カテゴリー: 資産管理会社

個人と法人の資産・資金、維持費、税務、株式承継の論点を解説します。

  • 高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいこと|損益通算・減価償却・借入れ・出口・名義の5つのチェック

    高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいこと|損益通算・減価償却・借入れ・出口・名義の5つのチェック

    給与や役員報酬が高い方のもとには、「不動産を買えば所得税が戻る」「将来の年金代わりになる」といった投資用不動産の提案が届くことがあります。不動産は長期の資産形成の手段として有力な選択肢の一つですが、税金の仕組みを部分的にだけ見て購入を決めると、想定と違う結果になることがあります。

    結論から言えば、高所得者が投資用不動産を購入する前に確認したいのは、①損益通算できる範囲、②減価償却が売却時に何をもたらすか、③借入れを何で返すか、④出口の税率と時期、⑤誰の名義で持つかの5つです。この記事では、高所得者の所得構成から見た購入前のチェックポイントを整理します。

    前提:高所得者の税負担の構造

    個人の所得税は、給与所得や不動産所得などを合算して税率を掛ける「総合課税」が基本です。所得税の税率は5%から45%までの7段階で、課税所得が4,000万円を超える部分には45%が適用されます(国税庁 No.2260)。これに住民税などが加わります。

    一方、不動産を売ったときの利益(譲渡所得)は、他の所得と分けて税率を掛ける「分離課税」です。売った年の1月1日時点の所有期間が5年を超えれば長期譲渡所得として所得税15%・住民税5%、5年以下なら短期譲渡所得として所得税30%・住民税9%が基本です(ほかに復興特別所得税。国税庁 No.3208・No.3211)。

    高所得者にとっての不動産投資の税務は、毎年の不動産所得は高い累進税率の中で計算され、売却益は別の税率で課税されるという、二つの異なる仕組みの組合せで成り立っています。この構造を押さえることが、すべてのチェックの出発点です。

    チェック1:損益通算できる範囲を確認する

    不動産所得が赤字になった場合、その赤字は給与所得などの黒字と差し引きできます。これを損益通算といいます。高所得者向けの提案で「税金が戻る」と説明されるのは、主にこの仕組みです。

    ただし、不動産所得の赤字のすべてが損益通算できるわけではありません。国税庁は、次のような部分は他の所得と損益通算できないとしています(国税庁 No.2250)。

    • 別荘など、生活に通常必要でない資産の貸付けに係る損失
    • 不動産所得の赤字のうち、土地を取得するために要した負債の利子に相当する部分
    • 国外中古建物から生じた損失のうち、簡便法などで計算した耐用年数による減価償却費に相当する部分(令和3年分以後。租税特別措置法41条の4の3)

    借入れで土地付きの物件を買う場合、利子のうち土地部分に対応する額は損益通算の対象から外れます。購入前のシミュレーションで、建物と土地の利子を区別しているかを確認することが大切です。

    チェック2:減価償却は「税の繰延べ」でもある

    建物や設備は、取得価額を耐用年数にわたって少しずつ経費にする減価償却の対象です。現金の支出を伴わない経費のため、帳簿上は赤字でも手元資金は減っていない、という状態が生まれます。

    ここで見落とされやすいのが、売却時の取扱いです。建物の取得費は、購入代金などから所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します(国税庁 No.3252)。つまり、保有中に経費として計上した減価償却費の分だけ、売却時の譲渡所得が大きくなるのです。

    局面減価償却の影響適用される税率のイメージ
    保有中不動産所得を減らす(赤字なら給与等と損益通算)総合課税の累進税率
    売却時建物の取得費が減り、譲渡所得が増える分離課税(長期・短期)

    高い累進税率の所得を減らし、売却時に分離課税の税率で課税されるという意味では、税負担の時期と率が変わる効果はあります。しかし、それは税金が「なくなる」ことではありません。売却時期が5年以内だと短期譲渡所得として高い税率がかかり、売却価格が下がっていれば、手元に残る資金は想定を下回ります。保有中の税の減少と売却時の税の増加を、一つの試算の中で通しで見ることが欠かせません。

    チェック3:借入れを何で返すかを確認する

    投資用不動産の多くは借入れを使って購入します。ここで確認したいのは、借入れの元本返済は経費にならないという点です。経費になるのは利子と減価償却費などであり、元本の返済は税引後の手取りから行うことになります。

    • 年数が経つと、利子が減って経費が少なくなる一方、元本返済は続きます。
    • 減価償却が終わる時期には経費が大きく減り、課税所得が増える一方で、手元資金は増えない状態が生じやすくなります。
    • 空室、賃料の下落、修繕費の増加、金利の上昇が重なると、返済のために給与収入を充てる必要が出てきます。

    購入前には、満室想定だけでなく、空室や修繕、金利上昇を織り込んだ場合に、返済原資を家賃収入だけでまかなえるかを確認します。「給与で補えば大丈夫」という前提は、収入が変化したときに崩れやすいものです。

    チェック4:出口の時期と方法を仮置きする

    出口とは、その不動産をいつ、どのように手放すか、あるいは誰に引き継ぐかということです。

    • 売却する場合:所有期間5年の境目、減価償却で下がった取得費、売却時の市場環境を踏まえて手取りを試算します。
    • 持ち続けて相続する場合:相続税の評価額と、相続人が管理を引き継げるかどうかを確認します。

    なお、令和8年度税制改正の大綱では、被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得または新築した一定の貸付用不動産について、通常の取引価額に相当する金額で評価する見直しが示されています(令和9年1月1日以後の相続等が対象。財務省)。購入して間もない時期の相続で評価額が大きく下がることを前提にした計画は、見直しが必要になる可能性があります。この見直しは2026年10月9日時点で通達案の段階にあり、通達案では、不動産特定共同事業等により小口化された貸付用不動産(特定小口化商品)についても通常の取引価額で評価する方針が示されています。また、取得価額が適正な場合は、取得価額を基に計算した額の80%で評価する方法も示されています。具体的な取扱いは、最終的な通達で確認が必要です。

    チェック5:誰の名義で持つかを決める

    不動産を誰の名義で持つかは、購入後に変えようとすると、売買や贈与として税金や登記費用がかかります。購入前に決めることが重要です。

    名義主な特徴確認したいこと
    本人(個人)手続きが簡単。不動産所得は本人の他の所得と合算本人の税率、損益通算の範囲、相続時の承継
    配偶者・家族所得を家族に分けられる場合がある購入資金の出どころ(贈与にならないか)、管理を誰がするか
    共有資金負担に応じて持分を分けられる将来の売却・相続で合意が必要になる
    法人(資産管理会社など)法人税率が適用され、役員報酬等で資金を配分できる設立・維持のコスト、借入れの条件、株式の承継

    名義の選び方は、税率の比較だけでなく、資金の出どころ、管理の担い手、将来の承継までを含めて判断する必要があります。

    購入前のチェックリスト

    項目確認すること
    所得構成現在の課税所得と税率、今後の収入の見通し
    損益通算土地部分の利子の扱い、国外中古建物の該当の有無
    減価償却建物と土地の価額の区分、耐用年数、売却時の取得費への影響
    返済原資空室・修繕・金利上昇を織り込んだ収支、元本返済の原資
    出口売却時期と税率、相続時の評価と承継者
    名義個人・家族・共有・法人のどれで持つか
    提案内容「税金が戻る」の前提、売却時の税金や修繕費の扱いが含まれているか

    実務上注意したいポイント

    • 「節税」を購入理由にしない:税負担の軽減は、保有期間全体で見ると時期がずれているだけの場合があります。物件そのものの収益力と資産価値が判断の中心です。
    • 提案書の前提を確認する:家賃の下落率、空室率、修繕費、売却価格の前提が楽観的になっていないかを確認します。
    • 家族の理解を得ておく:借入れや管理は、本人に万が一のことがあった場合に家族が引き継ぐことになります。

    AEGISの視点

    高所得者の不動産投資の相談で、AEGISが最初に確認するのは、物件ではなく「その人の所得と資産の全体像の中で、不動産にどのような役割を持たせたいか」です。毎年の手取りを増やしたいのか、将来の年金のように使いたいのか、家族に資産を残したいのかによって、選ぶべき物件も、名義も、借入れの組み方も変わります。

    不動産投資の税務は、保有中の損益通算だけを切り取ると魅力的に見えることがあります。しかし、購入・保有・売却・承継までを一本の線で試算すると、税引後に何が残るのかが初めて見えてきます。購入時に記録や名義を整えておけば、将来の売却や承継の選択肢も広がります。AEGISは、物件を選ぶ前に「取得と保有の形」を設計することが、長期の資産形成を安定させると考えています。

    不動産の判断の全体像は関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で、個人と法人の比較は「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で解説しています。

    税負担と手元資金の関係は「税負担とキャッシュフローをどう両立させるか」、マンションを相続対策として検討する場合の評価の仕組みは「居住用マンションの相続税評価はどう変わったか」もあわせてご覧ください。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    まとめ

    • 高所得者の不動産投資は、累進課税の不動産所得と、分離課税の譲渡所得という二つの仕組みの組合せで考える必要があります。
    • 不動産所得の赤字は損益通算できますが、土地取得のための負債の利子相当額などは対象外です。
    • 減価償却は保有中の所得を減らす一方、売却時の取得費を減らし、譲渡所得を増やします。
    • 元本返済は経費にならないため、空室や金利上昇を織り込んだ返済原資の確認が欠かせません。
    • 名義は購入前に、税率だけでなく資金の出どころ・管理・承継まで含めて決めます。具体的な効果は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 不動産所得が赤字になれば、必ず所得税が戻ってきますか?

    赤字のうち損益通算できる部分について、給与所得などから差し引くことができます。ただし、土地を取得するための借入金の利子に相当する部分などは損益通算できません。また、赤字が続くということは、物件の収支が厳しい可能性もあるため、税金だけでなく手元資金の動きを確認することが大切です。

    Q. 減価償却費を多く計上すると、売却時に不利になるのですか?

    建物の取得費は、購入代金などから減価償却費相当額を差し引いて計算するため、保有中に計上した減価償却費の分だけ売却時の譲渡所得は大きくなります。保有中の税負担と売却時の税負担を合わせて試算し、全体として判断することが必要です。

    Q. 5年以内に売却するとどうなりますか?

    売った年の1月1日時点の所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり、所得税30%・住民税9%が基本の税率です(ほかに復興特別所得税)。5年を超える長期譲渡所得の所得税15%・住民税5%と比べて税負担が重くなるため、出口の時期は購入前に仮置きしておくことが望まれます。

    Q. 妻の名義で購入すれば、家族全体の税金は減りますか?

    所得の低い家族の名義にすると、不動産所得にかかる税率が下がる場合があります。ただし、購入資金を本人が出していれば、その資金について贈与税の問題が生じることがあります。資金の出どころと、実際に誰が管理・運営するのかを整理したうえで判断する必要があります。

    Q. 相続対策として投資用マンションを買うのは有効ですか?

    相続税評価額と時価の差に着目した対策は、制度の見直しの対象になってきました。令和6年1月1日以後は居住用マンションの評価方法が見直され、令和8年度税制改正の大綱では、取得後5年以内の一定の貸付用不動産を通常の取引価額で評価する見直しも示されています。評価の差だけを目的にした購入は、慎重に検討することが必要です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、2014年、P.47-50
    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、2023年(2024年第5刷)、P.414-415、P.428-429
  • 不動産は個人と法人のどちらで保有するか|税率だけでなく収益・管理・承継で比べる

    不動産は個人と法人のどちらで保有するか|税率だけでなく収益・管理・承継で比べる

    賃貸不動産が増えてくると、「個人で持ち続けるべきか、法人で持つべきか」という問いに行き当たります。よく聞かれるのは「所得が多いなら法人のほうが税金が安い」という説明ですが、それは比較の一部にすぎません。

    結論から言えば、個人保有と法人保有の選択は、税負担・手元資金の使い道・管理の負担・承継のしかた・移行にかかるコストの5つの軸で比べて判断するのが基本です。そして、どちらが合うかは、オーナーの所得水準や家族構成、不動産を将来どうしたいかによって変わります。この記事では、両者の違いを整理したうえで、自分の状況に当てはめて考えるための視点を解説します。

    個人保有と法人保有の基本的な違い

    まず、個人で持つ場合と法人で持つ場合の主な違いを整理します。

    項目個人で保有法人で保有
    賃料収入にかかる税金不動産所得として、他の所得と合わせて所得税・住民税(所得税は5%〜45%の累進税率)法人の所得として法人税等(中小法人には所得の一定部分に軽減税率あり)
    収益の帰属オーナー個人法人。個人が受け取るには役員報酬や配当などの形をとる
    売却したとき譲渡所得として分離課税(所有期間5年超かどうかで長期・短期に区分)売却損益は法人のその他の損益と合わせて課税
    相続のとき不動産そのものが相続財産になり、土地は路線価等、建物は固定資産税評価額で評価相続財産になるのは法人の株式。取引相場のない株式として評価
    運営の手間と費用確定申告が中心法人の設立、会計・決算、法人税等の申告などが必要

    (所得税の税率は国税庁 No.2260、法人税の税率は No.5759、譲渡所得の区分は No.3202、不動産の評価は No.4602、株式の評価は No.4638 による)

    この表から分かるのは、個人と法人では「税金の計算方法」だけでなく、「お金の流れ」と「相続で引き継ぐものの形」が根本的に違うということです。

    比較の軸1:税負担

    個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進税率で、課税所得に応じて5%から45%までの7段階に分かれています(国税庁 No.2260)。これに住民税が加わります。一方、法人税は所得に対して一定の税率を乗じる仕組みで、中小法人には所得の一定部分について軽減税率が設けられています(国税庁 No.5759)。

    このため、オーナーの給与や事業の所得がすでに高く、不動産所得がさらに上乗せされている場合には、法人で持つほうが全体の税負担が抑えられる可能性があります。反対に、所得がそれほど高くない場合は、法人の運営費用を上回るほどの差が生じないこともあります。

    ただし、ここでの比較は「法人の段階」の税金だけでは不十分です。法人に残った利益を個人が使うためには、役員報酬や配当として受け取る必要があり、その段階で個人にも課税されます。法人と個人を合わせた全体の税負担で比べることが大切です。

    比較の軸2:手元資金と使い道

    個人で保有すれば、賃料から税金や経費を差し引いた残りは、そのままオーナー個人の資金になります。生活費や他の投資に自由に使えるのが利点です。

    法人で保有すると、利益は法人の中にたまります。次の物件の取得資金や修繕の積立てとして法人内で使うには向いていますが、オーナー個人が自由に使えるお金ではありません。個人に移すには、役員報酬や配当、法人からの借入れなどの形をとることになり、それぞれに税務上の扱いがあります。

    また、法人では、家族を役員にして実際の業務に応じた報酬を支払うことで、収益を家族に分けるという考え方もあります。ただし、報酬は業務の実態に見合ったものである必要があり、形式だけの役員就任では認められないことがあります。

    「不動産の収益を何に使いたいか」——生活資金なのか、再投資なのか、次世代への資産形成なのか——によって、適した保有形態は変わります。

    比較の軸3:管理と運営の負担

    法人で不動産を保有すると、次のような手間と費用が継続的に発生します。

    • 法人の設立手続きと費用
    • 帳簿の作成、決算、法人税等の申告
    • 役員の任期管理や株主総会など、会社としての手続き
    • 法人と個人の資金を明確に分けて管理すること

    個人の確定申告に比べて、管理の負担は確実に増えます。この負担を「法人化で得られる効果」と比べて、なお見合うかどうかを確認する必要があります。法人と個人の間の資金の貸し借りや、事業会社との資金のやり取りが生じる場合は、その整理も欠かせません。

    一方で、法人で保有することで、不動産の管理を個人の判断から会社の意思決定へと移せるという面もあります。オーナーの判断能力が低下したときにも、役員体制が整っていれば会社として運営を続けやすくなります。

    比較の軸4:承継のしかた

    相続の場面では、個人保有と法人保有の違いが特に大きく表れます。

    個人保有の場合は、不動産そのものが相続財産になります。土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額で評価されます(国税庁 No.4602)。複数の不動産を複数の相続人で分ける必要があり、分けにくい場合には共有になりやすいという課題があります。

    法人保有の場合は、相続財産になるのは法人の株式です。株式は不動産より分けやすく、生前に少しずつ後継者へ移すこともできます。また、不動産そのものを共有にしなくても、株式の持ち方で家族の持分を表現できます。株式の評価は、取引相場のない株式として、会社の規模や株主の立場に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式などにより行われます(国税庁 No.4638)。不動産を多く持つ会社の場合、評価方法に特別な取扱いがあることにも注意が必要です。たとえば純資産価額方式による計算では、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物は、路線価等による評価ではなく通常の取引価額で評価するとされています(財産評価基本通達185)。国税庁が公表した貸付用不動産の評価に関する通達案でも、この純資産価額の計算における土地や建物には、課税時期前5年以内に取得した貸付用不動産の評価の定めは適用しないとされています。なお、取引相場のない株式の評価方法は国税庁が2026年4月から有識者会議で見直しを検討しており、法人が取得した貸付用不動産や3年以内に取得した不動産の取扱いも検討事項に挙げられています。通達改正の内容や適用時期は本記事の確認時点(2026年10月)では示されていないため、今後の改正に注意が必要です。

    ただし、株式に分けやすいということは、議決権が分散しやすいということでもあります。誰が会社の意思決定を担うのか、株式を誰にどれだけ持たせるのかを、承継の設計として考えておく必要があります。

    比較の軸5:移行にかかるコスト

    すでに個人で持っている不動産を法人に移す場合と、これから購入する不動産を最初から法人で取得する場合とでは、検討すべき内容が大きく異なります。

    既存の不動産を個人から法人へ移すと、税務上は個人から法人への売却(または贈与など)になります。このとき次のような論点が生じます。

    • 個人側で、売却益に対する譲渡所得の課税が生じる可能性
    • 不動産の名義変更に伴う登記などの費用や、取得に伴う税金
    • 時価を基準とした価格設定。時価と大きく異なる価格での取引は、個人と法人の双方に想定外の課税関係を生じることがある(たとえば個人が法人へ時価の2分の1未満の価額で譲渡すると、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得が計算されます。所得税法59条1項2号、同法施行令169条)
    • 法人側の取得資金と、借入れの組み直し

    新たに購入する不動産であれば、これらの移行コストはかかりません。そのため、「既存の不動産をどうするか」と「今後の購入をどうするか」を分けて考えることが現実的です。個人保有の不動産を法人へ移す前に比べるべき点は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で詳しく解説しています。

    自分の状況に当てはめるための目安

    5つの軸を踏まえると、次のような傾向が考えられます。あくまで検討の出発点としての目安です。

    状況検討の方向性
    給与・事業所得が高く、不動産所得も大きい法人保有を比較の候補に入れる価値がある
    不動産の収益を主に生活資金として使いたい個人保有のほうがお金の流れが単純
    今後も物件を買い増していく方針新規取得分から法人で持つ形を検討しやすい
    相続人が複数で、不動産の分け方が難しい株式で持つことによる分けやすさを検討する価値がある
    物件が少なく、管理の手間を増やしたくない個人保有のままのほうが負担は小さい

    ※実際の判断には、所得の見通し、借入れの状況、家族構成、物件ごとの事情などを踏まえた試算が必要です。

    また、個人か法人かは「すべてをどちらか一方に寄せる」二択ではありません。物件ごとに保有主体を分けたり、土地と建物で所有者を分けたりする形もあります。ただし、土地と建物の所有者が異なる場合は、地代の設定や借地権の取扱いなど、別の税務上の論点が生じるため、慎重な検討が必要です。

    実務上注意したいポイント

    • 株主を誰にするかを最初に決める:法人を設立するときの株主構成は、そのまま将来の承継の出発点になります。後から株式を移すと、評価額によっては贈与税などがかかることがあります。
    • 法人と個人のお金を混ぜない:法人の預金と個人の預金を明確に分け、貸し借りがあれば記録を残します。資金の流れが曖昧だと、税務上も承継の場面でも問題になりやすくなります。
    • 借入れと保証を確認する:法人で借入れをする場合、オーナー個人が連帯保証を求められることがあります。承継の際には保証の引継ぎも論点になります。
    • いつ設立するかを考える:法人化の効果が出やすい所得水準や物件数は、オーナーごとに異なります。資産管理会社の設立を検討するタイミングについては、関連記事「資産管理会社の設立を検討するタイミング」で整理しています。

    AEGISの視点

    「個人と法人、どちらが得か」という問いは、税金の比較として語られることがほとんどです。しかしAEGISは、この問いを「誰が、どのような形で、この不動産を持ち続けるのか」という所有の設計の問題として捉えています。

    法人で持つことは、税率の選択であると同時に、収益の流れを変え、意思決定の主体を変え、相続で引き継ぐものの形を変えることでもあります。税負担が軽くなっても、オーナーが自由に使える資金が減ったり、株式の分散で将来の意思決定が難しくなったりすれば、その選択は家族全体にとって最適とは言えません。

    AEGISでは、所有形態を税務だけでなく収益・管理・承継まで含めて設計する考え方を「Property Ownership Design(不動産所有設計)」と呼んでいます。個人・法人・資産管理会社といった選択肢を、オーナーの事業や金融資産、家族の状況と合わせて一つの全体像の中で比べることが、後から組み直さなくてよい判断につながると考えています。不動産の購入から承継までを通して所有形態を考える全体像は、関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    不動産の所有形態と税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 個人保有と法人保有は、税金の計算方法だけでなく、お金の流れと相続で引き継ぐものの形が根本的に異なります。
    • 比較は、税負担・手元資金の使い道・管理の負担・承継のしかた・移行コストの5つの軸で行うのが基本です。
    • 税負担は、法人の段階だけでなく、個人が資金を受け取る段階を含めた全体で比べる必要があります。
    • 既存の不動産を法人へ移す場合と、新たに法人で購入する場合とでは、検討すべき内容が大きく異なります。
    • 法人で持つ場合は、株主構成がそのまま承継の出発点になります。
    • 具体的にどちらが適しているかは、所得水準や家族構成、不動産の方針などの個別事情によって異なります。
    • 保有形態によってキャッシュフローと相続税評価は大きく変わるため、取得時はもちろん取得後も持ち方を点検し、移転コストを踏まえてもメリットが大きい場合は見直しを検討します。

    よくある質問

    Q. 所得がいくら以上なら法人で持つほうが有利になりますか?

    一律の基準はありません。個人の所得税は累進税率で、法人税等とは計算の仕組みが異なるため、オーナーの他の所得、不動産所得の額、法人から個人へ資金を移す方法、法人の運営費用などを合わせて試算する必要があります。「法人の段階の税金」だけで比べないことが大切です。

    Q. 個人で持っている不動産を、あとから法人に移すことはできますか?

    可能ですが、税務上は個人から法人への売却などとして扱われ、個人側で譲渡所得の課税が生じる可能性や、登記などの費用、取得に伴う税金がかかります。時価を基準に取引する必要もあります。新たに購入する不動産を法人で取得する場合とは、検討の内容が大きく異なります。

    Q. 法人で持つと、相続税は必ず安くなりますか?

    必ず安くなるとは言えません。法人で持つ場合、相続財産になるのは法人の株式で、その評価は会社の規模や資産の内容によって異なります。不動産を多く持つ会社には評価方法に特別な取扱いもあります。相続税の額だけでなく、株式の分けやすさや議決権の集め方といった承継のしやすさも含めて比べることが重要です。

    Q. 家族を法人の役員にすれば、収益を家族に分けられますか?

    家族が実際に業務に携わり、その内容に見合った報酬であれば、役員報酬として支払うことは考えられます。ただし、業務の実態がないまま報酬を支払うと、税務上認められない可能性があります。報酬の額は、役割と業務の内容に照らして決める必要があります。

    Q. 物件ごとに個人と法人で持ち分けてもよいのですか?

    可能です。たとえば既存の物件は個人のまま持ち、今後の購入分は法人で取得するといった形は、移行コストを抑えながら法人保有を始める方法の一つです。ただし、土地と建物で所有者を分ける場合などは、地代や借地権の取扱いといった別の論点が生じるため、慎重な検討が必要です。

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 資産管理会社の決算書が融資に与える影響|金融機関が見るポイントと、債務超過・役員借入金・利益圧縮の考え方

    資産管理会社の決算書が融資に与える影響|金融機関が見るポイントと、債務超過・役員借入金・利益圧縮の考え方

    資産管理会社で物件を買い増そうとしたとき、金融機関から「決算書を3期分見せてください」と言われることがあります。そして、思っていたほど融資の条件が良くならない、あるいは追加の担保や保証を求められる、といった経験をするオーナーも少なくありません。

    結論から言えば、金融機関は資産管理会社の決算書を通じて、①借入れを返していける収益力があるか、②財務が健全か(債務超過になっていないか)、③会社とオーナー個人の関係が整理され、情報が正しく開示されているかを見ています。税負担を抑えることだけを目的にした決算は、この3つの見え方を悪くし、次の融資に影響することがあります。

    この記事では、金融機関が決算書のどこを見ているかを整理し、債務超過・役員借入金・利益の圧縮・連帯保証という4つの論点について、オーナーとしての考え方を解説します。

    金融機関が見ている3つの視点

    金融機関の審査の具体的な基準は機関ごとに異なり、公表されていません。ただし、中小企業の融資に関する公的なルールからも、どのような点が重視されるかを読み取ることができます。

    全国銀行協会と日本商工会議所が策定した「経営者保証に関するガイドライン」(平成26年2月1日適用開始)は、経営者保証を求めない融資を検討する際の要件として、次の3つを示しています(中小企業庁ウェブサイト)。

    1. 法人と経営者の資産の所有や資金のやりとりが明確に区分・分離されていること
    2. 法人のみの資産や収益力で返済できるだけの財務基盤があること
    3. 金融機関に対して、財務情報が適時適切に開示されていること

    この3要件は、経営者保証の扱いだけでなく、資産管理会社の決算書が金融機関にどう見えるかを考える物差しとしても役立ちます。また、東京都の制度融資を例にとると、保証を行う信用保証協会は、経営者の人物、資金の使い道、返済能力などを総合的に判断して保証の可否や金額を決めるとされています。

    決算書のどこを見られているか

    資産管理会社の決算書で、金融機関が特に注目しやすい項目を、AEGISの整理で一覧にすると次のようになります。

    決算書の項目金融機関の関心オーナーとして準備しておきたいこと
    賃料収入安定して入っているか、物件ごとの稼働はどうか物件別の賃料・稼働率の一覧
    減価償却費現金の支出を伴わない費用として、返済原資に足し戻して見られることが多い償却の方法と、物件ごとの償却費
    支払利息・返済額収益で利息と元本を返せているか借入金ごとの残高と返済予定表
    役員報酬・家族への給与会社から個人へ流れる金額が過大でないか役員の職務内容と報酬の決め方
    純資産(自己資本)マイナス(債務超過)になっていないか債務超過の理由と、解消の見通し
    役員借入金・貸付金会社と個人のお金の区分ができているか貸し借りの経緯と残高の明細
    不動産の帳簿価額時価と比べて含み益・含み損はあるか物件ごとの時価の目安

    ポイントは、金融機関が損益計算書の「利益」だけを見ているわけではないということです。資産管理会社のように減価償却費の大きい会社では、利益に減価償却費を足し戻した金額(キャッシュフロー)で、借入れの返済が賄えているかが重視されやすくなります。

    論点1:債務超過は「理由」と「見通し」を説明する

    債務超過とは、負債の合計が資産の合計(帳簿価額)を上回り、純資産がマイナスになっている状態です。資産管理会社では、物件取得の初期に諸費用や減価償却費が大きく計上されることや、設立時の資本金が小さいことから、設立から数年は債務超過になりやすい面があります。

    決算書上の債務超過がただちに融資を受けられないことを意味するわけではありませんが、審査上は不利な材料として見られやすい項目です。大切なのは、次の点を説明できるようにしておくことです。

    • 債務超過がどの費用から生じているか(初期費用・減価償却費など)
    • 保有物件の時価で見直すと、実質的な財務の状態はどうか
    • 今後何年で解消する見通しか

    論点2:役員借入金は「区分」と「扱い」を整理する

    資産管理会社では、オーナー個人が会社にお金を貸している(会社から見て役員借入金)ケースがよくあります。金融機関によっては、返済を急がない代表者からの借入金を、実質的に自己資本に近いものとして考慮する場合もありますが、その扱いは金融機関ごとに異なります。

    注意したいのは、役員借入金がいつ、何のために生じ、どう返す予定なのかが曖昧なまま膨らんでいる状態です。これは、ガイドラインの要件にある「法人と経営者の資金のやりとりの区分」が整理されていない状態とも言えます。また、債務超過の解消のためにオーナーが貸付金を放棄(債務免除)すると、会社側では原則として債務免除益が生じ、法人税の課税の対象になる点にも注意が必要です。貸付金の整理の仕方には、資本への振替なども含めて複数の方法があるため、税務と財務の両面から検討します。

    会社とオーナーの間の貸し借りの整理は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で詳しく解説しています。

    論点3:利益を圧縮した決算は、次の融資で「返済余力の小ささ」に見える

    税負担を抑えるために、役員報酬を高く設定したり、費用を前倒しで計上したりして、会社の利益を小さくする決算は珍しくありません。しかし、金融機関から見れば、利益が小さい決算は「返済に回せる余力が小さい会社」に映ります。

    たとえば次のような選択は、税務上の効果と、融資での見え方の両方から考える必要があります。

    • 役員報酬:会社から個人へ多く支払うほど会社の利益は減ります。役員報酬は事業年度の初めに決めた額を毎月同額で支払うのが基本で、期の途中で簡単には変えられないため、次の買い増し計画を踏まえて設定します。
    • 減価償却:法人税法上、減価償却費は会社が損金経理した金額のうち償却限度額までが損金になります(法人税法第31条)。償却費を計上しない決算は利益を大きく見せますが、金融機関は償却費を足し戻して見ることが多いため、見かけの利益を増やしても評価が大きく変わるとは限りません。
    • 保険や前払費用:支出による税負担の軽減と、手元資金の減少の両面を確認します。

    大切なのは、決算を「税金を最小にする」ためだけでなく、「次の資金調達に向けて会社の実力を正しく示す」ものとしても設計することです。数年先の買い増しの計画があるなら、税負担と融資の見え方のどちらを優先する期なのかを、決算前に決めておくことをおすすめします。

    論点4:オーナー個人の連帯保証と、個人の資料

    資産管理会社の融資では、オーナー個人の連帯保証を求められることが多くあります。資産管理会社は収益源が不動産に限られ、オーナー個人の資産や収入と一体で見られやすいためです。審査では、会社の決算書に加えて、オーナー個人の確定申告書や資産・負債の一覧を求められることもあります。

    ガイドラインの3要件を将来にわたって満たせる体制を整えることで、経営者保証を求めない融資や既存の保証の見直しが検討される場合があるとされています。ただし、保証を外すかどうかの最終的な判断は金融機関に委ねられます。経営者保証を外すための準備の考え方は、関連記事「経営者保証を外して事業承継する方法」でも整理しています。

    金利が上がる局面で、決算書の重みは増す

    日本銀行の統計で国内銀行の新規貸出約定平均金利(総合)は、2025年8月の1.149%から2026年8月には1.782%に上昇しました。金利が上がると、同じ借入額でも利息の負担が増え、収益で返済を賄えるかどうかの余裕が小さくなります。金融機関の審査でも、返済余力の確認はより慎重になりやすいと考えられます。

    金融機関への説明資料を整える

    決算書だけでは伝わらない情報を補うため、次のような資料を用意しておくと、金融機関との対話がしやすくなります。

    資料内容伝わること
    物件別収支表物件ごとの賃料・稼働率・経費・返済額収益の安定性と、弱い物件の有無
    借入金一覧金融機関別の残高・金利・返済期間・担保返済負担の全体像
    資産一覧(時価)物件ごとの帳簿価額と時価の目安実質的な財務の状態
    今後の計画買い増し・修繕・売却の予定と資金計画借入れの使い道と返済の道筋
    会社と個人の関係役員報酬・貸借・保証の状況資金の区分と透明性

    これらは、融資を申し込むときだけでなく、決算のたびに更新しておくことで、金融機関との継続的な関係づくりにも役立ちます。

    AEGISの視点

    資産管理会社の決算は、どうしても「税金をいくら納めるか」に目が向きがちです。しかし、物件を買い増していく段階にある会社にとって、決算書は金融機関に会社の実力を伝える、最も重要な対外資料でもあります。

    AEGISは、資産管理会社の決算を、税務と財務の両方の目的を持つものとして設計することが大切だと考えています。税負担を抑える選択が、次の融資の条件を悪くし、結果として資産形成のスピードを落としてしまうのであれば、それは全体として最適とは言えません。会社と個人のお金を区分し、物件ごとの収支を見える化し、計画とともに説明できる状態をつくること。それが、オーナー個人の保証に頼りすぎない資産管理会社への第一歩になります。

    資産管理会社の設立を検討する際の比較の軸は、親記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で、次の物件を個人と会社のどちらで買うかは関連記事「個人で買うか、資産管理会社で買うか」で整理しています。

    まとめ

    • 金融機関は資産管理会社の決算書から、返済の余力、財務の健全性、会社と個人の区分と情報開示の3点を見ています。
    • 減価償却費の大きい会社では、利益に償却費を足し戻したキャッシュフローで返済が賄えているかが重視されやすくなります。
    • 債務超過は理由と解消の見通しを、役員借入金は経緯と扱いを説明できるようにしておきます。
    • 利益を圧縮した決算は、次の融資では返済余力の小ささに見えることがあります。税務と融資の両面から決算を設計します。
    • 融資の可否や条件は金融機関と個別の状況によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社が債務超過だと、融資は受けられませんか?

    ただちに受けられないとは限りませんが、審査上は不利な材料として見られやすい項目です。債務超過の原因、保有物件の時価で見た実質的な財務の状態、解消の見通しを、資料とともに説明できるようにしておくことが大切です。

    Q. 役員借入金は、金融機関から自己資本として見てもらえますか?

    金融機関によっては、返済を急がない代表者からの借入金を自己資本に近いものとして考慮する場合がありますが、扱いは機関ごとに異なります。借入れの経緯と返済の予定を明確にし、必要に応じて金融機関に確認してください。

    Q. 減価償却費を計上しなければ、決算の見栄えは良くなりますか?

    利益は大きく見えますが、金融機関は減価償却費を足し戻してキャッシュフローを見ることが多いため、評価が大きく改善するとは限りません。税務上の影響もあるため、償却の方針は継続性を踏まえて判断します。

    Q. 資産管理会社の融資で、オーナー個人の連帯保証は外せますか?

    経営者保証に関するガイドラインの3要件(資産・資金の区分、法人のみでの返済力、適時適切な情報開示)を満たす体制を整えることで、保証を求めない融資や保証の見直しが検討される場合があります。最終的な判断は金融機関に委ねられます。

    Q. 決算書以外に、金融機関に提出するとよい資料はありますか?

    物件別の収支表、借入金の一覧、物件の時価の目安を含む資産一覧、今後の買い増しや修繕の計画などが考えられます。決算のたびに更新しておくと、金融機関との継続的な対話に役立ちます。

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    • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、2026年、Chapter 13「融資制度」
    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、2023年、第5章「住宅ローンの基礎」(担保評価)
  • 会社で持つ物件を売るときの税金と資金の取り出し|法人税の課税、配当・役員報酬・退職金・清算の比較、株価への影響

    会社で持つ物件を売るときの税金と資金の取り出し|法人税の課税、配当・役員報酬・退職金・清算の比較、株価への影響

    資産管理会社で持っている物件を売ると、税金はどうなり、売却代金はどうすれば個人の手元に移せるのか。個人で売る場合と比べて、考えることが一段多いのが法人保有の物件の売却です。

    結論から言えば、ポイントは次の3つです。

    • 会社の課税:売却益は会社の他の損益と合算され、法人税等の対象になります。個人のような長期・短期の区分や分離課税はありません。
    • お金の取り出し:売却代金は会社のものです。個人に移すには、役員報酬・役員退職金・配当・会社の清算・会社への貸付金の返済などの方法があり、それぞれ課税のされ方が違います。
    • 株価への影響:物件が現金に変わることで、自社株の相続税評価額が上がることがあります。

    この記事では、売却から資金の取り出し、株式の承継までを一つの流れとして整理します。

    会社が物件を売ったときの課税

    売却益は「会社の所得」に合算される

    会社が不動産を売ったときの売却益は、売却価額から、帳簿価額(土地は取得価額、建物は減価償却後の未償却残高)と譲渡費用を差し引いた金額です。この売却益は、賃料収入などの他の損益と合算され、その事業年度の所得として法人税等の対象になります。

    個人の売却と比べると、主に次の違いがあります。

    項目個人で売る場合会社で売る場合
    課税の方式他の所得と分離して課税(分離課税)会社の他の損益と合算して課税
    所有期間による区分長期・短期で税率が違う区分なし
    損失が出た場合原則として他の所得と相殺できない他の損益と相殺でき、繰越欠損金にもなり得る
    売却代金の行き先個人の手元に入る会社に入る(個人に移すには別の手続と課税)

    ※国税庁 No.3202・No.2250などをもとにAEGISが整理しました。

    法人税の税率

    法人税の税率は、資本金1億円以下の中小法人などでは、年800万円以下の所得部分に軽減税率(15%。所得が年10億円を超える事業年度は17%)が適用され、それを超える部分は23.2%です(国税庁 No.5759、令和7年4月1日現在法令等)。実際の負担は、法人住民税や法人事業税などを合わせて考える必要があり、令和8年4月からは防衛特別法人税も創設されています。

    売却益が大きい年は、会社の所得が一時的に大きくなり、軽減税率の範囲を大きく超えることになります。また、法人の土地の譲渡益に対する追加課税(いわゆる土地重課)は、現在、適用が停止されています。

    会社が使える特例

    会社が事業用の資産を売って一定の資産に買い換える場合には、法人向けの「特定の資産の買換えの場合の課税の特例」があり、圧縮記帳によって売却益の課税を繰り延べられることがあります。個人の買換え特例と同じく、課税がなくなるわけではなく、買い換えた資産の帳簿価額が小さくなる仕組みです。個人の買換え特例の考え方は、関連記事「収益不動産を買い替えるときの課税の特例」で整理しています。

    売却代金を個人に移す方法を比べる

    売却で会社に入った資金は、そのままではオーナー個人のお金ではありません。個人に移す主な方法は次のとおりです。

    方法会社側個人側主な注意点
    役員報酬損金(定期同額給与などの要件あり)給与所得として総合課税売却した年だけ増額することは難しい。社会保険料も増える
    役員退職金原則として損金(不相当に高額な部分は除く)退職所得(原則、控除後の2分の1に課税)退任の実態が必要。役員勤続5年以下は2分の1計算なし
    配当損金にならない配当所得(源泉徴収のうえ総合課税、配当控除あり)法人税を払った後の利益から支払う
    会社の清算残った財産の処分益に法人税等残余財産のうち資本金等を超える部分はみなし配当会社がなくなり、承継の器も失う
    会社への貸付金の返済課税なし課税なし(元本の返済)オーナーが会社に貸し付けている残高の範囲に限られる

    ※国税庁 No.5211・No.1420・No.1330などをもとにAEGISが整理しました。

    役員報酬:売却の年だけ増やすことは難しい

    役員報酬は会社の損金になりますが、損金になるのは、毎月同額の「定期同額給与」、事前に税務署へ届け出た「事前確定届出給与」、一定の「業績連動給与」のいずれかに該当するものに限られます(No.5211)。物件が売れたからといって、事業年度の途中で役員報酬を引き上げても、原則として増額分は損金になりません。役員報酬は、売却代金を一度に移す手段というより、会社の毎年の利益を継続的に配分する手段と考えるのが現実的です。

    役員退職金:売却益と同じ年に損金が生じる

    役員退職金は、不相当に高額な部分を除いて会社の損金になり、個人の側では退職所得として、退職所得控除額を差し引いた後の2分の1が課税対象になります(No.1420)。物件の売却益が出る事業年度に役員退職金を支給すれば、会社では売却益と退職金の損金が同じ年に計上され、個人では他の所得と分けて比較的軽い負担で受け取れることになります。

    ただし、退職金には実際に退任している、または職務内容が大きく変わっている実態が必要です。また、役員としての勤続年数が5年以下の場合は「特定役員退職手当等」として2分の1の計算が適用されません(No.1420)。退職金の時期や金額の考え方は、関連記事「役員退職金はいつ・いくら支給するか」で詳しく扱っています。

    配当:法人税の後に、もう一度課税される

    配当は会社の損金にならず、法人税等を負担した後の利益から支払います。非上場株式の配当は、支払時に源泉徴収されたうえで原則として総合課税となり、配当控除の対象になります(No.1330)。所得税・住民税の税率が高い方では、法人税と配当課税の二重の負担が重くなりやすいため、大きな売却益を一度に配当で移すと負担が大きくなることがあります。

    清算:会社をたたんで残余財産を受け取る

    物件を売り終えて会社を使う予定がなくなった場合は、会社を解散・清算して、残った財産を株主に分配する方法もあります。個人株主が受け取った残余財産のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として配当所得になり、残りの部分は株式の譲渡として扱われます。会社に長年蓄積した利益を一度に受け取ることになるため、その年の個人の税負担が大きくなりやすい点に注意が必要です。解散・清算の手続と税務は、関連記事「資産管理会社の解散・清算を考えるとき」で整理しています。

    会社への貸付金の返済

    オーナーが会社に資金を貸し付けている場合、その返済を受けるのは元本の回収であり、会社・個人とも課税は生じません。物件の取得時にオーナーが資金を出している資産管理会社は多いため、売却代金の使い道を考える前に、会社とオーナーの間の貸し借りの残高を確認しておくことが出発点になります。会社とオーナーの資金の整理については、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」も参考になります。

    売却が自社株の評価に与える影響

    資産管理会社の株式を家族に引き継ぐ予定がある場合は、売却が株価(相続税評価額)にどう影響するかも確認しておく必要があります。

    純資産価額:物件が現金に変わると評価が上がりやすい

    資産管理会社の株式は、会社の資産を相続税評価額で評価し直して計算する「純資産価額」の影響を強く受けます。賃貸している土地や建物は、路線価や固定資産税評価額を基に評価され、賃貸による減額も考慮されるため、一般に時価より低く評価されます。一方、物件を売って得た現金は、そのままの金額で評価されます。そのため、物件を売却して現金に変わると、純資産価額が上がることが多くなります。

    また、純資産価額の計算では、相続税評価額と帳簿価額の差(評価差額)から法人税額等に相当する金額(現行38%)を控除できます(財産評価基本通達185・186-2)。売却によって評価差額の構成も変わるため、売却前後で株価を試算しておくことが大切です。

    さらに、売却代金で別の不動産を取得した場合、取得後3年以内の土地や建物は、通常の取引価額で評価されます(財産評価基本通達185)。買い替えた直後に相続が起きると、評価が下がらない点にも注意が必要です。

    類似業種比準価額:売却益は利益から除かれる

    会社の規模によっては、同業種の上場会社と比べる「類似業種比準価額」も株価の計算に使われます。この計算で用いる1株当たりの利益金額からは、固定資産の売却益などの非経常的な利益が除かれます(財産評価基本通達183)。売却益で会社の利益が一時的に増えても、この要素がそのまま上がるわけではありません。

    会社の区分が変わることもある

    資産のうち土地等の割合が高い会社は「土地保有特定会社」として、原則として純資産価額で評価されます。物件を売って資産の構成が変わると、この判定も変わる可能性があります。判定の考え方は、関連記事「土地保有特定会社・株式等保有特定会社とは」で扱っています。

    売却の前に決めておきたい順番

    順番確認すること
    1. 売却後の会社の役割会社を続けて別の運用に使うか、清算するか
    2. 会社の課税の見込み売却益、他の損益、繰越欠損金、法人税等の概算
    3. 貸し借りの残高オーナーから会社への貸付金、会社からの借入れ
    4. 取り出す金額と方法退職金・配当・清算・報酬の組合せと個人の税負担
    5. 株式の承継売却前後の株価、株式を誰にいつ移すか
    6. 次の運用先会社で再投資するか、個人で使うか

    ※AEGISが売却前の整理のために作成した一覧です。

    個人で保有する物件を売る場合の手取りの考え方は、関連記事「不動産を売却したとき、税引後にいくら残るか」で整理しています。

    AEGISの視点

    資産管理会社で持つ物件の売却は、「会社の税金」と「個人の税金」の二段階で考える必要があります。多くの場合、会社の段階の売却益の税金だけに目が向きがちですが、オーナー一族の手元に最終的に何が残るかは、売却後のお金を会社に残すのか、個人に移すのか、移すならどの方法を使うのかで大きく変わります。

    AEGISは、法人保有物件の売却を、会社という「器」をこれからどう使うかを決める機会だと考えています。会社を続けるなら、売却代金は次の物件や他の資産に再投資され、株式の承継の設計が重要になります。会社を閉じるなら、清算の時期と個人の税負担、家族への分け方を一緒に設計する必要があります。役員退職金は売却益と同じ年に損金を生む有力な手段ですが、オーナーが本当に退任するのか、会社の経営を誰が引き継ぐのかという判断と切り離すことはできません。

    売却の契約を結ぶ前に、会社と個人、そして次の世代の株式までを一枚の表に並べて比較すること。それが、税負担と家族の資産の両方を守る近道です。資産管理会社の全体像は、親記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

    会社と個人にまたがる資産税務・承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 会社が物件を売ったときの売却益は、会社の他の損益と合算され、法人税等の対象になります。個人のような長期・短期の区分はありません。
    • 売却代金を個人に移す方法には、役員報酬・役員退職金・配当・清算・貸付金の返済があり、会社と個人の課税のされ方がそれぞれ異なります。
    • 役員報酬は事業年度の途中で増やしても原則として損金になりません。役員退職金は退任の実態が前提です。
    • 物件が現金に変わると、純資産価額が上がり、自社株の評価が高くなることがあります。買い替えた不動産は取得後3年以内は通常の取引価額で評価されます。
    • 売却前に、会社の役割、課税の見込み、資金の取り出し方、株式の承継を順番に整理することが大切です。具体的な判断は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 会社で持っている物件を売った場合も、所有期間5年超かどうかで税率が変わりますか?

    変わりません。個人の土地・建物の売却には所有期間による長期・短期の区分がありますが、会社の売却益は他の損益と合算して法人税等が課税され、所有期間による税率の区分はありません。

    Q. 物件が売れた年に、役員報酬を増やして利益を減らすことはできますか?

    事業年度の途中で役員報酬を引き上げても、定期同額給与などの要件を満たさない増額分は、原則として損金になりません。売却の年の利益を役員報酬で調整することは難しいと考えておく必要があります。

    Q. 売却益が出る年に役員退職金を支給するのは問題ありませんか?

    役員が実際に退任する、または職務内容が大きく変わるなど退職の実態があり、金額が不相当に高額でなければ、退職金は会社の損金になります。売却益と同じ年に支給すること自体は可能ですが、退任の実態や金額の根拠が問われるため、慎重な準備が必要です。

    Q. 売却代金を配当で受け取る場合と、会社を清算して受け取る場合では何が違いますか?

    配当は会社を続けたまま利益の一部を受け取る方法で、配当所得として課税されます。清算は会社をなくして残った財産をまとめて受け取る方法で、資本金等を超える部分はみなし配当として配当所得になります。清算では会社という承継の器もなくなるため、会社を今後どう使うかと合わせて判断します。

    Q. 物件を売却すると、自社株の評価は下がりますか?

    多くの場合、上がる方向に働きます。賃貸不動産は相続税評価額が時価より低くなりやすい一方、売却代金の現金は額面で評価されるためです。会社の株式を家族に引き継ぐ予定がある場合は、売却前後で株価を試算しておくことが大切です。

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立と既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで確認します。
    • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、2014年、P.201-209
    • 『現物分配制度の実務詳解―法務・税務・会計上の取扱いと活用法』勝間田学・西村美智子・中島礼子・松下欣親・金井孝晃 著、中央経済社、2012年、P.76-86
  • 個人で買うか、資産管理会社で買うか|「次の1件」の購入名義を決める前に確認したい6つの項目

    個人で買うか、資産管理会社で買うか|「次の1件」の購入名義を決める前に確認したい6つの項目

    すでに個人で賃貸物件を持っている方や、資産管理会社を設立した方が次の物件を検討するとき、「今回は個人と会社のどちらで買うべきか」という問いに必ず突き当たります。「法人で買えば税負担を抑えられる」と聞くこともあるかもしれません。

    結論から言えば、購入名義は税率だけでは決まりません。税負担に加えて、融資の受けやすさ、管理の手間、売却したときの課税と資金の取り出し方、家族への引き継ぎ方まで並べて比べる必要があります。しかも名義は、あとから変えようとすると譲渡の課税や登記の費用がかかるため、購入前に決めることが最も負担の少ない選択になります。

    この記事は、個人保有と法人保有の考え方を比べた親記事を踏まえ、「次の1件」の名義を実際に決めるための確認項目をチェックリストとしてまとめたものです。

    先に整理しておきたい3つの前提

    チェックリストに入る前に、次の3点を整理しておくと、判断がぶれにくくなります。

    1. この物件の収益を、誰がいつ使うのか:毎年の生活費に充てるのか、再投資に回すのか、将来の家族のために蓄えるのか。
    2. すでに持っている資産と借入れの全体像:個人と会社それぞれの物件、借入残高、毎年の所得。
    3. 将来、誰に引き継ぎたいのか:配偶者、子、複数の子に分けるのか。

    この3点は、以下の6項目のすべてに関係します。

    チェック1:税負担は「毎年の税率」と「取り出すときの税」をセットで見る

    個人で物件を持つ場合、賃料から経費を差し引いた不動産所得は、給与所得などと合算して累進税率で課税されます。所得が高い方ほど、追加の不動産所得にかかる税率も高くなります。

    会社で持つ場合は、法人税等が課されます。法人税の税率は23.2%で、資本金1億円以下の中小法人などは所得のうち年800万円以下の部分に軽減税率が適用されます(法人税法第66条。租税特別措置法第42条の3の2により、令和9年3月31日までに開始する事業年度は15%。所得が年10億円を超える事業年度は17%)。このほか、地方法人税や住民税・事業税などもかかります。

    ただし、比べるべきは税率の差だけではありません。会社に残った利益を個人が使うには、役員報酬や配当として受け取る段階で、もう一度個人の税金がかかります。会社の利益を再投資や返済に回し、個人がすぐに使わないのであれば、法人保有の税率の差が生きやすくなります。反対に、収益の多くを個人の生活費に充てるのであれば、差は小さくなります。

    チェック2:融資は「誰の信用で借りるか」を確認する

    金融機関の審査の見方は、名義によって変わります。

    • 個人で借りる場合:給与などの収入、勤務先や勤続年数、既存の借入れと返済の負担割合など、個人の属性が重視されます。
    • 会社で借りる場合:会社の決算書(収益力・純資産・借入れの状況)が審査の中心になります。ただし、設立して間もない資産管理会社は決算の実績が乏しく、実際には代表者個人の収入や資産、連帯保証を前提に審査されることが少なくありません。

    確認したいのは、次の点です。

    • 今回の物件を会社で買う場合、金融機関は会社と個人のどちらの何を見るか
    • 代表者の連帯保証が求められるか
    • 個人で借りた場合に、将来の自宅購入など個人の借入れの枠にどう影響するか

    会社の決算書が融資にどう影響するかは、関連記事「資産管理会社の決算書が融資に与える影響」で詳しく整理しています。

    チェック3:管理の実態とコストを見積もる

    会社で物件を持つと、会社としての記帳・決算・法人税の申告、役員の任期管理や登記、決算を承認する手続きなどが毎年発生します。所得がなくても住民税の均等割はかかり、税理士などへの報酬も必要です。

    一方で、すでに資産管理会社がある場合は、物件を1件追加しても固定的なコストはあまり増えません。「会社を新たにつくってから買う」のか「既存の会社で買う」のかで、法人保有の負担感は大きく変わります。

    チェック4:売却時の課税と、売却代金の行き先

    物件を売却したときの課税の仕組みは、個人と会社で大きく異なります。

    個人の場合、土地・建物の譲渡所得は他の所得と分けて課税され(分離課税)、譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年を超えるかどうかで税率が変わります。所得税の税率は長期15%・短期30%で、このほか復興特別所得税と住民税がかかります(国税庁タックスアンサーNo.1440)。売却代金は、税金を納めた後、そのまま個人の資金になります。

    会社の場合、売却益は会社のその年の所得に含まれ、他の収益や費用と合わせて法人税等が計算されます。所有期間による税率の区分はありません。一方で、売却代金は会社のお金であり、個人が使うには役員報酬・配当・会社への貸付金の返済などの形で取り出す必要があります。取り出し方によって、個人側の課税が変わります。

    会社で持つ物件を売るときの税金と資金の取り出し方は、関連記事「会社で持つ物件を売るときの税金と資金の取り出し」で扱います。

    チェック5:家族への承継は「物件を渡す」か「株式を渡す」か

    承継の方法は、名義によって根本的に違います。

    個人で持つ場合は、物件そのものを相続や贈与で引き継ぎます。相続税の計算では、要件を満たせば貸付事業用宅地等として、200㎡までの部分について評価額を50%減額できる小規模宅地等の特例があります。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供した宅地等は、一定の場合を除いて対象外とされています(国税庁タックスアンサーNo.4124)。また、物件は分けにくいため、相続人が複数いると共有や分割の問題が起こりやすくなります。

    会社で持つ場合は、物件ではなく会社の株式を引き継ぎます。株式は数を分けて少しずつ贈与することができ、物件を動かさずに承継を進められる利点があります。株式の評価では、会社の資産を相続税評価額で評価し直して計算する方法(純資産価額)が使われることが多く、その際、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物は、通常の取引価額で評価することとされています(財産評価基本通達185)。購入直後の物件については、相続税評価額による評価の差が株価に反映されない点に注意が必要です。

    チェック6:あとから名義を変えるコストを知っておく

    「まず個人で買い、あとで会社に移せばよい」と考える方もいます。しかし、個人から会社へ物件を移すと、原則として個人に譲渡所得の課税が生じ、会社側では不動産取得税や登録免許税がかかります。借入れがある場合は、金融機関の承諾や借換えも必要です。

    個人保有の物件を法人へ移す前に比べるべき点は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で整理しています。

    購入名義を決めるためのチェックリスト

    ここまでの項目を、購入前に埋める一枚にまとめると次のようになります。

    確認項目個人で買う場合に確認すること会社で買う場合に確認すること
    毎年の税負担給与等と合算した税率で、追加の所得にかかる税負担法人税等の負担と、その利益を個人が受け取るときの税負担
    収益の使い道生活費に充てるか、再投資するか会社に残して再投資・返済に回せるか
    融資個人の返済負担割合、今後の個人の借入れへの影響審査で見られるのは会社の決算か個人か、連帯保証の有無
    管理の手間確定申告、帳簿の管理記帳・決算・申告・登記、均等割と専門家報酬
    売却時所有期間5年の区分による分離課税、売却代金は個人へ会社の所得として課税、売却代金の取り出し方
    承継物件そのものの分け方、小規模宅地等の特例の要件株式の分け方と評価、取得後3年以内の物件の評価
    名義変更後で会社に移すときの譲渡課税と移転コスト会社の解散・清算まで見通した出口

    すべての欄を埋める必要はありません。空欄のまま残った項目こそ、専門家と一緒に確認すべき論点です。

    AEGISの視点

    購入名義の判断でよく見られるのは、「法人のほうが税率が低いから」という一点で決めてしまうケースです。しかし、名義は一度決めると、その物件の融資、管理、売却、承継のすべてに影響し続けます。

    AEGISは、購入名義を「その物件の収益とリスクを、誰のバランスシートに置くか」という設計の問題として考えています。個人に置けば個人の信用と相続財産に、会社に置けば会社の決算と株式の価値に結び付きます。どちらにも長所と制約があり、正解は家族の状況と資産全体の構成によって変わります。だからこそ、1件ごとに場当たり的に決めるのではなく、「個人で持つ物件」「会社で持つ物件」の役割分担を先に描き、その方針に沿って次の1件の名義を決めることをおすすめしています。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    個人保有と法人保有の比較の考え方は、親記事「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で、資産管理会社の設立を検討するタイミングは関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。会社員や医師の方は、関連記事「会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に」もあわせてご覧ください。不動産と資産管理会社に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 購入名義は税率だけでなく、融資・管理・売却・承継・名義変更のコストまで並べて決めます。
    • 法人保有の税率の差は、利益を会社に残して再投資や返済に回すほど生きやすく、個人がすぐ使う場合は小さくなります。
    • 設立間もない資産管理会社の融資は、代表者個人の信用と連帯保証が前提になることが少なくありません。
    • 承継は、個人保有なら物件そのもの、会社保有なら株式を引き継ぎます。それぞれ評価や特例の要件が異なります。
    • 名義は購入前に決めるのが最も負担が少なく、具体的な有利・不利は個別事情によって異なります。
    • 保有形態によってキャッシュフローと相続税評価は大きく変わるため、取得時はもちろん取得後も持ち方を点検し、移転コストを踏まえてもメリットが大きい場合は見直しを検討します。

    よくある質問

    Q. 法人で買えば、必ず税負担は軽くなりますか?

    必ずとは言えません。会社の利益に対する税率が個人より低くても、その利益を役員報酬や配当で受け取れば個人の税金がかかります。会社の維持費用もかかるため、収益の使い道と所得の水準によって結果は変わります。

    Q. 資産管理会社を設立したばかりでも、会社名義で融資を受けられますか?

    金融機関によっては可能ですが、決算の実績がないため、代表者個人の収入・資産や連帯保証を前提に審査されることが多いのが実情です。どの書類で何を見られるかを、事前に金融機関に確認しておくことをおすすめします。

    Q. 個人で持つ物件と会社で持つ物件を混在させてもよいですか?

    問題ありません。むしろ、自宅に近い物件や長く持ち続けたい物件は個人、収益を再投資に回す物件は会社というように、役割を分けて持つ考え方もあります。大切なのは、物件ごとの名義の理由を説明できることです。

    Q. 会社で物件を買えば、相続税の評価はすぐに下がりますか?

    会社が取得してから3年以内の土地や建物は、株式の評価の計算上、通常の取引価額で評価することとされています。購入直後に評価が下がることを前提にした判断は避けたほうがよいでしょう。

    Q. 名義を決める前に、最低限そろえておく資料は何ですか?

    個人と会社それぞれの所有物件と借入残高の一覧、直近の確定申告書と決算書、検討中の物件の収支見込み、家族構成と承継の希望です。これらがそろうと、チェックリストの多くの項目を具体的な数字で比べられます。

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    • 不動産戦略と資産形成:物件選びの前に、投資規模・保有形態・融資・税務・出口を設計します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、2014年、第4編「財産管理法人の不動産税務」
  • 土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは|所有と運営を分ける意味と、税務・承継で注意したいこと

    土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは|所有と運営を分ける意味と、税務・承継で注意したいこと

    土地を事業の場として活用するとき、「土地や建物は誰が持ち、事業は誰が運営するのか」という問いは避けて通れません。オーナー個人が土地を持ち、事業はオーナーが関わる会社が運営する——このように所有と運営を分ける設計は、事業型の土地活用や、同族会社が使う不動産の扱いでよく見られる形です。

    結論から言えば、所有と運営を分ける意味は、「事業のリスクと成果」と「土地という資産」を切り分け、それぞれを適した人に、適した形で引き継げるようにすることにあります。ただし、分ければ自動的に有利になるわけではありません。分けた両者の間の貸し借りの条件を適切に設計しなければ、税務上の思わぬ課税や、承継時の混乱を招くことがあります。

    所有と運営を分ける、とはどういう形か

    所有と運営の分け方には、いくつかの典型的な形があります。

    形土地建物事業の運営両者の関係
    Aオーナー個人運営会社運営会社個人が会社に土地を貸す
    Bオーナー個人オーナー個人運営会社個人が会社に建物を貸す
    C資産管理会社資産管理会社運営会社会社間で土地・建物を貸す
    D運営会社運営会社運営会社分けない(参考)

    どの形をとるかによって、誰が建物の投資を負担するか、誰に家賃・地代が入るか、相続のときに何を誰が引き継ぐかが変わります。不動産を個人と法人のどちらで持つかの比較や、資産管理会社の活用は、それぞれ別の論点として検討が必要です。

    分けることの意味

    1. 事業のリスクと土地を切り分けられる

    事業には、業績の変動や撤退の可能性があります。土地と事業を同じ主体が持っていると、事業の不振がそのまま土地の処分につながることもあります。所有と運営を分けておけば、事業を見直す場面でも、土地を家族の資産として維持しやすくなります。

    2. 承継の担い手を分けられる

    土地を引き継ぐ人と、事業を担う人が同じとは限りません。たとえば、土地は家族全体の資産として承継しつつ、事業は経営を担える後継者や外部の事業者に委ねる、という組み立てが可能になります。

    3. 事業の売却・提携・入れ替えがしやすくなる

    運営会社の株式や事業を他者に引き継ぐ場合でも、土地は手元に残せます。逆に、事業者を入れ替えて土地を別の事業に使うことも検討しやすくなります。

    4. 収益の性格を区別して管理できる

    土地・建物から得る地代・家賃と、事業から得る利益を分けて管理することで、それぞれの採算が見えやすくなります。

    分けるときに確認したいこと

    地代・家賃の水準と契約

    所有者と運営会社が同族関係にある場合、地代や家賃をいくらにするかは、当事者だけで決められてしまいます。しかし、その水準は税務上の扱いに影響します。周辺の相場や、事業がその家賃を負担できるかを踏まえて設定し、契約書で条件を明確にしておくことが基本です。

    借地権の課税関係:法人が関わる土地の貸し借り

    特に注意したいのが、形A(個人の土地に運営会社が建物を建てる)のように、建物の所有を目的として土地を貸す場合です。

    土地の貸し借りでは、権利金や地代の授受の有無・水準によって、借地権の課税関係が変わります。個人間の無償の貸し借り(使用貸借)については、国税庁の通達で、建物の所有を目的とする使用貸借による使用権の価額は零として取り扱い、その土地を相続などで取得した場合は自用地として評価する旨が示されています。

    一方、貸し手または借り手が法人である場合は、個人間と同じ考え方にはならず、権利金を授受しないことが借地権の認定課税につながることがあります。こうした場面のために、契約で将来土地を無償で返還することを定め、その旨を税務署に届け出る「土地の無償返還に関する届出」という手続(法人税基本通達13-1-7を根拠とするもの)が設けられています。届出の有無や地代の水準によって、借地権の課税関係や、相続時の土地の評価、運営会社の株式評価への影響が変わるため、形Aを選ぶ場合は契約の段階から確認しておく必要があります。

    国税庁の通達では、土地の自用地としての価額に対しおおむね年6%程度の地代を「相当の地代」としています(法人税の取扱いでも、当分の間は年6%とされています)。権利金を受け取らずに相当の地代を受け取っている場合や、賃貸借で「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合、その土地(貸宅地)は自用地としての価額の80%で評価されます。あわせて、被相続人が同族関係者となっている同族会社に土地を貸している場合には、自用地としての価額の20%相当額が借地権の価額としてその会社の株式評価上の純資産価額に算入されます。土地と株式の両方を同じ家族が承継する場合、土地の評価が下がった分の一部が株式の評価に移る、と捉えると全体像をつかみやすくなります。

    相続時の評価と小規模宅地等の特例

    所有と運営を分けると、相続のときに土地がどの区分で評価されるかも変わります。

    • 個人の土地・建物を運営会社に貸している場合(形B)、土地は貸家の敷地として評価が検討されます。
    • 個人の土地を運営会社に貸し、会社が建物を持つ場合(形A)、土地は貸宅地として扱われ、上記の届出や地代の条件によって評価が変わります(相当の地代や無償返還の届出がある場合は自用地としての価額の80%、地代を受け取らない使用貸借で無償返還の届出がある場合は自用地としての価額)。

    小規模宅地等の特例についても、国税庁によれば、被相続人及び親族等が発行済株式等の50%超を有する一定の法人の事業(不動産貸付業等を除く)に使われていた宅地等は「特定同族会社事業用宅地等」として400㎡まで80%の減額の対象となり得ます。この区分では、相続税の申告期限においてその宅地等を取得した親族が法人の役員であることや、申告期限まで宅地等を保有することなどの要件があります。また、被相続人などから法人への土地(または建物)の貸付けが、相当の対価を得て継続的に行うものなど特例上の「事業」に当たることが前提とされており、無償(使用貸借)で貸している場合はこの区分の対象になりません。一方、運営会社の事業が不動産貸付業等にあたる場合や、要件を満たさない場合は、貸付事業用宅地等(200㎡まで50%)として検討されるか、特例の対象外となります。

    どの区分に当たるかは、土地・建物を誰が持ち、運営会社にどのような条件で貸しているか、運営会社の事業が何か、誰が引き継ぐかによって変わります。設計の段階で、承継の場面まで想定して確認しておくことが重要です。

    会社間・個人と会社間の取引を記録する

    所有者と運営会社の間では、賃貸借契約、賃料の支払い、修繕費の負担区分などを、第三者との取引と同じように書面と記録で残しておくことが大切です。後から取引の実態を説明できることが、税務上も、承継時の家族間の理解のうえでも支えになります。

    管理の手間とコスト

    主体を分ければ、契約管理、会計・申告、資金管理の手間が増えます。分けることで得られる効果が、その手間に見合うかも確認します。

    承継の設計:土地と株式をどう引き継ぐか

    所有と運営を分けた場合、承継の対象は「土地(または資産管理会社の株式)」と「運営会社の株式」の二つになります。

    • 土地の承継:誰が引き継ぐか、共有にしないか、納税資金をどう確保するか。
    • 運営会社の株式の承継:経営を担う後継者に議決権を集めるか、外部への承継も視野に入れるか。
    • 両者の関係の継続:承継後も賃貸借契約が続くこと、地代・家賃の見直しの方法を、関係者が理解しているか。
    • 意思の残し方:遺言などで、土地と株式の承継の方針を明確にしておくか。

    土地を引き継ぐ人と運営会社を引き継ぐ人が異なる場合、両者の利害は「地代・家賃の水準」で直接ぶつかります。承継の前に、その水準の考え方や見直しのルールを決めておくことが、承継後の関係を安定させます。

    AEGISの視点

    AEGISは、土地を起点とした事業を設計するとき、「誰が持つか(所有)」と「誰が営むか(運営)」を、最初から別々の問いとして扱うことを大切にしています。

    土地は、家族が長い時間をかけて受け継いできた資産です。一方、事業は、地域の需要や担い手の状況に応じて形を変えていくものです。この二つを一体で持ち続けると、どちらかの事情がもう一方を縛ることがあります。所有と運営を分けることは、土地を守りながら事業に挑戦し、事業を育てながら土地を次の世代に引き継ぐための、承継を前提とした設計だと考えています。

    ただし、その効果は、地代・家賃の設定、借地権の扱い、特例の区分といった細部の設計に支えられて初めて得られます。税務だけを見て形を決めるのではなく、事業の継続性と家族の承継の方針を先に定め、そのうえで税務上の扱いを確認する——その順番が重要です。

    賃貸以外の活用の型は関連記事「土地を貸す以外の活用方法」、選択肢全体の比べ方は「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」、評価だけで判断しない考え方は「土地活用を相続税評価だけで判断しないために」で解説しています。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    不動産の所有形態や同族会社との取引に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 所有と運営を分ける設計は、事業のリスクと土地という資産を切り分け、それぞれに合った承継を可能にするものです。
    • 典型的には、個人が土地を貸す形、個人が建物を貸す形、資産管理会社が貸す形があります。
    • 法人が関わる土地の貸し借りでは、権利金・地代・無償返還の届出の有無によって借地権の課税関係が変わります。
    • 小規模宅地等の特例の区分も、所有・貸借の形や運営会社の事業内容によって変わります。
    • 承継の前に、地代・家賃の水準と見直しのルールを決めておくことが、承継後の関係を安定させます。

    よくある質問

    Q. 土地を持つ人と事業を運営する会社を分けると、節税になりますか?

    分けること自体が節税を目的とするものではありません。分ける意味は、事業のリスクと土地の切り分けや、承継の担い手を分けられることにあります。税務上の扱いは、地代・家賃の水準や貸し借りの形によって有利にも不利にもなり得るため、個別に確認が必要です。

    Q. 自分の土地に、自分が経営する会社の建物を建てる場合、何に注意すべきですか?

    建物の所有を目的として法人に土地を貸すことになるため、権利金や地代の扱いによって借地権の認定課税の問題が生じることがあります。契約で将来の無償返還を定めて税務署に届け出る「土地の無償返還に関する届出」の手続もあるため、建築前の段階で確認しておくことが大切です。

    Q. 家族の会社に土地を無償で貸すことはできますか?

    当事者間の契約としては可能ですが、貸し手または借り手が法人である場合は、個人間の使用貸借と同じ考え方にはならず、税務上の課税関係が生じることがあります。地代の水準や届出の要否を含めて、事前に確認することをおすすめします。

    Q. 特定同族会社事業用宅地等とは何ですか?

    小規模宅地等の特例の区分の一つで、被相続人及び親族等が発行済株式等の50%超を有する一定の法人の事業(不動産貸付業等を除く)に使われていた宅地等をいいます。国税庁によれば400㎡まで80%の減額の対象となり得ますが、申告期限において宅地等を取得した親族が法人の役員であることや、宅地等を保有し続けることなどの要件があります。なお、法人への貸付けが無償(使用貸借)の場合は対象になりません。

    Q. 土地と運営会社の株式を、別々の子に引き継いでも問題ありませんか?

    可能ですが、承継後は地代・家賃の水準をめぐって両者の利害が対立することがあります。承継の前に、賃貸借の条件や見直しのルール、遺言などによる承継方針を明確にしておくことが望まれます。

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    • 事業創造型土地活用:保有する土地・建物に合う事業を検討し、開業・運営から相続の備え、承継までを一体で考えます。
    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 資産管理会社はいつ設立を検討すべきか|税率差だけで決めないための比較の軸

    資産管理会社はいつ設立を検討すべきか|税率差だけで決めないための比較の軸

    賃貸不動産からの収入が増えてくると、「そろそろ資産管理会社を作ったほうがよいのでは」と考えるオーナーは少なくありません。個人の所得税は累進課税であるため、収入が増えるほど税負担が重くなり、法人で受けたほうが有利に見える場面が出てくるからです。

    ただし、資産管理会社は一度作ると、その会社自体を管理し、いずれは次の世代に引き継ぐ必要がある「もう一つの財産」です。税率の差だけを見て設立すると、維持の手間や、不動産を移すときの税金、将来の株式の承継といった論点が後から表面化することがあります。

    結論から言えば、資産管理会社の設立を検討するタイミングは、「所得水準」「不動産の移し方」「家族と承継の見通し」の3つがそろって見えたときです。この記事では、設立の判断に必要な比較の軸を整理し、関連する論点への入口をまとめます。

    資産管理会社とは

    資産管理会社とは、一般に、オーナーやその家族が不動産や有価証券などの財産を保有・管理するために設立する会社をいいます。法律上の特別な会社形態があるわけではなく、多くは株式会社や合同会社として設立され、オーナー一族が株式(持分)を持ちます。

    不動産オーナーの場合、資産管理会社の関わり方には大きく次のような形があります。

    関わり方不動産の所有者会社が受け取る収入特徴
    管理を受託する個人のまま管理料移転の負担は小さいが、会社に移る収入は管理業務の対価の範囲に限られる
    一括で借り上げて転貸する個人のまま転貸による家賃差額収入の一部を会社に移せるが、賃料設定の合理性が問われる
    建物を会社が所有する土地は個人、建物は会社など家賃収入収入の大部分が会社に入るが、建物の移転時の税金や、土地の貸し借りの整理が必要
    土地・建物とも会社が所有する会社家賃収入移転時の負担が大きく、資金調達の検討も必要
    新たに取得する不動産から会社で買う会社家賃収入既存物件を動かさずに始められる

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した分類です。実際にどの形が適しているかは、物件の状況や家族構成によって異なります。

    どの形をとるかによって、会社に入る収入の大きさも、最初にかかる費用も、将来の承継の形も変わります。「資産管理会社を作るかどうか」は、実は「どの形で、どこまで法人に移すか」という問いと一体です。

    なぜ資産管理会社が検討されるのか

    資産管理会社が検討される主な理由は、次の3つに整理できます。

    1. 個人と法人の税率構造の違い

    個人の所得税は超過累進税率で、国税庁によれば税率は5%から45%までの7段階に分かれ、課税所得金額が4,000万円以上の部分には45%が適用されます(令和8年4月1日現在法令等)。これに住民税(所得割は原則10%)が加わります。

    一方、法人税の税率は、資本金1億円以下の中小法人であれば年800万円以下の所得部分に15%の軽減税率があり(所得が年10億円を超える事業年度は17%)、それ以外の部分は23.2%とされています(国税庁、令和7年4月1日現在法令等)。実際の負担は、法人住民税や法人事業税なども含めて考える必要があります。

    このため、不動産所得が大きいオーナーほど、収入を法人で受けることで、個人の高い税率が適用される部分を減らせる可能性があります。

    2. 家族への所得の分配

    法人で収入を受けると、実際に業務に従事している家族に、その職務に見合った役員報酬や給与を支払うことができます。所得が一人に集中しないことで、家族全体としての税負担や、将来の納税資金の準備に違いが生じます。ただし、報酬や給与は実際の職務内容に見合っていることが前提です。

    3. 個人に財産が積み上がるスピードの調整

    不動産を個人で持ち続けると、毎年の手取り収入がオーナー個人の財産として積み上がり、将来の相続財産を増やします。法人で受ける形にすると、収入の一部は会社に蓄積され、オーナー個人の財産の増え方が変わります。ただし、会社に蓄積された財産は、オーナーが保有する株式の評価に反映されるため、「相続税の対象から外れる」わけではない点に注意が必要です。

    設立の判断で比較すべき5つの軸

    資産管理会社の設立は、税率の比較だけでは判断できません。AEGISでは、次の5つの軸で比較することをおすすめしています。

    比較の軸確認すること見落としやすい点
    ① 所得と税負担不動産所得の水準、他の所得との合計、今後の見通し借入金の返済が進むと、所得と手元資金の関係が変わる
    ② 設立・維持の負担設立費用、税理士報酬、法人住民税の均等割、記帳・決算の手間赤字でも毎年かかる費用がある
    ③ 不動産の移し方管理委託・転貸・建物移転・新規取得のどれを選ぶか移転時に譲渡所得税・登録免許税・不動産取得税などがかかり得る
    ④ 資金の流れ会社と個人の間の貸し借り、役員報酬、配当の設計会社のお金と個人のお金の境界が曖昧になりやすい
    ⑤ 会社の承継株主構成、議決権、株式の評価、後継者会社が「承継しにくい財産」になることがある

    以下、それぞれの軸について見ていきます。

    ① 所得と税負担:一時点ではなく「今後10年」で見る

    設立の判断でまず確認するのは、不動産所得の水準と、給与所得や事業所得など他の所得との合計です。累進税率のどの段階に該当しているかによって、法人で受けることの効果は大きく異なります。

    ここで注意したいのは、判断を一時点の所得で行わないことです。借入金で取得した物件は、当初は減価償却費や支払利息が大きく所得が小さく見えても、年数の経過とともに所得が増えていくことがあります。反対に、大規模修繕や建替えの時期には支出が増えます。今後10年程度の収支の見通しの中で、どの時期に法人化の効果が大きくなるかを見ることが大切です。

    ② 設立・維持の負担:毎年かかるコストを見込む

    法人を設立すると、設立時の登記費用などのほか、毎年の決算・申告、記帳、会社としての手続きが必要になります。法人住民税には、所得がなくても課される均等割があります。税理士などの専門家に依頼する費用も継続的に発生します。

    法人化による税負担の軽減額が、これらの維持コストを安定的に上回るかどうかは、設立前に確認しておきたい点です。また、役員報酬を支払う場合には、社会保険の取扱いも含めて、個人と会社を合わせた手取りで比較することが必要です。

    ③ 不動産の移し方:移転時の税金と、土地の貸し借り

    既に個人で保有している不動産を会社に移す場合、売買などの移転に伴って、個人側には譲渡所得の課税、会社側には登録免許税や不動産取得税などの負担が生じ得ます。また、時価より著しく低い価額で法人に移すと、時価で譲渡したものとみなされる規定もあります(国税庁 No.3105)。

    さらに、建物だけを会社に移して土地を個人に残す場合には、土地の貸し借りを税務上どう整理するか(借地権の問題)が重要な論点になります。移転の方法ごとの比較は、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で詳しく解説しています。

    既存物件を動かさず、今後新たに取得する物件から会社で購入するという始め方もあります。移転時の負担を避けられる一方、会社に信用力がない段階での借入れなど、資金調達面の検討が必要です。

    ④ 資金の流れ:会社と個人の境界を最初に決める

    資産管理会社では、オーナー個人と会社の間でお金の貸し借りが生じやすく、事業会社を別に経営している場合には、会社同士の資金移動も起こります。こうした資金の流れは、利息や契約の整え方によって税務上の取扱いが変わることがあります。

    設立の時点で「会社のお金」と「個人のお金」の境界、報酬や配当の考え方を決めておくと、後の整理が格段に楽になります。詳しくは関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で解説しています。

    ⑤ 会社の承継:「会社を誰に渡すか」まで考える

    資産管理会社を作ると、オーナーが将来引き継ぐ財産は、不動産そのものから「会社の株式」に置き換わります。株式であれば分けやすいと考えられがちですが、株式が相続人に分散すると、会社の意思決定(物件の売却や借入れ、役員の選任など)が難しくなることがあります。

    また、不動産を多く保有する会社の株式は、相続税の評価上、「土地保有特定会社」などの特定の評価会社に該当し、純資産価額を中心に評価されることがあります。会社の株式と経営権を次の世代にどう渡すかについては、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で解説しています。

    設立を検討しやすいタイミングの例

    上記の5つの軸を踏まえると、次のような場面は、資産管理会社の設立を具体的に検討しやすいタイミングといえます。

    • 不動産所得が増え、個人の税率が高い段階に達しているとき:他の所得と合わせて、累進税率の高い部分に該当している状態が続く見込みがある場合
    • 新たな物件の取得を予定しているとき:既存物件を移さずに、新規取得分から法人で始められる
    • 借入金の返済が進み、所得が増えてきたとき:減価償却や利息の効果が小さくなり、税負担が重く感じられるようになった段階
    • 家族が不動産の管理に関わり始めたとき:配偶者や子が実際に管理業務を担い始め、役割と報酬を整理する必要が出てきた場合
    • 相続・承継の方針を考え始めたとき:誰に、どの財産を、どの形で渡すかを整理する中で、所有形態を見直す必要が出てきた場合

    反対に、所得がそれほど大きくない段階や、近い将来に物件の売却を予定している場合、家族の方針が定まっていない場合には、設立を急ぐ必要がないこともあります。

    実務上注意したいポイント

    相続税の特例との関係を確認する

    個人が保有する土地には、一定の要件のもとで相続税の課税価格を減額する「小規模宅地等の特例」があります。国税庁によれば、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%、特定同族会社事業用宅地等は400㎡まで80%の減額とされていますが、特定同族会社事業用宅地等の対象となる法人の事業からは、不動産貸付業や駐車場業などが除かれています(国税庁 No.4124)。

    資産管理会社を設立して土地や建物の所有関係を変えると、こうした特例の適用区分も変わり得ます。所有形態の変更を検討する際は、相続税への影響もあわせて確認することが大切です。

    「会社が持つ財産」と「株式の価値」はつながっている

    法人化しても、会社の財産が増えれば、オーナーが保有する株式の評価も上がります。会社に利益を貯めるのか、報酬や配当として個人に移すのか、その配分は税負担と承継の両面から考える必要があります。

    実態のある会社として運営する

    資産管理会社は、記帳や契約、意思決定の記録など、会社としての実態を備えて運営することが前提です。家族への報酬も、実際の職務に見合ったものである必要があります。形式だけの会社では、期待していた効果が得られないだけでなく、税務上の問題につながることもあります。

    AEGISの視点

    資産管理会社は、節税の手法として語られることの多いテーマです。しかしAEGISは、資産管理会社を「不動産の所有と経営を、家族の中でどう分担し、どう引き継いでいくかを形にする器」と捉えています。

    同じ不動産でも、個人で持つか、法人で持つかによって、毎年の税負担だけでなく、キャッシュフローの使い道、管理の担い手、売却や建替えの意思決定の仕方、そして次の世代への渡し方が変わります。税率の差は判断材料の一つにすぎず、本当に問うべきは「この不動産を、誰が、どのような責任と権限をもって持ち続けるのか」という所有の設計です。

    そのためAEGISでは、資産管理会社の設立を単独の対策として切り出すのではなく、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として整理したうえで、その中に会社をどう位置付けるかを考えることを重視しています。最初の一歩は、精緻な税額試算よりも、保有不動産の一覧と、家族それぞれの役割や意向を書き出してみることです。

    不動産の評価や、法人との関係を含む不動産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 資産管理会社の設立は、「作るかどうか」ではなく「どの形で、どこまで法人に移すか」という所有形態の選択です。
    • 判断の軸は、所得と税負担、設立・維持の負担、不動産の移し方、資金の流れ、会社の承継の5つです。
    • 税率の比較は一時点ではなく、今後10年程度の収支の見通しの中で行うことが大切です。
    • 既存不動産の移転には税負担や借地権の整理が伴うため、新規取得分から法人で始める方法も選択肢になります。
    • 会社を作ると、将来引き継ぐ財産は「株式」に置き換わります。株主構成や議決権まで含めて設計することが重要です。

    具体的にどの形が適しているかは、所得の状況、保有不動産の内容、家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 不動産所得がいくらになったら、資産管理会社を作るべきですか?

    一律の金額基準はありません。個人の税率は他の所得との合計で決まり、法人化の効果は、設立・維持の費用、不動産の移し方、家族への報酬の有無などによって大きく変わります。現在の所得だけでなく、今後10年程度の収支の見通しの中で比較することが現実的です。

    Q. 既に持っている不動産も、会社に移さないと意味がないのですか?

    必ずしもそうではありません。管理の受託や一括借上げのように所有者を変えずに会社を関与させる方法や、今後新たに取得する物件から会社で購入する方法もあります。既存物件の移転には譲渡所得税などの負担が生じ得るため、移す場合と移さない場合を比較したうえで判断することが大切です。

    Q. 資産管理会社を作れば、相続税は必ず下がりますか?

    必ず下がるとは言えません。会社に蓄積された財産は株式の評価に反映されますし、土地の所有関係を変えることで小規模宅地等の特例の適用区分が変わることもあります。相続税への影響は、所有形態の変更前後を比較して確認する必要があります。

    Q. 家族を役員にして報酬を払えば、所得を分散できますか?

    家族が実際に管理業務などに従事しており、その職務に見合った報酬であれば、報酬の支払いを通じて所得が家族に分配されることになります。ただし、実態のない報酬や、職務内容に比べて過大な報酬は、税務上の問題につながる可能性があります。

    Q. 資産管理会社の株式は、誰が持つのがよいですか?

    一概には言えません。オーナーが全株を持つ方法、子などの後継者が設立時から株式を持つ方法などがあり、相続税の負担、会社の意思決定の安定性、家族間の公平などの観点から比較が必要です。設立時の株主構成は後から変えるのに手間がかかるため、最初の段階で慎重に検討することが望まれます。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。
    • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の検討から取得後の管理までつなぎます。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 個人保有の不動産を法人へ移す前の比較|移転時の税金・借地権・管理・承継をどう比べるか

    個人保有の不動産を法人へ移す前の比較|移転時の税金・借地権・管理・承継をどう比べるか

    資産管理会社を設立したあと、あるいは設立を検討する段階で、多くのオーナーが直面するのが「今、個人で持っている不動産を会社に移すべきか」という問いです。

    法人で家賃を受け取れば毎年の税負担が軽くなる可能性がある一方で、不動産を移すには、その時点で税金や費用がかかります。さらに、建物だけを移して土地を個人に残す場合には、土地の貸し借りをどう整理するかという、借地権特有の論点が生じます。

    結論から言えば、移転の判断は「移転時に一度かかる負担」と「移転後に毎年続く効果」を、管理の手間と将来の承継まで含めて比べることが基本です。この記事では、比較の際に確認すべき項目を、移す方法ごとに整理します。

    不動産を法人へ移す主な方法

    個人の不動産を法人に関与させる方法は、大きく次のように分けられます。

    方法内容移転時の負担会社に入る収入
    移さない(管理委託・一括借上げ)所有は個人のまま、会社が管理や転貸を担う小さい管理料・転貸差額に限られる
    建物のみを売買建物を会社に売り、土地は個人に残す中程度(建物分)+借地権の整理家賃収入の大部分
    土地・建物を売買不動産全体を会社に売る大きい(土地分を含む)家賃収入の全体
    現物出資不動産を会社に出資し、株式を受け取る売買と同様に譲渡所得の課税が生じ得る家賃収入
    贈与不動産を会社に無償で移す時価で譲渡したものとみなされる家賃収入

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した比較です。実際の負担は物件の状況によって大きく異なります。

    実務では、移転時の負担を抑えつつ家賃収入を会社に移すため、建物だけを会社に売却し、土地は個人に残す方法が検討されることが多くあります。ただし、この方法には後述する借地権の整理が欠かせません。

    移転時にかかる税金と費用

    個人側:譲渡所得の課税

    不動産を会社に売却すると、売却益(譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額)に対して、個人に譲渡所得の課税が生じます。国税庁によれば、譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年を超える土地・建物の譲渡は長期譲渡所得となり、所得税15%(ほかに復興特別所得税として所得税額の2.1%)と住民税5%が課されます(国税庁 No.3208)。所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり、所得税30%(ほかに復興特別所得税)と住民税9%が課されます(国税庁 No.3211)。令和9年分以後は、復興特別所得税が基準所得税額の1.1%(令和8年分までは2.1%)に引き下げられ、あわせて防衛特別所得税(同1%)が課されます(財務省「令和8年度税制改正の解説」)。

    建物は減価償却によって帳簿上の価額(取得費)が下がっているため、取得から年数が経っている場合、売却価額によっては譲渡益が生じることがあります。土地は取得時期が古いほど取得費が低く、譲渡益が大きくなりやすい点に注意が必要です。

    時価より低い価額での移転には注意

    同族の会社だからといって、価額を自由に決められるわけではありません。国税庁によれば、法人に対する贈与や、時価の2分の1未満の価額による譲渡は、時価で資産の譲渡があったものとみなされます(国税庁 No.3105)。

    また、時価の2分の1以上の価額であっても、同族会社への譲渡が同族会社等の行為計算の否認(所得税法157条)に該当する場合には、時価で譲渡所得を計算されることがあります(所得税基本通達59-3)。さらに、時価より著しく低い価額で同族会社に譲渡して会社の株式の価額が増加した場合には、他の株主がその増加分を譲渡者から贈与により取得したものとして扱われることもあります(相続税法基本通達9-2)。買い取る会社の側でも、時価より低い価額で取得した場合には、その差額が受贈益として扱われることがあります。移転価額は、不動産鑑定評価などの客観的な根拠をもって説明できるものにしておくことが基本です。

    会社側:登録免許税・不動産取得税

    会社が不動産を取得すると、所有権移転登記の登録免許税と、不動産取得税(都道府県税)の負担が生じ得ます。

    国税庁によれば、売買による所有権移転登記の登録免許税は、課税標準(原則として固定資産課税台帳に登録された価格)の1,000分の20とされ、土地については令和11年3月31日までの登記は1,000分の15に軽減されています(国税庁 No.7191)。

    不動産取得税は、地方税法上の標準税率が4%で、土地と住宅は令和9年3月31日までの取得について3%とされ、宅地等(宅地評価土地)は同日までの取得について課税標準を価格の2分の1とする特例があります(地方税法73条の15、附則11条の2・11条の5)。実際の税率や軽減措置の適用は、不動産の種類や取得時期によって異なるため、所在地の都道府県で確認が必要です。

    その他の費用

    このほか、次のような費用や手続きも比較に含めておく必要があります。

    • 不動産鑑定評価など、移転価額の根拠をつくる費用
    • 司法書士報酬などの登記費用
    • 建物の譲渡に関する消費税(売り手である個人が消費税の課税事業者である場合など)
    • 物件に紐づく借入金の扱い(金融機関との協議、借換えの要否)
    • 入居者・管理会社への貸主変更の通知、敷金の引継ぎ、火災保険などの名義変更

    建物だけを移す場合:借地権の整理が要になる

    なぜ借地権が問題になるのか

    建物を会社に移し、土地を個人に残すと、「会社が個人の土地の上に建物を所有している」状態になります。これは、税務上、会社が個人から土地を借りている関係です。

    借地権の取引慣行がある地域では、土地を借りて建物を建てる(所有する)ときに、借主が地主に権利金を支払うのが通常とされています。権利金を支払わずに土地を借りると、借主である会社が、本来支払うべき借地権相当額の利益を受けたもの(受贈益)として課税されるおそれがあります。

    主な整理の方法

    権利金を授受しない場合の主な整理の方法は、次のとおりです。

    方法内容主な留意点
    権利金を支払う会社が個人に借地権の対価を支払う会社に資金が必要。個人側は受け取った権利金の額によって課税関係が生じる
    相当の地代を支払う権利金の代わりに、土地の価額に対しおおむね年6%程度の地代(「相当の地代」)を支払う(相続税では自用地としての価額の過去3年平均、法人税では更地価額が基準)地代が高くなり、会社の収益を圧迫しやすい
    土地の無償返還に関する届出将来、土地を無償で返還する旨を契約で定め、税務署に届け出る地代の水準によって、個人の土地や会社の株式の評価に影響する
    使用貸借地代を支払わない(固定資産税相当額以下を含む)法人が関わる貸借では、個人間の使用貸借と同じ扱いにはならない点に注意

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した比較です。

    国税庁によれば、「土地の無償返還に関する届出」は、借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められている場合に、法人と借地人の連名で、遅滞なく提出する手続です。土地所有者が個人である場合であっても提出することができるとされています(国税庁「土地の無償返還に関する届出」、法人税基本通達13-1-7)。

    地代の水準が、相続・株式評価にも影響する

    どの方法で整理するか、地代をいくらにするかは、移転時の課税だけでなく、将来の相続にも関わります。

    • 地主である個人の側:土地は「会社に貸している土地」として評価されることになり、地代の授受の状況や届出の有無によって評価の方法が異なります。国税庁の通達では、相当の地代を収受している場合や「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合、その土地(貸宅地)は自用地としての価額の80%で評価するとされています。なお、無償返還の届出があっても地代を受け取らない使用貸借の場合は、自用地としての価額で評価されます。
    • 会社の側:地主である個人が、土地を借りている同族会社の同族関係者である場合には、自用地としての価額の20%相当額を借地権の価額として、その会社の株式の評価上、純資産価額に算入する取扱いがあります(昭和43年の国税庁通達を、昭和60年の通達で無償返還の届出がある場合にも適用)。土地の評価が下がる分の一部が、株式の評価に反映される仕組みです。
    • 小規模宅地等の特例:国税庁によれば、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%の減額とされていますが、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として対象から除かれます(相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け〔特定貸付事業〕を続けていた場合を除く)。また、特定同族会社事業用宅地等の対象となる法人の事業からは、不動産貸付業や駐車場業などが除かれています(国税庁 No.4124)。

    建物を会社に移したあとも、土地をどう持ち、どの条件で会社に貸すかによって、オーナー個人の相続の姿が変わります。

    移転後の効果と、移転時の負担を比べる

    移転の判断では、移転時に一度かかる負担と、移転後に毎年続く効果を、同じ時間軸の上で比べることが大切です。

    1. 移転時の負担を合計する:譲渡所得税、登録免許税、不動産取得税、鑑定・登記などの費用
    2. 毎年の効果を見積もる:個人と法人の税負担の差、家族への報酬による分配、会社の維持コスト
    3. 何年で回収できるかを見る:移転時の負担を、毎年の効果で何年かけて取り戻せるか
    4. その期間、物件を持ち続けるかを確認する:大規模修繕、建替え、売却の予定と整合しているか

    たとえば、近い将来に売却や建替えを予定している物件を移転すると、効果が出る前に次の負担が生じることがあります。反対に、長期保有を前提とする収益性の高い物件では、移転時の負担を時間をかけて回収できる場合もあります。

    管理と承継の観点で確認したいこと

    管理:会社として物件を運営できるか

    移転後は、会社が貸主として入居者との契約、修繕、会計を担うことになります。誰が実際に管理を担うのか、管理会社との契約をどうするのか、会社としての記帳や決算を継続できるかを、移転前に確認しておく必要があります。

    承継:不動産が「株式」に置き換わる

    不動産を会社に移すと、オーナーが将来引き継ぐ財産は、個々の不動産から会社の株式に置き換わります。

    • 共有を避けやすくなる:不動産を複数の相続人で共有する事態は避けやすくなります。
    • 一方で、株式が分散すると意思決定が難しくなる:相続人が株式を分けて持つと、物件の売却や借入れなど会社の重要な判断がまとまらなくなることがあります。
    • 特定の物件を特定の相続人に渡しにくくなる:個人で持っていれば「この物件は長男に」と分けられたものが、会社の中では一体になります。

    どの物件を会社に移し、どの物件を個人に残すかは、家族の誰に何を渡したいかという承継の方針と合わせて決めることが重要です。会社の株式と経営権の承継については、関連記事「資産管理会社の株式と経営権の承継」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 全物件を一度に移さない:物件ごとに移転時の負担と効果は異なります。効果の大きい物件から段階的に検討する方法もあります。
    • 移転価額の根拠を残す:同族間の取引では、価額の妥当性が問われやすくなります。鑑定評価などの資料を保存しておきます。
    • 借入金の扱いを先に金融機関と相談する:物件に担保が設定されている場合、所有者の変更には金融機関の理解が必要です。
    • 契約書と届出をそろえる:土地の賃貸借契約書、無償返還の定め、届出書の控えなど、借地関係を説明できる書類を整えておきます。
    • 相続税の試算を移転前後で比較する:土地の評価、小規模宅地等の特例、会社の株式評価の変化を合わせて確認します。

    AEGISの視点

    不動産の法人化は、「法人のほうが税率が低いから移す」という単純な話ではありません。AEGISは、個人から法人への移転を「同じ不動産について、所有者・収益の受け手・管理の担い手・将来の承継者を組み替える設計」と捉えています。

    建物だけを移すのか、土地も移すのか、それとも移さずに管理だけを会社に任せるのか。この選択は、毎年の税負担だけでなく、地代という形で個人と会社の間に新しい資金の流れをつくり、土地と建物の所有者を分け、相続のときの財産の姿を変えます。どの方法が正解かは、物件の収益性、保有期間の見通し、家族の構成と意向によって異なります。

    だからこそ、移転を検討するときには、税額の試算から始めるのではなく、まず「この物件を、今後誰が、どのくらいの期間、どのような目的で持つのか」を言葉にしてみることをおすすめします。その答えが、移すべき物件と、移し方を自然に絞り込んでくれます。

    資産管理会社の設立タイミングを含む全体像は関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で、個人保有と法人保有の基本的な比較は「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で解説しています。

    不動産の評価や法人との関係を含む不動産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 不動産を法人へ移す判断は、「移転時に一度かかる負担」と「移転後に毎年続く効果」を同じ時間軸で比べることが基本です。
    • 移転時には、個人の譲渡所得税、会社の登録免許税・不動産取得税などがかかり得ます。時価の2分の1未満の価額による法人への譲渡は、時価で譲渡したものとみなされます。
    • 建物だけを移す場合は、借地権の整理(権利金・相当の地代・土地の無償返還に関する届出など)が欠かせません。
    • 整理の方法や地代の水準は、個人の土地の評価、会社の株式評価、小規模宅地等の特例にも影響します。
    • 不動産は会社の株式に置き換わるため、どの物件を移すかは承継の方針と合わせて決めることが重要です。

    具体的な課税関係や最適な方法は、物件の状況や家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 建物だけを会社に売れば、譲渡所得税はかかりませんか?

    建物の売却でも、売却価額が建物の取得費(減価償却後の金額)を上回れば、譲渡所得の課税が生じます。また、価額を低く設定しすぎると、時価で譲渡したものとみなされたり、会社側で受贈益が生じたりすることがあります。客観的な根拠のある価額で移転することが大切です。

    Q. 「土地の無償返還に関する届出書」は、地主が個人でも出せますか?

    国税庁の手続案内では、土地所有者が個人である場合であっても提出することができるとされています。届出は、契約書で将来の無償返還が定められていることを前提に、法人と借地人(または土地所有者)の連名で、遅滞なく提出します。

    Q. 会社が個人に地代を払わなければ、問題はありませんか?

    法人が関わる土地の貸し借りでは、個人間の使用貸借と同じようには扱われず、借地権の認定課税の問題が生じることがあります。地代を支払わない場合でも、無償返還の定めと届出などによって整理しておく必要があります。また、地代の有無は、相続時の土地や株式の評価にも影響します。

    Q. 不動産を会社に移すと、小規模宅地等の特例は使えなくなりますか?

    一概には言えません。土地を個人に残して会社に貸す場合には、貸付事業用宅地等として特例の対象となる可能性がありますが、相続開始前3年以内に新たに貸し付けた宅地等は原則として対象外とされています(相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け〔特定貸付事業〕を続けていた場合を除く)。移転の前後で適用区分がどう変わるかを確認することが大切です。

    Q. すべての物件を一度に会社へ移したほうがよいですか?

    必ずしもそうではありません。物件ごとに、移転時の負担、毎年の効果、今後の保有期間の見通しが異なります。効果の大きい物件から段階的に検討する方法や、新たに取得する物件から会社で購入する方法も選択肢になります。

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    • 資産管理会社:資産管理会社の設立や既存法人の見直しを、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで含めて検討します。
    • 不動産の最適保有設計(POD):不動産の取得・保有の形を税引後の手残りから設計し、物件の検討から取得後の管理までつなぎます。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『二訂版 実務家必携 実務借地権課税』中野欣治 編、一般財団法人大蔵財務協会、P.7-34、P.132-140
    • 『実務家のための要点・譲渡所得【第一編 総説・不動産譲渡の特例等関係】』塩野入文雄 著、法令出版、P.3-7
  • 一般社団法人を使った資産承継は今も使えるか|特定一般社団法人等への相続税課税と、財産を移すときの税金

    一般社団法人を使った資産承継は今も使えるか|特定一般社団法人等への相続税課税と、財産を移すときの税金

    「一般社団法人には持分がないので、財産を移しておけば相続税がかからない」——こうした説明を聞いたことがあるかもしれません。

    結論からいうと、この考え方は、そのままでは現在通用しません。平成30年度税制改正で相続税法66条の2が設けられ、親族が理事の過半を占めるなどの「特定一般社団法人等」では、理事が亡くなったときに法人そのものに相続税が課されるようになりました。また、財産を法人に移す段階でも、贈与税・所得税・法人税の課税関係を個別に検討する必要があります。

    一方で、一般社団法人は、公益的な活動や長期の財産管理の「器」としては今も意味のある選択肢です。この記事では、課税の見直しの内容と、それを踏まえた一般社団法人の使い方を整理します。

    なぜ「相続税がかからない」と言われたのか

    株式会社の場合、オーナーが会社の株式を持っていれば、その株式は相続財産になります。これに対して一般社団法人・一般財団法人には、出資者が持つ「持分」がありません。理事や社員が亡くなっても、法人の財産が誰かの相続財産になることはありません。

    この仕組みに着目して、次のような手法が広まりました。

    • 親族を理事とする一般社団法人を設立する
    • 不動産や自社株などを、その法人に売却または贈与する
    • 法人の運営は親族が担い、次の世代は理事の交代で引き継ぐ

    財産を法人に移した後は、世代が変わっても相続税の課税機会がなくなる、という発想です。これに対して、相続税の公平な負担の観点から問題視する指摘があり、税制による手当てが行われました。

    現在の課税関係:3つの段階で考える

    一般社団法人を使った資産承継の課税は、財産を移すとき、法人が保有している間、理事が亡くなったときの3つの段階で整理すると理解しやすくなります。

    段階主な課税根拠ポイント
    財産を移すとき(個人→法人)個人:みなし譲渡の所得税/法人:受贈益への法人税、一定の場合は贈与税・相続税所得税法59条、相続税法66条4項売買の場合も価格が時価より低いと課税関係が生じ得る
    法人が保有している間法人の所得に対する法人税法人税法非営利型法人かどうかで課税範囲が変わる
    理事が亡くなったとき特定一般社団法人等に相続税相続税法66条の2同族理事の割合と、理事退任後の期間で判定

    ※AEGIS作成。具体的な課税関係は財産の種類や法人の区分によって異なります。

    財産を移すとき

    個人が不動産や株式を法人に贈与すると、所得税法59条により、時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に所得税が課税されます。法人に著しく低い価額で売却した場合も、同様の扱いとなることがあります。

    さらに、持分の定めのない法人に財産を贈与・遺贈した場合で、贈与者の親族などの相続税・贈与税の負担が不当に減少すると認められるときは、法人を個人とみなして贈与税・相続税が課されます(相続税法66条4項)。不当減少に当たらないとされるには、運営組織が適正で役員等に占める親族等の割合が3分の1以下である旨の定めがあること、特別の利益を与えないこと、残余財産の帰属先の定めがあることなどの要件をすべて満たす必要があります(相続税法施行令33条3項)。

    一般社団法人・一般財団法人の場合は、これに加えて、贈与の時点で定款に上記の定めがあること、贈与前3年以内に贈与者等へ特別の利益を与えていないこと、贈与前3年以内に重加算税等を課されていないことのいずれかを欠くと、不当減少と認められるものとされています(同条4項)。

    理事が亡くなったとき:特定一般社団法人等への相続税

    相続税法66条の2は、次のように定めています。

    • 対象:一般社団法人・一般財団法人のうち、公益社団・公益財団法人や非営利型法人などを除いたもの(一般社団法人等)
    • 特定一般社団法人等に当たる要件(いずれか)
    • 理事の相続開始の直前に、同族理事の数が理事総数の2分の1を超えていること
    • 相続開始前5年以内に、同族理事が理事総数の2分の1を超える期間の合計が3年以上あること
    • 課税の対象となる死亡:理事である者のほか、理事でなくなった日から5年を経過していない者の死亡を含む
    • 課税額の考え方:法人の純資産額を「同族理事の数+1」で割った金額を、亡くなった理事から遺贈により取得したものとみなし、法人を個人とみなして相続税を課す

    「同族理事」とは、亡くなった理事の配偶者、三親等内の親族その他一定の特殊の関係がある者である理事をいいます(国税庁タックスアンサーNo.4143)。法人に財産を移した時点で贈与税等が課されていた場合は、その税額を控除する仕組みもあります。

    つまり、親族中心で運営する一般社団法人ほど、理事の相続のたびに課税が生じ得る構造になっています。理事を退任しても5年間は対象に残るため、相続直前に退任するといった方法も実効性が限られます。

    税務否認のリスク

    条文上の要件を外形的に避けても、それで安心とはいえません。たとえば、同族理事の割合を下げるために、運営の実態がない第三者を名目上の理事に就けるような方法は、理事会の運営実態によっては形式だけのものと評価されるおそれがあります。

    また、法人に移した財産を親族が実質的に自由に使っている場合には、特別の利益の提供に当たるとして、移転時の非課税の前提が崩れることも考えられます。租税回避を目的とした取引であると判断された場合には、個別の規定に加えて、取引の実質に即した課税が問題になる余地もあります。

    一般社団法人を使う場合は、税の要件を満たすことよりも、法人として実態のある運営ができるかを先に問う必要があります。

    それでも一般社団法人を使う意味

    課税の見直しは、一般社団法人という器そのものを否定するものではありません。たとえば次のような場面では、一般社団法人が有力な選択肢になり得ます。

    • 公益的な活動の器として使う:非営利型法人や公益法人として、親族以外の理事を含む体制で運営する。理事の過半を親族が占めない以上、特定一般社団法人等には当たりません
    • 民事信託(いわゆる家族信託)の受託者として使う:個人の受託者に代わり、法人が長期にわたって財産を管理する
    • 地域や業界の共同事業の器として使う:特定の家族の財産承継ではなく、複数の関係者で事業を運営する

    いずれの場合も、財産を「自分の家族のために持たせ続ける」ことを目的とするなら、資産管理会社など他の器と比較したうえで選ぶことが現実的です。

    比較項目一般社団法人(非営利型以外)一般社団法人(非営利型・公益)資産管理会社(株式会社)
    持分・株式なしなし株式あり(相続財産になる)
    理事が亡くなったときの課税同族理事が過半等なら法人に相続税原則として対象外株式が相続税の対象
    財産を移すときの課税みなし譲渡、受贈益課税、一定の場合は贈与税等要件を満たせば贈与税等は課されない(みなし譲渡は別途)みなし譲渡、受贈益課税、株主への贈与の問題
    家族による運営・支配可能だが課税の対象になりやすい親族等は役員の3分の1以下などの制約株主として支配できる
    財産を家族に戻すこと剰余金分配はできない剰余金分配・残余財産の家族への帰属はできない配当・役員報酬・清算で可能

    ※AEGIS作成。非営利型法人・公益法人の要件、法人税の課税範囲は個別に確認が必要です。

    既に一般社団法人を持っている場合の確認事項

    過去に資産承継の目的で一般社団法人を設立している場合は、次の点を確認することをおすすめします。

    1. 理事の構成:現在と過去5年間の同族理事の割合
    2. 理事の年齢と退任の時期:退任後5年以内の死亡も対象になること
    3. 法人の純資産額:保有する不動産・株式などの時価ベースの把握
    4. 財産を移したときの課税関係:当時の贈与税・所得税の申告状況
    5. 財産の使われ方:親族に特別の利益を与えていないか
    6. 今後の方針:公益的な運営に転換するのか、資産管理会社など他の器に組み替えるのか

    組み替えには新たな課税が生じることもあるため、現状の課税リスクと、組み替えのコストを比べて判断することになります。

    AEGISの視点

    一般社団法人を使った資産承継の見直しは、「持分がなければ相続税がかからない」という形式に頼った設計の限界を示しています。AEGISは、法人の器を選ぶときに、誰のために、何のために財産を持つのかを最初に言葉にすることが欠かせないと考えています。

    家族のために財産を残したいのであれば、株式という形で所有を見える化し、評価と納税資金を計画的に準備する資産管理会社のほうが、長い目で見て説明のつく設計になることが少なくありません。反対に、財産の一部を社会のために使い続けたいのであれば、親族以外の理事を迎え、公益的な運営を本気で担う法人として設計する必要があります。中間的な「家族が支配する、持分のない法人」は、税制の上でも運営の上でも最も不安定な形になりやすいといえます。

    財団・社団を社会貢献に生かす全体像は「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で、非営利型法人の要件は「非営利型の一般財団法人とは」で、受託者としての使い方は「一般社団法人を受託者にする民事信託」で解説しています。資産管理会社を検討する場合は「資産管理会社はいつ設立すべきか」もあわせてご覧ください。

    資産税務や財団・社団に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 一般社団法人に財産を移せば相続税がかからない、という手法は、平成30年度税制改正(相続税法66条の2)で大きく見直されました。
    • 同族理事が理事総数の2分の1を超えるなどの特定一般社団法人等では、理事(退任後5年以内を含む)が亡くなると、法人に相続税が課されます。
    • 財産を移す段階でも、みなし譲渡の所得税、法人の受贈益課税、一定の場合の贈与税・相続税を検討する必要があります。
    • 名目だけの理事構成など、形式的な回避策は税務上否認されるリスクがあります。
    • 一般社団法人は、公益的な活動や民事信託の受託者など、目的に合った使い方では今も有力な選択肢です。家族のための資産承継なら、資産管理会社など他の器との比較が欠かせません。

    よくある質問

    Q. 理事に親族以外の人を加えれば、特定一般社団法人等に当たらなくなりますか?

    同族理事の割合が2分の1以下になり、過去5年間の要件にも当たらなければ、条文上は特定一般社団法人等に該当しません。ただし、運営に関与しない人を名目上の理事にするだけでは、実態を問われるおそれがあります。理事会を実際に機能させられるかを含めて検討する必要があります。

    Q. 高齢の理事が早めに退任すれば、相続税の課税を避けられますか?

    理事でなくなった日から5年を経過していない人が亡くなった場合も、課税の対象になります。退任のタイミングだけで課税を避けることには限界があり、法人の運営体制そのものを見直すことが基本です。

    Q. 非営利型の一般社団法人であれば、相続税の問題はありませんか?

    非営利型法人は、相続税法66条の2の対象となる一般社団法人等から除かれています。ただし、非営利型法人であり続けるには、剰余金を分配しないことや理事の親族等の割合を3分の1以下とすることなどの要件を継続して満たす必要があり、要件を外れると扱いが変わります。

    Q. 一般社団法人に自社株を持たせると、会社の株式評価に影響しますか?

    株主の構成が変わるため、同族株主の判定や議決権の考え方に影響が及ぶ可能性があります。法人が保有する株式の扱いは個別の検討が必要で、事業承継全体の設計の中で確認することが大切です。

    Q. 既にある一般社団法人を解散すると、財産はどうなりますか?

    残余財産の帰属は定款の定めや社員総会の決議によりますが、非営利型法人などでは国や公益法人等に帰属させる定めが必要です。解散や財産の移転には新たな課税が生じることもあるため、解散する前に課税関係を確認する必要があります。

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    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団活用や非上場株式寄附の適合性を、経営権・配当・財団運営・税務・実行後の管理の観点から整理します。
    • 資産管理会社:資産管理会社の設立と既存法人の見直しについて、資金移動・税負担・維持費・株式承継まで確認します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、野村資産承継研究所 監修、大蔵財務協会、第2章 P.24、P.66-73、第4章 P.309-334
  • 資産管理会社と事業会社の資金管理|会社間・オーナー間の貸し借りをどう整理するか

    資産管理会社と事業会社の資金管理|会社間・オーナー間の貸し借りをどう整理するか

    事業会社を経営しながら資産管理会社も持っているオーナーにとって、「どの会社のお金を、どこに、どう動かしてよいのか」は、日常的に生じる悩みの一つです。事業会社の資金繰りが厳しいときに資産管理会社から融通する、オーナーが個人の資金を会社に入れる、会社がオーナーに立て替える——いずれも同族のグループでは自然に起こる資金移動です。

    しかし、会社とオーナー、会社と会社は、税務上はそれぞれ別の人格です。グループの中のお金の移動であっても、取引ごとに「貸付なのか、出資なのか、贈与なのか」が問われ、利息の有無や契約の整え方によって課税関係が変わることがあります。

    この記事では、資産管理会社・事業会社・オーナー個人の間で生じやすい資金移動を類型ごとに整理し、日頃から管理しておきたいポイントを解説します。

    なぜ資金管理が論点になるのか

    オーナー一族が複数の会社を持つと、それぞれの会社とオーナー個人の間に、次のような取引が生まれやすくなります。

    • 事業会社が、資産管理会社の保有する土地・建物を借りて使う
    • 資産管理会社が、事業会社に運転資金を貸し付ける
    • オーナー個人が、会社に資金を貸し付ける(いわゆる役員借入金)
    • 会社が、オーナー個人に資金を貸し付ける(いわゆる役員貸付金)
    • 会社が、オーナーや家族に役員報酬・給与・配当を支払う

    一つひとつは小さな取引でも、長年積み重なると、各社の決算書に多額の貸付金・借入金が残り、どの会社がどれだけの財産を持っているのかが分かりにくくなります。そして、それはいずれ、株式の評価や相続財産の範囲、後継者が引き継ぐ会社の健全性に影響します。

    資金移動の類型と主な確認点

    AEGISでは、グループ内の資金移動を次の5つの類型に分けて確認することをおすすめしています。

    類型典型的な例主な確認点
    A. 会社 → オーナー個人への貸付会社がオーナーの私的支出を立て替え、貸付金として残っている利息の設定、返済の実態、給与との区別
    B. オーナー個人 → 会社への貸付会社の資金不足をオーナー個人の資金で補った返済の見通し、相続財産としての扱い
    C. 会社 → 会社への貸付資産管理会社が事業会社に運転資金を貸した利率の合理性、寄附金・受贈益の問題、株主構成
    D. 会社間の不動産の賃貸借事業会社が資産管理会社の建物や土地を借りている賃料水準、土地の貸し借りと借地権の整理
    E. 会社 → 個人への報酬・配当家族への役員報酬、株主への配当職務の実態、会社に残す資金とのバランス

    ※上記はAEGISが論点整理のために作成した分類です。

    以下、類型ごとに見ていきます。

    A. 会社からオーナー個人への貸付

    会社がオーナーや役員にお金を貸す場合、無利息や、通常より低い利率で貸し付けると、本来支払うべき利息との差額が、役員が受けた経済的な利益(給与)として扱われる場合があります。

    国税庁によれば、役員や使用人に貸し付けた金銭の利息相当額は、会社が他から借り入れて貸し付けた場合はその借入金の利率、それ以外の場合は貸付けを行った年ごとに定められた利率によるとされています(令和8年中の貸付けは年1.3%)。そのうえで、次のような場合には、給与として課税しなくてよいとされています(国税庁 No.2606)。

    • 災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員や使用人に、合理的と認められる金額や返済期間で貸し付ける場合
    • 会社の借入金の平均調達金利など、合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって貸し付ける場合
    • 上記以外で、利息相当額と実際に支払う利息の差額が、年間5,000円以下である場合

    実務上は、利率よりもむしろ「そもそも貸付として管理されているか」が問題になりがちです。会社の資金で私的な支出を立て替え、そのまま返済されずに残っている状態は、貸付としての実態が問われるおそれがあります。金銭消費貸借契約書を作成し、返済計画どおりに返済されているかを確認することが基本です。

    B. オーナー個人から会社への貸付

    会社の資金が不足したとき、オーナーが個人の資金を会社に貸し付けるのは珍しくありません。ここで見落とされがちなのは、オーナーが会社に貸したお金は、オーナー個人の財産(会社に対する債権)として残るという点です。

    会社への貸付金は、オーナーに相続が発生すれば相続財産に含まれます。財産評価基本通達では、貸付金は原則として元本と既経過利息の合計額で評価され、元本に算入しないのは、債務者の破産手続開始や事業廃止など、回収が不可能または著しく困難と見込まれる場合に限られています(同通達204・205)。会社の財務状況から見て返済の見込みが乏しい貸付金であっても、相続財産として扱われることになり得るため、「返ってこないお金に相続税がかかる」という事態が起こり得ます。

    役員借入金が多額に積み上がっている場合には、次のような点を早めに整理しておくことが大切です。

    • 会社に返済能力があるか、返済計画を立てられるか
    • 返済が難しい場合に、どのような方法で整理するか(整理の方法によっては、会社側に課税関係が生じることもあるため、個別の検討が必要です)
    • 事業承継・相続の計画の中で、貸付金を誰がどう引き継ぐか

    C. 会社から会社への貸付

    資産管理会社から事業会社へ、あるいはその逆に、グループ会社の間で資金を貸し借りすることもよくあります。

    利息を取らない貸付は「経済的利益の供与」になり得る

    会社同士はそれぞれ独立した法人であるため、無利息や著しく低い利率で資金を貸し付けると、本来受け取るべき利息相当額について、貸した側の会社から借りた側の会社への経済的な利益の供与と見られる場合があります。

    国税庁によれば、法人税法上の寄附金には、金銭その他の資産の贈与だけでなく、経済的な利益の無償の供与も含まれるとされています(国税庁 No.5281)。寄附金とされた金額は、損金に算入できる額に限度があります。また、借りた側の会社では、受けた利益が受贈益として益金に算入される場合があります。

    ただし、グループ会社への貸付が無利息であることにも、取引の経緯や目的によってはさまざまな事情があり得ます。法人税基本通達では、業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行う、合理的な再建計画に基づく無利息貸付けなど、相当な理由があると認められる場合には寄附金に当たらないとする取扱いも示されています(法人税基本通達9-4-2)。どのような場合に寄附金や受贈益とされるかは個別の事実関係によって判断が分かれるため、利率を決めた根拠を記録に残しておくことが重要です。

    「完全支配関係」がある場合の取扱い

    グループ会社の間に、100%の株式保有関係(完全支配関係)がある場合には、特別な取扱いがあります。国税庁によれば、完全支配関係(法人による完全支配関係に限ります)がある他の内国法人に対して支出した寄附金は、受贈益に対応するものについて、その全額が損金に算入されないとされています(国税庁 No.5281)。

    ここで注意したいのは、この取扱いが「法人による完全支配関係」に限られている点です。たとえば、オーナー個人が資産管理会社と事業会社の株式をそれぞれ100%持っている「兄弟会社」の関係では、取扱いが異なる場合があります。グループの株主構成によって、同じ貸付でも課税関係が変わり得るため、株主構成と資金の流れをあわせて確認することが大切です。

    D. 会社間の不動産の賃貸借

    事業会社が、資産管理会社の保有する本社ビルや工場、店舗などを借りて使っているケースは多く見られます。

    賃料の水準

    賃料が周辺の相場に比べて高すぎたり低すぎたりすると、一方の会社から他方の会社への利益の移転と見られる場合があります。どのような根拠で賃料を決めたのか(周辺相場、固定資産税などの負担、建物の取得価額など)を記録しておくことが基本です。

    土地の貸し借りと借地権

    資産管理会社の土地の上に事業会社が建物を建てる場合のように、会社間で土地を貸し借りすると、借地権の問題が生じることがあります。法人税の取扱いでは、借地権の設定に際して権利金を授受しない場合、一定の地代(相当の地代。土地の更地価額のおおむね年6%程度。法人税基本通達13-1-2、平成元年直法2-2)を収受するか、将来土地を無償で返還する旨を定めて「土地の無償返還に関する届出書」を提出するなどの対応をとらないと、借地権相当額について課税関係が生じることがあります。

    国税庁によれば、土地の無償返還に関する届出は、法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させる場合で、契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められているときに、法人と借地人の連名で、遅滞なく提出する手続とされています(国税庁「土地の無償返還に関する届出」、法人税基本通達13-1-7)。個人と法人の間の土地の貸し借りについては、関連記事「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」でも解説しています。

    E. 報酬・配当と会社に残す資金

    会社からオーナーや家族に資金を移す正規の経路は、役員報酬・給与・配当などです。資産管理会社で家族に報酬を支払う場合は、その家族が実際に管理業務などに従事しており、職務内容に見合った金額であることが前提です。

    また、会社にどれだけの資金を残し、どれだけを個人に移すかは、税負担だけでなく、将来の修繕・建替え資金、借入金の返済、そして株式の評価にも関わります。この配分の考え方は、関連記事「役員報酬・配当・内部留保の考え方」で解説しています。

    日頃から管理しておきたい5つのこと

    グループ内の資金移動は、後からまとめて整理しようとすると、取引の経緯が分からなくなり、説明が難しくなります。AEGISでは、次の5つを日常的な管理項目とすることをおすすめしています。

    1. 取引ごとに契約書を作る:金銭消費貸借契約書、賃貸借契約書、管理委託契約書など、取引の内容を書面にする
    2. 利率・賃料の根拠を残す:借入金の調達金利、周辺相場、固定資産税額など、金額を決めた根拠を記録する
    3. 返済を契約どおりに実行する:返済計画を立て、実際の入出金と照合する
    4. 会社間・個人との残高を一覧にする:決算ごとに、各社の貸付金・借入金・未払金などの残高と相手先を一表にまとめる
    5. 意思決定の記録を残す:取締役会や株主総会など、会社としての意思決定の記録を整える(取締役と会社との取引には、株主総会〔取締役会設置会社では取締役会〕の承認などの会社法上の手続きが必要となる場合があります。会社法356条・365条)

    特に4の一覧表は、オーナー一族の財産の全体像を把握するうえで有効です。会社が増えるほど、個々の決算書だけでは資金の流れが見えにくくなるためです。

    実務上注意したいポイント

    「とりあえず仮払金」を放置しない

    用途が決まらないまま「仮払金」「立替金」として処理された資金は、時間が経つほど性質の説明が難しくなります。決算までに、貸付金・費用・報酬などのいずれに当たるのかを整理しておくことが大切です。

    赤字の会社への資金融通は慎重に

    業績の悪い会社に資金を貸し付ける場合、回収可能性が問題になります。回収できない貸付金は、貸した側の会社やオーナー個人の財産として残り続け、後から整理しようとすると課税関係が生じることもあります。

    株主構成とセットで考える

    資金の流れの税務上の取扱いは、会社同士の資本関係(完全支配関係の有無など)によって変わることがあります。会社の設立や株式の移転を検討する際には、グループ内の資金の流れへの影響もあわせて確認することが望まれます。

    AEGISの視点

    資産管理会社と事業会社の資金管理は、一見すると経理の問題に見えます。しかしAEGISは、これを「グループ全体の財産を、誰がどこで持っているかを明確にしておくこと」、すなわち所有の設計の一部と捉えています。

    会社とオーナーの間の貸し借りが整理されていないと、事業承継や相続の場面で「この貸付金は誰が引き継ぐのか」「この会社の株価はなぜこんなに高いのか」といった問いに、すぐには答えられなくなります。反対に、日頃から資金の流れが整理されていれば、どの会社に財産を集め、どの会社をどの後継者に渡すのかといった承継の設計を、具体的に考えられるようになります。

    税務上のリスクを避けることは大切ですが、それ以上に重要なのは、資金の流れを家族と後継者が理解できる形にしておくことです。グループ全体の財産の一覧表を、決算のたびに更新していくこと——それが、複数の会社を持つオーナーにとって最も確実な準備だとAEGISは考えています。

    資産管理会社の設立や位置付けを含む全体像は、関連記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で解説しています。

    法人との関係を含む資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 同じグループ内の資金移動でも、会社とオーナー、会社と会社は税務上それぞれ別の人格として扱われます。
    • 会社から役員への無利息・低利の貸付は、利息相当額が給与として扱われる場合があります(例外となる場合の基準は国税庁が示しています)。
    • オーナーから会社への貸付金は、オーナーの相続財産になり得ます。返済の見通しを早めに整理することが大切です。
    • 会社間の無利息貸付などは、寄附金・受贈益の問題が生じ得ます。完全支配関係の取扱いは「法人による完全支配関係」に限られる点に注意が必要です。
    • 契約書・金額の根拠・返済の実行・残高一覧・意思決定の記録の5つを、日頃から管理しておくことが基本です。

    具体的な取扱いは、取引の経緯や会社の状況などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 資産管理会社から事業会社に無利息でお金を貸してもよいですか?

    貸すこと自体は可能ですが、無利息や著しく低い利率の場合、本来受け取るべき利息相当額が寄附金や受贈益として扱われる場合があります。取扱いは取引の目的や経緯、会社同士の資本関係によって異なるため、利率を決めた根拠を記録し、個別に確認することが大切です。

    Q. 社長が会社から借りているお金に利息を付けないと、どうなりますか?

    利息相当額と実際の利息との差額が、社長が受けた経済的利益として給与扱いになる場合があります。国税庁は、利息相当額の基準となる利率や、合理的な利率を定めている場合、差額が年間5,000円以下の場合など、課税しなくてよい場合を示しています。

    Q. 社長が会社に貸しているお金は、相続のときにどうなりますか?

    会社に対する貸付金(債権)として、相続財産に含まれることになり得ます。会社の財務状況によって返済が難しい場合でも相続財産として扱われ得るため、相続の前に返済計画や整理の方法を検討しておくことが望まれます。

    Q. 兄弟会社の間の資金のやり取りでも注意が必要ですか?

    注意が必要です。完全支配関係がある法人間の寄附金・受贈益の特別な取扱いは「法人による完全支配関係」に限られるため、オーナー個人が各社の株式を持つ兄弟会社の関係では、取扱いが異なる場合があります。株主構成と資金の流れをあわせて確認することが大切です。

    Q. 事業会社が資産管理会社の土地に建物を建てる場合、何に注意すべきですか?

    土地の貸し借りに伴う借地権の課税関係が論点になります。権利金を授受しない場合には、相当の地代の収受や、土地の無償返還に関する届出書の提出などの対応を検討する必要があります。いずれを選ぶかによって、将来の株式評価などにも影響し得るため、事前に整理しておくことが大切です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報