防衛特別法人税は中小企業にどう影響するか|計算の仕組み・基礎控除500万円・申告の流れと資金計画

ビル模型と資料、グラフを映すノートパソコンを前にした手元

防衛特別法人税は、令和8年(2026年)4月1日以後に開始する事業年度から、法人税を納める法人に課される新しい税です。税額は、(基準法人税額 − 基礎控除額500万円)× 4% で計算されます(国税庁、根拠法13条・14条)。基準法人税額が基礎控除額以下であれば、税額は生じません。

結論から言えば、基礎控除が500万円あるため、基準法人税額(後述)が年500万円以下の会社(1年決算の場合)では税額は生じません。中小企業の多くはこの範囲に収まると考えられますが、注意したいのは、税額がゼロでも申告は必要とされていることです。また、利益水準が高い会社や、今後の成長で利益が増える会社では、納税予測や資金計画に織り込んでおく必要があります。

この記事では、防衛特別法人税の仕組みを確認し、所得水準ごとの影響の目安、申告の流れ、内部留保や配当方針への影響を整理します。

防衛特別法人税とは

防衛特別法人税は、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法」(以下「根拠法」)に基づいて創設された税で、各事業年度の所得に対する法人税を課される法人が納税義務者になります(国税庁「防衛特別法人税が創設されました」)。

性格としては、法人税額を基準に一定割合を上乗せする付加税です。会社の所得に直接税率をかけるのではなく、まず通常の方法で計算した法人税額を出し、その金額をもとに計算します。

なお、個人についても、令和9年分以後の所得税について、基準所得税額に1%の税率で課する防衛特別所得税が創設され、あわせて復興特別所得税の税率が1.1%に引き下げられます(所得税法等の一部を改正する法律〔令和8年法律第12号〕、令和8年3月31日公布。財務省・国税庁)。オーナー経営者にとっては、会社側と個人側の両方で動きがある点も押さえておきたいところです。

計算の仕組み

国税庁の案内に基づき、計算の流れを整理すると次のとおりです。

手順内容
1. 基準法人税額を求める所得税額控除・外国税額控除など、法律で定められた一定の税額控除を適用しないで計算した法人税額(根拠法10条)
2. 基礎控除額を差し引く基準法人税額から500万円を控除(事業年度が1年に満たない場合は、500万円×その事業年度の月数÷12)
3. 税率をかける残額(課税標準法人税額)に4%をかける

ポイントは2つあります。

  • 基準法人税額は、すべての税額控除を適用する前の金額ではありません。適用しないで計算するのは、法人税法の所得税額控除・外国税額控除・分配時調整外国税相当額の控除・仮装経理に基づく過大申告の更正に伴う控除と、租税特別措置法の一部の控除(外国子会社合算税制等に係る外国法人税等の控除、産業競争力基盤強化商品〔半導体を除く〕の生産に係る税額控除など)に限られます(根拠法10条)。賃上げ促進税制などそれ以外の税額控除は、適用した後の法人税額が基準法人税額になります。
  • 基礎控除の500万円は「所得」ではなく「法人税額」から差し引くものです。所得金額に置き換えると、かなり大きな利益水準に相当します。

中小企業への影響の目安

資本金1億円以下の普通法人の法人税率は、所得のうち年800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分が23.2%とされています(国税庁 No.5759。15%は租税特別措置法による軽減税率で、現行法では令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象です〔同法42条の3の2〕。所得が年10億円を超える事業年度などには別の税率が適用されます)。この前提で、所得水準ごとの防衛特別法人税の目安をAEGISで試算すると次のとおりです。

年間の所得金額法人税額(概算)防衛特別法人税(概算)
1,000万円約166万円0円
2,000万円約398万円0円
3,000万円約630万円約5万円
5,000万円約1,094万円約24万円
1億円約2,254万円約70万円

※1年決算、資本金1億円以下の普通法人で軽減税率の適用対象、税額控除がなく、法人税額=基準法人税額と仮定した概算です。実際の税額は、会社の区分や税額控除の有無、事業年度の月数などによって異なります。地方法人税や法人住民税・事業税などは含めていません。

この前提では、法人税額が500万円に達するのは所得がおよそ2,400万円を超えるあたりからです。それを超えると、超えた部分の所得に対して、おおむね0.9%強(23.2%×4%)の負担が上乗せされるイメージになります。

つまり、多くの中小企業にとって、防衛特別法人税そのものの金額は大きくありません。一方で、利益が数千万円から数億円規模の会社では、毎期数十万円から数百万円単位の負担となり得るため、納税予測に組み込む必要があります。

申告・納付の流れ

国税庁の案内では、申告・納付について次のように示されています。

  • 申告書の様式:法人税の申告書と一体の様式とされ、防衛特別法人税の記載欄は別の用紙(別葉)になっています。
  • 税額ゼロでも申告が必要:防衛特別法人税額が0円であっても申告は必要です。基礎控除以下の会社でも、申告書の提出を忘れないようにする必要があります。
  • 申告期限:各課税事業年度終了の日の翌日から2か月以内に、納税地の所轄税務署長に提出します。法人税の申告期限の延長を受けている場合は、その延長された期限になります(根拠法25条)。
  • 中間申告:令和9年(2027年)4月1日以後に開始する事業年度から、法人税の中間申告書を提出すべき法人は、防衛特別法人税についても中間申告が必要になります。
  • グループ通算制度:通算法人の場合、基礎控除額は各法人の基準法人税額に応じて配分する仕組みが設けられています。

最初の対象となる事業年度と申告期限は、決算期によって異なります。1年決算の会社を例に整理すると、次のとおりです。

決算期最初の対象事業年度初回の申告期限(原則)
3月決算令和8年4月1日〜令和9年3月31日令和9年5月31日
6月決算令和8年7月1日〜令和9年6月30日令和9年8月31日
9月決算令和8年10月1日〜令和9年9月30日令和9年11月30日
12月決算令和9年1月1日〜令和9年12月31日令和10年2月29日

※事業年度終了の日の翌日から2か月以内という原則に基づく目安です。期限が土日祝日に当たる場合の取扱いや、法人税の申告期限の延長を受けている場合の延長後の期限は、個別に確認してください。

すでに令和8年4月以後に事業年度が始まっている会社では、今期の決算から対象になります。自社の事業年度の開始日を確認し、決算・申告の手順に防衛特別法人税の申告書の作成を組み込んでおくことが大切です。

資金計画・内部留保・配当方針への影響

納税予測と資金繰りへの織り込み

税額が生じる会社では、決算前の納税予測と資金繰り表に、防衛特別法人税を新しい項目として加える必要があります。中間申告が始まる事業年度以降は、期中の納税のタイミングも変わります。利益が基礎控除の境目付近にある会社は、「今期は税額が生じるか」を決算前に確認しておくと安心です。

役員報酬と会社の利益のバランス

オーナー企業では、利益を役員報酬として個人に払うか、会社に残すかを検討する場面があります。防衛特別法人税は、会社に残した利益にかかる税負担をわずかに引き上げる要素です。ただし、その影響は所得水準によっては小さく、個人側の所得税・住民税や社会保険料、個人側の改正の動きもあわせて考える必要があります。税率の差だけで報酬水準を決めないことが大切です。

内部留保と配当方針

会社に利益を蓄えて将来の投資や借入れの返済に備える方針自体は、防衛特別法人税によって大きく変わるものではありません。一方で、利益水準が高く、内部留保が厚い会社では、配当や役員退職金の時期、設備投資の計画などを含めて、会社と個人の資金配分を見直す機会にもなります。

資産管理会社や小規模な法人

不動産を保有する資産管理会社など、所得が大きくない法人では、多くの場合税額は生じません。ただし、申告書の提出は必要とされているため、申告漏れが起きないよう決算・申告の手順に組み込むことがポイントです。

実務上注意したいポイント

  • 最初の対象事業年度を確認する:令和8年4月1日以後に開始する事業年度が対象です。決算期によって初回の申告時期が異なります。
  • 基準法人税額の範囲を確認する:所得税額控除・外国税額控除など法律で定める一定の控除は適用しないで計算するため、これらの控除を受けている会社は、実際の法人税額より基準法人税額が大きくなることがあります。賃上げ促進税制などその他の税額控除は適用後の金額で計算するため、両者を区別して確認します。
  • 損金にはならない:防衛特別法人税は、法人税と同様に所得の金額の計算上、損金の額に算入されません(根拠法43条による法人税法38条1項の読替え)。
  • ゼロ申告を忘れない:税額が生じなくても申告は必要です。
  • 中間申告の開始時期に備える:令和9年4月1日以後開始の事業年度から、中間申告の対象になる会社があります。
  • 地方税への波及は別途確認する:本記事では国税としての防衛特別法人税を扱っています。住民税・事業税など地方税との関係は、個別に確認してください。

AEGISの視点

防衛特別法人税は、多くの中小企業にとって、金額としてのインパクトは限定的です。それでもAEGISがこの改正を取り上げるのは、新しい税が加わるときこそ、税負担とキャッシュフローの全体を見直すよい機会だと考えているからです。

法人税、地方税、社会保険料、個人の所得税・住民税、そして配当や退職金にかかる税金は、それぞれ別々に議論されがちです。しかしオーナーにとって大切なのは、会社と個人を合わせて、いつ、どれだけの資金が手元に残るかです。新しい税を一つの項目として決算予測と資金繰りに組み込み、利益水準の変化に応じて役員報酬・内部留保・配当の配分を点検する——その習慣が、制度が変わっても揺らがない経営の基盤になるとAEGISは考えています。

税負担とキャッシュフローの考え方は、Pillar記事「税負担とキャッシュフローをどう両立させるか」で、会社と個人の資金配分は「役員報酬・配当・内部留保の考え方」で、納税を織り込んだ資金計画は「資金繰り表の作り方」で解説しています。制度改正全体の考え方は「税制改正は自分の承継計画に関係するか」をご覧ください。

まとめ

  • 防衛特別法人税は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、法人税を課される法人に課されます。
  • 税額は(基準法人税額−基礎控除額500万円)×4%で計算し、基準法人税額は所得税額控除・外国税額控除など法律で定める一定の税額控除を適用しないで計算した法人税額です(すべての税額控除を戻すわけではありません)。
  • 基準法人税額が500万円以下(1年決算の場合)の会社では税額は生じませんが、税額がゼロでも申告は必要です。
  • 申告期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内で、令和9年4月1日以後開始の事業年度から中間申告の対象になる会社があります。
  • 利益水準が高い会社では、納税予測・資金繰り・役員報酬・内部留保・配当の配分に織り込むことが大切です。

よくある質問

Q. いつの決算から関係しますか?

令和8年4月1日以後に開始する事業年度からです。3月決算の会社であれば令和9年3月期、12月決算の会社であれば令和9年12月期が最初の対象になります。

Q. 赤字や少額の利益の会社でも申告は必要ですか?

国税庁の案内では、防衛特別法人税額が0円であっても申告は必要とされています。法人税の申告書と一体の様式になっているため、法人税の申告とあわせて忘れずに提出することが大切です。

Q. 中小企業でも税額が生じるのはどのくらいの利益からですか?

税額控除がない資本金1億円以下の普通法人で、軽減税率の適用対象となる会社を前提にすると、法人税額が500万円を超えるのは、年間の所得がおよそ2,400万円を超えるあたりからです。実際には会社の区分や税額控除の有無によって変わるため、自社の数字で確認してください。

Q. 賃上げ税制などで法人税が少なくなっている場合はどうなりますか?

賃上げ促進税制の税額控除は、基準法人税額の計算で適用しないこととされている控除には含まれていません(根拠法10条)。そのため、賃上げ促進税制を適用した後の法人税額が基準法人税額となり、控除で法人税が少なくなれば、防衛特別法人税の計算の基礎も小さくなります。一方、所得税額控除や外国税額控除などは適用しないで計算するため、これらの控除を受けている会社では、実際に納める法人税より基準法人税額が大きくなることがあります。

Q. 防衛特別法人税のために、役員報酬を増やしたほうがよいですか?

防衛特別法人税だけを理由に役員報酬を変えることはおすすめしません。役員報酬を増やすと個人の所得税・住民税や社会保険料が増える一方、会社の資金は減ります。会社と個人を合わせた手取りと、会社の将来の資金需要を見たうえで判断することが大切です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、P.14、P.17-19

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。