カテゴリー: 不動産

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  • 高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいこと|損益通算・減価償却・借入れ・出口・名義の5つのチェック

    高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいこと|損益通算・減価償却・借入れ・出口・名義の5つのチェック

    給与や役員報酬が高い方のもとには、「不動産を買えば所得税が戻る」「将来の年金代わりになる」といった投資用不動産の提案が届くことがあります。不動産は長期の資産形成の手段として有力な選択肢の一つですが、税金の仕組みを部分的にだけ見て購入を決めると、想定と違う結果になることがあります。

    結論から言えば、高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいのは、①損益通算できる範囲、②減価償却が売却時に何をもたらすか、③借入れを何で返すか、④出口の税率と時期、⑤誰の名義で持つかの5つです。この記事では、高所得者の所得構成から見た購入前のチェックポイントを整理します。

    前提:高所得者の税負担の構造

    個人の所得税は、給与所得や不動産所得などを合算して税率を掛ける「総合課税」が基本です。所得税の税率は5%から45%までの7段階で、課税所得が4,000万円を超える部分には45%が適用されます(国税庁 No.2260)。これに住民税などが加わります。

    一方、不動産を売ったときの利益(譲渡所得)は、他の所得と分けて税率を掛ける「分離課税」です。売った年の1月1日時点の所有期間が5年を超えれば長期譲渡所得として所得税15%・住民税5%、5年以下なら短期譲渡所得として所得税30%・住民税9%が基本です(ほかに復興特別所得税。国税庁 No.3208・No.3211)。

    高所得者にとっての不動産投資の税務は、毎年の不動産所得は高い累進税率の中で計算され、売却益は別の税率で課税されるという、二つの異なる仕組みの組合せで成り立っています。この構造を押さえることが、すべてのチェックの出発点です。

    チェック1:損益通算できる範囲を確認する

    不動産所得が赤字になった場合、その赤字は給与所得などの黒字と差し引きできます。これを損益通算といいます。高所得者向けの提案で「税金が戻る」と説明されるのは、主にこの仕組みです。

    ただし、不動産所得の赤字のすべてが損益通算できるわけではありません。国税庁は、次のような部分は他の所得と損益通算できないとしています(国税庁 No.2250)。

    • 別荘など、生活に通常必要でない資産の貸付けに係る損失
    • 不動産所得の赤字のうち、土地を取得するために要した負債の利子に相当する部分
    • 国外中古建物から生じた損失のうち、簡便法などで計算した耐用年数による減価償却費に相当する部分(令和3年分以後。租税特別措置法41条の4の3)

    借入れで土地付きの物件を買う場合、利子のうち土地部分に対応する額は損益通算の対象から外れます。購入前のシミュレーションで、建物と土地の利子を区別しているかを確認することが大切です。

    チェック2:減価償却は「税の繰延べ」でもある

    建物や設備は、取得価額を耐用年数にわたって少しずつ経費にする減価償却の対象です。現金の支出を伴わない経費のため、帳簿上は赤字でも手元資金は減っていない、という状態が生まれます。

    ここで見落とされやすいのが、売却時の取扱いです。建物の取得費は、購入代金などから所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します(国税庁 No.3252)。つまり、保有中に経費として計上した減価償却費の分だけ、売却時の譲渡所得が大きくなるのです。

    局面減価償却の影響適用される税率のイメージ
    保有中不動産所得を減らす(赤字なら給与等と損益通算)総合課税の累進税率
    売却時建物の取得費が減り、譲渡所得が増える分離課税(長期・短期)

    高い累進税率の所得を減らし、売却時に分離課税の税率で課税されるという意味では、税負担の時期と率が変わる効果はあります。しかし、それは税金が「なくなる」ことではありません。売却時期が5年以内だと短期譲渡所得として高い税率がかかり、売却価格が下がっていれば、手元に残る資金は想定を下回ります。保有中の税の減少と売却時の税の増加を、一つの試算の中で通しで見ることが欠かせません。

    チェック3:借入れを何で返すかを確認する

    投資用不動産の多くは借入れを使って購入します。ここで確認したいのは、借入れの元本返済は経費にならないという点です。経費になるのは利子と減価償却費などであり、元本の返済は税引後の手取りから行うことになります。

    • 年数が経つと、利子が減って経費が少なくなる一方、元本返済は続きます。
    • 減価償却が終わる時期には経費が大きく減り、課税所得が増える一方で、手元資金は増えない状態が生じやすくなります。
    • 空室、賃料の下落、修繕費の増加、金利の上昇が重なると、返済のために給与収入を充てる必要が出てきます。

    購入前には、満室想定だけでなく、空室や修繕、金利上昇を織り込んだ場合に、返済原資を家賃収入だけでまかなえるかを確認します。「給与で補えば大丈夫」という前提は、収入が変化したときに崩れやすいものです。

    チェック4:出口の時期と方法を仮置きする

    出口とは、その不動産をいつ、どのように手放すか、あるいは誰に引き継ぐかということです。

    • 売却する場合:所有期間5年の境目、減価償却で下がった取得費、売却時の市場環境を踏まえて手取りを試算します。
    • 持ち続けて相続する場合:相続税の評価額と、相続人が管理を引き継げるかどうかを確認します。

    なお、令和8年度税制改正の大綱では、被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得または新築した一定の貸付用不動産について、通常の取引価額に相当する金額で評価する見直しが示されています(令和9年1月1日以後の相続等が対象。財務省)。購入して間もない時期の相続で評価額が大きく下がることを前提にした計画は、見直しが必要になる可能性があります。この見直しは2026年10月9日時点で通達案の段階にあり、通達案では、不動産特定共同事業等により小口化された貸付用不動産(特定小口化商品)についても通常の取引価額で評価する方針が示されています。また、取得価額が適正な場合は、取得価額を基に計算した額の80%で評価する方法も示されています。具体的な取扱いは、最終的な通達で確認が必要です。

    チェック5:誰の名義で持つかを決める

    不動産を誰の名義で持つかは、購入後に変えようとすると、売買や贈与として税金や登記費用がかかります。購入前に決めることが重要です。

    名義主な特徴確認したいこと
    本人(個人)手続きが簡単。不動産所得は本人の他の所得と合算本人の税率、損益通算の範囲、相続時の承継
    配偶者・家族所得を家族に分けられる場合がある購入資金の出どころ(贈与にならないか)、管理を誰がするか
    共有資金負担に応じて持分を分けられる将来の売却・相続で合意が必要になる
    法人(資産管理会社など)法人税率が適用され、役員報酬等で資金を配分できる設立・維持のコスト、借入れの条件、株式の承継

    名義の選び方は、税率の比較だけでなく、資金の出どころ、管理の担い手、将来の承継までを含めて判断する必要があります。

    購入前のチェックリスト

    項目確認すること
    所得構成現在の課税所得と税率、今後の収入の見通し
    損益通算土地部分の利子の扱い、国外中古建物の該当の有無
    減価償却建物と土地の価額の区分、耐用年数、売却時の取得費への影響
    返済原資空室・修繕・金利上昇を織り込んだ収支、元本返済の原資
    出口売却時期と税率、相続時の評価と承継者
    名義個人・家族・共有・法人のどれで持つか
    提案内容「税金が戻る」の前提、売却時の税金や修繕費の扱いが含まれているか

    実務上注意したいポイント

    • 「節税」を購入理由にしない:税負担の軽減は、保有期間全体で見ると時期がずれているだけの場合があります。物件そのものの収益力と資産価値が判断の中心です。
    • 提案書の前提を確認する:家賃の下落率、空室率、修繕費、売却価格の前提が楽観的になっていないかを確認します。
    • 家族の理解を得ておく:借入れや管理は、本人に万が一のことがあった場合に家族が引き継ぐことになります。

    AEGISの視点

    高所得者の不動産投資の相談で、AEGISが最初に確認するのは、物件ではなく「その人の所得と資産の全体像の中で、不動産にどのような役割を持たせたいか」です。毎年の手取りを増やしたいのか、将来の年金のように使いたいのか、家族に資産を残したいのかによって、選ぶべき物件も、名義も、借入れの組み方も変わります。

    不動産投資の税務は、保有中の損益通算だけを切り取ると魅力的に見えることがあります。しかし、購入・保有・売却・承継までを一本の線で試算すると、税引後に何が残るのかが初めて見えてきます。購入時に記録や名義を整えておけば、将来の売却や承継の選択肢も広がります。AEGISは、物件を選ぶ前に「取得と保有の形」を設計することが、長期の資産形成を安定させると考えています。

    不動産の判断の全体像は関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で、個人と法人の比較は「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で解説しています。

    税負担と手元資金の関係は「税負担とキャッシュフローをどう両立させるか」、マンションを相続対策として検討する場合の評価の仕組みは「居住用マンションの相続税評価はどう変わったか」もあわせてご覧ください。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    まとめ

    • 高所得者の不動産投資は、累進課税の不動産所得と、分離課税の譲渡所得という二つの仕組みの組合せで考える必要があります。
    • 不動産所得の赤字は損益通算できますが、土地取得のための負債の利子相当額などは対象外です。
    • 減価償却は保有中の所得を減らす一方、売却時の取得費を減らし、譲渡所得を増やします。
    • 元本返済は経費にならないため、空室や金利上昇を織り込んだ返済原資の確認が欠かせません。
    • 名義は購入前に、税率だけでなく資金の出どころ・管理・承継まで含めて決めます。具体的な効果は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 不動産所得が赤字になれば、必ず所得税が戻ってきますか?

    赤字のうち損益通算できる部分について、給与所得などから差し引くことができます。ただし、土地を取得するための借入金の利子に相当する部分などは損益通算できません。また、赤字が続くということは、物件の収支が厳しい可能性もあるため、税金だけでなく手元資金の動きを確認することが大切です。

    Q. 減価償却費を多く計上すると、売却時に不利になるのですか?

    建物の取得費は、購入代金などから減価償却費相当額を差し引いて計算するため、保有中に計上した減価償却費の分だけ売却時の譲渡所得は大きくなります。保有中の税負担と売却時の税負担を合わせて試算し、全体として判断することが必要です。

    Q. 5年以内に売却するとどうなりますか?

    売った年の1月1日時点の所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり、所得税30%・住民税9%が基本の税率です(ほかに復興特別所得税)。5年を超える長期譲渡所得の所得税15%・住民税5%と比べて税負担が重くなるため、出口の時期は購入前に仮置きしておくことが望まれます。

    Q. 妻の名義で購入すれば、家族全体の税金は減りますか?

    所得の低い家族の名義にすると、不動産所得にかかる税率が下がる場合があります。ただし、購入資金を本人が出していれば、その資金について贈与税の問題が生じることがあります。資金の出どころと、実際に誰が管理・運営するのかを整理したうえで判断する必要があります。

    Q. 相続対策として投資用マンションを買うのは有効ですか?

    相続税評価額と時価の差に着目した対策は、制度の見直しの対象になってきました。令和6年1月1日以後は居住用マンションの評価方法が見直され、令和8年度税制改正の大綱では、取得後5年以内の一定の貸付用不動産を通常の取引価額で評価する見直しも示されています。評価の差だけを目的にした購入は、慎重に検討することが必要です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、2014年、P.47-50
    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、2023年(2024年第5刷)、P.414-415、P.428-429
  • 共有名義の不動産を解消する方法|持分の買取り・現物分割・売却・共有物分割請求を比べる

    共有名義の不動産を解消する方法|持分の買取り・現物分割・売却・共有物分割請求を比べる

    相続のときに「ひとまず公平に」と兄弟で共有にした土地や建物が、年月を経て扱いにくい財産になっている。共有名義の不動産について、そうした相談は少なくありません。共有者の一人が亡くなって持分がさらに細かく分かれたり、連絡が取れない共有者が出てきたりすると、売ることも建て替えることも難しくなります。

    結論から言えば、共有の解消方法は、①話し合いで持分を一人に集める(買取り・贈与)、②土地を持分に応じて分ける(現物分割)、③全体を売って代金を分ける(換価)、④他の共有不動産と持分を交換する、⑤話し合いがまとまらない場合に裁判所の手続きを使う、の5つに整理できます。方法によって税金のかかり方も大きく異なります。

    この記事では、既に共有になっている不動産を対象に、それぞれの方法の特徴と課税関係を比べ、もめずに進めるための順番を解説します。

    共有のままでは何が困るのか

    民法では、共有物の扱いについて次のようなルールが定められています。

    • 変更:形状や効用の著しい変更を伴う変更(建替えや大規模な改造など)には、共有者全員の同意が必要です(民法251条)。
    • 管理:管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決めます。建物の賃貸借は3年、土地は5年を超えない短期のものであれば、管理として過半数で決められます(民法252条)。
    • 保存:建物の小修繕などの保存行為は、各共有者が単独で行えます。

    裏を返すと、長期の賃貸や建替え、全体の売却といった重要な判断には、全員の合意が必要になるということです。共有者の年齢が上がり、相続でさらに共有者が増えるほど、合意は難しくなります。共有の問題は、時間が経つほど解決のコストが上がる問題です。

    最初に確認したいこと:その共有は「遺産分割前」か

    共有の解消を考える前に、その不動産がどのような共有なのかを確認しておく必要があります。

    • 遺産分割前の共有(遺産共有):相続が発生したものの、遺産分割協議がまだ終わっていない状態です。原則として、遺産分割の手続きで誰が取得するかを決めることになり、共有物分割の手続きは使えません。ただし、相続開始から10年を経過したときは、一定の場合に共有物分割の手続きで扱えるようになりました(民法258条の2)。
    • 通常の共有:遺産分割で共有と決めた場合や、共同で購入した場合などです。この記事で扱う解消方法の多くは、こちらを前提としています。

    遺産分割前であれば、まずは遺産分割の中で、不動産を一人が取得して他の相続人に代償金を支払う方法(代償分割)や、売却して代金を分ける方法を検討するのが一般的です。共有にするかどうかを決める段階こそが、最も選択肢の多いタイミングです。

    共有を解消する5つの方法

    1. 持分の買取り・贈与で一人に集める

    他の共有者の持分を買い取る、または贈与を受けて、一人の単独所有にする方法です。共有者の一人が住んでいる自宅や、事業に使っている土地などで選ばれやすい方法です。

    • 売った共有者には、持分の譲渡益に対して譲渡所得の課税が生じます。
    • 親族間で時価より著しく低い価額で売買すると、買った側に、時価との差額について贈与税が課税されることがあります(相続税法7条)。
    • 贈与で集める場合は、受け取った側に贈与税がかかります。

    価格の決め方が最も話し合いの焦点になります。不動産会社の査定や不動産鑑定士の評価など、第三者が見ても合理的な根拠を用意することが、もめないための近道です。

    2. 土地を持分に応じて分ける(現物分割)

    一筆の土地を分筆し、それぞれが単独で所有する土地に分ける方法です。

    国税庁の通達では、共有している土地について、その持分に応じた現物分割があったときは、その分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱うとされています(所得税基本通達33-1の7)。分割後の面積の比と持分割合が一致しなくても、分割後のそれぞれの土地の価額の比が持分割合におおむね等しければ、持分に応じた現物分割に該当するとされています。

    ただし、分割後の土地が狭くなりすぎたり、道路に接しない部分ができたりすると、価値が大きく下がります。建物が建っている場合や、マンションのような区分所有建物では、現物分割は現実的でないことが多いでしょう。

    3. 全体を売って代金を分ける(換価)

    共有者全員で不動産全体を売却し、代金を持分に応じて分ける方法です。

    • 共有者それぞれに、持分に応じた譲渡所得の課税が生じます。所有期間が売った年の1月1日現在で5年を超えるかどうかで、長期・短期の税率が分かれます(国税庁 No.3208・No.3211)。
    • 自宅として住んでいた共有者には、居住用財産の特例が使える場合がありますが、要件は共有者ごとに確認する必要があります。

    全体を売ると市場で最も高い価格が付きやすく、公平感も得やすい方法です。一方で、共有者のうち一人でも売却に反対すると実行できません。

    4. 持分を交換して単独所有にする

    兄弟でA土地とB土地をそれぞれ2分の1ずつ共有しているような場合、A土地の持分とB土地の持分を交換して、それぞれが単独で所有する形にする方法です。

    土地と土地のように同じ種類の資産の交換で、互いに1年以上所有していること、交換後も交換前と同じ用途に使うこと、価額の差が高い方の20%以内であることなどの要件を満たせば、固定資産の交換の特例により譲渡がなかったものとされます(国税庁 No.3502)。交換差金を受け取った場合は、その部分に課税があります。

    5. 話し合いがまとまらない場合:裁判所の手続き

    共有者の間で協議が調わないとき、または協議ができないときは、裁判所に共有物の分割を請求できます(民法258条)。裁判所は、次のいずれかの方法で分割を命じます。

    • 現物を分割する方法
    • ある共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分を取得させる方法(いわゆる賠償分割)
    • これらの方法で分割できない場合や、分割で価格が著しく減少するおそれがある場合は、競売

    各共有者はいつでも分割を請求できますが、5年を超えない期間で分割しない旨の契約をすることもできます(民法256条)。

    また、令和5年4月1日施行の民法改正により、所在等不明共有者(他の共有者を知ることができない、またはその所在を知ることができない場合)がいるときは、裁判所の手続きを経て、その持分を取得したり、第三者に譲渡する権限を得たりできる制度が設けられました(民法262条の2・262条の3)。取得した共有者は、時価相当額を支払う必要があります。

    方法ごとの比較

    方法合意の要否主な税金向いている状況
    持分の買取り当事者の合意売主に譲渡所得。低額なら買主に贈与税一人が住む・使う不動産
    持分の贈与当事者の合意受贈者に贈与税親子間など、対価なしで集めたい場合
    現物分割全員の合意持分に応じた分割なら譲渡なしの扱い広い更地で、分けても価値が保てる土地
    全体の売却全員の合意各共有者に譲渡所得誰も使う予定がない不動産
    持分の交換当事者の合意要件を満たせば交換の特例複数の共有不動産がある場合
    共有物分割請求不要(裁判所が判断)分割の方法に応じて課税話し合いが成立しない場合

    (民法・国税庁の資料を基にAEGISが整理。税金は主なもので、個別の状況により異なります)

    もめずに進めるための順番

    1. 登記と持分の現状を確認する:登記事項証明書で共有者と持分を確認します。亡くなった共有者がいれば、その相続人を把握します。
    2. 各共有者の希望を聞く:住み続けたい、現金化したい、持ち続けたいなど、希望は人によって異なります。
    3. 不動産の価値と使い道を把握する:査定や評価、賃貸に出した場合の収益などを確認します。
    4. 方法ごとの税引後の手取りを試算する:同じ価格でも、方法によって各人の手取りが変わります。
    5. 合意した内容を書面にし、登記まで完了させる:口約束のまま放置すると、次の相続で再び共有の問題が生じます。

    実務上注意したいポイント

    • 持分だけを第三者に売ることもできるが、価格は下がりやすい:持分のみの売却は可能ですが、買い手は共有関係ごと引き受けるため、一般に価格は全体売却の按分額より低くなりがちです。
    • 相続税評価と時価を混同しない:共有の土地の相続税評価は、全体の評価額を持分で按分して求めます。親族間の売買価格をその評価額で決めると、時価との差が贈与と見られる可能性があります。
    • 共有者の判断能力にも目を向ける:共有者が高齢で判断能力が低下すると、売却や分割の手続きが進められなくなることがあります。

    AEGISの視点

    共有は、相続の時点では「公平」に見える分け方です。しかし実際には、決定を将来に先送りする仕組みになっていることが少なくありません。共有者が増え、世代が替わるほど、一人ひとりの持分は小さくなり、合意のハードルは上がっていきます。

    AEGISは、共有の解消を検討するとき、法的な手段や税金の比較だけでなく、「その不動産を誰が、どう使い、どう次の世代に渡すのか」から考えることを大切にしています。例えば、一人が不動産を引き継ぐ代わりに他の共有者に金融資産を渡す、売却して得た資金をそれぞれの生活設計に生かす、といった形で、不動産以外の財産と組み合わせると解決の幅が広がります。

    これから共有になりそうな不動産をお持ちの場合は、遺言や民事信託(いわゆる家族信託)で、共有を避ける形をあらかじめ設計しておくことも選択肢です。

    相続前の段階で共有を避ける考え方は関連記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で、不動産の判断の全体像は「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    相続した実家を兄弟で共有している場合は「相続した実家が空き家になったときの選択肢」、不動産と金融資産を組み合わせて分ける考え方は「自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継」もあわせてご覧ください。

    共有不動産の評価や譲渡の税務については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 共有不動産は、長期の賃貸、建替え、全体の売却などに共有者全員の合意が必要になり、時間が経つほど解消が難しくなります。
    • 解消方法は、持分の買取り・贈与、現物分割、全体の売却、持分の交換、裁判所での共有物分割請求に整理できます。
    • 持分に応じた土地の現物分割は、所得税では譲渡がなかったものとして扱われます。持分の売買や全体の売却では譲渡所得が、低額譲渡や贈与では贈与税が問題になります。
    • 所在等不明共有者がいる場合には、裁判所の手続きで持分を取得する制度があります。
    • 具体的な方法と課税関係は、不動産の状況と共有者の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 共有者の一人が売却に反対しています。他の共有者だけで売ることはできますか?

    不動産全体の売却には、共有者全員の同意が必要です。反対している共有者がいる場合は、自分の持分だけを売る、反対している共有者に持分を買い取ってもらう、または裁判所に共有物分割を請求するといった方法を検討することになります。

    Q. 兄弟に持分を安く売った場合、税金の問題はありますか?

    時価より著しく低い価額で売買すると、買った側に時価との差額について贈与税が課税されることがあります。また、売った側は、受け取った代金を基に譲渡所得を計算します。親族間の売買では、価格の根拠を残しておくことが大切です。

    Q. 土地を分筆して分けると、税金はかかりませんか?

    持分に応じた現物分割であれば、所得税では譲渡がなかったものとして取り扱われます。ただし、分割後の土地の価額の比が持分割合とおおむね等しいことが前提です。差がある場合は、その部分について贈与や譲渡の問題が生じる可能性があります。分筆や登記の費用は別途かかります。

    Q. 共有者の一人と連絡が取れません。どうすればよいですか?

    まず戸籍や住民票などで所在を調べます。それでも他の共有者を知ることができない、または所在が分からない場合は、令和5年4月1日施行の民法改正で設けられた制度により、裁判所の手続きを経てその持分を取得する、または譲渡する権限を得ることが考えられます。持分を取得した共有者は、時価相当額を支払う必要があります。

    Q. 相続で共有になりそうな不動産があります。今からできることはありますか?

    遺言で取得する人を決めておく、生前に売却や組換えをして分けやすい財産にしておく、民事信託(いわゆる家族信託)で管理の権限を一人に集めておく、といった方法があります。どの方法が合うかは、不動産の性質と家族の状況によって異なります。

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    • 不動産の最適活用:立地・敷地・建物・周辺需要・投資負担から、賃貸・売却・組換え・事業活用を比較します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『実務家のための「基本書&ハンドブック」 要点 譲渡所得【第一編 総説・不動産譲渡の特例等関係】(第4版)』塩野入文雄 著、法令出版、2020年、P.95、P.279-280
    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、大蔵財務協会、2024年、P.12
  • 相続した実家が空き家になったときの選択肢|売る・貸す・残すと空き家の3,000万円特別控除

    相続した実家が空き家になったときの選択肢|売る・貸す・残すと空き家の3,000万円特別控除

    親が亡くなり、誰も住まなくなった実家をどうするか。多くの家族にとって、これは相続手続きの中でも最も判断を先送りしやすいテーマです。思い出のある家を手放すことへのためらいもあれば、兄弟姉妹の意見がそろわないこともあります。

    ただし、空き家の問題は「時間が経つほど選択肢が減る」性質を持っています。結論から言えば、相続した実家については、相続開始からおおむね3年以内に「売る・貸す・残す」の方向性を決めることが重要です。売却する場合に使える「空き家の3,000万円特別控除」には期限と細かな要件があり、空き家のまま放置すれば固定資産税の負担が増えるおそれもあるからです。

    この記事では、親の自宅に絞って、3つの選択肢の比べ方と、特例の要件、保有を続ける場合の注意点を整理します。

    実家が空き家になると、何が起きるのか

    まず、空き家になった実家を相続した人が向き合うことを確認しておきます。

    • 維持費がかかり続ける:固定資産税・都市計画税、火災保険料、水道光熱の基本料金、庭木の手入れや草刈り、定期的な換気や点検の費用がかかります。遠方であれば交通費や時間も負担になります。
    • 管理の責任を負う:建物が傷んで瓦や外壁が落ちたり、雑草や害虫が近隣に迷惑をかけたりすれば、所有者として責任を問われることがあります。
    • 登記の義務がある:令和6年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になり得ます(法務省)。
    • 分け方が決まらないと動けない:遺産分割が終わらないまま相続人全員の共有状態が続くと、売るにも貸すにも全員の合意が必要になります。

    空き家は、持っているだけで「費用」と「責任」が発生する財産です。この前提を家族で共有することが、話し合いの出発点になります。

    3つの選択肢を比べる

    相続した実家の行き先は、大きく「売る」「貸す」「残す(自分たちで使う・そのまま持つ)」の3つです。それぞれの特徴をAEGISの視点で整理すると、次のようになります。

    選択肢向いている状況主なメリット主な注意点
    売る誰も住む予定がない、遠方で管理が難しい、相続人で分けたい管理負担がなくなる。代金を分けやすい。要件を満たせば空き家の3,000万円特別控除を使える期限内に動く必要がある。建物の状態や立地によっては買い手が付きにくい
    貸す賃貸需要がある立地、建物の状態が良い、将来使う可能性がある家賃収入で維持費をまかなえる可能性がある。資産を手元に残せる修繕・設備更新の初期投資が必要。貸すと空き家の特例は使えなくなる。賃貸経営の手間と責任
    残す相続人が住む予定がある、当面は判断を保留したい思い出の家を残せる。将来の選択肢を残せる空き家のままでは維持費と管理責任が続く。放置すると住宅用地特例が外れるおそれ

    どれが正解かは、立地、建物の状態、相続人の住まいや生活設計によって変わります。ただし、「売る」を選ぶ可能性が少しでもあるなら、特例の期限を意識して早めに検討を始めることが大切です。

    「売る」場合:空き家の3,000万円特別控除

    特例の概要

    相続した実家を売って利益(譲渡所得)が出た場合、一定の要件を満たすと、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。正式には「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といい、空き家の発生を抑える目的で設けられた制度です(国税庁 No.3306、国土交通省)。

    この特例は、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡が対象です。なお、令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続した相続人が3人以上いる場合は、控除額は1人あたり2,000万円までとなります(国税庁 No.3306)。

    主な要件

    国税庁の説明をもとに、主な要件をAEGISが整理すると次のとおりです。

    区分主な要件
    家屋昭和56年5月31日以前に建築されたこと。区分所有建物の登記がされている建物(マンションなど)でないこと。相続開始の直前に被相続人以外に住んでいた人がいないこと
    相続後の使い方相続の時から売却の時まで、事業・貸付け・居住の用に使われていないこと
    売却の時期相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
    売却の方法家屋を耐震基準に適合させて売る、家屋を取り壊して敷地を売る、または(令和6年1月1日以後の譲渡で)売却後、翌年2月15日までに買主が耐震改修や取壊しを行う
    売却代金1億円以下であること
    その他親子や夫婦など特別な関係のある人への売却でないこと。同じ被相続人から相続した家屋等について既にこの特例を受けていないこと。相続財産の取得費加算の特例など他の特例を受けていないこと

    被相続人が老人ホーム等に入所していた場合でも、要介護認定を受けていたなど一定の要件を満たせば対象になり得ます。また、申告の際には、家屋が所在する市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を受けて添付する必要があります(国税庁 No.3306、国土交通省)。

    見落とされやすい3つの点

    1. 「貸した時点」で使えなくなる:相続後に一時的に貸したり、相続人が住んだりすると、要件を満たさなくなります。「とりあえず貸して様子を見る」は、特例を手放す判断になり得ます。
    2. 1億円の判定は相続人全体で見る:実家を兄弟で共有で相続し、別々に売る場合でも、1億円以下かどうかは各人の持分だけでなく、他の相続人の売却分も合わせて判定する仕組みになっています。
    3. 相続税の取得費加算の特例とはどちらか一方:相続税を納めた人が、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続財産を売ると、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例があります(国税庁 No.3267)。空き家の特例と併用はできないため、どちらが有利かを試算して選ぶ必要があります。

    「貸す」場合:収入と引き換えに引き受けるもの

    実家を貸すと、家賃収入は不動産所得として確定申告の対象になります。固定資産税や修繕費、減価償却費などを必要経費にできる一方、古い住宅を貸すには、水回りや設備の更新、耐震性の確認などに初期投資が必要になることが少なくありません。

    また、前述のとおり、貸した実家は空き家の特例の対象外になります。将来売る可能性があるなら、「数年貸してから売る」場合と「今売る」場合とで、税引後の手取りを比べてから判断することが大切です。貸すことは、資産を残す選択であると同時に、賃貸経営という事業を始める選択でもあります。

    「残す」場合:管理の負担と固定資産税

    住宅用地特例が外れるリスク

    住宅が建っている土地には、固定資産税の課税標準を軽減する「住宅用地特例」があり、住宅1戸あたり200㎡以下の部分(小規模住宅用地)では6分の1、それを超える部分(一般住宅用地)では3分の1に軽減されています(地方税法349条の3の2)。ところが、令和5年の空家等対策特別措置法の改正(令和5年12月13日施行)により、適切に管理されていない「管理不全空家」についても、市区町村長から勧告を受けると、その敷地は住宅用地特例の対象から外れることになりました。従来から、倒壊のおそれがあるなどの「特定空家」は勧告により特例が外れる仕組みでした(国土交通省)。

    市区町村の対応は、一般に指導、勧告、命令と段階的に進みます。特例が外れると、土地の固定資産税が大きく増える可能性があります。

    「残す」なら管理の体制を決める

    実家を残すと決めた場合は、次の点を家族で決めておくことが現実的です。

    • 誰が名義人となり、誰が管理の窓口になるか
    • 維持費を誰がどの割合で負担するか
    • 点検・清掃の頻度と、管理を外部に委託するかどうか
    • いつ、どのような状態になったら、売却や賃貸を改めて検討するか

    「残す」は判断の保留ではなく、管理を続けるという意思決定です。期限と見直しの条件を決めておくと、何年も放置される事態を防ぎやすくなります。

    判断の順番:相続開始から3年をどう使うか

    空き家の特例の期限から逆算すると、相続開始後の動き方は次のように整理できます。

    時期の目安主に行うこと
    相続開始〜数か月家財の整理、建物の状態と建築時期の確認、相続人の意向の確認
    〜10か月遺産分割の方向性、相続税申告(必要な場合)、誰が実家を取得するかの決定
    〜1年半売却価格の査定、賃貸需要の確認、空き家特例と取得費加算の比較試算
    〜3年目の年末売却する場合は特例の期限内に契約・引渡し、確認書の取得

    遺産分割で「誰が実家を取得するか」を決める段階で、売却の方針まで話し合っておくと、取得のしかた(単独で取得するか、共有で取得するか、売却代金を分けるか)も決めやすくなります。

    実務上注意したいポイント

    • 建築時期を最初に確認する:昭和56年6月1日以後に建築された家屋は、空き家の特例の対象外です。登記事項証明書や建築確認の書類で確認します。
    • 家財の処分も期限に含めて考える:家財の整理には想像以上に時間がかかります。特例の期限から逆算して着手時期を決めます。
    • 共有にするなら出口まで決める:兄弟で共有のまま保有すると、後の売却や管理で合意形成が難しくなりがちです。
    • 特例ありきで判断しない:特例が使えるかどうかは重要ですが、それだけで売却時期を決めると、価格や家族の合意を後回しにしてしまうことがあります。

    AEGISの視点

    相続した実家の問題は、税金の問題である前に、家族の時間と気持ちの整理の問題です。親の暮らした家を手放すことに、すぐに答えを出せないのは自然なことです。

    そのうえでAEGISは、実家を「家族の思い出」と「維持費と責任を伴う資産」の両面から見ることをおすすめしています。売る・貸す・残すのそれぞれについて、税引後の手取り、毎年の維持費、管理の手間、家族の合意のしやすさを一つの表に並べると、感情だけでも数字だけでもない判断がしやすくなります。

    また、実家の行き先は、相続全体の財産の分け方とも結びついています。実家を取得する人と金融資産を取得する人のバランス、相続税の納税資金、将来の二次相続まで含めて考えることで、家族にとって納得感のある結論に近づきます。

    相続全体の確認事項は関連記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で、不動産の判断の全体像は「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    土地として活用や売却を比べる考え方は「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」、兄弟で共有になった場合の整理の方法は「共有名義の不動産を解消する方法」で扱っています。

    相続した不動産の税務や評価については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続した実家は、相続開始からおおむね3年以内に「売る・貸す・残す」の方向性を決めることが重要です。
    • 空き家の3,000万円特別控除は、令和9年12月31日までの譲渡が対象で、昭和56年5月31日以前の建築、相続後に貸したり住んだりしていないこと、売却代金1億円以下などの要件があります。相続人が3人以上の場合は1人2,000万円までです。
    • 相続税の取得費加算の特例とは併用できないため、比較して選びます。
    • 空き家のまま管理が不十分だと、勧告により固定資産税の住宅用地特例が外れるおそれがあります。
    • 具体的な特例の適用可否は、建物・相続人・売却条件などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 実家を相続しましたが、まだ相続登記をしていません。それでも売却できますか?

    売却するには、原則として相続登記を済ませ、相続人の名義にしてから買主に移転登記をする必要があります。また、令和6年4月1日から相続登記は義務化されており、取得を知った日から3年以内の申請が求められます。売却の予定があるかどうかにかかわらず、早めに手続きを進めることが望まれます。

    Q. マンションの実家でも空き家の3,000万円特別控除は使えますか?

    区分所有建物の登記がされている建物(一般的な分譲マンション)は、この特例の対象外とされています。マンションの場合は、相続税の取得費加算の特例など、他の制度が使えるかどうかを確認することになります。

    Q. 相続後に1年だけ親族が住んでいました。特例は使えますか?

    この特例には、相続の時から売却の時まで事業・貸付け・居住の用に使われていないことという要件があります。相続後に誰かが住んでいた場合は、原則として要件を満たさないことになります。具体的な事情によって判断が分かれる場合もあるため、売却前に確認することが大切です。

    Q. 建物を取り壊して更地で売るのと、建物付きで売るのはどちらがよいですか?

    更地にすると買い手の幅が広がることがある一方、解体費用がかかり、取壊し後は住宅用地特例が適用されなくなる点にも注意が必要です。令和6年1月1日以後の譲渡では、売却後に買主が翌年2月15日までに取壊しや耐震改修を行う場合も特例の対象になり得るため、売り方の選択肢は以前より広がっています。

    Q. 兄弟3人で実家を相続しました。控除額はどうなりますか?

    令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続した相続人が3人以上いる場合、控除額は1人あたり2,000万円までとされています。あわせて、売却代金1億円以下の要件は、各人の持分ではなく相続人全体の売却分を合わせて判定する点にも注意が必要です。

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    参考資料・出典

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    書籍

    • 『実務家のための「基本書&ハンドブック」 要点 譲渡所得【第一編 総説・不動産譲渡の特例等関係】(第4版)』塩野入文雄 著、法令出版、2020年、P.269-286
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  • 不動産の購入・保有・売却を一体で考える|所有形態・収益・承継までつなぐ判断の順番

    不動産の購入・保有・売却を一体で考える|所有形態・収益・承継までつなぐ判断の順番

    不動産を買うときは不動産会社や金融機関、持っている間は管理会社、確定申告は税理士、相続のときは司法書士や税理士——。不動産に関わる判断は、場面ごとに相談先が分かれるのが普通です。それぞれの専門家は自分の担当範囲では最善を尽くしますが、その結果として、購入時の判断が売却や相続の段階で足かせになることが少なくありません。

    結論から言えば、不動産は購入する時点で「誰が、何のために、いつまで持ち、どのように手放すか(または引き継ぐか)」を仮置きしておくことが、最も確実な備えになります。この記事では、不動産の「購入 → 保有 → 売却・承継」を一つの流れとして捉え、各段階で何を確認すべきかを整理します。

    なぜ不動産の判断は分断されやすいのか

    不動産は、金額が大きく、保有期間が長く、関わる制度が多い資産です。一つの物件をめぐって、次のような異なる「ものさし」が同時に存在します。

    • 市場の価格:実際に売買が成立する価格
    • 収益の価値:賃料などから生まれる収益力
    • 税務上の評価:相続税・贈与税や固定資産税を計算するための評価額
    • 金融機関の評価:融資の担保としての評価

    これらは目的が違うため、同じ不動産でも数字が一致しません。購入時には市場価格と収益だけを見て判断し、相続のときに初めて税務上の評価や納税資金の問題に気づく——こうした「時間差」が、判断の分断を生みます。

    さらに、不動産の判断には家族が関わります。購入時は本人の判断だけで決められても、相続後は複数の相続人の合意が必要になることがあります。時間の経過とともに、意思決定に関わる人が増えていくのも不動産の特徴です。

    不動産の一生を3つの局面で整理する

    AEGISでは、不動産に関わる判断を次の3つの局面に分け、それぞれの局面が次の局面にどうつながるかを意識することをおすすめしています。

    局面主な判断お金・税務の論点次の局面へのつながり
    購入目的、物件、所有する人(名義)、資金計画取得費用、借入れ、取得費の記録名義と持分が、保有中の収益の帰属と将来の相続財産を決める
    保有収益の管理、修繕、借入れの返済、評価の把握不動産所得、手元資金、相続税評価収益の蓄積先と評価額が、売却・承継の選択肢を左右する
    売却・承継売るか、持ち続けるか、誰に引き継ぐか譲渡所得、相続税、納税資金次の世代の「購入」の出発点になる

    この表のポイントは、右端の列です。各局面の判断は、その場で完結せず、必ず次の局面の前提条件になります。

    購入時に決めておきたいこと

    目的を言葉にする

    不動産を買う目的は、自宅、賃貸収入、事業用、資産の保全、将来の承継などさまざまです。目的によって、重視すべき指標も保有期間も変わります。たとえば賃貸収入が目的なら、実際に手元に残る資金(キャッシュフロー)が中心になり、事業用であれば事業との一体性が重要になります。

    目的が曖昧なまま購入すると、保有中や売却時に「何を基準に判断するか」が定まりません。

    誰の名義で持つかを決める

    購入時の最も重要な判断の一つが、所有する人(所有主体)です。

    • 個人で単独所有する
    • 夫婦や親子で共有する
    • 法人(資産管理会社や事業会社)が所有する

    名義は、賃料などの収益が誰に帰属するか、どの税金がかかるか、そして将来の相続で何が相続財産になるかを決めます。個人で持てば不動産そのものが相続財産になり、法人で持てば相続財産になるのはその法人の株式です。

    一度決めた名義を後から変えるには、売買や贈与などの手続きが必要になり、その時点で税金や費用が生じることがあります。個人と法人のどちらで持つかの比較は、関連記事「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で詳しく解説しています。

    出口を仮置きする

    購入時点で、将来の出口を仮に決めておきます。「10年程度で売却する」「子に引き継ぐ」「建替えを前提に長期保有する」などです。出口が仮置きされていれば、借入れの期間や修繕の方針、名義の選び方にも一貫性が生まれます。

    購入時の記録を残す

    売却時の税金(譲渡所得)は、売却価格から取得費や譲渡費用を差し引いて計算します。購入時の契約書や費用の領収書は、売却や相続のずっと後になって必要になる書類です。保有期間が長くなるほど、記録の散逸が問題になります。

    保有中に見ておきたいこと

    収益と手元資金は別物として管理する

    賃貸不動産では、帳簿上の利益と手元に残る資金は一致しません。借入金の元本返済は経費にならない一方で、建物の減価償却費は資金の支出を伴わない経費です。返済が進み、減価償却が少なくなる時期には、利益は出ているのに手元資金が減るということも起こります。

    保有中は、少なくとも次の点を定期的に確認しておきたいところです。

    • 空室率や賃料の推移
    • 修繕・設備更新の見込みと、その資金
    • 借入れの残高と返済計画
    • 税引き後に手元に残る資金

    相続税評価を把握しておく

    相続税や贈与税では、財産は取得の時の時価で評価するのが原則とされ(相続税法第22条)、国税庁は財産評価基本通達で具体的な評価方法を定めています。不動産の場合の基本は次のとおりです(国税庁 タックスアンサーNo.4602)。

    • 土地(宅地):路線価が定められている地域は路線価方式、それ以外の地域は固定資産税評価額に一定の倍率を乗じる倍率方式で評価
    • 建物(家屋):固定資産税評価額に1.0を乗じて評価(つまり固定資産税評価額と同じ)

    さらに、アパートなどを建てて貸している土地(貸家建付地)は、自用地としての価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を用いて計算した金額を差し引いて評価します(国税庁 No.4614)。同じ土地でも、使い方によって評価額が変わるということです。

    相続税評価額と実際に売れる価格がなぜ違うのかは、関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格の違い」で解説しています。

    定期的に「持ち続ける理由」を確認する

    保有中は、物件の状態や周辺の環境、家族の状況が少しずつ変わります。年に一度、決算や確定申告の時期などに、「この不動産を持ち続ける理由は今も有効か」を確認することをおすすめします。持ち続ける理由が弱くなった不動産は、売却や組替えの候補になります。

    売却を考えるときに確認したいこと

    譲渡所得の基本

    個人が土地や建物を売却したときの所得(譲渡所得)は、他の所得と分けて税額を計算する分離課税です。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるものは長期譲渡所得、5年以下のものは短期譲渡所得に区分されます(国税庁 No.3202)。

    区分所有期間(売却した年の1月1日時点)税率(国税庁による)
    長期譲渡所得5年超所得税15%、住民税5%
    短期譲渡所得5年以下所得税30%、住民税9%

    ※このほか復興特別所得税がかかります。居住用財産の特例など、要件を満たす場合に適用できる特例もあります(国税庁 No.3208、No.3211)。

    所有期間の判定が「売却した日」ではなく「売却した年の1月1日」を基準にする点は、売却時期を考えるうえで見落としやすいポイントです。

    相続した不動産を売る場合

    相続した不動産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却した場合、一定の相続税額を取得費に加算できる特例があります(国税庁 No.3267)。相続税の納税資金のために不動産の売却を考える場合には、この期間を意識しておく必要があります。

    売る・持つ・組み替えるを比べる

    売却を検討するときは、「売った場合の手取り額」だけでなく、「持ち続けた場合に将来得られる収益と、相続時の評価・納税」もあわせて比べることが大切です。売却で得た資金を別の資産に組み替えれば、相続財産の構成も変わります。

    承継を見据えて確認したいこと

    不動産オーナーにとって、相続は避けて通れない局面です。相続が発生すると、次のような論点が一度に表面化します。

    • 期限:相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。
    • 評価:土地と建物の評価、貸している場合の減額、小規模宅地等の特例を適用できるかどうか。
    • 分割:誰がどの不動産を取得するか。分割が決まらないと、特例が使えない期間が生じることがあります。
    • 納税資金:不動産が財産の多くを占める場合、現金での納付が難しくなることがあります。
    • 登記:相続登記の申請は、令和6年4月1日から義務化されています(法務省)。

    相続前に何を確認しておくべきかは、関連記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で詳しく整理しています。

    実務上注意したいポイント

    税金を理由に買わない

    相続税評価額が市場価格より低くなることを理由に不動産を購入する考え方があります。しかし、税務上の評価だけを基準にすると、収益性や売却のしやすさ、修繕負担といった本来の判断軸が後回しになります。また、評価の方法自体が見直されることもあります。たとえば居住用の分譲マンションについては、令和6年1月1日以後の相続等から新しい評価方法が適用されています(国税庁 No.4667)。

    共有は「先送り」になりやすい

    相続で不動産を共有にすると、その時点では公平に見えても、売却や建替えなどの判断に複数の共有者の合意が必要になります。さらに次の相続で共有者が増えると、意思決定はより難しくなります。共有を選ぶ場合は、将来の出口まで共有者の間で話し合っておくことが大切です。

    書類と情報を一か所にまとめる

    契約書、登記事項証明書、固定資産税の課税明細書、賃貸借契約書、借入れの資料、修繕の履歴。これらが一か所にまとまっているだけで、売却や相続の局面での判断の速さと正確さが大きく変わります。

    AEGISの視点

    不動産の相談は、「この物件を買うべきか」「いつ売るべきか」「相続税はいくらか」といった個別の問いとして持ち込まれることがほとんどです。しかしAEGISは、不動産を「所有の形を設計する対象」として捉えています。

    同じ不動産でも、誰が、どのような形で持つかによって、収益の行き先、税負担、管理のしやすさ、次の世代への引き継ぎ方が大きく変わります。個人で持つのか、法人で持つのか、家族の誰が関与するのか——その選択は、税務だけでなく、収益・管理・承継のすべてに影響します。AEGISでは、所有形態を税務だけでなく収益・管理・承継まで含めて設計する考え方を「Property Ownership Design(不動産所有設計)」と呼び、不動産の判断を事業や金融資産を含めた財産全体の中に位置付けることを重視しています。

    税金は、オーナーが決めた方針を実現するための手段の一つです。まず「この不動産で何を実現したいのか」を言葉にし、その上で所有形態や売却・承継の時期を組み立てる。この順番を守ることが、長い保有期間を通じて判断をぶらさない最良の方法だと考えています。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    不動産税務・資産税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 不動産の判断は、購入・保有・売却・承継の局面ごとに分断されやすく、購入時の判断が後の局面の前提条件になります。
    • 購入時には、目的、所有する人(名義)、資金計画、出口の仮置き、記録の保存を意識することが大切です。
    • 保有中は、収益と手元資金を分けて管理し、相続税評価(路線価方式・倍率方式、建物は固定資産税評価額)を把握しておきます。
    • 個人の譲渡所得は、売却した年の1月1日時点で所有期間5年超かどうかで長期・短期に分かれ、税率が異なります。
    • 相続では、10か月の申告期限、評価、分割、納税資金、相続登記の義務化が一度に論点になります。
    • 具体的な判断は、物件の内容や家族構成などの個別事情によって異なります。
    • 保有形態によってキャッシュフローと相続税評価は大きく変わるため、取得時はもちろん取得後も持ち方を点検し、移転コストを踏まえてもメリットが大きい場合は見直しを検討します。

    よくある質問

    Q. 不動産を買う前に、何を一番に決めるべきですか?

    購入の目的と、誰の名義で持つかです。目的が決まれば重視すべき指標や保有期間が定まり、名義が決まれば収益の帰属や将来の相続財産が決まります。物件選びや資金計画は、この2つを前提に考えると判断がぶれにくくなります。

    Q. 相続税評価額が低い不動産を買えば、相続対策になりますか?

    評価額が市場価格より低くなるケースはありますが、それだけで判断するのは避けたほうがよいと考えます。収益性や売却のしやすさ、修繕負担、家族の意向などを含めて検討する必要があります。評価方法そのものが見直されることもあり、たとえば居住用の分譲マンションは令和6年1月1日以後の相続等から新しい評価方法が適用されています。

    Q. 不動産を売るとき、所有期間はどのように数えますか?

    個人の土地・建物の譲渡では、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで、長期譲渡所得と短期譲渡所得に区分されます。実際の売却日ではなく、その年の1月1日が基準になる点に注意が必要です。

    Q. 相続した不動産を売って相続税を払うことはできますか?

    可能です。その場合、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すれば、一定の相続税額を取得費に加算できる特例があります。ただし、相続税の納付期限は申告期限と同じく10か月以内のため、売却に時間がかかる場合の資金手当てもあわせて検討が必要です。

    Q. 購入・保有・売却を一体で考えるには、どこから始めればよいですか?

    まず、現在持っている不動産の一覧を作ることから始めるのが現実的です。物件ごとに、名義、取得時期と取得費、借入れの残高、賃料などの収益、固定資産税評価額を並べるだけでも、どの物件が収益を生み、どの物件が相続や売却の局面で論点になりそうかが見えてきます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 不動産の相続税評価額と売却価格はなぜ違うのか|路線価・固定資産税評価額・時価の関係

    不動産の相続税評価額と売却価格はなぜ違うのか|路線価・固定資産税評価額・時価の関係

    相続税の試算で示された不動産の評価額と、不動産会社から提示された査定価格を見比べて、「なぜこんなに違うのか」と感じたことはないでしょうか。どちらかが間違っているわけではありません。二つの数字は、そもそも異なる目的のために、異なる方法で求められた価格です。

    結論から言えば、相続税評価額は「多くの納税者が同じ基準で申告できるように、標準化された方法で求める課税のための価格」であり、売却価格は「その物件を、その時点で、特定の買い手がいくらで買うか」という個別の価格です。この記事では、不動産をめぐる主な価格の関係を整理し、評価額と売却価格に差が生まれる理由、そして令和6年1月から適用されている居住用マンションの評価の見直しについて解説します。

    不動産をめぐる主な価格

    不動産には、目的に応じていくつもの「価格」があります。相続や売却の判断に関わる主なものを整理します。

    価格目的求め方・水準の目安根拠
    売却価格(取引価格)実際の売買売り手と買い手の合意で決まる。周辺の取引事例や収益力などを基に査定される個々の取引
    路線価相続税・贈与税の土地評価毎年1月1日を評価時点として、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に設定国税庁
    固定資産税評価額固定資産税などの課税宅地は地価公示価格等の7割を目途に評価。土地・家屋は3年ごとに評価替え総務省
    相続税評価額相続税・贈与税の課税土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額×1.0国税庁

    相続税の土地評価では、路線価が定められている地域では路線価に土地の形状などに応じた補正をして面積を乗じ、路線価が定められていない地域では固定資産税評価額に地域ごとの倍率を乗じて評価します。建物は固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります(国税庁 No.4602)。

    つまり、相続税評価額は、もともと市場価格より低めの水準に設定された基準(路線価や固定資産税評価額)を出発点にしているのです。

    相続税評価の原則は「時価」

    ここで一つ疑問が生まれます。相続税法では、相続や贈与で取得した財産の価額は、取得の時における時価によるとされています(相続税法第22条)。それなのに、なぜ市場価格より低い水準の評価が使われるのでしょうか。

    国税庁は、土地の時価を納税者自身が把握するのは必ずしも容易ではないことから、申告の便宜と課税の公平の観点で、毎年、路線価と評価倍率を定めて公開していると説明しています。路線価が地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途にしているのは、1年間の地価の変動なども考慮したうえでの設定です(国税庁「令和8年分の路線価等について」)。

    言い換えれば、相続税評価額は「その物件の本当の時価」をピンポイントで求めるものではなく、全国の土地を同じ基準で、安定的に評価するための仕組みです。

    評価額と売却価格に差が生まれる5つの理由

    相続税評価額と売却価格の差は、主に次の5つの理由から生まれます。

    1. 評価の水準がもともと異なる

    前述のとおり、路線価は地価公示価格等の80%程度、固定資産税評価額(宅地)は7割程度を目途に定められています。市場で地価公示価格程度の取引が成立する地域であれば、それだけで評価額と市場価格の間には一定の差があることになります。

    2. 評価の時点がずれている

    路線価は毎年1月1日が評価時点であり、固定資産税の土地・家屋の評価は3年ごとに見直され、それ以外の年度は原則として据え置かれます(総務省)。一方、売却価格は売買の時点の市場で決まります。地価が上昇・下落している局面では、この時点のずれが差を大きくします。

    3. 標準化された評価では個別性を拾いきれない

    路線価は、その道路に面する標準的な宅地を前提にした価格です。相続税評価では、奥行きや間口、形状などに応じた補正を行いますが、眺望、日当たり、周辺の人気、建物の使い勝手といった個別の魅力や欠点まですべてを反映するものではありません。人気の高い立地では売却価格が評価額を大きく上回り、反対に需要の乏しい土地では、売却価格が評価額に届かないこともあります。

    4. 建物の評価の考え方が違う

    相続税評価では、建物は固定資産税評価額で評価されます。一方、売買の現場では、建物の状態や修繕の履歴、間取り、賃貸物件であれば賃料収入などによって価格が判断されます。特に賃貸物件の売買では、物件が生み出す収益から価格を考える方法が用いられることが多く、評価額とは異なる尺度で値付けされます。

    5. 貸している不動産の評価のしかた

    アパートなど自分で建てて貸している建物の敷地(貸家建付地)は、自用地としての価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を用いて計算した額を差し引いて評価されます(国税庁 No.4614)。相続税評価では「貸していること」が減額の要因になる一方、市場では満室で安定した賃料を生む物件は収益物件として評価され、必ずしも価格が下がるわけではありません。ここでも二つの価格は別の方向を向くことがあります。

    居住用マンションの評価の見直し(令和6年1月1日以後)

    評価額と市場価格の差が特に大きくなりやすかったのが、分譲マンションです。マンションは一室あたりの敷地の持分が小さく、建物の固定資産税評価額も市場での取引価格に比べて低くなりやすいため、相続税評価額が市場価格を大きく下回るケースが見られました。

    こうした状況を受け、国税庁は「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)を定め、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)について、新しい評価方法を適用しています(国税庁 No.4667)。

    新しい評価方法の考え方

    新しい方法では、従来の方法で求めた建物(区分所有権)と敷地(敷地利用権)の価額に、それぞれ「区分所有補正率」を乗じて評価します。区分所有補正率は、築年数、総階数、所在階、敷地持分の狭さ(敷地持分狭小度)の4つの要素から算出される「評価乖離率」と、その逆数である「評価水準」をもとに決まります。

    評価水準区分所有補正率の扱い
    0.6未満評価乖離率×0.6を乗じる(評価額が引き上げられる)
    0.6以上1以下補正なし
    1超評価乖離率を乗じる(評価額が引き下げられる)

    (国税庁 No.4667 を基にAEGISが整理)

    つまり、相続税評価額が市場価格の水準と比べて低すぎるマンションは、一定の水準まで評価額が引き上げられることになりました。

    対象にならないもの

    次のようなものは、この評価方法の対象外とされています(国税庁 No.4667)。

    • 構造上、主として居住の用途に供されていないもの
    • 区分建物の登記がされていないもの
    • 地階を除く階数が2以下のもの
    • 居住用の専有部分が3以下で、その全てを区分所有者またはその親族の居住用に供しているもの
    • 事業用のたな卸商品等に該当するもの

    この見直しは、「評価額と市場価格の差」が制度の側から是正されることがある、という事例でもあります。評価額の低さを前提に資産の組み方を決めていた場合は、制度の変更によって前提が変わり得ることを意識しておく必要があります。

    場面ごとに、どの価格を見るか

    評価額と売却価格はどちらも正しい数字ですが、使う場面が異なります。判断の場面ごとに、どの価格を中心に見るべきかを整理します。

    場面中心に見る価格理由
    相続税の申告・試算相続税評価額課税価格の計算に用いるため
    納税資金のための売却売却価格(手取り額)実際に手元に入る資金が問題になるため
    遺産分割の話し合い相続人間で合意した基準(評価額か時価か)どちらの価格を使うかで、相続人間の公平感が変わるため
    持ち続けるか売るかの判断売却価格と、持ち続けた場合の収益資産としての実質的な価値を比べるため

    特に遺産分割では、ある相続人が評価額の低い不動産を取得し、別の相続人が現金を取得すると、評価額の上では公平でも、実際の価値では不公平に感じられることがあります。分割の基準をどの価格に置くかを、話し合いの最初に確認しておくことが大切です。

    実務上注意したいポイント

    • 評価額の低さだけで不動産を選ばない:評価額が市場価格より低いことは事実でも、その不動産が収益を生み、売りたいときに売れるかどうかは別の問題です。
    • 評価額が市場価格を上回ることもある:形状や接道の条件が悪い土地や、需要の乏しい地域の土地などでは、評価額のほうが高くなることもあり得ます。その場合の取扱いは個別に検討が必要です。
    • 制度の変更を前提に点検する:マンションの評価の見直しのように、評価の方法は変わることがあります。制度が変わったときに保有不動産と承継計画の何を見直すべきかは、関連記事「不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項」で整理しています。

    AEGISの視点

    不動産の価格の話になると、「評価額を下げれば相続税が下がる」という一点に関心が集まりがちです。しかしAEGISは、評価額と売却価格の差を、「相続税の計算上の価値」と「家族にとっての実質的な価値」のずれとして捉えることが大切だと考えています。

    相続税の計算上は有利な不動産でも、売れにくく、収益も乏しく、相続人の誰も使わないのであれば、家族にとっての実質的な価値は小さいかもしれません。反対に、評価額はそれなりに高くても、安定した収益を生み、いつでも売却できる不動産は、納税資金や相続人の生活を支える力を持っています。

    AEGISでは、不動産を見るときに、相続税評価額・売却価格・収益力という複数の物差しを並べ、その不動産を誰がどのような形で持ち続けるのかという所有の設計とあわせて判断することを重視しています。相続の前にどのような確認をしておくべきかは関連記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で、購入から承継までの全体像は「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    不動産の評価や資産税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続税評価額と売却価格は、目的も求め方も異なる価格であり、一致しないのが普通です。
    • 路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度、固定資産税評価額(宅地)は7割を目途に定められており、相続税評価はこれらを出発点にしています。
    • 差が生まれる主な理由は、評価の水準、評価の時点、標準化された評価と個別性、建物の評価の考え方、貸している不動産の評価のしかたです。
    • 令和6年1月1日以後に取得した居住用の分譲マンションには、評価額と市場価格の差を補正する新しい評価方法が適用されています。
    • 相続税の計算には評価額を、売却や保有の判断には売却価格や収益力を、場面に応じて使い分けることが大切です。
    • 具体的な評価額や売却価格は、物件ごとの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 路線価は、実際に売れる価格の何割くらいですか?

    国税庁は、路線価を地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定めているとしています。ただし、実際の売却価格は個別の需給で決まるため、地域や物件によって路線価との関係は大きく異なります。一律に「売却価格の8割」と考えることはできません。

    Q. 固定資産税評価額と相続税評価額は同じですか?

    建物については、相続税評価額は固定資産税評価額に1.0を乗じた額とされているため、同じになります。土地については、路線価地域では路線価を基に評価するため、固定資産税評価額とは異なります。路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に地域ごとの倍率を乗じて評価します。

    Q. マンションの評価の見直しは、いつから適用されていますか?

    令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)から適用されています。評価水準が0.6未満の場合は評価額が引き上げられ、1を超える場合は引き下げられ、その間であれば補正は行われません。

    Q. 相続税評価額が売却価格より高い場合はどうなりますか?

    形状や接道の条件、需要の状況などにより、相続税評価額が実際に売れる価格を上回ることもあり得ます。相続税の評価は時価が原則であるため、そのような場合の取扱いは、物件の状況や根拠資料に応じて個別に検討する必要があります。

    Q. 遺産分割では、評価額と売却価格のどちらを使えばよいですか?

    法律で一律に決まっているわけではなく、相続人間で合意した基準を用いるのが一般的です。評価額を基準にすると、不動産を取得する人と現金を取得する人との間で実質的な不公平感が生じることがあるため、話し合いの初めに基準となる価格を確認しておくことをおすすめします。

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    • 相続と資産承継:財産の内容とご家族の意向から、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で考えます。
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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 店舗や事務所を貸すときの賃料動向とテナント選び|相場の調べ方、信用の確認、保証金・原状回復、空室時の用途転換

    店舗や事務所を貸すときの賃料動向とテナント選び|相場の調べ方、信用の確認、保証金・原状回復、空室時の用途転換

    店舗や事務所の区画を貸すときは、賃料の水準そのものより、「そのテナントの事業がこの場所で続くか」を見極めることが、安定した賃貸経営の鍵になります。

    住居の賃貸は、入居者の生活の場を提供するもので、需要も賃料も比較的安定しています。これに対して店舗・事務所は、テナントの事業の成否が家賃の支払いと退去に直結します。賃料は立地や景気の影響を受けやすく、内装や原状回復の負担も大きくなりがちです。

    この記事では、既存の店舗・事務所区画を貸すオーナーを想定し、賃料動向の調べ方、テナントの信用確認、保証金と原状回復の決め方、税務の注意点、そして空室が続くときの用途転換を整理します。事業者のために建物を新たに建てて貸す「建て貸し」の契約条項については、関連記事「事業者に建物を貸す土地活用の契約で確認したいこと」をご覧ください。

    店舗・事務所の賃料はいま、どう動いているか

    公的データで大きな流れをつかむ

    店舗・事務所の賃料は、個別性が強く、住宅のように地域別の成約賃料が網羅的に公表されているわけではありません。そこでまず、公的なデータで地域の大きな流れをつかむことから始めます。

    国土交通省の「令和8年地価公示」(令和8年1月1日時点)では、全国の商業地の変動率は+4.3%で、5年連続の上昇となりました。三大都市圏では+7.8%(東京圏+9.3%、大阪圏+7.3%、名古屋圏+3.3%)、地方圏では+1.6%です。国土交通省は商業地の特徴として、主要都市で店舗・ホテルなどの需要が堅調であること、オフィスについても空室率の低下傾向や賃料の上昇傾向により収益性が向上していることを挙げています。また、同年7月1日時点の「令和8年都道府県地価調査」でも、全国の商業地は+2.9%と上昇が続いています。

    地価は、その土地から得られる収益への期待を反映するため、商業地の地価が上がっている地域では、店舗・事務所の需要も底堅いと考える手がかりになります。ただし、地価の上昇がそのまま既存区画の賃料に反映されるわけではありません。地価公示の数字は地域全体の平均であり、同じ市区町村の中でも、駅前の路面店と、駅から離れた2階以上の区画では、需要も賃料もまったく異なります。

    自分の区画の相場を確かめる

    自分の区画の賃料水準を確かめるには、次のような情報を組み合わせます。

    情報分かること読むときの注意
    地価公示・都道府県地価調査(国土交通省)地域・用途別の地価の動き、需要の背景地価の動きであり、賃料そのものではない
    近隣の募集事例(仲介会社・募集サイト)同じエリア・同じ規模の募集賃料、共益費、保証金募集賃料は成約賃料より高めに出やすい。フリーレントなどの条件も確認
    仲介・管理会社が持つ成約事例実際に決まった賃料と条件件数が少なく、業種や階数による差が大きい
    民間の調査機関による店舗・オフィス賃料の調査主要都市・主要エリアの賃料水準や空室率の推移対象エリアが限られ、郊外や地方の小規模区画には当てはまりにくい
    自分の区画の過去の募集・成約の記録募集から成約までの期間、問合せの業種最も具体的な情報。記録を残しておくことが大切

    比べるときは、坪あたり・㎡あたりの単価、共益費の有無、消費税の扱い、保証金の月数、フリーレントの期間をそろえて比較することがポイントです。月額の賃料だけを比べると、実質的な条件の違いを見落とすことがあります。

    テナントの信用をどう確かめるか

    法人テナントで確認したい書類

    店舗・事務所のテナントの多くは法人や個人事業主です。入居の申込みを受けたときは、少なくとも次のような書類で、事業の実態と支払能力を確かめます。

    • 登記事項証明書(法人の場合)
    • 直近数期分の決算書(個人事業主の場合は確定申告書の控え)
    • 会社案内や事業計画書(その区画で行う事業の内容、出店の目的)
    • 代表者や連帯保証人の本人確認書類・収入を示す資料

    あわせて、保証会社の利用の可否、連帯保証人を付けるかどうかを検討します。

    書類だけでは分からないこと

    書類に加えて、次の点もテナント選びの判断材料になります。

    確認したい点見るべきポイント理由
    業種と区画の相性臭い・音・振動・営業時間、排気や給排水の設備他のテナントや近隣住民とのトラブル、設備の改修負担を避ける
    内装投資の規模内装・設備にどれだけ投資する予定か投資が大きいほど長く営業する動機があるが、退去時の原状回復の負担も大きくなる
    出店の経験他の店舗の営業状況、同業種での実績新規事業か既存事業の多店舗展開かで、事業継続のリスクが異なる
    契約期間の希望何年程度の営業を想定しているか定期借家との相性、賃料改定の時期の設計に関わる
    用途の法令上の制限その業種が建物の用途・地域の規制に合っているか用途変更の手続きや営業の許認可が必要な場合がある

    賃料が高いテナントが、必ずしも良いテナントとは限りません。事業計画に無理がある場合、早期退去や滞納につながり、結果として空室期間と原状回復の負担が増えることもあります。

    保証金と原状回復の決め方

    保証金

    店舗・事務所では、住宅より多い月数の保証金(敷金)を預かるのが一般的です。保証金は、滞納や原状回復費用に備える担保の役割を持ちます。契約時には、返還の時期と方法、返還しない部分(償却)の有無、滞納や原状回復費用への充当の順番を明確にしておきます。

    返還しない部分がある場合、所得税では、返還しないことが確定した時点などで不動産所得の収入になります。

    原状回復

    住宅の原状回復については、国土交通省のガイドラインがあり、通常の使用による損耗や経年変化は貸主が負担するという考え方が示されています。これに対して店舗・事務所は、テナントが大がかりな内装工事を行うことが多いため、契約でどこまで戻すかを具体的に決めておくことが重要です。

    • スケルトン返し:床・壁・天井の内装を撤去し、躯体の状態に戻す
    • 居抜き:前のテナントの内装や設備を残したまま、次のテナントに引き継ぐ

    居抜きで次のテナントに引き継ぐ場合は、残す設備の所有者と、将来の撤去費用を誰が負担するかを、新旧のテナントとオーナーの間で取り決めておく必要があります。

    消費税

    店舗・事務所の家賃は、消費税の課税対象です(住宅の貸付けは原則として非課税)。また、事業用の建物の賃貸借契約の締結や更新に伴う保証金・権利金・敷金・更新料などのうち、返還しないものは課税の対象となり、契約終了時に返還されるものは課税の対象になりません(国税庁 No.6225)。

    住宅のみを貸していたオーナーが店舗・事務所の賃貸を始めると、課税売上高によっては消費税の納税義務が生じることがあります。また、仕入税額控除のために適格請求書(インボイス)の交付を求めるテナントも多いため、登録の要否も含めて事前に確認しておきたいところです。

    空室が続くときの用途転換

    店舗・事務所の区画は、空室になると次のテナントが決まるまで時間がかかることがあります。国土交通省の建築着工統計(令和8年8月分)では、民間の非居住建築物のうち事務所は増加、店舗は減少となっており、用途によって需要の動きにも違いが見られます。空室が続く場合は、次のような選択肢を検討します。

    1. 賃料・条件の見直し:賃料の水準だけでなく、フリーレントの期間、保証金の月数、内装工事の負担区分、契約期間を見直す
    2. 業種の幅を広げる:飲食から物販・サービス業・クリニック・教室などへ、受け入れる業種の範囲を見直す
    3. 区画の分割・統合:需要に合わせて区画の大きさを変える
    4. 用途そのものの転換:店舗を事務所・住宅・福祉施設などに転換する

    用途そのものを変える場合は、建築基準法上の用途変更の手続きや、建物の安全性に関する基準への適合が必要になることがあり、改修費の税務上の扱い(修繕費か資本的支出か)も論点になります。詳しくは関連記事「古い店舗・倉庫を改修して事業に使う」をご覧ください。

    賃料の改定や将来の明渡しの自由度を確保したい場合は、定期借家契約で貸すことも選択肢になります。違いは関連記事「定期借家契約で貸すという選択」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 賃料の増減請求は事業用にも及ぶ:普通借家契約であれば、店舗・事務所の賃料にも借地借家法32条の借賃増減請求が及びます。景気の悪化時にテナントから減額を求められる可能性も考えておきます。
    • 管理規約・建物のルールとの整合:区分所有建物の店舗区画の場合は、管理規約で認められる業種や営業時間を確認します。
    • 相続税評価への影響:貸している区画は、相続税の計算上、貸家や貸家建付地として評価されますが、空室が長期化すると評価の減額が受けられない部分が生じることがあります。
    • 記録を残す:募集の条件、問合せの業種、内見の反応、成約までの期間を記録しておくと、次の募集や賃料の見直しの判断材料になります。

    AEGISの視点

    店舗や事務所を貸すことは、テナントの事業と自分の資産を、契約期間のあいだ結び付けることだとAEGISは考えています。

    住宅の賃貸では「賃料と空室率」が中心的な指標になりますが、店舗・事務所では、テナントの事業の継続性、内装投資と原状回復、業種と地域の相性、将来の用途転換の余地まで含めて考える必要があります。地価公示の数字が上がっていても、自分の区画にその需要が届いているとは限りません。逆に、地域の需要を読み解き、合う事業を選ぶことができれば、賃料だけでは測れない価値を生むこともあります。

    空室が続く区画や、テナントの入替えを機に使い方を見直したい区画については、賃貸を続けるか、業種を変えるか、オーナー自身が事業を組み立てるか、売却するかを比べることになります。その全体の判断の順番は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で解説しています。

    まとめ

    • 店舗・事務所の賃貸は、テナントの事業の継続性が家賃の支払いと退去に直結するため、賃料水準だけでなくテナントの事業そのものを見極めることが大切です。
    • 賃料動向は、地価公示などの公的データで地域の流れをつかみ、近隣の募集・成約事例で自分の区画の水準を確かめます。比較するときは単価・共益費・消費税・保証金・フリーレントをそろえます。
    • テナントの信用は、登記事項証明書や決算書などの書類に加え、業種と区画の相性、内装投資の規模、出店の経験などで確認します。
    • 保証金の返還条件と原状回復の範囲(スケルトン返し・居抜き)は、契約で具体的に決めておきます。事務所・店舗の家賃や返還しない保証金は消費税の課税対象です。
    • 空室が続く場合は、条件の見直し、業種の拡大、区画の変更、用途転換の順に選択肢を検討します。

    よくある質問

    Q. 店舗の賃料相場はどこで調べればよいですか?

    地域の大きな流れは、国土交通省の地価公示や都道府県地価調査で確認できます。自分の区画の水準は、近隣の募集事例や、仲介・管理会社が持つ成約事例で確かめます。募集賃料は成約賃料より高めに出やすいため、共益費・保証金・フリーレントなどの条件をそろえて比較することが大切です。

    Q. 法人テナントの審査では、何を確認すればよいですか?

    登記事項証明書、直近数期分の決算書、会社案内や事業計画書、代表者や連帯保証人の本人確認書類などが基本です。あわせて、出店の目的、他店舗の状況、内装投資の規模、想定する営業期間を聞き、その区画での事業が続くかどうかを見極めます。

    Q. 店舗の原状回復は、どこまでテナントに求められますか?

    店舗・事務所では、契約で定めた範囲が基準になります。スケルトン返しとするのか、居抜きでの引継ぎを認めるのかを、契約時に具体的に決めておくことが重要です。住宅向けの国土交通省のガイドラインの考え方が、そのまま当てはまるとは限りません。

    Q. 事務所や店舗の家賃には消費税がかかりますか?

    事務所・店舗の家賃は消費税の課税対象です。事業用の建物の契約に伴う保証金や権利金などのうち、返還しないものも課税の対象になります。住宅の貸付けは原則として非課税です。課税売上高によってはオーナーに納税義務が生じるため、事前に確認しておきましょう。

    Q. 空き店舗が埋まらない場合、何から見直せばよいですか?

    まず、賃料・フリーレント・保証金・内装工事の負担区分・契約期間などの条件を見直し、次に受け入れる業種の範囲を広げることを検討します。それでも需要が見込めない場合は、区画の分割や統合、事務所・住宅・福祉施設などへの用途転換を、改修費や法令上の手続きとあわせて比較します。

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    • 事業型不動産活用:保有不動産に合う事業を判定し、事業モデルの選定・開業・運営を支援します(AEGIS SOCIAL IMPACT)。
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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、P.424-427、P.451
    • 『令和8年度版 マンション管理の知識』公益財団法人マンション管理センター 編著、(公財)マンション管理センター(発売:住宅新報出版)、P.386-388
  • 定期借家契約で貸すという選択|普通借家との違い、賃料改定・再契約・建替え計画との組合せ

    定期借家契約で貸すという選択|普通借家との違い、賃料改定・再契約・建替え計画との組合せ

    定期借家契約(定期建物賃貸借)は、契約で定めた期間が満了すると、更新されずに確定的に終了する建物の賃貸借です。普通借家契約と違い、期間満了時に明渡しを求めるために「正当事由」は必要ありません。

    そのため、将来の建替えや売却、自己使用の予定がある建物や、一定期間だけ貸したい建物では、定期借家が有力な選択肢になります。一方で、入居者にとっては住み続けられる保証がない契約であるため、募集のしやすさや賃料の水準に影響することがあり、手続きを誤ると普通借家として扱われるリスクもあります。

    この記事では、建物の賃貸借(定期借家)に絞って、普通借家との違い、契約手続き、賃料改定の特約、期間満了時の再契約、空室リスクとの関係、建替え計画との組合せ方を整理します。土地を貸す定期借地については、関連記事「定期借地で土地を貸すときの考え方」をご覧ください。

    普通借家と定期借家の違い

    まず、両者の違いを借地借家法の規定に沿って整理します。

    項目普通借家契約定期借家契約
    契約の終了期間が満了しても、貸主から更新を拒むには正当事由が必要(26条・28条)期間満了で終了し、更新はない(38条1項)
    契約期間1年未満の期間を定めると、期間の定めがない契約とみなされる(29条1項)1年未満の期間も定められる(38条1項後段で29条1項を適用しない)
    契約の方式書面は法律上の要件ではない公正証書による等の書面(または電磁的記録)で契約する必要(38条1項・2項)
    事前説明特別な要件はない契約前に「更新がなく期間満了で終了する」旨を書面を交付して説明(38条3項)
    期間満了の通知更新しない場合は期間満了の1年前から6か月前までに通知し、かつ正当事由が必要期間1年以上の場合、期間満了の1年前から6か月前までに終了の通知(38条6項)
    賃料の改定借賃増減請求(32条)が及ぶ。減額しない特約は効力が認められない賃料改定の特約があれば32条は適用されない(38条9項)
    借主からの中途解約特約による居住用で床面積200㎡未満の場合、やむを得ない事情があれば1か月前の申入れで解約可(38条7項)

    この表から分かるとおり、定期借家の最大の特徴は、期間満了時に貸主の側で建物の使い方を決め直せることと、賃料改定のルールを契約で決めておけることにあります。

    定期借家契約を結ぶときの手続き

    定期借家は、手続きの要件を満たさないと「更新がない」という定めが無効になり、普通借家として扱われるおそれがあります。特に次の3点が重要です。

    1. 書面(または電磁的記録)による契約

    借地借家法38条1項は、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、更新がない旨を定めることができるとしています。公正証書は例示であり、通常の書面による契約でもかまいません。また、契約内容を記録した電磁的記録による契約も、書面による契約とみなされます(同条2項)。

    2. 契約前の書面による説明

    貸主は、契約に先立って、借主に対し、この賃貸借は更新がなく期間の満了によって終了することを、その旨を記載した書面を交付して説明しなければなりません(38条3項)。この説明をしなかった場合、更新がない旨の定めは無効になります(同条5項)。

    この説明用の書面は、借主の承諾を得て、電子メールなどの電磁的方法で提供することもできます(同条4項、借地借家法施行令、借地借家法施行規則)。実務では、契約書とは別の書面として説明書を用意し、説明を受けた旨の確認を残しておくことが一般的です。

    3. 期間満了前の終了通知

    契約期間が1年以上の場合、貸主は、期間満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に、借主に対して期間満了で契約が終了する旨を通知しなければ、終了を借主に対抗できません(38条6項)。通知期間を過ぎてから通知した場合は、その通知の日から6か月を経過するまでは終了を対抗できないとされています。

    通知を忘れると、予定どおりに明渡しを受けられないことになるため、管理会社と通知の時期・方法を事前に決めておくことが大切です。

    賃料改定の特約と再契約

    賃料改定の特約

    普通借家では、賃料が経済事情の変動などで不相当になれば、当事者は借地借家法32条に基づいて賃料の増減を請求できます。一定期間賃料を増額しない特約は有効ですが、減額しない特約は借主に不利なものとして効力が認められないと考えられています。

    定期借家では、賃料の改定に関する特約がある場合は32条が適用されません(38条9項)。たとえば、「契約期間中は賃料を改定しない」「○年ごとに一定の方法で改定する」といった定めを置けば、その定めに従うことになります。賃料を一定に保ちたい場合、あるいは改定のルールを明確にしたい場合に有効です。ただし、特約の内容によっては、相場が上がっても賃料を上げられない、という結果にもなりうる点は理解しておく必要があります。

    期間満了時の再契約

    定期借家は期間満了で終了しますが、貸主と借主が合意すれば、新たな定期借家契約を結ぶ(再契約する)ことができます。再契約は更新とは異なり、改めて契約を結ぶものなので、賃料や期間などの条件をその時点の相場や建物の状況に合わせて見直すことができます。

    再契約の際も、新しい契約について書面による契約と事前の書面説明が必要になる点に注意が必要です。良好な入居者に長く住んでもらうことを前提に、「再契約を予定している」ことを募集段階で伝える運用も見られます。

    空室リスクとの関係

    定期借家は、借主から見ると「期間が来れば出なければならない可能性がある」契約です。このため、実務では、普通借家に比べて入居希望者が限られ、賃料も普通借家より低めになる傾向があるといわれます。

    一方で、次のような場合は、定期借家でも入居者を確保しやすいと考えられます。

    • 転勤者向けなど、もともと一定期間の利用を前提とした需要がある
    • 再契約を前提とした運用であることを、募集時に分かりやすく説明できる
    • 店舗や事務所など、事業者が期間を前提に事業計画を立てる用途である

    空室を埋めることを最優先にするのか、将来の自由度を優先するのかによって、普通借家と定期借家のどちらが合うかは変わります。既存物件の収支への影響を確かめたい場合は、関連記事「修繕費と金利が上がる時代、賃料を見直す前に確認したい収支」もあわせてご覧ください。

    建替え計画と組み合わせる

    定期借家が特に力を発揮するのが、数年後の建替えや売却を見据えた賃貸です。

    普通借家の入居者がいる建物を建て替える場合、貸主から更新を拒んだり解約を申し入れたりするには、借地借家法28条の正当事由が必要です。正当事由の判断では、貸主と借主の建物使用の必要性、賃貸借の経過、建物の利用状況や現況、立退料などの財産上の給付の申出が考慮されます。実務では、建物の老朽化だけで正当事由が認められるとは限らず、立退料の交渉や明渡しまでの期間が、建替え計画のスケジュールと費用を大きく左右します。

    定期借家であれば、契約期間の満了時期を建替えの着工時期に合わせて設定しておくことで、明渡しの時期を計画に組み込みやすくなります。たとえば、建替えまでの期間が5年程度と見込まれる場合、空室になった住戸から順に、満了時期をそろえた定期借家で募集していく、という方法が考えられます。

    物件の状況定期借家が向いている理由留意点
    5〜10年以内に建替え・売却の可能性がある満了時期を計画に合わせられる満了時期の設定と終了通知の管理が必須
    一時的に使わない自宅・実家を貸す期間を限って貸せる期間中の自己使用は原則できない
    店舗・事務所の区画を貸す事業期間と契約期間を合わせやすい内装投資の回収期間と期間設定のバランス
    長期の安定稼働を最優先する普通借家のほうが募集しやすい場合が多い将来の建替え時には正当事由と立退料が論点

    ※上記は一般的な整理です。実際の判断は、立地・需要・建物の状態によって異なります。

    なお、すでに普通借家で入居している人の契約を、合意によって定期借家に切り替える場合、居住用の建物については、定期借家制度の導入(平成12年3月1日施行)より前に結ばれた契約を合意で定期借家に切り替えることは、当分の間認められないという経過措置があるとされています。既存の契約の切替えを検討する場合は、契約の締結時期と内容を確認したうえで、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

    建替えと売却の比較は、関連記事「築古アパートは建て替えるか、売るか」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 説明書面と契約書は別に用意する:説明は契約に先立って行う必要があります。契約書の条項に書いてあるだけでは、説明の要件を満たさないと判断されるおそれがあります。
    • 終了通知の期限管理:期間1年以上の契約では、満了の1年前から6か月前までの通知が必要です。複数の住戸の満了時期を一覧で管理しましょう。
    • 中途解約の扱い:居住用で床面積200㎡未満の場合、転勤・療養・親族の介護などやむを得ない事情があれば、借主は1か月前の申入れで解約できます。この規定より借主に不利な特約は無効です(38条8項)。
    • 一時使用との区別:一時使用のためであることが明らかな賃貸借には借地借家法の借家の規定が適用されませんが、一時使用に当たるかは厳格に判断されます。期間を限って貸したい場合は、定期借家の要件を満たして契約するのが安全です。

    AEGISの視点

    定期借家と普通借家の選択は、契約書の書式の問題ではなく、「この建物を10年後にどう使いたいか」というオーナーの意思を、今日の契約に反映させることだとAEGISは考えています。

    将来の建替え、売却、家族による自己使用、事業への転用。こうした選択肢を残したいなら、定期借家によって期間満了時の自由度を確保しておく意味があります。反対に、長く安定して貸し続けることが目的であれば、普通借家のほうが入居者にも選ばれやすく、空室のリスクを抑えやすいかもしれません。

    大切なのは、建物ごとの「出口」の見通しと契約形態をそろえることです。土地と建物を貸す・活用する・売却するという全体の判断の順番は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で解説しています。

    まとめ

    • 定期借家契約は、期間満了で更新されずに終了する建物の賃貸借で、明渡しに正当事由は必要ありません。
    • 書面(電磁的記録を含む)による契約、契約前の書面による説明、期間1年以上の場合の終了通知が必要で、説明がないと更新がない旨の定めは無効になります。
    • 賃料改定の特約を定めると借賃増減請求の規定は適用されず、期間満了時には合意により条件を見直して再契約できます。
    • 入居者の確保や賃料の水準に影響することがあるため、空室リスクと将来の自由度のどちらを優先するかで選択が変わります。
    • 建替えや売却の計画がある建物では、満了時期を計画に合わせた定期借家の活用が有力な選択肢になります。

    よくある質問

    Q. 定期借家契約は、契約書に「定期借家」と書けば成立しますか?

    それだけでは足りません。書面(または電磁的記録)による契約に加え、契約に先立って、更新がなく期間満了で終了することを記載した書面を交付して説明する必要があります(借地借家法38条3項)。この説明がないと、更新がない旨の定めは無効になります。

    Q. 期間が満了したら、入居者は必ず退去しなければなりませんか?

    期間1年以上の契約では、貸主が期間満了の1年前から6か月前までに終了の通知をしていれば、期間満了で契約は終了します。通知が遅れた場合は、通知の日から6か月を経過するまで終了を主張できません。双方が合意すれば、新たな契約を結んで住み続けてもらうことも可能です。

    Q. 定期借家なら、契約期間中に賃料を上げることはできますか?

    定期借家では、賃料改定に関する特約を定めれば、その特約に従います(借地借家法38条9項)。特約で改定の方法や時期を定めていれば、その方法で改定します。逆に「改定しない」と定めた場合は、期間中は賃料を変えないことになります。特約がない場合は、普通借家と同様に借賃増減請求の規定が及ぶと考えられます。

    Q. 定期借家にすると空室が増えませんか?

    入居希望者が限られ、賃料が普通借家より低めになる傾向があるといわれています。ただし、転勤者向けの需要や、再契約を前提とした運用、事業用の区画など、定期借家でも入居者を確保しやすい場面もあります。物件の立地や需要に合わせて判断することが大切です。

    Q. 今住んでいる入居者の契約を、定期借家に切り替えられますか?

    切り替えには入居者の合意が必要で、定期借家の要件(書面による契約と事前の書面説明)を満たす必要があります。また、居住用の建物で、定期借家制度の導入前に結ばれた契約については、合意による切替えが当分の間認められないとする経過措置があるとされています。契約の時期と内容を確認したうえで進めてください。

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    • 不動産の最適活用:立地・敷地・建物・周辺需要・投資負担から、賃貸・売却・組換え・事業活用を比較します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和8年度版 マンション管理の知識』公益財団法人マンション管理センター 編著、(公財)マンション管理センター(発売:住宅新報出版)、P.382-388
    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、P.426-427
  • 不動産は個人と法人のどちらで保有するか|税率だけでなく収益・管理・承継で比べる

    不動産は個人と法人のどちらで保有するか|税率だけでなく収益・管理・承継で比べる

    賃貸不動産が増えてくると、「個人で持ち続けるべきか、法人で持つべきか」という問いに行き当たります。よく聞かれるのは「所得が多いなら法人のほうが税金が安い」という説明ですが、それは比較の一部にすぎません。

    結論から言えば、個人保有と法人保有の選択は、税負担・手元資金の使い道・管理の負担・承継のしかた・移行にかかるコストの5つの軸で比べて判断するのが基本です。そして、どちらが合うかは、オーナーの所得水準や家族構成、不動産を将来どうしたいかによって変わります。この記事では、両者の違いを整理したうえで、自分の状況に当てはめて考えるための視点を解説します。

    個人保有と法人保有の基本的な違い

    まず、個人で持つ場合と法人で持つ場合の主な違いを整理します。

    項目個人で保有法人で保有
    賃料収入にかかる税金不動産所得として、他の所得と合わせて所得税・住民税(所得税は5%〜45%の累進税率)法人の所得として法人税等(中小法人には所得の一定部分に軽減税率あり)
    収益の帰属オーナー個人法人。個人が受け取るには役員報酬や配当などの形をとる
    売却したとき譲渡所得として分離課税(所有期間5年超かどうかで長期・短期に区分)売却損益は法人のその他の損益と合わせて課税
    相続のとき不動産そのものが相続財産になり、土地は路線価等、建物は固定資産税評価額で評価相続財産になるのは法人の株式。取引相場のない株式として評価
    運営の手間と費用確定申告が中心法人の設立、会計・決算、法人税等の申告などが必要

    (所得税の税率は国税庁 No.2260、法人税の税率は No.5759、譲渡所得の区分は No.3202、不動産の評価は No.4602、株式の評価は No.4638 による)

    この表から分かるのは、個人と法人では「税金の計算方法」だけでなく、「お金の流れ」と「相続で引き継ぐものの形」が根本的に違うということです。

    比較の軸1:税負担

    個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進税率で、課税所得に応じて5%から45%までの7段階に分かれています(国税庁 No.2260)。これに住民税が加わります。一方、法人税は所得に対して一定の税率を乗じる仕組みで、中小法人には所得の一定部分について軽減税率が設けられています(国税庁 No.5759)。

    このため、オーナーの給与や事業の所得がすでに高く、不動産所得がさらに上乗せされている場合には、法人で持つほうが全体の税負担が抑えられる可能性があります。反対に、所得がそれほど高くない場合は、法人の運営費用を上回るほどの差が生じないこともあります。

    ただし、ここでの比較は「法人の段階」の税金だけでは不十分です。法人に残った利益を個人が使うためには、役員報酬や配当として受け取る必要があり、その段階で個人にも課税されます。法人と個人を合わせた全体の税負担で比べることが大切です。

    比較の軸2:手元資金と使い道

    個人で保有すれば、賃料から税金や経費を差し引いた残りは、そのままオーナー個人の資金になります。生活費や他の投資に自由に使えるのが利点です。

    法人で保有すると、利益は法人の中にたまります。次の物件の取得資金や修繕の積立てとして法人内で使うには向いていますが、オーナー個人が自由に使えるお金ではありません。個人に移すには、役員報酬や配当、法人からの借入れなどの形をとることになり、それぞれに税務上の扱いがあります。

    また、法人では、家族を役員にして実際の業務に応じた報酬を支払うことで、収益を家族に分けるという考え方もあります。ただし、報酬は業務の実態に見合ったものである必要があり、形式だけの役員就任では認められないことがあります。

    「不動産の収益を何に使いたいか」——生活資金なのか、再投資なのか、次世代への資産形成なのか——によって、適した保有形態は変わります。

    比較の軸3:管理と運営の負担

    法人で不動産を保有すると、次のような手間と費用が継続的に発生します。

    • 法人の設立手続きと費用
    • 帳簿の作成、決算、法人税等の申告
    • 役員の任期管理や株主総会など、会社としての手続き
    • 法人と個人の資金を明確に分けて管理すること

    個人の確定申告に比べて、管理の負担は確実に増えます。この負担を「法人化で得られる効果」と比べて、なお見合うかどうかを確認する必要があります。法人と個人の間の資金の貸し借りや、事業会社との資金のやり取りが生じる場合は、その整理も欠かせません。

    一方で、法人で保有することで、不動産の管理を個人の判断から会社の意思決定へと移せるという面もあります。オーナーの判断能力が低下したときにも、役員体制が整っていれば会社として運営を続けやすくなります。

    比較の軸4:承継のしかた

    相続の場面では、個人保有と法人保有の違いが特に大きく表れます。

    個人保有の場合は、不動産そのものが相続財産になります。土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額で評価されます(国税庁 No.4602)。複数の不動産を複数の相続人で分ける必要があり、分けにくい場合には共有になりやすいという課題があります。

    法人保有の場合は、相続財産になるのは法人の株式です。株式は不動産より分けやすく、生前に少しずつ後継者へ移すこともできます。また、不動産そのものを共有にしなくても、株式の持ち方で家族の持分を表現できます。株式の評価は、取引相場のない株式として、会社の規模や株主の立場に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式などにより行われます(国税庁 No.4638)。不動産を多く持つ会社の場合、評価方法に特別な取扱いがあることにも注意が必要です。たとえば純資産価額方式による計算では、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物は、路線価等による評価ではなく通常の取引価額で評価するとされています(財産評価基本通達185)。国税庁が公表した貸付用不動産の評価に関する通達案でも、この純資産価額の計算における土地や建物には、課税時期前5年以内に取得した貸付用不動産の評価の定めは適用しないとされています。なお、取引相場のない株式の評価方法は国税庁が2026年4月から有識者会議で見直しを検討しており、法人が取得した貸付用不動産や3年以内に取得した不動産の取扱いも検討事項に挙げられています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、今後の改正に注意が必要です。

    ただし、株式に分けやすいということは、議決権が分散しやすいということでもあります。誰が会社の意思決定を担うのか、株式を誰にどれだけ持たせるのかを、承継の設計として考えておく必要があります。

    比較の軸5:移行にかかるコスト

    すでに個人で持っている不動産を法人に移す場合と、これから購入する不動産を最初から法人で取得する場合とでは、検討すべき内容が大きく異なります。

    既存の不動産を個人から法人へ移すと、税務上は個人から法人への売却(または贈与など)になります。このとき次のような論点が生じます。

    • 個人側で、売却益に対する譲渡所得の課税が生じる可能性
    • 不動産の名義変更に伴う登記などの費用や、取得に伴う税金
    • 時価を基準とした価格設定。時価と大きく異なる価格での取引は、個人と法人の双方に想定外の課税関係を生じることがある(たとえば個人が法人へ時価の2分の1未満の価額で譲渡すると、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得が計算されます。所得税法59条1項2号、同法施行令169条)
    • 法人側の取得資金と、借入れの組み直し

    新たに購入する不動産であれば、これらの移行コストはかかりません。そのため、「既存の不動産をどうするか」と「今後の購入をどうするか」を分けて考えることが現実的です。個人保有の不動産を法人へ移す前に比べるべき点は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で詳しく解説しています。

    自分の状況に当てはめるための目安

    5つの軸を踏まえると、次のような傾向が考えられます。あくまで検討の出発点としての目安です。

    状況検討の方向性
    給与・事業所得が高く、不動産所得も大きい法人保有を比較の候補に入れる価値がある
    不動産の収益を主に生活資金として使いたい個人保有のほうがお金の流れが単純
    今後も物件を買い増していく方針新規取得分から法人で持つ形を検討しやすい
    相続人が複数で、不動産の分け方が難しい株式で持つことによる分けやすさを検討する価値がある
    物件が少なく、管理の手間を増やしたくない個人保有のままのほうが負担は小さい

    ※実際の判断には、所得の見通し、借入れの状況、家族構成、物件ごとの事情などを踏まえた試算が必要です。

    また、個人か法人かは「すべてをどちらか一方に寄せる」二択ではありません。物件ごとに保有主体を分けたり、土地と建物で所有者を分けたりする形もあります。ただし、土地と建物の所有者が異なる場合は、地代の設定や借地権の取扱いなど、別の税務上の論点が生じるため、慎重な検討が必要です。

    実務上注意したいポイント

    • 株主を誰にするかを最初に決める:法人を設立するときの株主構成は、そのまま将来の承継の出発点になります。後から株式を移すと、評価額によっては贈与税などがかかることがあります。
    • 法人と個人のお金を混ぜない:法人の預金と個人の預金を明確に分け、貸し借りがあれば記録を残します。資金の流れが曖昧だと、税務上も承継の場面でも問題になりやすくなります。
    • 借入れと保証を確認する:法人で借入れをする場合、オーナー個人が連帯保証を求められることがあります。承継の際には保証の引継ぎも論点になります。
    • いつ設立するかを考える:法人化の効果が出やすい所得水準や物件数は、オーナーごとに異なります。資産管理会社の設立を検討するタイミングについては、関連記事「資産管理会社の設立を検討するタイミング」で整理しています。

    AEGISの視点

    「個人と法人、どちらが得か」という問いは、税金の比較として語られることがほとんどです。しかしAEGISは、この問いを「誰が、どのような形で、この不動産を持ち続けるのか」という所有の設計の問題として捉えています。

    法人で持つことは、税率の選択であると同時に、収益の流れを変え、意思決定の主体を変え、相続で引き継ぐものの形を変えることでもあります。税負担が軽くなっても、オーナーが自由に使える資金が減ったり、株式の分散で将来の意思決定が難しくなったりすれば、その選択は家族全体にとって最適とは言えません。

    AEGISでは、所有形態を税務だけでなく収益・管理・承継まで含めて設計する考え方を「Property Ownership Design(不動産所有設計)」と呼んでいます。個人・法人・資産管理会社といった選択肢を、オーナーの事業や金融資産、家族の状況と合わせて一つの全体像の中で比べることが、後から組み直さなくてよい判断につながると考えています。不動産の購入から承継までを通して所有形態を考える全体像は、関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    不動産の所有形態と税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 個人保有と法人保有は、税金の計算方法だけでなく、お金の流れと相続で引き継ぐものの形が根本的に異なります。
    • 比較は、税負担・手元資金の使い道・管理の負担・承継のしかた・移行コストの5つの軸で行うのが基本です。
    • 税負担は、法人の段階だけでなく、個人が資金を受け取る段階を含めた全体で比べる必要があります。
    • 既存の不動産を法人へ移す場合と、新たに法人で購入する場合とでは、検討すべき内容が大きく異なります。
    • 法人で持つ場合は、株主構成がそのまま承継の出発点になります。
    • 具体的にどちらが適しているかは、所得水準や家族構成、不動産の方針などの個別事情によって異なります。
    • 保有形態によってキャッシュフローと相続税評価は大きく変わるため、取得時はもちろん取得後も持ち方を点検し、移転コストを踏まえてもメリットが大きい場合は見直しを検討します。

    よくある質問

    Q. 所得がいくら以上なら法人で持つほうが有利になりますか?

    一律の基準はありません。個人の所得税は累進税率で、法人税等とは計算の仕組みが異なるため、オーナーの他の所得、不動産所得の額、法人から個人へ資金を移す方法、法人の運営費用などを合わせて試算する必要があります。「法人の段階の税金」だけで比べないことが大切です。

    Q. 個人で持っている不動産を、あとから法人に移すことはできますか?

    可能ですが、税務上は個人から法人への売却などとして扱われ、個人側で譲渡所得の課税が生じる可能性や、登記などの費用、取得に伴う税金がかかります。時価を基準に取引する必要もあります。新たに購入する不動産を法人で取得する場合とは、検討の内容が大きく異なります。

    Q. 法人で持つと、相続税は必ず安くなりますか?

    必ず安くなるとは言えません。法人で持つ場合、相続財産になるのは法人の株式で、その評価は会社の規模や資産の内容によって異なります。不動産を多く持つ会社には評価方法に特別な取扱いもあります。相続税の額だけでなく、株式の分けやすさや議決権の集め方といった承継のしやすさも含めて比べることが重要です。

    Q. 家族を法人の役員にすれば、収益を家族に分けられますか?

    家族が実際に業務に携わり、その内容に見合った報酬であれば、役員報酬として支払うことは考えられます。ただし、業務の実態がないまま報酬を支払うと、税務上認められない可能性があります。報酬の額は、役割と業務の内容に照らして決める必要があります。

    Q. 物件ごとに個人と法人で持ち分けてもよいのですか?

    可能です。たとえば既存の物件は個人のまま持ち、今後の購入分は法人で取得するといった形は、移行コストを抑えながら法人保有を始める方法の一つです。ただし、土地と建物で所有者を分ける場合などは、地代や借地権の取扱いといった別の論点が生じるため、慎重な検討が必要です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。
    • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の検討から取得後の管理までつなぎます。
    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 築古アパートは建て替えるか、売るか|建築費の上昇・立退き・建替え後の収支・売却を同じ物差しで比べる

    築古アパートは建て替えるか、売るか|建築費の上昇・立退き・建替え後の収支・売却を同じ物差しで比べる

    築古アパートを建て替えるか売るかは、「建替え後に残る手取り」と「いま売って残る手取り」を、同じ物差しで比べて決めるのが基本です。

    建替えは、新しい建物で賃料と入居率を取り戻せる可能性がある一方、建築費の上昇、入居者の立退き、工事期間中の無収入、新たな借入れといった負担を伴います。売却は、管理の負担から解放される一方、入居者がいる「現況のまま」で売るか、立退き後に「更地」で売るかで、価格も手間も大きく変わります。

    この記事では、既存の賃貸建物の更新判断に絞って、建替え・現況売却・更地売却・現状維持を比べる考え方を整理します。更地を含む土地全体の活用方法の比較は、親記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で扱っています。

    まず押さえたい4つの選択肢

    築古アパートの選択肢は、大きく次の4つです。

    選択肢中身主な負担・リスク向いているケース
    現状維持(修繕で延命)必要な修繕を行い、当面は保有を続ける修繕費の増加、空室の増加、耐震面の不安構造に大きな問題がなく、賃料と入居が保てている
    建替え入居者の退去後に解体し、新しい建物を建てる建築費、立退き、工事中の無収入、新たな借入れ立地の賃貸需要が強く、建替え後の賃料が見込める
    現況売却(オーナーチェンジ)入居者がいるまま収益物件として売る価格は収益性で決まり、築古では低くなりやすい立退きの負担を避けたい、早く手放したい
    更地売却立退き・解体後に土地として売る立退きの期間と費用、解体費、売却までの時間土地としての需要が強い(住宅用地・事業用地)

    どれが正解かは、立地の賃貸需要、建物の状態、入居者の状況、借入れの残り、そしてオーナーと家族の今後の方針によって変わります。

    建替えを考える前に確かめたいこと

    建築費はこの数年で大きく上がっている

    国土交通省の建設工事費デフレーター(2020年度=100)では、住宅総合が2025年度(暫定)で122.6となっており、2020年度から2割以上上昇しています。

    また、国土交通省の「建築工事費調査(令和7年分)」(令和8年9月30日公表)では、工事実施額を工事実施床面積で割ると、1平方メートルあたり木造で約25.9万円、非木造で約34.3万円になります。これはAEGISによる単純な割り算で、用途や地域、仕様を区別しない全体の平均ですが、「以前と同じ規模の建物を、以前と同じ予算で建て直す」ことは難しくなっていることが分かります。

    建て替えても、同じ規模が建つとは限らない

    古い建物の中には、建築された後の法改正や都市計画の変更によって、現在の基準に合わなくなっているものがあります。たとえば、容積率は前面道路の幅員によって制限されることがあり、敷地の接道状況も建替えの可否に影響します。建替え後に建てられる戸数が減れば、賃料収入も減るため、まず現行の法令で何戸の建物が建てられるかを設計者に確認することが出発点です。

    建替え後の収支は「悲観的なケース」で確かめる

    建替え後の収支は、次の要素で組み立てます。

    • 新築時の賃料と入居率(周辺の新築・築浅物件の募集状況から見込む)
    • 建築費、解体費、立退きにかかる費用、設計費などの総事業費
    • 借入れの金額・金利・期間と、毎年の返済額
    • 固定資産税、管理費、修繕積立の見込み
    • 工事期間中(解体から入居まで)の無収入期間

    建築会社が示す収支計画は、満室に近い入居率を前提にしていることがあります。入居率や賃料が想定を下回ったときにも返済が続けられるかを、悲観的なケースで確かめることが欠かせません。修繕の考え方と費用の税務上の扱いは、関連記事「賃貸物件の修繕計画と修繕費の税務」で整理しています。

    立退きは「時間」と「関係」のコストが大きい

    普通借家契約では、貸主からの退去要請に正当事由が必要

    一般的な賃貸アパートの契約(普通借家契約)では、貸主が契約の更新を拒んだり、解約を申し入れたりするには、正当の事由が必要です。借地借家法28条では、正当事由の有無を、貸主と借主それぞれが建物を必要とする事情、賃貸借のこれまでの経過、建物の利用状況や現況、そして貸主が明渡しと引換えに財産上の給付(いわゆる立退料)を申し出たかどうかなどを考慮して判断するとしています。

    つまり、建物が古いというだけで、入居者に退去を求められるとは限りません。実務では、入居者一人ひとりと話し合い、転居先の紹介や立退料の支払いなどの条件をまとめていくことになり、全員の退去までに年単位の時間がかかることもあります。

    建替えを見据えるなら、早めに契約の形を整える

    建替えの時期をある程度見通せる場合は、空いた部屋から順に、契約期間の満了で終了する定期建物賃貸借(定期借家契約)での募集に切り替える方法があります。定期借家契約は、書面で契約し、更新がないことを定めることで成立します(借地借家法38条)。一方で、定期借家の部屋は賃料が低くなりやすい、入居者が見つかりにくいといった面もあるため、空室期間とのバランスを考える必要があります。

    立退料や取壊し費用が税務上どのように扱われるかは、建替えか売却かによって変わります。詳しくは関連記事「建物の取壊し費用や立退料は経費になるのか」で解説しています。

    売却するなら「現況」か「更地」か

    現況売却:収益性で値段が決まる

    入居者がいるまま売る場合、買い手は家賃収入から価格を考えます。築古で修繕の必要が大きい物件や空室の多い物件は、買い手が将来の修繕費や立退きの負担を見込むため、価格が低くなりやすいのが一般的です。

    現況売却では、次の点を事前に整えておくと、買い手の不安が小さくなります。

    • 賃貸借契約書や更新の記録がそろっているか、実際の賃料・条件と契約書が一致しているか
    • 賃料の滞納や減額の要望がないか
    • 管理会社との管理委託契約やサブリース契約を、売却に合わせて解約・承継できるか
    • 修繕の履歴や、建物の不具合の把握状況

    更地売却:土地の需要があれば有力、ただし時間がかかる

    立退きと解体を済ませて更地で売る場合、住宅用地や事業用地としての需要があれば、現況売却より高い価格が期待できることがあります。国土交通省の「令和8年地価公示の概要」では、全国の住宅地は5年連続で上昇していますが、地域による差は大きくなっています。土地としての需要が強い地域かどうかが、更地売却を選ぶかどうかの分かれ目です。

    一方で、立退きの期間中は空室が増えて家賃収入が減り、解体費もかかります。売却までの時間が長くなることも見込んでおく必要があります。

    売却時の税金

    個人が土地や建物を売った場合、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得となり、所得税15%・住民税5%(このほかに復興特別所得税)がかかります(国税庁タックスアンサーNo.3208)。売却のために借家人に支払った立退料や、建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用は、譲渡費用として差し引くことができます。

    売却を比べるときは、売却価格ではなく、税金や費用を差し引いた後の手取りで比べることが重要です。税引後の手取りの考え方は、関連記事「不動産を売却したとき、税引後にいくら残るか」で整理しています。

    相続と承継から見た違い

    建替えか売却かは、相続税の評価や、次の世代が何を引き継ぐかにも影響します。

    • 賃貸建物の敷地は評価が下がる:アパートの敷地は「貸家建付地」として、自用地の価額から借地権割合・借家権割合・賃貸割合に応じた金額を差し引いて評価します(国税庁タックスアンサーNo.4614)。立退きで空室が増えると賃貸割合が下がり、この減額は小さくなります。
    • 借入れとセットで引き継ぐことになる:建替えで新たな借入れをすると、相続時には建物と借入金を一体で引き継ぎます。後継者が賃貸経営を続ける意思と力があるかどうかが重要です。
    • 売却すれば分けやすくなる:売却して現金にすれば、相続人の間で分けやすくなりますが、相続税評価上の減額はなくなります。

    相続税評価が下がることだけを理由に建替えを選ぶと、事業として成り立たない建物と借入れを次の世代に残すことになりかねません。評価と収益性の両方を見ることが大切です。

    AEGISの視点

    築古アパートの相談では、建築会社からの建替え提案と、不動産会社からの売却提案が別々に届き、それぞれの前提で比べられないまま判断を迫られることがよくあります。

    AEGISは、この判断を「建物の問題」ではなく「この土地を、これから20年、30年、誰がどう持ち続けるかという問題」として捉えています。建替えを選ぶなら、建築費が上がった中でも返済が続けられる収支と、立退きを丁寧に進める時間が必要です。売却を選ぶなら、現況か更地か、いつ売るかで手取りが変わります。どちらも、借入れの残り、相続税の見込み、家族の意向と結びついています。

    そのため、選択肢ごとに「税引後に手元に残るお金」「かかる時間と手間」「次の世代に引き継ぐもの」を一枚に並べて比べることが、判断の出発点になると考えています。資産税務・不動産税務の論点についてのAEGISの考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。

    まとめ

    • 築古アパートの選択肢は、現状維持・建替え・現況売却・更地売却の4つです。
    • 建築費はこの数年で大きく上昇しており、建替え後の収支は悲観的なケースで確かめる必要があります。
    • 普通借家契約では、貸主からの退去要請に正当事由が必要で、立退きには時間がかかります。
    • 売却は、現況か更地かで価格と手間が変わり、税引後の手取りで比べることが重要です。
    • 相続税評価、借入れ、家族の意向を含めて判断します。具体的な結論は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 築何年になったら建替えを考えるべきですか?

    築年数だけで決まるものではありません。建物の構造と劣化の状況、耐震性、修繕費の見込み、空室の状況、立地の賃貸需要をあわせて判断します。修繕で十分に延命でき、入居が保てているなら、急いで建て替える必要がない場合もあります。

    Q. 入居者に立ち退いてもらうには、立退料が必ず必要ですか?

    法律で立退料の支払いが一律に義務付けられているわけではありません。ただし、普通借家契約では、貸主からの更新拒絶や解約申入れには正当事由が必要で、立退料の申出はその判断の考慮要素の一つとされています(借地借家法28条)。実務では、入居者と話し合いで条件をまとめるのが一般的です。

    Q. 入居者がいるまま売ると、どのくらい安くなりますか?

    一律の目安はありません。現況売却の価格は、家賃収入、空室の状況、修繕の必要性、買い手が見込む立退きの負担などで決まります。更地としての価格と、現況での価格の両方を査定してもらい、立退きと解体にかかる費用と時間を差し引いて比べることが大切です。

    Q. 建て替えると相続税は下がりますか?

    賃貸建物の敷地は貸家建付地として評価が下がり、建物も固定資産税評価額を基に評価されるため、相続税評価額は下がることがあります。ただし、建築費や借入れの負担、建替え後の空室リスクを考えると、評価が下がることだけで判断するのは危険です。

    Q. 建替えと売却で迷う場合、まず何から始めればよいですか?

    現在の収支と借入れの残り、建物の状態、入居者の契約状況を整理し、現行法令で建てられる建物の規模を確認します。そのうえで、建替え・現況売却・更地売却のそれぞれについて、税引後の手取りと必要な期間を試算して並べると、判断の材料がそろいます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司著、ソシム、P.422-423、P.426-429
    • 『改訂版 税理士が知っておきたい!土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭著、第一法規、P.6-9
  • 不動産を相続する前に確認したいこと|評価・収益性・共有・納税資金を整理する

    不動産を相続する前に確認したいこと|評価・収益性・共有・納税資金を整理する

    自宅のほかに賃貸アパートや貸地、駐車場などを持っている場合、相続は「不動産をどう引き継ぐか」という問題になります。不動産は現金のように簡単に分けられず、評価の仕組みも複雑で、相続税を払うための資金が足りなくなることもあります。

    結論から言えば、不動産の相続に備えて確認すべきことは、①何を持っているか(棚卸し)、②いくらと評価されるか、③その不動産は稼いでいるか(収益性)、④誰がどう引き継ぐか(共有と分割)、⑤税金をどう払うか(納税資金)の5つです。この記事では、相続が起きる前の段階で、これらをどの順番で確認すればよいかを解説します。

    なぜ「相続の前」に確認する必要があるのか

    相続が発生してからでは、確認に使える時間が限られます。

    • 申告期限:相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります(国税庁 No.4205)。
    • 分割の期限:遺産の分け方が決まらないまま申告期限を迎えると、一部の特例を当初の申告で適用できないことがあります(国税庁 No.4208)。
    • 登記の義務:令和6年4月1日から、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務化されています。正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります(法務省)。

    10か月という期間は、不動産が多い相続では決して長くありません。物件の調査、評価、遺産分割の話し合い、納税資金の準備を同時に進めることになるからです。相続前にできる確認を済ませておくことで、相続後の判断に時間を充てられるようになります。

    確認1:何を持っているか(不動産の棚卸し)

    最初に行うのは、所有している不動産の一覧づくりです。意外に思われるかもしれませんが、本人も家族も、すべての不動産を正確に把握しているとは限りません。

    一覧づくりに使える主な資料は次のとおりです。

    • 固定資産税の課税明細書:市区町村から毎年送られてくる書類で、所在地、地目、面積、固定資産税評価額などが記載されています。
    • 登記事項証明書:所有者の名義、持分、抵当権などの権利関係を確認できます。
    • 売買契約書・権利証(登記識別情報):取得の経緯と取得費の確認に使います。
    • 賃貸借契約書:誰に、どのような条件で貸しているかを確認します。

    一覧を作る過程で、次のような「見えにくい不動産」がないかも確認しておきたいところです。

    • 先代(親や祖父母)の名義のままになっている不動産
    • 他人の土地の上に建物を所有している場合の借地権のように、登記に現れにくい権利
    • 他の市区町村にある土地や、私道の持分など、課税明細書が別に届くもの
    • 共有名義で、自分の持分を正確に把握していないもの

    特に先代名義の不動産は、今回の相続の前に、先代の相続の手続きから整理しなければならないことがあります。

    確認2:いくらと評価されるか

    相続税評価の基本

    相続税では、財産は取得の時の時価で評価するのが原則です(相続税法第22条)。国税庁は財産評価基本通達で具体的な評価方法を定めており、不動産の基本は次のとおりです(国税庁 No.4602)。

    対象評価方法
    土地(宅地)路線価が定められている地域は路線価方式、それ以外は倍率方式(固定資産税評価額×倍率)
    建物(家屋)固定資産税評価額×1.0
    貸している建物の敷地(貸家建付地)自用地としての価額 −(自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

    貸家建付地の計算に使う賃貸割合は、貸している部分の床面積の割合です(国税庁 No.4614)。空室が多い時期に相続が発生すると、評価額が変わる可能性があるということです。

    小規模宅地等の特例を使えるか

    自宅の敷地や事業用・貸付用の土地については、一定の要件を満たすと、評価額を減額できる「小規模宅地等の特例」があります(国税庁 No.4124)。

    宅地等の区分限度面積減額割合
    特定居住用宅地等(自宅の敷地など)330㎡80%
    特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等400㎡80%
    貸付事業用宅地等(アパート・駐車場など)200㎡50%

    ※適用には、誰がその宅地を取得し、その後どのように使うかなどの要件があります。複数の区分を併用する場合は面積の調整計算が必要です。

    この特例は、相続税の申告書に適用を受ける旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付して申告することが必要です。また、原則として遺産分割が決まっていることが前提になるため、分割が申告期限に間に合わない場合は、当初の申告では適用できません(国税庁 No.4124、No.4208)。

    つまり、「誰がどの土地を取得するか」という分割の判断が、評価額そのものに影響するということです。

    全体のおおよその規模を把握する

    相続税には基礎控除があり、その額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(国税庁 No.4152)。不動産の評価額と金融資産などを合計して、基礎控除をどの程度上回りそうかを把握しておくと、どこまで準備が必要かの見当がつきます。相続税の概算に必要な情報は、関連記事「相続税の概算に必要な情報」で整理しています。

    なお、相続税評価額は実際に売れる価格とは一致しません。その理由は関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格の違い」で解説しています。

    確認3:その不動産は稼いでいるか(収益性)

    相続税評価が同じでも、相続人にとっての価値は不動産ごとに大きく異なります。相続の前に、物件ごとに次の点を確認しておきます。

    • 収支:年間の賃料収入から、管理費、修繕費、固定資産税、借入れの返済などを差し引いて、手元に残る資金
    • 将来の支出:外壁や設備の更新など、近い将来に必要になる大きな修繕
    • 借入れ:残高、金利、返済期間、連帯保証の有無
    • 管理の手間:誰が入居者対応や業者とのやり取りをしているか

    収益性を確認する目的は、「相続人が引き継ぎたい不動産」と「引き継いでも負担になる不動産」を見分けることです。収益が乏しく修繕負担が重い不動産は、相続前に売却や組替えを検討する余地があるかもしれません。反対に、安定した収益を生む不動産は、相続後の納税資金や相続人の生活を支える資産になります。

    確認4:誰がどう引き継ぐか(共有と分割)

    不動産の相続で最も難しいのが分け方です。相続人の間で公平を保とうとして、一つの不動産を複数の相続人の共有にすることがあります。共有は分割の時点では公平に見えますが、次のような問題を将来に残しやすい方法です。

    • 売却、建替え、大規模な修繕などの判断に、共有者の合意が必要になる
    • 共有者の一人に相続が起きると、共有者がさらに増える
    • 賃料の分配や経費の負担をめぐって、共有者間の調整が必要になる

    共有を避けるための考え方としては、不動産ごとに取得する人を分ける、不動産を取得する相続人が他の相続人に金銭を渡す、相続前に一部の不動産を売却して分けやすい資産に変える、などがあります。どの方法が適しているかは、不動産の数や規模、相続人の関係によって異なります。

    分け方を決めるうえで大切なのは、相続人それぞれが、その不動産をどう使い、どう管理していくつもりかを事前に確認しておくことです。遺言で分け方を示しておくことも、相続後の話し合いの負担を軽くする方法の一つです。

    確認5:税金をどう払うか(納税資金)

    財産の大部分が不動産の場合、相続税を現金で払えるかどうかが大きな論点になります。

    現金で払えない場合の制度

    相続税は金銭で一括納付するのが原則ですが、一定の要件のもとで分割払い(延納)や、財産そのもので納める物納の制度があります。

    • 延納:相続税額が10万円を超え、金銭で納付することが困難な事由があり、担保を提供するなどの要件を満たす場合に、申請により認められます(国税庁 No.4211)。
    • 物納:延納によっても金銭で納付することが困難な事由がある場合に、その困難な金額を限度として、一定の財産で納めることが認められます。物納に充てられる財産には順位があり、不動産は第1順位に含まれます(国税庁 No.4214)。

    いずれも申請と許可が必要で、どのような不動産でも物納できるわけではありません。たとえば、共有の不動産は、共有者全員が物納を申請する場合などを除き、物納に適さない財産(管理処分不適格財産)とされています(相続税法施行令18条、同法施行規則21条)。制度があることを前提に準備を怠らないことが大切です。

    売却して払う場合

    相続した不動産を売却して納税資金に充てる場合、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すれば、一定の相続税額を取得費に加算して譲渡所得を計算できる特例があります(国税庁 No.3267)。

    ただし、相続税の納付期限は申告期限と同じ10か月以内です。売却に時間がかかる不動産(境界が確定していない土地、借地人がいる土地など)を納税資金のあてにしている場合は、相続前から売却の準備を進めておくか、別の資金手当てを考えておく必要があります。

    相続前の確認リスト

    ここまでの内容を、相続前に確認しておきたい項目として整理します。

    視点確認すること主な資料
    棚卸し所有不動産の一覧、名義と持分、先代名義・未登記の権利課税明細書、登記事項証明書、契約書
    評価路線価・倍率による評価、貸家建付地、小規模宅地等の特例の候補路線価図・評価倍率表、賃貸借契約書
    収益性物件ごとの収支、修繕計画、借入れ収支の記録、借入れの資料
    共有・分割誰がどの不動産を取得するか、共有の有無家族の意向、遺言
    納税資金現金で払えるか、売却の見込み、延納・物納の可能性金融資産の一覧、売却可能性の確認

    実務上注意したいポイント

    • 境界と測量:売却や物納を考える土地は、隣地との境界が確定しているかを確認しておきます。境界の確定には時間がかかることがあります。
    • 使っていない不動産:空き家や遊休地は、収益を生まない一方で固定資産税や管理の負担が続きます。相続人が使う予定がなければ、相続前の段階で方針を考えておく価値があります。
    • 家族との共有:資料をそろえても、家族が内容を知らなければ相続後に活かせません。どこに何があるかだけでも共有しておくことが大切です。

    AEGISの視点

    不動産の相続というと、相続税の金額や評価を下げる方法に関心が向きがちです。しかしAEGISは、不動産の相続を「次の世代が、その不動産を持ち続けられるかどうかを確認するプロセス」と捉えています。

    評価額が下がっても、相続人が管理できず、収益も生まず、共有で身動きが取れなくなれば、その不動産は家族にとって負担になります。反対に、評価額はそれなりでも、収益が安定し、取得する人が明確で、納税資金の見通しが立っていれば、相続は円滑に進みます。

    そのためAEGISでは、評価・収益性・分け方・納税資金を別々に検討するのではなく、一つの表に並べて検討することを重視しています。不動産の購入から承継までを一連の流れで考える全体像は、関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    相続に関わる不動産税務・資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 不動産の相続では、棚卸し・評価・収益性・共有と分割・納税資金の5つを確認することが大切です。
    • 相続税の申告期限は10か月以内で、相続登記も令和6年4月1日から義務化されています。
    • 土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額で評価され、貸している場合や小規模宅地等の特例の適用によって評価額が変わります。
    • 小規模宅地等の特例は、原則として遺産分割が決まっていることが前提であり、分け方が評価額に影響します。
    • 不動産が財産の多くを占める場合は、延納・物納の要件や売却にかかる時間も踏まえて、納税資金の見通しを立てておく必要があります。
    • 具体的な対応は、不動産の内容や家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 相続前に、まず何から手を付ければよいですか?

    所有している不動産の一覧づくりから始めるのがおすすめです。固定資産税の課税明細書と登記事項証明書を並べ、名義、持分、所在地、固定資産税評価額を一覧にするだけでも、評価や分割を考える土台ができます。

    Q. 小規模宅地等の特例は、相続すれば自動的に適用されますか?

    自動的には適用されません。相続税の申告書に特例の適用を受ける旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付して申告する必要があります。また、取得する人やその後の利用状況などの要件があり、原則として遺産分割が決まっていることが前提です。

    Q. 相続人が複数いる場合、不動産は共有にしたほうが公平ではないですか?

    分割の時点では公平に見えますが、売却や建替えに共有者の合意が必要になり、次の相続で共有者が増えるなど、将来の判断が難しくなりがちです。不動産ごとに取得する人を分ける、取得する人が他の相続人に金銭を渡すなど、共有以外の方法も含めて検討することをおすすめします。

    Q. 相続税を払うために、相続した不動産を売ることはできますか?

    可能です。相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すれば、一定の相続税額を取得費に加算できる特例があります。ただし、納付期限は10か月以内のため、売却に時間がかかる不動産の場合は、相続前から準備を進めておくことが大切です。

    Q. 相続登記をしないと、どうなりますか?

    令和6年4月1日から相続登記の申請は義務となり、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。令和6年4月1日より前の相続で未登記の不動産についても、令和9年3月31日までに登記する必要があるとされています(法務省)。

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    参考資料・出典

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