経営者保証を外して事業承継する方法|ガイドラインと「事業承継時の特則」を踏まえた準備と金融機関との話し合い方

オフィスで向き合って面談する2人の男性

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「会社を継ぐのはいい。でも、何億円もの借入の個人保証まで背負うのは怖い」——後継者候補からこうした声が出て、事業承継が止まってしまうことがあります。中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、経営者保証が後継者にとって事業承継時の課題や障害になり得ることが指摘されています。

結論から言えば、経営者保証は「交代のときに自動的に後継者へ引き継がれるもの」ではなく、金融機関と改めて話し合う対象です。中小企業・経営者・金融機関の共通ルールである「経営者保証に関するガイドライン」と、その「事業承継時に焦点を当てた特則」は、そのための共通ルールを示しています。ただし、話し合いを有利に進められるかどうかは、承継の数年前からの準備にかかっています。

この記事では、保証を外す・引き継がないための考え方と、オーナーと後継者が今から整えておきたい準備、金融機関との話し合いの進め方を整理します。

経営者保証とは、なぜ承継の壁になるのか

経営者保証とは、会社が金融機関から借入れをする際に、経営者個人が連帯保証人になることをいいます。会社が返済できなくなれば、経営者個人の財産で返済する責任を負います。

中小企業では、会社と経営者の財産や資金の区別があいまいになりやすく、金融機関が会社の信用を補うために経営者保証を求めてきた経緯があります。オーナー経営者にとっては「会社の借入は自分の借入」という感覚が当たり前でも、後継者、とくに親族以外の役員・従業員にとっては事情が違います。

  • 自分が借りたわけではない借入の責任を、個人で負うことになる
  • 自宅や家族の生活が、会社の業績に左右される
  • 親族内承継と違い、保証に見合う個人財産を引き継ぐわけではない

こうした不安が、承継を受け入れるかどうかの判断に直結します。

経営者保証に関するガイドラインの基本

「経営者保証に関するガイドライン」は、中小企業・経営者・金融機関に共通する自主的なルールとして、平成25年12月に公表され、平成26年2月から適用されています。法的な拘束力はありませんが、関係者が自発的に尊重することが期待されています。

ガイドラインでは、次のような経営状況が整っていれば、金融機関は経営者保証を求めない可能性や、保証に代わる融資手法の活用を検討するとされています。中小企業庁はこれを3つの要件として整理しています。

要件具体的に求められること準備の例
法人と個人の分離資産の所有や資金のやりとりについて、会社と経営者が明確に区分されている社長個人への貸付金・会社への貸付金の整理、私的な経費の排除、事業用資産の所有関係の整理
財務基盤の強化会社だけの資産や収益力で借入を返済できる収益力の改善、自己資本の充実、借入の返済計画の見直し
経営の透明性金融機関に財務情報を適時適切に開示している試算表・資金繰り表の定期提出、事業計画の共有、決算の信頼性向上

また、ガイドラインは保証に代わる手法として、停止条件付・解除条件付の保証契約、売掛金や在庫などを担保とする融資(ABL)、金利の一定の上乗せなどを挙げています。

「事業承継時の特則」で何が変わったか

令和元年12月に公表され、令和2年4月から適用されている「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」は、事業承継の場面での金融機関の対応をより具体的に示したものです。主なポイントは次のとおりです。

1. 前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めない

特則では、原則として前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めないこととされています。例外として認められるのは、相続が確定するまでの一時的な場合、前経営者から会社への多額の貸付金が残っている場合、金融支援を受けている会社で資産の移転が行われている場合、双方が自ら書面で保証の提供を申し出た場合などに限られます。

2. 後継者との保証契約は「改めて検討」する

金融機関は、前経営者の保証を後継者に当然に引き継がせるのではなく、保証契約の必要性を改めて検討することとされています。その際には、事業の将来性の評価、事業承継計画の内容、外部専門家による検証の結果、保証に代わる手法の活用可能性などが考慮されます。

3. 前経営者の保証解除の考え方

前経営者についても、退任後も実質的な経営権・支配権を持ち続けているかどうか、既存の債権の保全状況、会社の資産・収益力などを考慮して、保証の解除を判断するとされています。株式を持ち続けたり、代表権を残したりすると、保証が続く理由になり得ます。

4. 金融機関の説明

保証を求める場合、金融機関は、ガイドラインの要件のどの部分が足りないのか、どのような改善をすれば保証の見直しの可能性が高まるのかを、個別・具体的に説明することが求められています。

保証を外すために、今から準備したいこと

特則があるからといって、何もしなくても保証が外れるわけではありません。金融機関が「保証がなくても貸せる」と判断できる材料を、承継の前から積み上げることが本質です。

会社とオーナーの間のお金と資産を整理する

もっとも影響が大きいのが、会社とオーナー個人の間の貸し借りや資産の所有関係です。オーナーから会社への多額の貸付金(会社から見れば役員借入金)が残っていると、二重徴求の例外に当たる可能性があります。会社からオーナーへの貸付金や、私的な支出の混在も、「法人と個人の分離」ができていない典型例です。

  • 役員借入金・役員貸付金の残高と、その発生理由を一覧にする
  • 会社が使う不動産をオーナー個人が所有している場合、賃貸借の条件を明確にする
  • 会社の経費と個人の支出を明確に分ける

会社とオーナーの間の資金管理の整え方は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で、役員借入金が多い場合の承継は「役員借入金が多い会社の事業承継」で扱っています。

返済力を「数字」で示せるようにする

会社だけの収益力で借入を返済できることを示すには、過去の実績に加えて、承継後の事業計画と返済計画が必要です。後継者自身が計画づくりに関わり、自分の言葉で金融機関に説明できる状態にしておくことが、信頼の土台になります。

情報開示を「習慣」にする

決算書を年に一度渡すだけでなく、試算表や資金繰りの状況を定期的に共有している会社は、金融機関から見て経営の透明性が高いと評価されやすくなります。事業承継ガイドラインでも、財務情報を経営者自ら金融機関などに説明することが、信用力の獲得につながるとされています。

後継者に債務の全体像を早めに開示する

親族外の後継者は、承継の直前まで会社の借入の全体像を知らないことが少なくありません。最終段階で借入や保証の大きさを知り、承継を断念する例もあります。借入・保証・役員借入金の状況は、早い段階で後継者と共有しておくことが大切です。

金融機関との話し合いの進め方

段階主な取組み話し合いのポイント
承継の3〜5年前法人と個人の分離、財務の整理、開示の習慣化現状でガイドラインの要件のどこが足りないかを確認する
承継の1〜2年前事業承継計画・事業計画の共有、後継者の紹介承継後の保証の扱いについて方針を相談する
承継時代表者交代、株式の移転後継者の保証の要否、前経営者の保証解除を具体的に協議する
承継後計画の実行と定期的な報告保証が残った場合も、条件付き保証や解除の時期を引き続き協議する

話し合いでは、「保証を外してほしい」と求めるだけでなく、金融機関が判断に必要とする材料をこちらから示す姿勢が効果的です。保証が必要だと言われた場合は、どの要件が不足しているのか、何を改善すれば見直しの可能性があるのかを確認し、改善計画に落とし込みます。

このほか、日本政策金融公庫の事業承継向けの融資制度では、事業承継に際して経営者保証の免除などを取引金融機関に申し入れたことを契機に資金調達が難しくなった事業者も対象とされています。信用保証協会でも、保証料の上乗せによって経営者保証を不要とする制度や、事業承継時の保証解除を後押しする仕組みが設けられています。要件は制度ごとに異なるため、利用を考える場合は各機関で最新の内容を確認してください。

金融機関側のルールも見直されています。金融庁の監督指針は、令和5年4月1日から、金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合に、保証契約の必要性等について事業者・保証人に詳細な説明を求める内容に改正されました。また、金融庁は令和8年5月1日に「M&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワーク」を開設しています。経営者・後継者や金融機関等が所定の相談シートを金融庁へ提出し、保証契約の必要性などについての認識を関係者の間でそろえることを目指す仕組みで、個別案件のあっせん・仲介・調停を行うものではなく、保証契約の解除等を確約するものでもありません。

保証が残る場合と、万一のときの考え方

準備を重ねても、事業の状況によっては保証が残ることがあります。その場合も、保証金額を必要な範囲に絞る、一定の条件を満たしたら保証が外れる解除条件付の契約にするなど、保証の「形」を話し合う余地があります。

また、ガイドラインは、会社の債務整理に伴って保証債務を整理する場面についても定めています。一定期間の生計費に相当する額や華美でない自宅などを、保証人の手元に残すことを検討するとされており、保証が「すべてを失う」ことに直結しないための考え方が示されています。後継者の不安をやわらげるうえでも、こうした仕組みを正確に伝えることが役立ちます。

AEGISの視点

経営者保証の問題は、金融機関との交渉術の問題に見えますが、AEGISはこれを「会社とオーナー家の境界線をどれだけ明確に引けているか」の問題だと考えています。

役員借入金、オーナー所有の事業用不動産、会社と個人の間の資金の行き来——こうした境界のあいまいさは、長年の経営の中で自然に生まれたものです。しかし承継の場面では、それが「保証が外れない理由」として表に出てきます。保証の問題を解こうとすると、結果として、事業用不動産の持ち方、株式の承継方法、オーナー個人の資産設計まで見直すことになります。

だからこそ、保証の整理は承継の最後の手続ではなく、承継計画の早い段階に組み込むべきテーマです。後継者が安心して「継ぐ」と言える環境を整えることは、会社の価値を次の世代に渡すための、もっとも実務的な準備の一つだとAEGISは考えています。

事業承継全体の進め方は「事業承継は何から始めるべきか」で、役員・従業員への承継の実行方法は「従業員承継(MBO)で後継者が株式を取得する方法」で解説しています。

まとめ

  • 経営者保証は、事業承継の際に後継者へ自動的に引き継がれるものではなく、金融機関と改めて話し合う対象です。
  • 経営者保証に関するガイドラインは、法人と個人の分離、財務基盤の強化、経営の透明性の3つを、保証を求めない判断の目安として示しています。
  • 事業承継時の特則では、前経営者と後継者からの二重徴求を原則として行わないこと、後継者の保証は改めて検討すること、金融機関が不足点を具体的に説明することなどが示されています。
  • 保証を外す鍵は、会社とオーナーの間の貸し借り・資産の整理、返済力の裏付け、継続的な情報開示を、承継の数年前から整えることです。
  • 具体的な対応は、会社の財務状況や金融機関との関係によって異なります。

よくある質問

Q. 社長が交代すれば、前社長の保証は自動的に外れますか?

自動的には外れません。特則では、前経営者が実質的な経営権・支配権を持ち続けているか、債権の保全状況、会社の資産・収益力などを考慮して解除を判断するとされています。株式や代表権を残す場合は、その点も含めて金融機関と協議する必要があります。

Q. 後継者は必ず保証人にならなければいけませんか?

必ずではありません。特則では、後継者との保証契約は前経営者の保証を当然に引き継がせるのではなく、必要性を改めて検討するとされています。ただし、ガイドラインの要件が整っていない場合には保証を求められることもあり、その場合は不足している点と改善の方向を確認することが大切です。

Q. オーナーから会社への貸付金が多いと、何が問題になりますか?

前経営者から会社への多額の貸付金が残っている場合は、前経営者と後継者の双方から保証を求める例外に当たる可能性があります。また、法人と個人の分離という観点からも整理が求められます。承継前に、貸付金の扱いを方針として決めておくことが望まれます。

Q. 金融機関に保証の解除をお願いするのは、関係を悪くしませんか?

ガイドラインと特則は、金融機関自身も尊重することが期待されている共通ルールです。一方的に求めるのではなく、事業計画や財務情報を示しながら相談する形をとれば、建設的な話し合いになりやすいといえます。

Q. どのくらい前から準備を始めればよいですか?

法人と個人の分離や財務の改善には時間がかかるため、承継の3〜5年前から取り組むのが一つの目安です。後継者が未定の段階でも、会社とオーナーの間のお金の整理や情報開示の習慣づくりは始められます。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『専門家のための事業承継入門 事例で学ぶ!事業承継フレームワーク』事業承継支援研究会 編、ロギカ書房、P.2-29(第1章)、P.210-214(第5章Ⅰ)

その他参考資料

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。