相続税で差し引ける債務と葬式費用の範囲|借入金・未払いの税金・入院費・葬儀の費用はどこまで控除できるか

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相続税の計算では、亡くなった方(被相続人)が相続開始の時点で負っていた確実な債務と、葬式費用を、遺産の額から差し引くことができます。これを「債務控除」といいます。

差し引けるかどうかの分かれ目は、おおむね次の3点です。

  • 亡くなった方自身の債務か(相続人が相続後に負担する手続費用は対象外)
  • 相続開始の時点で存在し、確実といえるか(時効が完成した債務や、単なる保証は原則として対象外)
  • 葬式そのものに伴う費用か(香典返し・墓地や墓石・法要の費用は対象外)

借入金のように分かりやすいものだけでなく、未払いの入院費や施設利用料、亡くなった年の固定資産税・住民税、準確定申告で納める所得税なども対象になり得ます。一方で、細かな支出ほど申告から漏れやすいのも実情です。この記事では、控除できるもの・できないものを整理し、資料のそろえ方と、申告後に漏れに気づいた場合の考え方までをまとめます。

債務控除とは:相続税は「差し引いた後の財産」にかかる

相続税は、相続や遺贈で取得した財産の価額から、被相続人の債務と葬式費用のうちその人が負担した部分を差し引いた金額をもとに計算します(相続税法13条)。借入金を引き継いだ人は、その分だけ実際に受け取る財産の価値が小さくなるため、その負担を課税価格に反映させる仕組みです。

債務控除ができるのは、原則として相続人と包括受遺者(遺言で遺産の全部や一定割合を受け取る人)で、実際にその債務や葬式費用を負担した人です。相続や遺贈で財産を取得したときに日本に住所がないなど、一定の場合には差し引ける債務の範囲が限られ、葬式費用は差し引けません(国税庁 タックスアンサーNo.4126)。

誰がいくら負担したかが決まっていない段階では、法定相続分や包括遺贈の割合に応じて負担したものとして扱われます(相続税法基本通達13-3)。遺産分割の中で「どの債務を誰が引き継ぐか」を決めると、その結果が各人の相続税額にも反映されます。

差し引ける債務の条件

相続開始の時点で存在し、「確実」であること

差し引ける債務は、相続開始の際に現に存在する被相続人の債務で、確実と認められるものに限られます(相続税法13条・14条)。

  • 書面による証拠が必ずしも必要というわけではありません。ただし、金額が確定していない債務は、相続開始時の状況から確実と認められる範囲の金額に限られます(相続税法基本通達14-1)。
  • 相続開始の時点ですでに消滅時効が完成している債務は、確実な債務にあたらないものとして扱われます(同14-4)。
  • 保証債務は原則として差し引けません。主たる債務者が弁済できない状態で、保証人が支払わなければならず、しかも求償しても返ってくる見込みがない部分に限って差し引けます。連帯債務は、自分の負担部分が明らかであればその金額を差し引けます(同14-3)。

主な債務の扱い

項目扱いの目安確認したい資料
金融機関からの借入金相続開始日の残高を差し引ける(団体信用生命保険などの保険金で完済され、相続人が引き継がない部分は除く)残高証明書、返済予定表、団体信用生命保険の加入状況が分かる資料
未払いの入院費・医療費亡くなった時点で未払いの分は差し引ける請求書・領収書(診療期間が分かるもの)
施設利用料・公共料金・クレジットカード亡くなった方名義の契約で、未払いの分は差し引ける請求書、利用明細、引落し記録
準確定申告で納める所得税差し引ける準確定申告書の控え
固定資産税・住民税亡くなった方に課されたもので、未納の部分は差し引ける納税通知書、納付記録
事業の未払金・預り敷金確実なものは差し引ける帳簿、賃貸借契約書
生前に買った墓石・仏壇の未払代金差し引けない(非課税財産に関する債務)—
保証債務原則差し引けない(例外あり)保証契約書、主たる債務者の状況
相続人の責任で生じた延滞税・加算税差し引けない—

※AEGISが整理した目安です。個別の可否は、契約内容や事実関係によって異なります。

税金の債務:所得税・固定資産税・住民税

税金は、亡くなった後に納付することになったものでも債務として差し引けるのが特徴です。

準確定申告で納める所得税

年の途中で亡くなった方に申告すべき所得があった場合、相続人は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、その年1月1日から亡くなった日までの所得について申告と納税をします(準確定申告。国税庁 タックスアンサーNo.2022)。この所得税は、亡くなった時点ではまだ確定していませんが、債務として差し引くことができます(相続税法14条2項、同法施行令3条)。

ただし、相続人の責任で生じた延滞税や加算税は差し引けません(同施行令3条ただし書)。準確定申告の期限管理は、相続税の計算にもつながるということです。

固定資産税

固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)の所有者に、その年度分が課されます(地方税法359条)。そのため、亡くなった方が1月1日時点の所有者であれば、亡くなった年度の固定資産税は亡くなった方に課された税金です。相続開始の時点で納期が来ていない分を含め、未納の部分は債務控除の対象として確認します。国税庁の「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」でも、納税通知書が相続開始日に届いていなくても、亡くなった年分の未納の固定資産税・住民税は債務控除の対象として第13表に記入する例が示されています。

なお、亡くなった方以外の人が所有する不動産に課された固定資産税は、亡くなった方の債務ではないため差し引けません。

住民税

個人の住民税も、1月1日が賦課期日です(地方税法318条)。亡くなった年の1月1日に住所があった方には、前年の所得に対する住民税が課されており、相続開始時点で未納の部分は差し引けます。一方、翌年の1月1日には亡くなった方は存在しないため、亡くなった年の所得に対する住民税は課されず、差し引く対象もありません。

医療費・施設利用料:所得税の医療費控除との関係

亡くなった後に病院から請求された入院費は、診療を受けた時点で亡くなった方に支払義務が生じていたものであれば、相続開始時に未払いだった債務として差し引けます。介護施設の利用料や、亡くなった方名義で契約していた公共料金・通信料なども同じ考え方です。

注意したいのは、所得税の医療費控除との関係です。医療費控除は実際に支払った年に適用されるため、亡くなった後に支払った医療費は、亡くなった方の準確定申告の医療費控除には含められません。ただし、診療を受けた時点で亡くなった方と生計を一にしていた相続人が支払った場合は、その相続人の医療費控除の対象になるとされています(国税庁 質疑応答事例「死亡した父親の医療費」)。相続税と所得税で、同じ支出の扱いを別々に確認する必要があります。

差し引ける葬式費用・差し引けない費用

葬式費用は債務ではありませんが、相続税の計算では差し引くことが認められています(相続税法13条1項2号)。国税庁が示している範囲は次のとおりです(タックスアンサーNo.4129、相続税法基本通達13-4・13-5)。

差し引けるもの差し引けないもの
通夜・告別式など葬式の費用香典返しの費用
火葬・埋葬・納骨の費用墓石・墓地の購入費、墓地の借入料
遺体や遺骨の運搬・回送の費用初七日・四十九日など法要(法会)の費用
読経料などお寺へのお礼医学上・裁判上の特別な処置の費用
葬式の前後の出費で通常葬式に伴うもの—

実務で迷いやすいのは次のような点です。

  • お布施など領収書が出ない支出:支払った日、相手、金額、名目をメモに残し、申告の根拠として保管します。
  • 葬儀と法要を同じ日に行った場合:法要の費用は葬式費用に含まれないため、見積書や請求書で葬儀分と法要分を区分しておくと説明しやすくなります。
  • 会社が負担した社葬の費用:相続人が負担したものではないため、相続税の葬式費用にはなりません。

相続を放棄した人・遺贈を受けた人の場合

相続を放棄した人は相続人ではないため、原則として債務控除はできません。ただし、放棄した人が現実に葬式費用を負担した場合には、遺贈によって取得した財産(たとえば相続税の計算上、遺贈により取得したものとみなされる生命保険金)の価額から、その負担額を差し引いても差し支えないとされています(相続税法基本通達13-1)。

遺言で特定の財産だけを受け取る人(特定受遺者)で相続人でない人は、原則として債務控除の対象外です。誰がどの費用を負担するかは、遺産分割や遺言の内容とあわせて決めておくことが大切です。

相続後の手続費用は「債務」ではない

相続開始後に生じる次のような費用は、亡くなった方の債務ではないため差し引けません。

  • 遺言執行の費用や、相続財産の管理のための費用(相続税法基本通達13-2)
  • 相続登記の登録免許税や司法書士報酬
  • 相続税申告を依頼した税理士の報酬

これらは「遺産から支払うかどうか」と「相続税で差し引けるかどうか」が別の問題です。遺産から支払ったとしても、相続税の計算上は控除されません。

申告後に漏れに気づいたら

債務控除の漏れは、申告後に気づくことが少なくありません。後から届いた入院費の請求、年度途中に届く固定資産税の納税通知書、準確定申告で確定した所得税などが典型です。

相続税を払いすぎていた場合は、法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求によって税額の見直しを求めることができます(国税通則法23条1項)。反対に、差し引けないものを差し引いていた場合は、修正申告が必要になります。

詳しい期限と手続は、関連記事「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で、申告書を家族が確認するときの見方は「依頼した相続税申告書のセルフチェック」で解説しています。

AEGISの視点

債務控除は、相続税の計算の中では地味な項目です。しかし、AEGISは債務控除を「亡くなった方の生活と事業の最後の記録」と捉えています。入院費や施設の利用料、公共料金、税金の未納分、事業の未払金は、亡くなる直前まで何にお金がかかっていたかを示しています。これを丁寧に拾うことは、税額の正確さだけでなく、ご家族が相続の全体像を理解することにもつながります。

また、債務を誰が引き継ぐかは、遺産分割と一体で考えるべき論点です。借入金のある賃貸不動産を引き継ぐ人と、その借入金を負担する人がずれると、収益とキャッシュフローの関係が崩れます。納税資金の計画も、差し引ける債務の見込みによって変わります。

相続税の概算の段階から、財産の一覧と並べて「債務の一覧」を作っておくこと。AEGISは、これが申告の正確さと家族の納得の両方を支える基礎になると考えています。相続税の概算に必要な情報の全体像は、親記事「相続税の概算に必要な情報とは」で整理しています。資産税務や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

債務や葬式費用の計上漏れを含め、申告済みの相続税を見直したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 相続税では、被相続人が相続開始時に負っていた確実な債務と、葬式費用を遺産から差し引けます。
  • 準確定申告の所得税、亡くなった方に課された固定資産税・住民税の未納分、未払いの入院費や施設利用料も対象になり得ます。
  • 香典返し、墓地・墓石の購入費、法要の費用、相続後の手続費用は差し引けません。
  • 保証債務は原則として差し引けず、時効が完成した債務も対象外です。
  • 申告後に漏れに気づいた場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求を検討できます。
  • 具体的な可否は、契約内容や事実関係によって異なります。

よくある質問

Q. 亡くなった後に届いた入院費の請求書は、相続税で差し引けますか?

診療を受けた時点で亡くなった方に支払義務が生じていた入院費であれば、相続開始時に未払いだった債務として差し引けます。請求書は診療期間が分かる形で保管しておきましょう。なお、所得税の医療費控除は別の問題で、亡くなった後に支払った分は準確定申告の医療費控除には含められません。

Q. 亡くなった年の固定資産税は、全額差し引けますか?

亡くなった方がその年の1月1日時点の所有者であれば、その年度の固定資産税は亡くなった方に課された税金です。相続開始時点で納めていなかった部分は、納期が来ていない分も含めて債務控除の対象として確認します。すでに納めた分は預金が減っているため、二重に差し引かないよう注意が必要です。

Q. 四十九日の法要や香典返しの費用は差し引けますか?

どちらも差し引けません。国税庁は、香典返しの費用と、初七日などの法事の費用を葬式費用に含めないとしています。一方、通夜や告別式、火葬、読経料などのお礼は差し引けます。

Q. 墓石を生前に注文して、代金が未払いのまま亡くなりました。差し引けますか?

差し引けません。墓所や墓石などは相続税がかからない財産であり、その取得のための未払代金も債務控除の対象から外されています(相続税法13条3項、相続税法基本通達13-6)。

Q. 相続税の申告後に、借入金の計上漏れに気づきました。どうすればよいですか?

相続税を払いすぎている状態ですので、法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求によって見直しを求めることができます。債務の存在と金額を示す資料(契約書、残高証明書など)をそろえたうえで、申告を担当した税理士に相談するのが一般的な進め方です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、P.105-107
  • 『第10版 Q&A事業承継をめぐる非上場株式の評価と相続対策』デロイトトーマツ税理士法人 編、清文社、2020年、P.58

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。