著作権・印税収入がある人の相続と相続放棄|相続税の評価、放棄したときの権利の行方、管理者の決め方

家族写真のある机で書面を書く高齢者の手元

著名人の相続で、相続人が相続放棄をしたことが報じられ、作品の著作権や印税は誰が引き継ぐのか、という点に関心が集まることがあります。作家や作曲家、漫画家、写真家、研究者など、作品からの収入がある人にとっては、決して他人事ではありません。

結論から言えば、著作権は相続の対象となる財産であり、相続税の課税対象にもなります。評価は国税庁の財産評価基本通達で、過去の印税収入を基に行います。一方、相続人が相続放棄をすると、その人は著作権を含む一切の財産を引き継ぎません。相続人が誰もいない状態になり、最終的に財産が国庫に帰属すべきこととなるときは、著作権は消滅すると著作権法に定められています。

この記事では、著作権・印税の相続税評価、相続放棄や限定承認をしたときの権利の行方、そして作品を守り続けるために誰に管理を託すかを整理します。特定の方の事例を論評するものではなく、制度の仕組みと備えを解説するものです。

著作権は「財産」として相続される

国税庁は、相続税がかかる財産として、現金や不動産のほか、特許権や著作権など「金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのもの」を挙げています(No.4105)。著作権は、作品を複製・上演・放送・翻訳などする権利の束で、ほかの財産と同じように相続人に引き継がれます。

保護期間は原則として死後70年

著作権は、作品が創作された時に発生し、原則として著作者の死後70年を経過するまで存続します(著作権法51条)。共同著作物の場合は、最後に亡くなった著作者の死後70年です。保護期間は、TPP11協定の発効に伴い平成30年12月30日から、それまでの死後50年から70年に延長されました(文化庁)。つまり、相続した著作権は、相続人だけでなく、その次の世代まで引き継がれる可能性がある財産です。

著作者人格権は相続されない

著作権とは別に、作品の公表や氏名表示、内容の改変について作者の人格的な利益を守る「著作者人格権」があります。これは著作者の一身に専属し、譲渡できず(著作権法59条)、相続もされません。ただし、著作者が亡くなった後も、その人格的利益を害する行為は禁止され(同法60条)、配偶者や子などの遺族が差止め等を請求できる仕組みがあります(同法116条)。

著作権の相続税評価

評価の算式

財産評価基本通達148は、著作権の価額を次の算式で評価すると定めています。

年平均印税収入の額 × 0.5 × 評価倍率

  • 年平均印税収入の額:課税時期(相続開始時)の属する年の前年以前3年間の印税収入の年平均額
  • 評価倍率:今後の各年の印税収入が年平均印税収入の額であるとして、著作物に精通している人の意見などを基に推算した印税収入期間に応じる、基準年利率による複利年金現価率

評価は著作者ごとに一括して行うことが原則ですが、個々の著作物ごとに評価することもできます(同通達148)。0.5を乗じるのは、将来の印税収入を見積もることに伴う不確実性を考慮したものと説明されています(武田秀和『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』Q6-7)。

実務で確認する資料

評価倍率の基礎となる「印税収入期間」は、出版社やレコード会社など、その作品に精通している人の意見を基に見積もります。実務では、作品ごとに過去3年間の印税の支払明細と、今後の収入見込みを確認することになります。生前の印税収入がほとんどない作品で、今後も収入が見込まれない場合は、評価倍率が零となり、評価額が算出されないこともあります(武田・前掲Q6-8)。

関連する権利の評価

権利評価の考え方(財産評価基本通達)
著作権年平均印税収入の額×0.5×評価倍率(148)
著作隣接権(実演家・レコード製作者などの権利)著作権の評価を準用(154-2)
出版権出版業を営む人が持つものは営業権に含めて評価し、それ以外の人が持つものは評価しない(154)

通達の評価額と「実際の価値」は大きく離れることがある

財産評価基本通達による著作権の評価は、過去3年の平均印税収入に0.5と評価倍率を掛けるという、相続税の実務で多くの事案を公平かつ簡便に処理するために単純化された方法です。そのため、将来の収入見込みを個別に積み上げて現在の価値に割り引くDCF法や、類似する権利の取引事例から倍率を当てはめるマルチプル法など、実際の価値評価の考え方に照らすと、評価額と時価がかなり離れることがあります。

たとえば、相続の直前に作品の人気が高まり、今後の収入が大きく伸びる見込みがある場合は、過去3年の実績に基づく評価額は実際の価値を下回りやすくなります。反対に、過去の収入は大きくても今後は急速に減っていく見込みの作品では、評価額が実際に売買できる価値を上回ることもあります。

この構造は、借地権の目的となっている土地(いわゆる底地)とよく似ています。底地の相続税評価額は、自用地としての価額から借地権の価額を差し引いて求めますが、底地だけを買う人は限られるため、実際に売れる価格はこの評価額を下回ることが少なくありません。それでも、相続税の申告で通達によらずに鑑定評価などの時価で評価するには、その時価を裏付ける十分な根拠が求められ、認められない例も多いため、税務上のリスクを伴います。著作権のように価値の見積もりが難しい財産権も同じで、評価額が実態と合わないと感じても、通達によらない評価を選ぶかどうかは慎重に判断する必要があります。また、評価額と時価の乖離を利用して相続税の負担を大きく軽減するような取引については、通達の定めによらない評価が行われる場合があることにも注意が必要です(財産評価基本通達6、最高裁令和4年4月19日判決)。

だからこそ、著作権のような目に見えにくい権利や、底地のように評価額と換金できる価値がずれやすい財産は、生前のうちに、相続税評価額と、実際の時価やDCF法・マルチプル法などによる価値評価を並べて適切に比較し、対策が必要かどうかを検討しておくことが大切です。比べてみることで、相続税の負担と納税資金の見通し、誰がどの権利を引き継ぐか、生前の売却や法人への移転、遺言による承継先の指定などを検討する余地があるかが、具体的に見えてきます。底地の評価と整理の方法は関連記事「底地と借地を整理する方法」で、通達によらない評価が問題になる場面は「評価を下げる対策が否認されるとき」で解説しています。

相続後の印税は誰の収入になるか

相続後に支払われる印税は、著作権を引き継いだ相続人の収入となり、相続税とは別に、相続人の所得税の申告の対象となるのが一般的です。所得税基本通達35-2は、事業所得に当たらない著作権の使用料に係る所得を、業務に係る雑所得の例示に挙げています。印税の受取口座や出版契約の名義変更、源泉徴収の扱いなど、相続後の事務も早めに確認しておく必要があります。

相続放棄・限定承認をすると著作権はどうなるか

相続放棄

相続放棄は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述して行います(民法915条、裁判所「相続の放棄の申述」)。放棄をした人は、その相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

そのため、放棄をした人は、借金などの債務だけでなく、著作権を含むすべての財産を引き継ぎません。「借金は引き継がず、著作権だけは引き継ぐ」という選択はできないということです。著作権は、放棄しなかった同順位の相続人や、次の順位の相続人に引き継がれます。

なお、相続税の計算では、相続放棄をした人がいても、基礎控除額などを計算する際の法定相続人の数は放棄がなかったものとして数えます(No.4152)。一方、放棄をした人が死亡保険金を受け取った場合、その人は相続人ではないため、死亡保険金の非課税の適用は受けられません(No.4114)。

限定承認

限定承認は、相続によって得た財産の限度でのみ債務を負担することを留保して相続する方法です(民法922条)。相続人が複数いる場合は、全員が共同して申述する必要があります(民法923条、裁判所「相続の限定承認の申述」)。

債務の額が分からないが、作品の価値は残したいという場面で検討される方法ですが、税務上の注意点があります。限定承認に係る相続により資産が移転した場合は、その時の時価で譲渡があったものとみなされ(所得税法59条1項)、被相続人の所得として課税される可能性があります。著作権のように取得費が小さい資産では、この影響を事前に確認しておくことが欠かせません。

相続人がいない場合、著作権は消滅する

相続人全員が放棄した場合や、もともと相続人がいない場合は、相続財産は法人となり(民法951条)、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が債務の支払などの清算を行います(民法952条、裁判所「相続財産清算人の選任」)。特別の縁故があった人への分与が行われることもあります。

清算後に残った財産は国庫に帰属します(民法959条)。ただし著作権については、著作権法62条1項1号が、著作権者が死亡し、その著作権が民法959条により国庫に帰属すべきこととなるときは、著作権は消滅すると定めています。この場合、作品は保護期間内であっても著作権による保護を受けない状態になります。

相続の状況著作権の行方
相続人が単純承認した遺言や遺産分割に従って相続人が承継する
一部の相続人が相続放棄した放棄した人は承継せず、他の相続人が承継する
相続人全員が限定承認した相続人が承継するが、清算手続とみなし譲渡課税に注意
相続人全員が放棄した・相続人がいない清算人が清算し、国庫に帰属すべきこととなるときは著作権が消滅する

相続人がいない場合の手続の全体像は、関連記事「相続人がいない場合、財産はどうなるか」で解説しています。

作品を守るための「管理者」の決め方

共有になると管理が止まりやすい

遺産分割をしないまま、あるいは複数の相続人で著作権を分けると、著作権は共有になります。共有の著作権は、共有者全員の合意がなければ行使できず、持分を譲渡するにも他の共有者の同意が必要です(著作権法65条)。正当な理由なく合意を拒むことはできないとされていますが、映像化や翻訳出版、配信の許諾といった判断のたびに全員の合意が必要になれば、機会を逃すことにもなりかねません。

備えの選択肢

作品からの収入がある人は、生前に次のような方法で「誰が判断するか」を決めておくことが考えられます。

  • 遺言で承継者を指定する:著作権を管理する意思と能力のある人に承継させ、遺言執行者を定めておきます。遺言の方式の選び方は「公正証書遺言・自筆証書遺言・法務局保管の比較」で解説しています。
  • 著作権管理事業者に管理を委ねる:作品の利用許諾や使用料の徴収を専門の事業者に委ねる方法です。契約の内容(信託か委任か、対象の範囲)を確認しておきます。
  • 民事信託(いわゆる家族信託)を活用する:著作権を信託財産とし、管理を担う受託者と、印税を受け取る受益者を分けることで、管理と収益の帰属を整理できます。
  • 遺贈や寄附を検討する:相続人がいない場合や、作品を社会に役立てたい場合は、遺言で団体などに遺贈することも選択肢です。法人への遺贈には、所得税法59条によるみなし譲渡課税が生じ得る点に注意します。

AEGISの視点

著作権は、不動産や預金と比べて「目に見えにくい財産」です。印税の明細は出版社ごとに分かれ、権利の範囲は契約ごとに異なり、将来の価値は作品の評価次第で大きく変わります。AEGISは、知的財産の承継を「評価の問題」であると同時に「管理の問題」として捉えることが大切だと考えています。

相続税の評価は過去3年の印税収入と将来の見込みで決まりますが、作品の価値を保ち、さらに高めていけるかどうかは、相続後に誰がどのように判断するかにかかっています。管理者を決めないまま共有にしてしまうと、権利はあっても動かせない状態になりかねません。また、相続人が放棄を選んだ結果として相続人がいなくなれば、作品の著作権そのものが消滅する可能性もあります。

作品を生み出してきた人の場合、その活動は一種の個人事業でもあります。契約・口座・権利の一覧を作り、承継者と管理の方法を決め、遺言や信託で形にしておく。こうした準備は、家族の負担を減らすだけでなく、作品を社会に残し続けるための備えでもあるとAEGISは考えています。

相続と事業承継を一体で考える全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」で、ネット上の契約やデータの備えは「デジタル資産の相続に備える」で解説しています。

相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 著作権は相続の対象となる財産で、相続税の課税対象になります。保護期間は原則として著作者の死後70年です。
  • 相続税評価は、財産評価基本通達148により、前年以前3年間の年平均印税収入×0.5×評価倍率で計算します。著作隣接権は同じ方法を準用し、出版業者以外が持つ出版権は評価しません。
  • 通達の評価は単純化された方法のため、DCF法やマルチプル法などによる価値評価とかなり乖離することがあります。底地と同じく、通達によらない評価には税務上のリスクがあるため、生前に評価額と時価を比較して対策の要否を検討することが大切です。
  • 相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされ、著作権も引き継ぎません。限定承認は全員共同で行い、みなし譲渡課税に注意が必要です。
  • 相続人がいない場合、著作権が国庫に帰属すべきこととなるときは消滅します。
  • 共有の著作権は全員の合意がないと行使できないため、遺言・管理事業者・民事信託などで管理者を決めておくことが大切です。具体的な対応は個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 印税収入がほとんどない作品にも相続税がかかりますか?

著作権の評価は、過去3年間の印税収入と今後の収入見込みに基づいて行います。収入がほとんどなく、今後も見込まれない作品は、評価倍率が零となり評価額が算出されないこともあります。ただし、映像化などで収入が見込まれる場合は評価額が生じるため、作品ごとに出版社等へ確認することが大切です。

Q. 著作権の評価額が実際の価値と合わないと感じます。別の方法で評価して申告できますか?

相続税の申告では、財産評価基本通達による評価が原則です。通達による評価が時価を大きく上回るような場合に、鑑定などの根拠を示して時価で申告することが検討されることもありますが、時価を裏付ける十分な根拠が求められ、認められない例も多いのが実情です。相続が起きてから争うのではなく、生前のうちに通達による評価額と、DCF法やマルチプル法などによる価値評価を比べ、承継の方法や納税資金の準備を検討しておくことが大切です。

Q. 借金が多いので相続放棄したいのですが、著作権だけ引き継ぐことはできますか?

できません。相続放棄をすると初めから相続人でなかったものとみなされ、著作権を含むすべての財産を引き継がなくなります。財産の範囲内で債務を負担する限定承認という方法もありますが、相続人全員で共同して行う必要があり、税務上のみなし譲渡の影響も確認が必要です。

Q. 相続人が全員相続放棄すると、作品はどうなりますか?

相続財産清算人による清算の後、残った財産は国庫に帰属します。著作権については、国庫に帰属すべきこととなるときに消滅すると定められているため、保護期間内であっても著作権による保護を受けない状態になります。

Q. 兄弟で著作権を相続した場合、それぞれが自由に利用を許諾できますか?

共有の著作権は、共有者全員の合意がなければ行使できません。各共有者は正当な理由なく合意を拒めないとされていますが、判断のたびに全員の合意が必要になるため、代表者を決める、遺産分割で一人に集約するなどの整理を検討します。

Q. 作者が亡くなった後、作品を勝手に改変されたらどうなりますか?

著作者人格権は相続されませんが、著作者の死後も、その人格的利益を害する行為は禁止されています。配偶者や子など一定の遺族は、差止め等を請求できる仕組みがあります。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』武田秀和 著、税務研究会出版局、2013年、P.152、171-182
  • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、P.68、109

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。