カテゴリー: 資産管理会社

個人と法人の資産・資金、維持費、税務、株式承継の論点を解説します。

  • 会社売却後の資産をどう守り、どう使うか|手取りの確定・資金の仕分け・器・相続・社会貢献を順番に設計する

    会社売却後の資産をどう守り、どう使うか|手取りの確定・資金の仕分け・器・相続・社会貢献を順番に設計する

    会社を売却した直後のオーナーは、人生で最も大きな資金を手にする一方で、「何から決めればよいか分からない」状態に置かれがちです。

    結論から言えば、売却直後に運用先を決めるのではなく、①確定した手取りを把握し、②資金を用途と時間軸で仕分け、③個人と法人のどちらで持つかを決め、④相続と贈与の計画を引き直し、⑤社会への還元を考えるという順番で設計することが、資産を守り、生かすための近道です。

    会社の株式という「事業と一体の財産」が、現預金という「自由に動かせる財産」に変わることで、税金、家族、運用、相続のすべての前提が変わります。この記事では、売却後に初めて生じる論点を、オーナーの意思決定の順に整理します。売却前の準備や取引の方法については、別の記事で扱っています。

    会社売却で、財産の「性質」はどう変わるのか

    売却後の設計を考える前に、財産の性質がどう変わったかを確認しておくと、なぜ計画の引き直しが必要なのかが分かります。

    観点売却前(自社株式が中心)売却後(現預金が中心)
    換金のしやすさ換金が難しく、売却には相手が必要いつでも使え、移すことも容易
    相続税の評価評価方法により時価と異なる評価額になることがある原則として額面どおりの金額で評価される
    家族への分けやすさ経営権と結び付き、分けにくい金額で分けやすい
    毎年の収入役員報酬や配当として会社から受け取る会社からの収入がなくなり、運用や取り崩しが中心になる
    目減りの要因事業の業績物価上昇、運用の失敗、浪費、勧誘によるトラブル

    とくに見落とされやすいのが、毎年の収入の構造が変わることと、相続税の評価の前提が変わることです。売却前に組み立てていた生活設計や相続対策は、売却を境にいったん白紙に戻して考える必要があります。

    第1段階:確定した手取りを把握する

    最初に行うべきは、売却代金のうち「自由に使える金額」を確定させることです。契約書に書かれた譲渡価格と、実際に手元に残る金額は一致しません。

    税金と、その支払時期

    個人が非上場株式を譲渡して得た利益は、他の所得と分けて課税される申告分離課税の対象で、税率は所得税15%・住民税5%の合計20%です。平成25年から令和29年までの各年分は、さらに基準所得税額の2.1%の復興特別所得税がかかります(国税庁 タックスアンサーNo.1463)(令和9年分以後は、復興特別所得税が基準所得税額の1.1%に引き下げられ、新たに防衛特別所得税〔同1%〕が併せて課されます。合計の負担率は変わりません〔国税庁 タックスアンサーNo.1522・No.1000〕)。

    注意したいのは、これらの税金を実際に納めるのは売却の翌年になることです。売却代金を受け取ってから納税までの間に、資金を別の用途に回してしまうと、納税資金が不足するおそれがあります。役員退職金を受け取った場合は、その課税関係も合わせて確認します。

    受取りが確定していない部分

    売却契約によっては、代金の一部が一定期間預けられたり、業績に応じて後から支払われたり、売却後に判明した問題について売主が補償を求められたりすることがあります。売却後に価格が事後的に調整される例もあり、これらは「確定した手取り」から除いて考えるのが安全です。

    申告・届出の確認

    売却した年は所得が大きくなるため、一定の基準を超える財産を持つ人は、「財産債務調書」の提出が必要になる場合があります。国税庁の説明では、退職所得を除く各種所得の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において財産の価額の合計額が3億円以上、または国外転出特例の対象となる有価証券等の価額の合計額が1億円以上である人などが対象とされ、提出期限は翌年の6月30日です(国税庁 タックスアンサーNo.7457)。売却の翌年の確定申告と合わせて確認しておきたい手続きです。

    第2段階:資金を「用途」と「時間軸」で仕分ける

    手取りが見えたら、次は資金を一つの塊として扱わず、用途と使う時期によって仕分けます。AEGISでは、次の5つに分けて考えることをおすすめしています。

    区分使う時期の目安置き方の考え方確認したいこと
    1. 納税・確定待ち資金翌年まで元本が減らない形で、他と分けて保管税額、補償・価格調整の可能性
    2. 生活資金今後数年〜生涯必要な時期に必要な額を引き出せる形役員報酬がなくなった後の年間支出
    3. 次の事業・挑戦の資金時期は未定すぐに動かせる余地を残す新事業、出資、再雇用などの方針
    4. 長期の運用資金10年以上分散を基本に、目的と許容できる変動幅を決める運用の目的、判断する人、見直しの頻度
    5. 次世代・社会への資金生前〜相続時贈与・寄附・相続のどれで渡すかを決めてから動かす家族の状況、社会貢献の意向

    この仕分けの目的は、運用で失ってはいけないお金と、時間をかけて増やすお金を最初に分けておくことです。とくに1と2の区分を先に確保しておけば、4の運用で一時的に価値が下がっても、生活や納税に影響しません。

    不動産への投資を考える場合も、物件を選ぶ前に、投資の規模、保有の形、借入れの有無、将来の売却や承継までを先に設計しておくことが大切です。売却資金が手元にあると、勧められた物件をそのまま購入しやすくなるため、注意が必要です。

    第3段階:資金を「どの器」で持つかを決める

    売却代金は、株主であったオーナー個人が受け取ります。その資金を個人のまま持つか、資産管理会社などの法人に移して持つかは、重要な分かれ道です。

    個人で持つ場合

    運用益は個人の所得として課税され、財産は相続の対象としてそのまま残ります。仕組みが分かりやすく、維持の費用もかかりません。一方で、相続が起きたときには、預金や有価証券、不動産がそのまま遺産分割の対象となり、家族が分け方を協議することになります。

    資産管理会社で持つ場合

    個人の資金を法人に移す方法としては、出資(株式の取得)や、会社への貸付けが考えられます。法人で運用や不動産賃貸を行えば、その所得は法人の所得として課税され、家族に資金を渡すときは、役員報酬や配当などの形をとることになります。財産は「会社の株式」として承継されるため、承継の方法を設計しやすくなる面があります。

    ただし、資産管理会社は節税のための箱ではなく、家族の資産を継続的に管理する仕組みとして考えることが大切です。法人を維持する費用や事務、家族を役員にする場合の実態、株式を誰が持つかといった論点が生じるため、個人で持つ場合と並べて比較したうえで判断します。資産管理会社を検討するときの比較の軸は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。

    資産の規模が大きく、家族の人数も多い場合は、資産管理会社という「器」とは別に、家族の考え方を共有する場や、運用の方針を決めて見直す仕組み(いわゆるファミリーオフィスの機能)を持つことも選択肢になります。器と仕組みは別物であり、器だけを作っても、家族の合意がなければ資産は守れません。

    第4段階:相続と贈与の計画を引き直す

    会社を売却すると、相続の前提が大きく変わります。

    • 相続税の評価が変わる:自社株式は評価方法により時価と異なる評価額になることがありますが、現預金は原則として額面で評価されます。売却前に試算した相続税額は、そのままでは使えません。
    • 納税資金と分け方の課題が変わる:換金しにくい自社株式が現預金に変わることで、納税資金の不安は小さくなる一方、相続財産の総額や家族間の分け方を改めて検討する必要があります。
    • 遺言の内容を見直す:売却前の遺言で「自社株式を後継者に」と定めていた場合、その財産はもう存在しません。遺言は、売却後の財産構成に合わせて書き直すことが望まれます。

    生前に家族へ資金を渡す方法としては、暦年課税による贈与と相続時精算課税による贈与があります。暦年課税の贈与については、相続開始前7年以内の贈与が相続財産に加算される仕組みが設けられ、経過措置も定められています(加算期間は令和9年1月1日以後の相続から段階的に延び、7年となるのは令和13年1月1日以後の相続から。国税庁 タックスアンサーNo.4161)。相続時精算課税には、年110万円の基礎控除が設けられています(国税庁 タックスアンサーNo.4103)。どちらを使うかは、渡したい金額や時期、受け取る家族の状況によって変わります。詳しくは関連記事「生前贈与と相続をどう使い分けるか」で整理しています。

    相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります(国税庁 タックスアンサーNo.4205)。売却によって財産が分かりやすい形になった今こそ、財産の一覧と、誰に何を渡すかの方針を家族と共有しておく好機です。

    第5段階:社会への還元を考える

    事業を通じて地域や社会に支えられてきたオーナーの中には、売却で得た資金の一部を社会に還元したいと考える方も少なくありません。寄附、基金への拠出、公益信託、財団の設立など方法はさまざまですが、どの方法を選ぶにしても、確定した手取りと、家族のための資金を確保した後の範囲で考えることが基本です。自ら財団を設立せず、既存の財団の中に名前や想いを冠した基金を設ける方法もあり、AEGISではそのための器としてアイジスレガシー財団を設立しています。方法ごとの違いは、関連記事「会社売却で得た資金を社会貢献に生かす方法」で比較しています。

    実務上注意したいポイント

    • 判断を急がない:売却直後は、金融商品や投資案件の提案が集中しがちです。納税資金と生活資金を分けて確保したら、残りの資金については、方針が固まるまで判断を保留する期間を設けることも有効です。
    • 「元本保証」「高利回り」の勧誘に注意する:未公開株や海外の投資案件など、仕組みが分からないものには手を出さないことが原則です。
    • 家族への共有の範囲を決める:売却代金の額をどこまで家族に伝えるかは、家族関係にも影響します。共有する内容と時期を意識的に決めておきます。
    • 記録を残す:売却契約書、精算の明細、税金の計算資料は、補償の請求や税務の確認に備えて保管しておきます。
    • 具体的な取扱いは個別事情で異なる:税額や手続きは、売却の方法、受け取った対価の内容、家族構成によって変わります。

    AEGISの視点

    会社売却は、オーナーにとって「事業の承継」の終わりであると同時に、「資産の承継」の始まりです。多くの場合、売却までは事業と取引条件に全力が注がれ、売却後の資金の行き先は、売却が終わってから考えることになります。

    AEGISは、売却後の設計を「事業オーナーから資産オーナーへの役割の転換」と捉えています。事業を経営してきたときは、会社の業績を見れば家族の資産の状態がおおむね分かりました。売却後は、運用、不動産、資産管理会社、相続、社会貢献といった複数の要素を、自分で組み立てて管理していく立場に変わります。そのためAEGISでは、運用の商品を選ぶ前に、資金の仕分け、持つ器、家族への渡し方、社会への還元を一枚の設計図に並べることを大切にしています。

    そして、この設計図は売却前から描き始めることができます。売却の条件と、売却後の資金の使い道を同時に考えておけば、受け取り方や時期の選択肢も広がります。売却に向けた準備の全体像は、M&AのPillar記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

    資産の構造や承継に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 会社売却によって、財産は換金しにくい自社株式から、自由に動かせる現預金へと性質が変わり、税金・相続・生活設計の前提が変わります。
    • 最初に、税金と受取りが確定していない部分を除いた「確定した手取り」を把握します。株式の譲渡益にかかる税金を納めるのは売却の翌年です。
    • 資金は、納税・生活・次の挑戦・長期運用・次世代と社会の5つの用途と時間軸で仕分けると、守るべき資金と増やす資金を区別できます。
    • 個人で持つか資産管理会社で持つかは、税率だけでなく、管理の仕組みと承継の方法を含めて比較します。
    • 相続税の試算、遺言、贈与の計画は、売却後の財産構成に合わせて引き直します。

    よくある質問

    Q. 売却代金を受け取ったら、すぐに運用を始めるべきですか?

    急ぐ必要はありません。まず、翌年に納める税金や、価格調整・補償の可能性がある資金、当面の生活資金を分けて確保することが先です。そのうえで、運用の目的や許容できる価値の変動幅を決めてから、長期の資金の運用を考える順番が、結果として資産を守ることにつながります。

    Q. 売却した翌年に、何か手続きが必要になりますか?

    株式の譲渡益について確定申告を行い、所得税等と住民税を納めることになります。また、所得や財産が一定の基準を超える場合には、財産債務調書の提出が必要になることがあります。売却の年の年末時点の財産の状況を、早めに整理しておくとよいでしょう。

    Q. 売却代金を資産管理会社に移せば、税金は軽くなりますか?

    一概には言えません。法人で運用すれば所得は法人の所得として課税されますが、家族に資金を渡す段階での課税や、法人の維持費用も生じます。税負担の比較だけで判断するのではなく、管理の仕組みや株式の承継まで含めて比較することが大切です。

    Q. 売却前に作った遺言は、そのままでよいですか?

    見直しをおすすめします。自社株式を誰に相続させるかを定めた遺言は、売却によって前提が変わります。現預金や新たに取得した資産を含めた財産構成に合わせて、家族への配分の考え方を改めて整理し、遺言に反映させることが望まれます。

    Q. 売却で得た資金の一部を寄附したい場合、いつ考えればよいですか?

    納税資金と家族のための資金の見通しが立った後に、方法と時期を検討するのが基本です。売却の年に寄附するか、時間をかけて段階的に寄附するかによって、税制上の扱いや社会への関わり方も変わるため、方法の比較とあわせて検討します。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • M&A:会社売却の方針・取引条件・税引後の受取額・売却後の資産管理を検討します。
    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで確認します。
    • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部・辻・本郷 ファミリーオフィス株式会社・岩崎隼人 編著、東峰書房、2025年、第Ⅰ部第2章(印刷 p.81-96)
    • 『中小企業M&AのFA業務マニュアル』渡部潔 著、中央経済社、2025年、第18章(印刷 p.304-320)
  • 資産管理会社に管理を任せるときの管理料|管理委託・サブリース・不動産所有の3方式と「説明できる実態」のつくり方

    資産管理会社に管理を任せるときの管理料|管理委託・サブリース・不動産所有の3方式と「説明できる実態」のつくり方

    個人で持つ賃貸不動産の管理を資産管理会社に任せ、会社に管理料を支払う。資産管理会社の使い方として、よく検討される形です。

    結論から言えば、管理料は「会社が実際に行っている業務の対価」として説明できる金額でなければなりません。「賃料の何%が相場か」という問いから入るのではなく、会社が何をしているか、それを記録で示せるかから逆算して決めるのが基本です。国税不服審判所の公表裁決事例には、業務の記録がないとして管理料の必要経費算入が認められなかった例もあれば、会社が自ら業務を行っていたとして全額が認められた例もあります。

    この記事では、資産管理会社に管理を任せる3つの方式(管理委託方式・サブリース方式・不動産所有方式)を比較したうえで、管理料の決め方と、業務の実態を記録として残す方法を整理します。

    資産管理会社に管理を任せる3つの方式

    個人オーナーと資産管理会社の関係は、大きく3つの方式に分けて考えると整理しやすくなります。

    方式お金の流れ会社の収益の源泉主な確認点
    管理委託方式入居者 → オーナー個人。オーナーが会社に管理料を支払う管理料(業務の対価)会社が実際に担う業務と、管理料の水準
    サブリース方式入居者 → 会社。会社がオーナーに借上賃料を支払う転貸賃料と借上賃料の差額借上賃料の水準と、空室リスクを会社が実際に負っているか
    不動産所有方式入居者 → 会社。会社が建物(場合により土地も)を所有賃料収入そのもの移転時の税金、土地の貸し借りの整理

    ※上記はAEGISが論点を整理するために作成した区分です。実際の契約形態は物件ごとに異なります。

    管理委託方式とサブリース方式は、不動産の所有者は個人のままで、会社が管理や賃貸の役割を担う形です。個人の不動産所得の一部を、業務の対価として会社に移すことになります。一方、不動産所有方式は、建物などを会社に移して、賃料収入そのものを会社に帰属させる形です。

    なぜ管理料が問題になりやすいのか

    管理委託方式やサブリース方式で論点になるのは、同族会社との取引では、金額を当事者が自由に決めやすいという点です。

    必要経費として認められるか

    個人の不動産所得の計算上、資産管理会社に支払った管理料が必要経費になるには、その費用が賃貸の業務と直接関係し、業務の遂行上必要であることが求められます。国税不服審判所の裁決事例でも、この「客観的にみて業務の遂行上必要か」という観点から判断されています。

    同族会社の行為計算の否認

    もう一つの論点が、同族会社の行為計算の否認です。同族会社の行為や計算をそのまま認めると、その株主等である個人やその特殊関係者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、税務署長はその行為や計算にかかわらず所得を計算し直すことができる、という仕組みです(所得税法157条1項)。国税不服審判所の公表裁決事例の分類(所得税法157条)には、同族会社への不動産管理料が同業者の水準を大きく上回るとして超過部分が否認された事例や、同族会社に低い賃料で一括して貸し、会社が通常の賃料で転貸していた事例などが並んでいます。

    つまり、管理料には「業務があるか(実態)」と「金額が妥当か(水準)」という二つの問いがある、と整理できます。

    裁決事例から見える判断のポイント

    国税不服審判所が公表している不動産管理料の裁決事例からは、次のような傾向が読み取れます。いずれも個別の事実に基づく判断であり、結論がそのまま他の事案に当てはまるわけではありません。

    • 記録がなければ「業務がない」と判断され得る:賃料の一定割合を管理料として同族会社に支払っていたものの、実際の管理は外部の管理会社や借上会社が担っており、同族会社が業務を行った記録(業務日誌など)が確認できなかった事例では、適正な管理料は零円と判断されました(平成18年6月13日裁決)。
    • 会社が自ら業務を行っていれば認められる:同族会社が賃料の集金と督促、オーナーの指示を受けた賃貸借契約の締結、外部に再委託した点検業務の確認、修繕費の負担などを実際に行っていた事例では、支払った管理費の全額が必要経費と認められました(平成23年9月2日裁決)。
    • 金額は同業者との比較で検証される:同族会社への管理料が過大かどうかが争われた事例では、類似する同業者の管理料の割合などを基に適正額が検討されています。

    ここから言えるのは、管理料の妥当性は、会社の業務内容 → それを示す記録 → その業務に見合う水準の順に確かめられるということです。

    方式ごとに確認したいこと

    管理委託方式:外部の管理会社との「二重構造」に注意

    実務で多いのが、入居者募集や建物管理を外部の不動産管理会社に委託したまま、資産管理会社にも管理料を支払う形です。この場合、資産管理会社には何が残っているのかが問われます。

    • 外部の管理会社と資産管理会社の業務の分担を、書面で明確にする
    • 資産管理会社が担う業務(収支の管理、外部業者への発注と監督、修繕の判断、オーナーへの報告など)を具体的に書き出す
    • 外部の管理会社に支払う管理料と、資産管理会社に支払う管理料の合計が、業務全体に対して過大になっていないか確認する

    サブリース方式:会社が「借り手としてのリスク」を負っているか

    サブリース方式では、会社がオーナーから建物を一括で借り、入居者に転貸します。会社の収益は、転貸賃料と借上賃料の差額です。

    この方式で確認したいのは、借上賃料が実態に照らして低すぎないかと、会社が空室や賃料下落のリスクを実際に負っているかです。満室時の差額が大きくなる設計にしながら、空室時の負担はオーナーに戻るような契約では、会社が借り手として負うべきリスクの実態が乏しく見えます。裁決事例の分類にも、同族会社に著しく低い賃料で貸し、会社が通常の賃料で転貸していた事例が含まれています。

    不動産所有方式:移転時の負担と、土地の整理

    建物を会社に移す不動産所有方式では、管理料の水準という論点は小さくなる一方、移転時の税金や費用、建物だけを移す場合の借地権と地代の整理が中心になります。これらは関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」と「土地の無償返還に関する届出と相当の地代」で扱っています。

    管理料を決める手順

    AEGISでは、管理料を次の順番で検討することをおすすめしています。

    1. 業務の棚卸し:物件ごとに、入居者対応、賃料の管理、修繕、清掃・点検、会計、オーナーへの報告などの業務を一覧にする
    2. 担い手の確認:それぞれの業務を、外部の管理会社・資産管理会社・オーナー本人の誰が担うのかを決める
    3. 体制の確認:資産管理会社の業務を実際に行う人(役員・従業員)と、その時間を見積もる
    4. 水準の比較:同じ業務を外部に委託した場合の料金や、業務にかかる人件費・経費と比べる
    5. 契約書への反映:業務範囲、管理料の算定方法、支払時期、報告の方法を契約書に書く
    6. 記録の継続:業務の記録を日常的に残し、年に一度は業務内容と管理料の関係を見直す

    「賃料の何%」という決め方自体が問題なのではありません。問題になるのは、その割合の根拠を業務の内容で説明できないことです。

    業務の実態を示す記録の例

    業務残しておきたい記録の例
    賃料の管理入金の確認記録、滞納者への督促の記録、月次の収支表
    入居者・契約の対応契約書の作成・更新の記録、入居者からの連絡と対応の記録
    修繕・点検業者への発注書・見積書、点検報告書の確認記録、修繕の判断の経緯
    外部業者の管理外部の管理会社との打合せ記録、業務報告の受領と確認の記録
    オーナーへの報告定期的な収支報告書、修繕計画の提案書

    記録は、税務調査のためだけのものではありません。物件の状況や判断の経緯が残っていれば、オーナーが交代したときにも管理を引き継ぎやすくなります。

    実務上注意したいポイント

    • 決算前の調整に使わない:会社の利益を整えるために、期末に管理料を増減させる運用は、業務の対価としての説明を難しくします。裁決事例にも、同族会社が利益を確保できるよう年度末に精算する契約が経済的合理性を欠くとされた例があります。
    • 家族役員の報酬とあわせて考える:管理料で会社に移した収益は、多くの場合、家族役員の報酬として個人に戻ります。業務を担う人と報酬を受ける人が一致しているかは、関連記事「家族を資産管理会社の役員にするときの報酬」で確認できます。

    • 物件ごとに方式を選ぶ:すべての物件を同じ方式にする必要はありません。外部管理会社の関与の度合いや、将来の売却・承継の予定に応じて、物件ごとに考える方法もあります。

    • 相続税評価への影響も確認する:方式によって、土地・建物の評価や会社の株式の評価が変わることがあります。管理の方式を変える前に、承継への影響もあわせて確認します。

    AEGISの視点

    管理料の相談では、「何%までなら大丈夫か」という問いがよく出されます。しかしAEGISは、この問いの立て方自体を少し変えることが大切だと考えています。問うべきは「会社は、この物件のために何をしているのか」です。

    資産管理会社が実際に収支を管理し、修繕を判断し、外部業者を監督していれば、その会社は単なる所得の受け皿ではなく、不動産経営の実務を担う主体になります。業務の記録は管理料の根拠になるだけでなく、オーナーが高齢になったときや相続が起きたときに、家族が経営を引き継ぐための手引きにもなります。

    管理料を「税負担を調整する数字」としてではなく、「管理の仕組みをつくる対価」として設計すること。その考え方が、税務の説明力と、不動産経営の継続性の両方を高めるとAEGISは考えています。資産管理会社をいつ、どのような軸で検討するかは、Pillar記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    不動産税務や承継に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社に管理を任せる方式には、管理委託方式・サブリース方式・不動産所有方式があり、論点がそれぞれ異なります。
    • 管理委託方式とサブリース方式では、「業務の実態があるか」と「金額が妥当か」の二つが問われます。
    • 裁決事例では、業務の記録がない場合に管理料が認められなかった例と、会社が自ら業務を行っていたとして全額が認められた例があります。
    • 管理料は、業務の棚卸しから始め、担い手・体制・水準を確かめ、契約書と日常の記録で裏付けることが基本です。
    • 具体的な取扱いは、物件や契約の内容など個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社に支払う管理料の相場は、賃料の何%ですか?

    一律の「適正な割合」が法令や通達で定められているわけではありません。裁決事例では、会社が実際に行っている業務の内容や、類似する同業者の管理料の水準などを基に判断されています。割合から決めるのではなく、業務の内容から説明できる金額にすることが大切です。

    Q. 外部の管理会社に管理を委託している物件でも、資産管理会社に管理料を払えますか?

    払うこと自体は可能ですが、外部の管理会社が担っていない業務を資産管理会社が実際に行っていることが前提です。業務の分担を書面で明確にし、資産管理会社の業務の記録を残しておかないと、管理料の根拠を説明しにくくなります。

    Q. 管理委託方式とサブリース方式は、どちらが有利ですか?

    一概には言えません。サブリース方式は会社に残る収益が大きくなりやすい一方、会社が空室や賃料下落のリスクを実際に負うことが前提になります。外部の管理会社の関与、物件の収益の安定性、将来の売却や承継の予定などをあわせて比較することをおすすめします。

    Q. 管理料が否認されると、どうなりますか?

    否認された部分は個人の不動産所得の必要経費として認められず、個人の所得が増えることになります。加算税や延滞税が生じる可能性もあります。会社側の処理との関係も含め、具体的な影響は個別事情によって異なります。

    Q. 管理料を払う代わりに、不動産そのものを会社に移したほうがよいですか?

    不動産所有方式は管理料の水準という論点が小さくなる一方、移転時の譲渡所得税や登録免許税・不動産取得税などの負担、土地の貸し借りの整理が必要になります。移転の負担と、移転後の効果を比べて判断することが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社(2014年)、第4編「財産管理法人の不動産税務」P.215-217、P.230
    • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局(2018年)、第1章Ⅳ P.51-53
  • 現物分配で子会社の資産を親会社へ移す|適格現物分配の要件・課税関係と、合併・分割・売買との比べ方

    現物分配で子会社の資産を親会社へ移す|適格現物分配の要件・課税関係と、合併・分割・売買との比べ方

    現物分配とは、会社が株主に対して、金銭ではなく不動産や株式などの「現物」で配当(またはそれに準ずる分配)を行うことです。100%の親子会社の間で行う現物分配は、法人税法上「適格現物分配」に当たれば、子会社側で資産の含み益に課税されず、親会社側でも受け取った資産について課税されない仕組みになっています。

    結論からいえば、現物分配は「100%子会社から親会社へ、事業ではなく個々の資産を移したい」場面で有力な選択肢です。一方で、株主に個人が一人でも含まれると適格にならないこと、不動産を移すと流通税がかかること、会社法上の配当規制を受けることなど、使える場面には明確な条件があります。

    この記事では、現物分配の仕組みと適格要件、課税関係、手続上の注意点を整理したうえで、売買・会社分割・合併といった他の移転手法とどう比べればよいかを解説します。

    現物分配とは:配当を「モノ」で行う仕組み

    会社法では、剰余金の配当を金銭以外の財産で行うこと(いわゆる現物配当)が認められています。法人税法は、これを含め、法人が株主に対して一定の事由により金銭以外の資産を交付することを「現物分配」と定義しています(法人税法2条12号の5の2)。対象となる事由は、通常の剰余金の配当のほか、資本の払戻し、残余財産の分配、自己株式の取得など、いわゆるみなし配当が生じる一定の取引です。

    現物分配の対象になる資産は、土地・建物に限りません。子会社が持つ他の会社の株式、貸付金などの金銭債権、知的財産なども、金銭以外の資産であれば対象になり得ます。

    たとえば、次のような場面で検討されます。

    • 子会社が使わなくなった土地・建物を、親会社(持株会社や資産管理会社)に集約したい
    • 子会社を第三者に売却する前に、買い手が必要としない資産を親会社へ移しておきたい
    • 子会社の下にある孫会社の株式を親会社へ移し、孫会社を子会社にしたい
    • 組織再編の結果として子会社が持つことになった親会社株式を、親会社に戻したい
    • 子会社が親会社に対して持つ貸付金を整理したい

    適格現物分配の要件:「直前に100%」だけを見る

    要件は完全支配関係のみ

    法人税法では、適格現物分配を「内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者が、その現物分配の直前においてその内国法人との間に完全支配関係がある内国法人(普通法人または協同組合等)のみであるもの」と定めています(法人税法2条12号の15)。

    ポイントは次の3つです。

    1. 受け取る株主が「完全支配関係のある内国法人」だけであること:株主に個人や、100%の関係にない法人が一人でも含まれていると、適格現物分配になりません。
    2. 判定は「直前」の時点で行うこと:合併や会社分割の適格要件と異なり、現物分配の後も完全支配関係が続く見込みであることは求められていません。
    3. 事業を移す必要がないこと:会社分割のように「事業」を単位とする必要がなく、個々の資産だけを移せます。

    2点目は実務上大きな意味を持ちます。たとえば、子会社を売却する直前に、不要な資産を親会社へ現物分配で移すといった使い方では、分割の場合に問題となる「分割後の支配関係の継続」を気にせずに済むためです。

    完全支配関係の判定

    完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係などをいいます(法人税法2条12号の7の6)。一の者が個人の場合は、その個人と特殊の関係のある個人(親族など)の保有分を合わせて判定します。また、従業員持株会などが保有する株式が発行済株式(自己株式を除く)の5%未満であれば、その株式を除いて判定する定めがあります(法人税法施行令4条の2第2項)。

    名義株が残っている場合や、株主名簿と実態がずれている場合は、「本当に100%か」の確認から始める必要があります。

    適格現物分配の課税関係

    適格現物分配に該当した場合の課税関係を、出し手(子会社)、受け手(親会社)、源泉徴収の3つの面から整理すると、次のとおりです。

    立場適格現物分配の場合主な根拠
    子会社(現物分配法人)資産を直前の帳簿価額で譲渡したものとして扱い、含み益・含み損は計上しない法人税法62条の5第3項
    親会社(被現物分配法人)資産の移転を受けたことによる収益は益金に算入しない法人税法62条の5第4項
    源泉徴収所得税法上の配当等から除かれるため、源泉徴収は不要所得税法24条1項
    繰越欠損金等支配関係が5年以内に生じた場合などは、親会社側で欠損金の使用制限や特定資産譲渡等損失の損金不算入が課されることがある法人税法57条4項、62条の7

    親会社は、子会社の帳簿価額を引き継ぐ形で資産を受け入れます。つまり、含み益は消えたのではなく、親会社が将来その資産を外部に売却したときなどに実現するという点に注意が必要です。

    また、適格でない現物分配(非適格現物分配)の場合は、子会社側で資産を時価で譲渡したものとして含み損益が課税されるのが原則であり、受け手が個人であれば配当所得として課税されます。個人株主に会社の不動産を現物で配当すると、会社と個人の双方で税負担が生じ得るため、慎重な検討が必要です。

    会社法上の手続と、税金以外のコスト

    配当としてのルールに従う

    現物分配は会社法上は剰余金の配当などとして行うため、配当の手続と規制に従います。

    • 決議:剰余金の配当は原則として株主総会で決めます。配当財産が金銭以外で、株主に金銭分配請求権(現物に代えて金銭を求める権利)を与えない場合は、株主総会の特別決議が必要です(会社法454条4項、309条2項10号)。100%子会社であれば、親会社の意思決定だけで決議が整います。
    • 分配可能額:配当として交付する財産の帳簿価額の総額は、効力発生日の分配可能額を超えてはなりません(会社法461条1項)。含み益のある不動産でも、判定は帳簿価額で行います。分配可能額が足りない場合は、資本金や準備金の減少などを先に検討する必要があります。
    • 親会社株式の処分:子会社は、持っている親会社株式を相当の時期に処分しなければなりません(会社法135条3項)。現物分配は、この処分の手段として使われることがあります。

    流通税は別に考える

    法人税で課税が生じなくても、不動産を移す場合は登記にかかる登録免許税が生じます。また、地方税法は、合併や一定の要件を満たす分割による不動産の取得を不動産取得税の非課税としていますが(地方税法73条の7第2号)、現物分配は同条の非課税の対象として掲げられていません。不動産を移す場合は、流通税の見込み額を含めて比較することが欠かせません。

    他の移転手法とどう比べるか

    100%子会社から親会社へ資産を移す方法は、現物分配だけではありません。代表的な手法を、オーナーが比べるべき観点で並べると次のようになります。

    比較の観点適格現物分配売買(グループ法人税制)適格分割型分割適格合併
    移すもの個々の資産個々の資産事業単位(権利義務の承継)会社全体
    対価なし(配当)時価の代金が必要株式(または無対価)株式(または無対価)
    含み損益の扱い簿価で移転(親会社が引き継ぐ)一定の資産は売り手側で繰延べ、後で売り手側に戻る簿価で移転簿価で移転
    移転後の100%関係の継続求められない関係が切れると繰延べた損益が実現継続見込みが必要―
    子会社の存続存続存続存続消滅
    会社法上の制約分配可能額の範囲内通常の取引債権者保護手続など債権者保護手続など

    売買の場合は、完全支配関係がある法人間の譲渡としてグループ法人税制が適用され、土地や帳簿価額1,000万円以上の固定資産などの「譲渡損益調整資産」について、売り手側で譲渡損益が繰り延べられます(法人税法61条の11、法人税法施行令122条の12)。ただし、繰り延べられた損益は、買い手側で売却や償却が行われたときや、両社の100%関係が切れたときに、売り手側で実現します。現物分配では、含み損益は受け手の親会社が引き継ぐ点が異なります。

    どの手法がよいかは、移したい資産が「事業」か「資産」か、移転後に子会社を売却・清算する予定があるか、親会社に買取資金があるか、子会社の分配可能額は足りるか、によって変わります。売買によるグループ内取引の詳細は、関連記事「グループ法人税制と資産管理会社」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 株主構成をまず確認する:子会社に個人株主(役員や親族、名義株主)が少しでも残っていると、適格現物分配になりません。先に株式を集約する必要があるかを確認します。
    • 株価への影響を見ておく:資産が子会社から親会社へ移ると、それぞれの会社の資産構成が変わります。親会社の総資産に占める株式や土地の割合が変われば、相続税評価上の会社区分(株式等保有特定会社・土地保有特定会社など)の判定にも影響します。なお、類似業種比準方式の利益金額の計算では、適格現物分配により受けた収益は、原則として「益金に算入されなかった剰余金の配当等」に加算する必要はないとする国税庁の質疑応答事例があります。
    • 欠損金と含み損の制限:親会社と子会社の支配関係が5年以内に生じた場合などには、親会社側の欠損金の使用や、移転資産の含み損の損金算入に制限がかかることがあります。
    • 親会社に借入れがある場合:不動産を親会社へ移すと、賃貸収入や管理の責任も親会社に移ります。金融機関との契約上の制限(担保・財務制限条項など)も確認します。
    • 目的を記録に残す:グループ内の資産移転は、税負担の回避だけを目的としているように見えないよう、経営上の目的と意思決定の経緯を議事録などで残しておくことが望まれます。

    AEGISの視点

    現物分配は、条文の上では「配当」の一形態にすぎません。しかし、オーナー企業のグループにとっては、「どの会社に、どの資産を持たせるか」を組み替えるための道具になります。

    AEGISは、現物分配を検討するとき、税金がかかるかどうかより先に、「移した後に、その資産を誰が管理し、誰が承継するのか」を考えることが大切だと考えています。子会社の不動産を持株会社に集めれば、事業会社の売却や後継者への承継はしやすくなるかもしれません。一方で、持株会社の資産構成が変わり、株価や将来の相続税の見込みが変わることもあります。

    また、含み益は親会社に引き継がれるだけで、なくなるわけではありません。将来売却するのか、長く保有して賃貸するのかによって、移転先としてふさわしい会社は変わります。グループ全体の資産の置き場所を一枚の図にし、移転の前後で「税・資金・管理・承継」の4つがどう変わるかを比べてから手法を選ぶことが、遠回りのようで確実な進め方です。

    会社と会社の間のお金の貸し借りを含めたグループ内の資金管理の全体像は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で、グループ全体の再編の順番は「グループ会社を合併や株式交換で整理する」で解説しています。

    株式の持合いを解消する場面での考え方は、「株式を持ち合うグループ会社の承継と評価」も参考になります。

    グループ内の資産移転と承継・評価の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 現物分配とは、配当などを金銭以外の資産で行うことで、法人税法上は一定の事由による金銭以外の資産の交付をいいます。
    • 現物分配の直前に完全支配関係がある内国法人だけが受け取る場合は適格現物分配となり、子会社は簿価で譲渡したものとされ、親会社の収益は益金不算入、源泉徴収も不要です。
    • 合併や分割と異なり、移転後の完全支配関係の継続は求められません。一方、個人株主が一人でもいると適格になりません。
    • 会社法上は配当として、決議要件と分配可能額の規制を受けます。不動産を移す場合は登録免許税や不動産取得税も見込んでおく必要があります。
    • 売買・分割・合併との違いは、含み損益を誰が引き継ぐか、移転後の関係継続の要否、対価の要否にあります。具体的な選択は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. オーナー個人が100%持っている会社から、オーナー個人へ不動産を現物分配できますか?

    会社法上は可能ですが、受け取るのが個人であるため適格現物分配には当たりません。会社側では不動産を時価で譲渡したものとして含み損益が計算され、個人側では原則として配当所得として課税されます。個人へ資産を移す場合は、売買や役員退職金との組合せなど、他の方法も含めて比較することが大切です。

    Q. 兄弟会社(同じオーナーが持つ2つの会社)の間で、現物分配を使って資産を移せますか?

    現物分配は株主に対して行うものなので、兄弟会社の一方から他方へ直接資産を移す手段にはなりません。兄弟会社間で資産を移す場合は、売買(グループ法人税制の対象になり得ます)や会社分割などを検討します。持株会社を設けて親子関係にしたうえで現物分配を使う、という順番で考えることもあります。

    Q. 子会社の売却直前に現物分配をしても、適格になりますか?

    適格現物分配の要件は「現物分配の直前に完全支配関係があること」で、その後の継続は求められていません。そのため、売却を予定していることだけで不適格になるわけではありません。ただし、取引全体として不自然な点がないか、売却価格の算定や買い手との交渉にどう影響するかは、個別に確認が必要です。

    Q. 含み益のある土地を現物分配すると、含み益はどうなりますか?

    適格現物分配の場合、子会社では含み益に課税されず、親会社は子会社の帳簿価額で土地を受け入れます。含み益は親会社に引き継がれ、親会社がその土地を将来売却したときなどに課税対象となります。

    Q. 現物分配に株主総会の決議は必要ですか?

    剰余金の配当として行う場合は、原則として株主総会の決議が必要です。株主に金銭分配請求権を与えない現物配当は特別決議となります。100%子会社であれば、株主は親会社だけなので、親会社の判断で手続を進めることができます。

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    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附などの目的に合う資本設計を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『現物分配制度の実務詳解―法務・税務・会計上の取扱いと活用法』勝間田学・西村美智子・中島礼子・松下欣親・金井孝晃 著、中央経済社、2012年、序章(P.1-19)、第Ⅱ部第1章(P.92-99)、第Ⅱ部第7章(P.269-292)
    • 『組織再編・資本等取引をめぐる税務の基礎(第6版)』牧口晴一・齋藤孝一 著、中央経済社、2024年、第1編第7章(P.288-319)
  • 持株会社(ホールディングス)をつくる目的|承継・株価・グループ経営への影響と、つくる前に確認したいこと

    持株会社(ホールディングス)をつくる目的|承継・株価・グループ経営への影響と、つくる前に確認したいこと

    持株会社(ホールディングス)とは、他の会社の株式を保有し、その会社を支配・管理することを主な役割とする会社です。中小企業でも、事業承継の準備として「ホールディングス化」が提案されることが増えています。

    結論からいえば、持株会社は「株主を一本化する」「グループの経営と所有を分けて整理する」「後継者への承継の器を用意する」といった目的があってはじめて効果を発揮する仕組みです。株価が下がるかどうかだけで判断すると、つくった後に評価が思ったように下がらない、維持コストが増える、組織が複雑になる、といったことが起こり得ます。

    この記事では、持株会社をつくる目的を整理したうえで、つくり方ごとの手続と課税、自社株の評価への影響、後継者の取得資金への影響を順に見ていきます。

    持株会社をつくる目的を整理する

    持株会社の目的は、大きく次の4つに分けられます。どれを主な目的にするかで、つくり方も、その後の運営も変わります。

    目的期待すること確認したいこと
    1. 株主の一本化事業会社の株主を持株会社1社にまとめ、意思決定を安定させる持株会社自体の株主構成をどう設計するか
    2. グループ経営の整理複数の事業会社を兄弟会社として並べ、管理・資金配分を一元化する管理コストと、各社の独立性のバランス
    3. 承継の器後継者が持株会社の株式を持つ形で、グループ全体を承継する後継者が持株会社の株式を取得する方法と資金
    4. 資産と事業の分離不動産や余剰資金を持株会社側に置き、事業会社を身軽にする移転時の課税、各社の株価への影響

    「株価対策になると聞いた」という理由だけで設立を急ぐ前に、まずこの表のどれに当てはまるのか、目的を言葉にしておくことが大切です。不動産を中心とした資産管理会社の設立判断との違いは、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。

    持株会社のつくり方と課税

    持株会社のつくり方には、主に次の4つがあります。

    1. 株式移転(持株会社を新しく設立する)

    株式移転とは、既存の事業会社の株主が持つ株式をすべて新設する会社に移し、その対価として新設会社の株式を受け取る手続です。会社法上、事業会社では株主総会の特別決議による承認が必要です(会社法804条1項、309条2項12号)。

    • 株主(個人)の課税:株式移転により新設会社の株式だけを受け取る場合、所得税法上、旧株の譲渡はなかったものとして扱われ、その時点で譲渡所得課税は生じません(所得税法57条の4第2項)。
    • 会社の課税:完全支配関係や支配関係が継続する見込みであるなど、税制適格要件を満たせば、事業会社の資産を時価評価する必要はありません。
    • 資金:新たな資金は不要ですが、オーナーが持株会社の株式を持つ形になるだけで、オーナーの手元に現金は入りません。

    2. 株式交換(既存の会社を親会社にする)

    すでにある会社(たとえばオーナーの資産管理会社)を親会社とし、事業会社をその100%子会社にする方法です。これも原則として株主総会の特別決議が必要です。親会社が事業会社の株式の3分の2以上を直接保有している場合には、少数株主に金銭を交付しても税制適格要件のうち金銭等不交付要件の対象とならない取扱いがあり、少数株主の整理と組み合わせて使われることもあります。

    3. 株式の買取り(持株会社が株式を買う)

    オーナーが設立した持株会社が、オーナーや他の株主から事業会社株式を買い取る方法です。売り手であるオーナーには株式の譲渡所得が生じ、持株会社は買取資金(多くは金融機関からの借入れ)が必要になります。その代わり、オーナーは現金を受け取ることができ、他の家族への財産の配分や納税資金に充てる余地が生まれます。

    4. 会社分割・現物出資(事業を子会社に出す)

    既存の会社の事業を新しい子会社に分割で移し、元の会社を持株会社にする方法です。事業や従業員、契約を移すため、許認可や債権者保護手続などの確認事項が多くなります。

    自社株の評価への影響

    持株会社をつくると、オーナーや後継者が持つ株式は「事業会社の株式」から「持株会社の株式」に置き換わります。相続税・贈与税の計算では、持株会社の株式を財産評価基本通達に従って評価することになり、ここに思わぬ落とし穴があります。

    株式等保有特定会社

    財産評価基本通達では、会社の総資産(相続税評価額ベース)のうち株式等の価額の合計額の割合が50%以上の会社を「株式等保有特定会社」とし、原則として純資産価額方式(またはS1+S2方式)で評価します(財産評価基本通達189(2)、189-3)。持株会社は資産の大部分が子会社株式であることが多いため、この区分に該当しやすく、事業会社の株式を直接持っていた頃に使えた類似業種比準方式が使えなくなる場合があります。

    開業後3年未満の会社

    新しく設立した持株会社は、開業後3年未満の会社として、原則として純資産価額方式で評価されます(財産評価基本通達189(4)、189-4)。設立直後に相続が起きると、評価が想定より高くなることがあります。

    評価差額に対する法人税額等相当額

    純資産価額方式では、資産の含み益(評価差額)に対する法人税額等に相当する金額として38%を控除できます(財産評価基本通達186-2)。この38%は、令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した取引相場のない株式等の評価から適用され、それ以前の取得分は従来の37%です。ただし、株式移転・株式交換などにより著しく低い価額で受け入れた株式については、受入れ時の差額部分をこの控除の対象から外す定めがあります(同通達186-2(2))。株式移転で設立した持株会社では、子会社株式の受入価額の決まり方によって、この定めが影響することがあります。

    株式等保有特定会社の判定や、判定で確認すべきことは、関連記事「土地保有特定会社・株式等保有特定会社とは」で詳しく解説しています。

    後継者の取得資金と、グループ内のお金の流れ

    持株会社が事業会社株式を買い取る方法(つくり方3)は、オーナーの財産を「株式」から「現金」に変え、後継者が持株会社の株式を取得するときの価額を抑える効果が期待される一方、持株会社の借入れが残ります。その返済原資は、事業会社からの配当や経営指導料などになります。

    • 配当:持株会社が100%子会社から受ける配当は、受取配当等の益金不算入の制度により、原則として持株会社で課税されません(法人税法23条1項)。
    • 経営指導料など:持株会社が実際に提供する役務に見合った金額でなければ、税務上問題になり得ます。
    • 返済期間:事業会社の利益水準から見て、無理のない返済計画かを確認します。

    後継者が持株会社の株式を取得する方法(贈与・売買・相続)は、事業会社株式の場合と同じように比較が必要です。後継者に議決権を集める考え方は、関連記事「自社株を後継者に集約する方法」も参考になります。

    つくり方ごとの比較

    比較の観点株式移転株式交換株式の買取り会社分割
    親会社新設既存の会社既存または新設の会社元の会社が親会社になる
    オーナーの手元資金入らない入らない(原則)入る(譲渡所得課税あり)入らない
    親会社の資金負担なしなし(原則)買取資金が必要なし
    主な手続特別決議、登記特別決議、登記株式の譲渡承認など特別決議、債権者保護、労働契約の承継
    評価上の注意開業後3年未満、株式等保有特定会社株式等保有特定会社借入金を含めた純資産、株式等保有特定会社事業を移した子会社の評価区分

    実務上注意したいポイント

    • 持株会社の株主構成を先に決める:持株会社をつくっても、その株主が分散していては目的を果たせません。誰が、どの割合で持株会社の株式を持つのかを先に設計します。
    • 維持コストを見積もる:会社が1社増えれば、決算・申告・登記・役員会の運営などの手間と費用が増えます。
    • 事業承継税制との関係:法人版事業承継税制の利用を検討している場合、持株会社をつくることが要件にどう影響するかを事前に確認する必要があります。
    • 金融機関への説明:既存の借入れの契約や保証の扱いに影響することがあります。
    • 「つくれば下がる」と考えない:評価が下がるかどうかは、子会社の利益・純資産、持株会社の資産構成、設立からの年数によって異なります。

    AEGISの視点

    持株会社は、オーナー企業にとって「承継の器」になり得る仕組みです。しかしAEGISは、持株会社をつくること自体を目的にしないことが大切だと考えています。

    まず問うべきは、「10年後、誰がグループ全体の意思決定を担い、誰がどの財産を引き継いでいるか」です。その姿から逆算して、持株会社が必要か、必要ならどのつくり方が合うかを考えます。たとえば、後継者以外の家族に現金で財産を渡したいなら株式の買取りが候補になり、オーナーの手元資金が不要で株主を一本化したいだけなら株式移転が候補になります。

    また、持株会社は一度つくると簡単には元に戻せません。株価・資金・経営体制・家族への配分という4つの面で、設立前と設立後の姿を並べて比べることが、後悔しない判断につながります。グループの会社が増えすぎた場合の整理の順番は、関連記事「グループ会社を合併や株式交換で整理する」で解説しています。

    持株会社と自社株の評価・承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 持株会社は、株主の一本化、グループ経営の整理、承継の器、資産と事業の分離などの目的があってはじめて効果を発揮します。
    • つくり方には、株式移転・株式交換・株式の買取り・会社分割などがあり、オーナーの手元資金や親会社の資金負担、手続が異なります。
    • 持株会社の株式は、株式等保有特定会社や開業後3年未満の会社として純資産価額方式で評価されることがあり、「つくれば株価が下がる」とは限りません。
    • 買取り方式では、持株会社の借入れの返済原資を事業会社からの配当などで確保する計画が必要です。
    • 具体的な効果や適否は、会社と家族の個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 持株会社をつくると、必ず株価は下がりますか?

    必ず下がるわけではありません。持株会社は株式等保有特定会社に該当しやすく、設立直後は開業後3年未満の会社として純資産価額方式で評価されるのが原則です。子会社の利益や純資産の状況、持株会社の資産構成によって結果は変わるため、設立前に試算することが大切です。

    Q. 株式移転で持株会社をつくると、オーナーに税金はかかりますか?

    株式移転により新設される持株会社の株式だけを受け取る場合は、所得税法の特例により、その時点で譲渡所得の課税は生じません。ただし、金銭などを受け取る場合は扱いが異なるため、対価の内容を確認する必要があります。

    Q. 持株会社と資産管理会社は何が違いますか?

    明確な法律上の区別はありません。一般に、事業会社の株式を持ってグループを統括する会社を持株会社、不動産や金融資産を持って管理する会社を資産管理会社と呼ぶことが多く、1社が両方の役割を担うこともあります。目的によって、評価や運営上の注意点が変わります。

    Q. 持株会社が事業会社の株式を買い取る資金は、どう返済するのですか?

    多くの場合、事業会社からの配当を返済原資にします。100%子会社からの配当は、受取配当等の益金不算入の制度により原則として持株会社では課税されません。返済期間と事業会社の利益水準から、無理のない計画かを確認します。

    Q. 持株会社をつくった後、事業会社を売却することはできますか?

    持株会社が事業会社株式を売却することは可能です。その場合、売却益は持株会社に生じ、オーナー個人が直接売却する場合とは課税関係も手元に残る資金の流れも変わります。将来の売却の可能性があるなら、持株会社をつくる前に比較しておくことが望まれます。

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附などの目的に合う資本設計を検討します。
    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどを比較しながら承継計画を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『サクサクわかる!株主対策の税務』佐藤信祐 著、清文社、2021年、第16章(P.116-125)、第18章(P.132-137)
    • 『組織再編・資本等取引をめぐる税務の基礎(第6版)』牧口晴一・齋藤孝一 著、中央経済社、2024年、第7編(P.630-645)
    • 『新版〔目的別〕組織再編の最適スキーム 法務・会計・税務』貝沼彩・北山雅一・清水博崇・齊藤修一 著、清文社、2020年、第3章3-3(P.169-171)
  • 資産管理会社の解散・清算を考えるとき|手続の流れ、残余財産とみなし配当、不動産の扱い、休眠との比較

    資産管理会社の解散・清算を考えるとき|手続の流れ、残余財産とみなし配当、不動産の扱い、休眠との比較

    資産管理会社は、つくるときよりも閉じるときのほうが論点が見えにくいものです。保有していた不動産を売り終えた、引き継ぐ家族がいない、会社を維持する手間に見合わなくなった。こうした理由で、会社をたたむことを考える場面があります。

    結論から言えば、資産管理会社を閉じるときは、「会社の財産をどう処分するか」と「株主が何をどの形で受け取るか」を、手続より先に決めておくことが重要です。解散・清算では、会社側で財産の処分に伴う課税が生じ、株主側では受け取った残余財産の一部がみなし配当として配当所得になることがあります。不動産をそのまま株主に分配する場合は、会社が時価で手放したものとして扱われる点にも注意が必要です。

    この記事では、解散・清算の手続の流れ、会社と株主それぞれの税務、不動産の扱い、休眠させる場合との比較を、承継の視点を交えて整理します。

    資産管理会社を閉じる選択肢

    会社を「使わなくなった」ときの選択肢は、解散・清算だけではありません。

    選択肢概要主な検討ポイント
    解散・清算会社を解散し、財産を換価・弁済して残りを株主に分配し、法人格を消滅させる会社側の譲渡益課税、株主側のみなし配当、手続の期間と費用
    休眠事業を止めたまま会社を残す申告や地方税の負担、登記の放置によるみなし解散
    存続して承継株式を次世代に移し、会社を使い続ける株式の評価、議決権の集約、管理の担い手
    他の会社との統合合併などで別の会社にまとめる組織再編の税務、繰越欠損金の扱い

    ※AEGISが比較のために作成した整理です。どの選択肢が適するかは、会社の財産・負債・株主構成によって異なります。

    会社の株式を次世代に引き継いで使い続ける選択肢は、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で扱っています。この記事では、主に解散・清算を中心に見ていきます。

    解散・清算の手続の流れ

    株式会社は、株主総会の特別決議によって解散できます(会社法471条3号・309条2項11号)。解散すると、会社は清算の目的の範囲でのみ存続し、清算人が財産の整理を進めます。一般的な流れ(いわゆる通常清算)は次のとおりです。

    段階主な内容
    1. 解散の決議株主総会で解散と清算人の選任を決議する
    2. 解散・清算人の登記法務局へ解散と清算人選任の登記を申請する(登録免許税は解散3万円、清算人選任9千円)
    3. 財産の調査清算人が財産目録と貸借対照表を作成し、株主総会の承認を受ける
    4. 債権者への公告・催告官報で債権の申出を求める公告をし、知れている債権者には個別に催告する(申出期間は2か月以上)
    5. 換価と弁済不動産などの財産を売却・回収し、債務を弁済する
    6. 残余財産の分配残った財産を株主に分配する
    7. 決算報告・結了登記決算報告を株主総会で承認し、清算結了の登記をする(登録免許税2,000円)

    法務局の記載例でも示されているとおり、債権者の申出期間があるため、清算人の就任から2か月以内に清算が終わることはありません。実際には、不動産の売却や税務申告の時期を含めて、少なくとも数か月の期間を見込んでおくことが現実的です。

    会社に債務が多く、財産で弁済しきれないおそれがある場合は、裁判所の監督の下で行う特別清算などの手続が問題になります。この記事では、資産超過の会社の通常清算を前提にしています。

    会社側の税務:清算中も「通常どおり」課税される

    事業年度が区切られる

    事業年度の途中で解散すると、事業年度開始の日から解散の日までが一つの事業年度となり、その後は清算中の事業年度として申告が続きます。申告期限は、解散の日までの事業年度や清算中の事業年度は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内ですが、残余財産が確定した日の属する事業年度は、確定の日の翌日から1か月以内(その期間内に残余財産の最後の分配を行う場合は、その前日まで)と短くなります(法人税法14条・74条)。解散の時期によって、申告の回数と時期が変わる点に注意が必要です。

    財産を処分すれば譲渡益に課税される

    平成22年度の税制改正以降、清算中の事業年度の所得も、通常の事業年度と同じように計算します。そのため、清算の過程で不動産を売却すれば、帳簿価額と売却価額との差額(譲渡益)に法人税等がかかります。長く保有した土地など、含み益の大きい財産を持つ資産管理会社では、この負担が清算の判断に大きく影響します。

    なお、財産で債務を弁済しきれない場合には、期限切れとなった欠損金を損金に算入できる特例もあります。適用の可否は財産と債務の状況によって異なります。

    株主側の税務:残余財産の分配とみなし配当

    清算の最後に、株主は残余財産の分配を受けます。個人株主の場合、受け取った金額のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として配当所得になります(所得税法25条1項4号)。残りの部分は、株式の譲渡があったものとして、取得費との差額が譲渡損益として扱われます。

    受け取った残余財産の内訳個人株主での扱い(概要)
    資本金等の額に対応する部分株式の譲渡収入として、取得費との差額を譲渡損益として扱う
    それを超える部分(会社に蓄積された利益など)みなし配当として配当所得

    非上場株式の配当は、原則として総合課税の対象となり、支払時に20.42%(所得税及び復興特別所得税)の源泉徴収が行われます。配当所得は他の所得と合算して税率が決まるため、会社に長年蓄積された利益を一度に受け取ると、その年の個人の所得税負担が大きくなることがあります。高所得のオーナーほど、この影響を事前に試算しておくことが大切です。

    不動産をどう処分するか:売却か、現物で受け取るか

    資産管理会社の財産の中心が不動産である場合、清算の進め方は大きく二つに分かれます。

    進め方会社側株主側向いている場面
    会社が売却して現金で分配売却益に法人税等現金を受け取り、みなし配当等を計算不動産を手放す方針が決まっている
    不動産を株主に現物で分配時価で譲渡したものとして譲渡益に法人税等不動産を時価で受け取ったものとして、みなし配当等を計算家族が不動産を持ち続けたい

    ここで見落とされやすいのが、現物で分配しても会社の課税はなくならないことです。完全支配関係にある内国法人の間であれば、一定の要件のもとで帳簿価額のまま資産を移転できる「適格現物分配」という制度がありますが、分配を受ける者に個人が含まれる場合は対象になりません。個人株主に不動産を分配すると、会社は時価で譲渡したものとして課税され、株主は時価を基にみなし配当等を計算することになります。

    さらに、不動産を個人で受け取ると、所有権移転の登記費用や不動産取得税などの負担も生じ得ます。現物分配を選ぶ場合は、会社での譲渡益課税、個人でのみなし配当、移転の費用を合わせて、売却した場合と比較することが欠かせません。

    不動産を個人と法人のどちらで持つかという比較は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」の視点を逆向きに当てはめると整理しやすくなります。

    休眠させる場合との比較

    解散・清算の手間と税負担を考え、会社を休眠させて残す選択もあります。ただし、休眠は「何もしなくてよい状態」ではありません。

    • 事業を止めても法人は存続するため、税務申告や地方税の取扱いを確認する必要があります
    • 法務省によれば、最後の登記から12年を経過した株式会社は「休眠会社」として整理作業の対象となり、官報公告から2か月以内に登記や届出をしないと、みなし解散の登記がされます
    • みなし解散の後も3年以内であれば、株主総会の特別決議で会社を継続できますが、登記を怠った代表者には100万円以下の過料が科される可能性があります

    休眠は、将来また会社を使う予定がある場合の一時的な選択肢としては考えられます。一方、使う見込みがないまま残すと、管理の負担と、株式の承継という課題が先送りされることになります。

    承継の視点で考えておきたいこと

    資産管理会社を清算すると、オーナーの財産は「会社の株式」から「現金や不動産」へと形を変えます。この変化は、相続の準備にも影響します。

    • 財産の性質が変わる:株式として評価されていた財産が、現金や不動産として個人の財産になります。相続税の評価や遺産の分け方も変わります。
    • 役員退職金の検討:会社を閉じる前に、長年会社の業務を担った役員に退職金を支払うかどうかも論点です。考え方は関連記事「役員退職金はいつ・いくら支給するか」で扱っています。

    • 清算のタイミング:オーナーの相続が近い時期に清算を進めると、手続の途中で相続が起きる可能性もあります。清算に要する期間を見込み、余裕を持って判断することが大切です。

    実務上注意したいポイント

    • 株主名簿と資本金等の額を確認する:みなし配当の計算には、株主ごとの持株数と、会社の資本金等の額が必要です。古い会社ほど、記録の確認に時間がかかります。
    • オーナーとの貸し借りを整理する:オーナーから会社への貸付金や、会社からオーナーへの貸付金は、清算の過程で弁済・回収する必要があります。
    • 賃貸借契約や借地関係を整理する:入居者との契約や、オーナー個人の土地を会社が借りている関係は、解散前に処理の方針を決めておきます。
    • 複数年で試算する:会社の譲渡益課税、個人のみなし配当、翌年以降の個人の不動産所得まで含めて、数年単位で比較します。

    AEGISの視点

    資産管理会社の相談は、設立の段階に集中しがちです。しかしAEGISは、会社をつくるときに「どう閉じるか」まで想定しておくことが、資産管理会社の設計の一部だと考えています。

    会社を閉じる局面では、会社に蓄積された利益が個人に戻り、不動産の所有者が変わり、家族が受け取る財産の形が変わります。これは税金の問題であると同時に、家族の財産をどう引き継ぐかという承継の問題です。清算するか、休眠させるか、株式のまま引き継ぐかは、オーナー個人の財産全体と家族の意向を見たうえで判断したいところです。

    資産管理会社をいつ、どのような軸で検討するかは、Pillar記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    資産税務や承継に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社を閉じる選択肢には、解散・清算、休眠、存続して承継、他の会社との統合があります。
    • 解散・清算は、解散決議と登記、財産の調査、債権者への公告・催告(2か月以上)、換価と弁済、残余財産の分配、結了登記の順に進みます。
    • 清算中も会社の所得は通常どおり計算され、不動産を売却すれば譲渡益に課税されます。
    • 個人株主が受け取る残余財産のうち、資本金等の額を超える部分はみなし配当として配当所得になります。
    • 不動産を現物で分配しても会社の譲渡益課税はなくならないため、売却する場合と合わせて比較が必要です。
    • 具体的な取扱いは、会社の財産・負債・株主構成など個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社の解散から清算結了まで、どのくらいの期間がかかりますか?

    債権者への公告の期間が2か月以上必要なため、清算人の就任から2か月以内に清算が終わることはありません。不動産の売却や債務の弁済、税務申告の時期によって、少なくとも数か月を見込んでおくことが現実的です。

    Q. 残余財産を受け取ると、必ず税金がかかりますか?

    個人株主の場合、受け取った額のうち資本金等の額を超える部分はみなし配当として配当所得になります。会社に利益が蓄積されていれば、多くの場合に課税が生じます。株式の取得費との関係で譲渡損益も生じるため、事前に試算しておくことをおすすめします。

    Q. 会社の不動産を、売らずに家族が受け取ることはできますか?

    残余財産として不動産を株主に分配することは可能です。ただし、個人株主への分配は会社が時価で譲渡したものとして扱われ、会社に譲渡益課税が生じます。株主側でもみなし配当等の計算が必要で、登記費用や不動産取得税などもかかり得ます。

    Q. 解散せずに休眠させておけば、費用はかかりませんか?

    休眠中も法人は存続するため、税務申告や地方税の取扱いを確認する必要があります。また、最後の登記から12年を経過すると、休眠会社として整理作業の対象となり、みなし解散の登記がされることがあります。

    Q. オーナーが亡くなった後に、相続人が会社を清算することもできますか?

    株式を相続した相続人が株主として解散を決議し、清算を進めることは可能です。ただし、相続税の申告・納税と清算の手続が重なり、判断の時間も限られます。会社をどうするかは、オーナー自身が元気なうちに方針を決めておくことが望まれます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『組織再編税制大全』佐藤信祐 著、清文社(2023年)、第11章「解散及び清算」P.755-768
    • 『現物分配制度の実務詳解―法務・税務・会計上の取扱いと活用法』勝間田学ほか 著、中央経済社(2012年)、第Ⅰ部第4章「清算」P.76-89、第Ⅱ部第2章「現物分配の定義と適格要件」P.100-113
  • 家族を資産管理会社の役員にするときの報酬|職務の実態・金額の決め方・社会保険と扶養への影響

    家族を資産管理会社の役員にするときの報酬|職務の実態・金額の決め方・社会保険と扶養への影響

    資産管理会社をつくると、配偶者や子を役員にして報酬を支払う設計がよく検討されます。不動産から生じる収益を家族に分けることで、家族全体の税負担を抑え、家族それぞれの手元に資金を蓄えられるからです。

    ただし、家族への役員報酬は「家族だから払える」ものではなく、「その人が会社のために担っている職務の対価」として説明できる必要があります。役員報酬のうち職務の内容などに照らして不相当に高額な部分は、会社の損金に算入されません。また、報酬を受け取った家族の社会保険の扶養や、オーナー本人の配偶者控除にも影響が及びます。

    この記事では、家族を資産管理会社の役員にするときに、職務の実態をどう整え、金額をどう決め、社会保険や扶養への影響をどう確認するかを整理します。

    役員報酬が損金になるための前提

    まず、法人税の基本的な仕組みを確認しておきます。国税庁によれば、役員に支給する給与のうち会社の損金に算入されるのは、主に次の3つの類型です。

    類型概要資産管理会社での使われ方
    定期同額給与1か月以下の一定期間ごとに、同額を支給する給与毎月の役員報酬として最も一般的
    事前確定届出給与あらかじめ時期と金額を定め、届け出たとおりに支給する給与役員賞与を支給する場合
    業績連動給与利益などの指標に連動する給与で、一定の要件を満たすもの同族会社は、同族会社以外の法人との間にその法人による完全支配関係があるものに限り対象となり、同族会社の資産管理会社では使える場面が限られる

    さらに、これらの類型に当てはまる給与であっても、不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません。家族役員の報酬で問われるのは、主にこの「不相当に高額かどうか」です。

    なお、役員報酬・配当・内部留保の全体的な考え方は、関連記事「役員報酬・配当・内部留保の考え方」で扱っています。

    「不相当に高額」はどう判断されるか

    役員報酬が過大かどうかは、大きく二つの基準で判定されます(法人税法34条2項、法人税法施行令70条1号)。いずれか多い金額が「不相当に高額な部分」として損金に算入されません。

    • 形式基準:定款や株主総会の決議で定めた役員報酬の限度額(または算定方法)を超えていないか
    • 実質基準:その役員の職務の内容、会社の収益や使用人に対する給与の支給状況、同種・同規模の法人の役員報酬の状況などに照らして、職務の対価として相当な額を超えていないか

    資産管理会社の家族役員で特に重要なのは、実質基準です。たとえば、物件の管理を外部の管理会社にほぼ任せていて、家族役員の業務が月に数回の書類確認にとどまる場合、常勤の役員と同じ水準の報酬を支払えば、職務の内容との釣り合いを説明することは難しくなります。

    専門書でも、同業他社の水準を把握しておくことに加え、その会社自身が、役員の職務内容や貢献を具体的に示せるようにしておくことが重要だと指摘されています。会社の内情を最もよく知っているのは会社自身だからです。

    役員でない家族への給与にも注意

    家族を役員にせず、従業員として給与を支払う場合も同じ問題があります。役員の親族、役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者、役員から生計の支援を受けている者(特殊関係使用人)に支払う給与のうち、不相当に高額な部分は損金に算入されない仕組みがあり(法人税法36条、法人税法施行令72条)、国税庁の法人税基本通達では、その範囲に関わる「生計の支援を受けているもの」などの解釈が示されています。役員か従業員かにかかわらず、家族への報酬・給与には算定の根拠が求められると考えておくのが安全です。

    また、取締役に就任していなくても、会社の経営に実質的に従事している人は、税務上は役員として扱われることがあります(法人税基本通達9-2-1では、相談役や顧問などで実質的に経営に従事している者が例示されています)。肩書きではなく、実際の関わり方で判断される点に注意が必要です。

    職務の実態をどう整え、どう記録するか

    家族役員の報酬の根拠は、「誰が、何を、どのくらい担っているか」です。AEGISでは、報酬を決める前に、職務を次のように書き出すことをおすすめしています。

    家族役員の例担う職務の例残しておきたい記録の例
    配偶者(常勤に近い関与)賃料の入金確認と督促、入居者対応、修繕業者への発注、月次の収支管理業務日誌、入金管理表、発注書、月次報告書
    子(他に勤務先あり)年に数回の取締役会での意思決定、物件の現地確認、資金計画の検討取締役会議事録、現地確認の報告、検討資料
    高齢の親(引継ぎ期間)長年の管理の知見の引継ぎ、主要な取引先との関係の維持引継ぎの記録、面談記録

    ※上記は職務と記録の考え方を示す例です。報酬の水準は、職務の量と内容、会社の収益などを踏まえて個別に検討します。

    ポイントは、職務の量に応じて報酬に差をつけることです。家族全員に同じ額を支払う設計は、職務の違いを説明しにくくなります。また、資産管理会社が受け取る管理料と、家族役員の報酬はつながっています。管理料の根拠となる業務を、実際に家族役員が担っているかも確認したいところです。管理料の考え方は、関連記事「資産管理会社に管理を任せるときの管理料」で扱っています。

    定期同額給与の運用で気をつけたいこと

    毎月の役員報酬を定期同額給与として支払う場合、事業年度の途中で金額を自由に変えることはできません。国税庁によれば、改定が認められるのは、主に次の場合です。

    • 事業年度開始の日から3か月以内の改定
    • 役員の職制上の地位の変更や職務内容の重大な変更などによる改定(臨時改定事由)
    • 経営状況が著しく悪化したことなどによる減額(業績悪化改定事由)

    資産管理会社では、「今年は利益が多く出たので、期末に家族の報酬を上げる」といった運用は、損金算入の要件から外れるおそれがあります。報酬額は、期首に1年間の収支見込みを立てたうえで決め、株主総会などの決議を記録に残すことが基本です。

    社会保険への影響

    見落とされやすいのが社会保険です。日本年金機構によれば、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。資産管理会社も、役員に報酬を支払う形をとれば、社会保険の手続が必要になる可能性があります。役員が被保険者になるかどうかは、勤務の実態や報酬の内容によって判断されます。

    家族が、オーナー本人や他の家族の健康保険の被扶養者になっている場合は、特に注意が必要です。日本年金機構の案内では、被扶養者として認定される収入の基準は、原則として年間収入130万円未満(60歳以上または一定の障害のある方は180万円未満)で、同居の場合は被保険者の収入の半分未満、別居の場合は被保険者からの仕送り額未満であることなどとされています。19歳以上23歳未満の人(被保険者の配偶者を除く)については、令和7年10月1日以降の認定から150万円未満の基準が示されています。また、令和8年4月1日以降は、一定の条件を満たす場合に、労働契約の内容から見込まれる年間収入で判定する取扱いも示されています。

    確認したいこと影響の例
    家族が被扶養者になっているか役員報酬により基準を超えると、扶養から外れ、自ら保険料を負担する可能性
    配偶者が国民年金の第3号被保険者か被扶養配偶者でなくなると、第3号被保険者の資格にも影響
    家族に他の勤務先があるか勤務先での加入状況と、資産管理会社での加入の要否の整理

    ※社会保険の取扱いは、勤務の実態や報酬の額によって判断されます。設計の段階で確認してから報酬額を決める順番が安全です。

    所得税の扶養・配偶者控除への影響

    オーナー本人の所得税にも影響があります。国税庁によれば、令和8年分以降、配偶者控除の対象となる配偶者は、年間の合計所得金額が62万円以下(給与のみの場合は給与収入136万円以下)であることなどが要件です。また、控除を受けるオーナー本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除は適用されません。

    配偶者に役員報酬を支払えば、配偶者の所得が増える一方で、オーナー本人の配偶者控除などが使えなくなる場合があります。家族全体で見たときに、手取りと負担がどう変わるかを、社会保険とあわせて試算することが大切です。

    実務上注意したいポイント

    • 名目だけの役員にしない:登記上は役員でも、会社の業務にまったく関与していない場合、報酬の根拠を説明することは困難です。
    • 報酬は本人が受け取り、本人が管理する:家族役員の報酬が実際には本人の口座に入らない、あるいは本人が自由に使えない状態では、報酬としての実態が疑われかねません。
    • 定款・株主総会での限度額を確認する:形式基準との関係で、役員報酬の総額の限度額を定めている場合は、その範囲内であるかを確認します。
    • 将来の退職金も視野に入れる:長く会社の業務を担う家族役員には、将来の退職金も検討対象になります。在任期間や職務の記録は、その根拠にもなります。
    • 勤務先の規定を確認する:家族が会社員などの場合、勤務先の兼業規定との関係も確認します。給与所得者が資産管理会社をつくる場合の論点は、関連記事「会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に」で整理しています。

    AEGISの視点

    家族への役員報酬は、資産管理会社の効果を説明するときによく挙げられる要素です。しかしAEGISは、これを「所得を分ける手段」としてではなく、「家族が資産の管理に参加する仕組み」として設計することが大切だと考えています。

    家族が実際に賃料の管理や修繕の判断に関わり、その職務に見合った報酬を受け取る。そうした積み重ねは、報酬の根拠を明確にするだけでなく、オーナーが一線を退いたときに家族が資産を引き継ぎ、管理を続けていくための準備にもなります。反対に、名目だけの役員に報酬を払い続けると、税務の説明が難しくなるうえ、いざというときに資産の状況を理解している家族がいないという事態にもなりかねません。

    報酬額は、税負担だけでなく、家族の社会保険や扶養、将来の承継まで含めて決めるもの。そのためにも、まず職務を書き出すところから始めることをおすすめします。資産管理会社をいつ、どのような軸で検討するかは、Pillar記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    まとめ

    • 家族への役員報酬は、その人が担う職務の対価として説明できることが前提です。
    • 役員報酬は定期同額給与などの類型に当てはまる必要があり、職務の内容などに照らして不相当に高額な部分は損金に算入されません。
    • 役員でない家族への給与や、肩書きのない実質的な経営者への支払にも、同様の考え方が及ぶことがあります。
    • 職務の内容を書き出し、職務の量に応じて報酬に差をつけ、日常の記録を残すことが基本です。
    • 報酬により、家族の社会保険の被扶養者の資格や、オーナー本人の配偶者控除に影響が出ることがあります。
    • 具体的な取扱いは、職務の実態や家族の状況など個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 家族役員の報酬は、いくらまでなら問題ありませんか?

    一律の上限はありません。役員の職務の内容、会社の収益、使用人の給与の状況、同種・同規模の法人の役員報酬の水準などに照らして、職務の対価として相当かどうかで判断されます。金額から決めるのではなく、職務の内容から説明できる額にすることが大切です。

    Q. 業務をしていない家族に、少額の役員報酬を払うことはできますか?

    少額であっても、職務の実態がなければ報酬の根拠は説明しにくくなります。年に数回の取締役会での意思決定など、役員としての職務を実際に担っているかを確認し、その内容に見合った額にすることが基本です。

    Q. 期の途中で家族役員の報酬を増やすことはできますか?

    定期同額給与の改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行う必要があります。職務内容の重大な変更などの臨時改定事由がない限り、期の途中で増額すると、増額分が損金に算入されないおそれがあります。

    Q. 配偶者に役員報酬を払うと、扶養から外れますか?

    健康保険の被扶養者の基準は、原則として年間収入130万円未満(60歳以上または一定の障害のある方は180万円未満)などとされています。役員報酬によって基準を超えると、被扶養者から外れる可能性があります。所得税の配偶者控除の要件も別にあるため、両方を確認することが大切です。

    Q. 子どもが学生でも、役員にして報酬を払えますか?

    役員に就任すること自体は可能ですが、学業と両立しながら担える職務の内容と量を具体的に示せるかが問われます。報酬額によっては、親の扶養控除や健康保険の被扶養者の資格にも影響するため、慎重な検討が必要です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『新版 税務調査事例からみる役員給与実務Q&A』安部和彦 著、清文社(2016年)、第2章 Q2-7(P.32-35)、Q2-46・Q2-47(P.178-184)、Q2-59(P.224-227)