2:保有形態

    • 個人で直接保有しているか、共有か、不動産小口化商品(不動産特定共同事業契約に基づくものなど)や信託受益権の形で保有しているかを確認します。
    • 大綱と通達案では、不動産特定共同事業契約などに基づく貸付用不動産は、取得時期にかかわらず見直しの対象になるとされています。保有している商品の契約形態を、契約書や事業者の説明資料で確認しておきましょう。
    • 資産管理会社など法人を通じて保有している場合に、制度変更がどのように影響するかは、改正の内容に即して個別に確認する必要があります。

    点検3:評価額と時価の関係

    • 不動産ごとに、相続税評価額の目安と、実際に売却した場合の価格の目安を並べてみます。
    • 両者の差が大きい不動産ほど、評価方法の見直しの影響を受けやすい傾向があります。
    • 相続税評価額と売却価格がなぜ異なるのかについては、関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格の違い」で解説しています。

    点検4:承継計画上の役割

    • その不動産を「誰に」「どの方法で」渡す計画になっているかを確認します。
    • 評価額が変われば、相続人間の配分のバランスが変わることがあります。不動産を後継者に、金融資産を他の家族に、といった配分を考えている場合は特に注意が必要です。
    • 生前贈与を予定している場合は、加算期間の延長も含めて、贈与のタイミングと方法を見直します。

    点検5:納税資金と収益性

    • 評価額が上がる見込みなら、相続税の見込み額と、それを支払う資金(金融資産、不動産収入、売却の可能性)を改めて確認します。
    • 同時に、その不動産の収益性(賃料収入、空室、修繕費、借入金の返済)を確認します。評価の変化をきっかけに、保有を続けるべきか、組み替えるべきかを考える機会にもなります。

    点検の結果は、次のような一覧にまとめると全体が見えやすくなります。

    不動産取得時期・方法保有形態評価の目安時価の目安承継の予定収益・納税資金のメモ
    自宅昭和○年 新築個人単独——配偶者居住用
    賃貸マンション令和○年 購入個人単独——長男借入残あり
    小口化商品令和○年 購入契約に基づく持分——未定換金性を確認

    ※上表は記入例のイメージです。実際の項目は保有資産に応じて調整してください。

    実務上注意したいポイント

    評価の有利・不利だけで判断しない

    不動産の取得や保有は、評価額の差だけで判断すべきものではありません。賃貸経営としての収益性、修繕や管理の負担、売却のしやすさ、家族の意向など、多くの要素が関わります。評価方法の見直しは、こうした要素を改めて点検するきっかけと捉えるのが健全です。

    特例の要件も合わせて確認する

    不動産の相続では、小規模宅地等の特例が大きな影響を持つことがあります。国税庁によれば、特定居住用宅地等は330㎡まで80%、特定事業用宅地等は400㎡まで80%、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%を減額できるとされていますが、区分ごとに要件があり、適用には申告が必要です。評価方法の見直しと特例の要件は、セットで確認しておきましょう。

    確定した情報で最終判断する

    大綱の段階では、細部が通達で定まる前です。売買や贈与など取り消しにくい行動は、確定した情報を一次情報で確認してから判断することをおすすめします。改正情報の追い方は、関連記事「制度改正の情報をどう追い、いつ相談するか」で解説しています。

    AEGISの視点

    不動産の評価に関する制度変更が続く背景には、「相続税評価額と実際の価値の差」をどう扱うかという問題意識があります。評価額の低さを主な理由として不動産を取得する考え方は、その前提自体が見直しの対象になり得る、ということです。

    AEGISは、不動産を「評価額で選ぶもの」ではなく、「所有の目的と、事業・家族・承継の中での役割で選ぶもの」と考えています。賃貸不動産であれば、安定した収益を生み、管理できる体制があり、将来誰がどのように引き継ぐかが描けているか。自宅であれば、家族の暮らしをどう守るか。そうした役割が明確な不動産は、評価の方法が変わっても、計画全体が揺らぐことは少なくなります。

    制度変更は、保有不動産の一つひとつに「なぜ持っているのか」を問い直す機会です。取得時期・保有形態・評価と時価・承継上の役割・収益性を一枚に並べることで、税務だけでなく、所有と承継の設計を見直すことができます。不動産の購入・保有・売却を一体で考える視点は、関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    税制改正が承継計画に与える影響の全体像は、親記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」で整理しています。

    不動産の評価や資産税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 不動産の相続税評価は、路線価等の更新、通達の改正、税制改正によって変わります。
    • 近年は、分譲マンションの評価の見直し(令和6年1月1日以後)や、令和8年度大綱で示された貸付用不動産の評価の見直し(令和9年1月1日以後の相続等)など、評価額と市場価格の乖離に着目した見直しが続いています。
    • 制度変更時は、まず取得時期・取得方法・保有形態で対象になり得る不動産を仕分けます。
    • そのうえで、評価と時価の関係、承継計画上の役割、納税資金と収益性を点検します。
    • 細部は通達で定まります。取り消しにくい行動は、確定した一次情報を確認してから判断します。

    個々の不動産への影響は、取得の経緯や保有形態など個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 貸付用不動産の評価の見直しは、いつから適用されますか?

    令和8年度税制改正の大綱では、令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用するとされています。国税庁の通達案でも、令和9年1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した財産の評価に適用するとされています。2026年10月9日時点で最終通達は出ていないため、発遣後に確認が必要です。

    Q. 以前から持っている賃貸不動産も対象になりますか?

    大綱と通達案では、課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築した貸付用不動産が対象とされています。それより前から持っている物件は、原則として対象になりません。一方、不動産特定共同事業契約などに基づく貸付用不動産は、取得の時期にかかわらず対象とされています。保有している不動産がどちらに当たるかは、取得時期や契約形態によって異なります。

    Q. 分譲マンションの評価はどう変わりましたか?

    令和6年1月1日以後の相続等で取得した居住用の区分所有財産については、築年数や所在階などを反映した評価乖離率を基に補正する方法が導入されました。階数が2以下の建物や、親族の居住用で3室以下のものなど、対象外となるケースもあります。

    Q. 評価方法が変わったら、すぐに不動産を売却したほうがよいですか?

    評価方法の変更だけを理由に売却を急ぐことはおすすめしません。売却には譲渡所得税や取引費用がかかり、収益源を手放すことにもなります。収益性、管理負担、承継の予定、納税資金などを総合的に点検したうえで判断することが重要です。

    Q. 制度変更の点検は、どのくらいの頻度で行えばよいですか?

    税制改正の大綱や通達の改正が公表されたとき、そして少なくとも年に一度、承継計画を見直すタイミングで点検するのが目安です。不動産の取得や売却、家族の状況の変化があったときにも見直すことをおすすめします。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 生前贈与の加算期間7年への延長で何が変わるか|経過措置・100万円控除と贈与計画の見直し方

    生前贈与の加算期間7年への延長で何が変わるか|経過措置・100万円控除と贈与計画の見直し方

    令和5年度の税制改正により、暦年課税で贈与した財産を相続財産に加え戻す期間(生前贈与加算の期間)は、相続開始前3年から7年へ段階的に延びます。延長の影響が実際に表れ始めるのは、令和9年(2027年)1月1日以後に開始する相続からです。

    ポイントは、「7年前までさかのぼる」のが一律ではないことです。令和9年から令和12年までに開始する相続では、加算の対象は令和6年(2024年)1月1日以後の贈与に限られ、相続開始前7年以内が丸ごと対象になるのは令和13年(2031年)1月1日以後の相続からです。また、延長された部分の贈与には総額100万円まで加算しないという控除が設けられています。

    この記事では、延長の仕組みを具体的な日付と数字で確認し、これから「いつ・誰に」贈与するかをどう見直せばよいかを整理します。暦年課税・相続時精算課税・相続の使い分けそのものは、関連記事「生前贈与と相続をどう使い分けるか」で解説しています。

    生前贈与加算とは

    生前贈与加算とは、相続や遺贈によって財産を取得した人が、被相続人から一定期間内に暦年課税による贈与を受けていた場合、その贈与財産の価額を相続税の課税価格に加える仕組みです(相続税法19条、国税庁 No.4161)。

    押さえておきたい基本は次の3点です。

    • 加算される金額は贈与した時の価額です。相続時に値上がり・値下がりしていても、贈与時の価額で加算されます。
    • 基礎控除110万円以下の贈与も加算の対象です。贈与税がかからなかった贈与でも、期間内であれば加え戻されます。
    • 加算された贈与について納めた贈与税は、相続税から差し引かれます(贈与税額控除)。ただし延滞税・加算税などの附帯税は差し引けません。

    つまり、生前贈与加算は「贈与をなかったことにする」制度ではなく、「相続の直前に行った贈与は、相続税の計算では相続財産と同じように扱う」という制度です。この「直前」の範囲が3年から7年に広がるのが今回の改正です。

    加算期間はどう延びるのか

    国税庁は、相続が開始した時期(亡くなった日)ごとに、加算の対象となる贈与の期間を次のように示しています(国税庁 No.4161、令和8年4月1日現在法令等)。

    相続が開始した時期加算の対象となる贈与の期間
    令和8年(2026年)12月31日まで相続開始前3年以内
    令和9年(2027年)1月1日〜令和12年(2030年)12月31日令和6年(2024年)1月1日から死亡の日まで
    令和13年(2031年)1月1日以後相続開始前7年以内

    この表を「亡くなった日」から読むと、加算期間が少しずつ長くなっていく様子が分かります。AEGISで具体的な日付に置き換えると、次のようになります。

    亡くなった日(例)加算の対象となる贈与の始まり加算期間の長さ(目安)
    2026年10月1日2023年10月1日以後3年
    2027年1月1日2024年1月1日以後3年
    2028年7月1日2024年1月1日以後約4年6か月
    2030年12月31日2024年1月1日以後約7年
    2033年4月1日2026年4月1日以後7年

    ※日付の起算の細部(「以内」の数え方)は個別に確認が必要です。上表は仕組みを理解するための目安です。

    ここから分かるのは、令和5年12月31日以前に行った暦年贈与は、延長の影響を受けないということです。延長の対象として新たに加算の網にかかるのは、令和6年1月1日以後に行われた贈与です。

    延長部分の「100万円控除」

    延長によって新たに加算の対象となった部分には、緩和措置があります。国税庁 No.4161 によると、令和9年1月2日以後に開始する相続では、加算対象期間内の贈与のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産(延長された4年分に当たる部分)については、その贈与時の価額の合計額から総額100万円までは加算しないこととされています。

    「毎年100万円」ではなく「延長部分の合計から総額で100万円」である点に注意が必要です。具体例で確認してみます。

    例:父が子に、2024年から2030年まで毎年1月に110万円ずつ(計7回)暦年課税で贈与し、2030年12月に父が亡くなった。子は相続で財産を取得した。

    区分該当する贈与贈与額の合計加算額
    相続開始前3年以内2028年・2029年・2030年の贈与330万円330万円(全額)
    延長部分(3年超〜2024年1月1日以後)2024年〜2027年の贈与440万円340万円(440万円−100万円)
    合計7回770万円670万円

    ※説明のための単純化した例です。いずれも基礎控除以下の贈与で贈与税は納めていないため、贈与税額控除はありません。

    改正前のルール(3年以内)であれば加算は330万円でしたが、この例では670万円になります。基礎控除の範囲内で続けてきた贈与であっても、亡くなる時期によっては相続税の計算上、大部分が相続財産に戻ることがあるわけです。

    加算の対象にならない人・財産

    相続や遺贈で財産を取得しない人

    加算の対象は、相続や遺贈で財産を取得した人です(国税庁 No.4161では、相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人も含めています)。たとえば、相続で財産を取得しない孫や子の配偶者が受けた暦年贈与は、原則として加算の対象になりません。ただし、遺言で財産を遺贈したり、死亡保険金の受取人になったりして財産を取得すると、加算の対象になり得ます。贈与を受けた人が「相続で何かを受け取るかどうか」は、遺言や保険の設計とセットで確認する必要があります。

    非課税特例などの適用を受けた部分

    国税庁 No.4161 では、次の部分は加算の対象から除かれています。

    • 贈与税の配偶者控除の適用を受けた(または受けるとした)部分
    • 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた部分
    • 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金・結婚子育て資金のうち、非課税の適用を受けた部分

    ただし、教育資金や結婚子育て資金の一括贈与は、贈与者が亡くなった時点で使い切っていない残額(管理残額)について、時期や受贈者の年齢などに応じて相続税の対象となる別のルールがあります。生前贈与加算とは別の仕組みとして確認が必要です。

    相続時精算課税の贈与

    相続時精算課税を選択した贈与は、生前贈与加算とは別の仕組みで、期間に関係なく相続財産に加算されます。ただし、令和6年1月1日以後の贈与については、年110万円の基礎控除を差し引いた残額が加算の対象とされています(国税庁 No.4103)。基礎控除の範囲内の贈与は加算されない点で、暦年課税の延長部分とは扱いが異なります。

    何が変わるのか:贈与計画への4つの影響

    延長がもたらす変化を、オーナーの贈与計画の視点から整理すると次のとおりです。

    1. 「晩年にまとめて贈与する」効果が薄れる:加算期間が長くなるため、相続の数年前に始めた暦年贈与は、相続税の計算上、相続財産に戻る可能性が高くなります。
    2. 早く始めた贈与ほど、加算の外に出やすい:令和13年以後の相続では、相続開始前7年より前の贈与は加算されません。贈与を「長い時間をかけて行う」ほど、効果が出やすい制度に変わったと言えます。
    3. 「誰に」贈るかの比重が増す:相続や遺贈で財産を取得しない人への贈与は加算の対象外です。一方で、受贈者の範囲を広げることは、家族間の公平や遺留分、2割加算の有無などとも関係します。
    4. 暦年課税と相続時精算課税の比較が変わる:精算課税の年110万円の基礎控除部分は加算されないため、贈与者の年齢や健康状態によっては、精算課税を検討する場面が増えています。ただし精算課税は、一度選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税に戻れません(国税庁 No.4103)。

    贈与計画を見直す手順

    延長への対応は、「贈与をやめる」か「続ける」かの二択ではありません。AEGISでは、次の順番で確認することをおすすめしています。

    手順確認すること見るポイント
    1. 記録の棚卸し令和6年1月1日以後の暦年贈与の一覧贈与日・贈与者・受贈者・財産・贈与時の価額・申告の有無
    2. 期間の見通し贈与者の年齢と、加算期間に入る贈与の範囲何年後に加算の外に出るか
    3. 受贈者の整理受贈者が相続や遺贈で財産を取得する見込み遺言・死亡保険金の受取人との関係
    4. 方式の比較暦年課税を続けるか、精算課税を選ぶか撤回できないこと、財産の値上がり見込み
    5. 財産の選び方現金・不動産・自社株式のどれを渡すか加算は贈与時の価額で行われること

    とくに手順1は、相続が起きてから困らないための基本です。生前贈与加算は相続人自身が申告で計算に入れる必要があり、贈与の記録がないと、加算漏れや、反対に加算不要な贈与を加えてしまうことにつながります。

    実務上注意したいポイント

    • 贈与の実態を残す:贈与契約書、振込記録、受贈者自身による口座管理など、「あげた・もらった」の実態を残すことが前提です。実態のない贈与は、加算の問題以前に、名義預金として相続財産と判断されるおそれがあります。
    • 加算期間と100万円控除の区分を記録しておく:3年以内の贈与と延長部分の贈与では扱いが異なるため、年ごとの贈与額を一覧で残しておくと申告時に計算しやすくなります。
    • 贈与税を納めた贈与は贈与税額控除を忘れない:基礎控除を超えて贈与税を納めている場合、加算された分に対応する贈与税は相続税から差し引かれます。
    • 教育資金などの一括贈与は別に確認する:管理残額の扱いには独自のルールがあり、受贈者の年齢や贈与の時期で結論が変わります。
    • 個別事情で結論が変わる:どの方法が適しているかは、財産構成・家族構成・贈与者の年齢などによって異なります。

    AEGISの視点

    生前贈与加算の延長は、「贈与で相続税を減らす」という発想そのものを見直すきっかけだとAEGISは考えています。

    加算期間が7年に延びると、贈与の効果は「どれだけ贈与したか」よりも「いつから、誰に、どの財産を、どのような記録とともに渡してきたか」に左右されるようになります。これは、贈与を単発の対策ではなく、家族の資産をどう引き継ぐかという長期の設計の一部として扱う必要が高まったということです。

    たとえば、事業オーナーや不動産オーナーであれば、現金の暦年贈与だけでなく、自社株式や収益不動産をどの時期に、どの方式で移すかが、相続税の計算にも、会社や不動産の経営にも影響します。贈与の計画は、遺言、保険、納税資金、家族間の公平とあわせて一枚の上で見直すことが大切です。

    制度改正を自分の承継計画にどう当てはめるかの全体像は、Pillar記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」で、不動産を含む点検の進め方は「不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項」で解説しています。

    資産承継に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 暦年課税の生前贈与加算の期間は、相続開始前3年から7年へ段階的に延びます。
    • 延長の影響は令和9年1月1日以後の相続から表れ、令和12年までの相続では令和6年1月1日以後の贈与が対象、令和13年以後の相続では相続開始前7年以内が対象です。
    • 延長された部分の贈与は、合計額から総額100万円まで加算されません。
    • 相続や遺贈で財産を取得しない人への贈与や、一定の非課税特例の適用部分は加算の対象外です。
    • 贈与の記録を棚卸しし、期間・受贈者・方式・財産の順に計画を見直すことが出発点です。具体的な判断は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 令和5年以前に行った贈与も、7年分さかのぼって加算されますか?

    いいえ。延長によって新たに加算の対象となるのは、令和6年1月1日以後に行われた暦年課税の贈与です。令和8年12月31日までに開始する相続では従来どおり相続開始前3年以内の贈与が対象で、令和9年以後に開始する相続でも、令和12年までは令和6年1月1日以後の贈与に限られます。

    Q. 100万円の控除は、毎年100万円ずつ差し引けるのですか?

    いいえ。延長部分(相続開始前3年以内より前)の贈与の合計額から、総額で100万円まで加算しないという仕組みです。年ごとに100万円を差し引くものではありません。相続開始前3年以内の贈与には、この控除はありません。

    Q. 孫への贈与も加算の対象になりますか?

    孫が祖父母の相続で財産を取得しない場合は、原則として加算の対象になりません。ただし、遺言で孫に財産を遺贈した場合や、孫が死亡保険金の受取人になった場合などは、加算の対象となり得ます。

    Q. 暦年贈与はもう意味がないのでしょうか?

    そうとは限りません。加算されるのは加算期間内の贈与に限られ、期間より前の贈与は加算されません。また、相続で財産を取得しない人への贈与は加算の対象外です。贈与を早めに、計画的に行うことの意味はむしろ大きくなったと言えます。どの方法が適しているかは、贈与者の年齢や財産構成によって異なります。

    Q. 相続時精算課税に切り替えたほうがよいですか?

    精算課税の年110万円の基礎控除部分は加算されないため、検討の価値がある場面は増えています。一方で、いったん選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税に戻れないことや、基礎控除を超える部分は期間に関係なく相続財産に加算されることなど、注意点もあります。財産の種類や値上がりの見込みを含めて比較することが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、P.21
    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、大蔵財務協会、P.59、P.457-465
  • 相続登記と住所等変更登記の義務化への対応|期限・過料・相続人申告登記・スマート変更登記の使い方

    相続登記と住所等変更登記の義務化への対応|期限・過料・相続人申告登記・スマート変更登記の使い方

    不動産の登記は、かつては「必要になったときにすればよい」ものでした。しかし所有者不明土地の問題を背景に法律が改正され、現在は次の2つが法律上の義務になっています(法務省)。

    • 相続登記:令和6年(2024年)4月1日から義務化。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請。施行日前の相続で未登記のものは、原則として令和9年(2027年)3月31日までに申請が必要です(取得を知った日が施行日より後なら、その日から3年以内)。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。
    • 住所等変更登記:令和8年(2026年)4月1日から義務化。住所や氏名が変わった日から2年以内に申請。施行日前の変更も対象で、令和10年(2028年)3月末までに登記が必要です。正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象になります。

    どちらの義務にも、負担を軽くするための簡易な方法(相続人申告登記、スマート変更登記)が用意されています。この記事では、2つの義務の内容を確認したうえで、「自分の場合は何を、いつまでにすればよいか」を状況別に整理します。

    2つの義務の全体像

    項目相続登記住所等変更登記
    開始時期令和6年4月1日令和8年4月1日
    義務の内容相続で取得した不動産の名義を相続人に変える登記された所有者の住所・氏名の変更を反映する
    期限取得を知った日から3年以内(法定相続分での登記や相続人申告登記の後に遺産分割が成立したときは、分割の日から3年以内に分割内容の登記)変更の日から2年以内
    施行日前の分令和9年3月31日まで令和10年3月末まで
    過料10万円以下5万円以下
    簡易な方法相続人申告登記スマート変更登記(検索用情報の申出)

    ※期限の細部や個別事情による扱いは、法務省・法務局の案内で確認してください。

    相続登記の義務

    誰が、何を、いつまでに

    相続によって土地や建物を取得した相続人は、自分が相続人であることを知り、かつその不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。相続人に対する遺贈で取得した場合も同様です。また、法定相続分での相続登記や相続人申告登記をした後に遺産分割が成立した場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容に沿った登記を行う必要があります(不動産登記法76条の2・76条の3、法務省)。

    令和6年4月1日より前に開始した相続も対象です。施行日前の相続で登記が済んでいない不動産は、相続の開始と取得を知った日と施行日(令和6年4月1日)のいずれか遅い日から3年以内、つまり多くの場合は令和9年3月31日までの申請が求められています(民法等の一部を改正する法律〔令和3年法律第24号〕附則5条6項)。親や祖父母の名義のまま残っている不動産がある場合は、この期限が当面の目安になります。

    「正当な理由」があれば過料の対象にならない

    期限内に申請できなくても、正当な理由があれば過料の対象にはなりません。法務省は、例として次のような場合を挙げています。

    • 相続人が極めて多数で、戸籍謄本等の収集や相続人の把握に時間がかかる場合
    • 遺言の有効性や遺産の範囲が争われている場合
    • 申請義務を負う相続人自身に重い病気などの事情がある場合
    • 配偶者からの暴力等の被害者で、避難を余儀なくされている場合
    • 経済的に困窮しており、登記に必要な費用を負担する能力がない場合

    過料は、いきなり科されるものではありません。法務省の説明では、登記官が義務違反を把握した場合にまず申請を催告し、それでも正当な理由なく申請がないときに裁判所へ通知し、裁判所が過料を科するかどうかを判断する流れです。

    相続人申告登記という選択肢

    遺産分割がまとまらず、期限内に名義を確定できない場合に使えるのが相続人申告登記です。登記官に対し、「所有者について相続が開始したこと」と「自分がその相続人であること」を申し出ることで、相続登記の申請義務を果たしたことになります(法務省)。

    • 相続人が単独で申し出ることができ、他の相続人の協力は不要です
    • 添付するのは申出書と戸籍謄本等・住所証明情報などで、通常の相続登記に比べて戸籍等の収集の負担が軽くなっています
    • 登録免許税はかかりません。オンラインでも申し出ることができます

    ただし、相続人申告登記は「誰が所有者か」を確定させる登記ではありません。不動産の売却や担保の設定をするには、別途、相続登記が必要です。また、申告後に遺産分割が成立した場合は、分割の日から3年以内に分割内容に沿った登記を申請する必要があり、その段階では相続人申告登記で代えることはできません。

    住所等変更登記の義務

    誰が、何を、いつまでに

    不動産の所有権の登記名義人は、住所や氏名・名称に変更があった日から2年以内に変更登記を申請する必要があります。令和8年4月1日より前の変更も対象で、変更の日と施行日のいずれか遅い日から2年以内、つまり令和10年3月末までに登記が必要です(不動産登記法76条の5、同附則5条7項、法務省)。

    引越しや婚姻による氏の変更があっても登記を放置している例は少なくありません。法務省は、所有者不明土地の原因の約3分の1が住所等の変更登記がされていないことにあると説明しています。

    スマート変更登記

    この義務の負担を軽くするのがスマート変更登記です。所有者があらかじめ「検索用情報」(生年月日、メールアドレス、国籍、不動産の地番などの情報)を法務局に申し出ておくと、法務局が定期的(2年に1回程度)に住民基本台帳ネットワークへ照会し、住所や氏名の変更を確認したときは職権で変更登記を行います(法務省)。

    • 職権で登記をする前に意思確認の通知が届き、1か月以内に回答する仕組みです
    • スマート変更登記による変更登記には、登録免許税等の費用はかかりません
    • 検索用情報を申し出ておけば、住所等が変わるたびに自分で申請しなくても、義務違反に問われることはなくなるとされています
    • これから不動産を取得する人は申請書に記載して申し出ることができ、すでに所有している人も申し出ることができます

    法人が所有する不動産

    会社などの法人が所有する不動産では、登記に会社法人等番号が登記されていれば、商業・法人登記で本店の移転などをした際に、法務局が職権で不動産の住所等の変更登記を行う仕組みとされています。会社法人等番号が登記されていない不動産は、従来どおり申請が必要です(法務省)。なお、令和6年4月1日の時点で法人が所有権の登記名義人となっている不動産については、登記官が職権で会社法人等番号を登記できるとされています(同附則5条5項)。資産管理会社などで古くから保有している不動産は、番号が登記されているかを確認しておくと安心です。

    状況別:何を、いつまでにするか

    AEGISで、よくある状況ごとに対応を整理すると次のとおりです。

    状況当面の期限(目安)主な対応
    令和6年3月以前の相続。遺産分割は済んでいるが名義は親のまま令和9年3月31日分割内容に沿って相続登記を申請
    令和6年3月以前の相続。遺産分割がまとまっていない令和9年3月31日相続人申告登記で義務を果たしつつ、分割協議を進める
    令和6年4月以後の相続取得を知った日から3年遺産分割のうえ相続登記。間に合わなければ相続人申告登記
    祖父母など数代前の名義のまま令和9年3月31日(正当な理由に当たる場合あり)戸籍の収集と相続人の把握を早めに始める
    令和8年3月以前に引越し・改姓したが登記は旧住所のまま令和10年3月末住所等変更登記を申請し、あわせて検索用情報を申し出る
    法人所有不動産の本店移転・商号変更変更から2年(施行前の変更は令和10年3月末)会社法人等番号の登記の有無を確認
    これから不動産を取得する取得時登記申請時に検索用情報を申し出る

    ※期限は法務省の案内に基づく目安です。正当な理由の有無や期限の起算点は、個別の事情によって異なります。

    登記をしないことの、過料以外の不利益

    義務化で注目されるのは過料ですが、オーナーにとっては次のような実務上の不利益のほうが大きいことがあります。

    • 売却・担保設定ができない:名義が被相続人のままでは、売却や融資の担保に使うことができません。資金が必要になったときにすぐ動けなくなります。
    • 相続人が増えていく:登記をしないまま次の相続が起きると、権利を持つ人が増え、話し合いがより難しくなります。共有の解消や国への引渡しを検討する場面でも、名義の整理が前提になります。
    • 固定資産税の通知が届く相手:固定資産税は、原則として1月1日現在に固定資産課税台帳に所有者として登録されている人に課されます。名義の整理が遅れると、誰が税を負担し、誰が管理するのかが曖昧になりがちです。
    • 財産の把握が難しくなる:相続税の申告や遺産分割では、どの不動産を誰が持っているかを正確に把握する必要があります。古い名義のままの土地は見落とされやすくなります。

    費用の目安

    相続による所有権の移転登記には、登録免許税がかかります。税率は、相続による土地の所有権移転で不動産の価額の1,000分の4です(不動産の価額は原則として固定資産課税台帳の価格)。このほか、戸籍謄本等の取得費用や、司法書士に依頼する場合の報酬がかかります。

    一定の場合には登録免許税の免税措置も設けられています(相続登記の前に相続人が亡くなった場合の登記や、価額が一定額以下の土地の相続登記など)。現行法では令和9年3月31日までに受ける登記が対象とされているため(租税特別措置法84条の2の2)、利用を考える場合は最新の要件を確認してください。相続人申告登記とスマート変更登記には、登録免許税はかかりません(法務省)。

    実務上注意したいポイント

    • まず「名義の棚卸し」から:固定資産税の課税明細書や名寄帳、登記事項証明書で、名義が誰になっているか、住所が最新かを一覧にします。
    • 相続人申告登記は「時間を買う」手段:義務は果たせますが、名義は確定しません。売却や担保設定の予定があるなら、遺産分割と相続登記を急ぐ必要があります。
    • 遺産分割の期限とも連動させる:相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに分割がまとまれば、登記も同じ流れで進められます。
    • 住所変更は「ついで」に済ませる:相続登記や売却の際に、関係する不動産の住所等もまとめて確認し、検索用情報の申出までしておくと、その後の手間を減らせます。

    AEGISの視点

    登記の義務化は、手続の問題に見えて、実は「その不動産を、誰が、どう持ち続けるのか」を決めることを促す制度だとAEGISは考えています。

    名義が親のまま、住所が古いままの不動産は、多くの場合、遺産分割や所有形態の検討が先送りされてきた不動産でもあります。期限が来たからといって、とりあえず相続人全員の共有名義で登記してしまうと、次の世代で共有の問題をさらに複雑にすることがあります。

    義務を果たす手段(相続人申告登記・スマート変更登記)と、所有を決める手続(遺産分割・相続登記)を区別したうえで、期限までに「どこまで決めるか」を計画することが大切です。収益不動産であれば、管理会社や金融機関との契約、税務の手続とも足並みをそろえる必要があります。

    不動産を相続する前に整理しておきたい論点は「不動産を相続する前に確認したいこと」、賃貸物件を引き継いだ後の手続は「親から賃貸経営を引き継ぐときの実務」、使わない土地を手放す制度は「相続土地国庫帰属制度で土地を手放す」で解説しています。制度改正全体の点検の考え方は、Pillar記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」をご覧ください。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続登記は令和6年4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内の申請が必要です。施行日前の相続で未登記のものは令和9年3月31日までが目安です。
    • 住所等変更登記は令和8年4月1日から義務化され、変更から2年以内の申請が必要です。施行日前の変更は令和10年3月末までに登記が必要です。
    • 正当な理由なく怠ると、相続登記は10万円以下、住所等変更登記は5万円以下の過料の対象になります。
    • 相続人申告登記やスマート変更登記を使えば、負担を抑えて義務を果たせます。ただし相続人申告登記では名義は確定しません。
    • まず名義の棚卸しを行い、遺産分割・所有形態の検討とあわせて期限までの計画を立てることが大切です。

    よくある質問

    Q. 亡くなった親の名義のままの土地が何年も前からあります。今からでも過料になりますか?

    令和6年4月1日より前に開始した相続も義務の対象で、令和9年3月31日までの申請が目安とされています。過料は、登記官からの催告を経ても正当な理由なく申請しない場合に、裁判所が判断するものです。まずは期限までに相続登記、または相続人申告登記を行うことを検討してください。

    Q. 遺産分割の話し合いがまとまりません。どうすればよいですか?

    相続人申告登記を使えば、相続人の一人が単独で、相続登記の申請義務を果たすことができます。ただし名義は確定しないため、売却などはできません。また、その後に遺産分割が成立したときは、成立の日から3年以内に分割内容に沿った登記を申請する必要があります。

    Q. 引越しをしたのに、所有するマンションの登記の住所を変えていません。

    令和8年4月1日より前の住所変更も義務の対象で、令和10年3月末までに変更登記をする必要があります。あわせて検索用情報を申し出ておけば、その後の住所変更はスマート変更登記により法務局が職権で反映し、義務違反に問われることはなくなるとされています。

    Q. 会社名義の不動産も住所変更登記の義務がありますか?

    あります。ただし、不動産の登記に会社法人等番号が登記されていれば、本店移転などの商業登記の内容をもとに、法務局が職権で変更登記を行う仕組みとされています。番号が登記されていない場合は申請が必要なため、保有不動産の登記事項証明書で確認しておくとよいでしょう。

    Q. 相続登記の費用はどのくらいかかりますか?

    主な費用は登録免許税で、相続による土地の所有権移転は不動産の価額(原則として固定資産課税台帳の価格)の1,000分の4です。ほかに戸籍謄本等の取得費用や、専門家に依頼する場合の報酬がかかります。一定の免税措置もありますが、適用期限や要件があるため、最新の情報を確認してください。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、P.52-53、P.67
  • 管理不全空家に指定されると何が変わるか|特定空家との違い、指導・勧告の流れと固定資産税への影響、遠方の空き家の管理

    管理不全空家に指定されると何が変わるか|特定空家との違い、指導・勧告の流れと固定資産税への影響、遠方の空き家の管理

    空き家を放置したときの不利益は、「倒壊しそうな危険な空き家」だけの話ではなくなりました。令和5年の空家法の改正(令和5年12月13日施行)で、そのまま放置すれば危険な状態になるおそれがある空き家を「管理不全空家等」として、市区町村が指導・勧告できる仕組みが加わったためです。

    結論を先に言えば、管理不全空家として勧告を受けると、その敷地は固定資産税の住宅用地特例の対象から外れます。住宅が建っていることで軽減されていた土地の税負担が、軽減のない状態に戻るということです。

    この記事では、管理不全空家と特定空家の違い、行政の措置の流れ、固定資産税への影響を整理したうえで、実家などが遠方にある場合に、どのように管理の体制を整えればよいかを考えます。相続した実家を「売る・貸す・残す」のどれにするかという判断は、関連記事「相続した実家が空き家になったときの選択肢」で扱っています。

    空家法の改正で何が加わったのか

    国土交通省の資料によると、空き家の数は1998年の182万戸から2018年には349万戸へと増え、2030年には470万戸に達すると見込まれています。こうした状況を受け、「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」(令和5年法律第50号)が令和5年6月14日に公布され、同年12月13日に施行されました。

    改正は、大きく三つの方向で対策を強めています。

    • 活用の拡大:空家等活用促進区域の制度、空家等管理活用支援法人の指定
    • 管理の確保:管理不全空家等に対する指導・勧告、勧告による住宅用地特例の解除
    • 特定空家等の除却等:緊急時の代執行、略式代執行の費用の強制徴収、財産管理人の選任請求

    あわせて、所有者の責務として、従来の「適切な管理に努める」ことに加え、国や自治体の施策に協力するよう努めることが定められました。

    管理不全空家と特定空家はどう違うのか

    空き家に対する行政の措置は、空き家の状態に応じて二段階に分かれています。

    区分どのような状態か行政の主な措置住宅用地特例
    管理不全空家等適切な管理が行われておらず、そのまま放置すれば特定空家等に該当するおそれがある指導 → 勧告勧告を受けると対象外
    特定空家等倒壊等の保安上の危険、衛生上の有害、景観の著しい阻害、生活環境の保全上不適切のいずれかの状態助言・指導 → 勧告 → 命令 → 代執行勧告を受けると対象外

    ※AEGISが国土交通省の資料・専門書籍をもとに整理したものです。

    特定空家等は、すでに周囲に危険や害を及ぼすおそれが大きい状態です。これに対して管理不全空家等は、「このままでは特定空家等になってしまう」段階を捉えるものです。改正前は、状態がかなり悪化してからでなければ税制上の不利益につながりませんでしたが、改正後は、その手前の段階でも勧告と特例の解除があり得るようになりました。

    国土交通省は「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」を定め、判断の参考となる基準を示しています。たとえば、屋根や外壁などの多くの部位が損傷している場合には、そのまま放置すれば周辺に被害が及ぶおそれが予見される、といった考え方です。実際の判断は、建物と敷地の状況を見て市区町村が個別に行います。

    行政の措置はどのように進むのか

    管理不全空家等:指導から勧告へ

    管理不全空家等に対しては、市区町村長が、国の定める管理の指針に沿って、所有者に必要な措置をとるよう指導します。指導をしても状態が改善されず、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれが大きいと認めるときに、勧告が行われます。

    ガイドラインでは、勧告に際して、敷地が固定資産税等の住宅用地特例の対象から除外されることを所有者に示すこととされています。つまり、勧告は「税負担が変わる」ことを伴う重い措置です。

    特定空家等:命令・代執行まで

    特定空家等になると、助言・指導、勧告に続いて、命令、そして市区町村が所有者に代わって除却などを行う代執行へと進む可能性があります。改正により、緊急に除却等が必要な場合には、命令などの事前の手続を経ずに代執行ができる制度も設けられました。なお、特定空家等に対する命令に違反した場合は、50万円以下の過料の対象になります(空家法30条1項)。代執行に要した費用は所有者の負担であり、所有者が分からないまま行う略式代執行の場合も、国税の滞納処分の例により強制的に徴収できるようになっています。

    相続放棄された空き家や所有者不明の空き家

    相続放棄された空き家や所有者が分からない空き家については、市区町村長が裁判所に財産管理人の選任を請求できるようになりました。相続人の誰もが関わらない空き家も、最終的には何らかの形で管理や処分の対象になるということです。相続した土地を国に引き取ってもらう制度については、関連記事「相続土地国庫帰属制度で土地を手放すには」で整理しています。

    固定資産税への影響:住宅用地特例が外れる

    住宅が建っている土地(住宅用地)には、固定資産税の課税標準を軽減する特例があります。総務省の資料によると、住宅1戸あたり200㎡以下の部分(小規模住宅用地)は評価額の6分の1、200㎡を超える部分(一般住宅用地)は3分の1が課税標準の基準になります(地方税法349条の3の2)。都市計画税にも同様の特例があり、小規模住宅用地は3分の1、一般住宅用地は3分の2とされています(同法702条の3)。

    管理不全空家等や特定空家等として勧告を受けた空き家の敷地は、この特例の対象から外れます(地方税法349条の3の2第1項。空家法13条2項・22条2項の勧告が対象)。軽減がなくなるため、土地にかかる固定資産税の負担が大きく増える可能性があります。実際にどの程度増えるかは、土地の評価額や負担調整の状況によって異なるため、納税通知書の課税明細などで確認する必要があります。

    固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日。地方税法359条)時点の状況をもとに課税されます。専門書籍でも、特定空家等について、勧告を受けて賦課期日までに必要な措置が講じられない場合に特例の対象から除外される旨が説明されています。勧告を受けた場合は、いつまでに、何をすれば状態が改善したと認められるのかを、市区町村に早めに確認することが大切です。ガイドラインでは、状態が改善され管理不全空家等でなくなったと認められた場合には、勧告を撤回する扱いが示されています。

    遠方の空き家をどう管理するか

    管理不全空家と判断されないためには、結局のところ、定期的に状態を確認し、傷みを早めに手当てする体制があるかどうかが分かれ目になります。ところが、相続した実家が遠方にある場合、所有者自身が頻繁に通うのは現実的ではありません。

    管理の方法は、大きく次の三つに分けて考えると整理しやすくなります。

    管理の方法向いている場合注意したいこと
    所有者・家族が通う比較的近い、帰省の機会が多い訪問の頻度が落ちやすい。点検項目を決めておく
    近隣の親族・知人に依頼実家の近くに信頼できる人がいる依頼の範囲と謝礼、緊急時の連絡方法を明確に
    管理サービス等に委託遠方で通えない、建物が大きい委託する作業の範囲、報告の方法、費用

    ※AEGISによる整理です。複数の方法を組み合わせることも考えられます。

    どの方法をとる場合でも、次の点は決めておきたいところです。

    • 点検の頻度と項目:通風・換気、雨漏り、屋根や外壁の傷み、窓や扉の施錠、庭木や雑草、郵便物の滞留など。国土交通省も所有者向けに空き家管理のチェックリストを公表しています
    • 連絡先の明示:近隣の方や市区町村から連絡を受けられる窓口を決めておく。所有者と連絡がつかないこと自体が、状態の悪化につながりやすいためです
    • 費用の負担と記録:共有で相続した場合は、誰がどの費用を負担するかを決め、支出と点検の記録を残す
    • 保険と設備:火災保険が空き家の状態でも有効か、電気・水道を止めるか残すか

    管理には毎年の費用と手間がかかります。固定資産税、保険料、点検や草木の手入れの費用を一覧にしてみると、「残す」ことの実際のコストが見えてきます。その金額を前提に、活用や売却と比べることが、空き家の問題を先送りしないための出発点です。

    実務上注意したいポイント

    • 登記と連絡先を整える:相続登記がされていないと、市区町村からの通知が相続人に届きにくくなります。相続登記・住所変更登記の義務化への対応は、関連記事「相続登記と住所等変更登記の義務化への対応」で解説しています。

    • 指導の段階で動く:指導は勧告の前段階です。指導を受けた時点で、修繕・清掃・活用・売却などの方針を決めれば、勧告による特例の解除を避けられる可能性があります。

    • 建物を壊せば解決するとは限らない:取り壊すと住宅用地ではなくなるため、住宅用地特例は適用されなくなります。解体費用と、その後の土地の使い道をあわせて考える必要があります。
    • 売却の特例の期限も確認する:相続した空き家の売却には期限付きの特例があり、管理を続けるうちに期限を過ぎることがあります。

    AEGISの視点

    空き家の問題は、しばしば「気持ちの整理がつくまで、とりあえず残しておく」という判断から始まります。その判断自体は自然なものです。ただ、今回の改正で、「とりあえず」の期間にも管理の責任と税負担のリスクがあることがはっきりしました。

    AEGISは、空き家を「判断を保留している資産」ではなく、「管理の方針を決めて保有している資産」に変えることが大切だと考えています。誰が、どの頻度で、いくらの費用をかけて管理するのか。その費用を、活用や売却によって得られる収入・手取りと比べたとき、残す理由は何か。こうした問いを家族で共有できれば、空き家は「困りごと」から「選べる資産」になります。

    空き家は、相続人の間で共有になっていることも多く、管理の負担が特定の一人に偏ると、家族関係の問題にも発展しかねません。管理の体制を決めることは、承継の設計の一部でもあります。制度の変化を自分の資産の点検につなげる考え方は、Pillar記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」でも整理しています。

    不動産の保有と承継に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 令和5年の空家法改正で、放置すれば特定空家等になるおそれのある「管理不全空家等」が新設されました。
    • 管理不全空家等には指導・勧告が、特定空家等には命令・代執行まで含む措置が行われます。
    • いずれも勧告を受けると、敷地が固定資産税の住宅用地特例(小規模住宅用地6分の1、一般住宅用地3分の1)の対象から外れます。
    • 遠方の空き家は、点検の頻度・項目、連絡先、費用の負担を決めた管理の体制づくりが鍵になります。
    • 管理にかかる費用を見える化し、活用や売却と比べることで、空き家を「保留」から「選択」に変えられます。

    よくある質問

    Q. 管理不全空家に指定されると、すぐに固定資産税が上がるのですか?

    指導の段階では住宅用地特例は外れません。指導をしても改善されず、勧告を受けた場合に、敷地が特例の対象から外れます。固定資産税は1月1日時点の状況で課税されるため、勧告を受けた時期と改善の時期によって、どの年度から影響が出るかが変わります。具体的には市区町村に確認してください。

    Q. 特定空家と管理不全空家は、何が違うのですか?

    特定空家等は、倒壊等の危険や衛生上の有害など、すでに周囲への悪影響が大きい状態の空き家です。管理不全空家等は、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれがある、その手前の段階の空き家です。特定空家等には命令や代執行まで行われる可能性がある点も異なります。

    Q. 勧告を受けた後に修繕すれば、特例は元に戻りますか?

    国土交通省のガイドラインでは、状態が改善され管理不全空家等でなくなったと認められた場合に、勧告を撤回する扱いが示されています。撤回後の課税の扱いは賦課期日との関係で決まるため、改善の内容と時期を市区町村と相談しながら進めることが大切です。

    Q. 遠方に住んでいて、実家の管理に通えません。どうすればよいですか?

    近隣の親族や知人に依頼する、管理サービスに委託するなどの方法があります。どの方法でも、点検の頻度と項目、緊急時の連絡先、費用の負担を決めておくことが重要です。あわせて、管理の費用を前提に、活用や売却も含めて保有の方針を見直すことをおすすめします。

    Q. 空き家を取り壊せば、管理の問題はなくなりますか?

    建物の管理の負担はなくなりますが、取り壊した土地は住宅用地ではなくなるため、住宅用地特例は適用されなくなります。解体費用もかかります。取り壊す場合は、その後に土地をどう使うか、売却するかまで含めて検討する必要があります。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、2026年、Chapter 2 主な地方税(P.68)