空き家や自宅の一部を民泊に使うと、所得税では原則として「雑所得」として扱われ、通常の賃貸(不動産所得)とは別のルールになります。また、民泊に使った土地や建物は、相続税の小規模宅地等の特例や、相続した空き家を売るときの特例の対象から外れたり、判断が難しくなったりすることがあります。
インバウンド需要の回復で民泊への関心は高まっていますが、近隣とのトラブルや自治体の規制も話題になっています。収入の見込みだけで始めるのではなく、どの制度で営業するか、所得がどう区分されるか、将来の相続や売却に何が起きるかを先に確認しておくことが大切です。この記事では、その3点を順に整理します。
民泊を営む3つの制度
日本で民泊を営む方法は、大きく次の3つに分かれます(観光庁「民泊制度ポータルサイト」)。
| 制度 | 手続 | 営業日数 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 住宅宿泊事業(いわゆる民泊新法) | 都道府県知事等への届出 | 1年間で180日以内 | 「住宅」であることが前提。家主不在時は管理業者への委託が必要 |
| 旅館業(簡易宿所営業など) | 都道府県知事等の許可 | 日数の上限なし | 宿泊施設としての基準を満たす必要があり、建築・消防の要件も確認が必要 |
| 国家戦略特区の民泊(特区民泊) | 特区の自治体での認定 | 区域・条例による | 実施できる区域が限られる |
※AEGISが各制度の公表資料をもとに整理したものです。具体的な要件は自治体ごとの条例等で異なります。
住宅宿泊事業法は平成30年6月15日に施行されました。届出で営業できる一方、事業者には宿泊者の衛生・安全の確保、外国語による案内、宿泊者名簿の備付け、騒音防止などの説明、苦情への対応、標識の掲示、宿泊日数の定期報告といった義務が課されています(同法5条〜10条・13条・14条)。
さらに、家主が不在になる形で営業する場合や、一定の居室数を超える場合には、国土交通大臣の登録を受けた住宅宿泊管理業者に管理業務を委託しなければなりません(同法11条)。空き家を民泊にするケースは、ほぼこれに当たると考えておくとよいでしょう。
また、都道府県等は、生活環境の悪化を防ぐために条例で区域と期間を定めて営業を制限できます(同法18条)。マンションの場合は、管理規約で民泊が禁止されていないかの確認も欠かせません。国土交通省の標準管理規約には、住宅宿泊事業を認めるか認めないかを規約で明確にする考え方が示されています。
民泊の所得は何所得になるか
国税庁は、住宅宿泊事業法の施行に合わせて「住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業により生じる所得の課税関係等について(情報)」(平成30年6月13日)を公表しています。そこでは、所得区分について次の考え方が示されています。
- 原則は雑所得:宿泊者の安全確保やサービスの提供が求められ、受け取る対価には部屋の使用料のほか寝具・清掃・光熱費・案内などの役務の対価も含まれるため、一般的な不動産の貸付けとは性質が異なる、という理由です。
- 一時的な利用は不動産所得に含めてよい:賃貸物件の入居者が退去し、次の入居者が決まるまでの間に一時的に民泊を行った場合です。
- 事業として行っていることが明らかなら事業所得:もっぱら民泊の収入で生計を立てているような場合です。
雑所得になると、青色申告特別控除は使えず、損失が出ても給与所得などと損益通算できません。民泊を「不動産投資の延長」と考えて収支計画を立てると、税引き後の手取りが想定と違うことがあります。
必要経費の考え方
自宅の一部を使う場合は、生活と業務が混ざる費用を分ける必要があります。国税庁の資料では、仲介サイトへの手数料や管理業者への委託費のように民泊だけのための支出は全額を、水道光熱費・固定資産税・減価償却費・借入金の利子のように生活と共通する支出は、床面積の割合や宿泊日数などの合理的な基準で按分して必要経費にする考え方が示されています。また、生計を一にする親族に支払う家賃などは必要経費になりません。
自宅を業務用に転用した部分の減価償却は、それまでの期間を生活用として償却したものとして未償却残高を計算するため、築年数の古い家屋では計上できる額が小さくなることがあります。
管理を任せる場合の注意
運営をすべて事業者に任せる場合、その所得が誰の所得で、何所得になるかは契約の形によって変わり得ます。オーナーが住宅宿泊事業者として届出をし、運営業務だけを委託して収支の最終的な責任を負うのであれば、民泊の所得として扱う考え方が基本になります。一方、事業者が自ら住宅宿泊事業者となり、オーナーは建物を事業者に貸して賃料を受け取るだけであれば、オーナーの所得は建物の貸付けによる不動産所得と整理できる可能性があります。「誰が届出をしているか」「収支のリスクを誰が負うか」を契約書で確認しておくことが出発点です。
相続・売却の特例への影響
民泊は、所得税だけでなく、相続税や譲渡所得の特例にも影響します。とくに見落とされやすいのが次の3点です。
1. 小規模宅地等の特例の区分
小規模宅地等の特例では、相続開始直前の土地の使い方によって、減額の区分が決まります(租税特別措置法69条の4、国税庁タックスアンサーNo.4124)。
- 貸付事業用宅地等(200㎡まで50%減額):対象は不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業と、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為(準事業)です。
- 特定事業用宅地等(400㎡まで80%減額):対象は貸付事業「以外」の事業です。相続開始前3年以内に新たに事業に使い始めた宅地は、一定の規模以上の事業を除いて対象外になります。
- 特定居住用宅地等(330㎡まで80%減額):被相続人などが住んでいた部分が対象です。
民泊の所得が「一般的な不動産の貸付けとは異なる」と整理されていることを踏まえると、民泊に使っていた部分をどの区分に当てはめるかは単純ではありません。事業として営まれていれば特定事業用宅地等の検討余地がある一方、雑所得の規模にとどまる民泊がどの区分に当たるかについて、課税当局が明確に示した見解は確認できませんでした。民泊を始める前の段階で、相続税の試算に「特例が使えない場合」も含めておくのが安全です。
2. 自宅の一部を民泊にした場合
自宅の一部を民泊にすると、その部分は「居住の用」から外れると考えられます。特定居住用宅地等の特例は居住部分について適用されるため、民泊部分の割合が大きいほど、80%減額の対象が狭まる可能性があります。
老人ホームに入った親の自宅を、空いている間に民泊として使う場合も注意が必要です。入居後の自宅に特例を認める取扱いには、「居住しなくなった後に事業の用などに使われた場合を除く」という条件があるためです(国税庁タックスアンサーNo.4124)。
3. 相続した空き家を売る特例
相続した実家を売るときの「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(最高3,000万円の特別控除。相続人が3人以上の場合は2,000万円)は、令和9年12月31日までの譲渡が対象です。この特例は、相続の時から譲渡の時まで、事業・貸付け・居住の用に使われていないことが要件の一つです(国税庁タックスアンサーNo.3306)。売却を視野に入れている空き家を「売れるまでの間だけ民泊に」と考えると、この特例が使えなくなるおそれがあります。
| 想定 | 所得税の扱い(原則) | 相続・売却で確認したいこと |
|---|---|---|
| 自宅の空き部屋で家主同居型の民泊 | 雑所得 | 民泊部分は居住用の特例から外れる可能性 |
| 相続した空き家で家主不在型の民泊 | 雑所得(事業と明らかなら事業所得) | 空き家の3,000万円控除が使えなくなる可能性 |
| 賃貸物件の空室期間だけ民泊 | 不動産所得に含めてよい | 貸付事業の継続性と区分の整理 |
| 事業者に建物を貸し、事業者が民泊を運営 | 契約次第で不動産所得 | 届出者・リスク負担者・賃料の決め方 |
※AEGISが国税庁の資料をもとに整理した目安です。実際の扱いは契約内容や事業の実態で判断されます。
消費税・住宅ローン控除への影響
国税庁の資料によれば、民泊の宿泊料は消費税の課税対象です。基準期間の課税売上高などで納税義務の有無が判定されるため、他に課税売上げがある方は合算して確認が必要です。
住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は、民泊に使う家屋でも、生活用の部分が床面積の2分の1以上であることなどを条件に、生活用部分の割合に応じて計算する考え方が示されています。自宅で民泊を始める際は、控除額への影響も見込んでおきましょう。
AEGISの視点
民泊は「住宅を宿泊サービスに使う事業」です。家賃を受け取る賃貸とは、税務上の性格も、オーナーが負う責任も異なります。AEGISは、民泊を検討する際に「収益」だけでなく「その不動産を将来どうするか」から逆算することが大切だと考えています。
たとえば、数年以内に売却する予定の空き家であれば、民泊の収入よりも、売却時の特別控除を失う影響のほうが大きいことがあります。反対に、長く持ち続けて地域の宿泊需要に応える事業にするのであれば、雑所得の規模ではなく事業として体制を整え、管理会社との契約、会計、許認可の承継まで含めて設計する価値があります。
民泊のように個人の名義で始めやすい事業は、相続が起きたときに「誰が届出や契約を引き継ぐのか」が曖昧になりがちです。不動産の収支管理と、事業としての継続・承継の準備を一つにつなげておくことが、家族の負担を軽くします。
土地や建物の活用方法の比べ方は、関連記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で、相続した実家の選択肢は「相続した実家が空き家になったときの選択肢」で解説しています。
事業として民泊を始める場合の収支や体制の考え方は「土地活用を事業化するときの検討事項」、相続人ごとの特例の違いは「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」もあわせてご覧ください。
不動産と相続の税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 民泊は、住宅宿泊事業(届出・年180日以内)、旅館業(許可)、特区民泊のいずれかの制度で営みます。家主不在型は管理業者への委託が必要です。
- 民泊の所得は原則として雑所得です。賃貸の空室期間の一時的な利用は不動産所得、事業として明らかな場合は事業所得になります。
- 生活と共通する費用は、床面積や日数で按分して必要経費にします。
- 民泊に使った部分は、小規模宅地等の特例の区分判断が難しくなり、居住用の特例や空き家の3,000万円控除が使えなくなる可能性があります。
- 管理を任せる場合は、届出者と収支のリスクを負う人を契約で明確にしておきましょう。
よくある質問
Q. 民泊の収入が少額でも確定申告は必要ですか?
給与所得者で、給与以外の所得が年20万円以下であるなど一定の場合は、所得税の確定申告が不要になることがあります。ただし、住民税の申告は別に必要になる場合があり、他の所得との合計で判断が変わるため、民泊以外の副収入も含めて確認してください。
Q. 民泊の赤字を給与所得と相殺できますか?
民泊の所得が雑所得に当たる場合、赤字が出ても給与所得など他の所得と損益通算することはできません。事業所得に当たると判断される規模・実態で営んでいる場合は扱いが異なりますが、その判断は収入の規模だけでなく、営業の継続性や体制などの実態で行われます。
Q. 親名義の家で子が民泊を営む場合、所得は誰のものですか?
一般に、民泊の届出・宿泊者の受入れ・備品の用意・収入の受取りなど、事業を実際に主宰しているのが誰かで判断します。建物の名義が親でも、子が主宰していれば子の所得と整理される考え方があります。その場合、親に家賃を支払うかどうかで、相続時の土地の評価や特例の区分も変わり得る点に注意が必要です。
Q. 民泊をやめれば、小規模宅地等の特例は使えるようになりますか?
特例は「相続開始の直前」の利用状況で判断するのが原則です。民泊をやめて居住や賃貸に戻した場合、その時点の使い方で判定されますが、貸付事業用や事業用には「相続開始前3年以内に新たに使い始めたもの」を除く定めがあります(貸付事業用は、3年を超えて事業的規模の貸付けを続けていれば例外あり)。やめる時期と次の使い方を、相続の見通しとあわせて検討してください。
Q. マンションの一室でも民泊はできますか?
住宅宿泊事業法の要件を満たせば届出は可能ですが、管理規約で住宅宿泊事業が禁止されている場合は営業できません。また、自治体の条例で区域や期間が制限されていることもあります。届出の前に、管理規約と条例の両方を確認してください。
関連するAEGISのソリューション
この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。
- 事業型不動産活用:保有不動産に合う事業を判定し、事業モデルの選定・開業・運営を支援します(AEGIS SOCIAL IMPACT)。
- 不動産管理と実行管理:賃料・空室・修繕・返済・会計・税務をつなぎ、収益不動産の管理を支援します。
- 個人事業の継続と承継:個人事業を長く続け、次世代へ引き継ぐために、事業資金・民事信託(いわゆる家族信託)・遺言・契約・金融機関対応を確認します。
- 不動産オーナーの方へ:3つの独自分析で承継の負担と資金を確認し、不動産ごとの方針を決める支援の流れをまとめています。
- 高所得者の方へ:所得と資産の両面から、税負担と資産形成を整理する支援をまとめています。
- 不動産の最適保有設計(POD):個人・法人等の取得形態と、税引後の手残り・融資・出口を、物件の購入前に設計します。
- 事業創造型土地活用:土地に合う事業を検討し、開業・運営と相続への備えを一体で設計します。
参考資料・出典
公的資料・一次情報
- e-Gov法令検索「住宅宿泊事業法」(2条・3条・5条〜11条・13条・14条・18条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/429AC0000000065/20250601_504AC0000000068
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「旅館業法」(2条・3条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000138/20250601_504AC0000000068
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「租税特別措置法」(69条の4)
https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026/20261001_508AC0000000012
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「租税特別措置法施行令」(40条の2第1項・第7項)
https://laws.e-gov.go.jp/law/332CO0000000043/20260731_508CO0000000098
確認日:2026-10-09 - 国税庁「住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業により生じる所得の課税関係等について(情報)」(平成30年6月13日)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/0018005-115/0018005-115.pdf
確認日:2026-10-09 - 国税庁 タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」(令和8年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(令和8年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 質疑応答事例「居住用賃貸建物を取得後一定期間内に民泊サービスの用に供した場合」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/19/22.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」(令和8年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm
確認日:2026-10-09 - 観光庁「民泊制度ポータルサイト minpaku(はじめに「民泊」とは)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/overview/minpaku/index.html
確認日:2026-10-09
書籍
- 『令和8年度版 マンション管理の知識』公益財団法人マンション管理センター 編著、住宅新報出版、第4編第3章第3節(住宅宿泊事業法の施行と管理組合)
- 『管理組合・理事のための マンション管理実務必携〔第2版〕』マンション維持管理支援・専門家ネットワーク 編、民事法研究会、第6章(住宅宿泊事業法の制定・施行)
