カテゴリー: 資産管理会社

個人と法人の資産・資金、維持費、税務、株式承継の論点を解説します。

  • 会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に|勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬・借入れの5つの確認点

    会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に|勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬・借入れの5つの確認点

    勤務先から給与を受けている会社員や勤務医でも、資産管理会社を設立すること自体は可能です。高い給与所得に不動産収入などが上乗せされ、所得税の累進税率が重くなってきた方が、法人化を検討するのは自然な流れといえます。

    ただし、給与所得者の場合は、自ら事業を営むオーナーとは前提が違います。本業の勤務先には就業規則があり、社会保険にはすでに加入しており、借入れの審査では「勤務先からの給与」が信用の土台になっています。こうした事情を確認しないまま会社をつくると、税金以外のところで思わぬ制約にぶつかることがあります。

    この記事では、給与所得者が資産管理会社をつくる前に確認したい論点を、勤務先の規定・家族役員・社会保険・役員報酬と確定申告・法人での借入れの5つに絞って整理します。

    給与所得者にとって、資産管理会社で変わるもの・変わらないもの

    最初に押さえておきたいのは、資産管理会社に移せるのは「資産から生じる所得」であり、本業の給与は移せないという点です。勤務先から受ける給与は、会社をつくっても引き続き本人の給与所得として課税されます。

    資産管理会社が検討される主な理由は、次のように整理できます。

    • 税率構造の違い:所得税は課税所得が増えるほど税率が上がる超過累進税率で、最高税率は45%です(国税庁 No.2260)。一方、中小法人の法人税は、所得のうち年800万円以下の部分と超える部分で税率が分かれる仕組みです(国税庁 No.5759)。
    • 所得の行き先を分けられる:不動産収入などを会社に帰属させれば、その所得は本人の給与所得に上乗せされなくなります。
    • 家族への配分と財産の蓄積先:会社から家族に役員報酬を支払ったり、利益を会社に留めたりすることで、本人個人に財産が積み上がるスピードを調整できます。

    一方で、給与所得者ならではの「失うもの」もあります。たとえば、個人で保有する賃貸不動産の不動産所得が赤字になった場合、その損失は原則として給与所得などと損益通算できます(土地を取得するための借入金の利子に相当する部分は除かれます。国税庁 No.2250)。会社で保有すると、会社の赤字は会社の中にとどまり、本人の給与所得とは通算できません。購入初期に赤字が出やすい物件を個人で持つか会社で持つかは、この点も含めて比べる必要があります。損益通算の考え方は、関連記事「高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいこと」で詳しく扱っています。

    比べる項目個人で保有する場合資産管理会社で保有する場合
    資産からの所得給与所得と合算され、累進税率で課税会社の所得として法人税等で課税
    赤字が出た場合原則として給与所得と損益通算できる(例外あり)会社の中で処理され、本人の給与とは通算できない
    家族への配分贈与などの方法に限られる職務の実態に応じた役員報酬などで配分できる
    本人の手続確定申告で不動産所得を申告会社の決算・申告に加え、本人の申告内容も変わり得る
    勤務先との関係一般に不動産賃貸の規模・態様が論点役員就任や報酬受領が副業・兼業の規定に触れないかが論点
    承継不動産そのものを相続・贈与会社の株式を相続・贈与

    ※上記は一般的な整理です。具体的な有利・不利は、所得の水準、物件の収支、家族構成によって変わります。

    資産管理会社の設立を検討すべきタイミングや比較の軸の全体像は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。本記事は、そのうち給与所得者に固有の論点に絞っています。

    確認点1:勤務先の就業規則と副業・兼業の扱い

    最初に確認したいのは、勤務先の就業規則や服務規程です。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、労働時間以外の時間をどう使うかは基本的には労働者の自由であるとしたうえで、会社が副業・兼業を制限できる場合として、次のようなケースを挙げています。

    • 本業への労務提供に支障がある場合
    • 業務上の秘密が漏れる場合
    • 競業により勤務先の利益が害される場合
    • 勤務先の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

    ガイドラインは、雇用されて働く形だけでなく、起業や役員への就任など、労働基準法が適用されない形の副業・兼業も視野に入れています。また、会社が副業・兼業について届出制を設けることが望ましいとしています。

    資産管理会社の場合、確認したいのは次のような点です。

    • 役員就任の扱い:就業規則で、他社の役員に就くことが届出制か許可制か、あるいは制限されているか
    • 株主になるだけの場合:出資して株主になるだけなのか、役員として業務を執行するのかで、規程上の扱いが異なることがあります
    • 競業の可能性:勤務先が不動産・金融関連の業種である場合、会社の事業目的や取引先が勤務先と重ならないか
    • 公的な勤務先の場合:公務員は、営利企業の役員を兼ねることや報酬を得て他の事業に従事することが法律で制限され、承認・許可が必要とされています(国家公務員法103条・104条、地方公務員法38条)。公的な医療機関に勤務する場合も、法令や勤務先の規程に基づく別の制限があるため、個別に確認が必要です

    本人が役員に就けない場合に、家族だけを役員にする設計も考えられます。ただし、実際の意思決定を本人が行い、家族は名義だけという状態では、会社の実態や家族への報酬の妥当性が問われかねません。

    確認点2:家族を役員にするときは「職務の実態」を先に決める

    給与所得者が資産管理会社をつくる場合、配偶者や親などの家族を役員にして、会社から報酬を支払う設計がよく検討されます。所得を家族に分けることで、家族全体の税負担を抑え、家族の手元に将来の納税資金を蓄える効果が期待されるからです。

    ただし、役員報酬が会社の損金になるには、定期同額給与などの要件を満たす必要があり、職務の内容などに照らして不相当に高額な部分は損金に算入されません(国税庁 No.5211)。定期同額給与の額の改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行うことが求められます。

    家族を役員にする前に、次の点を言葉にしておくことをおすすめします。

    • 誰が、どの業務(物件の管理、入居者や管理会社とのやり取り、資金管理、帳簿の確認など)を担うのか
    • 報酬の水準は、その業務の内容と量に見合っているか
    • 家族が他に勤務先を持つ場合、その勤務先の規定や、扶養の範囲などに影響しないか

    家族役員の報酬設計は、関連記事「家族を資産管理会社の役員にするときの報酬」で詳しく扱います。

    確認点3:社会保険は「二つ目の勤務先」として扱われる

    見落とされやすいのが社会保険です。日本年金機構によれば、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所とされています。つまり、資産管理会社も、役員に報酬を支払う形をとれば、社会保険の手続が必要になる可能性があります。

    本人が勤務先で社会保険に加入したまま、資産管理会社からも役員報酬を受ける場合は、二つの事業所で被保険者となる形になり得ます。厚生労働省のガイドラインでは、複数の事業所で被保険者の要件を満たす場合、いずれかの保険者を選択し、各事業所の報酬に応じて保険料を按分する仕組みが示されています。資産管理会社からの報酬を増やすと、本業の勤務先にも影響が及ぶ手続が生じ得るということです。

    設計の例社会保険で確認したいこと
    本人も家族も報酬なし会社に利益が残る一方、個人への資金配分の手段が限られる
    家族のみに報酬家族の加入の要否と、家族の他の勤務先・扶養への影響
    本人にも報酬本業との二以上の事業所勤務の手続と、保険料負担の増減

    社会保険の加入要件や手続は、役員の勤務の実態や報酬の額によって判断されます。設計の段階で、社会保険の取扱いを確認してから報酬額を決める順番が安全です。

    確認点4:役員報酬と確定申告の関係を整理する

    給与所得者は、通常は勤務先の年末調整で手続が完結しています。しかし資産管理会社をつくると、本人の申告が変わることがあります。国税庁 No.1900では、給与所得者でも確定申告が必要になる場合として、次のようなケースが示されています。

    • 給与の年間収入金額が2,000万円を超える場合
    • 2か所以上から給与を受けていて、年末調整されなかった給与の収入金額と、給与所得・退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超える場合
    • 同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている場合

    最後の点は、資産管理会社と本人の間で、土地や建物を貸したり、お金を貸したりするケースで関係します。会社をつくったからといって、本人の申告の手間がなくなるわけではありません。

    また、会社から本人に役員報酬を支払うと、その報酬は本業の給与と合わせて給与所得として課税されます。会社に移した所得を、報酬として本人に戻しすぎると、累進税率の負担が元に戻ることになります。会社に残す金額、家族に配分する金額、本人が受け取る金額のバランスを、数年単位で試算して決めることが大切です。高所得者の所得の種類ごとの税金のかかり方は、関連記事「高所得者の所得税・住民税の全体像」で整理しています。

    確認点5:法人での借入れは「個人の信用」とセットで考える

    給与所得者が不動産を取得するとき、融資の審査では勤務先や給与の安定性が重視されることが多いといわれます。設立したばかりの資産管理会社には事業の実績がないため、会社名義で借り入れる場合でも、本人の収入や資産、本人による保証が審査の前提となることが一般的です。

    借入れについては、次の点を事前に確認しておきたいところです。

    • 会社名義の借入れに、本人が保証人となる場合の範囲と期間
    • 個人名義の借入れが残っている場合、会社での新たな借入れとの関係
    • 将来、転職や独立、勤務先の退職などで本人の収入が変わった場合の影響
    • 会社と本人の間でお金を貸し借りする場合の契約・利息・返済の取り決め

    最後の点は、会社と個人の資金の境界にかかわる論点です。考え方は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 設立の順番:すでに個人で保有する不動産を会社へ移す場合は、移転時の譲渡所得課税や登録免許税・不動産取得税などがかかります。新たに取得する物件から会社で持つのか、既存の物件も移すのかを、先に決めておきます。
    • 土地の貸し借り:本人が土地を持ち、会社が建物を持つ形では、個人と法人の間の土地の貸し借りに借地権の課税の問題が生じます。法人が関わる貸し借りでは、個人間のような使用貸借の考え方がそのままは通用しない点に注意が必要です。
    • 会社の実態:管理の業務を誰がどう担っているか、会社の帳簿や契約が整っているかは、報酬や取引の妥当性を説明する土台になります。
    • 維持の負担:会社には、決算・申告や登記などの維持費用が毎年かかります。所得の規模に対して負担が見合うかを確認します。

    AEGISの視点

    給与所得者の資産管理会社は、「税率の差」から語られることがほとんどです。しかしAEGISは、給与所得者にとっての本当の論点は、本業のキャリアと、資産の保有形態と、家族の役割をどう両立させるかにあると考えています。

    勤務先の規定や社会保険は、税金の計算には現れませんが、一度設計した会社の形を後から変えるのは簡単ではありません。役員構成や報酬の設計を変えると、手続や家族の働き方にも影響が及びます。さらに、資産管理会社の株式は将来、相続や贈与の対象になります。いま誰が株主になり、誰が役員を務めるかは、10年後・20年後の承継の形にもつながります。

    そのため、資産管理会社をつくるかどうかを決める前に、①本業で今後どのような働き方をしていくか、②家族の誰がどこまで関わるか、③不動産をどの規模まで持つか、の3点を先に話し合っておくことをおすすめします。会社は、その答えを実現するための器として設計するのが順番だと考えています。

    まとめ

    • 給与所得者でも資産管理会社はつくれますが、会社に移せるのは資産から生じる所得で、本業の給与は移せません。
    • 個人保有なら不動産所得の赤字を給与所得と損益通算できる場合がありますが、会社で保有するとその効果はなくなります。
    • 勤務先の副業・兼業の規定(役員就任・競業など)を最初に確認します。
    • 家族を役員にする場合は、職務の実態と報酬水準の妥当性を先に決めます。
    • 役員報酬を支払うと、社会保険の手続や本人の確定申告にも影響が生じ得ます。
    • 法人での借入れは、本人の信用や保証とセットで考える必要があります。具体的な判断は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 会社員が資産管理会社の役員になると、副業禁止の規定に違反しますか?

    一概には言えません。勤務先の就業規則で、他社の役員就任をどう扱っているか(届出制・許可制・制限など)によって異なります。厚生労働省のガイドラインでは、副業・兼業は原則として自由とされつつ、本業への支障や競業、秘密の漏洩などがある場合は制限できるとされています。まずは勤務先の規程を確認することが出発点です。

    Q. 自分は役員にならず、配偶者だけを役員にすれば問題ありませんか?

    勤務先の規定上の問題は小さくなる可能性がありますが、配偶者が実際に会社の業務を担っていることが前提です。意思決定を本人が行い、配偶者は名義だけという状態では、役員報酬の妥当性や会社の実態が問われるおそれがあります。

    Q. 資産管理会社から役員報酬を受け取ると、社会保険はどうなりますか?

    法人の事業所は社会保険の強制適用事業所とされているため、役員報酬の支払いに伴って加入の要否を確認する必要があります。本業の勤務先と合わせて二つの事業所で被保険者となる場合は、保険者の選択や保険料の按分などの手続が生じ得ます。報酬額を決める前に確認しておくことをおすすめします。

    Q. 勤務医が資産管理会社をつくる場合に、特に注意することはありますか?

    基本的な論点は会社員と同じですが、勤務先が公的な医療機関である場合は、兼業に関する法令や規程による制限がないかを個別に確認する必要があります。また、勤務医は給与水準が高く、会社から本人に報酬を戻すと累進税率の負担が大きくなりやすいため、会社に残す金額と家族への配分のバランスが重要になります。

    Q. 不動産を購入してから会社をつくるのと、会社をつくってから購入するのとでは、どちらがよいですか?

    すでに個人で取得した不動産を会社へ移すと、移転時に譲渡所得の課税や登録免許税・不動産取得税などがかかります。今後取得する物件を会社で持つ方針であれば、取得前に会社の設計を済ませておくほうが、移転の負担を避けやすくなります。ただし、購入初期の赤字を給与所得と通算したい場合など、個人で持つ理由がある物件もあるため、物件ごとに比べることが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、第Ⅰ部第2章 P.85-87、P.92-93
    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、第4編 P.218、P.229-230
  • 土地保有特定会社・株式等保有特定会社とは|資産管理会社の株価が高くなりやすい理由と、判定で確認すべきこと

    土地保有特定会社・株式等保有特定会社とは|資産管理会社の株価が高くなりやすい理由と、判定で確認すべきこと

    資産管理会社の株式を評価すると、「思っていたより株価が高い」と感じることがあります。その大きな理由の一つが、特定の評価会社という区分です。

    土地保有特定会社・株式等保有特定会社とは、相続税・贈与税で非上場株式を評価するときに、総資産に占める土地等や株式等の割合が一定以上の会社を、一般の会社とは別に扱う区分です。財産評価基本通達189に定められています。これらに当たると、上場会社の株価と比べる「類似業種比準方式」を使えず、原則として会社の財産の価値を積み上げる「純資産価額方式」で評価されます。

    資産の大半が不動産や有価証券である資産管理会社は、まさにこの区分に当たりやすい会社です。この記事では、判定の基準、評価方法、判定を左右する要因を整理し、オーナーが何を確認すべきかを解説します。

    特定の評価会社とは

    非上場株式(取引相場のない株式)は、原則として、会社を規模に応じて大会社・中会社・小会社に区分し、類似業種比準方式、純資産価額方式、またはその併用で評価します(国税庁 No.4638)。評価方法の全体像は、関連記事「非上場株式の評価方法をどう検討するか」で解説しています。

    ただし、資産の構成や営業の状況が一般の会社と大きく異なる会社に、上場会社との比較を前提とする方式をそのまま当てはめると、適正な評価にならないおそれがあります。そこで財産評価基本通達189は、次の6つを「特定の評価会社」として定め、それぞれに評価方法を設けています。

    1. 比準要素数1の会社
    2. 株式等保有特定会社
    3. 土地保有特定会社
    4. 開業後3年未満の会社等(比準要素数0の会社を含む)
    5. 開業前又は休業中の会社
    6. 清算中の会社

    複数に当たる場合は、番号が後のものが優先されるとされています。資産管理会社で特に問題になるのが、2と3です。設立して間もない資産管理会社であれば、4に当たることもあります。

    土地保有特定会社の判定基準

    土地保有特定会社は、会社の各資産を財産評価基本通達で評価した価額(相続税評価額)の合計のうち、土地等の価額の合計が占める割合(土地保有割合)で判定します。土地等には、土地のほか借地権など土地の上に存する権利も含まれます。

    判定の基準は、会社の規模によって異なります。

    会社の規模土地保有割合
    大会社70%以上
    中会社90%以上
    小会社のうち、総資産価額(帳簿価額)が卸売業20億円以上、それ以外の業種15億円以上70%以上
    小会社のうち、総資産価額(帳簿価額)が卸売業7,000万円以上、小売・サービス業4,000万円以上、それ以外の業種5,000万円以上(上の行に当たらないもの)90%以上
    上記以外の小会社該当しない

    ※財産評価基本通達189(3)をもとにAEGISが整理。会社規模は通達178の区分によります。

    ここで押さえておきたいのは、割合の計算は相続税評価額で行う一方、小会社の基準額は帳簿価額で判定するという点です。路線価が上がれば土地保有割合も上がりますし、帳簿上の総資産が基準額を下回る小規模な会社は、土地の割合が高くても土地保有特定会社には当たりません。

    また、判定の基礎となる土地等は、保有目的や期間を問わず会社が持つすべての土地等が対象とされています。販売用の土地(たな卸資産)も含まれます。

    株式等保有特定会社の判定基準

    株式等保有特定会社は、相続税評価額で計算した総資産のうち、株式等の価額の合計が占める割合が50%以上の会社です。土地保有特定会社と異なり、会社の規模にかかわらず一律の基準です。

    ここでいう株式等は、株式、出資および新株予約権付社債で、所有目的や所有期間を問いません。国税庁の質疑応答事例では、外国株式や株式制のゴルフ会員権、証券会社が商品として保有する株式は含まれる一方、証券投資信託の受益証券や匿名組合の出資は含まれないとされています。また、専門書籍の解説では、上場不動産投資信託(会社型)の投資口は含まれるとする整理が示されています。

    株式等保有特定会社になりやすいのは、次のような資産管理会社です。

    • オーナーが経営する事業会社の株式を保有している(いわゆる持株会社型)
    • 上場株式などの金融資産を会社で運用している
    • 不動産を売却して、その資金で有価証券を保有している

    当てはまると、どのように評価されるか

    区分同族株主等が取得する場合同族株主等以外が取得する場合
    土地保有特定会社純資産価額方式配当還元方式
    株式等保有特定会社純資産価額方式(納税者の選択によりS1+S2方式も可)配当還元方式
    開業後3年未満の会社等純資産価額方式配当還元方式

    ※財産評価基本通達189-3・189-4、国税庁 No.4638 をもとにAEGISが整理。

    S1+S2方式とは、会社が持つ株式等とその配当がなかったものとして、会社の規模に応じた原則的な方法で評価した部分(S1)と、株式等だけを純資産価額方式に準じて評価した部分(S2)を合計する方法です。事業の実態がある会社について、その部分に類似業種比準方式の考え方を反映させる趣旨と考えられます。

    純資産価額方式では、会社の資産と負債を相続税評価額に置き換えて1株あたりの価額を計算します。その際、次の点が評価額に影響します。

    • 評価差額に対する法人税額等相当額の控除:相続税評価額と帳簿価額の差(含み益)に一定割合を掛けた金額を差し引きます。国税庁の現行の財産評価基本通達186-2では、この割合は38%とされています(防衛特別法人税を含む税率の合計に相当する割合)。
    • 3年以内に取得した不動産:会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地等や家屋等は、路線価などではなく、課税時期の通常の取引価額に相当する金額で評価します(同185)。
    • 議決権割合50%以下の場合:株式の取得者とその同族関係者の議決権の合計が50%以下であれば、純資産価額の80%で評価します(同185)。

    法人税等の税率の変更が法人税額等相当額の割合にどう反映されているかは、関連記事「防衛特別法人税は中小企業にどう影響するか」もあわせてご覧ください。

    資産管理会社の株価が高くなりやすい理由

    一般の事業会社では、類似業種比準方式の比重が大きいと、会社の利益や配当の水準が株価に強く反映されます。これに対して特定の評価会社は、原則として純資産価額で評価されるため、会社が持つ財産の相続税評価額がほぼそのまま株価に表れます。

    資産管理会社は、もともと賃貸収入から生じた利益を会社に蓄積していく仕組みです。不動産や預金、有価証券が積み上がるほど純資産が増え、特定の評価会社に当たればそれがそのまま株価に反映されます。さらに、会社で不動産を取得した直後は、上記の3年ルールにより通常の取引価額で評価されるため、取得による評価の引下げ効果も限られます。

    なお、国税庁は2026年4月から有識者会議で取引相場のない株式の評価方法の見直しを検討しており、第6回会議の資料では、土地保有特定会社と株式等保有特定会社を「資産管理会社」に整理し、有価証券や賃貸不動産、現預金などの特定資産の割合(帳簿価額ベース)で判定して純資産価額方式で評価する案が論点として示されています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、今後の改正に注意が必要です。

    判定が変わる主な要因

    土地保有割合や株式等保有割合は、日々の資産の動きで変わります。判定に影響する要因を整理すると、次のとおりです。

    要因判定への影響の方向確認したいこと
    不動産の取得・売却土地保有割合が上下する取得後3年以内の評価、売却代金の使い道
    事業会社株式・有価証券の保有株式等保有割合が上がる持株会社としての役割、配当の流れ
    現預金の増減割合の分母が変わる納税資金・修繕資金としての必要額
    路線価・株価の変動相続税評価額ベースの割合が動く毎年の評価額の推移
    会社規模区分の変化判定基準(70%・90%)が変わる従業員数・取引金額・総資産(帳簿価額)
    設立からの年数・比準要素開業後3年未満等に該当するか設立日、配当・利益・純資産の状況

    ※AEGISが判定の考え方を整理したものです。

    判定を免れるための資産の組替えは否認され得る

    財産評価基本通達189は、課税時期前に合理的な理由もなく資産構成を変動させ、それが株式等保有特定会社や土地保有特定会社と判定されることを免れるためと認められる場合は、その変動はなかったものとして判定すると定めています。専門書籍では、直前に借入れをして総資産を膨らませるようなケースが例として挙げられています。

    評価の時点だけを意識した資産の動かし方は、かえって税務上のリスクを高めます。資産の構成を変える場合は、事業上・資産管理上の目的があることが前提です。

    オーナーが確認しておきたいこと

    • 毎期の判定を記録する:決算のたびに、相続税評価額ベースの土地保有割合・株式等保有割合と会社規模区分を試算し、推移を把握します。
    • 会社の役割を確認する:持株会社なのか、不動産賃貸会社なのか、金融資産の運用会社なのかで、どの特定会社に当たりやすいかが変わります。
    • 不動産の取得時期を把握する:3年以内に取得した不動産がある間は、評価額が高めに出る前提で計画します。
    • 株式の移転時期と組み合わせる:贈与や売買で株式を移す時期は、評価額の見通しとあわせて検討します。
    • 持合いの有無を確認する:グループ会社どうしで株式を持ち合っている場合は、評価の計算がさらに複雑になります。詳しくは関連記事「株式を持ち合うグループ会社の承継と評価」をご覧ください。

    AEGISの視点

    特定の評価会社に当たること自体は、悪いことではありません。会社の財産の実態に合った評価方法が適用されているとも言えます。問題は、オーナーが株価の水準を把握しないまま、資産を会社に積み上げ続けてしまうことです。

    AEGISは、資産管理会社の株価を「会社に何を、どれだけ持たせるか」という所有設計の結果として捉えています。土地保有特定会社になるかどうかを気にして資産を組み替えるより、会社が担う役割、蓄積した資金の使い道(修繕、借入返済、役員報酬や配当)、株式を誰にいつ移すかを先に決め、その結果として株価の推移を確認する順番が大切だと考えています。

    資産管理会社の株式と経営権を誰にどう引き継ぐかは「資産管理会社の株式と経営権の承継」で、そもそも資産管理会社をいつ設立すべきかは「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。

    非上場株式の評価や資産構造の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 土地保有特定会社・株式等保有特定会社は、財産評価基本通達189に定める「特定の評価会社」の一部です。
    • 土地保有特定会社は、相続税評価額ベースの土地保有割合が大会社70%以上、中会社90%以上(小会社は帳簿価額の総資産と業種により70%・90%・非該当)の会社です。
    • 株式等保有特定会社は、会社規模にかかわらず株式等の割合が50%以上の会社です。
    • 当てはまると、同族株主等は原則として純資産価額方式で評価され、資産管理会社の株価は会社の財産の評価額をほぼそのまま反映します。
    • 合理的な理由のない資産の組替えは、判定上なかったものとされることがあります。具体的な判定と評価は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 賃貸マンションを持つ資産管理会社は、必ず土地保有特定会社になりますか?

    必ずではありません。判定は総資産に占める土地等の割合で行い、建物や預金、その他の資産が多ければ割合は下がります。また、小会社で帳簿価額の総資産が業種ごとの基準額を下回る場合は、土地の割合にかかわらず該当しません。毎期の決算をもとに試算して確認することが大切です。

    Q. 事業会社の株式を資産管理会社に持たせると、どうなりますか?

    資産管理会社の総資産に占める株式等の割合が50%以上になると、株式等保有特定会社に当たり、原則として純資産価額方式で評価されます。納税者の選択により、S1+S2方式で評価することもできます。持株会社にする目的や配当の流れとあわせて検討する必要があります。

    Q. 判定を避けるために、相続の前に借入れをして資産を増やしてもよいですか?

    財産評価基本通達では、合理的な理由もなく資産構成を変動させ、それが特定の評価会社と判定されることを免れるためと認められる場合は、その変動はなかったものとして判定するとされています。評価だけを目的とした資産の組替えは避け、事業上の目的に沿って判断することが重要です。

    Q. 家族以外の役員などが株式を相続した場合も、純資産価額で評価されますか?

    同族株主等以外の株主が取得した株式は、土地保有特定会社や株式等保有特定会社であっても、配当還元方式で評価されます。ただし、誰が同族株主等に当たるかは議決権割合などで判定されるため、株主構成をもとに確認が必要です。

    Q. 純資産価額方式で計算するとき、含み益にかかる税金は考慮されますか?

    相続税評価額と帳簿価額の差額(評価差額)に対する法人税額等相当額を控除して計算します。国税庁の現行の財産評価基本通達186-2では、この割合は38%とされています。この割合は、令和8年4月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した株式等の評価から適用されます(会社の決算期ではなく取得の時=課税時期で判定します)。それより前に取得した場合は従来の割合(37%)で評価します。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和8年版 非上場株式の評価の仕方と記載例』松本好正 著、一般財団法人大蔵財務協会、P.194-213
    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、P.180-181
  • 資産管理会社の定款で決めておきたいこと|譲渡制限・売渡請求・役員任期・機関設計のチェックリスト

    資産管理会社の定款で決めておきたいこと|譲渡制限・売渡請求・役員任期・機関設計のチェックリスト

    定款とは、会社の目的や株式、機関(株主総会・取締役など)の基本ルールを定めた、会社の「憲法」にあたる文書です。

    資産管理会社の定款は、設立のときに一般的なひな形をもとに作り、その後は一度も読み返していない、ということが少なくありません。家族だけが株主で、オーナーが一人で意思決定しているうちは、それでも問題は表に出ません。しかし、株式が相続で家族に分かれたとき、オーナーが判断できなくなったとき、家族の意見が割れたときに、定款に何が書いてあるかが会社の動き方を決めます。

    この記事では、資産管理会社の設立時や見直しのときに確認したい定款の項目を、①株式の譲渡制限、②相続人等に対する売渡請求、③機関設計、④役員の任期、⑤株主総会の運営、⑥株主ごとの権利の設計の順に整理します。最後にチェックリストをまとめています。

    なぜ資産管理会社の定款を見直すのか

    資産管理会社の株式は、オーナーの相続財産の中で大きな割合を占めることがあります。会社の中身(不動産や預金)は動かなくても、株式という「会社そのもの」は、相続や贈与のたびに家族の間で移っていきます。

    株式の承継で何を引き継ぐかの全体像は、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で解説しています。本記事はその中でも、ルールとしての定款に焦点を当てます。

    定款の見直しが特に必要になりやすいのは、次のような場面です。

    • オーナーから子へ、株式の贈与や遺言による承継を始めるとき
    • 配偶者や子を役員に加える、または役員から外すとき
    • 兄弟姉妹など複数の家族が株主になる見込みがあるとき
    • 古い会社で、旧商法時代の定款をそのまま使っているとき

    1. 株式の譲渡制限と承認機関

    譲渡制限は「誰が株主になるか」を管理する仕組み

    非公開会社の多くは、定款で「株式を譲渡により取得するには会社の承認を要する」と定めています(会社法第107条)。これにより、株主が株式を第三者に売ろうとしても、会社の承認がなければ、取得者は原則として会社との関係で株主として扱われません。

    ただし、譲渡制限は株式の売却そのものを禁止する制度ではありません。株主は承認を請求する際に、承認しない場合には会社または会社が指定する買取人が買い取るよう、あわせて請求できます。その請求があれば、会社が承認しないときは、会社自身または指定買取人がその株式を買い取らなければなりません(同第138条・第140条)。株主になる人を選べる代わりに、買取りの資金と手続きが必要になるという点を押さえておきたいところです。

    承認機関を誰にするか

    譲渡を承認するかどうかは、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会が決めるのが原則で、定款で別段の定めをすることもできます(同第139条)。

    承認請求を受けてから2週間以内(定款でこれより短い期間を定めた場合はその期間)に承認するかどうかを通知しないと、承認したものとみなされます(同第145条)。この期間を意識して、実務では承認機関を「代表取締役」とする定款も見られますが、専門書籍では、取締役会より下位の機関を承認機関とすることの有効性には学説上の争いがあると指摘されています。

    取締役会を置かない資産管理会社では、株主総会を承認機関としたうえで、次のような手当てをしておく方法が考えられます。

    • 株主総会の招集通知の期間を定款で短くしておく(非公開会社は原則1週間前まで、取締役会を置かない会社は定款でさらに短縮できます。同第299条)
    • 承認請求を会社所定の書面で行うよう定め、会社は請求があれば書面を交付する旨もあわせて定める

    2. 相続人等に対する売渡請求

    相続による株式の移転は、譲渡制限では止められない

    相続は「譲渡」ではないため、譲渡制限があっても、株式は相続人に当然に引き継がれます。そこで会社法は、相続その他の一般承継で譲渡制限株式を取得した者に対し、会社がその株式を売り渡すよう請求できる旨を、定款で定めることができるとしています(同第174条)。

    制度の主な流れは次のとおりです。

    • 請求のたびに、株主総会で請求する株式の数と相手方を決める(同第175条第1項)。この決議は特別決議です(同第309条第2項)
    • 請求の相手方となる相続人は、その株主総会で議決権を行使できない(同第175条第2項)
    • 会社が相続などがあったことを知った日から1年を経過すると、請求できない(同第176条第1項)
    • 価格は当事者の協議で決め、まとまらなければ、請求の日から20日以内に裁判所に価格決定を申し立てることができる(同第177条)

    なお、会社が買い取る形になるため、分配可能額の範囲内でしか取得できないという制約(財源規制)があります。

    オーナー自身の相続にも使われ得る

    この制度で注意したいのは、定款の定めは株主全員に適用されるという点です。専門書籍では、少数株主より先に支配株主(オーナー)に相続が起きた場合、後継者が相続した株式に対して、残りの株主の決議で売渡請求がされ得るリスクが指摘されています。売渡請求の決議では相続人側が議決権を行使できないため、少数株主だけで特別決議が成立してしまう構図になり得るからです。

    家族だけの資産管理会社でも、オーナーの兄弟姉妹や前の世代から引き継いだ親族が株主に残っている場合は、同じ構図が生じ得ます。売渡請求の定めを置くかどうかは、現在の株主構成と、誰に先に相続が起きるかを想定したうえで判断する必要があります。代わりの方法として、種類株式(取得条項付株式など)や、遺言・民事信託(いわゆる家族信託)による承継先の指定を組み合わせる考え方もあります。

    株式が遺産分割前に相続人の共有になったときに議決権がどう扱われるかは、関連記事「株式が相続人の共有になったときの議決権行使」をご覧ください。

    3. 機関設計:取締役会を置くか

    株式会社には、取締役を1人以上置かなければなりません。取締役会、監査役、会計参与などは、定款の定めによって置くことができる任意の機関です(同第326条)。

    資産管理会社では、意思決定を簡素にするため、取締役会を置かず、取締役1人〜数人と株主総会だけの構成にすることが一般的です。この場合、会社の重要な事項の多くは株主総会で決めることになり、株式(議決権)を持つ人が会社を動かす構造がより直接的になります。

    一方、家族の複数人が役員として関わり、日常の判断を役員の合議で行いたい場合は、取締役会の設置も選択肢です。ただし、取締役会を置くと、譲渡承認や招集手続などのルールも変わるため、定款全体を整合させる必要があります。

    4. 役員の任期

    取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです。非公開会社(監査等委員会設置会社などを除く)は、定款によって選任後10年以内まで伸ばすことができます(同第332条)。

    資産管理会社では、役員変更の手間を減らすために10年とすることが多いですが、長い任期には注意点もあります。

    • 役員はいつでも株主総会の決議で解任できますが、正当な理由がない解任の場合、会社は損害賠償を求められることがあります(同第339条)
    • 家族の関係が変わったときに、任期の長さが役員の入替えの負担になることがある
    • 任期が長いと、役員の構成を定期的に見直す機会がなくなりやすい

    承継を見据えると、後継者がいつ役員に就くかも定款・任期と一緒に考えたい論点です。たとえば、個人が持つ土地を同族会社の事業に使っている場合、相続した親族が相続税の申告期限に役員であることが、小規模宅地等の特例(特定同族会社事業用宅地等)の要件になります。詳しくは関連記事「小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか」で解説しています。

    5. 株主総会の運営と決議要件

    定款の変更や売渡請求の決定などの重要事項は、株主総会の特別決議(議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成。定足数は定款で3分の1以上まで引き下げ可能)で行います(同第309条第2項)。役員の選任・解任は普通決議ですが、定足数を定款で引き下げる場合も3分の1を下回ることはできません(同第341条)。

    家族の株主が増えるほど、総会の開催や決議の成立が難しくなります。次の点を確認しておきます。

    • 定足数や決議要件を定款でどう定めているか
    • 招集の期間と方法(書面・メール等)
    • 株主総会の議事録を毎年きちんと残しているか

    6. 株主ごとの権利の設計

    非公開会社では、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権について、株主ごとに異なる取扱いを定款で定めることができます(同第109条第2項、いわゆる属人的な定め)。また、議決権のない株式や取得条項付株式などの種類株式を発行する方法もあります。

    たとえば、議決権は後継者に集め、配当を受ける権利は他の家族にも残す、といった設計が考えられます。具体的な方法の比較は、関連記事「議決権と配当を分けて設計できるか」で解説しています。

    定款チェックリスト

    項目確認すること見直しのきっかけ
    目的現在と将来の事業(賃貸・管理・売買など)が含まれているか事業内容の追加、物件の取得方針の変更
    株式の譲渡制限承認機関は誰か、承認請求の方式を定めているか株主が増える、取締役会の設置・廃止
    相続人等に対する売渡請求定めの有無と、オーナー自身の相続時の影響株式の承継開始、少数株主の存在
    機関設計取締役会・監査役の有無、取締役の人数家族役員の追加、意思決定の方法の変更
    役員の任期任期の年数と、次の改選時期後継者の役員就任、家族関係の変化
    株主総会招集期間・方法、定足数・決議要件株主の分散、遠方に住む株主の発生
    株主ごとの権利属人的な定め・種類株式の有無と内容議決権と財産権を分けたいとき
    事業年度決算期が資金計画・申告の負担と合っているか賃料の入金時期、繁忙期との関係

    ※AEGISが資産管理会社の定款確認のために整理したものです。

    定款を変更するには、株主総会の特別決議が必要です。登記事項に関わる変更であれば、変更登記も必要になります。定款を変えるだけでなく、実際の運営(総会の開催、議事録、株主名簿)が定款どおりに行われているかもあわせて確認することが大切です。

    AEGISの視点

    資産管理会社は、事業会社のように取引先や従業員がいない分、会社のルールが意識されにくい会社です。しかし、AEGISは、資産管理会社こそ定款が重要になると考えています。会社の中にある不動産や資金は、最終的には株式を通じて家族の誰かが支配するものだからです。

    定款は、オーナーが元気なうちに、家族の将来の関係を想定して書いておくことができる数少ない道具です。誰が株主になり、誰が役員を務め、意見が割れたときにどう決めるのか。こうした問いへの答えを、遺言やファミリーとしての話し合いと組み合わせて定款に落とし込んでおくことで、相続の後も会社が家族の資産を守る器として機能し続けると考えています。

    資産管理会社をいつ・何のために設立するかの全体像は、「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。

    まとめ

    • 資産管理会社の定款は、株式の相続・分散、オーナーの判断能力の低下、家族間の対立に備えるためのルールです。
    • 譲渡制限では、承認機関と、2週間以内に通知しないと承認したとみなされる点に注意します。
    • 相続人等に対する売渡請求は、株式の分散を防ぐ一方で、オーナー自身の相続時に使われるリスクもあります。
    • 機関設計と役員の任期は、後継者がいつ役員に就くかとあわせて検討します。
    • 定款の変更は株主総会の特別決議で行い、実際の運営が定款どおりかも確認します。具体的な定め方は会社と家族の状況によって異なります。

    よくある質問

    Q. 家族だけの資産管理会社でも、株式の譲渡制限は必要ですか?

    多くの非公開会社と同様に、定めておくのが一般的です。家族だけの会社でも、相続や離婚、資金の必要などをきっかけに、株式が家族以外の人に渡ろうとする場面はあり得ます。譲渡制限があれば、会社の承認なしに新しい株主が加わることを防ぐことができます。

    Q. 相続人等に対する売渡請求の定めは、入れておいたほうがよいですか?

    一概には言えません。株式の分散を防ぐ手段になる一方、オーナー自身の相続の際に、後継者が相続した株式に対して他の株主の決議で売渡請求がされ得るリスクがあります。現在の株主構成、誰に先に相続が起きる可能性が高いか、会社の分配可能額などを踏まえて判断します。

    Q. 取締役の任期は10年にしておけば安心ですか?

    役員変更の手続きは減りますが、任期途中で役員を交代させたいときに、正当な理由がない解任であれば損害賠償を求められることがあります。家族の状況や後継者の就任時期を考え、必ずしも最長にする必要はありません。

    Q. オーナーが認知症になった場合、定款で備えられることはありますか?

    オーナーが株主総会で議決権を行使できなくなると、会社の重要な意思決定が止まるおそれがあります。定款だけで解決できるわけではありませんが、役員の構成や株主総会の運営ルールを整えておくことに加え、任意後見や民事信託(いわゆる家族信託)による議決権の行使者の準備とあわせて検討することが重要です。

    Q. 定款を変更するには、どのような手続きが必要ですか?

    株主総会の特別決議が必要です。変更する内容が登記事項に関わる場合は、変更登記も必要になります。変更前に、現行の定款・株主名簿・登記事項が一致しているかを確認しておくと、手続きが円滑に進みます。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    • e-Gov法令検索「会社法」(平成17年法律第86号)第107条、第109条、第138条〜第140条、第145条、第174条〜第177条、第299条、第309条、第326条、第332条、第339条、第341条(施行日2026-08-12版)
      https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
      確認日:2026-10-09

    書籍

    • 『非公開会社における少数株主対策の実務 会社法から税務上の留意点まで』永吉啓一郎 著、清文社、P.62-79、P.138-149
    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部ほか 編著、東峰書房、P.200-202、P.228-229
  • 土地の無償返還に関する届出と相当の地代|個人の土地に会社が建物を持つとき、地代と届出で何を決めるか

    土地の無償返還に関する届出と相当の地代|個人の土地に会社が建物を持つとき、地代と届出で何を決めるか

    オーナー個人が持つ土地の上に、資産管理会社や事業会社が建物を建てる、あるいは建物だけを会社に移す。こうした形は、所有と運営を分けたり、家族で収益を分担したりする目的でよく検討されます。

    このとき必ず問題になるのが、会社が個人の土地を「借りている」ことの税務上の扱いです。権利金を払わずに土地を借りると、会社が借地権という財産を無償で受け取ったとみなされ、思わぬ課税を受けることがあります。

    結論から言えば、権利金を授受しない場合の主な整理の方法は、「相当の地代を支払う」か「土地の無償返還に関する届出書を提出する」かのどちらかです。そして、どちらを選ぶか、地代をいくらにするかによって、会社の課税だけでなく、オーナーの相続時の土地の評価と、会社の株式の評価まで変わります。この記事では、その仕組みと、選択の際に確認したい点を整理します。

    なぜ「借地権」が問題になるのか

    借地権は権利金を払って取得するのが前提

    建物を所有する目的で土地を借りると、借主には借地借家法による強い保護が与えられます。そのため、借地権の取引慣行がある地域では、土地を貸す際に、地主が借主から権利金を受け取るのが通常とされてきました。財産評価の上でも、借地権は相続税の課税対象となる独立した財産として扱われ、路線価図には地域ごとの借地権割合が示されています。

    税務上の取扱いは、この「権利金を払って借地権を取得するのが通常の取引である」という前提に立っています。

    権利金なしで借りると、会社に受贈益が生じるおそれ

    個人が土地を貸す場合、所得税では、権利金を受け取らなかったからといって、受け取ったものとみなして個人に課税する仕組みは基本的にありません。一方、借主が法人の場合は、本来支払うべき権利金を支払わずに借地権を得たとして、その相当額を受贈益(会社の益金)として課税される可能性があります。これがいわゆる借地権の認定課税です。

    ただし、次のいずれかの対応をしていれば、この認定課税は行われない取扱いになっています。

    • 権利金に代えて、相当の地代を支払う(法人税基本通達13-1-2)
    • 将来、土地を無償で返還することを契約で定め、土地の無償返還に関する届出書を提出する(法人税基本通達13-1-7)

    選択肢を比べる

    権利金を授受しない場合を中心に、主な選択肢を整理すると次のようになります。

    選択肢会社の借地権の認定課税地主(個人)の土地の相続税評価会社の株式評価への影響主な留意点
    A. 相当の地代を支払う生じない原則として自用地価額の80%地主が同族関係者となっている同族会社なら、自用地価額の20%を借地権として純資産価額に算入地代が高く、会社の収支を圧迫しやすい。地代の改訂方法の選択が必要
    B. 無償返還届出+地代を支払う(賃貸借)生じない自用地価額の80%同上(同族会社の場合、20%を純資産価額に算入)地代水準の決め方と、届出の提出・保管
    C. 無償返還届出+地代なし(使用貸借)生じない自用地価額(100%)借地権の計上なし地主側に地代収入がない。土地の評価は下がらない
    D. 何もしない(権利金・相当の地代・届出なし)生じるおそれ借地権の価額を控除した貸宅地評価会社に借地権が計上される設立・移転時に会社側で受贈益課税の可能性

    ※AEGISが論点整理のために作成した比較です。評価の取扱いは国税庁の個別通達(昭和60年直資2-58ほか、昭和43年直資3-22)に基づく原則的な内容で、権利金の一部授受がある場合など個別事情により異なります。「地主の土地の評価」は個人が相続する土地(貸宅地)の話、「株式評価への影響」は土地を借りている会社の株式の話で、20%の算入は、被相続人(地主)が同族関係者となっている同族会社に土地を貸している場合の取扱いです。

    以下、A〜Cの中身を順に見ていきます。

    相当の地代とは

    自用地価額のおおむね年6%

    相当の地代とは、権利金を授受しない代わりに支払う、通常より高い水準の地代です。相続税の取扱いを定めた国税庁の個別通達(いわゆる相当地代通達)では、借地権が設定されている土地の自用地としての価額の過去3年間の平均額に対し、おおむね年6%程度の地代とされています。

    法人税の取扱い(法人税基本通達13-1-2)も、土地の更地価額に対する一定割合の地代を相当の地代としています。通達本文は「おおむね年8%程度」としていますが、平成元年の個別通達(平成元年直法2-2)により当分の間「年6%」と読み替えられ、更地価額は相続税評価額やその過去3年間の平均額によることもできるとされています。どちらの税目でも、土地の価額をどの時点・どの方法で算定するかが地代の水準を左右するため、算定の根拠を残しておくことが大切です。

    地代を据え置くか、改訂していくか

    相当の地代を支払う場合、地価が変動したときに地代をどうするかを決めておく必要があります。法人税基本通達13-1-8は、地主が法人である場合について、地代の改訂方法を契約書で次のいずれかに定めることとしています。

    • 土地の価額の上昇に応じて地代を順次改訂する方法:借地権の価値は借主側に生じないと整理されます
    • それ以外の方法(地代を据え置くなど):地価が上がると、相当の地代との差が生じ、借主側に借地権の価値が自然に発生していく考え方になります

    地主が法人の場合、どちらを選ぶかは借主と連名で遅滞なく税務署に届け出ることとされ、届出がない場合は後者の方法を選択したものとして扱われます。地主が個人で借主が会社の場合も、会社が借地権を譲渡したり土地を返還したりするときの借地権の価額は、改訂方法がどちらかによって扱いが分かれる(法人税基本通達13-1-15)ため、契約書で改訂方法を明確にしておくことが大切です。地代を据え置いたまま年数が経つと、相続時の土地や株式の評価が当初の想定と異なってくる点に注意が必要です。

    土地の無償返還に関する届出とは

    「将来、無償で返す」と約束し、税務署に届け出る

    土地の無償返還に関する届出は、借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、土地所有者と借地人が連名で、遅滞なく届け出る手続です(国税庁 手続名C1-63、法人税基本通達13-1-7)。契約書の写しと、土地の価額の計算の明細などを添付します。

    国税庁は、この届出は土地所有者が個人である場合であっても提出することができるとしています。個人の土地に会社が建物を持つ場面でも、この届出によって、権利金を授受せず相当の地代も支払わない形を選べることになります。

    地代を払うか、払わないか

    無償返還の届出をしたうえで、地代をどうするかは別に決めます。ここが、相続時の評価を分ける大きな分岐点です。

    • 地代を支払う(賃貸借):地主の土地は「貸宅地」として、自用地価額の80%で評価されます(相当地代通達8)
    • 地代を支払わない(使用貸借):届出が出ていても、土地は自用地価額(100%)で評価されます(同通達8の(注))。地代を受け取っていても、その額が固定資産税などの公租公課に相当する程度以下で、実質的に使用貸借にすぎないと認められる場合も同様です

    地代を受け取らない使用貸借は、地主に収入がない分、所得税の負担は生じませんが、土地の評価は下がりません。反対に地代を受け取る場合は、地主の不動産所得が増える一方、会社の費用になります。どちらが望ましいかは、オーナー個人と会社の所得の状況、そして将来の承継の形とあわせて判断することになります。

    相続税評価への影響:「下がった分」はどこへ行くか

    ここで見落とされがちなのが、会社の株式の評価です。

    相当の地代を支払っている場合や、無償返還の届出をして地代を支払っている場合、地主の土地は自用地価額の80%で評価されます。一方、その土地を借りている会社が、被相続人が同族関係者となっている同族会社である場合、その会社の株式を純資産価額で評価する際には、自用地価額の20%相当額を借地権の価額として純資産に算入する取扱いがあります(昭和43年直資3-22、相当地代通達6・8)。この取扱いは、地主の土地が80%で評価される場合のものです。地代を受け取らない使用貸借で土地が自用地価額(100%)で評価される場合には、土地の評価は下がりません。

    数字で見ると、次のようなイメージです。

    項目金額のイメージ
    土地の自用地価額1億円
    地主(個人)の土地の評価:貸宅地 80%8,000万円
    会社の株式評価で純資産に算入される借地権相当額:20%2,000万円
    個人と会社を通じた合計1億円

    ※説明のための単純化した例です。株式の評価は純資産価額方式だけで決まるとは限らず、会社の規模や資産構成によって異なります。また、株式の評価方法は国税庁が2026年4月から有識者会議で見直しを検討しているため、今後の通達改正に注意が必要です。

    つまり、オーナーが会社の株式を自分で保有している限り、土地の評価が下がった分は、株式の評価に移るだけという構図になりやすいのです。これは、土地の価額を個人と法人を通じて全体として捉えるという考え方によるものです。評価上の効果を期待して届出や地代を選ぶ場合は、誰が会社の株式を持っているかまで含めて確認する必要があります。

    なお、地代の有無は、小規模宅地等の特例でどの区分に当たるかにも関わります。会社に土地を貸している場合の特例の考え方は、関連記事「小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 契約書と届出をセットで整える:無償返還の定めは契約書に明記されている必要があります。届出書の控えと契約書は、相続の時まで確実に保管しておきます。
    • 「遅滞なく」を意識する:建物の新築や移転のタイミングで、地代・届出の方針を決めておくことが前提です。後から整理しようとすると、すでに借地権の移転があったと見られるおそれがあります。
    • 地代を変えたら評価も変わる:無償返還の届出をした後に地代を無しにする(または有りにする)と、土地の評価が80%と100%の間で変わります。地代の変更は、意思決定として記録を残しておきます。
    • 相当の地代は地価の動きを追う:相当の地代を選んだ場合、改訂方法の選択と、実際の改訂の運用がずれていないかを定期的に確認します。
    • 建物を移す場面とあわせて考える:個人の建物を会社に移す場合は、移転時の譲渡所得や登録免許税なども生じます。移転全体の比較は関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」をご覧ください。

    AEGISの視点

    無償返還の届出や相当の地代は、税務の手続として語られることが多いテーマです。しかしAEGISは、これを「土地は個人、建物と事業は会社」という所有の分担を、将来にわたってどう固定するかの意思表示だと考えています。

    届出をして地代を受け取る形にすれば、土地は個人の財産として残りつつ、会社の株式にも一定の価値が乗ります。地代を受け取らない形にすれば、土地の評価は下がりませんが、会社と個人の間で毎年の資金の流れが生じません。どちらが正しいということはなく、土地を相続する人と、会社の株式を引き継ぐ人が同じか別か、会社が将来その土地を買い取る可能性があるかによって、望ましい形は変わります。

    また、所有と運営を分ける設計を土地活用の段階から考える場合は、関連記事「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」も参考になります。資産管理会社を持つかどうか自体の判断は、親記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    土地の貸し借りに関わる評価や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 個人の土地に会社が建物を持つと、税務上は会社が土地を借りている関係になり、権利金を授受しなければ会社に借地権の認定課税が生じるおそれがあります。
    • 認定課税を避ける主な方法は、相当の地代(自用地価額のおおむね年6%)の支払いと、土地の無償返還に関する届出です。届出は土地所有者が個人でも提出できます。
    • 相当の地代や、届出+地代ありの場合、地主の土地は自用地価額の80%で評価され、地主(被相続人)が同族関係者となっている同族会社の株式評価では、20%相当額が純資産価額に算入されます。
    • 届出をしても地代なし(使用貸借)であれば、土地は自用地価額で評価されます。
    • どの形を選ぶかは、税負担だけでなく、土地と株式をそれぞれ誰が引き継ぐかとあわせて判断することが重要です。具体的な取扱いは個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 土地の無償返還に関する届出は、いつまでに出せばよいですか?

    国税庁の案内では、土地を無償で返還することが定められた後「遅滞なく」提出することとされています。明確な日数の定めはありませんが、建物の新築や会社への移転と同じタイミングで契約書を整え、速やかに提出するのが基本です。

    Q. 土地の持ち主が個人でも、届出は出せますか?

    出せます。国税庁は、この届出は土地所有者が個人である場合であっても提出できるとしています。土地所有者と借地人(会社)の連名で提出します。

    Q. 相当の地代を払うのと、無償返還の届出をするのとでは、どちらが有利ですか?

    一概には言えません。相続時の土地の評価(80%)や株式評価への算入(20%)は、両者で同じ扱いになる場面が多い一方、相当の地代は地代が高く、会社の収支や個人の所得に与える影響が大きくなります。地代の水準を柔軟に決めたい場合は届出を選ぶことが多いですが、個人と会社の所得、将来の承継の形とあわせて比較することが大切です。

    Q. 届出を出して地代をゼロにすると、相続税評価はどうなりますか?

    地代を受け取らない使用貸借の場合、無償返還の届出が出ていても、土地は自用地としての価額で評価されます。貸宅地としての80%評価にはなりません。

    Q. すでに届出なしで会社が建物を持っている場合はどうすればよいですか?

    建てた時期、権利金や地代の授受の状況、契約内容によって、借地権が誰に帰属しているかの判断が変わります。過去の経緯を契約書や申告書で確認したうえで、現状をどう整理するかを専門家と検討することをおすすめします。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立と既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで確認します。
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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『二訂版 実務家必携 実務借地権課税』中野欣治 編、一般財団法人大蔵財務協会、P.5-34、P.115-150
    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、一般財団法人大蔵財務協会、2024年、P.367
  • グループ法人税制と資産管理会社|オーナーが支配する会社どうしで資産を売買するとき、税金の計算はどう変わるか

    グループ法人税制と資産管理会社|オーナーが支配する会社どうしで資産を売買するとき、税金の計算はどう変わるか

    グループ法人税制とは、100%の資本関係(完全支配関係)にある会社どうしの取引について、取引の時点では課税関係を生じさせないようにする一連の仕組みです。平成22年度の税制改正で導入されました。

    オーナーが資産管理会社と事業会社の両方を100%持っている場合、その2社の間で土地や建物を売買すると、売り手の会社の譲渡益(または譲渡損)は、その年度の所得から除かれて繰り延べられます。ここまでは比較的知られていますが、注意が必要なのは次の2点です。

    • 繰り延べられた損益は、いずれ売り手の会社に戻ってくること
    • 個人オーナーが直接持つ兄弟会社どうしでは、寄附金・受贈益の特例は使えないこと

    この記事では、グループ法人税制のうち、オーナー企業で特に問題になりやすい「資産の売買」と「寄附(無償・低額の取引)」を中心に、資産管理会社と事業会社の関係に当てはめて整理します。

    完全支配関係:個人オーナーと親族を含めて判定する

    グループ法人税制の対象になるのは、完全支配関係がある会社どうしの取引です。完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係などをいいます(法人税法2条12号の7の6)。

    オーナー企業で重要なのは、次の3点です。

    1. 一の者が個人の場合も含まれる:オーナー個人が資産管理会社と事業会社の株式をそれぞれ100%持っていれば、2社は「同一の者による完全支配関係」にある兄弟会社です。
    2. 親族の持分を合算する:一の者が個人の場合は、その個人と特殊の関係のある個人(親族など)の保有分を合わせて判定します(法人税法施行令4条の2第2項)。オーナーと配偶者・子で100%を持っている場合も、完全支配関係になり得ます。
    3. 一定の従業員持株会などは除いて判定する:従業員持株会などが持つ株式が発行済株式(自己株式を除く)の5%未満であれば、その株式を除いて判定する定めがあります。

    つまり、「グループ」という意識がなくても、家族で株式を持つ会社が複数あれば、知らないうちに完全支配関係にあることがあります。

    資産を売買したとき:譲渡損益の繰延べ

    どの資産が対象になるか

    完全支配関係がある内国法人(普通法人または協同組合等)の間で「譲渡損益調整資産」を譲渡した場合、売り手の会社では、その譲渡利益額または譲渡損失額に相当する金額を所得から除き、繰り延べます(法人税法61条の11第1項)。

    譲渡損益調整資産とは、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含む)、有価証券、金銭債権、繰延資産です。ただし、売買目的有価証券や、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産などは除かれます(法人税法施行令122条の12第1項)。棚卸資産(土地を除く)は対象外です。

    取引は「時価」で行う

    繰延べの対象になるのは、時価で売買したことを前提に計算される譲渡損益です。売買価格そのものは、通常の取引と同じく時価で決める必要があります。買い手の会社は、支払った代金(時価)で資産を受け入れ、減価償却などもその価額を基に行います。

    いつ、どちらに戻ってくるか

    繰り延べた損益は、次のような事由が生じたときに、売り手の会社の所得に戻し入れられます(法人税法61条の11第2項・第3項)。

    • 買い手の会社が、その資産を譲渡・償却・評価換え・貸倒れ・除却したとき
    • 売り手と買い手の間の完全支配関係がなくなったとき

    たとえば、事業会社が資産管理会社に建物を売却した場合、資産管理会社がその建物を減価償却するたびに、事業会社側で繰り延べた譲渡益の一部が戻ってきます。また、将来どちらかの会社を第三者に売却したり、株主構成を変えて100%の関係が崩れたりすると、その時点で残りの繰延べ額がまとめて実現します。

    場面売り手の会社(例:事業会社)買い手の会社(例:資産管理会社)
    売買の時点譲渡益(損)を計上し、申告上で同額を減算(加算)して繰り延べる時価で取得。代金の支払い(資金の手当て)が必要
    保有中買い手の減価償却に応じて、繰延べ額の一部を戻し入れ時価を基に減価償却
    外部への売却時残りの繰延べ額を戻し入れ時価との差額で譲渡損益を計上
    100%関係がなくなったとき残りの繰延べ額を一括で戻し入れ―

    「売っても税金がかからない」のではなく、「税金の発生時期が後ろにずれ、その間は売り手の会社に繰延べ額が残る」と理解しておくことが大切です。

    寄附・低額取引:兄弟会社では特例が使えない

    法人による完全支配関係に限られる特例

    時価より低い価額で資産を譲ったり、無償で資金を融通したりすると、税務上は差額が寄附金(出し手)と受贈益(受け手)として扱われるのが原則です。グループ法人税制では、完全支配関係がある会社間の寄附について、出し手で寄附金を損金不算入、受け手で受贈益を益金不算入とする特例があります(法人税法37条2項、25条の2第1項)。

    ただし、この特例は「法人による完全支配関係」に限られています。親会社と100%子会社、あるいは同じ親会社の下にある子会社どうしは対象ですが、オーナー個人が直接100%を持つ兄弟会社どうしは対象外です。なお、個人が親会社を通じて間接に持つ子会社どうしの寄附には特例が適用されることが、法人税基本通達9-4-2の5で確認されています。

    兄弟会社で寄附が生じると

    オーナー個人が直接持つ資産管理会社と事業会社の間で、時価より低い価額の売買や無償の取引をした場合、出し手の会社では寄附金の損金算入限度額を超える部分が損金にならず、受け手の会社では受贈益が益金に算入されるのが原則です。両社で課税が生じ得るうえ、株式の価値が一方から他方へ移ることで、株主である家族の間の財産の移転として別の論点が生じることもあります。

    株主構成譲渡損益の繰延べ(61条の11)寄附金・受贈益の特例(37条2項・25条の2)
    親会社と100%子会社対象対象
    同じ親会社の下の100%子会社どうし対象対象
    オーナー個人(と親族)が直接100%を持つ兄弟会社どうし対象対象外
    持株比率が100%未満の関係会社どうし対象外対象外

    資産管理会社と事業会社でよくある場面

    • 事業会社の本社土地を資産管理会社へ移す:譲渡益は繰り延べられますが、資産管理会社には時価での買取資金が必要です。借入れで賄う場合は、事業会社から受け取る賃料で返済できるかを確認します。資金の流れの整理は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で解説しています。

    • 含み損のある資産をグループ内で売って損を出したい:完全支配関係がある会社へ売っても譲渡損は繰り延べられるため、損失を実現させる手段にはなりません。

    • 管理料・賃料を決める:グループ内の賃料や管理料が時価から離れると、寄附金の問題になり得ます。兄弟会社では特例が使えないため、特に根拠のある金額設定が必要です。管理料の考え方は「資産管理会社に管理を任せるときの管理料」も参考になります。

    • 個人の不動産を会社へ移す:個人と法人の間の取引にはグループ法人税制は適用されません。個人から法人への移転の比較は「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 株主名簿で完全支配関係を確認する:親族の持分の合算や、名義株の有無で判定が変わります。
    • 繰延べ額を管理し続ける:繰り延べた譲渡損益は申告書の別表で管理し、買い手の償却や売却に応じて戻し入れます。担当者が替わっても追えるように記録を残します。
    • 将来の株主構成の変更に注意する:後継者への株式の移転や一部の株式の売却で100%関係が崩れると、繰延べ額が一括で実現します。承継計画と合わせて確認します。
    • 時価の根拠を残す:グループ内の売買でも時価が前提です。不動産鑑定評価などの根拠資料を残しておくことが望まれます。
    • 自社株の評価への影響:グループ内の売買や寄附によって各社の資産と利益が変わり、株価にも影響します。なお、完全支配関係にある親子会社間の寄附に伴う税務調整で親会社の利益積立金額が増減する場合でも、類似業種比準方式の「1株当たりの純資産価額」の計算上、基本的には法人税法の処理どおりに扱い、調整の必要はないとする国税庁の質疑応答事例があります。

    AEGISの視点

    グループ法人税制は、「グループ内で資産を動かしても課税しない」制度と説明されることがあります。しかしAEGISは、オーナー企業にとってこの制度の本質は「課税のタイミングと場所を、グループの株主構成に結び付ける仕組み」だと考えています。

    繰り延べた損益は、100%の関係が続く限り表に出ませんが、承継やM&Aで株主構成を変えた瞬間に戻ってきます。つまり、今日のグループ内取引は、将来の承継やM&Aの選択肢に影響を与えます。また、兄弟会社の寄附のように、制度が適用されない領域では、思わぬ課税が生じることもあります。

    資産管理会社と事業会社の間で資産を動かすときは、「誰がその資産を持ち、どの会社に将来の課税を残すのか」「その会社の株式を誰が承継するのか」を、取引の前に一枚の図で確かめておくことが大切です。グループ内で資産を移す別の方法として、現物分配の考え方は関連記事「現物分配で子会社の資産を親会社へ移す」で解説しています。

    グループ会社間の取引と資産税務・承継の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • グループ法人税制は、完全支配関係にある会社どうしの取引について、その時点の課税を生じさせないようにする仕組みです。
    • 完全支配関係は、オーナー個人が一の者である場合も含み、親族の持分を合算して判定します。
    • 土地・固定資産・有価証券などの譲渡損益調整資産を売買すると、売り手で譲渡損益が繰り延べられ、買い手の償却・売却や100%関係の解消時に売り手へ戻ります。
    • 寄附金・受贈益の特例は「法人による完全支配関係」に限られ、個人オーナーが直接持つ兄弟会社どうしには使えません。
    • 個別の取引の課税関係は、株主構成と取引条件によって異なるため、事前の確認が大切です。

    よくある質問

    Q. 自分(個人)が100%持つ2つの会社の間で土地を売買すると、譲渡益は繰り延べられますか?

    2社がオーナー個人による完全支配関係にあり、土地が譲渡損益調整資産に当たれば、売り手の会社で譲渡益は繰り延べられます。ただし、時価での売買が前提であり、買い手の会社には代金の支払いが必要です。

    Q. グループ内で含み損のある土地を売れば、損失を計上できますか?

    完全支配関係がある会社への売却では、譲渡損も繰り延べられるため、その時点で損失を計上することはできません。買い手の会社がその土地を外部に売却したときなどに、売り手の会社で損失が実現します。

    Q. 兄弟会社の間で、資金を無利息で貸すと問題になりますか?

    個人オーナーが直接持つ兄弟会社の間では、寄附金・受贈益の特例が使えません。無利息であることに合理的な理由がない場合、利息相当額が寄附金や受贈益として扱われる可能性があります。貸付の条件と根拠を整理しておくことが大切です。

    Q. 繰り延べた譲渡益は、いつまで繰り延べられますか?

    期限はありませんが、買い手の会社がその資産を償却・譲渡・除却したときや、両社の完全支配関係がなくなったときに、売り手の会社で戻し入れます。償却資産であれば、償却に応じて少しずつ戻ってきます。

    Q. 帳簿価額が1,000万円未満の資産を売った場合はどうなりますか?

    譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産は、譲渡損益調整資産から除かれているため、繰延べの対象になりません。売却した会社で通常どおり譲渡損益を計上します。

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    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。
    • 税務顧問と経営管理:税務申告・会計・納税予測・資金繰りをつなぎ、継続的な経営管理を支援します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『組織再編税制大全』佐藤信祐 著、清文社、2023年、第13章(P.821-838)
    • 『令和7年版 図解組織再編税制』中村慈美 著、大蔵財務協会、2025年、第8章(P.501-518)

  • 評価を下げる対策が否認されるとき|総則6項・同族会社等の行為計算の否認の判断枠組みと、意思決定の記録の残し方

    評価を下げる対策が否認されるとき|総則6項・同族会社等の行為計算の否認の判断枠組みと、意思決定の記録の残し方

    不動産や会社を使って相続税評価を下げる対策は、通達どおりに評価していれば原則として認められますが、「通達どおりの評価を認めると、他の納税者との間で実質的な租税負担の公平に反する」といえる事情があると、通達によらない評価で課税されることがあります。これが、財産評価基本通達6項(いわゆる総則6項)の問題です。

    また、同族会社を使った取引については、税負担を不当に減らす行為や計算を否認する規定もあります。さらに、通達そのものにも、取得から間もない不動産を時価で評価するといった個別のルールが置かれています。

    この記事では、否認の判断枠組みを整理したうえで、対策を検討するオーナーが「否認されにくい意思決定」をするために、何を考え、何を記録しておくべきかを解説します。

    相続税の評価と「通達」の関係

    相続税法は、相続などで取得した財産の価額を「取得の時における時価」によると定めています(相続税法22条)。国税庁は、この時価を画一的に算定するための方法を財産評価基本通達で定め、実務ではこの通達に従って評価が行われています。

    不動産の場合、通達による評価額(路線価・固定資産税評価額などを基にした額)は、市場で取引される価格より低くなることが少なくありません。とくに賃貸用の不動産では、借家権や借地権の割合を差し引くため、その差が大きくなります。この差を利用して、借入れで不動産を取得し、相続税の課税価格を圧縮する対策が広く行われてきました。

    一方、通達には次の定めがあります。

    この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。(財産評価基本通達6)

    この「著しく不適当」に当たるかどうかが争われてきたのが、総則6項の問題です。

    最高裁令和4年4月19日判決が示した枠組み

    この問題について、最高裁判所は令和4年4月19日の判決で、次のような考え方を示しました。

    1. 相続税法22条の時価とは、財産の客観的な交換価値をいう。 通達は行政内部の指示にすぎず、国民に対して直接の法的効力を持つものではない。課税価格が客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、通達による評価額を上回る価額で課税しても、それだけで同条に違反するわけではない。
    2. ただし、平等原則がある。 課税庁が通達に従って画一的に評価していることは公知の事実であるから、特定の人についてだけ通達評価額を上回る価額で課税することは、合理的な理由がない限り平等原則に反して違法となる。
    3. 合理的な理由があるといえるのは、通達による画一的な評価を行うことが、実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合である。
    4. 通達評価額と鑑定評価額との間に大きな乖離があるというだけでは、その事情があるとはいえない。 その事案では、通達どおりに評価すると相続税がゼロになるほど負担が軽減されることに加え、被相続人と相続人が、不動産の取得とそのための借入れによって相続税の負担が軽くなることを知り、それを期待して行っていたことなどから、その事情があると判断された。

    つまり、否認の判断では、「評価額の乖離」だけでなく、「その取引が何のために行われたか」「税負担がどの程度減ったか」が重視されたといえます。

    否認の根拠は一つではない

    評価を下げる対策が否認される場面は、総則6項だけではありません。主な根拠を整理すると次のようになります。

    根拠何を問題にするか典型的な場面判断のポイント
    財産評価基本通達6(総則6項)通達どおりの評価そのもの相続直前の借入れによる賃貸不動産の取得など実質的な租税負担の公平に反する事情(税負担の軽減の程度、取引の目的・時期など)
    相続税法64条(同族会社等の行為計算の否認)同族会社の行為・計算相続直前の会社間の債権放棄、不自然な資産の移動など株主等の相続税・贈与税の負担を「不当に減少」させる結果となるか(経済的な合理性)
    通達の個別ルール特定の財産の評価方法会社が3年以内に取得した土地・建物、特定の評価会社など定められた要件に当てはまるか

    ※AEGISが法令・通達・判決をもとに整理したものです。

    同族会社等の行為計算の否認

    相続税法64条1項は、同族会社などの行為や計算で、それを認めると株主やその親族などの相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果となるものについて、税務署長がその行為・計算にかかわらず課税価格を計算できると定めています。法人税にも同様の規定があります(法人税法132条)。

    「不当に減少」に当たるかどうかは、その行為が経済的に合理的か、事業上の目的があるかといった観点で判断されると考えられています。資産管理会社や事業会社を使った対策では、会社の事業として説明できる取引か、それともオーナーの相続税を減らすためだけの取引かが問われます。

    通達に組み込まれた個別ルール

    通達自体にも、評価の乖離を利用した対策に対応するルールがあります。

    • 会社が取得して3年以内の土地・建物:取引相場のない株式を純資産価額で評価する場合、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地等や家屋等は、通常の取引価額で評価します(財産評価基本通達185)。資産管理会社に不動産を買わせても、3年以内であれば株価の計算上は評価が下がらないことになります。
    • 特定の評価会社:資産に占める土地や株式の割合が高い会社は、株価の評価方法が限定されます。
    • 貸付用不動産の評価の見直し(通達案):国税庁は、課税時期前5年以内に購入・新築した貸付用不動産や、小口化商品の対象となっている貸付用不動産を、通常の取引価額に相当する金額で評価する通達の案を公表しています。取得価額が適正な場合は、取得価額を基に計算した額の80%で評価する方法も示されています。案では令和9年1月1日以後の相続等から適用するとされていますが、最終的な通達はまだ定められていません(2026年10月9日時点)。

    否認されやすい対策・されにくい対策

    総則6項の判断は個別の事情によるため、確定的な線引きはできません。ただ、判決の考え方を踏まえると、次のような要素が重なるほど、否認のリスクは高まると考えられます。

    • 相続開始が近い時期(高齢・病気の時期)に行われた
    • 取得資金のほとんどを借入れでまかなっている
    • 取得の目的が、相続税の軽減以外に説明しにくい
    • 通達評価によって相続税が大幅に減る、またはゼロになる
    • 相続後すぐに売却するなど、保有の実態が乏しい

    反対に、事業や資産運用として合理的な目的があり、相続の時期と関係なく計画的に行われ、取得後も継続して保有・運営されている取引は、通達どおりの評価が認められやすいと考えられます。判決自体も、乖離があるだけでは総則6項を適用できないとしています。

    意思決定の記録をどう残すか

    否認されにくくするために大切なのは、取引を「後から説明する」のではなく、「意思決定の時点で、税務以外の理由を記録しておく」ことです。AEGISが重視している記録は次のとおりです。

    記録すること内容の例
    目的収益の確保、事業用地の確保、資産の組換え、家族の生活基盤など
    検討の経緯比較した選択肢、取得しない場合の資産の使い道
    収支・資金計画賃料・経費・返済の見通し、借入れの条件と返済原資
    保有方針何年保有し、誰が運営・管理し、誰に承継するか
    価格の妥当性取得価格の根拠、必要に応じた鑑定・査定
    会社の意思決定取締役会・株主総会の議事録、会社の事業計画との関係

    ※AEGISが作成したチェック項目です。記録があれば否認されないというものではありません。

    ただし、記録はあくまで実態を示すものです。実態のない目的を書き残しても意味はなく、むしろ説明との食い違いが問題になります。

    AEGISの視点

    評価を下げる対策は、オーナーにとって魅力的に見えます。しかしAEGISは、「評価がいくら下がるか」から出発する対策は、最も否認のリスクが高いと考えています。最高裁が問題にしたのは評価の差そのものではなく、「相続税の負担を減らすこと」を目的として取引が組み立てられていた点だからです。

    資産管理会社を設立する、不動産を取得する、借入れをする。これらは本来、収益・管理・承継のための意思決定です。その結果として評価が下がることはあっても、評価を下げることが目的になってしまうと、事業としての合理性が説明できなくなります。

    また、仮に否認されれば、追加の相続税に加えて加算税・延滞税の負担が生じ、家族が長い争いに巻き込まれることもあります。すでに申告を終えた方も、対策の内容と記録を見直し、税務調査で説明できる状態にあるかを確認しておく価値があります。

    資産管理会社の設立を検討する時期と比較の軸は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で、通達の見直しの内容は「貸付用不動産の相続税評価の見直しとは」で解説しています。

    土地活用を評価だけで判断しない考え方は「土地活用を相続税評価だけで判断しないために」、調査で問われやすい点は「相続税の税務調査で指摘されやすい点」もあわせてご覧ください。

    資産税務・承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 相続税の評価は通達に従うのが原則ですが、通達どおりの評価が「実質的な租税負担の公平に反する」事情がある場合は、通達によらない評価で課税されることがあります(総則6項)。
    • 最高裁令和4年4月19日判決は、評価額の乖離だけでは足りず、税負担の軽減の程度や、取引が相続税の軽減を期待して行われたことなどを踏まえて判断しました。
    • 同族会社を使った不自然な取引は、相続税法64条の行為計算の否認の対象になり得ます。
    • 会社が3年以内に取得した不動産の評価など、通達の個別ルールにも注意が必要です。貸付用不動産の評価見直しは通達案の段階です。なお通達案では、取引相場のない株式を純資産価額で評価する際の会社保有の土地・建物には、この見直しを適用しないとされています。
    • 否認されにくくするには、意思決定の時点で税務以外の目的・収支・保有方針を記録し、その実態を伴わせることが重要です。

    よくある質問

    Q. 借入れで賃貸マンションを買う対策は、もうできないのですか?

    借入れで不動産を取得すること自体が否認されるわけではありません。判決も、評価額の乖離だけでは総則6項を適用できないとしています。ただし、相続直前の取得、税負担の大幅な軽減、相続税の軽減以外に目的が説明しにくいといった事情が重なると、否認のリスクが高まります。今後は貸付用不動産の評価見直し(通達案)の動向にも注意が必要です。

    Q. 総則6項は、納税者が評価を下げるためにも使えますか?

    総則6項は「通達どおりの評価が著しく不適当な場合」の定めで、通達による評価額が時価を大きく上回る土地などでは、不動産鑑定評価などにより時価で申告することが検討されることもあります。ただし、時価の立証には根拠が求められ、認められない例も多いため、鑑定の費用や説明の根拠を慎重に検討する必要があります。

    Q. 資産管理会社を使えば、総則6項の心配はなくなりますか?

    なくなりません。会社が取得した不動産でも、3年以内であれば株価の計算上は通常の取引価額で評価されますし、会社の株式の評価自体に総則6項が問題になることもあります。また、同族会社の行為や計算が株主の相続税を不当に減らすものと認められれば、相続税法64条による否認の対象にもなり得ます。

    Q. すでに申告が終わっている場合、何を確認すればよいですか?

    申告した評価の前提となった取引の目的・時期・資金の流れと、それを説明する資料が残っているかを確認しておくとよいでしょう。税務調査では、取引の経緯について説明を求められることがあります。評価や特例に誤りが見つかった場合は、修正申告や更正の請求の要否を検討することになります。

    Q. 否認された場合、どのくらいの負担になりますか?

    通達によらない価額で課税価格が計算し直され、本来の相続税との差額に加え、過少申告加算税や延滞税がかかる可能性があります。負担の大きさは事案によって異なりますが、対策による軽減額より大きな負担になることもあるため、対策の段階でリスクを見積もっておくことが大切です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立と既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式の承継まで確認します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
    • 相続税申告の見直し:申告済みの相続税について、財産評価・土地の状況・適用した制度等を確認し、見直しや還付の可能性を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、P.143-147(最高裁令和4年4月19日判決の解説)
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会、第4章(社団・財団・信託と税務否認)、P.310-334
    • 『相続税・贈与税 土地評価実務テキスト』鎌倉靖二 著、税務研究会出版局、Ⅴ(財産評価基本通達に従った評価額が時価よりも高くなる場合とその対処法)、P.239-243
  • 複数の会社・資産にまたがる財産の整理|何を一覧にし、どこから検討すればよいか

    複数の会社・資産にまたがる財産の整理|何を一覧にし、どこから検討すればよいか

    事業会社に加えて、不動産を持つ資産管理会社、新しい事業のために設立した会社、さらに個人名義の不動産や金融資産——事業や資産が広がるにつれて、オーナーの財産は複数の「器」に分かれていきます。それぞれには合理的な理由があったはずですが、年月が経つと、オーナー本人でさえ全体を正確に説明できなくなることがあります。

    結論から言えば、財産や関係会社が多い場合の整理は、「何を持っているか」の一覧だけでなく、「会社どうし・会社と個人がどうつながっているか」まで含めて見える化することが出発点です。この記事では、一覧にすべき4つの資料と、整理の過程で確認したい論点を解説します。

    なぜ「一覧にすること」から始めるのか

    相続や事業承継の対策は、現状が正確に分かっていなければ設計できません。特に財産や会社が多い場合には、次のような理由から、一覧化そのものに大きな意味があります。

    • 相続の時間的な制約に備える:相続税の申告・納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。財産の把握に時間がかかると、遺産の分け方や納税資金の検討に使える時間が短くなります。
    • 相続税の規模感を把握する:相続税は、財産の総額から基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引いて計算します(国税庁 No.4152)。会社の株式の評価は、会社が持つ財産によって変わるため、会社ごとの中身まで把握する必要があります。
    • 家族と後継者に引き継ぐ:オーナーの頭の中にしかない情報は、引き継ぐことができません。一覧は、家族や後継者と現状を共有するための共通言語になります。

    一覧にしたい4つの資料

    AEGISでは、複数の会社・資産を持つオーナーの現状を、次の4つの資料で整理することをおすすめしています。

    資料見えるもの主な情報源
    1. 個人の財産一覧オーナー個人が何を持っているか登記簿、固定資産税の課税明細、通帳・証券口座の明細、保険証券
    2. 資本関係図誰がどの会社の株式を持っているか各社の株主名簿、法人税申告書の別表
    3. 会社と個人の取引関係表会社どうし・会社と個人のお金と資産のつながり決算書の勘定科目内訳明細書、賃貸借契約書、金銭消費貸借契約書、保証契約
    4. 家族と役割の一覧家族の誰が、どの会社・財産にどう関わっているか戸籍、役員構成、株主名簿

    1. 個人の財産一覧

    個人名義の財産を、種類ごとに一覧にします。

    • 不動産:所在地、地目・用途、面積、名義(共有の場合は持分)、使っている人(自用・賃貸・会社に貸している)、収入と経費
    • 自社株式・関係会社株式:会社名、株数、持株割合
    • 金融資産:預貯金、上場株式・投資信託、債券
    • 保険:契約者・被保険者・受取人、保険金額
    • 会社への貸付金・会社からの借入金
    • その他:ゴルフ会員権、美術品、海外資産など
    • 債務・保証:借入金、連帯保証している会社の借入れ

    不動産は、固定資産税の課税明細を手がかりにすると漏れを防ぎやすくなります。所有不動産が多い場合は、物件ごとの収益と経費、相続税評価額を並べることで、収益性の低い物件や、売却・組み替えを検討すべき物件も見えてきます。

    2. 資本関係図

    オーナー、家族、各会社の間の株式の持ち合い関係を、図にします。

    • 各社の株主と持株割合(議決権割合)
    • 会社が他の会社の株式を持っている関係(親子会社、兄弟会社)
    • 会社どうしがお互いの株式を持ち合っている関係
    • 名義株(実際の出資者と株主名簿上の株主が異なる株式)の有無

    会社が多いと、どの会社を通じて誰が支配しているのかが分かりにくくなります。図にすることで、後継者がどの会社の株式を持てばグループ全体を経営できるのか、という承継の焦点が見えてきます。

    3. 会社と個人の取引関係表

    複数の会社を持つオーナーの財産整理で最も見落とされやすいのが、この「つながり」の部分です。

    • 不動産の貸し借り:個人の土地を会社に貸している、会社の建物に個人が住んでいる、資産管理会社の物件を事業会社が借りている、など
    • 資金の貸し借り:個人から会社への貸付金、会社間の貸付金
    • 保証:会社の借入れに対するオーナーの個人保証、会社間の保証
    • 業務の委託:資産管理会社が事業会社から管理業務を受託している、など

    これらの取引は、それぞれの会社の決算書や個人の申告書を別々に見ているだけでは、全体像がつかめません。取引ごとに、当事者・金額・条件・契約書の有無を一覧にしておくと、承継時にどの関係を整理すべきかが明確になります。

    4. 家族と役割の一覧

    財産と会社の一覧に、家族の情報を重ねます。

    • 推定相続人と、それぞれの年齢・居住地(海外在住の有無を含む)
    • 各会社での役員・従業員としての関与
    • 株式や不動産の保有状況
    • 承継についての意向(分かる範囲で)

    相続人の中に海外に住んでいる方がいる場合は、手続きや課税関係が国内だけの相続と異なることがあるため、この段階で把握しておきます(関連記事:海外在住の相続人がいる場合の準備)。

    一覧にすると見えてくる論点

    4つの資料をそろえると、次のような論点が浮かび上がることがよくあります。

    • 役割を終えた会社が残っている:かつての事業のために設立した会社が、実質的に活動していないまま維持費だけかかっている。
    • 会社と個人の境界が曖昧:会社が使う不動産の名義が個人のまま、賃料の設定が長年見直されていない、会社への貸付金が膨らんでいる。
    • 株主名簿と実態がずれている:名義株や、過去の相続で分散した株式が整理されていない。
    • 登記が古いまま:先代名義のままの不動産がある。令和6年4月からは相続登記の申請が義務化され、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内の申請が必要です(正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象。不動産登記法76条の2・164条)。
    • 納税資金の偏り:財産の多くが会社の株式や不動産で、個人の金融資産が少ない。
    • 保証の偏り:オーナー個人の保証が多く、後継者に引き継ぐ際の障害になり得る。

    いずれも、すぐに対策を実行する必要があるとは限りません。しかし、承継の設計に入る前に「論点リスト」として把握しておくことで、優先順位を付けた検討ができるようになります。

    整理を進める手順

    1. 情報を集める:登記簿、固定資産税の課税明細、各社の決算書・申告書・株主名簿、契約書類、通帳・証券口座の明細を集めます。
    2. 4つの資料を作る:最初から完璧を目指さず、分かる範囲で埋め、不明点は「要確認」として残します。
    3. 会社ごとの中身を確認する:各社の主な資産・負債と、オーナーや他の会社とのつながりを確認します。
    4. 相続税を概算する:会社の株式も含めた財産全体で、現時点の相続税の規模感と納税資金の過不足を把握します。
    5. 論点リストを作る:一覧から見えた課題を書き出し、承継の方針とあわせて優先順位を付けます。
    6. 年に一度更新する:決算の確定後などに、一覧を更新する習慣をつけます。

    相続税の概算に必要な情報は関連記事(相続税の概算に必要な情報)で、一覧をもとに財産の役割を決める考え方は関連記事(自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継)で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 会社の数を減らすこと自体を目的にしない:会社をまとめる(合併や持株会社への集約など)ことで管理は簡素になりますが、税務や手続きの負担、取引先・金融機関との関係への影響もあります。整理の方向性は、承継後の経営と管理の体制から考えます。
    • 一覧の管理者を決める:一覧は作って終わりではなく、更新し続けることに意味があります。誰が更新し、誰と共有するかを決めておきます。
    • 機密性に配慮する:財産の一覧は極めて機密性の高い情報です。共有する範囲と保管方法をあらかじめ決めておくことが大切です。

    AEGISの視点

    複数の会社と資産を持つオーナーの財産は、一つひとつの判断の積み重ねでできています。節税のために作った会社、事業の拡大で取得した不動産、家族のために残した資産——それぞれに理由がありました。しかし承継の場面では、その「理由」が後継者や家族に伝わっていなければ、全体はただの複雑な構造に見えてしまいます。

    AEGISは、財産の整理を「オーナーがこれまで下してきた判断を、次の世代が理解できる形に翻訳する作業」と捉えています。一覧を作る過程で、「この会社は何のためにあるのか」「この不動産は誰のためのものか」をオーナー自身の言葉で書き添えておくことが、後継者にとって何よりの手がかりになります。

    財産や会社が多いご家族では、一覧の更新や家族での共有、専門家との連携を継続的に担う仕組み(ファミリーオフィス的な機能)を持つことも、整理を一度きりで終わらせないための一つの考え方です。相続・事業承継の全体像は親記事(相続対策と事業承継を一体で考える)で解説しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 財産や関係会社が多い場合は、「何を持っているか」に加え、「会社どうし・会社と個人がどうつながっているか」まで見える化することが出発点です。
    • 一覧にしたいのは、①個人の財産一覧、②資本関係図、③会社と個人の取引関係表、④家族と役割の一覧の4つです。
    • 一覧にすると、役割を終えた会社、会社と個人の境界の曖昧さ、名義や登記のずれ、納税資金の偏りなどの論点が見えてきます。
    • 一覧は完璧を目指さず作り始め、年に一度は更新します。整理の方向性は、承継後の経営と管理の体制から考えます。

    よくある質問

    Q. 財産の一覧は、どの程度の精度で作ればよいですか?

    最初は概算で構いません。不動産は固定資産税評価額、株式は直近の決算書の純資産など、手元の資料で分かる数字を入れ、不明な点は「要確認」として残します。精度は、相続税の試算や承継の検討を進める中で必要に応じて高めていけば十分です。

    Q. 資本関係図には、どこまでの会社を含めればよいですか?

    オーナーや家族が株式を持つ会社、それらの会社が株式を持つ会社は、規模にかかわらず含めることをおすすめします。休眠中の会社や、少額の出資をしている会社も、承継時に整理が必要になることがあるためです。

    Q. 使っていない会社は、清算したほうがよいですか?

    一概には言えません。維持コストがかかる一方、会社に資産や負債が残っている場合は、清算に伴う課税や手続きの負担が生じることがあります。他の会社との合併や、別の用途での活用も含めて比較し、承継の方針に沿って判断します。

    Q. 一覧は家族にどこまで見せるべきですか?

    共有の範囲は、家族の状況や承継の進み具合によって異なります。後継者や配偶者など中心となる家族と先に共有し、他の家族には方針が固まった段階で必要な範囲を共有する、という段階的な方法も考えられます。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続と資産承継:財産の内容とご家族の意向から、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で考えます。
    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 資産管理会社の株式と経営権の承継|会社の中身だけでなく「会社そのもの」をどう引き継ぐか

    資産管理会社の株式と経営権の承継|会社の中身だけでなく「会社そのもの」をどう引き継ぐか

    資産管理会社をつくるとき、多くのオーナーは「どの不動産を会社に入れるか」「会社でどう収益を受けるか」に関心を向けます。しかし、会社をつくった瞬間から、オーナーが次の世代に引き継ぐ財産は、個々の不動産から会社の株式と、会社を動かす権限(経営権)へと置き換わっています。

    資産管理会社の承継で問われるのは、会社が持つ不動産をどう評価するかだけではありません。誰が株式を持ち、誰が議決権を行使し、誰が役員として物件の管理や借入れの判断を担うのか——「会社そのもの」をどう引き継ぐかが本当の論点です。

    この記事では、資産管理会社の承継を「株式(財産)」「議決権(支配)」「役員と実務(経営)」の3つに分けて、確認すべきポイントを整理します。

    資産管理会社の承継で引き継ぐもの

    資産管理会社の承継で次の世代に渡すものを分解すると、次のようになります。

    引き継ぐもの内容主な論点
    株式(財産)会社の財産価値に対する持分株式の評価額、贈与・相続の税負担、納税資金
    議決権(支配)株主総会で会社の重要事項を決める権利株式の分散、議決権の集約、家族間の意見対立
    役員の地位(経営)代表者・取締役として会社を運営する立場誰が代表者になるか、交代の時期
    管理の実務物件管理、入居者対応、金融機関・管理会社との関係、会計情報の引継ぎ、担い手の確保
    オーナーとの関係会社への貸付金、会社に貸している土地、保証貸付金の相続、土地の貸し借りの継続

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した分類です。

    事業会社の事業承継と同じく、資産管理会社でも「株式を渡すこと」と「経営を任せること」は別の問題です。株式だけを移しても、物件の管理や借入れの判断を担える人がいなければ、会社は機能しません。

    株式(財産):資産管理会社の株式はどう評価されるか

    取引相場のない株式としての評価

    資産管理会社の株式は、通常、上場していない「取引相場のない株式」として、相続税・贈与税の計算上評価されます。国税庁によれば、取引相場のない株式は、株式を取得した人の立場や会社の規模に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式などにより評価します(国税庁 No.4638)。

    なお、国税庁は2026年4月から有識者会議で取引相場のない株式の評価方法の見直しを検討しており、資産管理会社については純資産価額方式で評価することを前提に、その判定方法(土地保有特定会社と株式等保有特定会社の整理統合など)が論点とされています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、今後の改正に注意が必要です。

    「特定の評価会社」に該当しやすい

    資産管理会社は、総資産の多くを土地や株式で保有していることが多いため、相続税の評価上、「特定の評価会社」に該当する場合があります。財産評価基本通達では、次のような会社が定められています。

    区分判定の基準(総資産価額に占める割合)
    株式等保有特定会社株式・出資・新株予約権付社債の価額の合計額の割合が50%以上
    土地保有特定会社(大会社など)土地等の価額の合計額の割合が70%以上
    土地保有特定会社(中会社など)土地等の価額の合計額の割合が90%以上

    ※土地保有特定会社の判定では、小会社であっても総資産価額が一定以上の会社は、大会社・中会社と同じ基準で判定されます(財産評価基本通達189)。

    特定の評価会社に該当すると、原則として純資産価額方式により評価されるなど、一般の会社とは異なる方法で評価されます。純資産価額方式は、会社が持つ資産を相続税評価額で評価し直し、負債などを差し引いて株価を求める方法です。つまり、会社が持つ不動産の価値や、会社に蓄積された利益が、そのまま株価に反映されやすいということです。

    評価のために資産構成を動かすことには注意

    評価会社の判定に関しては、課税時期の前に合理的な理由もなく資産構成を変動させ、それが特定の評価会社と判定されることを免れるためと認められる場合には、その変動はなかったものとして判定する取扱いがあります(財産評価基本通達189なお書。株式等保有特定会社・土地保有特定会社の判定が対象)。株価を下げることだけを目的にした資産の組替えは、期待した結果にならない可能性があります。

    オーナーとの土地の貸し借りも株価に影響する

    資産管理会社がオーナー個人の土地を借りて建物を所有している場合、会社が持つ借地権を株式の評価上どう扱うかについて、地代の授受の状況や「土地の無償返還に関する届出書」の有無に応じた取扱いがあります。たとえば、相当の地代を支払っている場合や、無償返還の届出をしたうえで地代を支払っている(賃貸借の)場合で、オーナーが会社の同族関係者であるときは、オーナーの土地(貸宅地)が自用地価額の80%で評価される一方、土地の自用地としての価額の20%相当額を借地権の価額として、会社の株式評価上の純資産価額に算入するとされています(国税庁の昭和43年・昭和60年の通達)。土地をオーナー個人に残して建物だけを会社に移したケースでは、オーナー個人の土地の評価と、会社の株式の評価をセットで確認する必要があります。この論点は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」でも解説しています。

    非上場株式の評価方法の全体像は、関連記事「非上場株式の評価方法をどう検討するか」で解説しています。

    議決権(支配):株式の分散をどう防ぐか

    資産管理会社でも議決権の集約は重要

    株式会社の重要事項は、株主総会で決まります。役員の選任などの普通決議は原則として出席株主の議決権の過半数、定款変更などの特別決議は原則として出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条・341条)。

    資産管理会社の場合、株主総会や取締役会で決めることには、物件の売却・購入、建替え、多額の借入れ、役員報酬、配当などがあります。相続によって株式が複数の相続人に分かれると、これらの判断がまとまらず、物件の修繕や売却が進まなくなることがあります。不動産の共有を避けるために会社をつくったのに、今度は株式の「共有」状態で同じ問題が起こる——資産管理会社の承継で最も避けたい事態の一つです。

    分散を防ぐための主な手段

    議決権の分散を防ぐ手段としては、次のようなものが検討されます。

    • 生前に後継者へ株式を移転する:贈与や売買により、後継者が議決権の過半数(または3分の2以上)を確保できるようにする
    • 遺言で承継先を定める:株式を誰に相続させるかを明確にしておく
    • 定款を整える:株式の譲渡制限や、相続人等に対する売渡請求の定めを置く
    • 種類株式などを活用する:議決権と財産権を分けて設計する(議決権のない株式を後継者以外に渡す など)
    • 株主間の取り決めを結ぶ:家族間で議決権の行使や株式の譲渡について合意しておく

    どの手段にも、税負担、他の相続人の遺留分、手続きの負担などの論点があり、組み合わせて検討するのが一般的です。議決権と配当を分けて設計する考え方は、関連記事「議決権と配当を分けて設計できるか」で解説しています。

    設立時の株主構成が出発点

    資産管理会社の承継で見落とされがちなのは、設立時にどの株主構成でスタートしたかが、その後の承継の難易度を大きく左右することです。オーナーが全株を持つ形で設立すれば、会社に蓄積された財産はオーナーの株式の価値として相続財産に反映されます。後継者が設立時から株式を持つ形にすれば、その後の財産の増加は後継者の株式に帰属します。

    ただし、どちらが適しているかは、オーナー自身の生活資金、家族間の公平、会社の意思決定の安定性などによって異なります。家族内で意見の対立が生じても会社の運営が止まらないよう、議決権の配分や行使の方法をあらかじめ検討しておくことが重要です。

    役員と実務(経営):誰が会社を動かすか

    代表者の交代と株式の移転は別に設計できる

    事業会社と同様に、代表者を交代する時期と株式を移転する時期は、必ずしも同じである必要はありません。たとえば、後継者を早めに取締役に就任させて実務に関わらせ、株式は段階的に移していく設計も考えられます。

    管理実務の「見える化」

    資産管理会社では、オーナーが一人で物件の情報や関係者とのやり取りを抱えていることが少なくありません。承継に備えて、次のような情報を一覧にしておくことが大切です。

    • 保有物件ごとの所在地、取得時期、借入金、担保、賃貸借契約、管理会社
    • 修繕の履歴と今後の修繕計画
    • 金融機関、税理士、管理会社など関係者の連絡先と担当範囲
    • 会社とオーナー個人の間の貸付金・借入金、土地の賃貸借契約、届出書類の控え
    • 会社の定款、株主名簿、議事録

    これらが整理されていないと、株式を承継しても、後継者が会社を運営できない状態に陥ることがあります。

    オーナー個人との関係も引き継ぐ

    オーナーが会社に資金を貸し付けている場合、その貸付金はオーナーの相続財産になり得ます。また、オーナー個人の土地を会社が借りている場合は、土地を相続する人と会社の株式を相続する人が異なると、地代や土地の利用をめぐって利害が対立する可能性があります。土地を相続する人と、株式を相続する人の組み合わせも、承継の設計の一部として考えておく必要があります。

    実務上注意したいポイント

    事業承継税制の対象になるとは限らない

    非上場株式の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する法人版事業承継税制(特例措置)は、特例承継計画の提出期限が令和9年(2027年)9月30日とされています(中小企業庁)。ただし、この制度には対象となる会社の要件があり、現預金などの「特定資産」が帳簿価額で総資産の70%以上を占める資産保有型会社や、特定資産の運用収入が総収入金額の75%以上を占める資産運用型会社は、3年以上継続して商品の販売等の業務を行い、親族外の常時使用従業員が5人以上いて、その従業員が勤務する事務所等を所有または賃借しているといった事業実態の要件を満たさない限り、対象となりません(租税特別措置法70条の7・70条の7の5、同法施行令40条の8・40条の8の5)。資産管理会社の株式について制度の利用を考える場合は、要件に該当するかを個別に確認する必要があります。

    子どもごとに会社を分けるという選択肢

    後継者が複数いる場合、物件を複数の資産管理会社に分け、それぞれの会社を別々の子に承継させる方法が検討されることもあります。一方で、会社の数が増えるほど維持の手間は増え、どの会社が何を持っているのかが分かりにくくなります。複数の会社がある場合には、機能を整理して集約する選択肢もあります。

    株価の上昇を前提に計画する

    資産管理会社は、収益が会社に蓄積されるほど株価が上がりやすい構造です。株式の移転を先送りにすると、移転時の税負担が大きくなる可能性があります。会社に利益を残すのか、報酬や配当として個人に移すのかという配分とあわせて、株式移転の時期を考えることが大切です。

    AEGISの視点

    資産管理会社は「つくること」よりも「引き継ぐこと」のほうが難しい——AEGISはそう考えています。

    会社をつくることで、不動産の共有や細分化を避け、管理を一元化することができます。しかしその効果は、株式と議決権が次の世代にうまく引き継がれて初めて実現します。株式が分散し、意思決定ができなくなれば、会社は不動産を守る器ではなく、家族の対立の舞台になってしまいます。

    そのためAEGISでは、資産管理会社を「家族が共有する財産を、ルールに基づいて運営するための仕組み」として捉え、株式の評価と税負担だけでなく、誰が会社を支配し、誰が実務を担い、家族がどのように関わるのかを一体で設計することを重視しています。会社の定款や株主構成は、いわば家族の財産に関する「ルールブック」です。そのルールを、オーナーの意思が明確なうちに整えておくことが、資産管理会社の承継の出発点です。

    資産管理会社の設立から承継までの全体像は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で、自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継の考え方は「自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継」で解説しています。

    株式の評価や承継に関わる資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社を設立すると、次の世代に引き継ぐのは不動産ではなく、会社の株式・議決権・役員の地位・管理の実務です。
    • 資産管理会社は土地保有特定会社や株式等保有特定会社に該当しやすく、会社の資産や蓄積された利益が株価に反映されやすい構造です。
    • 株式が相続人に分散すると、物件の売却や借入れなどの意思決定が難しくなります。生前の移転、遺言、定款、種類株式などを組み合わせて議決権の集約を検討します。
    • 代表者の交代と株式の移転は別々に設計でき、管理実務の情報を一覧にしておくことが承継の前提になります。
    • 土地を相続する人と株式を相続する人の組み合わせ、オーナーの貸付金の扱いも、承継の設計に含める必要があります。

    具体的な評価額や承継の方法は、会社の資産構成や家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社の株式は、どのように評価されますか?

    相続税・贈与税の計算上は、通常、取引相場のない株式として評価されます。資産管理会社は土地や株式の保有割合が高いことが多く、土地保有特定会社や株式等保有特定会社に該当すると、原則として純資産価額方式により評価されるなど、一般の会社とは異なる方法になります。

    Q. 土地保有特定会社とは何ですか?

    財産評価基本通達で定められた特定の評価会社の一つで、総資産価額に占める土地等の価額の割合が一定以上の会社をいいます。大会社などでは70%以上、中会社などでは90%以上が基準とされ、小会社でも総資産価額が一定以上であれば判定の対象となります。

    Q. 資産管理会社の株式を、複数の子どもに均等に相続させてもよいですか?

    可能ですが、株式が分散すると、物件の売却や借入れ、役員の選任などの意思決定が難しくなることがあります。均等に分ける場合には、議決権のない株式の活用や株主間の取り決めなど、意思決定の方法をあわせて設計しておくことが望まれます。

    Q. 後継者に役員を任せれば、株式はまだ移さなくてもよいですか?

    代表者の交代と株式の移転は別々に設計できます。ただし、株式をオーナーが持ち続けると、会社に利益が蓄積されるほど株価が上がり、将来の移転時の税負担が大きくなる可能性があります。経営の移行と株式の移転の時期を、それぞれ計画的に決めることが大切です。

    Q. 資産管理会社でも事業承継税制は使えますか?

    一概には言えません。法人版事業承継税制には対象となる会社の要件があり、資産の保有や運用が中心の会社は、一定の場合に対象とならない仕組みがあります。制度の利用を検討する場合は、特例承継計画の提出期限(令和9年9月30日)も踏まえ、要件を個別に確認する必要があります。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。
    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附などの目的に合う資本設計を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和8年版 非上場株式の評価の仕方と記載例』松本好正 著、一般財団法人大蔵財務協会、P.194-205
  • 小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか|貸付事業用と特定同族会社事業用を分ける「地代・会社の事業・役員」

    小規模宅地等の特例は資産管理会社でどう変わるか|貸付事業用と特定同族会社事業用を分ける「地代・会社の事業・役員」

    オーナー個人が土地を持ち、その上の建物を資産管理会社が持つ。あるいは、個人が建物ごと会社に貸し、会社が入居者に転貸する。資産管理会社を使う不動産オーナーには、こうした「個人と会社が一つの土地にまたがる形」がよく見られます。

    結論から言うと、この場合の小規模宅地等の特例は、①会社から相当の対価(地代・家賃)を受け取っているか、②会社がその土地で何の事業をしているか、③土地を取得した親族が申告期限まで役員であり、土地を持ち続けるか、の3点で区分が決まります。結果は大きく、「特定同族会社事業用宅地等(400㎡まで80%減額)」「貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)」「特例の対象外」の3つに分かれます。

    この記事では、資産管理会社が関わる土地について、どの順番で区分を判定すればよいかを整理します。

    小規模宅地等の特例の区分をおさらいする

    小規模宅地等の特例は、亡くなった方(被相続人)やその方と生計を一にしていた親族(あわせて「被相続人等」)の事業や居住に使われていた宅地等について、一定の面積まで相続税の課税価格を減額する制度です(租税特別措置法第69条の4)。国税庁によれば、区分ごとの限度面積と減額割合は次のとおりです。

    区分限度面積減額割合
    特定事業用宅地等400㎡80%
    特定同族会社事業用宅地等400㎡80%
    特定居住用宅地等330㎡80%
    貸付事業用宅地等200㎡50%

    資産管理会社が関わる場面で問題になるのは、主に特定同族会社事業用宅地等と貸付事業用宅地等です。どちらになるかで、減額割合が80%か50%か、限度面積が400㎡か200㎡かが変わります。

    なお、特例を使えるのは個人が相続などで取得した宅地等です。会社が所有している土地は会社の財産であり、相続で引き継がれるのは会社の株式ですから、この特例の対象にはなりません。会社所有の土地は、株式の評価を通じて相続税に反映されます。

    取得する相続人ごとの要件(配偶者・同居親族など)や、複数の土地をどう選ぶかについては、関連記事「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」で解説しています。

    判定の第1関門:会社から「相当の対価」を受け取っているか

    最初に確認したいのは、個人と会社の間で、地代や家賃が相当の対価として支払われているかどうかです。

    特例でいう「貸付事業」や、特定同族会社事業用宅地等の前提となる「被相続人等の事業」は、不動産の貸付けが相当の対価により継続的に行われていることが前提とされています。国税庁の措置法通達の解説では、固定資産税などの必要経費をまかなう程度で、相当の対価に至らない金額しか受け取っていない場合は「無償」と同じに扱うとされています。

    つまり、次のような場合は、どの区分にも当たらず特例の対象外になる可能性が高いといえます。

    • 会社が個人の土地に建物を建て、地代を払っていない(使用貸借)
    • 地代は払っているが、土地の固定資産税程度にとどまっている

    資産管理会社を設立したとき、「家族の会社だから地代は少なくてよい」と考えて低い地代のまま何年も経っているケースは珍しくありません。地代の水準は、借地権の課税(会社への受贈益の認定など)や土地の相続税評価にも関わります。土地の無償返還に関する届出や相当の地代の考え方は、関連記事「土地の無償返還に関する届出と相当の地代」で整理しています。

    判定の第2関門:会社はその土地で何の事業をしているか

    相当の対価を受け取っている場合、次に確認するのは会社の事業の内容です。

    会社が貸付以外の事業に使っている場合

    国税庁によれば、特定同族会社事業用宅地等とは、相続開始の直前から申告期限まで、一定の法人の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業を除く)に使われていた宅地等をいいます。

    ここでいう「一定の法人」とは、相続開始の直前に、被相続人とその親族等が発行済株式の総数(または出資の総額)の50%超を持っている法人です(申告期限に清算中の法人を除く。租税特別措置法69条の4第3項3号、同法施行令40条の2)。

    具体的には、次の2つの形が対象になります(措置法通達69の4-23)。

    • 被相続人が、土地をその法人に相当の対価で貸していた(法人が建物を所有)
    • 被相続人(または生計を一にする親族)が所有する建物を、その法人に相当の対価で貸していた場合の、その建物の敷地(生計を一にする親族が所有する建物の場合は、その親族が敷地を被相続人から無償で借りていたときに限ります)

    資産管理会社と同じ株主構成の事業会社(たとえば、店舗や工場、事務所として使う会社)が使っている土地は、この区分に当たる可能性があります。また、法人の社宅の敷地は、親族だけが使っている場合を除き、法人の事業そのものに使われているものとして扱われます(同69の4-24)。

    会社が不動産賃貸をしている場合

    一方、典型的な資産管理会社のように、会社が建物を第三者に賃貸している場合は、会社の事業が「不動産貸付業」なので、特定同族会社事業用宅地等には当たりません。

    ただし、それで特例が使えなくなるわけではありません。国税庁は、貸付事業用宅地等の中に「一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等」という区分を示しています。個人が会社に相当の対価で土地を貸し、会社がその上の建物で賃貸をしている形は、貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)の候補になります。

    また、個人が土地と建物の両方を持ち、建物を一括して会社に貸して、会社が入居者に転貸する形(いわゆるサブリース型)では、個人自身が会社に建物を貸していることになるため、その敷地は個人の貸付事業用の宅地等として判定されます。

    判定のまとめ

    ここまでを、資産管理会社でよく見られる形ごとに整理すると、次のようになります。

    所有の形会社の使い方地代・家賃主に検討する区分
    土地:個人/建物:会社会社が第三者へ賃貸相当の対価あり貸付事業用宅地等(一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用)
    土地:個人/建物:会社会社が自ら事業に使用(店舗・事務所など)相当の対価あり特定同族会社事業用宅地等(法人・役員・保有の要件あり)
    土地・建物:個人建物を会社に一括賃貸し、会社が転貸相当の対価あり貸付事業用宅地等(個人の貸付事業)
    土地・建物:個人建物を同族会社が自ら事業に使用相当の対価あり特定同族会社事業用宅地等
    土地:個人/建物:会社問わない無償・固定資産税程度原則として特例の対象外
    土地・建物:会社——特例の対象外(株式の評価に反映)

    ※AEGISが判定の考え方を整理したものです。実際の区分は、契約内容、利用の実態、相続人の状況などによって異なります。

    一つの建物を会社が「自社の店舗」と「第三者への賃貸」の両方に使っている場合は、床面積の割合などで、特定同族会社事業用の部分と貸付事業用の部分に分けて判定することになります。

    判定の第3関門:申告期限まで「役員」と「保有」を続けられるか

    特定同族会社事業用宅地等に当たるかどうかは、相続が起きた時点の状況だけでは決まりません。国税庁によれば、土地を取得した親族について次の要件があります。

    • 法人役員要件:相続税の申告期限において、その法人の役員(清算人を除く)であること
    • 保有継続要件:その宅地等を相続税の申告期限まで持ち続けていること

    あわせて、その土地が申告期限まで引き続き法人の事業に使われていることも必要です。

    措置法通達の解説では、同じ土地を兄弟2人が2分の1ずつ相続し、申告期限に一方だけが法人の役員だった事例が示されています。役員である相続人の持分は特定同族会社事業用宅地等として、役員でない相続人の持分は貸付事業用宅地等として、それぞれ選択の候補になる、という整理です。誰が土地を取得し、誰が役員になっているかで、同じ土地でも減額割合が変わるということです。

    相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。相続人が会社の役員でない場合、この期間内に株主総会で役員に選任されているかどうかが問題になります。役員の選任や任期などの会社の手続きは、関連記事「資産管理会社の定款で決めておきたいこと」で取り上げています。

    貸付事業用宅地等についても、取得した親族が申告期限までに被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで貸付事業を行い、土地を持ち続けることが要件です。

    注意したい「3年以内の貸付け」と面積の調整

    会社に貸し始めて3年以内の土地

    貸付事業用宅地等には、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象から除くというルールがあります。ただし国税庁によれば、相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」(貸付事業のうち、準事業以外のもの)を行っていた被相続人等の、その特定貸付事業に使われた宅地等は、この除外の対象になりません。

    措置法通達69の4-24の4では、特定貸付事業に当たるかどうかは、社会通念上「事業」と称するに至る程度の規模で貸付けが行われていたかどうかで判定するとされ、建物の貸付けについては所得税基本通達26-9の取扱い(貸間・アパート等はおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上であれば、特に反証がない限り事業として行われているものとする)があることが示されています。

    資産管理会社を設立して、個人の土地を新たに会社へ貸し始めた直後に相続が起きた場合などは、この3年ルールに当たらないかを確認する必要があります。個人の不動産を会社に移す前に何を比べるべきかは、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」をご覧ください。

    貸付事業用宅地等を選ぶと面積の調整が必要になる

    複数の宅地等に特例を使う場合、貸付事業用宅地等を一つでも選ぶと、限度面積の調整が必要です。国税庁が示す算式は次のとおりです。

    (特定事業用+特定同族会社事業用の面積)×200/400+(特定居住用の面積)×200/330+(貸付事業用の面積)≦200㎡

    自宅の敷地と、会社に貸している土地の両方がある場合、どちらを優先して選ぶかで減額の総額が変わります。区分の判定は、こうした選択の前提になります。

    実務上注意したいポイント

    • 地代・家賃の契約を書面で残す:相当の対価であることを説明できるよう、契約書、金額の決め方、改定の記録を整えておきます。
    • 会社の事業内容を確認する:同じ会社が「自社利用」と「賃貸」を兼ねている場合、どの部分が何に使われているかを図面などで把握しておきます。
    • 株主構成の50%超を確認する:特定同族会社事業用宅地等は、相続開始直前の持株割合で判定されます。株式の移転や増資の計画と合わせて確認します。
    • 後継者の役員就任を準備する:申告期限での役員要件を満たすには、相続人が役員に就任していることが必要です。遺言や事業承継の計画の中で、誰が土地を取得し、誰が役員になるかを揃えておきます。
    • 申告期限までに売却しない:保有継続要件があるため、納税資金のために土地を売る計画がある場合は、特例との関係を先に確認します。
    • 申告の手続を忘れない:特例を使うには、申告書への記載と計算明細書・遺産分割協議書の写しなどの添付が必要です。申告期限までに遺産が分割されていない場合には特例を適用せずに申告し、原則として申告期限から3年以内に分割されたときに、修正申告や更正の請求で特例を適用できる取扱いになっています(国税庁 No.4208)。

    AEGISの視点

    資産管理会社の設計では、どうしても「所得をどう分けるか」「株式の評価がどうなるか」に目が向きがちです。しかし、個人に残した土地の小規模宅地等の特例は、会社との契約の形、会社の事業、相続人の役割という、ふだんは別々に決めている要素の組み合わせで結果が変わります。

    AEGISは、この特例を「相続の直前に当てはめるもの」ではなく、資産管理会社を設計する段階で、土地・建物・会社・相続人の関係を一枚に描いておくための確認項目だと考えています。地代を見直すと会社の収支が変わり、役員を誰にするかは会社の経営体制そのものの問題になります。特例の有利・不利だけで決めるのではなく、会社が長く機能する形と両立しているかを確かめることが大切です。

    資産管理会社をいつ・何のために設立するか、全体像は「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。土地と事業会社を分けて持つ設計の意味は「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」もあわせてご覧ください。

    不動産と会社が絡む資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社が関わる土地の小規模宅地等の特例は、「相当の対価の有無」「会社の事業内容」「申告期限までの役員・保有」の3段階で区分が決まります。
    • 地代が無償や固定資産税程度の場合は、原則として特例の対象外です。
    • 会社が貸付以外の事業に使う土地は特定同族会社事業用宅地等(400㎡・80%)の候補、会社が賃貸に使う土地は貸付事業用宅地等(200㎡・50%)の候補になります。
    • 特定同族会社事業用宅地等は、被相続人と親族等の持株割合50%超、取得者の申告期限での役員就任と保有継続が要件です。
    • 新たに会社へ貸し始めて3年以内の土地や、限度面積の調整にも注意が必要です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社が持っている土地にも、小規模宅地等の特例は使えますか?

    使えません。小規模宅地等の特例は、個人が相続や遺贈で取得した宅地等が対象です。会社が所有する土地は会社の財産であり、相続で引き継ぐのは会社の株式です。会社所有の土地は、株式の評価(純資産価額など)を通じて相続税に反映されます。

    Q. 資産管理会社に土地を貸していれば、特定同族会社事業用宅地等として80%減額になりますか?

    会社の事業によります。会社がその土地で不動産賃貸をしている場合は、特定同族会社事業用宅地等の対象となる事業から不動産貸付業が除かれているため、80%減額の区分には当たりません。この場合は、相当の対価を受け取っていれば貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額)の候補になります。

    Q. 地代を固定資産税と同じ額にしている場合はどうなりますか?

    措置法通達の解説では、固定資産税などの必要経費をまかなう程度の金額は、相当の対価に至らないものとして無償と同様に扱うとされています。この場合、貸付事業にも同族会社の事業にも当たらず、特例の対象外となる可能性が高いといえます。地代の見直しは、会社の課税や土地の評価にも影響するため、あわせて検討します。

    Q. 土地を相続した子が会社の役員でない場合、特例は使えませんか?

    特定同族会社事業用宅地等の要件は、相続税の申告期限において役員であることです。相続の時点で役員でなくても、申告期限までに役員に就任していれば要件を満たす可能性があります。役員でない場合でも、会社に相当の対価で貸している土地であれば、貸付事業用宅地等の要件を満たすかを確認します。

    Q. 相続の1年前に、資産管理会社に土地を貸し始めました。特例は使えますか?

    貸付事業用宅地等には、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を原則として除くルールがあります。ただし、被相続人等が相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け(特定貸付事業)を続けていた場合は、その事業に使われた宅地等は除外されません。特定同族会社事業用宅地等に当たるかどうかもあわせて、個別に確認が必要です。

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立と既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで確認します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、一般財団法人大蔵財務協会、P.67-69、P.133-137、P.143-145、P.198-199
  • 買収した会社の不動産をどう持つか|事業会社・不動産保有会社・オーナー個人の比較と移し方の課税

    買収した会社の不動産をどう持つか|事業会社・不動産保有会社・オーナー個人の比較と移し方の課税

    会社を買収すると、株式と一緒に、その会社が持つ本社・工場・店舗などの不動産も手に入ります。買収後にこの不動産をどこに置くかについて、AEGISの結論は「原則は事業会社に残し、移す理由がはっきりしている場合にだけ移す」です。

    不動産を別の会社や個人に移せば、グループの資産管理を整理しやすくなる面があります。その一方で、移すたびに法人税・消費税・流通税などの負担が生じ、借入れの条件や事業の安定性にも影響します。「何のために移すのか」と「移すコストに見合うか」を、買収の前後で一度に検討しておくことが大切です。

    この記事では、買い手の立場から、事業会社に残す・グループの不動産保有会社に移す・オーナー個人が持つという3つの置き場所を比較し、移し方ごとの課税と、資金調達との関係を整理します。

    買収後に不動産の置き場所が問題になる理由

    株式を買って会社を取得する場合、対象会社が持っている不動産は、対象会社の資産のまま買い手グループに入ります。そのため、買収直後は何もしなくても「事業会社が不動産を持っている」状態が続きます。

    それでも置き場所が問題になるのは、主に次のような事情があるからです。

    • グループの方針と合わない:不動産は親会社や専用の会社に集めて管理する、という方針の買い手もあれば、事業に必要なものは事業会社に持たせるという方針の買い手もあります。
    • 事業と関係の薄い不動産が含まれている:本業とは別に賃貸用の物件を持っている会社を買った場合、事業の評価とは切り離して扱いたいことがあります。
    • 買収資金の調達や返済に使いたい:不動産を担保にする、売却して資金化するなど、資金の手当てと不動産の扱いが結びつくことがあります。
    • 将来の再編や再売却を見据えたい:事業を将来さらに売却する可能性があるなら、不動産を一緒に売るのか、手元に残すのかを考えておく必要があります。

    なお、買収前の調査で確認すべき不動産のリスク(権利関係・担保・土壌や建物の状態など)は、関連記事「会社を買う前に確認したいリスク」で扱っています。本記事は、調査を終えて取得した後の「持ち方」に焦点を当てます。

    3つの置き場所を比較する

    買収後の不動産の置き場所は、大きく次の3つに分けられます。

    比較の視点①事業会社に残す②グループの不動産保有会社に移す③オーナー個人が持つ
    移転のコスト生じない法人税・消費税(建物)・流通税などが生じ得る法人税・消費税(建物)・流通税に加え、価格設定の論点が生じやすい
    事業の安定性不動産と事業が一体で安定しやすいグループ内の賃貸借で使用を確保する個人との賃貸借になり、相続などの影響を受けやすい
    資金調達事業と不動産を一体で評価してもらいやすい不動産保有会社で担保・借入れを集約しやすい個人の借入れ・保証が必要になりやすい
    事業の再売却不動産ごと売る前提になりやすい事業だけを売り、不動産を残す選択がしやすい事業だけを売り、賃貸を続ける形になりやすい
    管理の手間事業会社の中で完結会社間の契約・賃料設定・記帳が必要会社と個人の間の契約・確定申告が必要

    ※AEGISが整理した比較の目安です。実際の有利不利は、不動産の含み益、借入れの状況、グループの構成によって変わります。

    ①事業会社に残す

    最もシンプルなのは、買収した会社にそのまま不動産を持たせ続ける方法です。移転のコストがかからず、事業に必要な拠点を自社で確保できるため、事業の安定性という点では最も分かりやすい形です。

    一方で、事業会社の貸借対照表が大きくなり、不動産の価値の変動や維持費が事業の収益と混ざって見えにくくなることがあります。事業と関係の薄い賃貸物件まで抱えている場合は、事業の実力が分かりにくくなる点にも注意が必要です。

    ②グループの不動産保有会社に移す

    親会社や、不動産を専門に持つグループ会社に不動産を移し、事業会社がそれを借りる形です。不動産をまとめて管理でき、グループ内で賃料を通じて資金を集める仕組みをつくりやすくなります。将来、事業会社だけを売却する場合にも、不動産を手元に残すという選択がとりやすくなります。

    ただし、移すときに後述する課税や手続きが生じ、移した後は会社間の賃貸借契約、賃料の水準、修繕の負担などを継続して管理する必要があります。賃料が事業会社の収益を圧迫しすぎると、事業会社の資金繰りや金融機関の評価に影響することもあります。

    ③オーナー個人が持つ

    買い手がオーナー企業の場合、オーナー個人で不動産を持ち、会社に貸すという発想が出てくることがあります。会社から個人へ賃料として資金を移せる、将来の相続や承継の設計に組み込みやすい、といった考え方です。

    ただ、法人から個人への移転は、取引価格が適正でなければ、会社側・個人側の双方で思わぬ課税が生じるおそれがあります。個人で借入れや保証を負うことにもなり、オーナーの相続が起きれば事業に不可欠な拠点の所有者が変わります。事業の安定性を優先するなら、慎重に考えたい選択肢です。

    不動産を移す方法と課税

    置き場所を変える場合、実務で検討される主な方法は「売買」と「会社分割」です。

    売買で移す

    最も分かりやすいのは、事業会社が不動産を時価で売り、移転先が買い取る方法です。

    • 法人税:事業会社では、時価と帳簿価額の差額が譲渡損益になります。古くから持っている土地は含み益が大きく、売却益に法人税がかかることがあります。
    • グループ内の取引の特例:買い手グループの会社どうしが完全な支配関係(100%の資本関係)にある場合、土地などの一定の資産を移したときの譲渡損益を、譲渡した会社でいったん繰り延べる「グループ法人税制」の仕組みがあります(法人税法61条の11)。ただし、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円未満の資産は対象外とされるなど対象資産や、その後の取扱いには要件があるため、個別の確認が必要です。オーナー個人への売却は、この仕組みの対象になりません。
    • 消費税:土地の譲渡は消費税が非課税ですが、建物の譲渡は課税されます(国税庁 No.6201)。土地と建物の価額の区分は、税負担と移転先の資金負担の両方に影響します。
    • 流通税:移転先では、所有権移転の登記に伴う登録免許税や、不動産取得税の負担が生じます。

    売買であれば、移転先は代金を用意しなければなりません。不動産保有会社が金融機関から借り入れて購入する場合には、後述する資金調達の論点とセットで考える必要があります。

    会社分割で移す

    会社法上の会社分割(既存の会社に承継させる吸収分割、新設する会社に承継させる新設分割。会社法2条29号・30号)を使って、不動産を別会社に移す方法もあります。会社分割は、権利義務を包括的に承継させる手続きで、分割の対価として承継会社の株式を交付する方法をとれば、売買のような代金の準備が不要になります。

    ここで注意したいのは、会社分割は「事業」に関する権利義務を移す仕組みだという点です。第三者に貸している賃貸物件のように、それ自体が一つの事業として成り立っているものは分割の対象として整理しやすい一方、自社で使っている本社や工場だけを切り出す場合は、それだけで「事業」と言えるかが問題になり得ます。

    税務上は、一定の要件(税制適格要件。法人税法2条12号の11)を満たす会社分割であれば帳簿価額で引き継ぐことができますが、要件を満たさない場合は時価で移したものとして課税されます。また、不動産取得税は、分割の対価として承継会社の株式以外の資産を交付しないことに加え、分割する事業の主要な資産・負債の移転、事業の継続、従業者のおおむね8割以上の引継ぎといった要件を満たす分割による取得であれば、課されないこととされています(地方税法73条の7第2号、同法施行令37条の14)。分割の後に株式を手放す予定があるかどうかなど、分割後の資本関係の継続も要件に関わるため、買収後の再編計画として事前に全体像を描いておくことが欠かせません。

    会社分割には、債権者を保護するための手続きや、従業員の労働契約の承継に関する手続きも伴います。手間と期間がかかるため、単に「代金が要らないから」という理由だけで選ぶのは避けたいところです。

    方法ごとの比較

    比較の視点売買会社分割
    移転先の資金代金の準備が必要株式を対価とすれば不要
    課税の基本時価で譲渡損益(グループ法人税制の対象となる場合あり)要件を満たせば帳簿価額、満たさなければ時価
    手続きの負担売買契約・登記・取締役会等の承認分割計画等の作成、債権者保護手続、労働契約の承継手続、登記
    向いている場面移す不動産が限られ、資金の手当てがつく場合賃貸事業など、事業単位で切り出せる場合

    ※具体的な課税関係は、資本関係、不動産の含み益、分割後の株主構成などで変わります。

    資金調達との関係

    買収後の不動産の持ち方は、資金調達の設計と切り離せません。

    • 買収資金の借入れの担保:買収資金を借り入れる際、対象会社の不動産が担保として期待されることがあります。不動産を別会社に移す予定がある場合は、担保の設定先や順序を金融機関と事前にすり合わせておく必要があります。
    • 既存の借入れの条件:対象会社がすでに借入れをしている場合、担保に入っている不動産を移すには金融機関の同意が必要です。契約によっては、資産の処分や株主の変更が期限の利益の喪失につながる条項があるため、買収前の調査の段階で確認しておきます。
    • 売却して資金化する選択:不動産をグループ外に売り、その後も借り続ける方法(いわゆるセール・アンド・リースバック)で資金を回収する考え方もあります。資金は得られますが、長期にわたり賃料を払い続けることになり、事業拠点の自由度も下がります。

    どの方法を選んでも、最終的には事業会社が賃料や返済を無理なく負担できるかが判断の基準になります。不動産の持ち方を変えた後の数年間の資金繰りを試算し、事業会社の手元資金が細らないかを確かめておきましょう。

    新たな賃貸借関係をつくるときの注意

    不動産を移すと、事業会社と所有者の間に新しい賃貸借関係が生まれます。とくに、土地だけを移し、建物は事業会社に残すといった形をとると、借地権の扱いが問題になります。

    法人が他人の土地に建物を所有する場合、権利金の授受や地代の水準によっては、借地権の価値が移転したとみなされて課税される場合があります。通常の権利金を払わない場合の対応として、相当の地代を支払う方法や、土地の無償返還に関する届出を提出する方法があります。詳しい仕組みは関連記事「土地の無償返還に関する届出と相当の地代」で解説しています。

    建物ごと移す場合も、賃料の水準を近隣の相場や不動産の収益性から説明できるようにし、契約書と支払いの実績を残しておくことが基本です。所有と運営を分けることの意味と注意点は、関連記事「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」も参考になります。

    売り手のオーナー個人が持つ不動産が絡む場合

    中小企業の買収では、対象会社が使っている土地を売り手のオーナー個人が持っていることも珍しくありません。この場合、買い手は「土地を一緒に買うか」「借り続けるか」「一定期間後に移転するか」を交渉で決めることになります。

    土地も買う場合は、誰が買うか(対象会社か、買い手の親会社などか)を決める必要があり、ここで本記事の論点がそのまま現れます。対象会社に買わせるなら事業と一体で持つ形に、親会社などが買うならグループで不動産を集約する形になります。売り手側から見た整理の仕方は、関連記事「会社売却の前に整理したいオーナー個人所有の事業用不動産」で扱っています。

    実務上注意したいポイント

    • 買収の前に方針を決める:取得後に方針を考え始めると、借入れの担保設定や従業員への説明をやり直すことになりがちです。基本合意から最終契約までの間に、取得後の持ち方の方針を固めておくのが理想です。
    • 「移さない」も立派な選択肢:移転には税負担と手間がかかります。移す目的が抽象的なままなら、まずは事業会社に残し、必要が生じた段階で改めて検討する方が合理的な場合も多くあります。
    • 会社分割の後の売却に注意:分割で不動産や事業を切り分けた後に、一方の会社を売却する計画がある場合、税制適格要件との関係で想定外の課税が生じるおそれがあります。分割と売却の順序は、専門家と慎重に検討してください。
    • 許認可・契約への影響:不動産を移すことで、営業許可の対象となる施設の使用権原や、取引先との契約上の拠点の扱いが変わることがあります。
    • 固定資産税の負担者と精算:年の途中で所有者が変わる場合の固定資産税の精算方法も、契約で取り決めておきます。

    AEGISの視点

    買収後の不動産の持ち方は、税金の損得だけで決めると判断を誤りやすいテーマです。不動産を親会社や個人に移せば賃料で資金を集められる、という発想はよく聞かれますが、その裏側では、事業会社が毎月の賃料を払い続け、移転時には含み益への課税と流通税を負担することになります。

    AEGISは、この問題を「事業をどう育てるか」と「不動産をどう保有するか」を、一つの時間軸に並べて考える設計だと捉えています。事業をこの先も自ら育てるのか、いずれ再び売却する可能性があるのか。不動産は事業のための拠点なのか、それ自体が収益と資産形成を担うものなのか。この問いに答えられれば、置き場所はおのずと絞られます。

    不動産の取得・保有の形を税引後の手残りと将来の承継まで含めて考える視点は、M&Aで取得した不動産にもそのまま当てはまります。会社の売却や買収の準備をいつから始めるべきかという全体像は、関連記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

    組織再編や不動産の保有形態に関する税務の考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。

    まとめ

    • 株式で会社を買収すると、対象会社の不動産はそのまま事業会社の資産として残ります。
    • 置き場所は、①事業会社に残す、②グループの不動産保有会社に移す、③オーナー個人が持つ、の3つに大別できます。
    • 移す方法には売買と会社分割があり、売買では時価での譲渡損益・消費税(建物)・流通税が、会社分割では税制適格要件や債権者保護手続などが論点になります。
    • 不動産の持ち方は、買収資金の借入れや既存の借入れの担保と一体で検討する必要があります。
    • 移す目的がはっきりしない場合は、事業会社に残すことも合理的な選択です。具体的な判断は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 買収した会社の不動産は、親会社に移した方が有利ですか?

    一概には言えません。親会社に集約すると管理や将来の事業売却がしやすくなる面がありますが、移す時点で売却益への課税や流通税がかかり、事業会社は以後賃料を負担することになります。移転の目的と、そのコストを比べて判断することが大切です。

    Q. 100%子会社から親会社へ土地を売る場合、売却益に税金はかかりますか?

    完全な支配関係にある法人間で土地などの一定の資産を譲渡した場合、譲渡損益を譲渡した会社でいったん繰り延べるグループ法人税制の仕組みがあります。ただし、その後に資産をグループ外に売却した場合などには繰り延べた損益が実現するなど、要件と取扱いが定められています。適用の可否は個別に確認してください。

    Q. 会社分割を使えば、税金をかけずに不動産だけを移せますか?

    会社分割は「事業」に関する権利義務を移す仕組みのため、自社で使っている不動産だけを切り出す場合には、要件の面で慎重な検討が必要です。税制適格要件を満たさなければ時価で移したものとして課税されます。また、債権者保護手続や労働契約の承継手続も必要になります。

    Q. 売り手のオーナー個人が持っている工場の土地は、買い取るべきですか?

    買い取る、借り続ける、一定期間後に移転するなどの選択肢があり、売り手の希望と買い手の方針・資金によって決まります。買い取る場合は、対象会社に買わせるか、親会社などが買うかで、その後の不動産の持ち方が変わります。

    Q. 不動産を売却して借り続ける方法は、どんなときに検討されますか?

    買収資金の回収や、財務体質の改善を急ぎたいときに検討されることがあります。ただし、長期の賃料負担が続き、拠点の改修や移転の自由度も下がります。事業会社の数年先の資金繰りを試算したうえで判断することが重要です。

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    • M&A:会社売却の方針、取引条件、税引後の受取額、売却後の資産管理までを検討します。
    • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、取得後の管理までをつなぎます。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『中小企業M&AのFA業務マニュアル』渡部潔 著、中央経済社、P.59-73、P.159-163
    • 『目的&ケース別 M&A・組織再編成の税務ストラクチャー徹底比較』蝋山竜利・中島礼子・小林誠 著、中央経済社、P.9、P.20