相続人がいない場合、財産はどうなるか|相続財産清算人・特別縁故者・国庫帰属と、遺言で備える方法

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子どもがいない、配偶者に先立たれた、兄弟姉妹もすでに亡くなっている——いわゆる「おひとりさま」の相続では、亡くなった後の財産を誰が引き継ぐのかが大きな関心事です。相続人がいないまま亡くなった人の財産が国庫に入るケースが増えていると報じられることもあり、自分の財産の行方を考え始める方が増えています。

結論から言えば、相続人がいない場合、財産は家庭裁判所が選任する相続財産清算人による清算を経て、残った分が最終的に国庫に帰属します。その途中で、生計を同じくしていた人や療養看護に努めた人などの「特別縁故者」に財産が分与されることもありますが、それは家庭裁判所の判断によるもので、本人の意思どおりになるとは限りません。

自分の財産を、お世話になった人や応援したい団体に引き継いでもらいたいのであれば、遺言などで生前に意思を形にしておくことが最も確実な方法です。この記事では、相続人がいない場合の手続の流れと、備え方の全体像を整理します。

「相続人がいない」とはどのような状態か

民法上の相続人は、配偶者(常に相続人)と、①子、②直系尊属(父母や祖父母など)、③兄弟姉妹の順位で定められています(国税庁 No.4132)。子が先に亡くなっている場合は孫などの直系卑属が、兄弟姉妹が先に亡くなっている場合はその子が代わりに相続人となる場合があります(兄弟姉妹の場合は、その子までに限られます。民法887条2項・889条2項)。

「相続人がいない」状態になるのは、主に次のような場合です。

  • 配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹(とその代襲者)が、いずれもいない
  • 相続人となる人全員が相続放棄をした(放棄した人は初めから相続人とならなかったものとみなされます。民法939条)

なお、長年連れ添った内縁のパートナーや、養子縁組をしていない配偶者の連れ子、親しい友人などは、どれほど関係が深くても法律上の相続人にはなりません。この点が、相続人がいない場合の備えを考える出発点になります。

相続人がいない場合の手続の流れ

相続人のあることが明らかでないとき、相続財産は法人とされ(民法951条)、次のような流れで清算が進みます。なお、「相続財産清算人」は、令和3年の民法改正(令和3年法律第24号)により、従来の「相続財産管理人」から改められたものです。

段階内容期間・期限の目安
1. 相続財産清算人の選任利害関係人(債権者、受遺者、特別縁故者など)または検察官の請求により、家庭裁判所が選任(民法952条1項)申立先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
2. 選任と相続人捜索の公告家庭裁判所が、清算人の選任と、相続人がいれば一定期間内に権利を主張すべき旨を公告(民法952条2項)6か月以上
3. 債権者・受遺者への公告清算人が、相続債権者・受遺者に請求の申出をすべき旨を公告し、債務の支払などを行う(民法957条)2か月以上(2の期間内に満了)
4. 特別縁故者への分与特別の縁故があった人の請求により、家庭裁判所が相当と認めるときに財産の全部または一部を分与(民法958条の2)2の期間満了後3か月以内に請求
5. 国庫への帰属処分されなかった財産は国庫に帰属(民法959条)—

清算人の選任の申立てには、収入印紙800円や郵便切手、官報公告料のほか、相続財産が手続費用に不足する可能性がある場合には予納金が必要になることがあります(裁判所「相続財産清算人の選任」)。つまり、誰かが申し立てなければ手続は始まらず、財産も債務も宙に浮いたままになる可能性があるということです。賃貸住宅の明渡しや、未払いの医療費・税金の支払、不動産の管理など、周囲の人が困る場面も生じます。

特別縁故者への財産分与

相続人がいない場合でも、次のような人は、家庭裁判所に財産の分与を請求できます(民法958条の2、裁判所「特別縁故者に対する相続財産分与」)。

  • 被相続人と生計を同じくしていた人(内縁のパートナーなど)
  • 被相続人の療養看護に努めた人
  • その他、被相続人と特別の縁故があった人

ただし、分与するかどうか、どの財産をどれだけ分与するかは、家庭裁判所が「相当と認めるとき」に判断します。本人が生前に「この人に財産を残したい」と考えていたとしても、その意思が反映される保証はありません。請求の期限も、相続人捜索の公告期間の満了後3か月以内と限られています。

特別縁故者が受け取った財産と相続税

特別縁故者が分与を受けた財産は、被相続人から遺贈により取得したものとみなされ、分与を受けた時の時価で相続税の対象になります(相続税法4条1項)。申告期限は、分与があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法29条)。

相続人がいない場合の基礎控除額は3,000万円(法定相続人の数が0人)となります(PwC『完全ガイド』第2章、相続税法基本通達15-1)。また、被相続人の配偶者・父母・子など一親等の血族以外の人が財産を取得した場合は、相続税額が2割加算されます(国税庁 No.4157)。特別縁故者として財産を受け取る人の多くは、この2割加算の対象になると考えられます。

相続人がいない人が生前にできる備え

相続人がいない場合の手続は、財産を「本人の意思とは無関係に」清算する仕組みです。自分の意思を反映させるには、生前の準備が欠かせません。

備えの方法できること注意点
遺言(遺贈)財産を渡したい人や団体を指定できる方式の要件を満たす必要がある。遺言執行者を定めておくと実行が円滑
遺贈寄附公益法人・NPO・自治体などに財産を遺す受け取れる財産の種類(不動産など)を事前に確認する
死後事務委任契約葬儀・納骨・医療費の精算・契約の解約などを第三者に託す遺言では定められない事務を補う。公正証書での作成が望ましいとされる
任意後見・財産管理契約判断能力や体力が低下したときの財産管理を託す死亡によって終了するため、死後の事務とは別に準備が必要
民事信託(いわゆる家族信託)生前から財産の管理を託し、死後の帰属先も定められる受託者となる人・法人の確保が前提

遺言で財産の行き先を決める

相続人がいない人にとって、遺言は財産の行き先を決める中心的な手段です。遺言で財産を受け取る人(受遺者)を決めておけば、その部分は清算の手続を経ずに受遺者へ渡すことができます。財産全体を受け取る人を指定する方法(包括遺贈)と、特定の財産ごとに指定する方法(特定遺贈)があり、どちらを選ぶかで受遺者の負う責任や手続が変わります。包括遺贈を受けた人は、相続人と同一の権利義務を有するとされています(民法964条・990条)。遺言を確実に実行してもらうため、遺言執行者を定めておくことも重要です。

遺言の保管については、法務局で自筆証書遺言を保管する制度があり、保管された遺言書は家庭裁判所の検認が不要となるほか、死亡後に指定した人へ遺言書が保管されている旨を通知する仕組みもあります(法務省「自筆証書遺言書保管制度」)。遺言の方式の選び方は「公正証書遺言・自筆証書遺言・法務局保管の比較」で解説しています。

遺贈寄附と税務上の注意

社会に役立ててほしいという思いがある場合は、遺言で公益法人などに財産を遺す遺贈寄附も選択肢です。ただし、法人に対して不動産や株式などを遺贈すると、その時の時価で譲渡があったものとみなされ、被相続人の所得として課税される場合があります(所得税法59条1項)。寄附先の受入れ条件とあわせて、事前に確認しておくことが大切です。遺贈寄附の方法は「遺贈寄附とは何か、遺言で財産の一部を社会に遺す方法」で解説しています。

死後の事務を託す

遺言で定められるのは、主に財産の行き先に関することです。葬儀や納骨、病院や施設の費用の精算、住居の明渡し、デジタルデータの消去や各種契約の解約などは、死後事務委任契約で第三者に託しておく必要があります。財産管理などの委任契約は、特約がなければ本人の死亡によって終了するため、死後の事務は別途契約しておく必要があります(『税理士のためのポケットブック 2026』Chapter 9)。詳しくは「死後事務委任契約とは」で解説しています。

AEGISの視点

相続人がいない人の相続は、「財産が国に入ってしまう」という結果だけが注目されがちです。しかしAEGISは、より大きな問題は本人の意思が届かないまま、手続が誰の主導でも始まらない状態が生じることだと考えています。清算人の選任は利害関係人などが申し立てなければ始まらず、その間、自宅や賃貸不動産、会社の株式などは管理する人のいない状態になりかねません。

とくに、不動産や事業を持つ人の場合、その影響は家族の外にも及びます。入居者や取引先、従業員がいる財産こそ、誰に、どのように引き継ぐかを早めに決めておく意味があります。財産の一覧を作り、受け取ってほしい人や団体を決め、遺言・死後事務委任・任意後見を組み合わせて「生前から亡くなった後まで」を切れ目なく設計する。そのうえで、社会貢献につなげたい財産があれば、寄附先の受入れ条件や税務を確認しておく。こうした準備は、本人の思いを形にするだけでなく、周囲の人の負担を減らすことにもつながります。

相続と事業承継を一体で考える全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」で解説しています。

相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 相続人がいない場合、相続財産は法人となり、家庭裁判所が選任する相続財産清算人が清算を行います。残った財産は最終的に国庫に帰属します。
  • 相続人捜索の公告(6か月以上)や債権者への公告(2か月以上)を経るため、手続には時間がかかります。申立てをする人がいなければ手続は始まりません。
  • 特別縁故者への分与は家庭裁判所の判断によるもので、本人の意思どおりになるとは限りません。分与を受けた財産は遺贈とみなされ、相続税の対象になります。
  • 自分の意思で財産の行き先を決めるには、遺言(遺言執行者の指定を含む)、遺贈寄附、死後事務委任契約、任意後見などを組み合わせて備えることが大切です。具体的な方法は個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 相続人がいない場合、財産はすぐに国のものになりますか?

すぐにはなりません。相続財産清算人が選任され、相続人の捜索や債権者への支払、特別縁故者への分与の手続を経たうえで、処分されなかった財産が国庫に帰属します。公告の期間だけでも合計で数か月以上かかります。

Q. 内縁の妻(夫)は財産を受け取れますか?

内縁のパートナーは法律上の相続人ではありません。相続人がいない場合は、特別縁故者として家庭裁判所に財産分与を請求できる可能性がありますが、分与されるかどうかは裁判所の判断によります。確実に財産を渡したい場合は、遺言で遺贈しておくことが重要です。

Q. 特別縁故者として財産を受け取った場合、相続税はかかりますか?

分与を受けた財産は遺贈により取得したものとみなされ、相続税の対象になります。申告期限は、分与があったことを知った日の翌日から10か月以内です。一親等の血族や配偶者以外の人が取得するため、相続税額の2割加算の対象になると考えられます。

Q. 兄弟姉妹が全員相続放棄した場合も、相続人がいない状態になりますか?

はい。相続放棄をした人は初めから相続人とならなかったものとみなされるため、順位の相続人全員が放棄し、ほかに相続人がいなければ、相続人がいない状態になります。

Q. 遺言があれば、相続財産清算人の手続は不要になりますか?

財産全体の受け取り手を遺言で指定し、遺言執行者を定めておけば、清算人による手続を経ずに遺言を実行できる場合が多くなります。一部の財産だけを指定した遺言では、残りの財産について清算の手続が必要になることがあります。遺言の内容は、財産全体を見渡して設計することが大切です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、P.71、109
  • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、2026年、P.126-127

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。