カテゴリー: 財団・公益

財団の活用、公益活動、株式寄附、運営と税務の論点を整理します。

  • 財団が保有する自社株の議決権をどう行使するか|寄附後の運用ルールと議決権行使方針のつくり方

    財団が保有する自社株の議決権をどう行使するか|寄附後の運用ルールと議決権行使方針のつくり方

    自社株を財団に寄附した後、その株式の議決権は、寄附者でも会社の経営陣でもなく、財団自身が、財団の目的に照らして理事会などの手続を経て行使するものになります。

    そのため寄附後に必要になるのは、「財団がどのような考え方で議決権を使うのか」をあらかじめ文書にした議決権行使方針と、それを運用する理事会の手続・利益相反の管理・会社との対話の仕組みです。これらが整っていれば、財団は会社にとって予見可能性の高い株主になり、同時に寄附者の家族や経営陣から独立した存在であり続けられます。

    この記事では、寄附「後」の運用ルールに焦点を当て、議決権行使方針に何を書き、どのような場面でどう考えるかを整理します。寄附「前」に決めておくこと(寄附する株式の割合や税務の要件など)は、関連記事「非上場株式を財団に寄附する前に決めること」で扱っています。

    寄附後、財団は株主として会社とどう関わるか

    財団は「独立した株主」になる

    財団が株式を持つと、他の株主と同じように、株主総会での議決権、配当を受け取る権利、会社の情報を求める権利などを持ちます。一方で、財団には持分を持つ人がいません。寄附をしたオーナーであっても、財団の財産や議決権を自分のものとして扱うことはできません。

    財団が保有する株式の議決権は、一般に、理事会の決議などに基づいて代表理事がまとめて行使します。理事は財団に対して、財団の目的に沿って誠実に職務を行う責任を負っています。つまり議決権の行使は、「寄附者や経営陣の意向に従うこと」ではなく、「財団の目的にとって何が適切か」を理事会が判断することです。

    保有と運営にかかる主な制約

    財団が自社株を持ち続けるうえで、次のような制約があります。いずれも寄附の設計段階で確認すべき事項ですが、寄附後の増資や株式の移動によって状況が変わることがあるため、継続的に確認が必要です。

    • 公益財団法人の場合:公益認定の基準として、他の団体の意思決定に関与できる株式等の保有が制限されており、その会社の株主総会などにおける議決権の過半数を有していない場合に限って保有が認められます(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第18号、同法施行令第8条)。
    • 譲渡所得等の非課税特例を受けた寄附の場合:国税庁は、寄附によって法人が保有することになる株式(寄附前からの保有分を含む)が、その会社の発行済株式総数の2分の1を超えないことを判定項目の一つとしています。また、理事・監事・評議員のそれぞれについて、親族関係などにある人の割合を3分の1以下とする定めを置くことも求められています。さらに国税庁の通達では、寄附者やその親族が役員となっている会社の株式を寄附する場合、その議決権の行使にあたっては、あらかじめ理事会で理事総数の3分の2以上の承認を得ることを定款で定めておくことが、運営組織が適正かどうかの判定項目として示されています(租税特別措置法第40条関係通達18)。
    • 会社の子会社とみなされないこと:財団の理事の多くを会社の役員が占めるなど、会社が財団の方針決定を支配していると評価される状態になると、財団が会社の子会社とみなされ、株式の保有自体が問題になるおそれがあると指摘されています。

    これらは、財団が会社から独立していることを制度の側から求めるものです。議決権行使方針は、この独立性を運用の場面で具体化するものと位置付けると分かりやすくなります。

    議決権行使方針に書くこと

    議決権行使方針は、法律で作成が義務付けられた文書ではありません。しかし、財団の理事が交代しても判断の軸がぶれないようにするため、また会社や寄附者の家族に財団の考え方を説明するために、文書化しておく意味は大きいと言えます。

    AEGISでは、次の7つの項目で方針を構成することをおすすめしています。

    項目書くことねらい
    1. 基本的な考え方財団の目的と、株主としての立場(中長期の企業価値と安定した配当を重視する等)個々の判断の拠り所をつくる
    2. 議案の区分定例的な議案と、重要な議案の区分手続の重さを議案に応じて変える
    3. 判断の基準区分ごとに、賛否を判断する際に確認する事項判断の再現性を高める
    4. 決議の手続理事会で決議する事項、決議の要件、外部の意見を求める場合意思決定の正当性を確保する
    5. 利益相反の管理会社の役員を兼ねる理事や、寄附者の家族である理事の扱い財団の判断の独立性を守る
    6. 会社との対話説明を受ける機会、配当方針についての意見交換の方法予見可能性を高め、対立を防ぐ
    7. 記録・開示・見直し議事録の残し方、評議員会への報告、方針の見直し時期説明責任を果たし、方針を更新する

    議案の区分と判断の基準

    議案を、たとえば次のように区分しておくと、すべての議案に同じ重さで向き合う必要がなくなります。

    • 定例的な議案:計算書類の承認、剰余金の配当、通常の役員選任など。会社から事前に説明を受け、財団の基本的な考え方に照らして大きな問題がなければ、理事会で包括的に方針を確認したうえで行使する
    • 重要な議案:定款変更、第三者割当による増資、合併・会社分割などの組織再編、株式の大量取得への対応、財団が保有する株式の売却や買取りの提案など。個別に理事会で審議し、必要に応じて外部の専門家の意見を求める

    判断の基準には、「会社の中長期の存続と成長に資するか」「財団の財源である配当の安定性にどう影響するか」「財団の目的や公益性と矛盾しないか」といった問いを置きます。

    理事会での決議と利益相反の管理

    特別な利害関係がある理事の扱い

    理事会の決議について特別の利害関係を持つ理事は、その決議に加わることができません(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)第197条で準用する第95条第2項)。典型的には、その理事自身と財団との取引の承認や、その理事の責任免除などがこれに当たります。

    財団の理事が会社の取締役を兼ねている場合、会社の役員選任議案に関する財団の議決権行使の決議に、その理事が参加できるかが問題になります。専門書籍では、会社の役員選任は財団とは別の法人の問題であり、財団の利益と直接衝突するとは限らないため、参加できると考えられるとする見解が示されています。

    ただし、法的に参加が可能かどうかと、運用として望ましいかどうかは別の問題です。財団の判断の独立性を外部に説明する観点からは、次のような運用ルールを方針に書いておくことが考えられます。

    • 会社の役員を兼ねる理事は、会社の役員人事や役員報酬、自身が関わる取引に関する議案では、意見を述べたうえで審議・決議から外れる
    • 寄附者の家族である理事が多数を占めないよう、理事の構成を定期的に確認する
    • 会社の経営陣と財団の考えが対立した場合に、外部の理事を中心に検討する体制を決めておく

    財団と会社の取引

    財団が会社と取引をする場合(会社から寄附や協賛を受ける、会社の施設を借りる、会社に業務を委託する等)、理事がその会社を代表していれば、財団と理事との利益相反取引として理事会の承認が必要になることがあります(一般法人法第197条で準用する第84条第1項)。承認を得るときは、取引の重要な事実を開示し、利害関係のある理事は決議に加わらないことが原則です。

    公益財団法人には、設立者や理事・評議員、その親族などの法人関係者や、株式会社などの営利事業者に特別の利益を与えないことも求められています(認定法5条3号・4号、同法施行令1条)。株式寄附について譲渡所得等の非課税の承認を受けた場合は、寄附者やその親族などに特別の利益を与えないことも要件です(租税特別措置法施行令25条の17第6項)。会社と財団の関係が「持ちつ持たれつ」になりすぎないよう、取引の条件を記録し、説明できる状態にしておくことが大切です。

    配当方針との関係

    自社株の寄附によって設立された財団は、多くの場合、配当を主な財源とします。そのため財団は、配当を期待する株主という立場から会社と向き合うことになります。

    ここで注意したいのは、財団が配当の増額を求めることだけが、財団の目的にかなうわけではないという点です。会社の成長投資が損なわれれば、長い目で見て配当の源泉が細ります。一方で、税制上の非課税特例を受けた寄附の場合、株式から生じる配当が継続して公益目的事業に充てられることが前提とされているため、無配が続くと財団の活動だけでなく、税制上の取扱いにも影響するおそれがあります。

    そこで方針には、次のような事項を書いておくとよいでしょう。

    • 会社の配当方針(安定配当か、業績連動か)について、毎年説明を受ける機会を設ける
    • 減配・無配の提案があった場合に、会社の事業計画と財団の資金計画の両方を確認したうえで賛否を判断する
    • 配当の見込みを財団の予算や積立ての計画にどう反映するかを、事務局と理事会で共有する

    配当の変動を財団の資金計画でどう受け止めるかは、関連記事「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」と「公益法人の財務規律をオーナー目線で読む」で解説しています。

    場面別に考える議決権行使

    財団の議決権が問われるのは、平時よりも、会社の転機となる場面です。代表的な場面と、検討したい点を整理します。

    場面財団として確認したいこと方針で決めておきたいこと
    定時株主総会(役員選任・配当)会社の業績と事業計画、配当の水準と理由定例議案として包括的に確認する範囲
    第三者割当による増資資金の使い道、財団の持株比率の低下が配当や財団の位置付けに与える影響重要議案として個別審議する
    合併・事業譲渡などの組織再編事業の継続性、雇用、財団が持つ株式の価値と配当への影響外部の意見を求めるかどうか
    株式の買取り・売却の提案価格の妥当性、税制上の取扱い、財団の財源への影響売却を検討する条件と手続
    創業家と経営陣の意見の対立双方の説明、会社の中長期の利益利害関係のある理事の扱いと、外部理事中心の検討体制
    減配・無配の提案会社の資金需要と回復の見通し、財団の活動への影響財団の資金計画との照合手順

    いずれの場面でも、「どちらの味方をするか」ではなく、「財団の目的と会社の中長期の存続にとって何が適切か」を問うことが、財団の議決権行使の基本になります。

    実務上注意したいポイント

    • 方針の原案は寄附の前につくる:寄附後の最初の理事会で方針を採択できるよう、原案を寄附の検討段階で用意しておくと、寄附直後の空白期間を避けられます。
    • 方針で理事を縛りすぎない:理事は、その時点の状況に照らして財団のために判断する責任を負います。方針は判断の拠り所であって、結論をあらかじめ決めておくものではありません。
    • 寄附者は「指示」ではなく「目的」で関わる:寄附者が議決権の行使を指示することはできません。寄附者の想いは、財団の目的や方針の基本的な考え方に込めておくことが現実的です。
    • 持株比率の変化を定期的に確認する:増資や自己株式の取得によって、財団の持株比率や議決権比率は変わります。保有制限や子会社に当たるかどうかの判断に影響するため、毎年確認しておきましょう。
    • 記録を残す:議決権行使の判断理由を議事録に残しておくことは、評議員会や行政庁、社会への説明の基礎になります。

    AEGISの視点

    自社株を財団に寄附するとき、多くのオーナーは「財団が安定株主として会社を支えてくれる」ことを期待します。しかし、財団が安定株主として機能するのは、創業家・経営陣・財団の考えが一致している間に限られることが少なくありません。対立や買収提案、増資といった場面でこそ、財団の判断の仕方が問われます。

    AEGISは、財団の議決権を「会社のために使う議決権」ではなく、「財団の目的のために、会社の中長期の存続を見守る議決権」と捉えています。そのためには、財団の独立性を形だけでなく運用で示すことが欠かせません。議決権行使方針、理事会の手続、利益相反の管理、会社との対話の4つがそろって初めて、財団は会社にとって信頼できる株主になり、寄附者の想いを世代を超えて守る器になります。

    自社株の承継と財団への寄附は、別々の手続として進められがちです。しかし、後継者が持つ議決権と財団が持つ議決権の関係は、承継後の会社の意思決定の形そのものです。株式の評価や資本構成の設計とあわせて、寄附後の運用まで一つの設計図で考えることをおすすめします。財団全体の設計は、Pillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    なお、財団に議決権を持たせること自体を避けたい場合は、寄附する株式を議決権のない配当優先株式にする設計も考えられます。財団は配当を受け取る株主として社会貢献の財源を確保し、会社の意思決定は後継者が担うという役割の分け方です。自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団(AEGISが設立したアイジスレガシー財団など)に寄附する場合も、この考え方は同じです。ただし、議決権のない株式であっても、定款の定め方によっては一定の場面で種類株主総会の決議が必要になることがあるため、その場面での財団の判断の仕方は、本記事の考え方に沿って整理しておく必要があります。

    財団と株式承継に関わる資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 財団が保有する自社株の議決権は、寄附者や経営陣の意向ではなく、財団の目的に照らして理事会などの手続を経て行使されます。
    • 公益財団法人の議決権の過半数保有の制限、非課税特例における2分の1・3分の1の基準、子会社とみなされるリスクなど、財団の独立性を求める制約があります。
    • 寄附後は、基本的な考え方・議案の区分・判断基準・決議手続・利益相反の管理・会社との対話・記録と見直しを含む議決権行使方針を文書化しておくことが有効です。
    • 配当方針については、財団は配当を期待する株主として、会社の成長投資とのバランスを見ながら対話することが大切です。
    • 具体的な制約の適用や手続は、財団の形態・持株比率・寄附時の税務の取扱いによって異なるため、個別に確認してください。

    よくある質問

    Q. 寄附したオーナーは、財団の議決権行使に意見を言えますか?

    寄附者が財団の議決権の行使を指示することはできません。寄附者が財団の理事や評議員を務めている場合は、その立場で議論に参加することになりますが、親族等の割合の制限や利益相反の管理に従う必要があります。寄附者の想いは、財団の目的や議決権行使方針の基本的な考え方に反映しておくことが現実的です。

    Q. 議決権行使方針は、法律で作成が義務付けられていますか?

    法律で一律に作成が義務付けられた文書ではありません。ただし、理事の交代があっても判断の軸を保ち、会社や寄附者の家族、行政庁に財団の考え方を説明するうえで、文書にしておく意味は大きいと考えられます。理事会で採択し、定期的に見直すことをおすすめします。

    Q. 財団の理事が会社の取締役を兼ねていても問題ありませんか?

    兼任そのものが直ちに禁止されるわけではありませんが、会社の役員が財団の理事の多くを占めると、財団が会社の子会社とみなされるおそれや、財団の判断の独立性が疑われるおそれがあります。兼任する理事の人数を限ったうえで、会社の役員人事や自身が関わる取引の議案では決議から外れるなどの運用ルールを設けておくことが望まれます。

    Q. 会社が増資をすると、財団にどのような影響がありますか?

    財団が増資に応じなければ、財団の持株比率や議決権比率は下がります。配当の総額が変わらなくても、財団の会社における位置付けが変わるほか、保有制限や子会社に当たるかどうかの判断にも影響することがあります。第三者割当による増資は重要議案として、資金の使い道と財団への影響を個別に審議することが望まれます。

    Q. 財団が保有する株式を売却することはできますか?

    財団が株式を売却すること自体は可能ですが、寄附時に譲渡所得等の非課税特例を受けている場合は、売却による買換えや管理の方法について税制上の手続や要件が関わることがあります。また、売却は財団の財源と会社の株主構成の両方に影響します。売却を検討する条件と手続を方針に定め、事前に専門家と税務上の取扱いを確認してください。

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    • 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附等の目的に合う資本設計を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、野村資産承継研究所 監修、大蔵財務協会
    • 『公益認定の判断基準と実務』出口正之 著、全国公益法人協会
  • 社会貢献を続ける財団をどう設計するか|寄附者の想いを助成・事業・運営体制に結びつける考え方

    社会貢献を続ける財団をどう設計するか|寄附者の想いを助成・事業・運営体制に結びつける考え方

    事業や資産を築いてきたオーナーが、ある時期から「社会に何かを還したい」と考えるようになることは珍しくありません。その手段として財団の設立が話題にのぼることがありますが、財団は法人をつくった時点で完成するものではありません。寄附者が第一線を退いたあとも、十年、二十年と活動が続いて初めて、想いが社会に届いたと言えます。

    結論から言えば、社会貢献を続ける財団の設計は、「どの法人形態にするか」から始めるのではなく、「何のために、どのような形で、どの資金で、誰が続けるのか」を先に言葉にすることから始まります。法人の種類や税制は、その答えを実現するための手段として後から選ぶものです。

    この記事では、財団設計を5つの要素に分け、それぞれで何を決めておくべきかを、令和6年改正(令和7年4月1日施行)後の公益法人制度と、国税庁が示す寄附税制の考え方を踏まえて整理します。

    財団とはどのような法人か

    財団(財団法人)は、一定の目的のために拠出された財産そのものに法人格を与える仕組みです。株式会社のように出資者が持分を持つ形ではなく、財産を拠出した人であっても、法人の財産に対する持分を持ちません。

    日本の財団法人は、大きく次の2つに分かれます。

    区分成り立ち主な特徴
    一般財団法人一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に基づき、定款の作成・公証人の認証・財産の拠出・登記によって設立事業内容に法律上の制約は少なく、行政庁の監督は受けない
    公益財団法人一般財団法人が行政庁(内閣府または都道府県)の公益認定を受けたもの公益目的事業を主たる目的とし、行政庁の監督と財務・ガバナンスの基準に服する一方、税制上の優遇がある

    一般財団法人を設立する際には、設立者が拠出する財産の価額の合計が300万円を下回ってはならないとされ、評議員(3人以上)・理事(3人以上)・監事(1人以上)を置くことが必要です。評議員会が理事を選任・解任し、理事会が業務を執行するという、いわば「財産を見守る人」と「財産を使って活動する人」を分けた構造になっています。

    一般財団法人と公益財団法人の違いや、どちらを選ぶかの判断軸については、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で詳しく解説しています。

    なぜ「続ける」ことが難しいのか

    財団の設立手続そのものは、法律に定められた手順に沿って進めることができます。難しいのは、その後の継続です。継続を難しくする要因は、主に次の3つです。

    • 目的と活動のずれ:設立時の想いが抽象的なままだと、寄附者がいなくなった後に「何を優先すべきか」で判断が割れます。一方、財団の目的は設立者の意思を実現するためのものであり、後から自由に書き換えられる性質のものではありません(定款の目的は、設立者が定款で変更を認めた場合や、裁判所の許可を得た場合を除き、評議員会の決議でも変更できないとされています。一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第200条)。
    • 財源の不安定さ:基本財産の運用収入や、寄附された株式の配当は、金利や業績によって大きく変動します。収入が減っても、助成の約束や事務局の固定費は残ります。
    • 人の交代:理事や評議員が入れ替わるにつれ、設立時の経緯を知る人が減っていきます。また、寄附者の家族が運営を事実上支配する形は、税制・公益認定の両面で認められにくい設計です。

    つまり財団設計とは、「寄附者がいなくても、想いに沿った判断が自然に行われる仕組み」をあらかじめ組み込むことだと言えます。

    財団設計を構成する5つの要素

    AEGISでは、社会貢献を続ける財団の設計を、次の5つの要素に分けて整理することをおすすめしています。

    要素決めること中心となる問い
    1. 目的(ミッション)解決したい社会課題、支援したい対象、活動の範囲何のために存在するのか
    2. 活動の形助成型・事業型・その併用、対象地域、活動期間どのように社会に届けるのか
    3. 財源拠出する財産の種類と規模、継続収入の見込み何を原資に続けるのか
    4. 運営体制評議員・理事・監事の構成、事務局、意思決定の手順誰が判断し、誰が見守るのか
    5. 器と税制一般財団法人か公益認定か、寄附の方法と時期どの制度を使うのが合理的か

    以下、それぞれの要素で検討したい点を見ていきます。

    1. 目的:想いを「判断の基準」になる言葉にする

    目的は、財団のすべての判断の拠り所です。「社会に役立ちたい」という言葉だけでは、助成先を選ぶ基準にはなりません。

    • 誰の、どのような困りごとを対象にするのか(例:経済的な事情で進学をあきらめる若者、地域の文化財の保存など)
    • なぜその課題なのか(寄附者の経験や事業とのつながり)
    • 活動の範囲(地域、分野、対象年齢など)

    公益認定を目指す場合、公益目的事業は「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」であることが求められます。寄附者の会社の従業員や取引先だけを対象とするような設計は、この考え方と合いにくい点に注意が必要です。

    2. 活動の形:助成型か、事業型か

    財団の活動は、大きく次の2つの形に分けられます。

    • 助成型:奨学金や研究助成、活動団体への助成金など、資金を他者に渡して社会課題の解決を支える形
    • 事業型:財団自らが施設の運営、講座の開催、調査研究などを行う形

    助成型は少人数の事務局でも始めやすい一方、助成先の選考・評価の仕組みが質を左右します。事業型は社会への関与が直接的である反面、人員や施設などの固定費が大きくなります。最初は助成型で小さく始め、経験を積んでから事業を加えていくという段階的な設計も考えられます。

    3. 財源:拠出財産と継続収入の両方を見る

    財団の財源は、大きく「拠出された財産から生まれる果実(運用収入・配当など)」「継続的な寄附」「事業収入」に分けられます。どの財産をどれだけ拠出するかは、活動の規模から逆算して考える必要があります。

    とくに自社株式を拠出する場合は、配当が財団の主な収入源になるため、会社の配当方針と財団の予算が密接に結びつきます。株式の寄附で検討すべき論点は関連記事「非上場株式を財団に寄附する際の検討事項」で、寄附後の運営資金の考え方は「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」で整理しています。

    4. 運営体制:寄附者の家族が「支配しない」設計

    財団は持分のない法人であるため、寄附者やその家族が法人を私的に支配できる状態は、税制上も公益認定上も問題視されます。たとえば国税庁は、公益法人等への財産の寄附について譲渡所得等の非課税の承認を受けるための判定の一つとして、理事・監事・評議員のうち親族等の占める割合がそれぞれ3分の1以下とする旨の定款の定めがあることや、寄附者などに特別の利益を与えないことなどを示しています。

    運営体制では、次の点を設計しておきたいところです。

    • 評議員・理事・監事に、どのような立場・専門性の人を迎えるか
    • 寄附者やその家族は、どの役割で、どの程度関与するか
    • 助成先や事業の選定を、誰がどのような手順で決めるか(選考委員会の設置など)
    • 事務局の担い手(専任職員、外部委託など)

    5. 器と税制:手段として選ぶ

    最後に、一般財団法人のままで活動するか、公益認定を受けるかを判断します。公益認定を受けると寄附税制上の優遇が受けやすくなる一方、財務や情報開示の基準に継続して対応する必要があります。これらの比較は、上記の4つの要素が固まっているほど判断しやすくなります。

    自ら財団をつくらないという選択肢

    ここまでの5つの要素は、どれも「自ら財団を設立する」場合に、寄附者とその家族が引き受けることになる仕事です。評議員・理事・監事を選び、評議員会と理事会を開き、事務局を置き、毎年の会計と報告を整え、公益認定を目指すならその基準を満たし続ける。財団は寄附者が第一線を退いた後も続くことが前提のため、この運営は後継者や次の世代に引き継がれていきます。

    社会貢献への想いはあっても、ここまでの体制を一族で担い続けるのは重い、と感じる方は少なくありません。そうした場合の選択肢として、自ら財団を設立せず、運営体制をすでに備えた財団の中に、寄附者の名前や想いを冠した基金(冠基金)を設ける方法があります。

    AEGISでは、この考え方を形にする器として、一般財団法人アイジスレガシー財団を設立しました。寄附者ごとに法人をつくるのではなく、一つの財団の中に寄附者の目的に沿った基金を設け、助成や奨学の形で社会につなぐ仕組みです。金銭のほか、一定額の配当が確実に見込まれる株式等の寄附も、専門家の確認と理事会の決定を経て受け入れ、配当を原資に支援を続ける設計をとっています。

    比べる点自ら財団を設立する既存の財団に冠基金を設ける
    設立の手続定款の作成、財産の拠出、評議員・理事・監事の選任などが必要財団との間で基金の目的や条件を合意する
    毎年の運営評議員会・理事会の開催、事務局、会計・報告を自ら担う受け手の財団が担う(所定の事務運営費は寄附者が負担)
    次の世代の負担理事や事務局として運営を引き継ぐ人が必要後継者が財団運営の実務を担う必要はない
    想いの反映目的や事業を自由に設計できる財団と合意した目的の範囲で、基金ごとに支援の分野や対象を定める
    規模の目安設立時の拠出300万円以上(法律上の下限)に加え、運営費を賄える財源受け手の財団の基準による(アイジスレガシー財団の冠基金は、元本を使う方式で500万円以上の金銭寄附、配当・利子収入を原資とする方式で年額200万円以上の収入が確実に見込まれること)

    自ら財団をつくる方法には、目的や事業を自由に設計できるという大きな利点があります。一方、既存の財団を使う方法は、自由度の一部と引き換えに、設立と運営の負担を大きく軽くし、後継者に財団運営の実務を背負わせない選択です。どちらがよいかは想いの大きさではなく、「どの程度の規模で、どれだけ独自に、誰が続けるのか」という5つの要素への答えによって決まります。なお、税務上の取扱いは、寄附の時期、受け手の財団の認定・承認の状況、寄附する財産の内容によって異なるため、どちらの方法でも個別の確認が必要です。

    自社株式を寄附する場合には、議決権のない配当優先株式などを寄附し、議決権のある株式は後継者に承継する設計と組み合わせることで、後継者の経営権を保ったまま、会社の利益の一部を社会に還元することもできます。アイジスレガシー財団の仕組みや基金の種類は、アイジスレガシー財団のホームページで紹介しています。

    押さえておきたい税制の基本

    財団への寄附には、寄附をする個人と、寄附を受ける法人の双方に税務上の論点があります。ここでは、設計段階で知っておきたい基本だけを整理します。

    財産を寄附した個人:みなし譲渡と非課税の特例

    個人が土地・建物・株式などを法人に寄附すると、寄附した時の時価で譲渡があったものとみなされ、それまでの値上がり益に所得税が課されるのが原則です。ただし、公益法人等への寄附で一定の要件を満たし、国税庁長官の承認を受けた場合には、この所得税が非課税となる特例があります(租税特別措置法第40条)。承認申請は、原則として寄附の日から4か月以内に、寄附者の所得税の納税地を所轄する税務署に提出します。

    国税庁は、この承認の要件として、寄附が公益の増進に著しく寄与すること、寄附財産が寄附の日から2年を経過する日までに公益目的事業の用に直接供されること、寄附者や親族等の税負担を不当に減少させる結果とならないことなどを示しています。

    寄附を受けた法人:持分の定めのない法人への課税

    持分の定めのない法人(一般財団法人など)に財産が寄附され、それによって寄附者の親族等の相続税や贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、その法人を個人とみなして贈与税(遺贈の場合は相続税)が課される仕組みがあります(相続税法第66条第4項)。国税庁の通達では、運営組織が適正であるか、特別の利益を与えていないかなどが、その判定の考え方として示されています。

    相続財産を寄附する場合

    相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに公益財団法人などの一定の法人に寄附した場合、その財産を相続税の課税対象としない特例があります(国税庁タックスアンサーNo.4141)。ただし、寄附を受けた法人が2年以内に公益目的事業に用いないなどの場合には適用されません。また、この特例の対象法人には、公益認定を受けていない一般財団法人は含まれません。

    いずれの制度も、要件や手続きが細かく定められており、寄附の時期・方法・受け手の法人の状態によって結論が変わります。設計の初期段階から、どの制度の適用を前提にするかを確認しておくことが重要です。

    令和7年4月からの公益法人制度改革

    公益法人制度は、令和6年5月に成立した公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(認定法)の改正により、令和7年4月1日から新しい制度に移行しています。内閣府は改正のポイントとして、次の3点を挙げています。

    • 財務規律の柔軟化・明確化:単年度で収支を均衡させる考え方(いわゆる収支相償)を見直し、中期的(5年間)に収支の均衡を図る考え方へ。将来の公益目的事業を充実させるための「公益充実資金」の創設、「遊休財産」から「使途不特定財産」への名称変更など
    • 行政手続の簡素化・合理化:収益事業等の内容の変更を認定事項から届出事項へ変更するなど
    • 自律的ガバナンスの充実と透明性の向上:外部理事・外部監事の導入(外部理事は、収益の額と費用・損失の額がいずれも3,000万円未満の小規模法人を除く)、定期提出書類の原則公表、区分経理の原則義務付けなど

    財団を設計する立場から見ると、この改正は「中長期の計画に沿って資金を積み立て、柔軟に使う」ことを認める方向である一方、「外部の目を入れた運営と情報開示」をより強く求めるものです。寄附者の想いを長く続けるうえでは、むしろ後押しになる面が大きいと言えます。

    実務上注意したいポイント

    設立前に「10年後の姿」を書いてみる

    設立時の熱意だけで進めると、数年後に財源や担い手の問題に直面することがあります。10年後にどの程度の規模で、誰が運営し、どのような成果が出ていればよいかを、一枚に書き出してみることをおすすめします。

    寄附は一度に行う必要はない

    財産の拠出は、設立時に全額を行う必要はありません。最初は小さな規模で設立し、活動の手応えを確かめながら、生前の寄附や遺言による寄附を段階的に組み合わせる設計も考えられます。ただし、寄附の方法と時期によって適用できる税制が異なる点には注意が必要です。

    事業承継と切り離さない

    自社株式や事業用の不動産を財団に拠出する場合、それは会社の株主構成や、後継者が確保できる議決権に直接影響します。財団の設計は、事業承継の計画と一体で検討することが欠かせません。事業承継の全体像は、関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。

    AEGISの視点

    AEGISは、社会貢献を「合理的な承継の帰結」と捉えています。

    事業や資産を次の世代に引き継ぐことを突き詰めて考えると、「家族に何を残すか」と同時に、「家族に残す必要のないもの、家族だけでは活かしきれないものをどうするか」という問いに行き当たります。会社の株式、地域とのつながり、創業者が大切にしてきた価値観——それらを社会の側に託すことは、承継を考え抜いた結果として、自然に選ばれる選択肢の一つです。

    その意味で、財団は節税の道具でも、名誉のための記念碑でもありません。寄附者の想いを、寄附者がいなくなった後も社会の中で働き続けるかたちに置き換える「器」です。器が長く使われるためには、目的の言葉、財源の見通し、判断する人の仕組みが、器そのものと同じくらい丁寧に設計されている必要があります。

    AEGISでは、事業・資産・不動産・税務・所有・承継を一つの全体像として整理し、その中に社会への還元を位置付けることを大切にしています。財団に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 財団は、拠出された財産に法人格を与える仕組みで、一般財団法人と、公益認定を受けた公益財団法人があります。
    • 社会貢献を続けるには、「目的・活動の形・財源・運営体制・器と税制」の5つを設計することが大切です。
    • 自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団の中に冠基金を設ける方法もあり、設立・運営の負担や後継者が担う実務を大きく軽くできます。
    • 法人の種類や税制は、目的や活動の形が固まった後に、手段として選ぶのが合理的です。
    • 財産の寄附には、みなし譲渡の非課税特例(租税特別措置法第40条)や持分の定めのない法人への課税(相続税法第66条第4項)など、寄附者・法人双方の税務論点があります。
    • 公益法人制度は令和7年4月1日から新制度に移行し、財務規律の柔軟化とガバナンス・透明性の強化が進められています。

    具体的な設計や税制の適用可否は、寄附する財産の種類、家族構成、事業承継の方針などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 財団をつくるには、どのくらいの財産が必要ですか?

    一般財団法人の設立には、設立者が拠出する財産の価額の合計が300万円以上であることが必要です。ただし、これは法律上の最低限であり、実際に必要な規模は、助成や事業の内容と、それを何年続けたいかによって大きく異なります。活動計画から逆算して検討することが大切です。

    Q. 財団を設立すれば、相続税や所得税はかからないのですか?

    一概には言えません。個人が株式や不動産を法人に寄附すると、原則として値上がり益に所得税が課されます。また、寄附を受けた法人の運営が寄附者の家族に私的に支配されているような場合などには、法人に贈与税や相続税が課されることがあります。非課税となる特例には要件と手続きがあり、適用できるかどうかは個別に確認が必要です。

    Q. 寄附者の家族が理事になることはできますか?

    なることはできますが、家族が運営を支配する形は避ける必要があります。たとえば国税庁は、寄附に係る譲渡所得等の非課税の承認の判定において、役員等のうち親族等の占める割合がそれぞれ3分の1以下とする旨の定款の定めがあることなどを示しています。公益認定の基準にも、役員構成に関する制限があります。

    Q. 最初から公益財団法人として設立できますか?

    公益財団法人は、一般財団法人が行政庁の公益認定を受けることで成立します。そのため、まず一般財団法人を設立し、その後に公益認定を申請するのが基本的な流れです。

    Q. 自分で財団をつくらずに、社会貢献を長く続ける方法はありますか?

    あります。運営体制を備えた既存の財団の中に、寄附者の名前や想いを冠した基金を設ける方法です。目的や事業を自由に設計できる範囲は自ら設立する場合より限られますが、理事会・評議員会の運営や会計・報告を寄附者の家族が担う必要がなく、後継者に財団運営の負担を残さずに済みます。基金を設ける基準や事務運営費、税務上の取扱いは、受け手の財団や寄附の内容によって異なるため、事前の確認が必要です。

    Q. 財団の目的は、後から変更できますか?

    財団は設立者の意思を実現するための法人であるため、目的の変更には制約があります。設立時に、目的を狭すぎず広すぎない言葉で定めておくことが重要です。どの程度の変更が可能かは、定款の定めや法人の状況によって異なるため、個別の確認が必要です。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会
  • 株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか|配当の変動に備え、活動を続けるための資金設計

    株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか|配当の変動に備え、活動を続けるための資金設計

    株式を寄附して財団をつくると、多くの場合、その株式の配当が財団の主な収入源になります。設立時には「毎年これくらいの配当があれば、この規模の助成ができる」という見通しを立てますが、会社の業績や配当方針は、10年、20年のうちに必ず変わります。

    結論から言えば、株式寄附を前提とする財団の資金設計で大切なのは、「配当がいくらあるか」ではなく、「配当が想定を下回った年にも、活動と法人運営を続けられるか」という視点です。そのためには、収入を一つに頼らないこと、固定費を把握すること、そして制度が認める積立ての仕組みを活用して年ごとの変動をならすことが必要になります。

    この記事では、財団の収入と支出の構造を整理したうえで、配当の変動にどう備えるかを、令和7年4月施行の公益法人制度改革の内容も踏まえて解説します。

    財団のお金の流れを整理する

    財団の資金設計は、収入と支出を次のように分けて考えると見通しやすくなります。

    収入の4つの源泉

    源泉主な内容特徴
    財産から生まれる果実寄附された株式の配当、預金・債券の利息、不動産の賃料元本を維持しながら毎年得られるが、金利や業績で変動する
    継続的な寄附設立者・家族・会社・一般の方からの寄附、会費外部からの支援を広げられるが、毎年の確実性は低い
    事業収入講座の受講料、施設の利用料など公益目的事業の対価公益目的事業では、対価は事業に必要な費用の範囲が基本となる
    収益事業の利益公益目的事業以外の事業(不動産賃貸など)からの利益財源を補えるが、法人税の課税対象となり、本来の目的とのバランスが必要

    支出の3つの層

    層主な内容考え方
    公益目的事業費助成金、奨学金、自主事業の費用財団の存在意義そのもの。規模は収入に応じて調整し得る
    法人運営費事務局の人件費、事務所費、役員会・評議員会の運営、会計・監査、行政への提出書類の作成活動の規模にかかわらず毎年発生する固定費
    将来への備え将来の事業拡充や、収入が減った年のための積立て変動をならし、活動を途切れさせないための原資

    株式寄附型の財団で見落とされやすいのは、2番目の法人運営費です。助成の規模を小さくしても、評議員会・理事会の開催、決算と監査、行政庁への定期提出書類などの事務は毎年必要です。配当が減った年に最初に圧迫されるのは、この固定費の部分です。

    財団の全体設計については、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で整理しています。

    配当収入に頼る財団が抱えるリスク

    株式の配当を主な財源とする財団には、次のようなリスクがあります。

    • 業績連動による変動:配当を業績に連動させる会社では、業績が落ちた年に配当が大きく減ることがあります。
    • 無配のリスク:会社が大規模な投資や業績悪化で無配になると、財団の収入がほぼ途絶えることがあります。
    • 会社と財団の利害の対立:会社にとっては内部留保や成長投資が合理的でも、財団にとっては配当が必要という場面が生じ得ます。
    • 税制上の要件との関係:株式を寄附して譲渡所得等の非課税の承認を受けた場合、その株式から生じる配当の全部が継続して公益目的事業に充てられることが重要な判断材料になります。配当が毎年定期的に生じない株式は、公益目的事業の用に直接供されているとは扱われない可能性があります。

    株式の寄附そのものに伴う議決権・配当・運営体制の論点は、関連記事「非上場株式を財団に寄附する際の検討事項」で詳しく解説しています。

    公益財団法人の財務規律:令和7年4月からの考え方

    公益財団法人の場合、資金設計は公益認定の財務基準と切り離せません。令和6年改正(令和7年4月1日施行)により、財務規律は次のように見直されました。資金の変動に備えるうえで、いずれも重要な仕組みです。

    中期的収支均衡

    改正前は、公益目的事業の収入がその費用を上回らないよう、単年度ごとに収支を合わせる考え方(いわゆる収支相償)が運用されていました。改正後は、公益目的事業の収入と適正な費用について、5年間で均衡が図られるようにする「中期的収支均衡」の考え方に改められ(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律14条、同法施行規則15条)、過去に生じた赤字も通算して判定されることになりました。

    配当が多い年に収入が費用を上回っても、その後の年度で公益目的事業に充てていけば、中期的に均衡させることができます。単年度の配当の増減に、事業の規模を毎年合わせる必要性は小さくなったと言えます。

    公益充実資金

    将来の公益目的事業を充実させるために積み立てる資金として、「公益充実資金」が創設されました。従来の特定費用準備資金と資産取得資金を統合したもので、積立額は中期的収支均衡の判定上、費用とみなされます。

    たとえば、数年後に奨学金の対象を広げる計画や、拠点となる施設を取得する計画がある場合、その目的に沿って計画的に積み立てることができます。

    また、公益認定等ガイドラインでは、既存の事業を続けるための将来の収支変動への備えや、保有する株式の配当が減少傾向にあり今後も続く可能性が高いなど、将来の収入減少が合理的に見込まれる場合の積立ても可能とされています。株式寄附型の財団では、配当の見通しを根拠とともに説明できるかが鍵になります。ただし、繰越金や予備費のような単なる備えは対象になりません。

    使途不特定財産と公益目的事業継続予備財産

    公益法人は、使い道が定まっていない財産(使途不特定財産)を過大に保有することが制限されています。保有の上限は、原則として過去5年間の公益目的事業費の平均額(1年分相当)とされています。

    そのうえで改正により、災害その他の予見しがたい事由が生じても公益目的事業を継続するために必要な財産を「公益目的事業継続予備財産」として、この上限の計算から除外できるようになりました。保有する場合は、その額と理由を自ら公表する必要があります。対象は自然災害や感染症のまん延、国際情勢の急変など予見しがたい事態への備えであり、通常の配当の増減には中期的収支均衡や公益充実資金で対応するのが基本です。それでも、こうした事態で配当収入が途絶えても事業を続けるための資金を、必要性と限度額を説明したうえで持てるようになった点は、株式寄附型の財団にとって意味のある変更です。

    区分経理と情報開示

    公益法人には、公益目的事業・収益事業等・法人運営の3つに区分して経理することが原則として求められるようになり、定期提出書類も原則として公表されることになりました。資金の流れを「事業」と「運営」に分けて説明できるように設計しておくことが、これまで以上に重要になっています。

    一般財団法人と公益財団法人で求められる基準の違いは、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で解説しています。

    配当の変動に備える資金設計の考え方

    AEGISでは、株式寄附型の財団の資金設計を、次の4つの層で考えることをおすすめしています。

    層目的具体的な設計
    1. 運営費の確保法人として存続し続ける法人運営費の数年分を、配当以外の安定した資産(預金など)で確保する
    2. 中核事業の維持毎年必ず続けたい活動を守る配当が想定の下限でも続けられる規模を「中核事業」として定める
    3. 変動の吸収配当の増減をならす中期的収支均衡の範囲で、多い年の収入を後の年度の事業に充てる。減収が合理的に見込まれる場合は公益充実資金で備え、災害など予見しがたい事態には公益目的事業継続予備財産を検討
    4. 将来の拡充活動を育てる配当が想定を上回った年に、目的を定めて公益充実資金として積み立てる

    この設計のポイントは、「配当の想定」を一つの数字で置かないことです。過去の配当実績や会社の配当方針から、楽観・標準・悲観の幅で収入を見積もり、悲観的な想定でも層1と層2が守られるかを確認しておくと、寄附後の運営が安定しやすくなります。

    財源を一つに頼らない

    株式の配当だけに頼らず、次のような組み合わせを検討することも有効です。

    • 寄附する財産の一部を金銭や配当の安定した資産にする
    • 設立者や家族による継続的な寄附を、計画的に組み込む
    • 公益財団法人として、外部からの寄附を受けやすい体制を整える

    公益社団法人・公益財団法人への個人の寄附は、所得税の寄附金控除の対象となるほか、一定の要件を満たす法人への寄附では、所得控除に代えて税額控除を選ぶこともできます(国税庁タックスアンサーNo.1266)。外部からの寄附を広げることは、財源の分散であると同時に、財団の活動を社会と共有することでもあります。

    一般財団法人の場合の注意点

    公益認定を受けていない一般財団法人には、公益法人のような財務規律は課されません。その一方で、2事業年度連続して純資産額が300万円未満となった場合には解散することとされています。また、財団は評議員会の決議によって自由に解散できる法人ではありません。赤字が続いても簡単には畳めない以上、資金が尽きる前に手を打つ設計が必要です。

    実務上注意したいポイント

    • 寄附前に5年分の資金計画を作る:寄附の規模を決める前に、配当の想定幅と、支出の3つの層を並べた資金計画を作成します。
    • 会社の配当方針を文書で共有する:会社の経営陣・後継者と、配当についての基本的な考え方を確認しておきます。財団が株主として配当の決定にどう関わるかも整理しておきたい点です。
    • 配当の受け取り後の管理方法を決める:株式の寄附について非課税の承認を受ける場合、承認の種類によっては、寄附財産を一定の基金に組み入れて管理することが要件となるなど、管理方法が税制と結びつきます。国税庁の通達では、基金に組み入れた株式の配当金は全額を基金に組み入れ、定められた事業に充てる必要があるものの、受領後直ちに充てる必要はないとされています。受け取った配当をいつ、どのように公益目的事業に充てるかの手順を、あらかじめ決めておくことが大切です。
    • 事務局の担い手を確保する:資金があっても、事務を担う人がいなければ財団は動きません。外部の専門家への委託を含め、法人運営費として見込んでおきます。

    AEGISの視点

    財団の運営資金というと、「どれだけ大きな財産を寄附するか」に目が向きがちです。しかしAEGISは、財団の資金設計を「寄附者がいなくなった後も、財団が自分の足で立ち続けられるようにする設計」と捉えています。

    株式の配当は、会社が事業を通じて生み出した価値の一部が、財団を経由して社会に流れていく経路です。その経路が太く安定していることは理想ですが、会社にも好不調の波があります。会社の判断を財団の都合で縛らず、財団の活動を会社の業績で途切れさせない——その両立を可能にするのが、収入の分散と、制度が認める積立ての仕組みを組み合わせた資金設計です。

    会社・財団・家族のいずれかに無理を強いる設計は、長くは続きません。事業と資産と承継を一つの全体像で捉え、その中で財団の資金の流れを位置付けることが大切だとAEGISは考えています。財団や寄附に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 株式寄附型の財団では、配当が主な財源になる一方、会社の業績や配当方針によって収入が大きく変動します。
    • 財団の支出は「公益目的事業費・法人運営費・将来への備え」の3層で捉え、特に毎年必要な法人運営費を把握しておくことが重要です。
    • 公益財団法人では、令和7年4月から、5年間で収支の均衡を図る中期的収支均衡、公益充実資金、公益目的事業継続予備財産などの仕組みが導入され、変動をならす設計がしやすくなりました。
    • 運営費の確保、中核事業の維持、変動の吸収、将来の拡充の4層で資金を設計し、配当の想定を幅で見積もることが有効です。
    • 一般財団法人は財務規律の制約が少ない反面、純資産が一定額を下回ると解散する仕組みがあり、資金の枯渇に注意が必要です。

    具体的な資金計画は、寄附する財産、会社の配当方針、財団の活動内容などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 配当が多すぎて使い切れない年は、どうすればよいですか?

    公益財団法人の場合、令和7年4月からは5年間で収支の均衡を図る考え方になったため、多い年の収入を後の年度の公益目的事業に充てていくことができます。将来の具体的な事業計画がある場合は、公益充実資金として積み立てる方法もあります。一方で、株式寄附について非課税の承認を受けている場合は、配当を公益目的事業に充てることが求められるため、承認の条件もあわせて確認が必要です。

    Q. 会社が無配になった場合、財団はどうなりますか?

    配当以外の収入や積み立てた資金で、法人運営と中核の事業を続けることになります。無配が続くと、助成の縮小や、場合によっては財団の存続にも影響します。また、非課税の承認を受けて寄附された株式の場合は、承認の取消しにつながる可能性もあるため、早めに専門家と状況を確認することが望まれます。

    Q. 財団の運営には、毎年どのくらいの費用がかかりますか?

    活動の規模や事務局体制によって大きく異なります。少なくとも、評議員会・理事会の運営、決算・会計処理、公益財団法人であれば行政庁への定期提出書類の作成などの費用が毎年発生します。寄附の規模を決める前に、これらの固定費を見積もっておくことが重要です。なお、自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団の中に基金を設ける場合は、こうした機関運営や会計の負担は受け手の財団が担い、寄附者は財団が定める事務運営費を負担する形になります(たとえばアイジスレガシー財団の冠基金では、所定の事務運営費を寄附者が負担します)。

    Q. 設立者が毎年寄附を続けることは問題ありませんか?

    継続的な寄附自体は、財源を安定させる有効な方法です。ただし、寄附を通じて設立者や家族が財団を私的に支配する関係にならないよう、運営体制を整えておく必要があります。寄附の方法や財産の種類によって税務上の扱いも異なるため、事前の確認が望まれます。

    Q. 財団が収益事業を行って財源を補うことはできますか?

    可能です。ただし、収益事業から生じた所得には法人税が課されます。公益財団法人の場合は、公益目的事業が主たる目的であることや、費用全体に占める公益目的事業の費用の割合(公益目的事業比率)を50%以上とする基準などとの関係にも配慮が必要です。収益事業はあくまで公益目的事業を支える手段として位置付けることが大切です。

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    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会
  • 非営利型の一般財団法人とは|法人税の課税範囲と要件、要件を外れた場合の取扱い

    非営利型の一般財団法人とは|法人税の課税範囲と要件、要件を外れた場合の取扱い

    一般財団法人を設立するとき、意外と見落とされやすいのが「税務上、どの区分の法人になるか」という問題です。同じ一般財団法人でも、法人税法上の非営利型法人に当たれば、課税されるのは法人税法上の収益事業から生じた所得だけです。当たらなければ、株式会社と同じように、受け取った寄附を含むすべての所得が課税の対象になります。

    非営利型法人に当たるための手続は、行政庁の認定ではありません。定款の定めと、理事の構成と、実際の運営が要件を満たしているかどうかで決まります。だからこそ、設立時の設計と、設立後の運営の両方が重要になります。

    この記事では、非営利型の一般財団法人の要件、収益事業課税の仕組み、そして要件を外れた場合に何が起きるかを整理します。

    一般財団法人の税務上の3つの区分

    財団は、法人法上の区分(一般財団法人か公益財団法人か)とは別に、税務上は次の3つに分かれます。公益認定を受けるかどうかの比較は、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で詳しく扱っています。

    項目公益財団法人非営利型の一般財団法人非営利型以外の一般財団法人
    法人税法上の区分公益法人等公益法人等普通法人
    法人税の課税範囲収益事業のみ(公益目的事業は除く)収益事業のみすべての所得
    受け取った寄附収益事業以外なら課税されない収益事業以外なら課税されない受贈益として課税の対象
    寄附者の寄附金控除対象対象外対象外
    現物寄附のみなし譲渡の非課税特例一般特例・承認特例の対象非営利性が徹底された法人は一般特例の対象対象外
    理事の死亡時の相続税課税(特定一般社団法人等)対象外対象外同族理事が過半数などの場合に対象

    この表から分かるとおり、非営利型法人に当たるかどうかは、法人税だけでなく、寄附を受けたときの課税、寄附者の税制、さらには理事の相続税にまで影響します。

    非営利型法人の2つの類型

    法人税法は、一般社団法人・一般財団法人のうち、次のいずれかに当たるものを非営利型法人としています。

    • 非営利性が徹底された法人:事業により利益を得ること、または得た利益を分配することを目的としない法人で、事業を運営する組織が適正であるもの
    • 共益的活動を目的とする法人:会員から受け入れる会費により、会員に共通する利益を図るための事業を行う法人で、事業を運営する組織が適正であるもの

    共益的活動を目的とする法人は、業界団体や同窓会のような「会員のための法人」を想定した類型です。社会貢献を目的とする財団では、非営利性が徹底された法人として設計するのが通常です。なお、現物寄附のみなし譲渡の非課税特例(租税特別措置法第40条)の一般特例は、非営利性が徹底された法人への寄附は対象になり得ますが、共益的活動を目的とする法人への寄附は対象になりません。

    非営利性が徹底された法人の4つの要件

    国税庁の手引によれば、非営利性が徹底された法人に当たるには、次の4つの要件のすべてを満たす必要があります。

    1. 剰余金の分配を行わないことを定款に定めていること

    財団が得た利益を、設立者や理事などに分配しないことを定款で明らかにします。

    2. 解散時の残余財産の帰属先を定款に定めていること

    解散したときに、残余財産を国・地方公共団体や、公益社団法人・公益財団法人など一定の公益的な団体に贈与することを定款に定めます。財産が設立者の家族に戻る余地を残さないことが求められます。

    3. 定款の定めに反する行為や特別の利益の提供をしたことがないこと

    上記1・2の定款の定めに違反する行為(特定の個人や団体に特別の利益を与えることを含みます)を行うことを決定し、または行ったことがないことが要件です。過去の行為も問われる点が特徴です。

    4. 理事の親族等が理事総数の3分の1以下であること

    各理事について、その理事と、その理事の配偶者・3親等内の親族その他の特殊の関係のある者である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下である必要があります。「特殊の関係のある者」には、事実上婚姻関係にある者、理事の使用人、理事から受ける金銭等で生計を維持している者なども含まれます(法人税法施行規則第2条の2)。また、使用人以外の者で法人の経営に従事している人は、理事とみなして判定するとされています(法人税法施行令第3条第3項)。

    たとえば理事が3人の財団であれば、設立者の家族から理事になれるのは1人までで、残り2人は親族等に当たらない人を選ぶことになります。理事が6人であれば、同じ親族グループからは2人までです。理事の辞任や交代で比率が崩れることもあるため、設立時だけでなく、役員の改選のたびに確認が必要です。

    「特別の利益」とは何か

    要件3の「特別の利益を与えること」について、国税庁の法人税基本通達は、社会通念上不相当な経済的利益の供与や金銭等の交付をいうとし、例を挙げています。専門書の解説をもとに整理すると、次のような行為が典型です。

    • 財団の土地・建物を、特定の人に無償または通常より低い賃料で貸す
    • 無利息または低い利率でお金を貸す
    • 財団の資産を無償または通常より低い価格で譲る
    • 通常より高い賃料で土地・建物を借りる、通常より高い利率でお金を借りる
    • 通常より高い価格で資産を買う、事業に使わない資産を取得する
    • 過大な給与を支払う

    設立者の家族が経営する会社と財団が取引する場合などは、条件が通常の取引と比べて妥当かを、記録とともに確認しておくことが大切です。特別の利益は、収益事業以外の事業で行われたものも含まれます。

    収益事業課税の仕組み

    非営利型法人であっても、すべての所得が非課税になるわけではありません。課税の対象になる「収益事業」とは、販売業・製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいいます(法人税法第2条第13号)。政令では、物品販売業、不動産貸付業、金銭貸付業、請負業、駐車場業など34の事業が定められています(法人税法施行令第5条)。

    財団の活動に引き付けると、次のような点に注意が必要です。

    • 不動産の賃貸や駐車場の運営:財団が保有する不動産を貸して賃料を得る場合、収益事業に当たり、その所得は課税されます。
    • 区分経理:収益事業とそれ以外の事業の収入・費用を区分して経理する必要があります。
    • みなし寄附金は使えない:公益法人では、収益事業から公益目的事業への支出を寄附金とみなして損金に算入する仕組みがありますが、国税庁の手引では、非営利型法人にはこの適用がないとされています。
    • 届出:非営利型法人が新たに収益事業を開始した場合は、開始した日以後2か月以内に、収益事業開始届出書などを所轄税務署に提出します(法人税法第150条)。また、普通法人から非営利型法人になったときなど、区分が変わったときは異動の届出が必要です。

    財団の財源として配当や賃料をどう組み合わせるかは、関連記事「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」で整理しています。

    要件を外れた場合の取扱い

    非営利型法人の要件は、行政庁の認定を受けるものではないため、要件を欠いた時点で自動的に普通法人になります。このとき、次の3つの影響を考えておく必要があります。

    1. 移行時に、過去の非課税の蓄積に課税される

    公益法人等である非営利型法人が普通法人に該当することになった場合、その日より前の収益事業以外の事業から生じた所得の累積額(累積所得金額)を、移行した事業年度の益金に算入する仕組みがあります(法人税法第64条の4)。専門書の解説によれば、これは実質的に、収益事業以外の事業で蓄えてきた正味財産に課税する仕組みです。寄附を受けて財産を積み上げてきた財団ほど、移行時の課税が大きくなり得ます。また、区分が変わった時点で事業年度が区切られ、決算と申告が必要になります。

    2. 特別の利益を与えた場合は、元に戻れない

    理事の構成のように内部の事情で変えられる要件は、満たし直せば再び非営利型法人になり得ます。しかし、国税庁の法人税基本通達は、特別の利益に係る要件を欠いて普通法人となった法人は、その後に再び非営利型法人に該当することはないとしています。特別の利益の提供は、取り返しのつかない要件違反だと理解しておく必要があります。

    3. 理事の相続税にも影響する

    一般社団法人・一般財団法人のうち、同族理事が理事総数の2分の1を超えるなどの要件に当たる「特定一般社団法人等」については、理事が死亡した場合に、法人を個人とみなして相続税を課す仕組みがあります(相続税法第66条の2)。非営利型法人は、この対象から除かれています。非営利型の要件を外れると、この相続税の課税の対象となる可能性が生じます。

    設立時・運営時のチェックポイント

    時期確認すること
    設立時定款に剰余金の分配禁止と残余財産の帰属先を定めたか/理事の親族等が3分の1以下か
    毎年の運営理事の改選で比率が崩れていないか/関係者との取引条件は通常の水準か/収益事業の区分経理と申告をしているか
    新しい事業の開始時その事業が収益事業に当たるか/届出が必要か
    寄附を受けるとき寄附者や家族に特別の利益を与える条件が付いていないか

    AEGISの視点

    非営利型の一般財団法人は、公益認定の重い手続を経ずに、法人税の面では公益法人等として扱われる、使い勝手の良い器です。一方でAEGISは、その使い勝手の良さが、行政庁の監督がない分、自ら規律を保ち続けなければならないことの裏返しでもあると考えています。

    特に、オーナー家族が設立する財団では、「家族のための財団」に見えてしまう運営が、税務上の要件違反に直結します。理事の3分の1要件は、家族だけで財団を動かさないための仕組みです。特別の利益の禁止は、財団の財産が家族の財産と混ざらないための仕組みです。これらを「税務上の要件」としてではなく、財団の信頼を守るためのガバナンスとして設計に組み込むことが大切です。

    また、非営利型法人は寄附者の寄附金控除の対象にならないため、広く寄附を集めて活動を拡大したい場合には、いずれ公益認定を目指すという選択肢も視野に入ります。今は非営利型で始め、活動の実績を積んでから公益認定を受ける。その道筋を最初から描いておくことが、財団の設計の質を高めるとAEGISは考えています。財団設計の全体像は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    財団の法人税や寄附に関する資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 一般財団法人は、税務上の非営利型法人に当たれば、法人税の課税が収益事業の所得に限られます。当たらなければ、受け取った寄附を含むすべての所得が課税対象です。
    • 財団では通常、非営利性が徹底された法人として、剰余金の分配禁止・残余財産の帰属先の定款の定め、特別の利益の禁止、理事の親族等3分の1以下の4要件を満たすように設計します。
    • 非営利型でも、不動産貸付など34の収益事業の所得は課税され、みなし寄附金の適用はありません。
    • 要件を外れると、累積所得金額の益金算入による課税が生じ得るほか、特別の利益を与えた場合は再び非営利型法人に戻れず、理事の相続税の課税対象となる可能性もあります。
    • 具体的な判定は、定款・役員構成・取引の実態によって異なります。

    よくある質問

    Q. 非営利型法人になるには、税務署の承認が必要ですか?

    承認や認定は必要ありません。要件を満たしていれば非営利型法人に当たり、満たさなければ普通法人になります。ただし、区分が変わったときや収益事業を開始したときには、所轄税務署への届出が必要です。

    Q. 設立者が理事長を務めることはできますか?

    できます。ただし、設立者とその配偶者・3親等内の親族などである理事の合計数を、理事総数の3分の1以下に収める必要があります。理事を3人とする場合、設立者以外の2人は親族等に当たらない人とすることになります。

    Q. 非営利型の財団に寄附すると、寄附者は寄附金控除を受けられますか?

    一般に、非営利型の一般財団法人への寄附は、所得税の寄附金控除の対象になりません。ただし、株式や不動産などの現物の寄附については、非営利性が徹底された法人であれば、国税庁長官の承認を受けた場合のみなし譲渡の非課税特例(一般特例)の対象になり得ます。

    Q. 財団が賃貸不動産を持つと、非営利型ではなくなりますか?

    不動産の賃貸を行っても、そのことだけで非営利型法人でなくなるわけではありません。ただし、不動産貸付業は収益事業に当たるため、その所得には法人税が課されます。賃料の水準が設立者の家族などに有利な条件になっていると、特別の利益の問題が生じるおそれがあります。

    Q. 非営利型の要件を一時的に外れてしまった場合、どうなりますか?

    要件を欠いた時点で普通法人となり、それまでの収益事業以外の事業の累積所得金額が益金に算入される課税が生じ得ます。理事構成のように満たし直せる要件であれば再び非営利型法人になり得ますが、特別の利益を与えたことによる場合は、再び非営利型法人に該当することはないとされています。

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    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団の活用や非上場株式の寄附の適合性を検討し、経営権・配当・財団の運営・税務・実行後の管理を整理します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会
  • 相続した財産を寄附したときの相続税の非課税|申告期限までの寄附、対象となる法人、寄附後2年の要件と所得税の扱い

    相続した財産を寄附したときの相続税の非課税|申告期限までの寄附、対象となる法人、寄附後2年の要件と所得税の扱い

    相続で受け取った財産の一部を、亡くなった家族がお世話になった病院や母校、地域の団体などに寄附したいと考える方は少なくありません。

    このとき、相続税の申告期限までに、国・地方公共団体・特定の公益法人・認定NPO法人に寄附すれば、寄附した財産は相続税の課税対象から外れます(租税特別措置法70条)。ただし、寄附先の法人の種類、寄附のタイミング、寄附した財産が「相続で取得した財産そのもの」であること、寄附後2年間の使われ方など、いくつもの要件があります。また、相続税とは別に、所得税の寄附金控除や、不動産・株式を寄附したときの「みなし譲渡」も検討が必要です。

    この記事では、相続人が自らの判断で寄附する場合の制度に絞って、要件と注意点を整理します。

    制度の概要:寄附した財産は相続税の計算に入れない

    相続や遺贈で財産を取得した人が、その財産を相続税の申告書の提出期限までに、国・地方公共団体や、公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定める法人に贈与(寄附)した場合、その財産の価額は相続税の課税価格の計算の基礎に算入しません(租税特別措置法70条1項)。認定NPO法人への寄附(同条10項)や、公益信託の信託財産とするための支出(同条3項)にも、同様の特例があります。

    亡くなった方が遺言で寄附する「遺贈寄附」とは異なり、この特例は相続人が相続後に自分の判断で寄附する場面で使います。遺言がなくても、相続人の意思で社会に財産をつなぐことができる制度です。遺言による寄附については、関連記事「遺贈寄附とは何か」で解説しています。

    寄附先として対象になる法人・ならない法人

    特例の対象となる寄附先は限られています。国税庁のタックスアンサーNo.4141などをもとに整理すると、次のとおりです。

    区分主な寄附先特例の対象
    国・地方公共団体国、都道府県、市区町村など対象
    特定の公益法人公益社団法人・公益財団法人、社会福祉法人、一定の学校法人、更生保護法人、独立行政法人、国立大学法人、日本赤十字社など対象
    認定NPO法人所轄庁の認定を受けた特定非営利活動法人(特定非営利活動に係る事業に関連する寄附に限る)対象
    公益信託公益信託の信託財産とするための支出対象
    公益認定を受けていない一般社団・一般財団法人非営利型法人を含む対象外
    認定を受けていないNPO法人—対象外
    これから設立する法人公益法人を設立するための財産の提供対象外

    ※AEGIS作成。法人の範囲の詳細は租税特別措置法施行令40条の3と国税庁の情報で確認が必要です。

    特に注意したいのは、寄附の時点で既に存在し、対象法人に当たっていることが必要な点です。国税庁の通達では、特例の対象法人を設立するための財産の提供には適用がないとされています。故人の名を冠した財団を新たに作る場合は、この特例ではなく、別の制度や設計を検討することになります。

    また、病院や施設への寄附を考える場合、その運営主体が対象法人に当たるかどうかを事前に確認することが欠かせません。医療法人や一般の財団法人などは、対象の範囲に含まれないことがあります。

    要件1:相続税の申告期限までに寄附すること

    寄附は、相続税の申告書の提出期限までに行う必要があります。申告期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。

    期限までに「寄附の意思を決めた」だけでは足りず、実際に財産の移転を終えている必要があります。不動産や株式の場合は、名義変更などの手続に時間がかかることもあるため、遺産分割の協議と並行して、寄附先との調整を早めに始めることが大切です。

    要件2:相続で取得した財産そのものを寄附すること

    対象となるのは、相続や遺贈で取得した財産です。生命保険金や退職手当金のように、相続税法上、相続や遺贈で取得したものとみなされる財産も含まれます。

    一方、国税庁の通達では、次のような整理が示されています。

    寄附する財産扱い
    相続した預貯金を払い戻した金銭相続で取得した財産に当たるものとして扱う
    相続した建物の焼失による火災保険金(被相続人が契約者のもの)同上
    相続した財産の収用等に伴って取得した財産同上
    相続した財産を売却して得た代金当たらない
    相続した投資信託を解約して得た金銭当たらない
    被相続人から生前に贈与され、相続税の計算に加算される財産含まれない

    ※AEGIS作成(国税庁「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」70-1-5、70-1-6をもとに整理)。

    代償分割で受け取った代償金の場合

    遺産分割で、不動産などを取得した相続人が他の相続人に金銭(代償金)を支払う「代償分割」を行うことがあります。代償金を受け取った相続人がその金銭を寄附する場合、その代償金が「相続で取得した財産そのもの」に当たるかが問題になります。

    代償金は、被相続人の財産ではなく、他の相続人が自らの財産から支払うものです。通達が、相続財産を売却した代金でさえ対象外としていることを踏まえると、代償金を寄附した場合に特例の対象とされるかは慎重に考える必要があり、対象外と判断される可能性を前提に計画することが現実的です。寄附を予定している場合は、遺産分割の段階で、寄附したい財産を寄附する相続人が直接取得する分け方を検討する余地があります。

    要件3:寄附後2年間の使われ方

    寄附を受けた法人が、寄附の日から2年を経過した日までに対象法人に当たらなくなった場合や、寄附された財産をその日までに公益を目的とする事業に使っていない場合、使わなくなった場合には、特例は適用されません(租税特別措置法70条2項)。この場合、寄附した相続人は、2年を経過した日の翌日から4か月以内に修正申告をして相続税を納める必要があります(同条6項)。

    寄附した財産そのものでなく、法人がその財産を売却し、代金を公益目的の事業に充てた場合について、国税庁の質疑応答事例は、売却代金が現実に公益目的の事業に充てられたのであれば、事業の用に供されたことになるとしています。

    要件4:税負担を不当に減少させないこと

    寄附によって、寄附した人やその親族などの相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となる場合は、特例は適用されません。たとえば、寄附した人や親族が、寄附先の法人を通じて特別の利益を受けている場合が該当します。

    寄附した相続人が寄附先の法人の理事を務めていることだけで直ちに不当減少となるわけではなく、法人の運営組織の適正さ、役員に占める親族等の割合、特別の利益の有無などの要件に照らして判断されます。家族が関わる法人への寄附は、要件を満たしているかを事前に確認しておくことが大切です。

    手続:申告書への記載と書類の添付

    特例を受けるには、相続税の申告書に適用を受ける旨を記載し、寄附した財産の明細書(申告書第14表)や、寄附を受けた法人が発行する書類(寄附を受けた旨・年月日・財産の明細・使用目的を記載したもの)などを添付する必要があります(租税特別措置法70条5項)。添付がない場合は特例を受けられません。

    寄附先には、これらの書類の発行を依頼する必要があるため、寄附の段階で受領書類の内容を確認しておくと安心です。

    所得税との関係:寄附金控除とみなし譲渡

    相続税の非課税とは別に、所得税の扱いも確認が必要です。

    寄附する財産相続税所得税
    現金・預貯金要件を満たせば課税価格に算入しない寄附金控除の対象となり得る
    不動産・株式など要件を満たせば課税価格に算入しない法人への寄附は時価でのみなし譲渡課税が原則。非課税にするには措置法40条の承認が必要。承認を受けた場合の寄附金控除の対象額は取得価額

    ※AEGIS作成。

    国税庁の質疑応答事例では、相続税の非課税の特例の適用を受けた寄附であっても、所得税の寄附金控除の対象になるとされています。

    一方、不動産や株式を法人に寄附すると、寄附した相続人に所得税の「みなし譲渡」が生じるのが原則です。相続税の非課税と、譲渡所得の非課税は別々の制度で、別々の要件と手続があります。譲渡所得の非課税を受けるには、国税庁長官の承認が必要で、寄附財産を公益目的事業に「直接」使うことなど、相続税の特例より厳しい要件があります。詳しくは関連記事「財団に土地や株式を寄附したときの譲渡所得の非課税」で解説しています。

    寄附金控除と税額控除の選び方は「寄附金控除と税額控除はどちらを選ぶか」で整理しています。

    AEGISの視点

    相続財産の寄附は、相続税の申告期限という限られた時間の中で、遺産分割・納税資金の確保・寄附先の選定を同時に進める作業です。AEGISは、この特例を「相続税を減らす方法」ではなく、故人や家族の想いを、相続手続の流れの中で社会につなぐための仕組みとして捉えています。

    実務上は、どの財産を、誰が取得し、どこへ寄附するかを遺産分割と一体で設計することが鍵になります。寄附したい財産を寄附する相続人が直接取得しておけば、代償金の扱いのような論点を避けやすくなります。また、不動産や株式をそのまま寄附するのか、相続した預貯金で寄附するのかによって、所得税の負担や手続は大きく変わります。

    寄附の想いが生前から明確であれば、遺言による遺贈寄附や、財団の設計を含めて検討する選択肢も広がります。財団・寄附の全体像は、Pillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    相続税と寄附に関する論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに国・地方公共団体・特定の公益法人・認定NPO法人に寄附すると、その財産は相続税の課税価格に算入されません(措置法70条)。
    • 公益認定を受けていない一般社団・一般財団法人や、これから設立する法人への寄附は対象外です。
    • 対象は相続で取得した財産そのものです。預貯金の払戻金は対象となる一方、相続財産の売却代金は対象外とされており、代償金も慎重な検討が必要です。
    • 寄附後2年以内に法人が要件を外れたり、財産が公益目的に使われなかったりすると、修正申告が必要になります。
    • 不動産・株式の寄附では、所得税のみなし譲渡と措置法40条の承認を別に検討する必要があります。

    よくある質問

    Q. 相続税の申告期限を過ぎてから寄附した場合はどうなりますか?

    この特例は、申告期限までの寄附が要件です。期限後に寄附した場合は特例の対象にならず、寄附した財産も含めて相続税が計算されます。寄附を考えている場合は、早めに寄附先を決めて手続を進めることが大切です。

    Q. 父が理事をしていた一般財団法人に、相続した預金を寄附したいのですが対象になりますか?

    公益認定を受けていない一般財団法人は、特例の対象となる法人に含まれません。公益財団法人であれば対象となり得ますが、寄附する相続人や親族が特別の利益を受けていないかなど、不当減少に当たらないことの確認も必要です。

    Q. 受け取った生命保険金を寄附しても特例の対象になりますか?

    生命保険金や退職手当金のように、相続や遺贈で取得したものとみなされる財産も、特例の対象となる財産に含まれるとされています。申告期限までに対象法人に寄附すれば、適用を受けられる可能性があります。

    Q. 代償分割で受け取った代償金を寄附したい場合はどうすればよいですか?

    代償金は他の相続人の財産から支払われるもので、相続財産そのものではありません。特例の対象とされない可能性があるため、寄附を予定している財産は、寄附する相続人が遺産分割で直接取得する形を検討することが考えられます。

    Q. 相続した土地をそのまま公益財団法人に寄附すると、税金はかかりませんか?

    相続税は、要件を満たせばその土地の価額が課税価格に算入されません。ただし、所得税では法人への寄附は時価で譲渡したものとみなされ、譲渡所得が課税されるのが原則です。非課税にするには、寄附の日から原則4か月以内に措置法40条の承認申請を行い、承認を受ける必要があります。

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    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団活用や非上場株式寄附の適合性を、経営権・配当・財団運営・税務・実行後の管理の観点から整理します。
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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会、第4章 P.531-536
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版、第3章 P.311-314
  • 公益信託の新制度と財団の違い|法人をつくらずに社会貢献を続けるという選択肢

    公益信託の新制度と財団の違い|法人をつくらずに社会貢献を続けるという選択肢

    社会貢献のために財産を長く役立てたいと考えたとき、多くの方がまず思い浮かべるのは財団の設立です。しかし令和8年(2026年)4月から、もう一つの選択肢である公益信託が新しい制度に生まれ変わりました。

    結論から言えば、両者の違いは「法人という組織をつくって自ら活動するか」、それとも「信頼できる受託者に財産を託し、定めた目的のために使い続けてもらうか」にあります。財団は活動の自由度が高い一方、組織の運営を担い続ける必要があります。公益信託は組織をつくらずに済む一方、行える活動の範囲や受託者の選び方に制約があります。

    この記事では、新しい公益信託制度で何が変わったのかを確認したうえで、財団との違いと、どちらを選ぶかの判断軸を整理します。

    公益信託とは

    公益信託とは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる人や法人(受託者)に財産を託し、学術の振興や福祉の向上など、不特定かつ多数の者の利益の増進を目的とする事務(公益事務)のために、その財産を管理・活用してもらう仕組みです。

    内閣府の解説資料をもとに整理すると、新しい公益信託の主な特徴は次のとおりです。

    • 設定の方法:委託者と受託者の信託契約、または委託者の遺言によって設定します。
    • 行政庁の認可:行政庁の認可を受けなければ効力が生じません。
    • 信託管理人の必置:特定の受益者がいないため、受託者を監視・監督する「信託管理人」を必ず置きます。
    • 目的の限定:公益事務を行うことのみを目的とします。
    • 委託者に戻らない:委託者が公益信託から利益を受けることはなく、終了時の残余財産が委託者に戻ることもありません。

    つまり公益信託は、法人格を持たない「目的のための財産」を、受託者と信託管理人という二つの役割で守る仕組みと言えます。

    新しい制度で何が変わったのか

    公益信託の制度自体は古くからありましたが、旧制度の下では使いにくさが指摘されていました。主務官庁ごとに許可や監督の基準が異なり、受託者は事実上、信託銀行などの信託会社に限られ、信託できる財産も事実上金銭に限定されていました。活動内容も奨学金の給付や研究助成などの「お金を配る」活動が中心でした。

    従来の公益信託ニ関スル法律を改正した「公益信託に関する法律」(令和6年法律第30号)により、令和8年4月1日から新しい制度が施行されています。内閣府の資料によれば、主な変更点は次のとおりです。

    項目旧制度新制度
    成立の手続主務官庁の許可行政庁(内閣総理大臣または都道府県知事)の認可
    基準主務官庁ごとに不統一公益法人制度と整合した共通の基準
    受託者事実上、信託会社に限定信託会社のほか、公益法人・NPO法人などの法人や個人も想定
    信託できる財産事実上、金銭に限定金銭、株式、不動産など
    税制一定の証明・認定を受けたものに限り優遇認可を受けたすべての公益信託に税制優遇

    認可の審査では、受託者の経理的基礎と技術的能力(専用口座での分別管理や会計の体制、公益事務を適正に行う体制など)、信託管理人の能力、特別の利益を与えないこと、中期的な収支の均衡、費用に占める公益事務の費用の割合(公益事務割合)を70%以上とする基準、使途不特定財産の保有制限などの財務の基準が確認されます(公益信託に関する法律第8条。信託財産を寄附された金銭等に限る一定の公益信託は財務の基準の一部が除かれます)。公益法人の制度改革(令和7年4月施行)とそろえた考え方が取り入れられている点が特徴です。

    また、旧制度の公益信託は、令和10年3月31日までに移行の認可を申請しなければ、同日に旧制度の公益信託として終了するとされています。既存の公益信託に関わっている方は、移行の手続を確認しておく必要があります。

    内閣府の資料では、令和6年3月末時点の公益信託は535件とされています。公益財団法人と比べると利用はまだ限られていますが、新制度によって選択肢としての存在感が高まることが期待されています。

    財団と公益信託の違い

    財団(一般財団法人・公益財団法人)と新しい公益信託を、オーナーの意思決定に関わる項目ごとに比べると、次のようになります。公益財団法人と一般財団法人の違いは、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で詳しく整理しています。

    比較の視点財団(公益財団法人)公益信託(新制度)
    器の性質法人格を持つ組織法人格のない信託財産
    設立・設定一般財団法人を設立し、公益認定を受ける信託契約または遺言で設定し、行政庁の認可を受ける
    運営の担い手評議員・理事・監事などの機関を自ら組織受託者が事務を担い、信託管理人が監督
    事務所・職員法人として運営体制を整える必要受託者の体制を活用でき、委託者が用意する必要は小さい
    活動の範囲公益目的事業を中心に、一定の範囲で収益事業等も可能公益事務を行うことのみが目的
    寄附の受け皿寄附金を広く受け入れて活動を拡大しやすい寄附の受入れも可能だが、受託者の体制による
    終了時の財産類似の目的の法人等に帰属類似の目的の公益信託・公益法人等に帰属

    比較から見えてくるのは、財団が「組織として活動を育てていく器」であるのに対し、公益信託は「目的を定めて財産を託す器」だということです。自ら事業を運営し、人を雇い、活動を広げていきたい場合は財団が向いています。一方、助成や奨学金のように「誰に、何のために、どれだけ渡すか」を定めて継続することが中心であれば、組織運営の負担が小さい公益信託が合う場合があります。

    公益信託の税制

    内閣府の資料によれば、令和6年度の税制改正により、新しい制度では公益信託の認可と税制優遇が連動し、認可を受けたすべての公益信託に次の措置が適用されます。

    • 個人の寄附:個人が公益信託に寄附したときは、所得税の寄附金控除を受けられます(所得税法第78条)。なお、公益社団法人等への寄附で選択できる税額控除(租税特別措置法第41条の18の3)の対象には、公益信託は掲げられていません。
    • 現物の寄附:個人が現物を寄附した際のみなし譲渡所得税は、国税庁長官の承認を受けたときは非課税になります(租税特別措置法第40条)。
    • 法人の寄附:法人が公益信託に寄附したときは、一般の寄附金とは別枠で損金算入が可能です(法人税法第37条第5項)。
    • 信託財産の所得:信託財産に生じる所得は非課税とされ、利子・配当等に係る源泉所得税も非課税です。

    また、相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに公益信託の信託財産とするために支出した場合には、その財産を相続税の課税対象としない特例があります(国税庁タックスアンサーNo.4141)。

    旧制度では、税制上の優遇を受けるには「特定公益信託」などとして別途の証明や認定を受ける必要がありました。新制度で認可と税制が一体になったことは、オーナーにとって分かりやすさの面でも大きな変化です。ただし、現物の寄附に係る承認の要件や手続の細部は、公益法人への寄附の場合と同様に個別の確認が欠かせません。

    どちらを選ぶか:4つの判断軸

    財団と公益信託のどちらが適しているかは、次の4つの軸で考えると整理しやすくなります。

    1. 活動の形:自ら事業を運営したいか(財団向き)、助成・奨学金のように資金を届けることが中心か(公益信託も選択肢)。
    2. 運営の担い手:理事・評議員を集めて組織を運営し続けられるか。家族や後継者に運営を担ってもらう前提があるか。
    3. 規模と期間:財産の規模が組織を維持する費用に見合うか。一定期間で財産を使い切る計画か、長く続ける計画か。
    4. 家族の関わり方:家族が理事などとして関わり続けたいか、受託者と信託管理人に任せて距離を置きたいか。

    たとえば、「亡くなった後に、母校の学生に奨学金を出し続けたい」という想いであれば、遺言で公益信託を設定する方法は、組織をつくらずに想いを形にする有力な候補になります。一方、「地域で子どもの居場所を運営し、職員を雇って活動を広げたい」という想いであれば、財団の方が適しているでしょう。

    公益信託を検討するときの確認事項

    公益信託を選ぶ場合は、次の点を早い段階で確認しておくことが大切です。

    • 受託者を誰にするか:認可の審査では、受託者の経理的基礎と技術的能力が問われます。受託者の範囲は広がりましたが、長期にわたり適正に事務を行える体制があるかを見極める必要があります。
    • 信託管理人を誰にするか:受託者を監督する役割であり、公益信託の存続期間を通じて安定的に監督できる仕組みが求められます。
    • 報酬と費用:受託者などへの報酬は、不当に高額とならない支払基準を定める必要があります。信託財産の規模に対して費用が過大にならないかを試算しておきます。
    • 遺言で設定する場合:本人の死亡後に受託者の引受けと行政庁の認可が必要になります。生前に受託者候補と内容をすり合わせておかないと、想いが実現しないおそれがあります。
    • 財産は戻らない:設定後は委託者に財産が戻ることはなく、終了時も類似の目的の公益信託や公益法人等に帰属します。家族の生活資金や遺留分を先に確保しておくことが前提です。

    遺言で社会に財産を遺す方法全般については、関連記事「遺贈寄附とは何か」で整理しています。

    AEGISの視点

    これまで、まとまった財産で社会貢献を続けたいオーナーにとって、現実的な選択肢はほぼ財団に限られていました。新しい公益信託制度は、そこに「組織をつくらない」という選択肢を加えたものです。

    AEGISは、器の選択を「どちらが有利か」ではなく、「想いを続けるために、誰が、どのような負担を引き受けるか」の問題として考えています。財団は、理事や評議員を担う人がいて初めて続きます。公益信託は、受託者と信託管理人に恵まれて初めて続きます。どちらにしても、器を選ぶ前に「10年後、20年後に誰がこの活動を支えているか」を描くことが出発点です。

    また、両者は排他的ではありません。まず公益信託で助成から始め、活動の広がりに応じて財団の設立を検討する。財団の活動の一部を、目的を限定した公益信託で支える。事業承継や相続の設計と重ねながら、こうした組み合わせを考えられることも、新制度がもたらした可能性だとAEGISは考えています。

    財団という器の全体像は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。売却資金などの大口資金を社会貢献に生かす方法は「会社売却で得た資金を社会貢献に生かす方法」で比較しています。

    寄附税制や財産評価の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 公益信託は、委託者が受託者に財産を託し、公益事務のために管理・活用してもらう仕組みで、信託管理人が受託者を監督します。
    • 令和8年4月1日から新制度が施行され、行政庁の認可制への移行、受託者や信託できる財産の範囲の拡大、公益法人制度と整合した基準の導入が行われました。
    • 認可を受けた公益信託には、寄附金控除、現物寄附のみなし譲渡の非課税(国税庁長官の承認が必要)、法人寄附の別枠損金算入などの税制が適用されます。
    • 財団は「組織として活動を育てる器」、公益信託は「目的を定めて財産を託す器」であり、活動の形・担い手・規模・家族の関わり方から選びます。
    • 具体的な適用可否や手続は、個別の事情と最新の制度によって異なります。

    よくある質問

    Q. 公益信託は、どのくらいの財産から設定できますか?

    法令上、一律の最低額が定められているわけではありません。ただし、受託者や信託管理人への報酬、事務の費用がかかるため、財産の規模に対して費用が過大にならないかを試算することが大切です。受託者候補と早めに相談し、運営の見通しを確認しておくと安心です。

    Q. 個人が受託者になることはできますか?

    内閣府の資料では、信託会社のほか、公益法人やNPO法人などの法人、個人も受託者として想定されています。ただし、認可の審査では経理的基礎と技術的能力が問われ、欠格事由も定められています。長期にわたる事務を担えるかという観点で、慎重に選ぶ必要があります。

    Q. 公益信託で、不動産や自社株を信託できますか?

    新制度では、金銭に加えて株式や不動産なども信託できるとされています。ただし、その財産を公益事務にどう活用するのか、受託者が適切に管理できるのかが問われます。現物の寄附に係るみなし譲渡の非課税には国税庁長官の承認が必要で、要件を個別に確認する必要があります。

    Q. 既存の財団を、公益信託に切り替えることはできますか?

    財団は法人であり、公益信託は信託であるため、仕組みが異なります。財団の財産を公益信託に移すような組み替えは、財団の目的・残余財産の定め・税務への影響を慎重に確認する必要があります。現実には、既存の財団を維持しつつ、新たな目的に公益信託を併用する方法の方が検討しやすいでしょう。

    Q. 旧制度で設定された公益信託はどうなりますか?

    旧制度の公益信託は、新制度の施行日から2年間の移行期間内に移行の認可を受けることで、新制度の公益信託として続けることができます。令和10年3月31日までに移行の認可を申請しない場合は、同日に旧制度の公益信託として終了するとされています。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団の活用や非上場株式の寄附の適合性を検討し、経営権・配当・財団の運営・税務・実行後の管理を整理します。
    • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分を整理し、社会貢献を取り入れた承継の形を比較・検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
  • 会社売却で得た資金を社会貢献に生かす方法|寄附・基金・公益信託・財団をどう比べるか

    会社売却で得た資金を社会貢献に生かす方法|寄附・基金・公益信託・財団をどう比べるか

    会社を売却し、まとまった資金を手にしたオーナーから、「この資金の一部を社会のために使いたい」という相談を受けることが増えています。長年の事業を支えてくれた地域や業界、次の世代に何かを還元したいという想いは、とても自然なものです。

    結論から言えば、売却資金を社会貢献に生かす方法は、①公益法人などへの直接の寄附、②公益法人などに基金を設ける寄附、③公益信託、④財団の設立の4つに整理できます。どれが適しているかは、「自分がどこまで関わり続けたいか」「どのくらいの期間・規模で続けたいか」「運営の手間と費用をどこまで引き受けられるか」によって決まります。税制はその次に比べるものです。

    この記事では、売却後の「現金」を前提に、4つの方法の違いと、売却の年に確認しておきたい税務の考え方を整理します。株式のまま財団に寄附する方法は、関連記事「非上場株式を財団に寄附する前に決めること」で扱っています。

    まず、売却後の資金の性格を確認する

    社会貢献の方法を考える前に、手元に残る資金がどのようなものかを確認しておきます。

    個人が非上場株式を売却した場合、その譲渡益は他の所得と分けて税金を計算する申告分離課税の対象となり、税率は所得税15%・住民税5%の合計20%に、復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加わります(国税庁タックスアンサーNo.1463)。令和9年分以後は、復興特別所得税が基準所得税額の1.1%(令和8年分までは2.1%)に引き下げられ、あわせて防衛特別所得税(同1%)が課されます(財務省「令和8年度税制改正の解説」)。税金は売却した年の翌年の確定申告で納めるため、売却代金を受け取った時点では、まだ納税前の資金が含まれていることに注意が必要です。

    さらに、売却契約によっては、代金の一部が一定期間預けられたり(エスクロー)、業績に応じて後から支払われたり(アーンアウト)、表明保証に基づく補償の可能性が残ったりします。社会貢献に回す金額は、税金・費用・補償リスクを差し引いた「確定した手取り」から逆算するのが基本です。

    会社売却の準備から売却後の資産管理までの全体像は、関連記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

    4つの方法を比べる

    売却資金を社会貢献に生かす4つの方法を、オーナーの意思決定に関わる項目ごとに比べると、次のようになります。

    比較の視点①直接の寄附②基金型の寄附③公益信託④財団の設立
    仕組み既存の公益法人・認定NPO法人などに寄附既存の公益法人などに、目的や名称を定めた基金を設けて寄附受託者に財産を託し、行政庁の認可を受けて公益事務を行う一般財団法人を設立し、必要に応じて公益認定を受ける
    立ち上げの手間小さい小さい〜中程度中程度(受託者・信託管理人の選定と認可)大きい(設立・機関設計・公益認定)
    寄附者の関与寄附した時点でほぼ終わる使途の希望を伝える程度設定時に目的を定め、運営は受託者に委ねる理事・評議員などとして関わり続けられる
    継続性寄附先の活動に依存基金の存続期間に依存信託の目的と財産が続く限り法人として長期に存続し得る
    運営費用ほぼなし管理費が差し引かれる場合あり受託者・信託管理人への報酬人件費・事務所・会計監査など
    向いているケース特定の団体の活動を応援したい名前や目的を残しつつ手間は抑えたい助成・奨学金を長く続けたい自ら事業を運営し、活動を育てたい

    ①直接の寄附:最も簡単で、税制も分かりやすい

    既存の公益法人や認定NPO法人などへの寄附は、最も手間が少ない方法です。寄附先の活動内容や財務を確認したうえで、寄附の目的(使途)を指定できる場合もあります。一方、寄附した後の活動に寄附者が関わることは基本的にありません。

    ②基金型の寄附:名前と目的を残し、運営は任せる

    公益財団法人などの中には、寄附者の名前を冠した基金を設けたり、寄附者の希望を聞きながら助成先を選んだりする仕組みを持つところがあります。海外で「ドナー・アドバイズド・ファンド」と呼ばれる形に近いものです。法的には公益法人への寄附であり、助成先の最終的な決定権は受け手の法人にあります。基金の運営方針や管理費、存続期間は受け手によって異なるため、契約や覚書で確認することが大切です。

    AEGISも、寄附者の名前や想いを冠した基金を設ける器としてアイジスレガシー財団を設立しています。自ら財団を設立する場合と比べて、理事会の運営や事務局を自ら抱える必要がなく、後継者に運営の負担を残さない点が特徴です。基金を設ける基準や事務運営費、寄附金控除などの税務上の扱いは受け手の法人ごとに異なるため、あわせて確認が必要です。

    ③公益信託:組織をつくらずに長く続ける

    令和8年4月から新しい公益信託制度が始まり、受託者の範囲や信託できる財産が広がりました。財団のような組織をつくらずに、奨学金や研究助成などを長く続けたい場合の有力な選択肢です。詳しくは関連記事「公益信託の新制度と財団の違い」で比較しています。

    ④財団の設立:自ら活動を育てる

    売却資金で財団を設立すれば、目的や活動を自ら設計し、理事などとして関わり続けることができます。事業を経営してきた経験を、社会課題の解決に生かしたいオーナーにとっては、最も想いを形にしやすい方法です。ただし、組織を運営する人と費用が長期にわたって必要になります。設計の考え方は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    税制のポイント:現金で寄附する場合

    売却後の現金を寄附する場合、株式や不動産と違って、寄附した時点での「みなし譲渡」の問題は生じません。主な論点は、寄附した個人の所得税の扱いです。

    寄附金控除と税額控除

    公益社団法人・公益財団法人や認定NPO法人などへの寄附は、所得税の寄附金控除(所得控除)の対象となります。控除額は、その年の特定寄附金の合計額と、総所得金額等の40%相当額のいずれか低い金額から2,000円を差し引いた額です(国税庁タックスアンサーNo.1150)。

    また、行政庁から一定の証明を受けた公益社団法人等への寄附については、所得控除に代えて、税額控除を選ぶこともできます。税額控除の額は、寄附金の額(総所得金額等の40%が限度)から2,000円を差し引いた額の40%で、所得税額の25%が上限です(国税庁タックスアンサーNo.1266)。所得控除は税率の高い人ほど効果が大きく、税額控除は税率にかかわらず一定の割合で税額が減る、という性格の違いがあります。どちらを選ぶかの考え方は、関連記事「寄附金控除と税額控除の使い分け」で扱います。

    売却の年は「上限の計算の基礎」が大きくなる

    寄附金控除の上限の基準となる「総所得金額等」には、申告分離課税の所得の金額も含まれるとされています(国税庁「税務用語の意味」)。つまり、株式の譲渡益が生じた年は、寄附金控除の上限の計算の基礎が大きくなります。

    ただし、控除によって実際にどれだけ税負担が軽くなるかは、その年の所得の構成や、控除がどの所得から差し引かれるかによって変わります。所得控除は、まず給与所得などの総所得金額から差し引き、引ききれない部分を非上場株式の譲渡所得などから差し引く順序とされています(所得税法第87条第2項、租税特別措置法第37条の10第6項)。また、令和7年分以後は、基準所得金額が3億3,000万円を超える場合に所得税が加算される特例(租税特別措置法第41条の19、国税庁タックスアンサーNo.2270)があり、大きな売却益が生じた年はこの影響も含めて考える必要があります。「売却の年に寄附すれば必ず有利」とは言い切れないため、寄附の時期と金額は、売却の年と翌年以降に分けて試算してから決めることをおすすめします。住民税についても、自治体の条例で指定された寄附金には税額控除の仕組みがあります(内閣府 公益法人information)。

    財団を設立する場合の注意

    自ら設立した一般財団法人への拠出は、その財団が公益認定を受けていない段階では、寄附金控除の対象となる特定寄附金には当たらないのが一般的です。また、持分の定めのない法人への財産の移転によって親族等の相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、法人に贈与税等が課される仕組みもあります(相続税法第66条第4項)。財団を設立する場合は、公益認定を目指すのか、拠出をどの順番で行うのかまで含めて設計する必要があります。

    公益信託に寄附する場合

    内閣府によれば、新しい制度で認可を受けた公益信託に個人が寄附したときは、所得税の寄附金控除を受けられます。法人が寄附した場合も、一般の寄附金とは別枠で損金算入が可能とされています。

    時間軸で考える:一度に寄附しない選択

    売却直後に大きな金額を一度に寄附する必要はありません。むしろ、次のように時間軸で分けて考えると、判断の質が上がります。

    1. 売却直後:納税資金・生活資金・家族への配分・補償リスクへの備えを確保する。
    2. 1〜3年目:直接の寄附や基金型の寄附で、関わりたい分野や団体を試す。活動の現場を知る。
    3. 方針が固まった段階:公益信託や財団の設立など、長く続く器を検討する。
    4. 相続まで見据えて:残りの資金を、遺言による寄附(遺贈寄附)として位置付ける。

    遺言で社会に財産を遺す方法は、関連記事「遺贈寄附とは何か」で解説しています。

    実務上注意したいポイント

    • 寄附先の確認:法人の種類(公益法人、認定NPO法人など)によって税制の扱いが変わります。寄附の前に、受領証の発行や税額控除の証明の有無を確認します。
    • 家族との合意:売却資金は、相続財産の大きな部分を占めることがあります。寄附の規模は、家族への配分や遺留分との関係も踏まえて決めます。
    • ガバナンス:財団を設立する場合、家族だけで運営すると税務上の要件や公益認定の基準に抵触するおそれがあります。外部の理事や評議員を迎える前提で設計します。
    • 公表の仕方:寄附の事実や金額をどこまで公表するかは、本人と家族の考え方によります。基金の名称などを決める前に、家族の意向も確認しておきます。

    AEGISの視点

    会社の売却は、オーナーにとって「事業を手放す」出来事であると同時に、「資産の形が変わる」出来事です。事業という形で社会と関わってきた財産が、現金という自由度の高い形に変わる。AEGISは、この転換点こそ、社会との関わり方を改めて設計し直す機会だと考えています。

    売却資金の社会貢献を考えるとき、AEGISが大切にしているのは、税制の有利不利より先に「関わり方」を決めることです。寄附して見守るのか、名前と目的を残すのか、自ら活動を率いるのか。関わり方が決まれば、選ぶべき器と、必要な資金の規模、運営を支える人が自然に見えてきます。

    また、売却資金の使い道は、社会貢献だけで完結しません。家族の生活、次の事業への投資、相続への備え。これらと社会貢献を同じ一枚の上に並べ、どの資金に、どの役割を持たせるかを決めることが、売却後の資産設計の要だとAEGISは考えています。

    売却に伴う税務や、寄附・財団に関する資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 売却資金を社会貢献に生かす方法は、直接の寄附、基金型の寄附、公益信託、財団の設立の4つに整理できます。
    • 選び方の中心は、関わり方・継続期間・運営の手間と費用であり、税制はその後に比べます。
    • 寄附に回す金額は、譲渡益に係る税金・費用・補償リスクを差し引いた確定した手取りから逆算します。
    • 現金の寄附は、寄附金控除(所得控除)または一定の場合の税額控除の対象になり得ます。売却の年は控除の上限の計算の基礎が大きくなりますが、実際の効果は試算が必要です。
    • 一度に寄附せず、時間軸で器を選んでいく方法も有効です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 売却した年に寄附すると、税金はどのくらい減りますか?

    寄附金控除は、特定寄附金の合計額と総所得金額等の40%相当額のいずれか低い金額から2,000円を差し引いた額を所得から控除する仕組みです。売却の年は総所得金額等に株式の譲渡益も含まれるため上限は大きくなりますが、実際の軽減額は所得の構成や控除の順序によって変わります。寄附の前に、売却の年と翌年以降のそれぞれで試算することをおすすめします。

    Q. 自分で財団をつくって、そこに売却資金を入れれば税金は軽くなりますか?

    公益認定を受けていない一般財団法人への拠出は、一般に寄附金控除の対象になりません。また、家族だけで運営する財団への拠出は、相続税法上の課税の対象となるおそれもあります。財団は税負担を軽くする手段ではなく、活動を続けるための器として設計することが大切です。

    Q. 基金型の寄附では、助成先を自分で決められますか?

    一般的には、寄附者は希望を伝えることができても、最終的な決定は受け手の法人が行います。法的には公益法人への寄附であり、寄附者が支配する形になると公益性が損なわれるためです。どこまで意向が反映されるかは、受け手の法人の規程や覚書で確認する必要があります。

    Q. 売却代金の一部がエスクローで預けられています。寄附額はどう決めればよいですか?

    エスクローやアーンアウトなど、受取りが確定していない部分は、寄附の原資に含めないのが安全です。補償の請求があった場合に備える必要もあるため、確定した手取りから、納税資金や生活資金を差し引いた範囲で寄附額を決めることをおすすめします。

    Q. 会社を売却する前に株式を寄附する方法と、売却後に現金で寄附する方法は、どちらがよいですか?

    前提が大きく異なります。売却前の株式の寄附は、寄附した株式が売却の対象から外れるため、買い手との交渉や議決権、みなし譲渡と非課税の特例の要件を慎重に検討する必要があります。売却後の現金の寄附は、仕組みが簡単な一方、譲渡益に係る税金を納めた後の資金になります。売却の検討段階から、どちらの方法をとるかを決めておくことが望まれます。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • M&A:会社売却の方針、取引条件、税引後の受取額、売却後の資産管理を検討します。
    • 社会貢献を軸にした事業承継:財団の活用や非上場株式の寄附の適合性を検討し、経営権・配当・財団の運営・税務・実行後の管理を整理します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『目的&ケース別 M&A・組織再編成の税務ストラクチャー徹底比較』蝋山竜利・中島礼子・小林誠 著、中央経済社
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
  • 遺贈寄附とは何か|遺言で財産の一部を社会に遺す方法と、家族への配慮

    遺贈寄附とは何か|遺言で財産の一部を社会に遺す方法と、家族への配慮

    遺贈寄附とは、遺言によって、亡くなった後に財産の一部(または全部)を公益法人・NPO法人・学校法人・自治体などに寄附することです。

    生前の寄附と違い、手元の資金を減らさずに「最後に社会へ何を遺すか」を決められる点が特徴です。一方で、遺言の書き方、寄附する財産の種類、受け取る団体の選び方によって、税金や手続の負担が大きく変わります。家族がいる場合は、家族の生活や遺留分への配慮も欠かせません。

    この記事では、遺贈寄附の基本的な仕組みと、遺言で寄附を実現するために確認したいことを、税務と家族の両面から整理します。

    遺贈寄附とは:社会に財産を遺す3つのルート

    「亡くなった後の財産を社会に役立てる」方法は、大きく次の3つに分けられます。本人が遺言で決めるのか、家族に託すのかによって、確実性と税務の扱いが異なります。

    ルート誰が寄附を決めるか実現の確実性主な税務の論点
    遺言による寄附(遺贈)本人(遺言で指定)遺言が有効で、受け手が受け入れれば実現現物の場合は本人のみなし譲渡と非課税の特例
    相続人による相続財産の寄附相続人(本人の希望を受けて)相続人の判断に委ねられる相続税の非課税の特例(申告期限までの寄附)
    遺言による公益信託の設定本人(遺言で信託を設定)受託者の引受けと行政庁の認可が必要公益信託の税制

    本記事では、このうち中心となる遺言による寄附と、それを補う相続人による相続財産の寄附を扱います。信託を使う方法は、関連記事「公益信託の新制度と財団の違い」で比較しています。

    財団の設立まで含めた社会貢献の全体像は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

    特定遺贈と包括遺贈の違い

    民法は、遺言者が遺言によって、財産の全部または一部を「包括」または「特定」の名義で処分できると定めています。遺贈寄附でも、どちらの形で書くかが最初の分かれ目です。

    • 特定遺贈:「〇〇銀行の預金のうち1,000万円を〇〇財団に遺贈する」のように、対象の財産を特定する方法です。受け手は指定された財産だけを受け取ります。
    • 包括遺贈:「財産の3分の1を〇〇法人に遺贈する」のように、割合で指定する方法です。民法上、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持つとされるため、借入金などの債務も割合に応じて引き継ぎ、遺産分割の協議にも加わることになります。

    受け手の団体から見ると、包括遺贈は債務の引継ぎや遺産分割への参加という負担を伴います。そのため、金銭による特定遺贈を基本とし、不動産などは換価してから寄附する形(いわゆる清算型の遺贈)を指定する例が多く見られます。不動産や非上場株式の現物は受け入れていない団体もあるため、書く前に受け手の方針を確認しておくことが大切です。

    なお、受遺者は遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄できるとされています。受け手が受け取れない財産を指定すると、本人の想いが実現しないまま終わることもあります。

    遺贈寄附にかかる税金

    遺贈寄附の税務は、「どの財産を」「誰が寄附するか」によって変わります。ここでは、オーナーが特に押さえておきたい3つの論点を整理します。

    1. 相続税:寄附した部分は家族の課税対象から外れる

    遺贈によって財産を受け取った法人は、原則として相続税の納税義務者にはなりません(相続税法第1条の3は、納税義務者を個人として定めています)。遺贈寄附した財産は家族が取得しないため、その分は家族の相続税の課税対象に含まれない、というのが基本的な考え方です。

    ただし、受け手が一般財団法人などの持分の定めのない法人で、寄附によって寄附者の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、その法人を個人とみなして相続税が課される仕組みがあります(相続税法第66条第4項)。家族が役員を占める法人に遺贈する場合は、特に注意が必要です。

    2. 所得税:不動産・株式の遺贈には「みなし譲渡」がある

    含み益のある不動産や株式を法人に遺贈すると、亡くなった本人がその財産を時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に所得税がかかるのが原則です(国税庁タックスアンサーNo.3105)。この所得税は、相続人が本人に代わって行う準確定申告で納めることになり、実質的には家族の負担になります。

    公益法人等への遺贈で一定の要件を満たし、国税庁長官の承認を受けた場合には、この所得税を非課税とする特例があります(租税特別措置法第40条)。国税庁によれば、遺贈の場合の承認申請は遺贈をした人の相続人と包括受遺者が行い、期限は原則として寄附の日から4か月以内(その前に準確定申告の期限が来る場合はその期限まで)です。

    承認の要件には、寄附財産が原則として2年以内に受け手の公益目的事業に直接使われることなどが含まれます。たとえば、賃貸用の建物を遺贈して受け手がそのまま賃貸し、賃料を活動に充てる形は、「直接使われた」とは扱われないとする解説もあります。現物の遺贈は、受け手がその財産を何に使うかまで決めておく必要があるということです。金銭の遺贈であれば、みなし譲渡の問題は生じません。

    3. 相続人が相続財産を寄附する場合の特例

    遺言がなくても、相続人が本人の希望を受けて、相続した財産を寄附することができます。相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに国・地方公共団体や公益財団法人などの一定の法人に寄附した場合、または公益信託の信託財産とするために支出した場合には、その財産を相続税の課税対象としない特例があります(租税特別措置法第70条、国税庁タックスアンサーNo.4141)。

    この特例には、次のような条件があります。

    • 寄附先は、公益社団法人・公益財団法人、社会福祉法人、認定NPO法人など一定の法人に限られ、公益認定を受けていない一般財団法人は含まれません
    • 寄附を受けた法人が、2年以内に対象法人でなくなったり、財産を公益目的の事業に使っていなかったりする場合は適用されません
    • 寄附した人や親族が、寄附先を通じて特別の利益を受けている場合は適用されません
    • 相続税の申告書に、寄附した財産の明細書など一定の書類を添付する必要があります

    この特例は、寄附の時点ですでに設立されている法人が対象とされています。「相続後に家族で財団を設立して寄附する」という形では使えない点に注意が必要です。また、相続人の判断に委ねる方法であるため、本人の想いを確実に実現したい場合は、遺言で指定しておくほうが確実です。

    受け手をどう選ぶか

    遺贈寄附の受け手を選ぶときは、想いに合う活動をしているかに加え、次の点を確認しておくと安心です。

    • 法人の種類:公益財団法人、認定NPO法人、学校法人、地方公共団体など。法人の種類によって、税の特例の対象になるかどうかが変わります。
    • 遺贈の受入方針:金銭のみか、不動産や有価証券も受け入れるか。換価の手間を受け手が担えるか。
    • 使途の指定:特定の事業や地域に使ってほしい場合、その指定を受け入れてもらえるか。基金や冠の名称を付けられるか。
    • 継続性:遺言を書いてから実際に寄附が行われるまで、何年も空くことがあります。受け手の活動が続いていくか、定期的に見直すことが大切です。

    可能であれば、遺言を書く段階で受け手と事前に相談し、受入れの可否や手続の流れを確認しておくと、死後の行き違いを減らせます。

    家族への配慮と遺留分

    遺贈寄附は、本人の財産を本人の意思で処分するものです。ただし、家族がいる場合には、遺留分に配慮する必要があります。

    民法では、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分が認められており、その割合は、直系尊属のみが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1とされています(これに各自の法定相続分を掛けた割合が、各相続人の遺留分になります)。兄弟姉妹には遺留分がありません。

    遺留分を侵害する遺贈があった場合、遺留分を持つ相続人は、受遺者に対して遺留分侵害額に相当する金銭を請求できます。この請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始の時から10年を経過すると行使できなくなります。

    寄附を受けた団体が家族から請求を受けるのは、本人が最も望まない展開でしょう。寄附の割合を決める際は、家族の生活に必要な財産と遺留分を先に確保し、その外側で寄附額を決めるのが基本です。遺言の中に、寄附を選んだ理由や家族への想いを書き添えておく(付言事項)ことも、家族の理解を得るうえで役立ちます。

    遺言の形式と執行の準備

    遺贈寄附は遺言があって初めて実現するため、遺言が確実に見つかり、確実に執行されることが重要です。

    • 遺言の形式:公正証書遺言のほか、自筆証書遺言を法務局で保管する制度もあります。保管制度では、遺言者の死亡後に、遺言者があらかじめ指定した人へ保管の事実を通知する仕組みも設けられています。
    • 遺言執行者の指定:遺言では、遺言を実行する遺言執行者を指定できます。寄附先への連絡、財産の換価、引渡しまでを担う人を決めておくと、家族の負担を軽くできます。
    • 財産の特定:口座や不動産の表示を正確に書き、財産の内容が変わったときは遺言を見直します。

    遺言と民事信託(いわゆる家族信託)をどう組み合わせるかは、関連記事「遺言と家族信託の使い分け」で整理しています。

    実務上注意したいポイント

    • 金額より先に「割合」と「順番」を決める:家族の生活資金・納税資金・遺留分を確保した後に、寄附に回す部分を決めます。
    • 現物は「使い道」とセットで考える:不動産や株式は、みなし譲渡と非課税の特例の要件を踏まえ、換価して寄附するか現物で寄附するかを決めます。
    • 納税資金を確認する:遺贈寄附で家族の相続税は減りますが、準確定申告の所得税が生じる場合は、その資金をどこから出すかも確認します。
    • 相続人がいない場合は特に早めに:子や兄弟姉妹がいない場合、遺言がなければ財産が最終的に国庫に帰属することもあります。この点は関連記事「相続人がいない場合、財産はどうなるか」で扱っています。

    AEGISの視点

    遺贈寄附は「財産が残ったら寄附する」ものと考えられがちです。しかしAEGISは、遺贈寄附を相続設計の一部として、最初から「何を、誰に、どれだけ遺すか」の中に位置付けるものと考えています。

    家族に渡す財産、会社や事業に残す財産、社会に遺す財産。この3つを同じ一枚の上に並べると、遺留分や納税資金とのぶつかり方、現物で遺すか換価して遺すかといった判断が具体的になります。逆に、寄附だけを切り離して遺言に書き込むと、家族の手続や税負担が想定外に重くなることもあります。

    もう一つ大切なのは、寄附の理由を言葉にすることです。なぜその団体なのか、なぜその割合なのか。その説明が家族に届いていれば、遺贈寄附は家族にとっても誇りになり得ます。財産を遺す行為を、想いを引き継ぐ行為に変えることが、遺贈寄附の本当の価値だとAEGISは考えています。

    遺贈寄附に伴う財産評価やみなし譲渡、相続税の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 遺贈寄附とは、遺言によって亡くなった後に財産の一部を公益法人・NPO法人などに寄附することです。
    • 受け手の負担を考え、金銭による特定遺贈や、換価してから寄附する形が多く使われます。包括遺贈では受け手が債務も引き継ぎます。
    • 不動産や株式を法人に遺贈すると本人にみなし譲渡課税が生じ得ますが、国税庁長官の承認を受けた場合の非課税の特例があります(申請は原則4か月以内)。
    • 相続人が相続税の申告期限までに一定の法人へ相続財産を寄附した場合の非課税の特例もありますが、対象法人や2年以内の使用などの条件があります。
    • 家族がいる場合は、遺留分と家族の生活資金を先に確保し、寄附の理由を伝えておくことが大切です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 遺贈寄附は、少額でもできますか?

    できます。遺言で特定の金額を指定する方法であれば、財産の規模にかかわらず利用できます。受け手の団体によっては最低額や受入れの条件を設けている場合もあるため、事前に確認しておくと安心です。

    Q. 遺言を書いた後に、寄附先を変えることはできますか?

    遺言は、本人がいつでも新しい遺言を作ることで変更や撤回ができます。受け手の活動内容や本人の考えが変わることもあるため、数年ごとに内容を見直すことが望まれます。

    Q. 自宅などの不動産をそのまま寄附できますか?

    受け手が不動産の受入れに応じれば可能ですが、受け入れていない団体も少なくありません。また、法人への遺贈はみなし譲渡の対象となり、非課税の特例を受けるには、受け手がその不動産を公益目的の事業に直接使うことなどの要件があります。換価して金銭で寄附する方法とあわせて比較することをおすすめします。

    Q. 遺言がなくても、家族が代わりに寄附すれば同じ効果がありますか?

    相続人が相続税の申告期限までに一定の法人へ寄附すれば、その財産を相続税の対象外とする特例があります。ただし、寄附するかどうかは相続人の判断になり、寄附先も既存の一定の法人に限られます。本人の想いを確実に実現したい場合は、遺言で指定しておく方が確実です。

    Q. 寄附先の団体が遺留分の請求を受けることはありますか?

    あります。遺贈が相続人の遺留分を侵害している場合、遺留分を持つ相続人は受遺者である団体に金銭の支払いを請求できます。寄附の割合を決める前に遺留分を計算し、家族と話し合っておくことが、団体と家族の双方を守ることにつながります。

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    • 家族信託と遺言:家族信託と遺言を活用し、資産の管理と承継の体制を検討します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
    • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
    • 『令和2年版 租税特別措置法第40条関係通達逐条解説』大野隆太 編、大蔵財務協会