介護施設や保育所に土地を貸す活用は、地域に必要とされる施設を支えながら、長期で安定した賃料を得られる可能性がある選択肢です。一方で、福祉施設の事業は介護報酬や保育の公費など国の制度に支えられており、制度の改定や地域の人口の変化が、事業者の経営、ひいては賃料の支払いに直接影響します。
そのため、福祉施設の事業者から提案を受けたときは、一般的な賃貸の判断に加えて、「制度」「補助金」「事業者」「建物の転用」「相続」の5つを確認しておくことが大切です。
この記事では、事業者から土地活用の提案を受けたオーナーが、提案書を読む前に押さえておきたい視点を整理します。契約条項そのものの一般的な確認点は、関連記事「事業者に建物を貸す土地活用の契約で確認したいこと」で扱っています。
福祉施設への土地活用には、どのような形があるか
福祉施設に土地を提供する方法は、大きく次の3つに分かれます。どの形で関わるかによって、オーナーが負うリスクと、確認すべき点が変わります。
| 形 | オーナーの役割 | 主な収入 | オーナーが負う主なリスク |
|---|---|---|---|
| 土地だけを貸す(借地) | 土地の所有者 | 地代 | 地代の改定、契約終了時の建物の扱い |
| 建物を建てて一括で貸す(建て貸し) | 土地・建物の所有者 | 家賃 | 借入れの返済、事業者の撤退後の建物の使い道 |
| 自ら施設を運営する | 所有者兼事業者 | 事業収入 | 事業の経営そのもの(人材・制度改定・稼働率) |
提案の多くは、オーナーが建物を建てて事業者に一括で貸す「建て貸し」か、土地を事業者に貸して事業者が建物を建てる「借地」の形です。前者はオーナーの投資額と借入れが大きくなる分、事業者が撤退したときに建物が残るリスクを負います。後者は投資を抑えられる一方、長期間にわたって土地の使い道が固定されます。
定期借地で土地を貸す場合の考え方は、関連記事「定期借地で土地を貸すときの考え方」で詳しく整理しています。
福祉施設ならではの特徴:事業が国の制度に支えられている
福祉施設の事業は、一般の店舗や事務所とは収益の仕組みが異なります。
- 介護施設:介護サービスの対価である介護報酬は国が定め、定期的に改定されています(厚生労働省「介護報酬」)。報酬の改定や人材の確保状況によって、同じ施設でも収支が大きく変わります。
- 保育所:利用者の負担だけでなく公費によって運営が支えられています。こども家庭庁は令和6年12月に「保育政策の新たな方向性」を公表し、待機児童対策に加えて、定員割れや利用児童数の減少に直面する地域での保育所の在り方を課題として位置付けています。
つまり、福祉施設は「需要が大きい」と言われる一方で、その需要が将来もその場所で続くか、制度が変わったときに事業者が持ちこたえられるかを、オーナー自身が見ておく必要があります。提案書にある賃料や契約期間は、こうした前提のうえに成り立っています。
確認1:事業者は誰か、どのような財務の状況か
最初に確認したいのは、借り手となる事業者の経営の確かさです。長期の契約では、賃料の水準よりも「最後まで払い続けられるか」の方が重要になります。
- 法人の種類(社会福祉法人、株式会社、NPO法人など)と、設立からの年数
- 直近数期の決算書(売上の推移、利益、自己資本、借入金の水準)
- 同じ種類の施設の運営実績と、既存施設の稼働状況
- 職員の確保の状況(人員基準を満たし続けられるか)
- 施設を開設するための指定・認可や補助金の採択の見通し
社会福祉法人については、厚生労働省の通知で、施設用地を国や地方公共団体以外から借りる場合、賃借料は極力低額であることが望ましく、法人が長期間にわたって安定的に支払う能力があると認められる必要があるとされています。また、法人の理事長などの役員から借り受けることは望ましくないとされています。賃料の提示が低く見えるときは、こうした制度上の事情が背景にある場合もあります。
確認2:補助金で整備した施設と「財産処分」の制限
介護施設や保育所の整備には、国や自治体の補助金が使われることがあります。補助金は事業者にとって初期投資の負担を軽くしますが、オーナーにとっては出口の自由度を狭める要因にもなります。
厚生労働省の「介護施設等の整備について」では、国庫補助金で整備した施設について、補助の目的に反して転用・譲渡・貸付け・取壊しなどを行う場合には、承認の手続が必要になることが示されています。国の補助金については、補助金で取得した一定の財産を、承認を受けずに交付の目的に反して使用・譲渡・貸付け・担保に供することなどが法律でも制限されています(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律22条)。補助金を使った施設は、一定の期間、補助の目的どおりに使い続けることが前提になっているのです。
ここで確認したいのは次の点です。
- 補助金を受けるのは誰か(建物の所有者か、事業者か)
- 補助の対象となる財産は何か(建物、設備など)
- 事業者が撤退した場合に、別の事業者への引継ぎや他の用途への転用がどこまで可能か
オーナーが建物を所有して事業者に貸す形で補助金が絡む場合、撤退時の建物の扱いは、通常の賃貸以上に複雑になる可能性があります。具体的な制限の内容は補助金の種類と交付条件によって異なるため、提案の段階で事業者と自治体に確認しておくことが大切です。
確認3:建物はほかの用途に転用しやすいか
福祉施設の建物は、居室の配置、浴室や厨房、避難設備、園庭など、その用途に合わせた造りになっています。そのため、事業者が撤退したときに、同じ種類の事業者がすぐ見つかるか、ほかの用途に転用できるかは、事前に考えておきたい論点です。
転用には次のような制約があります。
- 建築の手続:建物の用途を変更するときは、変更後の用途や規模によって、建築確認の手続が必要になります(変更後の用途が床面積200㎡を超える一定の特殊建築物となる場合など。建築基準法87条)。
- 立地の制限:市街化調整区域では、地域の住民が利用する公益上必要な建築物として施設が建てられている場合があり、その後の用途の変更には許可が必要になります(都市計画法34条・43条)。
- 設備・間取り:居室や水回りが細かく区切られた建物は、事務所や店舗への改修に大きな費用がかかることがあります。
既存の建物を別の事業に使う場合の確認点は、関連記事「古い店舗・倉庫を改修して事業に使う」で整理しています。
確認4:契約の形と、制度が求める条件
福祉施設の契約では、一般の事業用賃貸にない条件が求められることがあります。
社会福祉法人が借りる場合
厚生労働省の「社会福祉法人審査基準」では、社会福祉法人は事業に直接必要な物件について所有権を持つか、国・地方公共団体から貸与を受けることが原則とされています。そのうえで、都市部など土地の取得が極めて困難な地域では、施設を経営する法人の場合、土地に限って国・地方公共団体以外の者から借りることが認められています。その場合には、事業の存続に必要な期間の地上権または賃借権を設定し、登記することが求められます。
オーナーにとっては、長期の権利が登記されることで、土地の売却や担保設定、相続後の分割に影響が出る可能性があります。契約期間の長さだけでなく、登記された権利が将来の資産の動かし方にどう影響するかを確認しておきましょう。
定期借地を使う場合
事業用定期借地権は、借地借家法で「専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く)」の所有を目的とする借地権とされています。入居者が生活の場として暮らす高齢者施設が「居住の用」に当たるかどうかは施設の類型によって整理が異なりうるため、事業用定期借地で設定できるかどうかを、契約前に専門家とともに確認することが必要です。
そのほかの確認点
- 中途解約の条件と、解約時の違約金・原状回復の範囲
- 賃料の改定の方法(固定か、一定期間ごとの見直しか)
- 建設協力金などオーナーと事業者の間の資金の貸し借りがある場合の返還条件
- 事業者が別の法人に事業を譲渡した場合の契約の引継ぎ
確認5:長期の契約と相続
福祉施設の契約は20年、30年と長期にわたることが多く、契約期間の途中で相続が起きることを前提に考える必要があります。
相続税の評価では、建物を建てて貸している土地は「貸家建付地」として、土地を貸している場合は「貸宅地」として、自分で使う土地よりも評価が低くなる仕組みがあります(国税庁 No.4614・No.4613)。また、要件を満たせば、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例(200㎡までの部分について50%の減額)の対象となりえます。ただし、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は、原則として対象外となります。ただし、相続開始の日まで3年を超えて事業的規模の貸付け(特定貸付事業)を続けていた場合は、新たに貸し始めた土地でも対象になります(国税庁 No.4124)。貸付用不動産の評価の見直し(通達案)で建物が新しい評価の対象になっても、この特例は使えると考えられます。
評価が下がることは、裏返せば換金しにくい財産になることでもあります。登記された長期の借地権や、特定の用途にしか使えない建物がある土地は、相続人の間で分けにくく、売却も容易ではありません。相続税評価だけで判断しない考え方は、関連記事「土地活用を相続税評価だけで判断しないために」で解説しています。
提案を受けたときの確認の順番
| 順番 | 確認すること | 主な確認先 |
|---|---|---|
| 1 | 土地で何ができるか(用途地域、市街化調整区域かどうか) | 自治体の都市計画・建築の窓口 |
| 2 | その地域に施設の需要が続くか、自治体の整備計画に沿っているか | 自治体の介護・保育の担当課、事業者 |
| 3 | 事業者の財務と運営実績 | 事業者の決算書、既存施設 |
| 4 | 補助金の有無と、財産処分の制限 | 事業者、自治体 |
| 5 | 契約の形(借地か建て貸しか)、期間、登記、中途解約 | 事業者、弁護士など |
| 6 | 自分の資金計画と、相続・承継への影響 | 税理士、家族 |
AEGISの視点
福祉施設への土地活用は、地域の高齢者や子育て世帯の暮らしを支えるという意味で、オーナーにとって手応えのある選択肢です。AEGISも、土地を「地域の需要に応える事業」と結び付ける活用には大きな意義があると考えています。
だからこそ、AEGISは「社会的な意義」と「事業の持続性」を分けて評価することが大切だと考えています。施設の必要性が高いことと、その事業者がその場所で30年間経営を続けられることは、別の問題です。制度の改定、人材の確保、地域の人口の変化は、いずれも事業者の努力だけでは左右できません。
そこで、提案を受けたときには、少なくとも次の三つを同時に見ることをおすすめしています。一つ目は、事業者の財務と制度の変化に対する耐性。二つ目は、補助金や登記された権利によって、土地と建物の自由度がどこまで制限されるか。三つ目は、契約期間の途中で相続が起きたときに、家族がその土地をどう引き継ぎ、どう分けるかです。この三つがそろって初めて、「貸してよいか」を判断できます。
福祉施設は、事業者が撤退しても地域にとって必要な施設であり続けることが多い資産です。撤退時に次の担い手を探す道筋まで事業者や自治体と話し合っておくことが、オーナーにとっても地域にとっても、長く続く土地活用につながると考えています。資産税・不動産税務の観点からの考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。
土地を貸す・活用する・売却するという大きな選択肢の比較は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で整理しています。
まとめ
- 介護・保育施設への土地活用は、地域に必要な施設を支えながら長期の賃料を得られる可能性がある選択肢です。
- 福祉施設の事業は国の制度に支えられており、制度の改定や地域の人口の変化が、事業者の経営と賃料の支払いに直接影響します。
- 補助金で整備した施設は、転用・譲渡・貸付け・取壊しに承認が必要になる場合があり、撤退時の自由度が狭まります。
- 社会福祉法人に土地を貸す場合は、事業の存続に必要な期間の地上権または賃借権の設定と登記が求められます。
- 長期契約の途中で相続が起きることを前提に、評価だけでなく、分けやすさと引継ぎやすさまで確認することが大切です。
- 具体的な判断は、土地の条件、事業者、契約内容、家族の状況によって異なります。
よくある質問
Q. 介護施設や保育所に土地を貸すのは、アパート経営より安全ですか?
一概には言えません。一括で借りる事業者がいるため空室の心配は小さくなりますが、その分、収入が一つの事業者の経営に左右されます。福祉施設の事業は制度の改定や人材の確保の影響を受けやすいため、事業者の財務と運営実績を確認したうえで、撤退した場合の建物や土地の使い道まで考えておくことが大切です。
Q. 社会福祉法人に土地を貸すと、なぜ登記が必要になるのですか?
厚生労働省の社会福祉法人審査基準では、社会福祉法人は事業に必要な物件を所有することが原則とされ、例外として土地を国・地方公共団体以外から借りる場合には、事業の存続に必要な期間の地上権または賃借権を設定し、登記することが求められています。事業の継続性を確保するための要件であり、オーナーの側では、売却や相続の際に権利の存在を前提に考える必要があります。
Q. 事業者が撤退したら、建物はどうなりますか?
契約の形と内容によって異なります。オーナーが建物を所有して貸している場合は、建物がオーナーの手元に残るため、次の事業者を探すか、ほかの用途に転用するかを検討することになります。補助金で整備した施設では、転用や取壊しに承認が必要になる場合があります。契約前に、撤退時の原状回復の範囲や建物の扱いを取り決めておくことが重要です。
Q. 高齢者施設を事業用定期借地で建ててもらうことはできますか?
事業用定期借地権は、居住の用に供する建物を除いた事業用の建物の所有を目的とするものです。入居者が生活する高齢者施設がこれに当たるかどうかは、施設の類型によって整理が異なりうるため、契約の前に弁護士などの専門家とともに確認することをおすすめします。
Q. 福祉施設に貸している土地は、相続税の評価が下がりますか?
建物を建てて貸している場合は貸家建付地、土地を貸している場合は貸宅地として、自分で使う土地よりも評価が低くなる仕組みがあります。要件を満たせば小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)の対象にもなりえます。ただし、評価が下がることと財産としての価値や分けやすさは別の問題です。具体的な評価や特例の適用は、個別の事情によって異なります。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 厚生労働省「設立認可・法人運営」(「社会福祉法人の認可について」平成12年12月1日、最終改正令和2年12月25日/同 福祉基盤課長等通知、最終改正令和2年3月31日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13318.html
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000711587.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000666314.pdf
確認日:2026-10-07 - 厚生労働省「介護施設等の整備について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/fukushi/shisetsu_seibi_00001.html
確認日:2026-10-07 - 厚生労働省「介護報酬」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/housyu/index.html
確認日:2026-10-07 - こども家庭庁「保育政策の新たな方向性」
https://www.cfa.go.jp/policies/hoiku/new_direction
確認日:2026-10-07 - e-Gov法令検索「借地借家法」(第22条・第23条)
https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/403AC0000000090
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4614「貸家建付地の評価」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4613「貸宅地の評価」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4613.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
確認日:2026-10-07 - e-Gov法令検索「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(昭和30年法律第179号)第22条
https://laws.e-gov.go.jp/law/330AC0000000179
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「都市計画法」(昭和43年法律第100号)第34条・第43条
https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC0000000100
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「建築基準法」(昭和25年法律第201号)第6条・第87条
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
確認日:2026-10-09
書籍
- 『Q&A各種法人の事業承継の実務 ―社団・財団法人、NPO法人、医療法人、社会福祉法人、学校法人、宗教法人―』東京弁護士会親和全期会 編、新日本法規出版、P.195、P.241-242、P.245
- 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、P.2-4、P.29、P.31
