事業承継の方法は、大きく親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎ(M&A)の3つに分けられます。
「子どもが継がないなら会社を売るしかない」「従業員に継がせたいが、株式を買い取るお金がない」——承継方法を考えるとき、多くのオーナーはこうした二者択一の発想に陥りがちです。しかし実際には、それぞれの方法に異なる強みと課題があり、組み合わせて設計できる余地もあります。
結論から言えば、承継方法は「誰が会社を率いるか(経営)」と「誰が会社を持つか(所有)」を分けて考えたうえで、自社の状況に合う組み合わせを選ぶことが大切です。この記事では、3つの方法の特徴を比較し、選ぶための判断基準を整理します。
3つの承継方法とは
中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」では、事業承継の類型を次の3つに整理しています。
| 承継方法 | 引き継ぐ相手 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 親族内承継 | 現経営者の子をはじめとした親族 | 関係者に受け入れられやすく、早期に後継者を決めれば準備期間を長く取れる。相続や贈与により、所有と経営を一体で引き継ぎやすい |
| 従業員承継 | 親族以外の役員・従業員 | 能力のある人材を見極めて承継でき、社内で長く働いてきた人であれば経営方針の一貫性を保ちやすい |
| 社外への引継ぎ(M&A) | 株式譲渡や事業譲渡などにより社外の第三者 | 親族や社内に適任者がいなくても広く候補を求められ、現経営者は売却による対価を得られる |
ガイドラインでは、かつては親族内承継が中心だったものの、近年は親族内承継の割合が減り、従業員承継やM&Aの割合が増える傾向にあることも示されています。ガイドラインが紹介する2015年の中小企業庁の調査では、在任期間の長い経営者層では9割以上が親族内承継だったのに対し、直近5年間では親族内承継の割合が約35%まで減少し、親族外承継が65%以上に達したとされています。親族に後継者がいることは、もはや前提ではなくなりつつあります。
5つの観点で比較する
3つの方法の違いを、オーナーの意思決定に関わる5つの観点で比較します。
| 観点 | 親族内承継 | 従業員承継 | M&A |
|---|---|---|---|
| 後継者の確保 | 候補が限られる。本人の意思と適性が前提 | 候補は社内に限られる。経営者としての経験は別途必要 | 候補を社外に広く求められる。相手が見つかるかは会社の魅力次第 |
| 株式の移転と資金 | 贈与や相続で移すことが多く、納税資金が論点 | 後継者が株式を買い取る資金の調達が最大の課題になりやすい | 買い手が対価を支払う。オーナーは売却代金を得る |
| 家族への影響 | 後継者以外の家族との公平性、遺留分が論点 | 親族株主の理解が必要 | 家族に残る財産は株式から金融資産に変わる |
| 経営者保証 | 後継者が保証を引き継ぐことへの抵抗が課題になり得る | 保証を引き継ぐ負担が、後継者の決断を左右しやすい | 買い手の信用力などにより解除や移行が交渉される |
| 経営の継続性 | 理念や関係者との関係を引き継ぎやすい | 方針の一貫性を保ちやすい | 経営方針が変わる可能性がある。従業員の処遇などを交渉で確認 |
この表から分かるのは、どの方法にも「乗り越えるべき課題」があり、その課題の種類が異なるということです。親族内承継では家族と税金、従業員承継では資金と保証、M&Aでは相手探しと会社の磨き上げが、それぞれ中心的な論点になります。
承継方法を選ぶための判断基準
自社に合う方法を考えるときは、次の問いを順に確認していくと整理しやすくなります。
1. 承継の目的は何か
会社を家業として一族で継いでいきたいのか、事業と従業員の雇用が続くことを最優先にしたいのか、オーナー自身や家族の資産を確保したいのか。目的によって、適した方法は変わります。
2. 経営を担える人は誰か
親族に意思と適性のある人がいるか、社内に経営を任せられる役員・従業員がいるか。いない場合や、育成に時間が足りない場合は、社外への引継ぎが現実的な選択肢になります。後継者が決まっていない段階でもできる準備はあります(関連記事:後継者が決まる前にできる準備)。
3. 株式を誰が持つか
経営を担う人と株式を持つ人は、必ずしも同じでなくてもかまいません。たとえば、経営は従業員出身の後継者に任せ、株式は当面オーナー家が持ち続けるという形もあり得ます。ただしその場合は、経営者と株主の役割分担や、将来の株式の行き先を決めておく必要があります(関連記事:事業承継で経営権と株式をどう設計するか)。
4. 株式の移転に必要な資金を誰が、どう用意するか
親族内承継なら贈与税・相続税の納税資金、従業員承継なら後継者の買取資金が論点です。従業員承継では、後継者が出資する会社を設立し、金融機関の融資や投資ファンドの出資を組み合わせて株式を取得する方法(いわゆるMBO)が検討されることもあります。この場合、投資ファンドが株主となるため、経営の自由度や将来の株式の買戻しについて事前に確認しておく必要があります。
5. どれだけの時間が残されているか
後継者の育成には年単位の時間がかかります。M&Aでも、会社の価値を高め、相手を探し、条件を交渉するには十分な時間的余裕が必要とされています。残された時間は、選べる方法の幅を左右します。
M&Aを選ぶ場合に知っておきたいこと
社外への引継ぎを検討する場合、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)が参考になります。このガイドラインは、後継者不在の中小企業が第三者に事業を引き継ぐことを念頭に、経営者向けと支援機関向けの内容で構成されています。
ガイドラインでは、中小M&Aの一般的な流れとして、意思決定、仲介者・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)の選定、企業価値の評価(バリュエーション)、相手探し(マッチング)、交渉、基本合意、デューデリジェンス(買い手による調査)、最終契約、クロージング、M&A後の取組みといった段階が示されています。
また、仲介者やFAの手数料の考え方、経営者保証を買い手側にどう引き継ぐか、あるいは解除するかといった、売り手の経営者が事前に理解しておきたい論点も整理されています。M&Aは一度進めると後戻りが難しい手続きであるため、支援機関に依頼する前に、こうした全体像を把握しておくことが望まれます。
売却を視野に入れた準備をいつから、何から始めるかについては、関連記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で整理しています。
実務上注意したいポイント
- 一つの方法に早く決めすぎない:親族への承継を前提に準備しつつ、社外への引継ぎの可能性も残しておくなど、複数の選択肢を並行して検討する期間があってもかまいません。
- 会社の「磨き上げ」はどの方法でも役立つ:業務の属人性を減らし、財務を整え、会社と個人の資産の境界を明確にすることは、親族・従業員・第三者のいずれに引き継ぐ場合でも、承継のしやすさを高めます。
- 経営者保証を早めに確認する:保証の扱いは、どの方法でも後継者や買い手の判断に影響します。借入れと保証の状況を早い段階で整理しておきます。
- 家族の理解を先に得る:M&Aや従業員承継を選ぶ場合でも、株式を持つ家族や、将来の相続人の理解は欠かせません。
AEGISの視点
承継方法の比較は、「誰に継がせるか」という問いとして語られることが多いテーマです。しかしAEGISは、承継方法の選択を「経営・所有・財産を、それぞれ誰に、どの形で引き継ぐかの組み合わせを選ぶこと」と捉えています。
経営は社内の後継者に、株式は家族に、会社が使う不動産は資産管理の主体に——というように、引き継ぐものを分けて考えると、3つの方法の間にも多くの中間形が見えてきます。また、M&Aによって株式が売却代金という金融資産に変わる場合、その資産を家族の将来や社会への還元にどう活かすかという、新しい問いが始まります。
どの方法を選ぶにしても、大切なのは、オーナー自身が「事業を通じて何を残したいのか」を言葉にし、それに照らして方法を選ぶことです。税金や価格は重要な判断材料ですが、それだけで方法を決めると、事業や家族にとって大切なものを見落とすことがあるとAEGISは考えています。
事業承継をどこから始めればよいか、全体像は関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で解説しています。
承継に関わる株式評価や資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 事業承継の方法は、親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎ(M&A)の3つに大きく分けられます。
- 近年は親族内承継の割合が減り、従業員承継やM&Aが増える傾向にあります。
- 親族内承継は家族と税金、従業員承継は資金と保証、M&Aは相手探しと会社の磨き上げが、それぞれ中心的な課題になります。
- 承継の目的、経営を担える人、株式を持つ人、資金、残された時間の5つの問いで整理すると、自社に合う方法が見えやすくなります。
- 経営と所有を分けて考えると、3つの方法の中間的な組み合わせも選択肢になります。
- 具体的な方法の選択は、会社と家族の個別事情によって異なります。
よくある質問
Q. 親族に後継者候補がいる場合は、親族内承継を選ぶべきですか?
必ずしもそうとは限りません。候補者本人の意思と適性、会社の将来性、家族の意向などを確認したうえで判断することが大切です。親族内承継を前提にしつつも、他の方法と比較しておくことで、より納得感のある選択ができます。
Q. 従業員に継がせたいのですが、株式を買い取る資金がないと言われました。どうすればよいですか?
後継者が出資する会社を通じて、金融機関の融資や投資ファンドの出資を組み合わせて株式を取得する方法などが検討されます。また、経営は従業員に任せ、株式は当面オーナー家が持ち続けるという形も考えられます。いずれも、会社の収益力や将来の株式の行き先を含めた設計が必要です。
Q. M&Aで会社を売ると、従業員はどうなりますか?
雇用の継続や処遇は、買い手との交渉で決まる事項です。売り手のオーナーとしては、従業員の雇用や処遇について希望する条件を早い段階で整理し、交渉の中で確認していくことが重要です。
Q. M&Aを検討するなら、まず何をすればよいですか?
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」で手続きの全体像と、仲介者・FAの手数料や経営者保証などの論点を把握しておくことが第一歩になります。そのうえで、自社の強みや課題、会社と個人の資産の関係を整理しておくと、支援機関との相談が具体的になります。
Q. 承継方法は途中で変更できますか?
準備の段階であれば、状況の変化に応じて見直すことは可能です。ただし、後継者の育成や株式の移転、M&Aの交渉などは、進むほど後戻りが難しくなります。方針を変える可能性がある場合は、早めに関係者と共有しておくことが望まれます。
関連するAEGISのソリューション
この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。
- 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、承継の計画から実行までを支援します。
- M&A:会社売却の方針、取引条件、税引後の受取額、売却後の資産設計までを整理します。
- 事業オーナーの方へ:会社と株式、ご家族の承継を一つの計画として整理する、AEGISの支援の流れをまとめています。
- 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。
参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(令和4年3月改訂)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf
確認日:2026-10-07 - 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)―第三者への円滑な事業引継ぎに向けて―」(令和6年8月)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/m_and_a_guideline.pdf
確認日:2026-10-07
