現物分配とは、会社が株主に対して、金銭ではなく不動産や株式などの「現物」で配当(またはそれに準ずる分配)を行うことです。100%の親子会社の間で行う現物分配は、法人税法上「適格現物分配」に当たれば、子会社側で資産の含み益に課税されず、親会社側でも受け取った資産について課税されない仕組みになっています。
結論からいえば、現物分配は「100%子会社から親会社へ、事業ではなく個々の資産を移したい」場面で有力な選択肢です。一方で、株主に個人が一人でも含まれると適格にならないこと、不動産を移すと流通税がかかること、会社法上の配当規制を受けることなど、使える場面には明確な条件があります。
この記事では、現物分配の仕組みと適格要件、課税関係、手続上の注意点を整理したうえで、売買・会社分割・合併といった他の移転手法とどう比べればよいかを解説します。
現物分配とは:配当を「モノ」で行う仕組み
会社法では、剰余金の配当を金銭以外の財産で行うこと(いわゆる現物配当)が認められています。法人税法は、これを含め、法人が株主に対して一定の事由により金銭以外の資産を交付することを「現物分配」と定義しています(法人税法2条12号の5の2)。対象となる事由は、通常の剰余金の配当のほか、資本の払戻し、残余財産の分配、自己株式の取得など、いわゆるみなし配当が生じる一定の取引です。
現物分配の対象になる資産は、土地・建物に限りません。子会社が持つ他の会社の株式、貸付金などの金銭債権、知的財産なども、金銭以外の資産であれば対象になり得ます。
たとえば、次のような場面で検討されます。
- 子会社が使わなくなった土地・建物を、親会社(持株会社や資産管理会社)に集約したい
- 子会社を第三者に売却する前に、買い手が必要としない資産を親会社へ移しておきたい
- 子会社の下にある孫会社の株式を親会社へ移し、孫会社を子会社にしたい
- 組織再編の結果として子会社が持つことになった親会社株式を、親会社に戻したい
- 子会社が親会社に対して持つ貸付金を整理したい
適格現物分配の要件:「直前に100%」だけを見る
要件は完全支配関係のみ
法人税法では、適格現物分配を「内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者が、その現物分配の直前においてその内国法人との間に完全支配関係がある内国法人(普通法人または協同組合等)のみであるもの」と定めています(法人税法2条12号の15)。
ポイントは次の3つです。
- 受け取る株主が「完全支配関係のある内国法人」だけであること:株主に個人や、100%の関係にない法人が一人でも含まれていると、適格現物分配になりません。
- 判定は「直前」の時点で行うこと:合併や会社分割の適格要件と異なり、現物分配の後も完全支配関係が続く見込みであることは求められていません。
- 事業を移す必要がないこと:会社分割のように「事業」を単位とする必要がなく、個々の資産だけを移せます。
2点目は実務上大きな意味を持ちます。たとえば、子会社を売却する直前に、不要な資産を親会社へ現物分配で移すといった使い方では、分割の場合に問題となる「分割後の支配関係の継続」を気にせずに済むためです。
完全支配関係の判定
完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係などをいいます(法人税法2条12号の7の6)。一の者が個人の場合は、その個人と特殊の関係のある個人(親族など)の保有分を合わせて判定します。また、従業員持株会などが保有する株式が発行済株式(自己株式を除く)の5%未満であれば、その株式を除いて判定する定めがあります(法人税法施行令4条の2第2項)。
名義株が残っている場合や、株主名簿と実態がずれている場合は、「本当に100%か」の確認から始める必要があります。
適格現物分配の課税関係
適格現物分配に該当した場合の課税関係を、出し手(子会社)、受け手(親会社)、源泉徴収の3つの面から整理すると、次のとおりです。
| 立場 | 適格現物分配の場合 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 子会社(現物分配法人) | 資産を直前の帳簿価額で譲渡したものとして扱い、含み益・含み損は計上しない | 法人税法62条の5第3項 |
| 親会社(被現物分配法人) | 資産の移転を受けたことによる収益は益金に算入しない | 法人税法62条の5第4項 |
| 源泉徴収 | 所得税法上の配当等から除かれるため、源泉徴収は不要 | 所得税法24条1項 |
| 繰越欠損金等 | 支配関係が5年以内に生じた場合などは、親会社側で欠損金の使用制限や特定資産譲渡等損失の損金不算入が課されることがある | 法人税法57条4項、62条の7 |
親会社は、子会社の帳簿価額を引き継ぐ形で資産を受け入れます。つまり、含み益は消えたのではなく、親会社が将来その資産を外部に売却したときなどに実現するという点に注意が必要です。
また、適格でない現物分配(非適格現物分配)の場合は、子会社側で資産を時価で譲渡したものとして含み損益が課税されるのが原則であり、受け手が個人であれば配当所得として課税されます。個人株主に会社の不動産を現物で配当すると、会社と個人の双方で税負担が生じ得るため、慎重な検討が必要です。
会社法上の手続と、税金以外のコスト
配当としてのルールに従う
現物分配は会社法上は剰余金の配当などとして行うため、配当の手続と規制に従います。
- 決議:剰余金の配当は原則として株主総会で決めます。配当財産が金銭以外で、株主に金銭分配請求権(現物に代えて金銭を求める権利)を与えない場合は、株主総会の特別決議が必要です(会社法454条4項、309条2項10号)。100%子会社であれば、親会社の意思決定だけで決議が整います。
- 分配可能額:配当として交付する財産の帳簿価額の総額は、効力発生日の分配可能額を超えてはなりません(会社法461条1項)。含み益のある不動産でも、判定は帳簿価額で行います。分配可能額が足りない場合は、資本金や準備金の減少などを先に検討する必要があります。
- 親会社株式の処分:子会社は、持っている親会社株式を相当の時期に処分しなければなりません(会社法135条3項)。現物分配は、この処分の手段として使われることがあります。
流通税は別に考える
法人税で課税が生じなくても、不動産を移す場合は登記にかかる登録免許税が生じます。また、地方税法は、合併や一定の要件を満たす分割による不動産の取得を不動産取得税の非課税としていますが(地方税法73条の7第2号)、現物分配は同条の非課税の対象として掲げられていません。不動産を移す場合は、流通税の見込み額を含めて比較することが欠かせません。
他の移転手法とどう比べるか
100%子会社から親会社へ資産を移す方法は、現物分配だけではありません。代表的な手法を、オーナーが比べるべき観点で並べると次のようになります。
| 比較の観点 | 適格現物分配 | 売買(グループ法人税制) | 適格分割型分割 | 適格合併 |
|---|---|---|---|---|
| 移すもの | 個々の資産 | 個々の資産 | 事業単位(権利義務の承継) | 会社全体 |
| 対価 | なし(配当) | 時価の代金が必要 | 株式(または無対価) | 株式(または無対価) |
| 含み損益の扱い | 簿価で移転(親会社が引き継ぐ) | 一定の資産は売り手側で繰延べ、後で売り手側に戻る | 簿価で移転 | 簿価で移転 |
| 移転後の100%関係の継続 | 求められない | 関係が切れると繰延べた損益が実現 | 継続見込みが必要 | ― |
| 子会社の存続 | 存続 | 存続 | 存続 | 消滅 |
| 会社法上の制約 | 分配可能額の範囲内 | 通常の取引 | 債権者保護手続など | 債権者保護手続など |
売買の場合は、完全支配関係がある法人間の譲渡としてグループ法人税制が適用され、土地や帳簿価額1,000万円以上の固定資産などの「譲渡損益調整資産」について、売り手側で譲渡損益が繰り延べられます(法人税法61条の11、法人税法施行令122条の12)。ただし、繰り延べられた損益は、買い手側で売却や償却が行われたときや、両社の100%関係が切れたときに、売り手側で実現します。現物分配では、含み損益は受け手の親会社が引き継ぐ点が異なります。
どの手法がよいかは、移したい資産が「事業」か「資産」か、移転後に子会社を売却・清算する予定があるか、親会社に買取資金があるか、子会社の分配可能額は足りるか、によって変わります。売買によるグループ内取引の詳細は、関連記事「グループ法人税制と資産管理会社」で解説しています。
実務上注意したいポイント
- 株主構成をまず確認する:子会社に個人株主(役員や親族、名義株主)が少しでも残っていると、適格現物分配になりません。先に株式を集約する必要があるかを確認します。
- 株価への影響を見ておく:資産が子会社から親会社へ移ると、それぞれの会社の資産構成が変わります。親会社の総資産に占める株式や土地の割合が変われば、相続税評価上の会社区分(株式等保有特定会社・土地保有特定会社など)の判定にも影響します。なお、類似業種比準方式の利益金額の計算では、適格現物分配により受けた収益は、原則として「益金に算入されなかった剰余金の配当等」に加算する必要はないとする国税庁の質疑応答事例があります。
- 欠損金と含み損の制限:親会社と子会社の支配関係が5年以内に生じた場合などには、親会社側の欠損金の使用や、移転資産の含み損の損金算入に制限がかかることがあります。
- 親会社に借入れがある場合:不動産を親会社へ移すと、賃貸収入や管理の責任も親会社に移ります。金融機関との契約上の制限(担保・財務制限条項など)も確認します。
- 目的を記録に残す:グループ内の資産移転は、税負担の回避だけを目的としているように見えないよう、経営上の目的と意思決定の経緯を議事録などで残しておくことが望まれます。
AEGISの視点
現物分配は、条文の上では「配当」の一形態にすぎません。しかし、オーナー企業のグループにとっては、「どの会社に、どの資産を持たせるか」を組み替えるための道具になります。
AEGISは、現物分配を検討するとき、税金がかかるかどうかより先に、「移した後に、その資産を誰が管理し、誰が承継するのか」を考えることが大切だと考えています。子会社の不動産を持株会社に集めれば、事業会社の売却や後継者への承継はしやすくなるかもしれません。一方で、持株会社の資産構成が変わり、株価や将来の相続税の見込みが変わることもあります。
また、含み益は親会社に引き継がれるだけで、なくなるわけではありません。将来売却するのか、長く保有して賃貸するのかによって、移転先としてふさわしい会社は変わります。グループ全体の資産の置き場所を一枚の図にし、移転の前後で「税・資金・管理・承継」の4つがどう変わるかを比べてから手法を選ぶことが、遠回りのようで確実な進め方です。
会社と会社の間のお金の貸し借りを含めたグループ内の資金管理の全体像は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で、グループ全体の再編の順番は「グループ会社を合併や株式交換で整理する」で解説しています。
株式の持合いを解消する場面での考え方は、「株式を持ち合うグループ会社の承継と評価」も参考になります。
グループ内の資産移転と承継・評価の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 現物分配とは、配当などを金銭以外の資産で行うことで、法人税法上は一定の事由による金銭以外の資産の交付をいいます。
- 現物分配の直前に完全支配関係がある内国法人だけが受け取る場合は適格現物分配となり、子会社は簿価で譲渡したものとされ、親会社の収益は益金不算入、源泉徴収も不要です。
- 合併や分割と異なり、移転後の完全支配関係の継続は求められません。一方、個人株主が一人でもいると適格になりません。
- 会社法上は配当として、決議要件と分配可能額の規制を受けます。不動産を移す場合は登録免許税や不動産取得税も見込んでおく必要があります。
- 売買・分割・合併との違いは、含み損益を誰が引き継ぐか、移転後の関係継続の要否、対価の要否にあります。具体的な選択は個別の事情によって異なります。
よくある質問
Q. オーナー個人が100%持っている会社から、オーナー個人へ不動産を現物分配できますか?
会社法上は可能ですが、受け取るのが個人であるため適格現物分配には当たりません。会社側では不動産を時価で譲渡したものとして含み損益が計算され、個人側では原則として配当所得として課税されます。個人へ資産を移す場合は、売買や役員退職金との組合せなど、他の方法も含めて比較することが大切です。
Q. 兄弟会社(同じオーナーが持つ2つの会社)の間で、現物分配を使って資産を移せますか?
現物分配は株主に対して行うものなので、兄弟会社の一方から他方へ直接資産を移す手段にはなりません。兄弟会社間で資産を移す場合は、売買(グループ法人税制の対象になり得ます)や会社分割などを検討します。持株会社を設けて親子関係にしたうえで現物分配を使う、という順番で考えることもあります。
Q. 子会社の売却直前に現物分配をしても、適格になりますか?
適格現物分配の要件は「現物分配の直前に完全支配関係があること」で、その後の継続は求められていません。そのため、売却を予定していることだけで不適格になるわけではありません。ただし、取引全体として不自然な点がないか、売却価格の算定や買い手との交渉にどう影響するかは、個別に確認が必要です。
Q. 含み益のある土地を現物分配すると、含み益はどうなりますか?
適格現物分配の場合、子会社では含み益に課税されず、親会社は子会社の帳簿価額で土地を受け入れます。含み益は親会社に引き継がれ、親会社がその土地を将来売却したときなどに課税対象となります。
Q. 現物分配に株主総会の決議は必要ですか?
剰余金の配当として行う場合は、原則として株主総会の決議が必要です。株主に金銭分配請求権を与えない現物配当は特別決議となります。100%子会社であれば、株主は親会社だけなので、親会社の判断で手続を進めることができます。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- e-Gov法令検索「法人税法」(2条12号の5の2・12号の7の6・12号の15、57条4項、61条の11、62条の5、62条の7)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034/20261001_508AC0000000012
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「法人税法施行令」(4条の2、122条の12)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097/20261001_507CO0000000121
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「所得税法」(24条1項)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033/20261001_507AC0000000070
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「会社法」(135条3項、309条2項10号、454条4項、461条1項)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086/20260812_508AC0000000064
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「地方税法」(73条の7)
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226/20261001_508AC0000000002
確認日:2026-10-09 - 国税庁 質疑応答事例「1株当たりの利益金額-適格現物分配により資産の移転を受けた場合」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/07/14.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 質疑応答事例「適格現物分配による資本の払戻しを行った場合の税務上の処理について」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/33/31.htm
確認日:2026-10-09
書籍
- 『現物分配制度の実務詳解―法務・税務・会計上の取扱いと活用法』勝間田学・西村美智子・中島礼子・松下欣親・金井孝晃 著、中央経済社、2012年、序章(P.1-19)、第Ⅱ部第1章(P.92-99)、第Ⅱ部第7章(P.269-292)
- 『組織再編・資本等取引をめぐる税務の基礎(第6版)』牧口晴一・齋藤孝一 著、中央経済社、2024年、第1編第7章(P.288-319)
