財団が保有する自社株の議決権をどう行使するか|寄附後の運用ルールと議決権行使方針のつくり方

会議卓中央のオフィスビル模型を囲んで話し合う5人のビジネスパーソン

自社株を財団に寄附した後、その株式の議決権は、寄附者でも会社の経営陣でもなく、財団自身が、財団の目的に照らして理事会などの手続を経て行使するものになります。

そのため寄附後に必要になるのは、「財団がどのような考え方で議決権を使うのか」をあらかじめ文書にした議決権行使方針と、それを運用する理事会の手続・利益相反の管理・会社との対話の仕組みです。これらが整っていれば、財団は会社にとって予見可能性の高い株主になり、同時に寄附者の家族や経営陣から独立した存在であり続けられます。

この記事では、寄附「後」の運用ルールに焦点を当て、議決権行使方針に何を書き、どのような場面でどう考えるかを整理します。寄附「前」に決めておくこと(寄附する株式の割合や税務の要件など)は、関連記事「非上場株式を財団に寄附する前に決めること」で扱っています。

寄附後、財団は株主として会社とどう関わるか

財団は「独立した株主」になる

財団が株式を持つと、他の株主と同じように、株主総会での議決権、配当を受け取る権利、会社の情報を求める権利などを持ちます。一方で、財団には持分を持つ人がいません。寄附をしたオーナーであっても、財団の財産や議決権を自分のものとして扱うことはできません。

財団が保有する株式の議決権は、一般に、理事会の決議などに基づいて代表理事がまとめて行使します。理事は財団に対して、財団の目的に沿って誠実に職務を行う責任を負っています。つまり議決権の行使は、「寄附者や経営陣の意向に従うこと」ではなく、「財団の目的にとって何が適切か」を理事会が判断することです。

保有と運営にかかる主な制約

財団が自社株を持ち続けるうえで、次のような制約があります。いずれも寄附の設計段階で確認すべき事項ですが、寄附後の増資や株式の移動によって状況が変わることがあるため、継続的に確認が必要です。

  • 公益財団法人の場合:公益認定の基準として、他の団体の意思決定に関与できる株式等の保有が制限されており、その会社の株主総会などにおける議決権の過半数を有していない場合に限って保有が認められます(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第18号、同法施行令第8条)。
  • 譲渡所得等の非課税特例を受けた寄附の場合:国税庁は、寄附によって法人が保有することになる株式(寄附前からの保有分を含む)が、その会社の発行済株式総数の2分の1を超えないことを判定項目の一つとしています。また、理事・監事・評議員のそれぞれについて、親族関係などにある人の割合を3分の1以下とする定めを置くことも求められています。さらに国税庁の通達では、寄附者やその親族が役員となっている会社の株式を寄附する場合、その議決権の行使にあたっては、あらかじめ理事会で理事総数の3分の2以上の承認を得ることを定款で定めておくことが、運営組織が適正かどうかの判定項目として示されています(租税特別措置法第40条関係通達18)。
  • 会社の子会社とみなされないこと:財団の理事の多くを会社の役員が占めるなど、会社が財団の方針決定を支配していると評価される状態になると、財団が会社の子会社とみなされ、株式の保有自体が問題になるおそれがあると指摘されています。

これらは、財団が会社から独立していることを制度の側から求めるものです。議決権行使方針は、この独立性を運用の場面で具体化するものと位置付けると分かりやすくなります。

議決権行使方針に書くこと

議決権行使方針は、法律で作成が義務付けられた文書ではありません。しかし、財団の理事が交代しても判断の軸がぶれないようにするため、また会社や寄附者の家族に財団の考え方を説明するために、文書化しておく意味は大きいと言えます。

AEGISでは、次の7つの項目で方針を構成することをおすすめしています。

項目書くことねらい
1. 基本的な考え方財団の目的と、株主としての立場(中長期の企業価値と安定した配当を重視する等)個々の判断の拠り所をつくる
2. 議案の区分定例的な議案と、重要な議案の区分手続の重さを議案に応じて変える
3. 判断の基準区分ごとに、賛否を判断する際に確認する事項判断の再現性を高める
4. 決議の手続理事会で決議する事項、決議の要件、外部の意見を求める場合意思決定の正当性を確保する
5. 利益相反の管理会社の役員を兼ねる理事や、寄附者の家族である理事の扱い財団の判断の独立性を守る
6. 会社との対話説明を受ける機会、配当方針についての意見交換の方法予見可能性を高め、対立を防ぐ
7. 記録・開示・見直し議事録の残し方、評議員会への報告、方針の見直し時期説明責任を果たし、方針を更新する

議案の区分と判断の基準

議案を、たとえば次のように区分しておくと、すべての議案に同じ重さで向き合う必要がなくなります。

  • 定例的な議案:計算書類の承認、剰余金の配当、通常の役員選任など。会社から事前に説明を受け、財団の基本的な考え方に照らして大きな問題がなければ、理事会で包括的に方針を確認したうえで行使する
  • 重要な議案:定款変更、第三者割当による増資、合併・会社分割などの組織再編、株式の大量取得への対応、財団が保有する株式の売却や買取りの提案など。個別に理事会で審議し、必要に応じて外部の専門家の意見を求める

判断の基準には、「会社の中長期の存続と成長に資するか」「財団の財源である配当の安定性にどう影響するか」「財団の目的や公益性と矛盾しないか」といった問いを置きます。

理事会での決議と利益相反の管理

特別な利害関係がある理事の扱い

理事会の決議について特別の利害関係を持つ理事は、その決議に加わることができません(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)第197条で準用する第95条第2項)。典型的には、その理事自身と財団との取引の承認や、その理事の責任免除などがこれに当たります。

財団の理事が会社の取締役を兼ねている場合、会社の役員選任議案に関する財団の議決権行使の決議に、その理事が参加できるかが問題になります。専門書籍では、会社の役員選任は財団とは別の法人の問題であり、財団の利益と直接衝突するとは限らないため、参加できると考えられるとする見解が示されています。

ただし、法的に参加が可能かどうかと、運用として望ましいかどうかは別の問題です。財団の判断の独立性を外部に説明する観点からは、次のような運用ルールを方針に書いておくことが考えられます。

  • 会社の役員を兼ねる理事は、会社の役員人事や役員報酬、自身が関わる取引に関する議案では、意見を述べたうえで審議・決議から外れる
  • 寄附者の家族である理事が多数を占めないよう、理事の構成を定期的に確認する
  • 会社の経営陣と財団の考えが対立した場合に、外部の理事を中心に検討する体制を決めておく

財団と会社の取引

財団が会社と取引をする場合(会社から寄附や協賛を受ける、会社の施設を借りる、会社に業務を委託する等)、理事がその会社を代表していれば、財団と理事との利益相反取引として理事会の承認が必要になることがあります(一般法人法第197条で準用する第84条第1項)。承認を得るときは、取引の重要な事実を開示し、利害関係のある理事は決議に加わらないことが原則です。

公益財団法人には、設立者や理事・評議員、その親族などの法人関係者や、株式会社などの営利事業者に特別の利益を与えないことも求められています(認定法5条3号・4号、同法施行令1条)。株式寄附について譲渡所得等の非課税の承認を受けた場合は、寄附者やその親族などに特別の利益を与えないことも要件です(租税特別措置法施行令25条の17第6項)。会社と財団の関係が「持ちつ持たれつ」になりすぎないよう、取引の条件を記録し、説明できる状態にしておくことが大切です。

配当方針との関係

自社株の寄附によって設立された財団は、多くの場合、配当を主な財源とします。そのため財団は、配当を期待する株主という立場から会社と向き合うことになります。

ここで注意したいのは、財団が配当の増額を求めることだけが、財団の目的にかなうわけではないという点です。会社の成長投資が損なわれれば、長い目で見て配当の源泉が細ります。一方で、税制上の非課税特例を受けた寄附の場合、株式から生じる配当が継続して公益目的事業に充てられることが前提とされているため、無配が続くと財団の活動だけでなく、税制上の取扱いにも影響するおそれがあります。

そこで方針には、次のような事項を書いておくとよいでしょう。

  • 会社の配当方針(安定配当か、業績連動か)について、毎年説明を受ける機会を設ける
  • 減配・無配の提案があった場合に、会社の事業計画と財団の資金計画の両方を確認したうえで賛否を判断する
  • 配当の見込みを財団の予算や積立ての計画にどう反映するかを、事務局と理事会で共有する

配当の変動を財団の資金計画でどう受け止めるかは、関連記事「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」と「公益法人の財務規律をオーナー目線で読む」で解説しています。

場面別に考える議決権行使

財団の議決権が問われるのは、平時よりも、会社の転機となる場面です。代表的な場面と、検討したい点を整理します。

場面財団として確認したいこと方針で決めておきたいこと
定時株主総会(役員選任・配当)会社の業績と事業計画、配当の水準と理由定例議案として包括的に確認する範囲
第三者割当による増資資金の使い道、財団の持株比率の低下が配当や財団の位置付けに与える影響重要議案として個別審議する
合併・事業譲渡などの組織再編事業の継続性、雇用、財団が持つ株式の価値と配当への影響外部の意見を求めるかどうか
株式の買取り・売却の提案価格の妥当性、税制上の取扱い、財団の財源への影響売却を検討する条件と手続
創業家と経営陣の意見の対立双方の説明、会社の中長期の利益利害関係のある理事の扱いと、外部理事中心の検討体制
減配・無配の提案会社の資金需要と回復の見通し、財団の活動への影響財団の資金計画との照合手順

いずれの場面でも、「どちらの味方をするか」ではなく、「財団の目的と会社の中長期の存続にとって何が適切か」を問うことが、財団の議決権行使の基本になります。

実務上注意したいポイント

  • 方針の原案は寄附の前につくる:寄附後の最初の理事会で方針を採択できるよう、原案を寄附の検討段階で用意しておくと、寄附直後の空白期間を避けられます。
  • 方針で理事を縛りすぎない:理事は、その時点の状況に照らして財団のために判断する責任を負います。方針は判断の拠り所であって、結論をあらかじめ決めておくものではありません。
  • 寄附者は「指示」ではなく「目的」で関わる:寄附者が議決権の行使を指示することはできません。寄附者の想いは、財団の目的や方針の基本的な考え方に込めておくことが現実的です。
  • 持株比率の変化を定期的に確認する:増資や自己株式の取得によって、財団の持株比率や議決権比率は変わります。保有制限や子会社に当たるかどうかの判断に影響するため、毎年確認しておきましょう。
  • 記録を残す:議決権行使の判断理由を議事録に残しておくことは、評議員会や行政庁、社会への説明の基礎になります。

AEGISの視点

自社株を財団に寄附するとき、多くのオーナーは「財団が安定株主として会社を支えてくれる」ことを期待します。しかし、財団が安定株主として機能するのは、創業家・経営陣・財団の考えが一致している間に限られることが少なくありません。対立や買収提案、増資といった場面でこそ、財団の判断の仕方が問われます。

AEGISは、財団の議決権を「会社のために使う議決権」ではなく、「財団の目的のために、会社の中長期の存続を見守る議決権」と捉えています。そのためには、財団の独立性を形だけでなく運用で示すことが欠かせません。議決権行使方針、理事会の手続、利益相反の管理、会社との対話の4つがそろって初めて、財団は会社にとって信頼できる株主になり、寄附者の想いを世代を超えて守る器になります。

自社株の承継と財団への寄附は、別々の手続として進められがちです。しかし、後継者が持つ議決権と財団が持つ議決権の関係は、承継後の会社の意思決定の形そのものです。株式の評価や資本構成の設計とあわせて、寄附後の運用まで一つの設計図で考えることをおすすめします。財団全体の設計は、Pillar記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

なお、財団に議決権を持たせること自体を避けたい場合は、寄附する株式を議決権のない配当優先株式にする設計も考えられます。財団は配当を受け取る株主として社会貢献の財源を確保し、会社の意思決定は後継者が担うという役割の分け方です。自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団(AEGISが設立したアイジスレガシー財団など)に寄附する場合も、この考え方は同じです。ただし、議決権のない株式であっても、定款の定め方によっては一定の場面で種類株主総会の決議が必要になることがあるため、その場面での財団の判断の仕方は、本記事の考え方に沿って整理しておく必要があります。

財団と株式承継に関わる資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 財団が保有する自社株の議決権は、寄附者や経営陣の意向ではなく、財団の目的に照らして理事会などの手続を経て行使されます。
  • 公益財団法人の議決権の過半数保有の制限、非課税特例における2分の1・3分の1の基準、子会社とみなされるリスクなど、財団の独立性を求める制約があります。
  • 寄附後は、基本的な考え方・議案の区分・判断基準・決議手続・利益相反の管理・会社との対話・記録と見直しを含む議決権行使方針を文書化しておくことが有効です。
  • 配当方針については、財団は配当を期待する株主として、会社の成長投資とのバランスを見ながら対話することが大切です。
  • 具体的な制約の適用や手続は、財団の形態・持株比率・寄附時の税務の取扱いによって異なるため、個別に確認してください。

よくある質問

Q. 寄附したオーナーは、財団の議決権行使に意見を言えますか?

寄附者が財団の議決権の行使を指示することはできません。寄附者が財団の理事や評議員を務めている場合は、その立場で議論に参加することになりますが、親族等の割合の制限や利益相反の管理に従う必要があります。寄附者の想いは、財団の目的や議決権行使方針の基本的な考え方に反映しておくことが現実的です。

Q. 議決権行使方針は、法律で作成が義務付けられていますか?

法律で一律に作成が義務付けられた文書ではありません。ただし、理事の交代があっても判断の軸を保ち、会社や寄附者の家族、行政庁に財団の考え方を説明するうえで、文書にしておく意味は大きいと考えられます。理事会で採択し、定期的に見直すことをおすすめします。

Q. 財団の理事が会社の取締役を兼ねていても問題ありませんか?

兼任そのものが直ちに禁止されるわけではありませんが、会社の役員が財団の理事の多くを占めると、財団が会社の子会社とみなされるおそれや、財団の判断の独立性が疑われるおそれがあります。兼任する理事の人数を限ったうえで、会社の役員人事や自身が関わる取引の議案では決議から外れるなどの運用ルールを設けておくことが望まれます。

Q. 会社が増資をすると、財団にどのような影響がありますか?

財団が増資に応じなければ、財団の持株比率や議決権比率は下がります。配当の総額が変わらなくても、財団の会社における位置付けが変わるほか、保有制限や子会社に当たるかどうかの判断にも影響することがあります。第三者割当による増資は重要議案として、資金の使い道と財団への影響を個別に審議することが望まれます。

Q. 財団が保有する株式を売却することはできますか?

財団が株式を売却すること自体は可能ですが、寄附時に譲渡所得等の非課税特例を受けている場合は、売却による買換えや管理の方法について税制上の手続や要件が関わることがあります。また、売却は財団の財源と会社の株主構成の両方に影響します。売却を検討する条件と手続を方針に定め、事前に専門家と税務上の取扱いを確認してください。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
  • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、野村資産承継研究所 監修、大蔵財務協会
  • 『公益認定の判断基準と実務』出口正之 著、全国公益法人協会

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。