黒字廃業を選ぶ前に比較したいこと|清算・第三者への引継ぎ・事業の一部譲渡を、手取り・人・資産の行き先で比べる

暖簾のかかった老舗店舗の前で、作務衣姿の年配の店主と若い店主が腕を組んで並ぶ様子

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「業績は悪くない。でも継ぐ人がいないから、自分の代で終わりにしよう」——黒字のまま会社をたたむ、いわゆる黒字廃業を考えるオーナーは少なくありません。中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、廃業は事業承継と並ぶ検討対象として取り上げられています。

廃業は、決して後ろ向きな選択ではありません。ただ、黒字の会社には、取引先、従業員の技能、顧客との関係、事業用の不動産など、会社をたたむと失われてしまう価値があります。結論から言えば、黒字廃業を決める前に、少なくとも「清算した場合の手取り」と「引き継いだ場合の手取り」、そして「人と資産がどこへ行くか」を並べて比べることが大切です。

この記事では、廃業(清算)の流れと課税のしくみを確認したうえで、第三者への引継ぎ、事業の一部譲渡などの選択肢と比べる考え方を整理します。

黒字廃業とは何か

黒字廃業とは、利益が出ていて資産が負債を上回っている会社が、後継者の不在や経営者の高齢化などを理由に、事業をやめて会社を解散・清算することをいいます。債務超過で事業を続けられなくなる廃業とは異なり、借入をすべて返したうえで、残った財産を株主に分配できるのが特徴です。

だからこそ、「借金がないうちに、きれいにたたみたい」という考えには合理性があります。一方で、その会社を必要としている人がいる場合や、事業として買い手がつく場合には、廃業以外の選択肢の方が、オーナー自身にとっても関係者にとっても望ましい結果になることがあります。

会社をたたむ流れ

株式会社の廃業は、一般に次のような流れで進みます。

  1. 方針の決定と準備:従業員、取引先、金融機関への説明の時期と順番を決める
  2. 解散:株主総会の特別決議(原則として出席株主の議決権の3分の2以上)で会社を解散し、清算人を選任する
  3. 清算:取引を終了し、資産を売却・回収し、債務を支払う。債権者に対しては、2か月以上の期間を定めて債権の申出を求める官報公告と、知れている債権者への個別の催告を行う
  4. 残余財産の分配:すべての債務を支払った後に残った財産を株主に分配する
  5. 清算結了:清算事務を終え、登記を行う

税務面では、解散した日で事業年度が区切られ、清算中の事業年度、残余財産が確定した事業年度ごとに申告が必要になります。清算中も法人税の申告は続き、資産の売却で生じた利益にも課税されます。申告期限は、解散の日までの事業年度や清算中の事業年度は原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内、残余財産が確定した事業年度は確定の日の翌日から1か月以内(その期間内に残余財産の最後の分配を行う場合は、その前日まで)です。手続には相応の期間がかかるため、廃業を決めた時点から逆算して準備することが欠かせません。

清算するとき、税金はどこにかかるか

黒字廃業で見落とされやすいのが、清算時の課税です。課税は「会社の段階」と「株主の段階」の二つで考えます。

会社の段階:資産の売却益への課税

清算の過程で、不動産や有価証券などを売却して利益が出れば、会社に法人税等がかかります。長年保有している土地や建物に含み益がある場合、この負担は小さくありません。

株主の段階:みなし配当

残余財産の分配を受けた株主は、分配額のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分が配当とみなされ(みなし配当。所得税法25条)、配当所得として課税されます。配当所得は原則として総合課税の対象となるため、他の所得と合算され、分配額が大きいほど高い税率が適用されやすくなります。

これに対し、会社の株式をそのまま第三者に売却する場合、非上場株式の譲渡益は申告分離課税で、税率は所得税・住民税をあわせて20%(ほかに復興特別所得税)です。同じ会社の価値を現金化するのでも、「清算して分配を受ける」か「株式を売る」かで、税金のかかり方が大きく変わる点は、比較のうえで重要です。

役員退職金をどう考えるか

清算の前にオーナーが役員を退任し、退職金を受け取ることもあります。退職所得は、収入金額から退職所得控除額を差し引いた額の2分の1が課税の対象となり、他の所得と分離して計算されます(役員等としての勤続年数が5年以下の場合などには、2分の1の計算が適用されない場合があります)。退職金を支払えば会社に残る財産は減るため、残余財産の分配との組み合わせで手取りが変わります。ただし退職金の額には、職務や在任期間に照らした相当性が求められます。

廃業以外の選択肢

後継者が親族や社内にいなくても、会社や事業を引き継ぐ方法はあります。

  • 第三者への株式譲渡(M&A):会社ごと譲り渡す方法です。従業員の雇用や取引先との契約が、原則としてそのまま会社に残ります。
  • 事業譲渡:会社の事業の全部または一部を、他の会社に譲り渡す方法です。不採算部門を残して主要な事業だけを引き継いでもらうこともできます。譲渡後に会社を清算する場合は、上記の清算時の課税も合わせて考えます。
  • 事業の一部の引継ぎ:会社全体の買い手が見つからなくても、特定の取引先、技術、ブランド、店舗などを、同業者や取引先に引き継いでもらう方法があります。
  • 役員・従業員への承継:社内に意欲のある人材がいれば、資金調達の工夫で承継できることがあります。
  • 社会貢献の形での承継:事業や財産の一部を、地域や社会のために生かす形(財団の活用など)で残すことを考えるオーナーもいます。

第三者への引継ぎについては、公的な相談窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」で相談することもできます(中小企業基盤整備機構の事業承継・引継ぎポータルサイトで案内されています)。

5つの視点で比べる

比べる視点清算(廃業)第三者への株式譲渡事業の全部・一部の譲渡
オーナーの手取り残余財産の分配(みなし配当中心)+役員退職金株式の譲渡代金(申告分離課税)+役員退職金会社が受け取る譲渡代金を、清算等で受け取る
従業員雇用は終了。再就職支援が課題原則として雇用は継続引き継がれる事業の範囲で継続
取引先・顧客供給の停止。代替先の確保が必要原則として取引は継続譲渡対象の取引は継続
事業用不動産売却・賃貸・自己利用など行き先を決める会社所有なら会社ごと移る。オーナー個人所有なら賃貸・売却の条件を決める譲渡対象に含めるか、残して活用するかを決める
時間と不確実性自分で進められるが、手続に一定の期間買い手探しに時間がかかり、成立しないこともある部分的でも成立しやすい場合がある

※上表は一般的な傾向を整理したものです。実際の手取りや影響は、会社の資産構成・株主構成・契約内容によって大きく異なります。

「手取り」は税引後で比べる

M&Aの提示額と清算時の残余財産を、税引前の金額で比べると判断を誤ります。清算は会社段階と株主段階の二重の課税を受けやすく、株式譲渡は分離課税の対象になるため、最終的にオーナーの手元に残る金額で比べることが基本です。

「人」の行き先を数字と同じ重さで考える

黒字廃業では、従業員の雇用、取引先の供給網、顧客へのサービスが途切れます。オーナーにとって、長年支えてくれた人たちの行き先は、手取りと同じくらい重要な判断材料になるはずです。

「不動産」の行き先を先に決める

工場や店舗、事務所の土地・建物は、廃業後の扱いを決めないと遊休資産になります。オーナー個人が所有して会社に貸している場合は、廃業によって賃料収入がなくなり、相続の対象として残ることになります。売却・賃貸・別の事業への活用など、廃業とセットで行き先を検討します。

実務上注意したいポイント

  • 伝える順番を設計する:廃業の情報が先に広がると、従業員の離職や取引の打切りが早まり、清算時の資産価値が下がることがあります。
  • 経営者保証と借入を確認する:黒字廃業でも、借入の返済と保証の解除を確認しておく必要があります。
  • 許認可や契約の終了手続:事業に関する許認可、リース、賃貸借、取引基本契約の解約条件を一覧にします。
  • 決める前に「売れるか」を確かめる:廃業を決める前に、M&Aや事業の一部譲渡の可能性を一度確認しておくと、比較の材料がそろいます。

AEGISの視点

黒字廃業の相談を受けるとき、AEGISがまずお聞きするのは、「会社の何を終わらせたいのか、何を残したいのか」という問いです。

オーナーが終わらせたいのは、多くの場合、「自分が経営の責任を負い続けること」です。必ずしも、事業そのものや、従業員の仕事、地域とのつながりまで終わらせたいわけではありません。そう整理すると、経営の責任からは退きつつ、事業や人、不動産を別の形で生かす道が見えてくることがあります。事業を第三者に引き継ぐ、事業の一部を取引先に託す、不動産を地域の需要に合う事業に活用する、財産の一部を社会貢献に充てる——選択肢は「継ぐか、たたむか」の二択ではありません。

一方で、比較したうえで廃業を選ぶことも、十分に尊重されるべき判断です。大切なのは、手取り・人・資産の行き先を並べたうえで、オーナーが納得して選んだと言える状態をつくることだとAEGISは考えています。

承継方法そのものの比較は「親族内承継・従業員承継・M&Aの比較」で、会社売却の準備は「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で、社会貢献の形で財産を生かす考え方は「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

清算時の課税や株式・不動産の承継に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 黒字廃業は合理的な選択肢の一つですが、会社をたたむと失われる価値があるため、引き継ぐ選択肢と比較してから決めることが大切です。
  • 清算では、会社段階での資産売却益への課税と、株主段階でのみなし配当(原則総合課税)を考える必要があります。
  • 株式を第三者に売却する場合は、譲渡益に申告分離課税が適用されるため、税引後の手取りで比べることが基本です。
  • 比較の視点は、オーナーの手取り、従業員、取引先・顧客、事業用不動産、時間と不確実性の5つです。
  • 具体的な税額や手続は、会社の資産構成・株主構成などの個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 黒字のうちに廃業すれば、税金はかかりませんか?

かかります。清算中の資産の売却益には会社に法人税等がかかり、株主が残余財産の分配を受けると、資本金等の額を超える部分はみなし配当として課税されます。黒字であるほど残余財産が大きくなり、株主段階の税負担も大きくなりやすい点に注意が必要です。

Q. 小さな会社でも、M&Aで引き継いでもらえることはありますか?

会社の規模が小さくても、取引先、技術、許認可、店舗などに価値があれば、同業者などが引き継ぎを検討することがあります。会社全体の譲渡が難しくても、事業の一部だけを引き継いでもらう方法もあります。公的な相談窓口として事業承継・引継ぎ支援センターがあります。

Q. 廃業と決めたら、まず誰に伝えるべきですか?

一般には、家族と主要な関係者で方針を固めたうえで、金融機関や顧問の専門家と手順を確認し、従業員、取引先の順に伝えることが多いといえます。伝える時期を誤ると、従業員の離職や取引の打切りが先行するおそれがあるため、順番を事前に設計しておくことが大切です。

Q. 会社が使っている土地や建物が社長個人のものの場合、どうなりますか?

会社が廃業すると賃料収入がなくなり、不動産は個人の財産として残ります。売却、他者への賃貸、別の事業への活用、相続まで含めて、廃業と同時に行き先を検討しておくことが望まれます。

Q. 廃業と比べるとき、何から調べればよいですか?

まず、清算した場合の残余財産と税引後の手取りの見込みを把握することです。そのうえで、会社や事業の一部に引き継ぎ手がいるかを確認すると、比較の材料がそろいます。

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  • 事業承継:後継者・経営権・株式・資金・ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどの方法を比較しながら承継計画を検討します。
  • M&A:会社売却の方針や取引条件、税引後の受取額、売却後の資産管理を検討します。
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  • 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。
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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『これだけ!組織再編&事業承継税制(第3版)』佐藤信祐・長谷川太郎 著、中央経済社、P.155-166
  • 『専門家のための事業承継入門 事例で学ぶ!事業承継フレームワーク』事業承継支援研究会 編、ロギカ書房、P.2-29(第1章)

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。