定期借家契約で貸すという選択|普通借家との違い、賃料改定・再契約・建替え計画との組合せ

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定期借家契約(定期建物賃貸借)は、契約で定めた期間が満了すると、更新されずに確定的に終了する建物の賃貸借です。普通借家契約と違い、期間満了時に明渡しを求めるために「正当事由」は必要ありません。

そのため、将来の建替えや売却、自己使用の予定がある建物や、一定期間だけ貸したい建物では、定期借家が有力な選択肢になります。一方で、入居者にとっては住み続けられる保証がない契約であるため、募集のしやすさや賃料の水準に影響することがあり、手続きを誤ると普通借家として扱われるリスクもあります。

この記事では、建物の賃貸借(定期借家)に絞って、普通借家との違い、契約手続き、賃料改定の特約、期間満了時の再契約、空室リスクとの関係、建替え計画との組合せ方を整理します。土地を貸す定期借地については、関連記事「定期借地で土地を貸すときの考え方」をご覧ください。

普通借家と定期借家の違い

まず、両者の違いを借地借家法の規定に沿って整理します。

項目普通借家契約定期借家契約
契約の終了期間が満了しても、貸主から更新を拒むには正当事由が必要(26条・28条)期間満了で終了し、更新はない(38条1項)
契約期間1年未満の期間を定めると、期間の定めがない契約とみなされる(29条1項)1年未満の期間も定められる(38条1項後段で29条1項を適用しない)
契約の方式書面は法律上の要件ではない公正証書による等の書面(または電磁的記録)で契約する必要(38条1項・2項)
事前説明特別な要件はない契約前に「更新がなく期間満了で終了する」旨を書面を交付して説明(38条3項)
期間満了の通知更新しない場合は期間満了の1年前から6か月前までに通知し、かつ正当事由が必要期間1年以上の場合、期間満了の1年前から6か月前までに終了の通知(38条6項)
賃料の改定借賃増減請求(32条)が及ぶ。減額しない特約は効力が認められない賃料改定の特約があれば32条は適用されない(38条9項)
借主からの中途解約特約による居住用で床面積200㎡未満の場合、やむを得ない事情があれば1か月前の申入れで解約可(38条7項)

この表から分かるとおり、定期借家の最大の特徴は、期間満了時に貸主の側で建物の使い方を決め直せることと、賃料改定のルールを契約で決めておけることにあります。

定期借家契約を結ぶときの手続き

定期借家は、手続きの要件を満たさないと「更新がない」という定めが無効になり、普通借家として扱われるおそれがあります。特に次の3点が重要です。

1. 書面(または電磁的記録)による契約

借地借家法38条1項は、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、更新がない旨を定めることができるとしています。公正証書は例示であり、通常の書面による契約でもかまいません。また、契約内容を記録した電磁的記録による契約も、書面による契約とみなされます(同条2項)。

2. 契約前の書面による説明

貸主は、契約に先立って、借主に対し、この賃貸借は更新がなく期間の満了によって終了することを、その旨を記載した書面を交付して説明しなければなりません(38条3項)。この説明をしなかった場合、更新がない旨の定めは無効になります(同条5項)。

この説明用の書面は、借主の承諾を得て、電子メールなどの電磁的方法で提供することもできます(同条4項、借地借家法施行令、借地借家法施行規則)。実務では、契約書とは別の書面として説明書を用意し、説明を受けた旨の確認を残しておくことが一般的です。

3. 期間満了前の終了通知

契約期間が1年以上の場合、貸主は、期間満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に、借主に対して期間満了で契約が終了する旨を通知しなければ、終了を借主に対抗できません(38条6項)。通知期間を過ぎてから通知した場合は、その通知の日から6か月を経過するまでは終了を対抗できないとされています。

通知を忘れると、予定どおりに明渡しを受けられないことになるため、管理会社と通知の時期・方法を事前に決めておくことが大切です。

賃料改定の特約と再契約

賃料改定の特約

普通借家では、賃料が経済事情の変動などで不相当になれば、当事者は借地借家法32条に基づいて賃料の増減を請求できます。一定期間賃料を増額しない特約は有効ですが、減額しない特約は借主に不利なものとして効力が認められないと考えられています。

定期借家では、賃料の改定に関する特約がある場合は32条が適用されません(38条9項)。たとえば、「契約期間中は賃料を改定しない」「○年ごとに一定の方法で改定する」といった定めを置けば、その定めに従うことになります。賃料を一定に保ちたい場合、あるいは改定のルールを明確にしたい場合に有効です。ただし、特約の内容によっては、相場が上がっても賃料を上げられない、という結果にもなりうる点は理解しておく必要があります。

期間満了時の再契約

定期借家は期間満了で終了しますが、貸主と借主が合意すれば、新たな定期借家契約を結ぶ(再契約する)ことができます。再契約は更新とは異なり、改めて契約を結ぶものなので、賃料や期間などの条件をその時点の相場や建物の状況に合わせて見直すことができます。

再契約の際も、新しい契約について書面による契約と事前の書面説明が必要になる点に注意が必要です。良好な入居者に長く住んでもらうことを前提に、「再契約を予定している」ことを募集段階で伝える運用も見られます。

空室リスクとの関係

定期借家は、借主から見ると「期間が来れば出なければならない可能性がある」契約です。このため、実務では、普通借家に比べて入居希望者が限られ、賃料も普通借家より低めになる傾向があるといわれます。

一方で、次のような場合は、定期借家でも入居者を確保しやすいと考えられます。

  • 転勤者向けなど、もともと一定期間の利用を前提とした需要がある
  • 再契約を前提とした運用であることを、募集時に分かりやすく説明できる
  • 店舗や事務所など、事業者が期間を前提に事業計画を立てる用途である

空室を埋めることを最優先にするのか、将来の自由度を優先するのかによって、普通借家と定期借家のどちらが合うかは変わります。既存物件の収支への影響を確かめたい場合は、関連記事「修繕費と金利が上がる時代、賃料を見直す前に確認したい収支」もあわせてご覧ください。

建替え計画と組み合わせる

定期借家が特に力を発揮するのが、数年後の建替えや売却を見据えた賃貸です。

普通借家の入居者がいる建物を建て替える場合、貸主から更新を拒んだり解約を申し入れたりするには、借地借家法28条の正当事由が必要です。正当事由の判断では、貸主と借主の建物使用の必要性、賃貸借の経過、建物の利用状況や現況、立退料などの財産上の給付の申出が考慮されます。実務では、建物の老朽化だけで正当事由が認められるとは限らず、立退料の交渉や明渡しまでの期間が、建替え計画のスケジュールと費用を大きく左右します。

定期借家であれば、契約期間の満了時期を建替えの着工時期に合わせて設定しておくことで、明渡しの時期を計画に組み込みやすくなります。たとえば、建替えまでの期間が5年程度と見込まれる場合、空室になった住戸から順に、満了時期をそろえた定期借家で募集していく、という方法が考えられます。

物件の状況定期借家が向いている理由留意点
5〜10年以内に建替え・売却の可能性がある満了時期を計画に合わせられる満了時期の設定と終了通知の管理が必須
一時的に使わない自宅・実家を貸す期間を限って貸せる期間中の自己使用は原則できない
店舗・事務所の区画を貸す事業期間と契約期間を合わせやすい内装投資の回収期間と期間設定のバランス
長期の安定稼働を最優先する普通借家のほうが募集しやすい場合が多い将来の建替え時には正当事由と立退料が論点

※上記は一般的な整理です。実際の判断は、立地・需要・建物の状態によって異なります。

なお、すでに普通借家で入居している人の契約を、合意によって定期借家に切り替える場合、居住用の建物については、定期借家制度の導入(平成12年3月1日施行)より前に結ばれた契約を合意で定期借家に切り替えることは、当分の間認められないという経過措置があるとされています。既存の契約の切替えを検討する場合は、契約の締結時期と内容を確認したうえで、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

建替えと売却の比較は、関連記事「築古アパートは建て替えるか、売るか」で解説しています。

実務上注意したいポイント

  • 説明書面と契約書は別に用意する:説明は契約に先立って行う必要があります。契約書の条項に書いてあるだけでは、説明の要件を満たさないと判断されるおそれがあります。
  • 終了通知の期限管理:期間1年以上の契約では、満了の1年前から6か月前までの通知が必要です。複数の住戸の満了時期を一覧で管理しましょう。
  • 中途解約の扱い:居住用で床面積200㎡未満の場合、転勤・療養・親族の介護などやむを得ない事情があれば、借主は1か月前の申入れで解約できます。この規定より借主に不利な特約は無効です(38条8項)。
  • 一時使用との区別:一時使用のためであることが明らかな賃貸借には借地借家法の借家の規定が適用されませんが、一時使用に当たるかは厳格に判断されます。期間を限って貸したい場合は、定期借家の要件を満たして契約するのが安全です。

AEGISの視点

定期借家と普通借家の選択は、契約書の書式の問題ではなく、「この建物を10年後にどう使いたいか」というオーナーの意思を、今日の契約に反映させることだとAEGISは考えています。

将来の建替え、売却、家族による自己使用、事業への転用。こうした選択肢を残したいなら、定期借家によって期間満了時の自由度を確保しておく意味があります。反対に、長く安定して貸し続けることが目的であれば、普通借家のほうが入居者にも選ばれやすく、空室のリスクを抑えやすいかもしれません。

大切なのは、建物ごとの「出口」の見通しと契約形態をそろえることです。土地と建物を貸す・活用する・売却するという全体の判断の順番は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で解説しています。

まとめ

  • 定期借家契約は、期間満了で更新されずに終了する建物の賃貸借で、明渡しに正当事由は必要ありません。
  • 書面(電磁的記録を含む)による契約、契約前の書面による説明、期間1年以上の場合の終了通知が必要で、説明がないと更新がない旨の定めは無効になります。
  • 賃料改定の特約を定めると借賃増減請求の規定は適用されず、期間満了時には合意により条件を見直して再契約できます。
  • 入居者の確保や賃料の水準に影響することがあるため、空室リスクと将来の自由度のどちらを優先するかで選択が変わります。
  • 建替えや売却の計画がある建物では、満了時期を計画に合わせた定期借家の活用が有力な選択肢になります。

よくある質問

Q. 定期借家契約は、契約書に「定期借家」と書けば成立しますか?

それだけでは足りません。書面(または電磁的記録)による契約に加え、契約に先立って、更新がなく期間満了で終了することを記載した書面を交付して説明する必要があります(借地借家法38条3項)。この説明がないと、更新がない旨の定めは無効になります。

Q. 期間が満了したら、入居者は必ず退去しなければなりませんか?

期間1年以上の契約では、貸主が期間満了の1年前から6か月前までに終了の通知をしていれば、期間満了で契約は終了します。通知が遅れた場合は、通知の日から6か月を経過するまで終了を主張できません。双方が合意すれば、新たな契約を結んで住み続けてもらうことも可能です。

Q. 定期借家なら、契約期間中に賃料を上げることはできますか?

定期借家では、賃料改定に関する特約を定めれば、その特約に従います(借地借家法38条9項)。特約で改定の方法や時期を定めていれば、その方法で改定します。逆に「改定しない」と定めた場合は、期間中は賃料を変えないことになります。特約がない場合は、普通借家と同様に借賃増減請求の規定が及ぶと考えられます。

Q. 定期借家にすると空室が増えませんか?

入居希望者が限られ、賃料が普通借家より低めになる傾向があるといわれています。ただし、転勤者向けの需要や、再契約を前提とした運用、事業用の区画など、定期借家でも入居者を確保しやすい場面もあります。物件の立地や需要に合わせて判断することが大切です。

Q. 今住んでいる入居者の契約を、定期借家に切り替えられますか?

切り替えには入居者の合意が必要で、定期借家の要件(書面による契約と事前の書面説明)を満たす必要があります。また、居住用の建物で、定期借家制度の導入前に結ばれた契約については、合意による切替えが当分の間認められないとする経過措置があるとされています。契約の時期と内容を確認したうえで進めてください。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『令和8年度版 マンション管理の知識』公益財団法人マンション管理センター 編著、(公財)マンション管理センター(発売:住宅新報出版)、P.382-388
  • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、P.426-427

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。