賃貸管理会社・不動産会社を売るとき|管理受託契約とオーナーの同意、宅建業免許・管理業登録、資格者、評価のポイント

不動産模型とタブレット・ノートパソコンを前に検討する男女

執筆者:

カテゴリ:

,

賃貸管理会社や不動産会社を売るときに押さえたいのは、「免許・登録」「管理受託契約」「資格者」の3つが、会社と一緒に買い手へ移るかどうかです。この3つが確実に引き継げるかどうかが、売却の可否と価格を左右します。

会社の株式を譲渡する方法(株式譲渡)であれば、会社そのものは変わらないため、宅地建物取引業(宅建業)の免許や賃貸住宅管理業の登録、オーナーとの管理受託契約は、原則としてそのまま会社に残ります。一方、事業だけを切り出して譲渡する方法(事業譲渡)や会社分割では、宅建業の免許は買い手側で別に必要になり、管理受託契約もオーナーの承諾を得て移す必要があります。

この記事では、不動産会社の売却に特有の論点を、免許・登録、管理受託契約とオーナーの同意、資格者の確保、評価のポイントの順に整理します。会社売却の準備全般は、親記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

不動産会社の売却で何が問題になるか

不動産会社の価値は、建物や設備よりも、免許・登録という「営業の資格」、オーナーとの契約という「収益の源泉」、取引士などの「人」に支えられています。

引き継ぐものなぜ重要か売却時に起きやすい問題
宅建業の免許仲介や売買を行うための前提事業譲渡では引き継げない、役員変更で届出が必要
賃貸住宅管理業の登録200戸以上の管理受託に必要同上
管理受託契約毎月の管理報酬という安定収益の源泉オーナーの解約、契約の地位の移転に承諾が必要
専任の宅地建物取引士・業務管理者免許・登録の要件そのもの売却を機に退職すると要件を欠く
預り金(家賃・敷金など)オーナーと入居者のお金分別管理の不備は買い手の大きな懸念

宅建業の免許・管理業の登録はどうなるか

株式譲渡なら、会社の免許・登録は原則そのまま

株式譲渡では、株主が変わるだけで会社は同じです。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、株式譲渡は会社の資産・負債や契約、許認可などが原則として存続し、許認可の再取得が不要である点がメリットとされています。

ただし、株主の交代にあわせて役員が変わる場合は注意が必要です。

  • 宅建業:免許の申請事項である役員の氏名や、事務所ごとの専任の宅地建物取引士の氏名に変更があった場合は、30日以内に変更の届出が必要です(宅地建物取引業法9条)。新たに役員になる人が、免許の基準に定める欠格事由に当たらないかも確認が必要です。
  • 賃貸住宅管理業:登録の申請事項(役員の氏名、営業所の所在地など)に変更があった場合は、30日以内に届け出なければなりません(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律7条)。

事業譲渡・会社分割では、免許は買い手側で必要になる

宅地建物取引業法にも賃貸住宅管理業法にも、免許や登録を事業の譲受人や合併・分割の相手先へ引き継ぐ規定は設けられていません。合併で会社が消滅した場合は、その旨の届出が必要になります(宅地建物取引業法11条、賃貸住宅管理業法9条)。

そのため、事業譲渡や会社分割で不動産事業を切り出す場合は、事業を受け入れる会社が自ら免許・登録を持っているか、新たに取得する必要があります。許認可の再取得には時間がかかり、その間は営業できないため、スキームの選択は免許・登録の扱いを起点に考えることが大切です。

それでも事業譲渡が選ばれるのは、たとえば次のような場合です。

  • 仲介部門と管理部門のうち、一方だけを売りたい場合
  • 買い手が、売り手の会社の過去の取引から生じるかもしれない債務(簿外債務・偶発債務)を引き継ぎたくない場合
  • 買い手がすでに免許・登録を持つ同業の不動産会社で、管理物件だけを自社に取り込みたい場合

いずれの場合も、オーナーの承諾の取得や従業員の転籍の同意など、株式譲渡より手続きが多くなる点を見込んでおく必要があります。株式譲渡と事業譲渡の違いは、関連記事「株式譲渡と事業譲渡の比較ポイント」で整理しています。

管理受託契約とオーナーの同意

株式譲渡でも、オーナーの理解が欠かせない

株式譲渡では、管理受託契約の当事者(管理会社)は変わらないため、法律上はオーナーの承諾なく契約は続きます。しかし、次の点には注意が必要です。

  • チェンジ・オブ・コントロール条項:契約に「株主や経営権が変わった場合は通知する」「相手方の承諾が必要」「解除できる」といった定めがないかを確認します。
  • 解約の自由度:管理受託契約は、一定の予告期間を置けば中途解約できる定めになっていることが多く、オーナーが経営者の交代に不安を感じれば、解約されるおそれがあります。
  • 担当者との関係:オーナーとの関係が、売り手の社長個人や特定の担当者に強く依存している場合、その人が抜けると契約の継続が揺らぎます。

事業譲渡では、契約ごとにオーナーの承諾が必要

事業譲渡で管理受託契約を買い手に移す場合、契約上の地位の移転には、契約の相手方であるオーナーの承諾が必要です(民法539条の2)。管理物件が多ければ、オーナー一人ひとりから承諾を得る手間と時間がかかり、承諾が得られない契約は移せません。サブリース(借上げ)方式の契約がある場合も、同様にオーナーとの調整が必要です。

オーナーへの説明の時期と内容は、秘密保持とのバランスを取りながら、売り手と買い手で事前に段取りを決めておくことが大切です。

資格者と管理体制の確保

専任の宅地建物取引士と業務管理者

宅建業者は、事務所ごとに、業務に従事する人の5人に1人以上の割合で専任の宅地建物取引士を置く必要があり、この要件を欠いた場合は2週間以内に必要な措置を取らなければなりません(宅地建物取引業法31条の3)。賃貸住宅管理業者は、営業所ごとに業務管理者を選任する必要があり、業務管理者が欠けると、新たに選任するまでその営業所では管理受託契約を結べません(賃貸住宅管理業法12条)。

売却を機に取引士や業務管理者が退職すると、免許・登録の要件を満たせなくなるおそれがあります。売り手の社長自身が取引士である場合は、退任後の後任をどう確保するかも、売却条件の重要な論点です。

預り金の分別管理

賃貸住宅管理業者は、管理業務で受け取った家賃・敷金・共益費などを、自社の財産と分けて管理しなければなりません(賃貸住宅管理業法16条)。買い手の調査(デュー・デリジェンス)では、預り金の残高と通帳・帳簿の一致、オーナーへの送金の遅れがないかが必ず確認されます。分別管理に不備があると、それだけで取引が止まることもあるため、売却を考え始めた段階で点検しておきたい項目です。

評価のポイント

不動産会社の譲渡価格は、一般に、純資産を時価に直した金額に、将来の収益力を反映した「のれん」を加えて考える方法や、将来のキャッシュフローから考える方法などで検討されます。不動産会社に特有の評価のポイントは次のとおりです。

  • 管理戸数と管理報酬の安定性:管理戸数、管理報酬率、過去数年の解約率、オーナーの集中度(特定のオーナーに依存していないか)
  • 仲介・売買の収益の変動:仲介手数料や自社売買の利益は、市況によって大きく変動します。過去の実績が今後も続くかを、買い手は慎重に見ます。
  • 販売用不動産の評価:自社で保有する販売用不動産は、時価への見直しの対象となり、含み損があれば価格に影響します。
  • 人への依存度:社長や特定の担当者が抜けた後も、オーナーや取引先との関係が続く体制かどうか。

譲渡価格の決まり方の全体像は、関連記事「中小企業の譲渡価格はどう決まるか」で整理しています。

売却前に整えておきたいこと

  • 免許・登録の内容(役員、事務所、専任の取引士、業務管理者)と、届出が最新の状態か
  • 管理受託契約書の有無と、契約ごとの解約条項・チェンジ・オブ・コントロール条項
  • 管理物件の一覧(戸数、管理報酬、契約期間、オーナーの属性)
  • 預り金の分別管理と、オーナーへの送金の記録
  • 取引士・業務管理者の在籍状況と、売却後の継続意向
  • 社長個人が所有する事務所や物件と、会社との賃貸借関係

売却後に、売り手が表明した事実と異なる点が見つかった場合の責任の範囲は、契約の表明保証条項で定めます。詳しくは関連記事「表明保証と売主の責任」で解説しています。

AEGISの視点

不動産会社、とりわけ賃貸管理会社の価値の中心は、オーナーとの間で長年積み重ねてきた「信頼の契約」にあります。株式を譲渡すれば法律上の契約は残りますが、オーナーが新しい経営者を信頼できなければ、契約は解約という形で静かに失われていきます。

AEGISは、不動産会社の売却を「会社を売る」ことにとどめず、オーナーの大切な資産の管理を、誰に、どのような形で引き継ぐかという視点で考えることが大切だと考えています。免許・登録の要件や預り金の管理を整えることは、買い手の調査に備えるためだけでなく、管理を任せてくれているオーナーへの責任を果たすことでもあります。

また、売却で得た資金の使い方や、社長個人が所有する不動産の扱い、売却後の生活と相続まで含めて設計すると、「渡せる会社」としての準備が整い、売り手にとっても納得のいく売却につながると考えています。

まとめ

  • 不動産会社の売却では、免許・登録、管理受託契約、資格者の3つが会社と一緒に移るかどうかが要になります。
  • 株式譲渡なら、会社の免許・登録や管理受託契約は原則としてそのまま残りますが、役員の変更などの届出は必要です。
  • 事業譲渡や会社分割では、宅建業の免許・管理業の登録は買い手側で必要になり、管理受託契約の移転にはオーナーの承諾が必要です。
  • 専任の宅地建物取引士や業務管理者の継続と、預り金の分別管理は、売却前に必ず確認したい項目です。
  • 評価では、管理戸数と解約率、仲介収益の変動、人への依存度などが見られます。具体的な判断は個別の事情によって異なります。

よくある質問

Q. 会社を売ると、宅建業の免許は取り直しになりますか?

株式譲渡であれば、会社が同じなので免許は原則としてそのまま使えます。ただし、役員や専任の宅地建物取引士が変わった場合は、30日以内に変更の届出が必要です。事業譲渡や会社分割で事業を移す場合は、受け入れる会社が自ら免許を持っているか、新たに取得する必要があります。

Q. 管理を受託している物件のオーナーの同意は必要ですか?

事業譲渡で管理受託契約を買い手に移す場合は、契約上の地位の移転にオーナーの承諾が必要です。株式譲渡では、法律上は承諾がなくても契約は続きますが、契約にチェンジ・オブ・コントロール条項がある場合や、オーナーが解約を選ぶ可能性を考えると、事前の説明と信頼の確保が欠かせません。

Q. 社長が唯一の宅地建物取引士の場合、売却できますか?

売却は可能ですが、社長が退任すると専任の取引士の要件を欠くおそれがあります。売却後も一定期間は社長が残る、後任の取引士を事前に確保する、といった対応を売却条件の中で決めておく必要があります。

Q. 管理戸数が少ない会社でも買い手は見つかりますか?

管理戸数だけで決まるわけではありません。地域での信頼、オーナーとの関係の安定性、仲介や修繕の受注力なども評価されます。ただし、管理報酬の安定性は評価の重要な要素であるため、解約率やオーナーの集中度を整理しておくことが大切です。

Q. 売却前に預り金の管理で確認すべきことは何ですか?

家賃・敷金などの預り金が自社の財産と分けて管理されているか、帳簿と通帳の残高が一致しているか、オーナーへの送金が遅れていないかを確認します。不備がある場合は、売却の交渉を始める前に整えておくことが望まれます。

関連するAEGISのソリューション

この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

  • M&A:会社売却の方針、取引条件、税引後の受取額、売却後の資産管理を検討します。
  • 不動産管理と実行管理:賃料・空室・修繕・返済・会計・税務をつないで、収益不動産の管理を支援します。
  • 事業オーナーの方へ:会社と株式、ご家族の承継を一つの計画として整理する、AEGISの支援の流れをまとめています。
  • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。
  • 不動産オーナーの方へ:3つの独自分析で承継の負担と資金を確認し、不動産ごとの方針を決める支援の流れをまとめています。
  • 高所得者の方へ:所得と資産の両面から、税負担と資産形成を整理する支援をまとめています。

参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 渡部潔著『中小企業M&AのFA業務マニュアル』中央経済社、P.18-21、P.59、P.67-69、P.192-193、P.201、P.242-244
  • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司著、ソシム、P.016-021

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。