会社を買う前に確認したいリスク|財務・税務・契約・事業運営の4つの視点で見る買収前の調査

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事業の拡大や新しい分野への進出、人材や拠点の確保のために、他の会社を買収する(M&Aで譲り受ける)オーナーが増えています。一方で、買収は「買った後」に初めて見えてくる問題が少なくない取引でもあります。

結論から言えば、会社を買う前には、財務・税務・契約(法務)・事業運営の4つの視点で対象会社を調べ、見つかったリスクを価格・取引方法・契約条件のいずれかに必ず反映させることが重要です。この記事では、買い手として何を確認すべきか、そして確認した結果をどう判断に結び付けるかを解説します。

買収前の調査(デュー・ディリジェンス)とは

調査の目的

買収前に対象会社の実態を調べることを、デュー・ディリジェンス(以下DD)といいます。DDには大きく2つの目的があります。

  1. リスクを見つけ、評価する:買収してよいか、いくらなら、どのような条件なら買えるかを判断する
  2. 買収後の経営を準備する:対象会社の実態を知り、統合や改善の計画に活かす

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月改訂)でも、DDは譲り受け側が対象企業のリスクを精査するために主体的に行うものと位置付けられており、財務・法務のほか、ビジネス、税務、人事労務などの分野が挙げられています。

買い手がリスクを負う取引である

株式を取得して会社を買う場合、会社の資産だけでなく、帳簿に表れない債務や過去の問題も含めて、会社をまるごと引き受けることになります。売り手は売却後に会社を離れるため、問題が後から見つかった場合、その影響を受けるのは主に買い手です。

また、買収価格の大きさとリスクの大きさは比例しない点にも注意が必要です。小規模な案件でも、未払いの残業代や税務上の問題、土壌汚染などが見つかれば、買収価格を上回る負担が生じることもあります。案件の規模にかかわらず、最低限の調査は欠かせません。

視点1:財務――数字の実態を確かめる

資産・負債の実態

決算書の貸借対照表は、すべてが時価で表示されているわけではありません。買い手は、主な資産・負債を実態に合わせて見直します。

  • 売掛金:回収が遅れているもの、取引先の信用に不安があるもの
  • 在庫:長期間動いていないもの、陳腐化しているもの
  • 固定資産:不動産の時価、事業に使っていない資産、設備の老朽化
  • 負債:退職給付・役員退職慰労金の引当不足、保証債務、係争中の案件などの簿外債務・偶発債務

本来の収益力

過去の損益から、一時的な損益や、オーナー経営に特有の費用(オーナー個人の車両・保険・交際費、関係会社との特殊な取引条件など)を除き、買収後も期待できる「正常な収益力」を見極めます。買収後に役員報酬や取引条件が変わる場合は、その影響も織り込みます。

資金の流れと事業計画

  • 運転資金の水準と、その調達方法(長期借入金で運転資金を賄っていないか)
  • 今後必要な設備投資の規模
  • 売り手が示す事業計画の前提(売上の伸び、利益率)に無理がないか

財務の調査は、単に誤りを探すだけでなく、買収後の事業計画の土台を確かめる作業でもあります。

視点2:税務――過去の申告を引き継ぐ覚悟

株式取得では税務リスクも引き継ぐ

株式を取得して会社を買う場合、対象会社が過去に行った税務処理に誤りがあれば、買収後の税務調査で追徴課税を受けるのは対象会社、つまり買い手の子会社です。加算税や延滞税が加わることもあります。そのため、過去数期分の申告内容を確認することが重要です。

主な着眼点

  • 税務調査の履歴:過去の調査の時期、指摘事項、その後の対応
  • 申告調整の妥当性:申告書上の加算・減算の処理が適切か
  • オーナー関連の取引:役員給与の水準や支給方法、オーナー一族や関係会社との取引価格、会社資産の私的利用。これらは寄附金や役員給与として課税上の問題になりやすい論点です
  • 法人税以外の税目:消費税、源泉所得税、印紙税など。源泉所得税の処理漏れなどは、課税所得が少ない会社でも生じ得ます
  • 繰越欠損金:利用できる見込みがあるか、買収や買収後の組織再編によって利用が制限されないか(たとえば、50%超の株式取得などで支配関係が生じた後に一定の事由が生じると、欠損金の繰越しが認められなくなる規定があります〔法人税法57条の2〕)
  • グループ会社の数と目的:事業規模に比べて会社の数が多い場合、その設立理由や決算期の違いに、税務上のリスクが潜んでいないか

取引の方法と税務リスク

事業譲渡で事業だけを取得する場合、売り手の会社の税務リスクは原則として売り手に残ります。ただし、取引の相手や条件によっては、売り手側の税金の負担が買い手側に及ぶ規定もあるため(たとえば、売り手と特殊な関係にある者が事業を譲り受けて同一・類似の事業を営む場合の第二次納税義務〔国税徴収法38条〕)、「事業譲渡なら税務リスクはない」とは言い切れません。取引の方法による違いは、関連記事「株式譲渡と事業譲渡の比較ポイント」で解説しています。

視点3:契約(法務)――引き継ぐ約束事を確かめる

株式の権利

株式を取得する場合、まず確認すべきは、取得しようとする株式そのものに問題がないかです。

  • 株主名簿と実際の株主が一致しているか
  • 設立以来の株式の移動(相続・売買・贈与)が、書類で裏付けられているか
  • 名義株や、相続で帰属が決まっていない株式がないか
  • 株券を発行する会社である場合、株券の発行・交付の状況
  • 種類株式や新株予約権が発行されていないか

株式の権利に疑いがあると、買収後に株主の地位をめぐる争いが生じるおそれがあります。

重要な契約

  • チェンジ・オブ・コントロール条項:株主の変更を理由に、取引先が契約を解除できる、あるいは事前の承諾を求める定めがないか
  • 借入契約:財務内容に関する制限条項(コベナンツ)や、株主変更に関する定め
  • 競業避止・独占条項:買収後の事業展開を縛る定めがないか
  • リース・業務委託・ライセンス契約:期間、更新、解除の条件

不動産・許認可・知的財産

  • 不動産の使用権原:事業に使う土地・建物が、会社所有か、借地か、賃借か。売り手のオーナー個人が所有している場合、買収後も同じ条件で使い続けられるか
  • 担保・登記:不動産に担保が設定されていないか
  • 許認可:買収後も維持できるか、手続きが必要か
  • 知的財産:商標・特許が会社名義か、第三者の権利を侵害していないか

訴訟・紛争・環境

現在の訴訟だけでなく、将来紛争に発展しそうな事案(労働紛争、製品の不具合、知的財産の侵害など)も把握します。工場などを持つ会社では、土壌汚染や廃棄物処理など環境面のリスクも重要な確認事項です。

視点4:事業運営――買った後に回るか

社長とキーパーソンへの依存

中小企業では、売上や技術、取引先との関係が社長個人に集中していることが少なくありません。社長が引退した後も事業が維持できるか、実務を担う幹部や技術者が残るかは、買収の成否を左右する重要な論点です。引継期間をどの程度設けるか、キーパーソンの処遇をどうするかも検討します。

人と労務

  • 従業員の人数・年齢構成・勤続年数、熟練者の技術が継承されているか
  • 労働時間の管理、残業代の支払い、就業規則の運用が適正か
  • 労使関係や過去の労働紛争の有無

未払いの残業代などは、そのまま簿外の負債になります。また、従業員の意欲の低下や離職は、買収後の業績に直結する最大のリスクの一つです。

事業と取引先

  • 売上が特定の取引先に集中していないか
  • 市場の動向、競合との関係、事業の強み
  • 設備の老朽化や、先送りされている投資がないか
  • 情報システムを買収後も使い続けられるか

統合の見通し

買収後、対象会社をどのように経営し、自社とどう連携させるか(統合の方針)は、DDの段階から考え始めることが重要です。DDで得た情報は、買収後の計画づくりにそのまま活かせます。

見つかったリスクをどう判断に反映するか

DDの価値は、リスクを見つけることそのものではなく、見つけたリスクを判断に反映させることにあります。AEGISでは、リスクの性質に応じて次のように整理することをおすすめしています。

リスクの性質主な対応例
金額を見積もれる価格に反映する回収困難な売掛金、引当不足の退職金、未払残業代
特定の資産・事業に限定できる取引の方法や対象範囲を変える問題のある事業や資産を対象から外す、事業譲渡に切り替える
クロージングまでに解消できる解消を取引実行の前提条件にする名義株の整理、許認可の手続き、契約相手の承諾取得
発生するかどうか不確実最終契約の表明保証・補償で手当てする将来の税務調査、潜在的な紛争
事業の前提を揺るがす買収を見送る主要取引先の喪失が確実、重大な法令違反

※上記は考え方を整理するための例です。実際の対応は、リスクの内容や交渉の状況によって異なります。

表明保証・補償の限界

最終契約では、売り手が対象会社の状況について一定の事項が真実であることを表明し、違反があった場合に補償する「表明保証」の条項を設けるのが一般的です。中小M&Aガイドラインでも、最終契約で規定される事項として表明保証や補償が挙げられています。

ただし、補償には上限や期間が設けられることが多く、また、売り手に十分な資力がなければ、実際には補償を受けられないこともあります。契約で手当てしたから安心、ではなく、契約で手当てできないリスクがどれだけ残るかを考えておく必要があります。

実務上注意したいポイント

  • 調査の範囲を最初に決める:案件の規模や業種に応じて、どの分野をどこまで調べるかを決めます。財務・税務・法務は、規模にかかわらず確認しておきたい分野です。
  • 売り手の説明だけに頼らない:中小企業では意思決定の記録が少なく、担当者の記憶に頼った回答になりがちです。決算書の数値の動きや契約書など、客観的な資料で裏付けを取ることが大切です。
  • 売り手の準備状況も見る:資料がすぐに出てくる会社は、管理の水準も一定以上であることが多いものです。売り手側の準備については、関連記事「M&Aの前に整えたい会計・契約・組織」が参考になります。

  • 高すぎる買い物をしない:シナジー(相乗効果)を楽観的に見積もりすぎると、価格が投資を回収できる範囲を超えてしまいます。リスクを織り込んだうえで、自社にとっての上限を決めておくことが重要です。

AEGISの視点

会社を買うことは、他の誰かが築いてきた事業と、それに関わる人・資産・約束事を、まとめて引き継ぐことです。言い換えれば、買収とは「承継を引き受ける」意思決定です。

AEGISがとくに重視しているのは、対象会社の事業だけでなく、その事業を支える不動産や資産の「持ち方」です。たとえば、対象会社の事業所の土地を売り手のオーナー個人が所有している場合、買収後も賃借を続けるのか、取得するのか、取得するなら事業会社で持つのか別の会社で持つのかによって、資金負担、税務、将来の事業再編のしやすさが変わります。事業の運営と不動産の所有をどう組み合わせるかは、買収の段階で設計しておくべき論点です。

また、買い手自身の事業承継も見落とせません。買収によって会社やグループの規模が大きくなれば、自社株の評価や、次の世代への引継ぎ方にも影響します。買収の判断は、自社とオーナー家の将来像の中に位置付けて行うことが大切だとAEGISは考えています。

M&Aの準備と全体像については、関連記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で、売り手側の視点から解説しています。

まとめ

  • 会社を買う前には、財務・税務・契約(法務)・事業運営の4つの視点で対象会社を調べることが重要です。
  • 株式を取得する場合、簿外債務や過去の税務リスクも含めて会社ごと引き継ぐため、規模にかかわらず最低限の調査が欠かせません。
  • 見つかったリスクは、価格・取引方法・前提条件・表明保証と補償・見送りのいずれかに必ず反映させます。
  • 表明保証や補償には限界があるため、契約で手当てできないリスクの大きさも考えておく必要があります。
  • 事業だけでなく、不動産の持ち方や自社の承継まで含めて判断することが、買収を成功に近づけます。

どのリスクをどこまで調べるべきかは、対象会社の業種や規模、取引の方法などの個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 小規模な会社の買収でも、DDは必要ですか?

必要です。買収価格が小さくても、未払いの残業代や税務上の問題などが見つかれば、価格を上回る負担が生じることがあります。費用や期間との兼ね合いで調査の範囲を絞ることはあっても、財務・税務・法務の基本的な確認は省略しないことが望まれます。

Q. 株式を買う場合と事業を買う場合で、確認すべきことは変わりますか?

変わります。株式を買う場合は会社全体を引き継ぐため、過去の税務処理や簿外債務を含めて幅広く調べる必要があります。事業を買う場合は、引き継ぐ資産・負債・契約・従業員の範囲を個別に確認し、移転の手続きや許認可の取り直しが可能かを中心に見ていくことになります。

Q. 表明保証があれば、DDを簡略化してもよいですか?

表明保証は、問題が見つかったときに売り手に補償を求めるための仕組みですが、補償には上限や期間が設けられることが多く、売り手に支払能力がない場合には実効性がありません。表明保証はDDを補うものであり、代わりになるものではないと考えるのが安全です。

Q. 売り手のオーナーが所有する不動産を会社が使っている場合、何に注意すべきですか?

買収後も同じ条件で使い続けられるかが最大のポイントです。賃貸借契約の有無と内容、賃料の水準、契約期間、借地権の扱いなどを確認し、買収と同時に取得するのか、賃借を続けるのかを決めておく必要があります。取得する場合は、資金負担や税務、どの会社で所有するかもあわせて検討します。

Q. 買収後に問題が見つかった場合はどうなりますか?

最終契約の表明保証や補償の条項に基づいて、売り手に損害の補填を求めることになるのが一般的です。ただし、請求できる範囲や期間、金額の上限は契約の定め次第です。そのため、契約の段階で、どのような事項を保証の対象とし、どのような場合に補償を受けられるかを明確にしておくことが重要です。

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参考資料・出典

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この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。