カテゴリー: 相続・資産承継

財産の把握、配分、納税資金、管理と引継ぎを考えるための解説です。

  • 次世代教育をどう進めるか|子や孫に家業と家の財産を「何歳から、何を、どう」伝えるか

    次世代教育をどう進めるか|子や孫に家業と家の財産を「何歳から、何を、どう」伝えるか

    家業や家の財産についての次世代教育は、「後継者を育てること」と「財産を受け継ぐ家族を育てること」を分けて考えるのが出発点です。会社を継ぐのは一人でも、株式や不動産、金融資産は、将来、複数の子や孫に受け継がれていく可能性があるからです。

    この記事の結論は次のとおりです。

    • 伝える内容は、年代に応じてお金の感覚 → 家業の理解 → 株主としての責任 → 相続の仕組みの順に深めていくと無理がありません。
    • 家業を継ぐかどうかの話と、財産を受け継ぐ家族としての教育は切り離して進めます。継がない選択をした子にも、株主や相続人としての学びは必要です。
    • 家族会議への参加は、見学 → 報告を聞く → 意見を言う → 議題を持つと段階的に広げ、家業以外の場での経験も大切にします。

    なぜ次世代教育が必要なのか

    「継ぐのが当たり前」ではなくなった

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」は、事業承継に占める親族内承継の割合が大きく落ち込んでいることを指摘し、その背景として、事業の将来性への不安や、家業にとらわれない職業選択など、子ども側の多様な価値観の影響を挙げています。子どもが家業を継ぐかどうかは、親が決めることではなく、子ども自身が選ぶことになっています。

    だからこそ、選ぶための材料を早くから渡しておくことが大切です。家業のことも、家の財産のことも何も知らされないまま成人した子どもは、「継ぐか、継がないか」を判断する手がかりを持てません。

    後継者の育成には時間がかかる

    同じガイドラインは、後継者候補が経営者になるために必要だと思う準備期間について、5年以上との回答が約5割を占めるという調査結果を紹介し、後継者教育には十分な期間を準備する必要があるとしています。経営に必要な知識や経験は短期間では身に付かないため、逆算すると、子どもが社会に出る前後から準備が始まることになります。

    継がない子も、いずれ「株主」や「相続人」になる

    後継者に株式を集中させる設計をしても、他の子には遺留分があり、相続の結果として株式の一部や財産が後継者以外の子に移ることは珍しくありません。会社に関わらない子が株主になったとき、配当や会社の情報の受け止め方を知らなければ、行き違いが生まれやすくなります。次世代教育は、後継者だけでなく家族全員を対象にすることに意味があります。

    年代別に「何を、どう」伝えるか

    AEGISでは、次世代に伝える内容を4つのテーマに分け、年代に応じて深めていくことをおすすめしています。下の表は一つの目安です。家族の状況や子どもの性格に合わせて調整してください。

    年代の目安お金の感覚家業の理解株主としての責任相続の仕組み
    小学生までお小遣いのやりくり、働くことと対価親の仕事場を見る、会社の商品やサービスに触れる——
    中学・高校生貯蓄と投資の基本、家計の考え方会社の歴史、創業の経緯、地域や取引先とのつながり会社は誰のものか、株主・経営者・従業員の違い家族のつながりと、財産が受け継がれていくこと
    18歳から20代前半自分名義の財産の管理、契約の責任決算書の読み方の入口、インターンや職場体験株主の権利と責任、配当と議決権、株式の譲渡制限遺言・遺留分・相続税の基本的な仕組み
    20代後半以降資産全体の見方、借入れと保証の意味家業での勤務または他社での経験を踏まえた理解家族の株主としての方針への参加家族の財産の全体像と、自分に関わる承継の見通し

    小学生まで:働くことの意味を体験で伝える

    この時期は、制度や数字を教えるよりも、親が何のために働いているのかを体験として伝えることが中心です。休日に仕事場を見せる、会社の商品を一緒に使ってみる、といった小さな機会の積み重ねが、家業への関心の土台になります。

    中学・高校生:家族と会社の歴史を物語として伝える

    創業の経緯や、会社が苦しかった時期をどう乗り越えたかといった歴史は、子どもにとって家族の物語でもあります。財産の金額よりも、その財産や会社がどのような努力の上にあるのかを伝えることが、後に財産を受け継ぐときの姿勢につながります。

    18歳から:一人の大人として法律上の責任が生まれる

    民法では18歳で成年となります(民法第4条)。未成年の間は、子どもの財産は親権者が管理し、財産に関する法律行為も親権者が子を代表して行います(民法第824条)。18歳を過ぎれば、子ども自身が契約の当事者となり、株主であれば自ら議決権を行使する立場になります。

    税金の面でも、たとえば贈与税の相続時精算課税は、原則として贈与を受けた年の1月1日に18歳以上の子や孫などが対象です(国税庁 タックスアンサーNo.4103)。成年は、家の財産について「知らされる側」から「自分で判断する側」に変わる節目だといえます。

    子どもの名義の財産は、本人が知っていることが前提

    相続対策として子どもや孫の名義で預金や株式を持たせている家族もあります。しかし、贈与は、あげる側の意思表示と、もらう側の受諾によって成立する契約です(民法第549条)。本人が財産の存在を知らず、実際の管理も親が続けているような場合には、その財産が本当に子どものものなのかが、後に相続の場面で問題になることがあります。子どもが成長した段階で、名義の財産について説明し、管理を引き継いでいくことは、次世代教育の一部でもあります。

    株主としての責任は「権利」と「約束」をセットで伝える

    非上場の同族会社の株式は、上場株式のように自由に売ることができないのが一般的です。多くの会社では定款で株式の譲渡に会社の承認を必要としており、相続人に株式の売渡しを求める定め(会社法第174条)を置く会社もあります。次世代に株式の話をするときは、配当を受け取る、議決権を行使するといった権利だけでなく、次の点もあわせて伝えておくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。

    • 会社の株式を家族の外に出さないために、どのようなルールがあるのか
    • 家族として議決権をどう行使してきたのか、その考え方は何か
    • 配当や会社からの情報提供について、家族の中でどのような方針があるのか

    家業以外の道を選ぶ子への接し方

    家業を継がない選択をした子に対して、親が落胆を隠せないこともあるでしょう。しかし、本人が自分で選んだ道でなければ、たとえ家業に入っても困難な場面で踏ん張る力が生まれにくいものです。後継者の育成に関する専門書でも、後継者が自らの人生の選択として事業を継ぐと決めることの重要性が指摘されています。

    継がない子との関係で意識したいのは次の点です。

    • 選択を尊重したうえで、家族としての関わり方を話し合う:会社に関わらなくても、株主や相続人として家族の一員であることは変わりません。
    • 家業の情報を閉ざさない:継がないと決めた子を家族会議から外すと、将来株主になったときに会社の状況を知る機会がなくなります。
    • 他の分野での挑戦を応援する:家業以外で起業したい、学びたいという子を一族としてどう支援するかを考える家族もあります。考え方は関連記事「家業を継がず起業する子をどう支援するか」や「一族の資金で次世代の起業や学びを支援する仕組み」で取り上げています。

    家族会議への参加を段階的に広げる

    家族会議は、次世代教育の最も実践的な場です。いきなり大人と同じ立場で参加させるのではなく、段階を踏むと無理がありません。

    1. 見学:行事や近況共有の回に参加し、家族が集まって話し合う雰囲気に触れる。
    2. 報告を聞く:会社の業績や家の財産の状況についての説明を聞き、分からないことを質問する。
    3. 意見を言う:テーマを決めて、次世代としての意見を発表する機会を設ける。
    4. 議題を持つ・進行する:次世代が自ら議題を提案したり、会議の進行役を務めたりする。

    家族会議を継続して運営する方法は、関連記事「家族会議(ファミリーミーティング)の続け方」で詳しく解説しています。

    外部での経験をどう積ませるか

    後継者候補の育成については、事業承継ガイドラインも、社内での教育と社外での教育を組み合わせることを示しています。社内では、各部門をひととおり経験することで現場の知見や従業員との信頼関係が得られます。社外では、取引先や同業他社での勤務を通じて自社を客観的に見る力が養われ、後継者向けの講座や教育機関で経営を体系的に学ぶこともできます。

    AEGISでは、外部での経験を考えるときに、次の3点を意識することをおすすめしています。

    • 「家業の子」として扱われない環境を選ぶ:取引先での勤務は学びが多い一方、特別扱いされやすい面もあります。評価が率直に返ってくる環境で働く経験は貴重です。
    • 戻る時期を決めすぎない:外部での経験の期間をあらかじめ固定しすぎると、本人が経験から得たものを十分に生かせないことがあります。節目ごとに家族で話し合う方が現実的です。
    • 経営の数字と人の両方を学ぶ:決算書を読む力と、人を動かす経験の両方が、将来の経営に必要になります。

    AEGISの視点

    次世代教育というと、後継者をどう育てるかに目が向きがちです。しかしAEGISは、次世代教育の本当の目的は、家族の誰もが、受け継ぐ財産と会社に対して責任ある判断ができるようになることだと考えています。会社を継ぐ子も、継がない子も、いずれ株主や相続人として家族の重要な判断に関わります。

    また、次世代教育は、税金や法律の手続とも深く関わっています。子ども名義の財産の扱い、株式の贈与の時期、成年後の財産管理の引継ぎなどは、教育の進み具合と切り離して考えることはできません。財産を移す計画だけが先に進み、受け取る側の準備が追い付いていない状態は、家族にとっても会社にとってもリスクになります。財産を移す時間軸と、次世代が育つ時間軸をそろえて考えることを、AEGISは大切にしています。

    家族全体のルールの中で次世代教育をどう位置付けるかは、関連記事「ファミリーガバナンスとは何か」で解説しています。

    承継に関わる資産構造や評価の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 次世代教育は、後継者の育成と、財産を受け継ぐ家族全員の教育を分けて考えることが出発点です。
    • 年代に応じて、お金の感覚、家業の理解、株主としての責任、相続の仕組みの順に深めていきます。
    • 18歳の成年は、家の財産について自分で判断する側に変わる節目です。子ども名義の財産は、本人が知り、管理を引き継いでいくことが前提になります。
    • 家業を継がない子にも、株主や相続人としての学びと、家族会議への参加の機会を用意します。
    • 外部での経験は、自社を客観的に見る力を養います。進め方は家族と子どもの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 家の財産のことは、何歳から子どもに話せばよいですか?

    金額や内訳を伝える時期は家族によって異なりますが、財産や会社が家族の努力の上にあることは、中学・高校生の頃から物語として伝えられます。具体的な財産の内容や相続の仕組みは、民法上の成年である18歳以降、本人の成熟度を見ながら段階的に伝えるのが一つの目安です。

    Q. 子どもが家業を継がないと言った場合、教育は必要ありませんか?

    必要です。会社を継がなくても、相続などで株式や財産の一部を受け継ぐ可能性があります。株主としての権利と責任、配当や議決権の意味、家族の財産の全体像を知っておくことは、継がない子にとっても家族にとっても大切です。

    Q. 子ども名義の預金や株式があることを、本人に伝えるべきですか?

    成長に応じて伝えることをおすすめします。贈与は、もらう側が受け入れることで成立します。本人が知らず、管理も親が続けている財産は、後に相続の場面で誰の財産なのかが問題になることがあります。伝える時期や方法は、税理士などの専門家と相談しながら決めると安心です。

    Q. 後継者候補には、家業以外の会社で働く経験が必要ですか?

    必須ではありませんが、事業承継ガイドラインでも、他社での勤務経験は経営手法や会社のあり方について多様な経験を積み、自社を客観的に見直す力になると示されています。社内での経験と組み合わせ、本人の資質や会社の実情に合った形を選ぶことが大切です。

    Q. 孫の世代にも同じように教育すべきですか?

    孫の世代では、親(子世代)の考え方を尊重しながら進めることが大切です。祖父母が直接伝えるよりも、家族会議の行事や近況共有の場に参加してもらい、家族の歴史や価値観に触れる機会をつくる方法が取り組みやすいでしょう。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどを比較しながら承継計画を支援します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入とご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部、辻・本郷 ファミリーオフィス株式会社、岩崎隼人 編著、東峰書房、2025年1月、P.25-26、P.43-44、P.285-286
    • 『ファミリービジネス白書 2018年版 ―100年経営とガバナンス―』ファミリービジネス白書企画編集委員会 編、後藤俊夫 監修、白桃書房、2018年5月、P.128-131
    • 『専門家のための事業承継入門』事業承継支援研究会 編、ロギカ書房、2018年12月(第3刷 2020年1月)、P.29-60
  • 個人事業(家業)を子に継ぐ前の家族会議|事業用資産の名義・屋号・取引先・借入れを、家族でどう決めるか

    個人事業(家業)を子に継ぐ前の家族会議|事業用資産の名義・屋号・取引先・借入れを、家族でどう決めるか

    個人で営む家業を子に継ぐときは、会社の株式を渡すように「一つのもの」を移せば済むわけではありません。店舗や設備、屋号、取引先との契約、借入れを、一つずつ誰にどう引き継ぐかを決めていく作業になります。しかも、その多くは親の個人の財産や家計と混ざっています。

    だからこそ、税制や遺言を検討する前に、家族で話し合っておきたいことがあります。結論としては、①誰が継ぎ、継がない子には何を渡すか、②親の配偶者の生活をどう守るか、③どこまでを「事業」として渡し、どこからを「家計」として残すか、④いつ、どの方法で引き継ぐかの四つです。この記事では、家族会議の前の準備から、項目ごとの引継ぎ方、会議の進め方までを順に整理します。

    会社の承継と何が違うのか

    中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」では、個人事業主の経営権の本質は、経営者が自分の名で事業を行い、取引先や顧客との契約関係を持ち、事業用資産を自ら所有していることにあるとされています。そのため、開業届や廃業届を出すだけでは承継は完了せず、契約関係や所有関係を実際に引き継ぐことが欠かせません。

    同ガイドラインが引用する調査では、個人事業主の後継者は先代の子が75.3%を占め、親族内の承継が約9割に達しています。一方で、個人事業者の事業承継は、先代の死去や体調悪化といった突発的な事情で行われたケースが約6割を占めるとされています。家族のなかで引き継がれることが多いのに、話し合いの機会がないまま「その時」を迎えてしまう家業が少なくないのです。

    家族会議の前に用意したい「事業の棚卸し」

    話し合いを実りあるものにするには、まず親(現経営者)が、事業に関わる財産と契約を一覧にしておくことが出発点です。

    項目確認すること引き継ぐときに必要になること
    土地・建物名義、店舗兼住宅かどうか、借地・借家か贈与・売買・相続による名義変更、または賃貸借
    設備・車両・在庫種類と帳簿上の価額、リースかどうか個別の譲渡や名義変更、リース契約の切替え
    屋号・顧客屋号の使用歴、商号登記の有無、顧客名簿屋号を使い続けるかの判断、顧客への案内
    取引先・賃貸借の契約仕入先・販売先・家主との契約内容相手方の承諾を得て契約を引き継ぐか、結び直す
    許認可・登録営業許可などの名義と期限後継者による取り直しや承継の手続
    借入れ・保証借入先・残高・担保・保証人金融機関との協議(債務の引受け、担保・保証の見直し)
    預金口座屋号付き口座を含む事業用口座屋号付きでも個人名義の口座のため、後継者名義で開設し直す

    ※AEGISが論点を整理するために作成した表です。業種によって必要な項目は異なります。

    同ガイドラインが引用する調査では、一定規模以上の個人事業主が所有する事業用資産の6割超を土地・建物が占めるとされています。店舗兼住宅のように、事業と生活の両方に使われている不動産が多いことも、個人事業ならではの難しさです。

    家族会議で決める四つのこと

    1. 継ぐ子と継がない子

    最初に確認したいのは、後継者となる子本人の意思です。親の思い込みで話を進めると、後継者が覚悟を持てないまま引き継ぐことになりかねません。同時に、継がない子の考えも聞いておきます。

    個人事業では、事業用資産が分散すると事業の継続に直接影響します。土地や建物、設備が相続人の共有になると、後継者は設備の更新や業態の転換を自由に行いにくくなります。事業用資産を後継者に集める以上、継がない子には何を渡すのか(金融資産、自宅、生命保険など)を、あわせて話し合う必要があります。

    2. 親の配偶者の生活

    家業を夫婦で営んできた場合、事業の収入がそのまま夫婦の生活費になっていることが多いでしょう。事業を子に渡した後、親世代の生活費はどこから出るのか、店舗兼住宅に住み続けられるのか、事業を手伝ってきた配偶者の処遇はどうなるのかを具体的に確認します。親の配偶者が今後も事業に関わる場合は、子の事業で働く家族として、給与の扱いも含めて整理しておくとよいでしょう。

    3. 事業用資産と家計の線引き

    個人事業では、事業用の預金と家計の預金、店舗部分と住居部分、事業用の車と家族の車が混ざっていることがよくあります。何を「事業」として後継者に渡し、何を「家計」として親の手元に残すのかを線引きすることで、継がない子への配分も考えやすくなります。帳簿や青色申告決算書に載っている資産をもとに整理すると、話が具体的になります。

    4. 引継ぎの時期と方法

    引継ぎの方法は、大きく「親が元気なうちに事業を渡す」か、「相続で引き継ぐ」かに分かれます。

    比べる点生前に事業を引き継ぐ相続で引き継ぐ
    親の関わり方引継ぎ後も助言役として後継者を支えられる引継ぎの時点で親はいない
    契約・許認可親が同席して取引先や金融機関に説明できる相続人が手続を進め、取引先の不安が生じやすい
    税金贈与なら贈与税、売買なら親に譲渡所得の課税など、方法により異なる相続税(小規模宅地等の特例などの検討)
    家族の合意生前に合意を形にしやすい遺言がなければ遺産分割協議が必要

    ※AEGISが論点を整理するために作成した表です。税負担の比較は個別事情によって異なります。

    生前に引き継ぐ場合でも、すべてを一度に渡す必要はありません。まず経営(取引先対応や仕入れの判断)を任せ、資産の名義は段階的に移す方法もあります。

    項目別:名義・屋号・取引先・借入れの引継ぎ方

    事業用資産の名義

    生前に事業用資産を子に移す方法には、贈与、売買、親が所有したまま子に貸す方法があります。贈与であれば子に贈与税、売買であれば親に譲渡所得の課税が生じうるなど、方法ごとに税金が異なります。在庫などの棚卸資産を贈与した場合には、贈与の時の価額が親の事業所得の収入金額に算入される点にも注意が必要です(所得税法40条1項)。

    屋号

    個人事業の屋号は、多くの場合、登記されていない呼び名として使われています。商人は自分の商号を登記することもできます(商法11条2項)。

    注意したいのは、生前に営業を譲り受けた子が親の商号を引き続き使う場合、親の営業によって生じた債務について、子も弁済する責任を負うことがある点です(商法17条1項)。譲渡後遅滞なく、責任を負わない旨を登記するか、取引先に通知することで、この責任を避ける方法も定められています(同条2項)。屋号を使い続けるかどうかは、のれんの価値とあわせて家族で決めておきたい項目です。

    取引先・賃貸借の契約

    取引先との契約や店舗の賃貸借契約は、親が当事者です。契約上の地位を子に移すには、契約の相手方の承諾が必要です(民法539条の2)。家主や主要な仕入先には、引継ぎの方針が固まった段階で、親子そろって説明に行くのが望ましいでしょう。

    借入れと保証

    事業の借入れは親個人の債務です。子が債務を引き継ぐ場合、親を債務から外す形(免責的債務引受)では、金融機関の関与や承諾が必要になります(民法472条)。担保に入っている自宅や、親族が保証人になっている借入れがあれば、その扱いも含めて早めに金融機関と相談します。

    許認可

    個人事業では、事業の名義人が替われば、営業許可などを後継者が取り直す必要がある場合があります。業種によって手続や期間が異なるため、事業承継の準備段階で所管の窓口に確認しておくことが大切です。

    税制や遺言は「家族の合意の後」に

    家族の方針が固まったら、それを実現する手段として税制や遺言を検討します。

    • 小規模宅地等の特例:事業に使っていた土地を相続する場合、事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、申告期限まで営んでいることなどが要件になります(国税庁タックスアンサーNo.4124)。
    • 個人版事業承継税制:一定の事業用資産を相続や贈与で引き継ぐ場合の納税猶予の制度です。平成31年1月1日から令和10年12月31日までの相続等が対象で、令和10年9月30日までに「個人事業承継計画」を都道府県知事に提出し確認を受けることなどが要件です(国税庁タックスアンサーNo.4153)。制度の選び方は関連記事「個人版事業承継税制で個人事業を引き継ぐ」で解説しています。
    • 遺言:事業用資産を後継者に集めるには、遺言で意思を明確にすることが基本です。継がない子の遺留分への配慮も欠かせません。遺言の書き方は関連記事「個人事業主が遺言で備えること」で扱っています。

    親が亡くなった後の申告や事業の引継ぎの期限は、関連記事「個人事業主が亡くなったときの申告と事業の引継ぎ」で整理しています。

    家族会議の進め方

    家族会議は、一度で結論を出そうとしないことが大切です。次のような流れで、数回に分けて進めると話がまとまりやすくなります。

    1. 共有の回:親が事業の棚卸しの結果と、事業への想いを家族に伝える
    2. 意向を聞く回:後継者候補、継がない子、親の配偶者のそれぞれの考えを聞く
    3. 方針を決める回:四つの論点について方針を決め、残る課題を確認する
    4. 実行を確認する回:遺言や契約の切替えなど、決めたことの進み具合を確認する

    話し合った内容は簡単なメモでも記録に残し、参加者で共有します。意見が対立しそうなときや、親子だけでは感情的になりやすいときは、事情を理解した第三者に同席してもらう方法もあります。家族会議を続けていくための工夫は、関連記事「家族会議(ファミリーミーティング)の続け方」で扱っています。

    AEGISの視点

    個人事業の承継というと、税金の特例や手続の話から入りがちです。しかし、AEGISが多くの家業を見てきて感じるのは、つまずきの多くは手続ではなく、家族の間の「言わずにいたこと」から生まれるということです。継がない子が「店も家も兄のものになるのか」と感じていたり、親の配偶者が自分の生活の見通しを持てずにいたりすると、手続が整っていても、相続のときに不満が表に出ます。

    AEGISは、家業の承継を「事業」「家計」「家族」の三つを同時に引き継ぐことと考えています。事業の棚卸しで「事業」と「家計」の線を引き、家族会議で「家族」それぞれの立場を確認し、そのうえで税制・遺言・契約を組み合わせる。この順番を守ることで、制度は家族の合意を支える道具として機能します。相続の場面で家族がもめないための備えは、関連記事「個人事業主の親の相続で家族がもめないために」でも扱う予定です。

    事業用資産の評価や相続税の試算を含めた資産税務の考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。事業承継の全体像は、関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で解説しています。

    まとめ

    • 個人事業の承継は、事業用資産・屋号・契約・借入れ・許認可を一つずつ引き継ぐ作業で、開業届と廃業届だけでは完了しません。
    • 家族会議の前に、親が事業に関わる財産と契約を棚卸しし、事業と家計が混ざっている部分を明らかにしておきます。
    • 家族で決めたいのは、継ぐ子と継がない子への配分、親の配偶者の生活、事業と家計の線引き、引継ぎの時期と方法の四つです。
    • 屋号を引き続き使う場合の債務の責任、契約の引継ぎに必要な相手方の承諾、借入れの扱いなど、項目ごとの注意点を押さえます。
    • 税制や遺言は、家族の合意を実現する手段として、合意の後に検討します。

    よくある質問

    Q. 個人事業を子に継ぐとき、開業届と廃業届を出せば足りますか?

    届出は必要ですが、それだけでは承継は完了しません。事業用資産の名義、取引先や家主との契約、借入れ、許認可などを、一つずつ後継者に引き継ぐ必要があります。事前に棚卸しをして、どの項目にどんな手続が必要かを確認しておくことが大切です。

    Q. 屋号はそのまま子が使ってもよいのですか?

    使うこと自体は可能です。ただし、生前に営業を譲り受けた子が親の商号を引き続き使う場合、親の営業上の債務について子も弁済責任を負うことがあります。責任を負わない旨を登記したり取引先に通知したりする方法も定められているため、借入れや未払いの状況とあわせて検討します。

    Q. 店舗兼住宅は、子に引き継ぐべきですか?

    事業を続けるうえで店舗部分が欠かせない一方、住居部分には親世代が住み続けることも多く、一律には決められません。子に名義を移す、親が持ったまま子に貸す、相続時に引き継ぐなどの選択肢を、親の配偶者の住まいや継がない子への配分、相続税の特例の要件とあわせて比べます。

    Q. 継がない子が不公平だと感じないようにするには?

    事業用資産を後継者に集める理由を親が自分の言葉で説明し、継がない子に何を渡すのかを具体的に示すことが大切です。金融資産や生命保険、自宅などで配分を考え、遺言にその考えを残しておくと、相続のときの誤解を減らせます。遺留分への配慮も欠かせません。

    Q. 家族会議には誰が参加すればよいですか?

    現経営者である親、後継者候補、継がない子、親の配偶者が基本です。後継者の配偶者は、価値観を共有する回には参加してもらい、財産の配分を決める回は相続人を中心にするなど、回ごとに参加範囲を分ける方法もあります。

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    • 個人事業の継続と承継:個人事業を長く続け、次世代へ引き継ぐための準備として、事業資金・民事信託(いわゆる家族信託)・遺言・契約・金融機関対応を確認します。
    • 事業承継:後継者・経営権・株式・資金・ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどを比較しながら承継計画を検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部、辻・本郷 ファミリーオフィス株式会社、岩崎隼人 編著、東峰書房(2025年)、P.51-58
    • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社(2014年)、P.22
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    なぜ「資格」が承継の壁になるのか

    まず、医師と士業それぞれで、資格がどのように求められているかを確認します。

    医師の場合、個人の診療所は、医師が開設するときは開設後に届け出れば足りますが、医師でない人が開設するには都道府県知事等の許可が必要です(医療法7条1項、8条)。医療法人では、理事長は原則として医師または歯科医師である理事から選ぶこととされ、医師等でない理事から選ぶには都道府県知事の認可が必要です(医療法46条の6第1項)。

    士業の場合、たとえば税理士法人の社員は税理士でなければなりません(税理士法48条の4第1項)。税理士が亡くなると登録が抹消され(同法26条1項2号)、税理士法人の社員であれば法人から脱退することになります(同法48条の17第1号)。また、個人の事務所が顧客と結ぶ顧問契約は、一般に委任の性質を持ち、委任は当事者の死亡によって終了します(民法653条1号)。資格者本人が亡くなれば、顧客との関係もそこで途切れるのが原則です。

    こうした事情から、医師・士業の事業は後継者を見つけにくい分野でもあります。帝国データバンクの2025年の調査では、業種中分類別の後継者不在率で「医療業」が59.0%、「専門サービス」が58.6%と、いずれも上位5業種に入っています(2025年11月公表)。

    家族が比べたい五つの選択肢

    資格を持たない子がいる家族の選択肢は、大きく次の五つに整理できます。

    選択肢事業を担う人家族に残るもの向いているケース主な注意点
    1. 第三者の資格者に引き継ぐ外部の医師・士業譲渡の対価地域に必要とされ、患者や顧客が多い引継ぎ先探しに時間がかかる。対価の税金
    2. 事業は譲り、不動産は家族が持って貸す外部の医師・士業不動産と賃料収入立地のよい自宅兼診療所・事務所を持つ賃料・期間の設計、相続税の特例の要件
    3. 医療法人・士業法人の出資や持分を整理する法人に残る資格者出資の対価や払戻し法人化しており、他の資格者がいる法人の類型・定款・税金で扱いが変わる
    4. 子や孫が資格を取るまでつなぐ一時的な院長・所長将来の承継の可能性子や孫が資格取得を目指しているつなぐ人との条件設定、長期化のリスク
    5. 計画的に廃業するなし残った資産引継ぎ先が見つからない、事業規模が小さい患者・顧客・職員への配慮、残る資産の整理

    ※AEGISが論点を整理するために作成した表です。実際には複数の選択肢を組み合わせることもあります。

    1. 第三者の資格者に引き継ぐ

    もっとも事業の価値を生かせるのが、外部の医師や士業に事業を引き継ぐ方法です。個人の診療所であれば、診療所の設備や患者、職員を引き継いでもらう形になり、引き継ぐ医師があらためて開設の手続を行います。具体的な手続や建物・土地の扱いは、関連記事「個人開業医の診療所を引き継ぐ方法」で解説しています。

    士業の事務所では、顧客との顧問契約が資格者本人との信頼関係に基づいているため、親が元気なうちに後継の資格者を顧客に紹介し、一定期間一緒に担当するなどの段階的な引継ぎが欠かせません。顧問契約は親の死亡で終了するのが原則のため、亡くなった後に引継ぎ先を探すのでは、顧客が離れてしまう可能性が高くなります。

    譲渡の対価を受け取る場合、譲渡する資産の種類によって課税関係が異なります。個人事業を第三者に譲るときの税金や手続は、関連記事「個人事業を第三者に譲る方法」で扱っています。

    2. 事業は譲り、不動産は家族が持って貸す

    自宅と一体になった診療所や、駅前の事務所ビルなど、立地のよい不動産を持っている場合は、事業は資格者に譲り、不動産は家族が持ったまま引継ぎ先に貸すという形が考えられます。家族には安定した賃料収入が残り、引継ぎ先にとっても、患者や顧客に知られた場所で事業を続けられる利点があります。

    このとき検討したいのが、相続税の小規模宅地等の特例との関係です。親が自ら診療所や事務所として使っていた土地を相続する場合、「特定事業用宅地等」として扱われるには、親族が親の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、申告期限まで営んでいることなどが要件になります(国税庁タックスアンサーNo.4124)。資格を持たない子は事業を引き継げないため、この要件を満たすことは難しくなります。

    親の生前から第三者に貸していれば「貸付事業用宅地等」として検討の対象になりますが、相続開始前3年以内に新たに貸付けを始めた宅地等は、一定の場合を除いて対象外とされています(同)。どの時点で、誰に、どの条件で貸すかによって、相続税の扱いが変わりうるため、引継ぎの時期とあわせて試算しておくことが大切です。

    3. 医療法人・士業法人の出資や持分を整理する

    親が医療法人や士業法人を経営している場合は、法人の仕組みに沿った整理が必要です。

    医療法人では、法人の類型によって扱いが大きく異なります。出資持分のある医療法人であれば、出資持分は親の相続財産になり、相続した子が持分の払戻しを求めることも考えられます。払戻しが法人の資金繰りを圧迫すれば、医療の継続にも影響します。後継者に医師がいない場合、専門書では、外部から医師を招くための医療機関としての価値の向上や、理事長個人名義の資産の整理などが論点として挙げられています。出資持分の評価や持分なし医療法人への移行は、関連記事「医療法人の事業承継と出資持分の整理」で解説しています。

    士業法人では、資格を持たない子が社員の地位を引き継ぐことはできません。親が亡くなって法人から脱退すれば、持分は法人の定款や法律の定めに沿って精算されることになります。法人にほかの資格者の社員がいるかどうか、精算の資金を法人が用意できるかが、事業の継続にとって重要です。

    4. 子や孫が資格を取るまでつなぐ

    子や孫が医師や士業を目指して学んでいる場合は、外部の資格者に一定期間、院長や所長として事業を担ってもらい、将来の承継につなぐ方法もあります。ただし、つなぐ期間は想定より長くなりがちで、その間に事業の中心が外部の資格者に移っていくこともあります。つなぐ人の処遇、期間、将来の引継ぎ方を、あらかじめ書面で決めておくことが欠かせません。また、子や孫の進路を家族の期待で縛らない配慮も大切です。

    5. 計画的に廃業する

    引継ぎ先が見つからない場合や、事業の規模が小さい場合は、計画的な廃業も立派な選択肢です。患者には紹介先の医療機関を、顧客には後任の専門家を案内し、職員の再就職にも配慮しながら、時間をかけて事業を閉じます。廃業後に残る不動産は、売却や賃貸、相続などで家族の資産として生かすことを考えます。

    選択肢を比べるときの判断軸

    五つの選択肢を比べるとき、AEGISは次の四つの軸で考えることをおすすめしています。

    1. 地域・顧客への責任:患者や顧客、職員にとって、事業が続くことにどれだけの意味があるか
    2. 事業の価値が残る時間:資格者本人の力に依存する事業ほど、引継ぎが遅れるほど価値が下がる
    3. 家族に残す財産の形:対価(現金)、不動産と賃料、法人の持分のどれで残すのが家族に合っているか
    4. 相続のときの公平さと税金:子どもが複数いる場合の配分、相続税と納税資金の見通し

    とくに医師・士業の事業は、資格者本人の力や信頼に支えられているため、②の「時間」が他の事業以上に重要です。元気なうちに選択肢を比べ始めることが、家族に残せるものを大きくします。

    医師・士業の親が、今から家族と話しておきたいこと

    資格を持たない子がいる場合、親が一人で悩んだまま時間が過ぎてしまうことがよくあります。子の側も、「継げなくて申し訳ない」と感じていたり、親の事業や財産について聞きにくかったりします。家族で次のような点を話しておくと、選択肢を比べる土台ができます。

    • 親はいつ頃まで現役を続けたいか、引退後はどう暮らしたいか
    • 子は将来、事業や不動産とどのように関わりたいか(関わりたくない、も含めて)
    • 診療所や事務所の不動産を、家族として残したいか
    • 患者・顧客・職員に対して、親が果たしたい責任は何か

    医師・士業として独立するときの形の選び方は、関連記事「医師・士業が独立開業するときの形の選び方」でも扱っています。開業の段階から承継や廃業の出口を見通しておくことの大切さは、承継を考える段階でも同じです。

    AEGISの視点

    資格を持たない子がいる医師・士業の家族は、「継がせられない」ことに意識が向きがちです。しかし、AEGISは、資格が必要なのは「業務」であって、「家族が事業とともに築いてきた財産や信頼」まで途切れるわけではないと考えています。

    事業の担い手と財産の持ち手を分ければ、事業は地域に必要とされる形で資格者に引き継ぎ、不動産や対価、法人の持分は家族の資産として次の世代に渡すことができます。その際には、事業の譲渡、不動産の所有と賃貸、相続税の特例、家族の間の配分を一体で設計する必要があります。どれか一つだけを先に決めると、他の選択肢を狭めてしまうことがあるからです。

    もう一つ大切なのは、子が親の事業を継がないことを、家族の失敗として捉えないことです。親が長年築いた事業を、地域のために次の資格者へつなぎ、家族には別の形で財産を残す。その道筋を家族で共有できれば、親にとっても子にとっても納得のいく承継になります。事業・不動産・相続を一体で考えるAEGISの考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。

    親族以外への承継が広がっている動向は関連記事「『脱ファミリー』が進む事業承継」で、事業承継の全体像は「事業承継は何から始めるべきか」で解説しています。

    まとめ

    • 診療や税務代理など資格が必要な業務は、資格を持たない子が担うことはできません。診療所の開設、医療法人の理事長、士業法人の社員には、法律で資格が求められています。
    • 「事業を担う人」と「財産を持つ人」を分けることで、第三者の資格者への承継、不動産を家族が持って貸す形、法人の出資や持分の整理、子や孫が資格を取るまでつなぐ形、計画的な廃業といった選択肢が見えてきます。
    • 不動産を家族が持つ場合は、小規模宅地等の特例の要件(事業の引継ぎ、貸付けの開始時期など)によって相続税の扱いが変わりうるため、時期とあわせて試算します。
    • 資格者本人の力に依存する事業ほど、引継ぎが遅れるほど価値が下がりやすく、元気なうちに比べ始めることが大切です。

    よくある質問

    Q. 医師でない子が、親の診療所の開設者になることはできますか?

    医師でない人が診療所を開設するには、都道府県知事等の許可が必要とされています。実務上は、医師である第三者に診療所を引き継いでもらう、または医療法人の形で医師を管理者として迎えるなどの方法が検討されます。具体的な可否は所管の窓口で確認が必要です。

    Q. 医療法人の理事長は、医師でなければなりませんか?

    医療法では、理事長は原則として医師または歯科医師である理事から選出するとされています。ただし、都道府県知事の認可を受けた場合は、医師等でない理事から選出することもできます。認可の基準は個別に確認が必要です。

    Q. 税理士の親が亡くなった場合、顧問先はどうなりますか?

    税理士の登録は死亡により抹消され、顧問契約は一般に委任の性質を持つため、当事者の死亡で終了するのが原則です。顧問先は別の税理士を探すことになるため、親が元気なうちに後継の税理士を顧問先に紹介し、段階的に引き継いでおくことが大切です。

    Q. 診療所の土地を家族が相続した場合、小規模宅地等の特例は使えますか?

    親が自ら診療所として使っていた土地は、親族が事業を引き継ぎ申告期限まで営むことなどが特定事業用宅地等の要件になるため、資格を持たない子が相続する場合は適用が難しくなります。生前から第三者に貸していた場合は貸付事業用宅地等として検討の対象になりますが、貸付けの開始時期などの要件があるため、個別の確認が必要です。

    Q. 子が将来、医師になるかもしれない場合はどうすればよいですか?

    外部の医師に一定期間院長を務めてもらい、将来の承継につなぐ方法があります。その場合は、院長の処遇や期間、将来の引継ぎ方を事前に書面で決めておくことが重要です。子の進路が変わる可能性も踏まえ、第三者への承継など別の選択肢も並行して検討しておくと安心です。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 個人事業の継続と承継:個人事業を長く続け、次世代へ引き継ぐための準備として、事業資金・民事信託(いわゆる家族信託)・遺言・契約・金融機関対応を確認します。
    • M&A:会社売却の方針・取引条件・税引後の受取額・売却後の資産管理を検討します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『Q&A各種法人の事業承継の実務 ―社団・財団法人、NPO法人、医療法人、社会福祉法人、学校法人、宗教法人―』東京弁護士会親和全期会 編、新日本法規出版(2020年)、P.89-111、P.124

    その他参考資料

    • 株式会社帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月21日発表)
      確認日:2026-10-17
  • 共有名義の不動産を解消する方法|持分の買取り・現物分割・売却・共有物分割請求を比べる

    共有名義の不動産を解消する方法|持分の買取り・現物分割・売却・共有物分割請求を比べる

    相続のときに「ひとまず公平に」と兄弟で共有にした土地や建物が、年月を経て扱いにくい財産になっている。共有名義の不動産について、そうした相談は少なくありません。共有者の一人が亡くなって持分がさらに細かく分かれたり、連絡が取れない共有者が出てきたりすると、売ることも建て替えることも難しくなります。

    結論から言えば、共有の解消方法は、①話し合いで持分を一人に集める(買取り・贈与)、②土地を持分に応じて分ける(現物分割)、③全体を売って代金を分ける(換価)、④他の共有不動産と持分を交換する、⑤話し合いがまとまらない場合に裁判所の手続きを使う、の5つに整理できます。方法によって税金のかかり方も大きく異なります。

    この記事では、既に共有になっている不動産を対象に、それぞれの方法の特徴と課税関係を比べ、もめずに進めるための順番を解説します。

    共有のままでは何が困るのか

    民法では、共有物の扱いについて次のようなルールが定められています。

    • 変更:形状や効用の著しい変更を伴う変更(建替えや大規模な改造など)には、共有者全員の同意が必要です(民法251条)。
    • 管理:管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決めます。建物の賃貸借は3年、土地は5年を超えない短期のものであれば、管理として過半数で決められます(民法252条)。
    • 保存:建物の小修繕などの保存行為は、各共有者が単独で行えます。

    裏を返すと、長期の賃貸や建替え、全体の売却といった重要な判断には、全員の合意が必要になるということです。共有者の年齢が上がり、相続でさらに共有者が増えるほど、合意は難しくなります。共有の問題は、時間が経つほど解決のコストが上がる問題です。

    最初に確認したいこと:その共有は「遺産分割前」か

    共有の解消を考える前に、その不動産がどのような共有なのかを確認しておく必要があります。

    • 遺産分割前の共有(遺産共有):相続が発生したものの、遺産分割協議がまだ終わっていない状態です。原則として、遺産分割の手続きで誰が取得するかを決めることになり、共有物分割の手続きは使えません。ただし、相続開始から10年を経過したときは、一定の場合に共有物分割の手続きで扱えるようになりました(民法258条の2)。
    • 通常の共有:遺産分割で共有と決めた場合や、共同で購入した場合などです。この記事で扱う解消方法の多くは、こちらを前提としています。

    遺産分割前であれば、まずは遺産分割の中で、不動産を一人が取得して他の相続人に代償金を支払う方法(代償分割)や、売却して代金を分ける方法を検討するのが一般的です。共有にするかどうかを決める段階こそが、最も選択肢の多いタイミングです。

    共有を解消する5つの方法

    1. 持分の買取り・贈与で一人に集める

    他の共有者の持分を買い取る、または贈与を受けて、一人の単独所有にする方法です。共有者の一人が住んでいる自宅や、事業に使っている土地などで選ばれやすい方法です。

    • 売った共有者には、持分の譲渡益に対して譲渡所得の課税が生じます。
    • 親族間で時価より著しく低い価額で売買すると、買った側に、時価との差額について贈与税が課税されることがあります(相続税法7条)。
    • 贈与で集める場合は、受け取った側に贈与税がかかります。

    価格の決め方が最も話し合いの焦点になります。不動産会社の査定や不動産鑑定士の評価など、第三者が見ても合理的な根拠を用意することが、もめないための近道です。

    2. 土地を持分に応じて分ける(現物分割)

    一筆の土地を分筆し、それぞれが単独で所有する土地に分ける方法です。

    国税庁の通達では、共有している土地について、その持分に応じた現物分割があったときは、その分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱うとされています(所得税基本通達33-1の7)。分割後の面積の比と持分割合が一致しなくても、分割後のそれぞれの土地の価額の比が持分割合におおむね等しければ、持分に応じた現物分割に該当するとされています。

    ただし、分割後の土地が狭くなりすぎたり、道路に接しない部分ができたりすると、価値が大きく下がります。建物が建っている場合や、マンションのような区分所有建物では、現物分割は現実的でないことが多いでしょう。

    3. 全体を売って代金を分ける(換価)

    共有者全員で不動産全体を売却し、代金を持分に応じて分ける方法です。

    • 共有者それぞれに、持分に応じた譲渡所得の課税が生じます。所有期間が売った年の1月1日現在で5年を超えるかどうかで、長期・短期の税率が分かれます(国税庁 No.3208・No.3211)。
    • 自宅として住んでいた共有者には、居住用財産の特例が使える場合がありますが、要件は共有者ごとに確認する必要があります。

    全体を売ると市場で最も高い価格が付きやすく、公平感も得やすい方法です。一方で、共有者のうち一人でも売却に反対すると実行できません。

    4. 持分を交換して単独所有にする

    兄弟でA土地とB土地をそれぞれ2分の1ずつ共有しているような場合、A土地の持分とB土地の持分を交換して、それぞれが単独で所有する形にする方法です。

    土地と土地のように同じ種類の資産の交換で、互いに1年以上所有していること、交換後も交換前と同じ用途に使うこと、価額の差が高い方の20%以内であることなどの要件を満たせば、固定資産の交換の特例により譲渡がなかったものとされます(国税庁 No.3502)。交換差金を受け取った場合は、その部分に課税があります。

    5. 話し合いがまとまらない場合:裁判所の手続き

    共有者の間で協議が調わないとき、または協議ができないときは、裁判所に共有物の分割を請求できます(民法258条)。裁判所は、次のいずれかの方法で分割を命じます。

    • 現物を分割する方法
    • ある共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分を取得させる方法(いわゆる賠償分割)
    • これらの方法で分割できない場合や、分割で価格が著しく減少するおそれがある場合は、競売

    各共有者はいつでも分割を請求できますが、5年を超えない期間で分割しない旨の契約をすることもできます(民法256条)。

    また、令和5年4月1日施行の民法改正により、所在等不明共有者(他の共有者を知ることができない、またはその所在を知ることができない場合)がいるときは、裁判所の手続きを経て、その持分を取得したり、第三者に譲渡する権限を得たりできる制度が設けられました(民法262条の2・262条の3)。取得した共有者は、時価相当額を支払う必要があります。

    方法ごとの比較

    方法合意の要否主な税金向いている状況
    持分の買取り当事者の合意売主に譲渡所得。低額なら買主に贈与税一人が住む・使う不動産
    持分の贈与当事者の合意受贈者に贈与税親子間など、対価なしで集めたい場合
    現物分割全員の合意持分に応じた分割なら譲渡なしの扱い広い更地で、分けても価値が保てる土地
    全体の売却全員の合意各共有者に譲渡所得誰も使う予定がない不動産
    持分の交換当事者の合意要件を満たせば交換の特例複数の共有不動産がある場合
    共有物分割請求不要(裁判所が判断)分割の方法に応じて課税話し合いが成立しない場合

    (民法・国税庁の資料を基にAEGISが整理。税金は主なもので、個別の状況により異なります)

    もめずに進めるための順番

    1. 登記と持分の現状を確認する:登記事項証明書で共有者と持分を確認します。亡くなった共有者がいれば、その相続人を把握します。
    2. 各共有者の希望を聞く:住み続けたい、現金化したい、持ち続けたいなど、希望は人によって異なります。
    3. 不動産の価値と使い道を把握する:査定や評価、賃貸に出した場合の収益などを確認します。
    4. 方法ごとの税引後の手取りを試算する:同じ価格でも、方法によって各人の手取りが変わります。
    5. 合意した内容を書面にし、登記まで完了させる:口約束のまま放置すると、次の相続で再び共有の問題が生じます。

    実務上注意したいポイント

    • 持分だけを第三者に売ることもできるが、価格は下がりやすい:持分のみの売却は可能ですが、買い手は共有関係ごと引き受けるため、一般に価格は全体売却の按分額より低くなりがちです。
    • 相続税評価と時価を混同しない:共有の土地の相続税評価は、全体の評価額を持分で按分して求めます。親族間の売買価格をその評価額で決めると、時価との差が贈与と見られる可能性があります。
    • 共有者の判断能力にも目を向ける:共有者が高齢で判断能力が低下すると、売却や分割の手続きが進められなくなることがあります。

    AEGISの視点

    共有は、相続の時点では「公平」に見える分け方です。しかし実際には、決定を将来に先送りする仕組みになっていることが少なくありません。共有者が増え、世代が替わるほど、一人ひとりの持分は小さくなり、合意のハードルは上がっていきます。

    AEGISは、共有の解消を検討するとき、法的な手段や税金の比較だけでなく、「その不動産を誰が、どう使い、どう次の世代に渡すのか」から考えることを大切にしています。例えば、一人が不動産を引き継ぐ代わりに他の共有者に金融資産を渡す、売却して得た資金をそれぞれの生活設計に生かす、といった形で、不動産以外の財産と組み合わせると解決の幅が広がります。

    これから共有になりそうな不動産をお持ちの場合は、遺言や民事信託(いわゆる家族信託)で、共有を避ける形をあらかじめ設計しておくことも選択肢です。

    相続前の段階で共有を避ける考え方は関連記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で、不動産の判断の全体像は「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    相続した実家を兄弟で共有している場合は「相続した実家が空き家になったときの選択肢」、不動産と金融資産を組み合わせて分ける考え方は「自社株・不動産・金融資産を組み合わせた承継」もあわせてご覧ください。

    共有不動産の評価や譲渡の税務については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 共有不動産は、長期の賃貸、建替え、全体の売却などに共有者全員の合意が必要になり、時間が経つほど解消が難しくなります。
    • 解消方法は、持分の買取り・贈与、現物分割、全体の売却、持分の交換、裁判所での共有物分割請求に整理できます。
    • 持分に応じた土地の現物分割は、所得税では譲渡がなかったものとして扱われます。持分の売買や全体の売却では譲渡所得が、低額譲渡や贈与では贈与税が問題になります。
    • 所在等不明共有者がいる場合には、裁判所の手続きで持分を取得する制度があります。
    • 具体的な方法と課税関係は、不動産の状況と共有者の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 共有者の一人が売却に反対しています。他の共有者だけで売ることはできますか?

    不動産全体の売却には、共有者全員の同意が必要です。反対している共有者がいる場合は、自分の持分だけを売る、反対している共有者に持分を買い取ってもらう、または裁判所に共有物分割を請求するといった方法を検討することになります。

    Q. 兄弟に持分を安く売った場合、税金の問題はありますか?

    時価より著しく低い価額で売買すると、買った側に時価との差額について贈与税が課税されることがあります。また、売った側は、受け取った代金を基に譲渡所得を計算します。親族間の売買では、価格の根拠を残しておくことが大切です。

    Q. 土地を分筆して分けると、税金はかかりませんか?

    持分に応じた現物分割であれば、所得税では譲渡がなかったものとして取り扱われます。ただし、分割後の土地の価額の比が持分割合とおおむね等しいことが前提です。差がある場合は、その部分について贈与や譲渡の問題が生じる可能性があります。分筆や登記の費用は別途かかります。

    Q. 共有者の一人と連絡が取れません。どうすればよいですか?

    まず戸籍や住民票などで所在を調べます。それでも他の共有者を知ることができない、または所在が分からない場合は、令和5年4月1日施行の民法改正で設けられた制度により、裁判所の手続きを経てその持分を取得する、または譲渡する権限を得ることが考えられます。持分を取得した共有者は、時価相当額を支払う必要があります。

    Q. 相続で共有になりそうな不動産があります。今からできることはありますか?

    遺言で取得する人を決めておく、生前に売却や組換えをして分けやすい財産にしておく、民事信託(いわゆる家族信託)で管理の権限を一人に集めておく、といった方法があります。どの方法が合うかは、不動産の性質と家族の状況によって異なります。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 不動産の最適活用:立地・敷地・建物・周辺需要・投資負担から、賃貸・売却・組換え・事業活用を比較します。
    • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『実務家のための「基本書&ハンドブック」 要点 譲渡所得【第一編 総説・不動産譲渡の特例等関係】(第4版)』塩野入文雄 著、法令出版、2020年、P.95、P.279-280
    • 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、大蔵財務協会、2024年、P.12
  • 相続した実家が空き家になったときの選択肢|売る・貸す・残すと空き家の3,000万円特別控除

    相続した実家が空き家になったときの選択肢|売る・貸す・残すと空き家の3,000万円特別控除

    親が亡くなり、誰も住まなくなった実家をどうするか。多くの家族にとって、これは相続手続きの中でも最も判断を先送りしやすいテーマです。思い出のある家を手放すことへのためらいもあれば、兄弟姉妹の意見がそろわないこともあります。

    ただし、空き家の問題は「時間が経つほど選択肢が減る」性質を持っています。結論から言えば、相続した実家については、相続開始からおおむね3年以内に「売る・貸す・残す」の方向性を決めることが重要です。売却する場合に使える「空き家の3,000万円特別控除」には期限と細かな要件があり、空き家のまま放置すれば固定資産税の負担が増えるおそれもあるからです。

    この記事では、親の自宅に絞って、3つの選択肢の比べ方と、特例の要件、保有を続ける場合の注意点を整理します。

    実家が空き家になると、何が起きるのか

    まず、空き家になった実家を相続した人が向き合うことを確認しておきます。

    • 維持費がかかり続ける:固定資産税・都市計画税、火災保険料、水道光熱の基本料金、庭木の手入れや草刈り、定期的な換気や点検の費用がかかります。遠方であれば交通費や時間も負担になります。
    • 管理の責任を負う:建物が傷んで瓦や外壁が落ちたり、雑草や害虫が近隣に迷惑をかけたりすれば、所有者として責任を問われることがあります。
    • 登記の義務がある:令和6年4月1日から相続登記が義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になり得ます(法務省)。
    • 分け方が決まらないと動けない:遺産分割が終わらないまま相続人全員の共有状態が続くと、売るにも貸すにも全員の合意が必要になります。

    空き家は、持っているだけで「費用」と「責任」が発生する財産です。この前提を家族で共有することが、話し合いの出発点になります。

    3つの選択肢を比べる

    相続した実家の行き先は、大きく「売る」「貸す」「残す(自分たちで使う・そのまま持つ)」の3つです。それぞれの特徴をAEGISの視点で整理すると、次のようになります。

    選択肢向いている状況主なメリット主な注意点
    売る誰も住む予定がない、遠方で管理が難しい、相続人で分けたい管理負担がなくなる。代金を分けやすい。要件を満たせば空き家の3,000万円特別控除を使える期限内に動く必要がある。建物の状態や立地によっては買い手が付きにくい
    貸す賃貸需要がある立地、建物の状態が良い、将来使う可能性がある家賃収入で維持費をまかなえる可能性がある。資産を手元に残せる修繕・設備更新の初期投資が必要。貸すと空き家の特例は使えなくなる。賃貸経営の手間と責任
    残す相続人が住む予定がある、当面は判断を保留したい思い出の家を残せる。将来の選択肢を残せる空き家のままでは維持費と管理責任が続く。放置すると住宅用地特例が外れるおそれ

    どれが正解かは、立地、建物の状態、相続人の住まいや生活設計によって変わります。ただし、「売る」を選ぶ可能性が少しでもあるなら、特例の期限を意識して早めに検討を始めることが大切です。

    「売る」場合:空き家の3,000万円特別控除

    特例の概要

    相続した実家を売って利益(譲渡所得)が出た場合、一定の要件を満たすと、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。正式には「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といい、空き家の発生を抑える目的で設けられた制度です(国税庁 No.3306、国土交通省)。

    この特例は、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡が対象です。なお、令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続した相続人が3人以上いる場合は、控除額は1人あたり2,000万円までとなります(国税庁 No.3306)。

    主な要件

    国税庁の説明をもとに、主な要件をAEGISが整理すると次のとおりです。

    区分主な要件
    家屋昭和56年5月31日以前に建築されたこと。区分所有建物の登記がされている建物(マンションなど)でないこと。相続開始の直前に被相続人以外に住んでいた人がいないこと
    相続後の使い方相続の時から売却の時まで、事業・貸付け・居住の用に使われていないこと
    売却の時期相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
    売却の方法家屋を耐震基準に適合させて売る、家屋を取り壊して敷地を売る、または(令和6年1月1日以後の譲渡で)売却後、翌年2月15日までに買主が耐震改修や取壊しを行う
    売却代金1億円以下であること
    その他親子や夫婦など特別な関係のある人への売却でないこと。同じ被相続人から相続した家屋等について既にこの特例を受けていないこと。相続財産の取得費加算の特例など他の特例を受けていないこと

    被相続人が老人ホーム等に入所していた場合でも、要介護認定を受けていたなど一定の要件を満たせば対象になり得ます。また、申告の際には、家屋が所在する市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を受けて添付する必要があります(国税庁 No.3306、国土交通省)。

    見落とされやすい3つの点

    1. 「貸した時点」で使えなくなる:相続後に一時的に貸したり、相続人が住んだりすると、要件を満たさなくなります。「とりあえず貸して様子を見る」は、特例を手放す判断になり得ます。
    2. 1億円の判定は相続人全体で見る:実家を兄弟で共有で相続し、別々に売る場合でも、1億円以下かどうかは各人の持分だけでなく、他の相続人の売却分も合わせて判定する仕組みになっています。
    3. 相続税の取得費加算の特例とはどちらか一方:相続税を納めた人が、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに相続財産を売ると、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例があります(国税庁 No.3267)。空き家の特例と併用はできないため、どちらが有利かを試算して選ぶ必要があります。

    「貸す」場合:収入と引き換えに引き受けるもの

    実家を貸すと、家賃収入は不動産所得として確定申告の対象になります。固定資産税や修繕費、減価償却費などを必要経費にできる一方、古い住宅を貸すには、水回りや設備の更新、耐震性の確認などに初期投資が必要になることが少なくありません。

    また、前述のとおり、貸した実家は空き家の特例の対象外になります。将来売る可能性があるなら、「数年貸してから売る」場合と「今売る」場合とで、税引後の手取りを比べてから判断することが大切です。貸すことは、資産を残す選択であると同時に、賃貸経営という事業を始める選択でもあります。

    「残す」場合:管理の負担と固定資産税

    住宅用地特例が外れるリスク

    住宅が建っている土地には、固定資産税の課税標準を軽減する「住宅用地特例」があり、住宅1戸あたり200㎡以下の部分(小規模住宅用地)では6分の1、それを超える部分(一般住宅用地)では3分の1に軽減されています(地方税法349条の3の2)。ところが、令和5年の空家等対策特別措置法の改正(令和5年12月13日施行)により、適切に管理されていない「管理不全空家」についても、市区町村長から勧告を受けると、その敷地は住宅用地特例の対象から外れることになりました。従来から、倒壊のおそれがあるなどの「特定空家」は勧告により特例が外れる仕組みでした(国土交通省)。

    市区町村の対応は、一般に指導、勧告、命令と段階的に進みます。特例が外れると、土地の固定資産税が大きく増える可能性があります。

    「残す」なら管理の体制を決める

    実家を残すと決めた場合は、次の点を家族で決めておくことが現実的です。

    • 誰が名義人となり、誰が管理の窓口になるか
    • 維持費を誰がどの割合で負担するか
    • 点検・清掃の頻度と、管理を外部に委託するかどうか
    • いつ、どのような状態になったら、売却や賃貸を改めて検討するか

    「残す」は判断の保留ではなく、管理を続けるという意思決定です。期限と見直しの条件を決めておくと、何年も放置される事態を防ぎやすくなります。

    判断の順番:相続開始から3年をどう使うか

    空き家の特例の期限から逆算すると、相続開始後の動き方は次のように整理できます。

    時期の目安主に行うこと
    相続開始〜数か月家財の整理、建物の状態と建築時期の確認、相続人の意向の確認
    〜10か月遺産分割の方向性、相続税申告(必要な場合)、誰が実家を取得するかの決定
    〜1年半売却価格の査定、賃貸需要の確認、空き家特例と取得費加算の比較試算
    〜3年目の年末売却する場合は特例の期限内に契約・引渡し、確認書の取得

    遺産分割で「誰が実家を取得するか」を決める段階で、売却の方針まで話し合っておくと、取得のしかた(単独で取得するか、共有で取得するか、売却代金を分けるか)も決めやすくなります。

    実務上注意したいポイント

    • 建築時期を最初に確認する:昭和56年6月1日以後に建築された家屋は、空き家の特例の対象外です。登記事項証明書や建築確認の書類で確認します。
    • 家財の処分も期限に含めて考える:家財の整理には想像以上に時間がかかります。特例の期限から逆算して着手時期を決めます。
    • 共有にするなら出口まで決める:兄弟で共有のまま保有すると、後の売却や管理で合意形成が難しくなりがちです。
    • 特例ありきで判断しない:特例が使えるかどうかは重要ですが、それだけで売却時期を決めると、価格や家族の合意を後回しにしてしまうことがあります。

    AEGISの視点

    相続した実家の問題は、税金の問題である前に、家族の時間と気持ちの整理の問題です。親の暮らした家を手放すことに、すぐに答えを出せないのは自然なことです。

    そのうえでAEGISは、実家を「家族の思い出」と「維持費と責任を伴う資産」の両面から見ることをおすすめしています。売る・貸す・残すのそれぞれについて、税引後の手取り、毎年の維持費、管理の手間、家族の合意のしやすさを一つの表に並べると、感情だけでも数字だけでもない判断がしやすくなります。

    また、実家の行き先は、相続全体の財産の分け方とも結びついています。実家を取得する人と金融資産を取得する人のバランス、相続税の納税資金、将来の二次相続まで含めて考えることで、家族にとって納得感のある結論に近づきます。

    相続全体の確認事項は関連記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で、不動産の判断の全体像は「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    土地として活用や売却を比べる考え方は「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」、兄弟で共有になった場合の整理の方法は「共有名義の不動産を解消する方法」で扱っています。

    相続した不動産の税務や評価については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続した実家は、相続開始からおおむね3年以内に「売る・貸す・残す」の方向性を決めることが重要です。
    • 空き家の3,000万円特別控除は、令和9年12月31日までの譲渡が対象で、昭和56年5月31日以前の建築、相続後に貸したり住んだりしていないこと、売却代金1億円以下などの要件があります。相続人が3人以上の場合は1人2,000万円までです。
    • 相続税の取得費加算の特例とは併用できないため、比較して選びます。
    • 空き家のまま管理が不十分だと、勧告により固定資産税の住宅用地特例が外れるおそれがあります。
    • 具体的な特例の適用可否は、建物・相続人・売却条件などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 実家を相続しましたが、まだ相続登記をしていません。それでも売却できますか?

    売却するには、原則として相続登記を済ませ、相続人の名義にしてから買主に移転登記をする必要があります。また、令和6年4月1日から相続登記は義務化されており、取得を知った日から3年以内の申請が求められます。売却の予定があるかどうかにかかわらず、早めに手続きを進めることが望まれます。

    Q. マンションの実家でも空き家の3,000万円特別控除は使えますか?

    区分所有建物の登記がされている建物(一般的な分譲マンション)は、この特例の対象外とされています。マンションの場合は、相続税の取得費加算の特例など、他の制度が使えるかどうかを確認することになります。

    Q. 相続後に1年だけ親族が住んでいました。特例は使えますか?

    この特例には、相続の時から売却の時まで事業・貸付け・居住の用に使われていないことという要件があります。相続後に誰かが住んでいた場合は、原則として要件を満たさないことになります。具体的な事情によって判断が分かれる場合もあるため、売却前に確認することが大切です。

    Q. 建物を取り壊して更地で売るのと、建物付きで売るのはどちらがよいですか?

    更地にすると買い手の幅が広がることがある一方、解体費用がかかり、取壊し後は住宅用地特例が適用されなくなる点にも注意が必要です。令和6年1月1日以後の譲渡では、売却後に買主が翌年2月15日までに取壊しや耐震改修を行う場合も特例の対象になり得るため、売り方の選択肢は以前より広がっています。

    Q. 兄弟3人で実家を相続しました。控除額はどうなりますか?

    令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続した相続人が3人以上いる場合、控除額は1人あたり2,000万円までとされています。あわせて、売却代金1億円以下の要件は、各人の持分ではなく相続人全体の売却分を合わせて判定する点にも注意が必要です。

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    参考資料・出典

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    • 『実務家のための「基本書&ハンドブック」 要点 譲渡所得【第一編 総説・不動産譲渡の特例等関係】(第4版)』塩野入文雄 著、法令出版、2020年、P.269-286
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    不動産の購入・保有・売却を一体で考える|所有形態・収益・承継までつなぐ判断の順番

    不動産を買うときは不動産会社や金融機関、持っている間は管理会社、確定申告は税理士、相続のときは司法書士や税理士——。不動産に関わる判断は、場面ごとに相談先が分かれるのが普通です。それぞれの専門家は自分の担当範囲では最善を尽くしますが、その結果として、購入時の判断が売却や相続の段階で足かせになることが少なくありません。

    結論から言えば、不動産は購入する時点で「誰が、何のために、いつまで持ち、どのように手放すか(または引き継ぐか)」を仮置きしておくことが、最も確実な備えになります。この記事では、不動産の「購入 → 保有 → 売却・承継」を一つの流れとして捉え、各段階で何を確認すべきかを整理します。

    なぜ不動産の判断は分断されやすいのか

    不動産は、金額が大きく、保有期間が長く、関わる制度が多い資産です。一つの物件をめぐって、次のような異なる「ものさし」が同時に存在します。

    • 市場の価格:実際に売買が成立する価格
    • 収益の価値:賃料などから生まれる収益力
    • 税務上の評価:相続税・贈与税や固定資産税を計算するための評価額
    • 金融機関の評価:融資の担保としての評価

    これらは目的が違うため、同じ不動産でも数字が一致しません。購入時には市場価格と収益だけを見て判断し、相続のときに初めて税務上の評価や納税資金の問題に気づく——こうした「時間差」が、判断の分断を生みます。

    さらに、不動産の判断には家族が関わります。購入時は本人の判断だけで決められても、相続後は複数の相続人の合意が必要になることがあります。時間の経過とともに、意思決定に関わる人が増えていくのも不動産の特徴です。

    不動産の一生を3つの局面で整理する

    AEGISでは、不動産に関わる判断を次の3つの局面に分け、それぞれの局面が次の局面にどうつながるかを意識することをおすすめしています。

    局面主な判断お金・税務の論点次の局面へのつながり
    購入目的、物件、所有する人(名義)、資金計画取得費用、借入れ、取得費の記録名義と持分が、保有中の収益の帰属と将来の相続財産を決める
    保有収益の管理、修繕、借入れの返済、評価の把握不動産所得、手元資金、相続税評価収益の蓄積先と評価額が、売却・承継の選択肢を左右する
    売却・承継売るか、持ち続けるか、誰に引き継ぐか譲渡所得、相続税、納税資金次の世代の「購入」の出発点になる

    この表のポイントは、右端の列です。各局面の判断は、その場で完結せず、必ず次の局面の前提条件になります。

    購入時に決めておきたいこと

    目的を言葉にする

    不動産を買う目的は、自宅、賃貸収入、事業用、資産の保全、将来の承継などさまざまです。目的によって、重視すべき指標も保有期間も変わります。たとえば賃貸収入が目的なら、実際に手元に残る資金(キャッシュフロー)が中心になり、事業用であれば事業との一体性が重要になります。

    目的が曖昧なまま購入すると、保有中や売却時に「何を基準に判断するか」が定まりません。

    誰の名義で持つかを決める

    購入時の最も重要な判断の一つが、所有する人(所有主体)です。

    • 個人で単独所有する
    • 夫婦や親子で共有する
    • 法人(資産管理会社や事業会社)が所有する

    名義は、賃料などの収益が誰に帰属するか、どの税金がかかるか、そして将来の相続で何が相続財産になるかを決めます。個人で持てば不動産そのものが相続財産になり、法人で持てば相続財産になるのはその法人の株式です。

    一度決めた名義を後から変えるには、売買や贈与などの手続きが必要になり、その時点で税金や費用が生じることがあります。個人と法人のどちらで持つかの比較は、関連記事「不動産は個人と法人のどちらで保有するか」で詳しく解説しています。

    出口を仮置きする

    購入時点で、将来の出口を仮に決めておきます。「10年程度で売却する」「子に引き継ぐ」「建替えを前提に長期保有する」などです。出口が仮置きされていれば、借入れの期間や修繕の方針、名義の選び方にも一貫性が生まれます。

    購入時の記録を残す

    売却時の税金(譲渡所得)は、売却価格から取得費や譲渡費用を差し引いて計算します。購入時の契約書や費用の領収書は、売却や相続のずっと後になって必要になる書類です。保有期間が長くなるほど、記録の散逸が問題になります。

    保有中に見ておきたいこと

    収益と手元資金は別物として管理する

    賃貸不動産では、帳簿上の利益と手元に残る資金は一致しません。借入金の元本返済は経費にならない一方で、建物の減価償却費は資金の支出を伴わない経費です。返済が進み、減価償却が少なくなる時期には、利益は出ているのに手元資金が減るということも起こります。

    保有中は、少なくとも次の点を定期的に確認しておきたいところです。

    • 空室率や賃料の推移
    • 修繕・設備更新の見込みと、その資金
    • 借入れの残高と返済計画
    • 税引き後に手元に残る資金

    相続税評価を把握しておく

    相続税や贈与税では、財産は取得の時の時価で評価するのが原則とされ(相続税法第22条)、国税庁は財産評価基本通達で具体的な評価方法を定めています。不動産の場合の基本は次のとおりです(国税庁 タックスアンサーNo.4602)。

    • 土地(宅地):路線価が定められている地域は路線価方式、それ以外の地域は固定資産税評価額に一定の倍率を乗じる倍率方式で評価
    • 建物(家屋):固定資産税評価額に1.0を乗じて評価(つまり固定資産税評価額と同じ)

    さらに、アパートなどを建てて貸している土地(貸家建付地)は、自用地としての価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を用いて計算した金額を差し引いて評価します(国税庁 No.4614)。同じ土地でも、使い方によって評価額が変わるということです。

    相続税評価額と実際に売れる価格がなぜ違うのかは、関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格の違い」で解説しています。

    定期的に「持ち続ける理由」を確認する

    保有中は、物件の状態や周辺の環境、家族の状況が少しずつ変わります。年に一度、決算や確定申告の時期などに、「この不動産を持ち続ける理由は今も有効か」を確認することをおすすめします。持ち続ける理由が弱くなった不動産は、売却や組替えの候補になります。

    売却を考えるときに確認したいこと

    譲渡所得の基本

    個人が土地や建物を売却したときの所得(譲渡所得)は、他の所得と分けて税額を計算する分離課税です。売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるものは長期譲渡所得、5年以下のものは短期譲渡所得に区分されます(国税庁 No.3202)。

    区分所有期間(売却した年の1月1日時点)税率(国税庁による)
    長期譲渡所得5年超所得税15%、住民税5%
    短期譲渡所得5年以下所得税30%、住民税9%

    ※このほか復興特別所得税がかかります。居住用財産の特例など、要件を満たす場合に適用できる特例もあります(国税庁 No.3208、No.3211)。

    所有期間の判定が「売却した日」ではなく「売却した年の1月1日」を基準にする点は、売却時期を考えるうえで見落としやすいポイントです。

    相続した不動産を売る場合

    相続した不動産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却した場合、一定の相続税額を取得費に加算できる特例があります(国税庁 No.3267)。相続税の納税資金のために不動産の売却を考える場合には、この期間を意識しておく必要があります。

    売る・持つ・組み替えるを比べる

    売却を検討するときは、「売った場合の手取り額」だけでなく、「持ち続けた場合に将来得られる収益と、相続時の評価・納税」もあわせて比べることが大切です。売却で得た資金を別の資産に組み替えれば、相続財産の構成も変わります。

    承継を見据えて確認したいこと

    不動産オーナーにとって、相続は避けて通れない局面です。相続が発生すると、次のような論点が一度に表面化します。

    • 期限:相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。
    • 評価:土地と建物の評価、貸している場合の減額、小規模宅地等の特例を適用できるかどうか。
    • 分割:誰がどの不動産を取得するか。分割が決まらないと、特例が使えない期間が生じることがあります。
    • 納税資金:不動産が財産の多くを占める場合、現金での納付が難しくなることがあります。
    • 登記:相続登記の申請は、令和6年4月1日から義務化されています(法務省)。

    相続前に何を確認しておくべきかは、関連記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で詳しく整理しています。

    実務上注意したいポイント

    税金を理由に買わない

    相続税評価額が市場価格より低くなることを理由に不動産を購入する考え方があります。しかし、税務上の評価だけを基準にすると、収益性や売却のしやすさ、修繕負担といった本来の判断軸が後回しになります。また、評価の方法自体が見直されることもあります。たとえば居住用の分譲マンションについては、令和6年1月1日以後の相続等から新しい評価方法が適用されています(国税庁 No.4667)。

    共有は「先送り」になりやすい

    相続で不動産を共有にすると、その時点では公平に見えても、売却や建替えなどの判断に複数の共有者の合意が必要になります。さらに次の相続で共有者が増えると、意思決定はより難しくなります。共有を選ぶ場合は、将来の出口まで共有者の間で話し合っておくことが大切です。

    書類と情報を一か所にまとめる

    契約書、登記事項証明書、固定資産税の課税明細書、賃貸借契約書、借入れの資料、修繕の履歴。これらが一か所にまとまっているだけで、売却や相続の局面での判断の速さと正確さが大きく変わります。

    AEGISの視点

    不動産の相談は、「この物件を買うべきか」「いつ売るべきか」「相続税はいくらか」といった個別の問いとして持ち込まれることがほとんどです。しかしAEGISは、不動産を「所有の形を設計する対象」として捉えています。

    同じ不動産でも、誰が、どのような形で持つかによって、収益の行き先、税負担、管理のしやすさ、次の世代への引き継ぎ方が大きく変わります。個人で持つのか、法人で持つのか、家族の誰が関与するのか——その選択は、税務だけでなく、収益・管理・承継のすべてに影響します。AEGISでは、所有形態を税務だけでなく収益・管理・承継まで含めて設計する考え方を「Property Ownership Design(不動産所有設計)」と呼び、不動産の判断を事業や金融資産を含めた財産全体の中に位置付けることを重視しています。

    税金は、オーナーが決めた方針を実現するための手段の一つです。まず「この不動産で何を実現したいのか」を言葉にし、その上で所有形態や売却・承継の時期を組み立てる。この順番を守ることが、長い保有期間を通じて判断をぶらさない最良の方法だと考えています。

    不動産は、個人で持つか法人で持つか、土地と建物を同じ人が持つか分けて持つか、地代をどう設定するかといった保有形態によって、毎年のキャッシュフローも相続のときの評価も大きく変わります。そのため、持ち方の検証は購入時はもちろん、取得後も収入や家族の状況、制度の変化に合わせて行い、必要に応じて見直すことが大切です。すでに保有している不動産の持ち方を変えると、登録免許税や不動産取得税といった流通税、譲渡する側の所得税、建物の譲渡にかかる消費税などの移転コストが生じます。それでも将来にわたるメリットが移転コストを上回るなら、移転も検討に値します。一方、取得時に持ち方を決めておけばこうした移転コストをかけずに済むため、取得時の検証は特に重要です。AEGISでは、この持ち方の比較を物件の購入前から行い、取得後の見直しまで見通すサービスとして、POD(Property Ownership Design:不動産の持ち方の設計)を提供しています。

    不動産税務・資産税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    まとめ

    • 不動産の判断は、購入・保有・売却・承継の局面ごとに分断されやすく、購入時の判断が後の局面の前提条件になります。
    • 購入時には、目的、所有する人(名義)、資金計画、出口の仮置き、記録の保存を意識することが大切です。
    • 保有中は、収益と手元資金を分けて管理し、相続税評価(路線価方式・倍率方式、建物は固定資産税評価額)を把握しておきます。
    • 個人の譲渡所得は、売却した年の1月1日時点で所有期間5年超かどうかで長期・短期に分かれ、税率が異なります。
    • 相続では、10か月の申告期限、評価、分割、納税資金、相続登記の義務化が一度に論点になります。
    • 具体的な判断は、物件の内容や家族構成などの個別事情によって異なります。
    • 保有形態によってキャッシュフローと相続税評価は大きく変わるため、取得時はもちろん取得後も持ち方を点検し、移転コストを踏まえてもメリットが大きい場合は見直しを検討します。

    よくある質問

    Q. 不動産を買う前に、何を一番に決めるべきですか?

    購入の目的と、誰の名義で持つかです。目的が決まれば重視すべき指標や保有期間が定まり、名義が決まれば収益の帰属や将来の相続財産が決まります。物件選びや資金計画は、この2つを前提に考えると判断がぶれにくくなります。

    Q. 相続税評価額が低い不動産を買えば、相続対策になりますか?

    評価額が市場価格より低くなるケースはありますが、それだけで判断するのは避けたほうがよいと考えます。収益性や売却のしやすさ、修繕負担、家族の意向などを含めて検討する必要があります。評価方法そのものが見直されることもあり、たとえば居住用の分譲マンションは令和6年1月1日以後の相続等から新しい評価方法が適用されています。

    Q. 不動産を売るとき、所有期間はどのように数えますか?

    個人の土地・建物の譲渡では、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで、長期譲渡所得と短期譲渡所得に区分されます。実際の売却日ではなく、その年の1月1日が基準になる点に注意が必要です。

    Q. 相続した不動産を売って相続税を払うことはできますか?

    可能です。その場合、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すれば、一定の相続税額を取得費に加算できる特例があります。ただし、相続税の納付期限は申告期限と同じく10か月以内のため、売却に時間がかかる場合の資金手当てもあわせて検討が必要です。

    Q. 購入・保有・売却を一体で考えるには、どこから始めればよいですか?

    まず、現在持っている不動産の一覧を作ることから始めるのが現実的です。物件ごとに、名義、取得時期と取得費、借入れの残高、賃料などの収益、固定資産税評価額を並べるだけでも、どの物件が収益を生み、どの物件が相続や売却の局面で論点になりそうかが見えてきます。

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    不動産には、目的に応じていくつもの「価格」があります。相続や売却の判断に関わる主なものを整理します。

    価格目的求め方・水準の目安根拠
    売却価格(取引価格)実際の売買売り手と買い手の合意で決まる。周辺の取引事例や収益力などを基に査定される個々の取引
    路線価相続税・贈与税の土地評価毎年1月1日を評価時点として、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に設定国税庁
    固定資産税評価額固定資産税などの課税宅地は地価公示価格等の7割を目途に評価。土地・家屋は3年ごとに評価替え総務省
    相続税評価額相続税・贈与税の課税土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額×1.0国税庁

    相続税の土地評価では、路線価が定められている地域では路線価に土地の形状などに応じた補正をして面積を乗じ、路線価が定められていない地域では固定資産税評価額に地域ごとの倍率を乗じて評価します。建物は固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります(国税庁 No.4602)。

    つまり、相続税評価額は、もともと市場価格より低めの水準に設定された基準(路線価や固定資産税評価額)を出発点にしているのです。

    相続税評価の原則は「時価」

    ここで一つ疑問が生まれます。相続税法では、相続や贈与で取得した財産の価額は、取得の時における時価によるとされています(相続税法第22条)。それなのに、なぜ市場価格より低い水準の評価が使われるのでしょうか。

    国税庁は、土地の時価を納税者自身が把握するのは必ずしも容易ではないことから、申告の便宜と課税の公平の観点で、毎年、路線価と評価倍率を定めて公開していると説明しています。路線価が地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途にしているのは、1年間の地価の変動なども考慮したうえでの設定です(国税庁「令和8年分の路線価等について」)。

    言い換えれば、相続税評価額は「その物件の本当の時価」をピンポイントで求めるものではなく、全国の土地を同じ基準で、安定的に評価するための仕組みです。

    評価額と売却価格に差が生まれる5つの理由

    相続税評価額と売却価格の差は、主に次の5つの理由から生まれます。

    1. 評価の水準がもともと異なる

    前述のとおり、路線価は地価公示価格等の80%程度、固定資産税評価額(宅地)は7割程度を目途に定められています。市場で地価公示価格程度の取引が成立する地域であれば、それだけで評価額と市場価格の間には一定の差があることになります。

    2. 評価の時点がずれている

    路線価は毎年1月1日が評価時点であり、固定資産税の土地・家屋の評価は3年ごとに見直され、それ以外の年度は原則として据え置かれます(総務省)。一方、売却価格は売買の時点の市場で決まります。地価が上昇・下落している局面では、この時点のずれが差を大きくします。

    3. 標準化された評価では個別性を拾いきれない

    路線価は、その道路に面する標準的な宅地を前提にした価格です。相続税評価では、奥行きや間口、形状などに応じた補正を行いますが、眺望、日当たり、周辺の人気、建物の使い勝手といった個別の魅力や欠点まですべてを反映するものではありません。人気の高い立地では売却価格が評価額を大きく上回り、反対に需要の乏しい土地では、売却価格が評価額に届かないこともあります。

    4. 建物の評価の考え方が違う

    相続税評価では、建物は固定資産税評価額で評価されます。一方、売買の現場では、建物の状態や修繕の履歴、間取り、賃貸物件であれば賃料収入などによって価格が判断されます。特に賃貸物件の売買では、物件が生み出す収益から価格を考える方法が用いられることが多く、評価額とは異なる尺度で値付けされます。

    5. 貸している不動産の評価のしかた

    アパートなど自分で建てて貸している建物の敷地(貸家建付地)は、自用地としての価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合を用いて計算した額を差し引いて評価されます(国税庁 No.4614)。相続税評価では「貸していること」が減額の要因になる一方、市場では満室で安定した賃料を生む物件は収益物件として評価され、必ずしも価格が下がるわけではありません。ここでも二つの価格は別の方向を向くことがあります。

    居住用マンションの評価の見直し(令和6年1月1日以後)

    評価額と市場価格の差が特に大きくなりやすかったのが、分譲マンションです。マンションは一室あたりの敷地の持分が小さく、建物の固定資産税評価額も市場での取引価格に比べて低くなりやすいため、相続税評価額が市場価格を大きく下回るケースが見られました。

    こうした状況を受け、国税庁は「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)を定め、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)について、新しい評価方法を適用しています(国税庁 No.4667)。

    新しい評価方法の考え方

    新しい方法では、従来の方法で求めた建物(区分所有権)と敷地(敷地利用権)の価額に、それぞれ「区分所有補正率」を乗じて評価します。区分所有補正率は、築年数、総階数、所在階、敷地持分の狭さ(敷地持分狭小度)の4つの要素から算出される「評価乖離率」と、その逆数である「評価水準」をもとに決まります。

    評価水準区分所有補正率の扱い
    0.6未満評価乖離率×0.6を乗じる(評価額が引き上げられる)
    0.6以上1以下補正なし
    1超評価乖離率を乗じる(評価額が引き下げられる)

    (国税庁 No.4667 を基にAEGISが整理)

    つまり、相続税評価額が市場価格の水準と比べて低すぎるマンションは、一定の水準まで評価額が引き上げられることになりました。

    対象にならないもの

    次のようなものは、この評価方法の対象外とされています(国税庁 No.4667)。

    • 構造上、主として居住の用途に供されていないもの
    • 区分建物の登記がされていないもの
    • 地階を除く階数が2以下のもの
    • 居住用の専有部分が3以下で、その全てを区分所有者またはその親族の居住用に供しているもの
    • 事業用のたな卸商品等に該当するもの

    この見直しは、「評価額と市場価格の差」が制度の側から是正されることがある、という事例でもあります。評価額の低さを前提に資産の組み方を決めていた場合は、制度の変更によって前提が変わり得ることを意識しておく必要があります。

    場面ごとに、どの価格を見るか

    評価額と売却価格はどちらも正しい数字ですが、使う場面が異なります。判断の場面ごとに、どの価格を中心に見るべきかを整理します。

    場面中心に見る価格理由
    相続税の申告・試算相続税評価額課税価格の計算に用いるため
    納税資金のための売却売却価格(手取り額)実際に手元に入る資金が問題になるため
    遺産分割の話し合い相続人間で合意した基準(評価額か時価か)どちらの価格を使うかで、相続人間の公平感が変わるため
    持ち続けるか売るかの判断売却価格と、持ち続けた場合の収益資産としての実質的な価値を比べるため

    特に遺産分割では、ある相続人が評価額の低い不動産を取得し、別の相続人が現金を取得すると、評価額の上では公平でも、実際の価値では不公平に感じられることがあります。分割の基準をどの価格に置くかを、話し合いの最初に確認しておくことが大切です。

    実務上注意したいポイント

    • 評価額の低さだけで不動産を選ばない:評価額が市場価格より低いことは事実でも、その不動産が収益を生み、売りたいときに売れるかどうかは別の問題です。
    • 評価額が市場価格を上回ることもある:形状や接道の条件が悪い土地や、需要の乏しい地域の土地などでは、評価額のほうが高くなることもあり得ます。その場合の取扱いは個別に検討が必要です。
    • 制度の変更を前提に点検する:マンションの評価の見直しのように、評価の方法は変わることがあります。制度が変わったときに保有不動産と承継計画の何を見直すべきかは、関連記事「不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項」で整理しています。

    AEGISの視点

    不動産の価格の話になると、「評価額を下げれば相続税が下がる」という一点に関心が集まりがちです。しかしAEGISは、評価額と売却価格の差を、「相続税の計算上の価値」と「家族にとっての実質的な価値」のずれとして捉えることが大切だと考えています。

    相続税の計算上は有利な不動産でも、売れにくく、収益も乏しく、相続人の誰も使わないのであれば、家族にとっての実質的な価値は小さいかもしれません。反対に、評価額はそれなりに高くても、安定した収益を生み、いつでも売却できる不動産は、納税資金や相続人の生活を支える力を持っています。

    AEGISでは、不動産を見るときに、相続税評価額・売却価格・収益力という複数の物差しを並べ、その不動産を誰がどのような形で持ち続けるのかという所有の設計とあわせて判断することを重視しています。相続の前にどのような確認をしておくべきかは関連記事「不動産を相続する前に確認したいこと」で、購入から承継までの全体像は「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    不動産の評価や資産税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 相続税評価額と売却価格は、目的も求め方も異なる価格であり、一致しないのが普通です。
    • 路線価は地価公示価格等を基にした価格の80%程度、固定資産税評価額(宅地)は7割を目途に定められており、相続税評価はこれらを出発点にしています。
    • 差が生まれる主な理由は、評価の水準、評価の時点、標準化された評価と個別性、建物の評価の考え方、貸している不動産の評価のしかたです。
    • 令和6年1月1日以後に取得した居住用の分譲マンションには、評価額と市場価格の差を補正する新しい評価方法が適用されています。
    • 相続税の計算には評価額を、売却や保有の判断には売却価格や収益力を、場面に応じて使い分けることが大切です。
    • 具体的な評価額や売却価格は、物件ごとの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 路線価は、実際に売れる価格の何割くらいですか?

    国税庁は、路線価を地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定めているとしています。ただし、実際の売却価格は個別の需給で決まるため、地域や物件によって路線価との関係は大きく異なります。一律に「売却価格の8割」と考えることはできません。

    Q. 固定資産税評価額と相続税評価額は同じですか?

    建物については、相続税評価額は固定資産税評価額に1.0を乗じた額とされているため、同じになります。土地については、路線価地域では路線価を基に評価するため、固定資産税評価額とは異なります。路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に地域ごとの倍率を乗じて評価します。

    Q. マンションの評価の見直しは、いつから適用されていますか?

    令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)から適用されています。評価水準が0.6未満の場合は評価額が引き上げられ、1を超える場合は引き下げられ、その間であれば補正は行われません。

    Q. 相続税評価額が売却価格より高い場合はどうなりますか?

    形状や接道の条件、需要の状況などにより、相続税評価額が実際に売れる価格を上回ることもあり得ます。相続税の評価は時価が原則であるため、そのような場合の取扱いは、物件の状況や根拠資料に応じて個別に検討する必要があります。

    Q. 遺産分割では、評価額と売却価格のどちらを使えばよいですか?

    法律で一律に決まっているわけではなく、相続人間で合意した基準を用いるのが一般的です。評価額を基準にすると、不動産を取得する人と現金を取得する人との間で実質的な不公平感が生じることがあるため、話し合いの初めに基準となる価格を確認しておくことをおすすめします。

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    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 相続と資産承継:財産の内容とご家族の意向から、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で考えます。
    • 不動産の最適活用:立地や建物、周辺需要から、賃貸・売却・組換え・事業活用を比較し、判断に必要な条件を整理します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 築古アパートは建て替えるか、売るか|建築費の上昇・立退き・建替え後の収支・売却を同じ物差しで比べる

    築古アパートは建て替えるか、売るか|建築費の上昇・立退き・建替え後の収支・売却を同じ物差しで比べる

    築古アパートを建て替えるか売るかは、「建替え後に残る手取り」と「いま売って残る手取り」を、同じ物差しで比べて決めるのが基本です。

    建替えは、新しい建物で賃料と入居率を取り戻せる可能性がある一方、建築費の上昇、入居者の立退き、工事期間中の無収入、新たな借入れといった負担を伴います。売却は、管理の負担から解放される一方、入居者がいる「現況のまま」で売るか、立退き後に「更地」で売るかで、価格も手間も大きく変わります。

    この記事では、既存の賃貸建物の更新判断に絞って、建替え・現況売却・更地売却・現状維持を比べる考え方を整理します。更地を含む土地全体の活用方法の比較は、親記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で扱っています。

    まず押さえたい4つの選択肢

    築古アパートの選択肢は、大きく次の4つです。

    選択肢中身主な負担・リスク向いているケース
    現状維持(修繕で延命)必要な修繕を行い、当面は保有を続ける修繕費の増加、空室の増加、耐震面の不安構造に大きな問題がなく、賃料と入居が保てている
    建替え入居者の退去後に解体し、新しい建物を建てる建築費、立退き、工事中の無収入、新たな借入れ立地の賃貸需要が強く、建替え後の賃料が見込める
    現況売却(オーナーチェンジ)入居者がいるまま収益物件として売る価格は収益性で決まり、築古では低くなりやすい立退きの負担を避けたい、早く手放したい
    更地売却立退き・解体後に土地として売る立退きの期間と費用、解体費、売却までの時間土地としての需要が強い(住宅用地・事業用地)

    どれが正解かは、立地の賃貸需要、建物の状態、入居者の状況、借入れの残り、そしてオーナーと家族の今後の方針によって変わります。

    建替えを考える前に確かめたいこと

    建築費はこの数年で大きく上がっている

    国土交通省の建設工事費デフレーター(2020年度=100)では、住宅総合が2025年度(暫定)で122.6となっており、2020年度から2割以上上昇しています。

    また、国土交通省の「建築工事費調査(令和7年分)」(令和8年9月30日公表)では、工事実施額を工事実施床面積で割ると、1平方メートルあたり木造で約25.9万円、非木造で約34.3万円になります。これはAEGISによる単純な割り算で、用途や地域、仕様を区別しない全体の平均ですが、「以前と同じ規模の建物を、以前と同じ予算で建て直す」ことは難しくなっていることが分かります。

    建て替えても、同じ規模が建つとは限らない

    古い建物の中には、建築された後の法改正や都市計画の変更によって、現在の基準に合わなくなっているものがあります。たとえば、容積率は前面道路の幅員によって制限されることがあり、敷地の接道状況も建替えの可否に影響します。建替え後に建てられる戸数が減れば、賃料収入も減るため、まず現行の法令で何戸の建物が建てられるかを設計者に確認することが出発点です。

    建替え後の収支は「悲観的なケース」で確かめる

    建替え後の収支は、次の要素で組み立てます。

    • 新築時の賃料と入居率(周辺の新築・築浅物件の募集状況から見込む)
    • 建築費、解体費、立退きにかかる費用、設計費などの総事業費
    • 借入れの金額・金利・期間と、毎年の返済額
    • 固定資産税、管理費、修繕積立の見込み
    • 工事期間中(解体から入居まで)の無収入期間

    建築会社が示す収支計画は、満室に近い入居率を前提にしていることがあります。入居率や賃料が想定を下回ったときにも返済が続けられるかを、悲観的なケースで確かめることが欠かせません。修繕の考え方と費用の税務上の扱いは、関連記事「賃貸物件の修繕計画と修繕費の税務」で整理しています。

    立退きは「時間」と「関係」のコストが大きい

    普通借家契約では、貸主からの退去要請に正当事由が必要

    一般的な賃貸アパートの契約(普通借家契約)では、貸主が契約の更新を拒んだり、解約を申し入れたりするには、正当の事由が必要です。借地借家法28条では、正当事由の有無を、貸主と借主それぞれが建物を必要とする事情、賃貸借のこれまでの経過、建物の利用状況や現況、そして貸主が明渡しと引換えに財産上の給付(いわゆる立退料)を申し出たかどうかなどを考慮して判断するとしています。

    つまり、建物が古いというだけで、入居者に退去を求められるとは限りません。実務では、入居者一人ひとりと話し合い、転居先の紹介や立退料の支払いなどの条件をまとめていくことになり、全員の退去までに年単位の時間がかかることもあります。

    建替えを見据えるなら、早めに契約の形を整える

    建替えの時期をある程度見通せる場合は、空いた部屋から順に、契約期間の満了で終了する定期建物賃貸借(定期借家契約)での募集に切り替える方法があります。定期借家契約は、書面で契約し、更新がないことを定めることで成立します(借地借家法38条)。一方で、定期借家の部屋は賃料が低くなりやすい、入居者が見つかりにくいといった面もあるため、空室期間とのバランスを考える必要があります。

    立退料や取壊し費用が税務上どのように扱われるかは、建替えか売却かによって変わります。詳しくは関連記事「建物の取壊し費用や立退料は経費になるのか」で解説しています。

    売却するなら「現況」か「更地」か

    現況売却:収益性で値段が決まる

    入居者がいるまま売る場合、買い手は家賃収入から価格を考えます。築古で修繕の必要が大きい物件や空室の多い物件は、買い手が将来の修繕費や立退きの負担を見込むため、価格が低くなりやすいのが一般的です。

    現況売却では、次の点を事前に整えておくと、買い手の不安が小さくなります。

    • 賃貸借契約書や更新の記録がそろっているか、実際の賃料・条件と契約書が一致しているか
    • 賃料の滞納や減額の要望がないか
    • 管理会社との管理委託契約やサブリース契約を、売却に合わせて解約・承継できるか
    • 修繕の履歴や、建物の不具合の把握状況

    更地売却:土地の需要があれば有力、ただし時間がかかる

    立退きと解体を済ませて更地で売る場合、住宅用地や事業用地としての需要があれば、現況売却より高い価格が期待できることがあります。国土交通省の「令和8年地価公示の概要」では、全国の住宅地は5年連続で上昇していますが、地域による差は大きくなっています。土地としての需要が強い地域かどうかが、更地売却を選ぶかどうかの分かれ目です。

    一方で、立退きの期間中は空室が増えて家賃収入が減り、解体費もかかります。売却までの時間が長くなることも見込んでおく必要があります。

    売却時の税金

    個人が土地や建物を売った場合、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得となり、所得税15%・住民税5%(このほかに復興特別所得税)がかかります(国税庁タックスアンサーNo.3208)。売却のために借家人に支払った立退料や、建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用は、譲渡費用として差し引くことができます。

    売却を比べるときは、売却価格ではなく、税金や費用を差し引いた後の手取りで比べることが重要です。税引後の手取りの考え方は、関連記事「不動産を売却したとき、税引後にいくら残るか」で整理しています。

    相続と承継から見た違い

    建替えか売却かは、相続税の評価や、次の世代が何を引き継ぐかにも影響します。

    • 賃貸建物の敷地は評価が下がる:アパートの敷地は「貸家建付地」として、自用地の価額から借地権割合・借家権割合・賃貸割合に応じた金額を差し引いて評価します(国税庁タックスアンサーNo.4614)。立退きで空室が増えると賃貸割合が下がり、この減額は小さくなります。
    • 借入れとセットで引き継ぐことになる:建替えで新たな借入れをすると、相続時には建物と借入金を一体で引き継ぎます。後継者が賃貸経営を続ける意思と力があるかどうかが重要です。
    • 売却すれば分けやすくなる:売却して現金にすれば、相続人の間で分けやすくなりますが、相続税評価上の減額はなくなります。

    相続税評価が下がることだけを理由に建替えを選ぶと、事業として成り立たない建物と借入れを次の世代に残すことになりかねません。評価と収益性の両方を見ることが大切です。

    AEGISの視点

    築古アパートの相談では、建築会社からの建替え提案と、不動産会社からの売却提案が別々に届き、それぞれの前提で比べられないまま判断を迫られることがよくあります。

    AEGISは、この判断を「建物の問題」ではなく「この土地を、これから20年、30年、誰がどう持ち続けるかという問題」として捉えています。建替えを選ぶなら、建築費が上がった中でも返済が続けられる収支と、立退きを丁寧に進める時間が必要です。売却を選ぶなら、現況か更地か、いつ売るかで手取りが変わります。どちらも、借入れの残り、相続税の見込み、家族の意向と結びついています。

    そのため、選択肢ごとに「税引後に手元に残るお金」「かかる時間と手間」「次の世代に引き継ぐもの」を一枚に並べて比べることが、判断の出発点になると考えています。資産税務・不動産税務の論点についてのAEGISの考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。

    まとめ

    • 築古アパートの選択肢は、現状維持・建替え・現況売却・更地売却の4つです。
    • 建築費はこの数年で大きく上昇しており、建替え後の収支は悲観的なケースで確かめる必要があります。
    • 普通借家契約では、貸主からの退去要請に正当事由が必要で、立退きには時間がかかります。
    • 売却は、現況か更地かで価格と手間が変わり、税引後の手取りで比べることが重要です。
    • 相続税評価、借入れ、家族の意向を含めて判断します。具体的な結論は個別の事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 築何年になったら建替えを考えるべきですか?

    築年数だけで決まるものではありません。建物の構造と劣化の状況、耐震性、修繕費の見込み、空室の状況、立地の賃貸需要をあわせて判断します。修繕で十分に延命でき、入居が保てているなら、急いで建て替える必要がない場合もあります。

    Q. 入居者に立ち退いてもらうには、立退料が必ず必要ですか?

    法律で立退料の支払いが一律に義務付けられているわけではありません。ただし、普通借家契約では、貸主からの更新拒絶や解約申入れには正当事由が必要で、立退料の申出はその判断の考慮要素の一つとされています(借地借家法28条)。実務では、入居者と話し合いで条件をまとめるのが一般的です。

    Q. 入居者がいるまま売ると、どのくらい安くなりますか?

    一律の目安はありません。現況売却の価格は、家賃収入、空室の状況、修繕の必要性、買い手が見込む立退きの負担などで決まります。更地としての価格と、現況での価格の両方を査定してもらい、立退きと解体にかかる費用と時間を差し引いて比べることが大切です。

    Q. 建て替えると相続税は下がりますか?

    賃貸建物の敷地は貸家建付地として評価が下がり、建物も固定資産税評価額を基に評価されるため、相続税評価額は下がることがあります。ただし、建築費や借入れの負担、建替え後の空室リスクを考えると、評価が下がることだけで判断するのは危険です。

    Q. 建替えと売却で迷う場合、まず何から始めればよいですか?

    現在の収支と借入れの残り、建物の状態、入居者の契約状況を整理し、現行法令で建てられる建物の規模を確認します。そのうえで、建替え・現況売却・更地売却のそれぞれについて、税引後の手取りと必要な期間を試算して並べると、判断の材料がそろいます。

    関連するAEGISのソリューション

    この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

    • 不動産の最適活用:立地・敷地・建物・周辺需要・投資負担から、賃貸・売却・組換え・事業活用を比較します。
    • 不動産管理と実行管理:賃料・空室・修繕・返済・会計・税務をつないで、収益不動産の管理を支援します。
    • 事業創造型土地活用:保有する土地・建物に合う事業の判定と開業・運営の支援を、相続税の備えと承継まで一体で検討します。

    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司著、ソシム、P.422-423、P.426-429
    • 『改訂版 税理士が知っておきたい!土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭著、第一法規、P.6-9
  • 不動産を相続する前に確認したいこと|評価・収益性・共有・納税資金を整理する

    不動産を相続する前に確認したいこと|評価・収益性・共有・納税資金を整理する

    自宅のほかに賃貸アパートや貸地、駐車場などを持っている場合、相続は「不動産をどう引き継ぐか」という問題になります。不動産は現金のように簡単に分けられず、評価の仕組みも複雑で、相続税を払うための資金が足りなくなることもあります。

    結論から言えば、不動産の相続に備えて確認すべきことは、①何を持っているか(棚卸し)、②いくらと評価されるか、③その不動産は稼いでいるか(収益性)、④誰がどう引き継ぐか(共有と分割)、⑤税金をどう払うか(納税資金)の5つです。この記事では、相続が起きる前の段階で、これらをどの順番で確認すればよいかを解説します。

    なぜ「相続の前」に確認する必要があるのか

    相続が発生してからでは、確認に使える時間が限られます。

    • 申告期限:相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります(国税庁 No.4205)。
    • 分割の期限:遺産の分け方が決まらないまま申告期限を迎えると、一部の特例を当初の申告で適用できないことがあります(国税庁 No.4208)。
    • 登記の義務:令和6年4月1日から、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務化されています。正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります(法務省)。

    10か月という期間は、不動産が多い相続では決して長くありません。物件の調査、評価、遺産分割の話し合い、納税資金の準備を同時に進めることになるからです。相続前にできる確認を済ませておくことで、相続後の判断に時間を充てられるようになります。

    確認1:何を持っているか(不動産の棚卸し)

    最初に行うのは、所有している不動産の一覧づくりです。意外に思われるかもしれませんが、本人も家族も、すべての不動産を正確に把握しているとは限りません。

    一覧づくりに使える主な資料は次のとおりです。

    • 固定資産税の課税明細書:市区町村から毎年送られてくる書類で、所在地、地目、面積、固定資産税評価額などが記載されています。
    • 登記事項証明書:所有者の名義、持分、抵当権などの権利関係を確認できます。
    • 売買契約書・権利証(登記識別情報):取得の経緯と取得費の確認に使います。
    • 賃貸借契約書:誰に、どのような条件で貸しているかを確認します。

    一覧を作る過程で、次のような「見えにくい不動産」がないかも確認しておきたいところです。

    • 先代(親や祖父母)の名義のままになっている不動産
    • 他人の土地の上に建物を所有している場合の借地権のように、登記に現れにくい権利
    • 他の市区町村にある土地や、私道の持分など、課税明細書が別に届くもの
    • 共有名義で、自分の持分を正確に把握していないもの

    特に先代名義の不動産は、今回の相続の前に、先代の相続の手続きから整理しなければならないことがあります。

    確認2:いくらと評価されるか

    相続税評価の基本

    相続税では、財産は取得の時の時価で評価するのが原則です(相続税法第22条)。国税庁は財産評価基本通達で具体的な評価方法を定めており、不動産の基本は次のとおりです(国税庁 No.4602)。

    対象評価方法
    土地(宅地)路線価が定められている地域は路線価方式、それ以外は倍率方式(固定資産税評価額×倍率)
    建物(家屋)固定資産税評価額×1.0
    貸している建物の敷地(貸家建付地)自用地としての価額 −(自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

    貸家建付地の計算に使う賃貸割合は、貸している部分の床面積の割合です(国税庁 No.4614)。空室が多い時期に相続が発生すると、評価額が変わる可能性があるということです。

    小規模宅地等の特例を使えるか

    自宅の敷地や事業用・貸付用の土地については、一定の要件を満たすと、評価額を減額できる「小規模宅地等の特例」があります(国税庁 No.4124)。

    宅地等の区分限度面積減額割合
    特定居住用宅地等(自宅の敷地など)330㎡80%
    特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等400㎡80%
    貸付事業用宅地等(アパート・駐車場など)200㎡50%

    ※適用には、誰がその宅地を取得し、その後どのように使うかなどの要件があります。複数の区分を併用する場合は面積の調整計算が必要です。

    この特例は、相続税の申告書に適用を受ける旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付して申告することが必要です。また、原則として遺産分割が決まっていることが前提になるため、分割が申告期限に間に合わない場合は、当初の申告では適用できません(国税庁 No.4124、No.4208)。

    つまり、「誰がどの土地を取得するか」という分割の判断が、評価額そのものに影響するということです。

    全体のおおよその規模を把握する

    相続税には基礎控除があり、その額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(国税庁 No.4152)。不動産の評価額と金融資産などを合計して、基礎控除をどの程度上回りそうかを把握しておくと、どこまで準備が必要かの見当がつきます。相続税の概算に必要な情報は、関連記事「相続税の概算に必要な情報」で整理しています。

    なお、相続税評価額は実際に売れる価格とは一致しません。その理由は関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格の違い」で解説しています。

    確認3:その不動産は稼いでいるか(収益性)

    相続税評価が同じでも、相続人にとっての価値は不動産ごとに大きく異なります。相続の前に、物件ごとに次の点を確認しておきます。

    • 収支:年間の賃料収入から、管理費、修繕費、固定資産税、借入れの返済などを差し引いて、手元に残る資金
    • 将来の支出:外壁や設備の更新など、近い将来に必要になる大きな修繕
    • 借入れ:残高、金利、返済期間、連帯保証の有無
    • 管理の手間:誰が入居者対応や業者とのやり取りをしているか

    収益性を確認する目的は、「相続人が引き継ぎたい不動産」と「引き継いでも負担になる不動産」を見分けることです。収益が乏しく修繕負担が重い不動産は、相続前に売却や組替えを検討する余地があるかもしれません。反対に、安定した収益を生む不動産は、相続後の納税資金や相続人の生活を支える資産になります。

    確認4:誰がどう引き継ぐか(共有と分割)

    不動産の相続で最も難しいのが分け方です。相続人の間で公平を保とうとして、一つの不動産を複数の相続人の共有にすることがあります。共有は分割の時点では公平に見えますが、次のような問題を将来に残しやすい方法です。

    • 売却、建替え、大規模な修繕などの判断に、共有者の合意が必要になる
    • 共有者の一人に相続が起きると、共有者がさらに増える
    • 賃料の分配や経費の負担をめぐって、共有者間の調整が必要になる

    共有を避けるための考え方としては、不動産ごとに取得する人を分ける、不動産を取得する相続人が他の相続人に金銭を渡す、相続前に一部の不動産を売却して分けやすい資産に変える、などがあります。どの方法が適しているかは、不動産の数や規模、相続人の関係によって異なります。

    分け方を決めるうえで大切なのは、相続人それぞれが、その不動産をどう使い、どう管理していくつもりかを事前に確認しておくことです。遺言で分け方を示しておくことも、相続後の話し合いの負担を軽くする方法の一つです。

    確認5:税金をどう払うか(納税資金)

    財産の大部分が不動産の場合、相続税を現金で払えるかどうかが大きな論点になります。

    現金で払えない場合の制度

    相続税は金銭で一括納付するのが原則ですが、一定の要件のもとで分割払い(延納)や、財産そのもので納める物納の制度があります。

    • 延納:相続税額が10万円を超え、金銭で納付することが困難な事由があり、担保を提供するなどの要件を満たす場合に、申請により認められます(国税庁 No.4211)。
    • 物納:延納によっても金銭で納付することが困難な事由がある場合に、その困難な金額を限度として、一定の財産で納めることが認められます。物納に充てられる財産には順位があり、不動産は第1順位に含まれます(国税庁 No.4214)。

    いずれも申請と許可が必要で、どのような不動産でも物納できるわけではありません。たとえば、共有の不動産は、共有者全員が物納を申請する場合などを除き、物納に適さない財産(管理処分不適格財産)とされています(相続税法施行令18条、同法施行規則21条)。制度があることを前提に準備を怠らないことが大切です。

    売却して払う場合

    相続した不動産を売却して納税資金に充てる場合、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すれば、一定の相続税額を取得費に加算して譲渡所得を計算できる特例があります(国税庁 No.3267)。

    ただし、相続税の納付期限は申告期限と同じ10か月以内です。売却に時間がかかる不動産(境界が確定していない土地、借地人がいる土地など)を納税資金のあてにしている場合は、相続前から売却の準備を進めておくか、別の資金手当てを考えておく必要があります。

    相続前の確認リスト

    ここまでの内容を、相続前に確認しておきたい項目として整理します。

    視点確認すること主な資料
    棚卸し所有不動産の一覧、名義と持分、先代名義・未登記の権利課税明細書、登記事項証明書、契約書
    評価路線価・倍率による評価、貸家建付地、小規模宅地等の特例の候補路線価図・評価倍率表、賃貸借契約書
    収益性物件ごとの収支、修繕計画、借入れ収支の記録、借入れの資料
    共有・分割誰がどの不動産を取得するか、共有の有無家族の意向、遺言
    納税資金現金で払えるか、売却の見込み、延納・物納の可能性金融資産の一覧、売却可能性の確認

    実務上注意したいポイント

    • 境界と測量:売却や物納を考える土地は、隣地との境界が確定しているかを確認しておきます。境界の確定には時間がかかることがあります。
    • 使っていない不動産:空き家や遊休地は、収益を生まない一方で固定資産税や管理の負担が続きます。相続人が使う予定がなければ、相続前の段階で方針を考えておく価値があります。
    • 家族との共有:資料をそろえても、家族が内容を知らなければ相続後に活かせません。どこに何があるかだけでも共有しておくことが大切です。

    AEGISの視点

    不動産の相続というと、相続税の金額や評価を下げる方法に関心が向きがちです。しかしAEGISは、不動産の相続を「次の世代が、その不動産を持ち続けられるかどうかを確認するプロセス」と捉えています。

    評価額が下がっても、相続人が管理できず、収益も生まず、共有で身動きが取れなくなれば、その不動産は家族にとって負担になります。反対に、評価額はそれなりでも、収益が安定し、取得する人が明確で、納税資金の見通しが立っていれば、相続は円滑に進みます。

    そのためAEGISでは、評価・収益性・分け方・納税資金を別々に検討するのではなく、一つの表に並べて検討することを重視しています。不動産の購入から承継までを一連の流れで考える全体像は、関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

    相続に関わる不動産税務・資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 不動産の相続では、棚卸し・評価・収益性・共有と分割・納税資金の5つを確認することが大切です。
    • 相続税の申告期限は10か月以内で、相続登記も令和6年4月1日から義務化されています。
    • 土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額で評価され、貸している場合や小規模宅地等の特例の適用によって評価額が変わります。
    • 小規模宅地等の特例は、原則として遺産分割が決まっていることが前提であり、分け方が評価額に影響します。
    • 不動産が財産の多くを占める場合は、延納・物納の要件や売却にかかる時間も踏まえて、納税資金の見通しを立てておく必要があります。
    • 具体的な対応は、不動産の内容や家族構成などの個別事情によって異なります。

    よくある質問

    Q. 相続前に、まず何から手を付ければよいですか?

    所有している不動産の一覧づくりから始めるのがおすすめです。固定資産税の課税明細書と登記事項証明書を並べ、名義、持分、所在地、固定資産税評価額を一覧にするだけでも、評価や分割を考える土台ができます。

    Q. 小規模宅地等の特例は、相続すれば自動的に適用されますか?

    自動的には適用されません。相続税の申告書に特例の適用を受ける旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付して申告する必要があります。また、取得する人やその後の利用状況などの要件があり、原則として遺産分割が決まっていることが前提です。

    Q. 相続人が複数いる場合、不動産は共有にしたほうが公平ではないですか?

    分割の時点では公平に見えますが、売却や建替えに共有者の合意が必要になり、次の相続で共有者が増えるなど、将来の判断が難しくなりがちです。不動産ごとに取得する人を分ける、取得する人が他の相続人に金銭を渡すなど、共有以外の方法も含めて検討することをおすすめします。

    Q. 相続税を払うために、相続した不動産を売ることはできますか?

    可能です。相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すれば、一定の相続税額を取得費に加算できる特例があります。ただし、納付期限は10か月以内のため、売却に時間がかかる不動産の場合は、相続前から準備を進めておくことが大切です。

    Q. 相続登記をしないと、どうなりますか?

    令和6年4月1日から相続登記の申請は義務となり、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。令和6年4月1日より前の相続で未登記の不動産についても、令和9年3月31日までに登記する必要があるとされています(法務省)。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

  • 土地区画整理事業の途中で相続が起きたら|仮換地の評価・小規模宅地等の特例・清算金・活用と売却の制約

    土地区画整理事業の途中で相続が起きたら|仮換地の評価・小規模宅地等の特例・清算金・活用と売却の制約

    土地区画整理事業が進行中の土地を相続した場合、相続税の評価は、仮換地が指定されていれば原則として「仮換地」の価額で行い、指定がなければ「従前地」(もともとの土地)の価額で行います。ただし、仮換地が指定されていても使い始められず工事も始まっていない場合は従前地で評価し、工事が長引く場合は95%で評価するなど、事業の進み具合によって扱いが変わります。

    区画整理の事業期間は長期に及ぶことが多く、その途中で相続が起きることは珍しくありません。この記事では、事業の段階ごとに、相続税の評価、小規模宅地等の特例、清算金、そして事業中の活用・売却の制約を整理します。

    土地区画整理事業の基本

    土地区画整理事業は、道路・公園などの公共施設を整備し、土地の区画を整えて宅地の利用価値を高める事業です(土地区画整理法2条)。地権者は土地の一部を道路や公園の用地、事業費に充てる保留地として提供し(いわゆる減歩)、区画が整った新しい土地(換地)を受け取ります。施行者には、個人・組合・区画整理会社・地方公共団体などがあります。

    事業は、おおむね次の流れで進みます。

    1. 都市計画決定・事業計画の決定(認可)
    2. 仮換地の指定:将来の換地の位置と範囲を仮に定める
    3. 建物の移転、道路築造・宅地整地などの工事
    4. 換地処分:従前地の権利が換地に移り、清算金が確定する
    5. 登記、清算金の徴収・交付

    仮換地が指定されると、地権者は従前地を使えなくなる代わりに、仮換地を使ったり貸したりできるようになります(土地区画整理法99条)。ただし、施行者が「使用収益を開始できる日」を別に定めた場合は、その日までは仮換地も使えません。

    事業の段階と相続税評価

    相続税の評価は、財産評価基本通達24-2と国税庁の質疑応答事例「土地区画整理事業施行中の宅地の評価」で、次のように整理されています。

    相続開始時の状況評価の基準補足
    仮換地が指定されていない従前地の価額路線価図で「個別評価」とされている地域は、税務署に申し出て示される価額を用いる
    仮換地が指定され、使用収益できる仮換地の価額清算金で確実なものは加減する
    仮換地の造成工事が施行中で、完了まで1年超の見込み工事完了後の仮換地の価額の95%清算金で確実なものは加減する
    仮換地は指定済みだが、使用収益の開始日が別に定められ、かつ造成工事も行われていない従前地の価額二つの条件をいずれも満たす場合

    ※AEGISが財産評価基本通達24-2と国税庁質疑応答事例をもとに整理したものです。

    清算金を評価に反映する

    換地処分では、地権者間の不均衡を調整するために、金銭で清算金を徴収または交付します(土地区画整理法94条)。相続の時点で金額が確実と見込まれる清算金がある場合は、徴収されるものは仮換地の価額から差し引き、交付されるものは加えて評価します。事業計画や施行者からの通知で、見込額がどの程度確実かを確認しておきましょう。

    「事業中だから大きく下がる」とは限らない

    事業が長期化し、仮換地の指定時期も見通せないような土地では、利用の制約が大きいとして不動産鑑定評価による申告が争われた例があります。国税不服審判所の裁決では、通達による評価の合理性を基本的に認めつつ個別の事情を検討したもの、建築制限を理由とした一律の控除を認めなかったものなど、判断は事案ごとに分かれています。区画整理中であること自体を理由に大きな減額を見込むのではなく、まず通達の定めに沿って段階を正確に把握することが出発点です。

    小規模宅地等の特例はどうなるか

    小規模宅地等の特例は、相続開始の直前に被相続人などの居住や事業に使われていた宅地等が対象です。区画整理中は、従前地も仮換地も使えない期間が生じるため、「相続開始の直前に使っていた」といえるかが問題になります。

    この点について国税庁の通達(租税特別措置法関係通達69の4-3)は、公共事業の施行による仮換地の指定に伴い、相続開始の直前に従前地と仮換地の使用収益がともに禁止されていた場合でも、被相続人などが仮換地を居住や事業に使う予定がなかったと認められる特段の事情がなければ、もともと居住や事業に使っていた従前地は特例の対象に含まれることを示しています。特段の事情の例として、従前地の売買契約を結んでいた場合、代わりの住まいや事業用地を取得していた場合、物納を申請していた場合などが挙げられています。

    ただし、特例を受けるには、取得した親族が申告期限まで居住や事業を続けるなどの要件も必要です。使用収益が禁止されている期間に申告期限を迎える場合、その要件をどう満たすと考えるかは、仮換地の使用開始後の利用計画なども踏まえた個別の判断になります。「将来どう使うか」が決まっていない状態では、特例の適用が難しくなる可能性があるため、相続人の間で仮換地の利用方針を早めに話し合っておくことが重要です。

    事業中の活用と売却の制約

    建築や土地の形を変える行為の制限

    事業計画の認可などの公告があった後、換地処分の公告までの間は、施行地区内で事業の障害となるおそれがある建築物の新築・増改築や土地の形質の変更をするには、都道府県知事等の許可が必要です(土地区画整理法76条)。仮換地の指定を受けた後は、工事と調整しながら仮換地上に建物を建てられるようになりますが、指定前は建築が厳しく制限されると考えておく必要があります。

    このため、事業中の土地活用は、駐車場や資材置場のような一時的な利用が中心になりやすく、本格的な建物の計画は、仮換地の使用収益が始まってから立てるのが一般的です。

    売却するときの注意

    事業中の土地を売る場合、登記上は従前地の売買として行い、買主は仮換地を使うことになります。仮換地そのものに所有権の登記があるわけではないため、売買契約では次の点を明確にしておく必要があります。

    • 対象となる従前地と、それに対応する仮換地の位置・面積
    • 将来の清算金を売主・買主のどちらが受け取る(負担する)か
    • 組合施行の場合の賦課金などの負担
    • 換地処分の見込み時期

    清算金については、仮換地の売買で「清算金は売主に帰属する」と特約していた場合には、課税上も売主に帰属するものとして扱う考え方が国税庁の質疑応答事例で示されています。

    清算金と所得税

    換地処分により土地区画整理法の清算金を受け取った場合は、土地の一部を譲渡したものとして譲渡所得の対象になりますが、収用等の場合の課税の特例の対象とされており、要件を満たせば5,000万円の特別控除などを検討できます。清算金の収入すべき時期は、換地処分の公告があった日の翌日とされています(国税庁質疑応答事例「土地区画整理事業の換地処分により清算金を取得した場合」)。

    相続が起きたときに集めたい資料

    区画整理中の土地の評価や特例の判断は、事業の段階を示す書類がそろっているかどうかで精度が大きく変わります。相続が起きたら、次の資料を施行者や被相続人の書類から集めておくとよいでしょう。

    • 仮換地指定通知書(指定の効力発生日、仮換地の位置・面積)
    • 使用収益開始日の通知(別に定める旨の通知を含む)
    • 仮換地の重ね図など、従前地と仮換地の対応がわかる図面
    • 造成工事の進捗や完了予定がわかる資料
    • 清算金の見込額や換地計画に関する通知
    • 組合施行の場合の賦課金の請求書や総会資料
    • 相続開始直前の従前地・仮換地の利用状況(居住・貸付け・事業)がわかる資料

    これらが手元にないと、相続税の申告期限までに段階の判定ができず、評価や特例の判断が保守的にならざるを得ないことがあります。

    AEGISの視点

    区画整理は、土地の価値を高める一方で、数年から十年以上にわたって「使えない・決められない」期間を生む事業です。AEGISは、区画整理中の土地を持つオーナーにとって大切なのは、事業のスケジュールと家族のスケジュールを重ねて見ることだと考えています。

    仮換地の指定や使用収益の開始がいつ頃になるのか。その時点でオーナーや相続人は何歳で、誰が土地を使い、誰が管理するのか。換地後に賃貸住宅や事業用建物を建てるなら、その資金はどうするのか。こうした見通しがないまま相続を迎えると、評価の段階判定や特例の要件、清算金の扱いで家族が迷うことになります。

    施行者からの通知や事業計画書、清算金の見込額の資料を一か所にまとめ、換地後の活用方針と承継者をあらかじめ決めておくことが、相続時の判断を確かなものにします。

    土地の活用方法の比べ方は、関連記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で、申告後に土地評価を点検する方法は「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で解説しています。

    特例を誰が受けるかの考え方は「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」、相続前の整理は「不動産を相続する前に確認したいこと」もあわせてご覧ください。

    土地の評価や不動産の相続に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

    相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

    まとめ

    • 区画整理中の土地は、仮換地の指定がなければ従前地、指定があれば仮換地の価額で評価するのが原則です。
    • 仮換地の造成工事が施行中で完了まで1年超の見込みなら95%で評価し、使用収益の開始日が別に定められ工事も未着手なら従前地で評価します。
    • 確実と見込まれる清算金は、徴収分を差し引き、交付分を加えて評価します。
    • 使用収益が禁止されていても、特段の事情がなければ小規模宅地等の特例の対象になり得ますが、申告期限までの要件には個別の判断が必要です。
    • 事業中は建築や形質変更に許可が必要で、売却では仮換地の範囲と清算金の帰属を契約で明確にすることが重要です。

    よくある質問

    Q. 路線価図に「個別評価」と書かれている土地はどう評価しますか?

    土地区画整理事業の施行地区などで路線価が定められていない地域は、所轄の税務署に個別評価を申し出て、示された価額を基に評価します。示された価額が実際の取引価格と比べて明らかに高いと考えられる場合は、根拠をそろえたうえで鑑定評価などを検討することになりますが、慎重な判断が必要です。

    Q. 仮換地のほうが従前地より狭いのに、評価が高くなることはありますか?

    あります。区画整理では減歩によって面積が減る一方、道路などの整備で土地の利用価値が上がるため、仮換地の価額が従前地より高くなることもあります。評価は仮換地の路線価や個別評価の価額を基に行うため、面積だけで判断しないことが大切です。

    Q. 相続した後、換地処分で清算金を受け取ったら、誰の所得になりますか?

    清算金は換地処分の公告の翌日に確定し、その時点の土地の所有者が受け取るのが原則です。相続後に確定した清算金は、土地を相続した人の譲渡所得の対象になり、収用等の場合の課税の特例を検討できます。相続前に金額が確定していた場合などは扱いが異なることがあるため、確定日と相続開始日の前後関係を確認してください。

    Q. 区画整理中の土地を物納することはできますか?

    物納には、管理や処分に支障がないことなどの要件があります。区画整理中の土地は、仮換地の状況や清算金の扱いなどによって物納の可否の判断が複雑になるため、早い段階で納税資金の確保方法を複数用意しておくのが現実的です。なお、物納を申請していたことは、小規模宅地等の特例の「特段の事情」の例にも挙げられています。

    Q. 仮換地の指定を待たずに、従前地のまま売却したほうがよいですか?

    事業の進み具合によって買い手の評価は大きく変わります。仮換地の位置や使用開始時期が見えない段階では、買い手が限られ価格も下がりやすい一方、換地後には整備された宅地として評価されることもあります。売却の目的(納税資金、分割のためなど)と事業のスケジュールを照らし合わせて判断してください。

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    参考資料・出典

    公的資料・一次情報

    書籍

    • 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、P.32-35
    • 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント[第3集]』笹岡宏保 著、ぎょうせい、CASE11・CASE13(土地区画整理事業)
    • 『税理士を悩ませる相続・贈与の土地評価Q&A 第2集』鎌倉靖二 著、ぎょうせい、P.143-144