親の遺産分割が終わらないうちに次の相続が起きたら|分割の当事者、二つの申告、特例と相次相続控除の考え方

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一次相続(たとえば父の相続)の遺産分割がまとまらないうちに、相続人の一人(たとえば母)が亡くなる二次相続が起きた場合、一次相続の遺産分割は、亡くなった母の相続人が母の立場を引き継いで行います。 相続税の申告も二つ必要になり、それぞれに期限があります。

税金の面では、次の点が判断の軸になります。

  • 一次相続の申告期限前に母が亡くなった場合、母の申告義務は母の相続人が引き継ぎ、その期限は母の相続の開始を知った日の翌日から10か月以内になります。
  • 二次相続の財産には、母が一次相続で持っていた未分割の遺産の持分も含めて考える必要があります。
  • 母の相続人を交えて一次相続の分割を行い、母の取得分を確定させれば、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を一次相続で使える取扱いがあります。
  • 二次相続では、一次相続で母に課された相続税を基に相次相続控除を使える場合があります。

この記事では、相続が連続したときの手続の順番と、二つの申告で確認したい論点を整理します。

まず状況を整理する

相続が連続したときは、二つの相続の時間関係を最初に確認します。とくに、二次相続が一次相続の申告期限の前か後かで、進め方が変わります。

状況一次相続の申告二次相続の申告
A:一次相続の申告期限前に、母が申告しないまま亡くなった母の分は、母の相続人が引き継いで申告する。期限は母の相続の開始を知った日の翌日から10か月以内(相続税法27条2項)母の相続について、通常どおり10か月以内に申告
B:一次相続を未分割のまま申告した後に、母が亡くなった申告済み。分割が決まった後に、修正申告や更正の請求を検討する母の相続について、通常どおり10か月以内に申告

いずれの場合も、二次相続の申告には一次相続の遺産をどう扱うかが関わります。

一次相続の遺産分割は誰が行うのか

相続人が複数いる場合、遺産は分割されるまで相続人の共有に属し、各相続人は法定相続分などに応じた持分を持ちます(民法898条)。そして、相続人は被相続人の一切の権利義務を承継します(民法896条)。

この結果、母が一次相続の遺産について持っていた相続人としての地位(遺産分割に加わる立場)は、二次相続によって母の相続人に引き継がれます。一次相続の遺産分割協議は、

  • 一次相続の相続人のうち存命の人
  • 亡くなった母の相続人(母の立場を引き継いだ人)

の全員で行うことになります。たとえば父の相続人が母・長男・長女で、母が亡くなった場合、母の相続人である長男・長女が母の立場も兼ねて、父の遺産を分けることになります。母に別の相続人(たとえば母の前婚の子)がいれば、その人も当事者になります。

協議では、父の遺産のうち「母が取得する財産」を決めることもできます。そうして母の取得分として確定させた財産は、母の遺産として、母の相続人の間で改めて分けることになります。

一次相続の申告:未分割のときの取扱い

一次相続の申告期限までに遺産分割がまとまらない場合、未分割の財産は、各相続人が法定相続分などに従って取得したものとして課税価格を計算して申告します(相続税法55条)。

その後に分割が行われ、取得した財産が法定相続分による計算と異なることになった場合は、修正申告(税額が増える人)や、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内の更正の請求(税額が減る人)を行います(相続税法32条1項1号・55条ただし書)。

未分割のときには小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減を使えませんが、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、3年以内に分割された場合に適用を受けることができます(租税特別措置法69条の4第4項、相続税法19条の2第2項)。未分割申告の流れそのものは、関連記事「遺産分割が後から決まったときの相続税の手続」で詳しく解説しています。

母の取得分を確定させれば、特例を使える取扱い

相続が連続したとき、一次相続で「母が取得した」ことを前提とする特例をどう扱うかが問題になります。母は分割前に亡くなっているため、形式的には母が分割で財産を取得することはできないからです。

この点について、国税庁の通達では次の取扱いが示されています。

  • 小規模宅地等の特例:一次相続の特例対象宅地等が分割される前に共同相続人の一人が亡くなった場合でも、亡くなった人の共同相続人と、一次相続のそれ以外の共同相続人によって分割され、亡くなった人が取得した特例対象宅地等として確定させたものがあれば、その人が分割で取得したものとして扱うことができます(措置法通達69の4-25)。
  • 配偶者の税額軽減:一次相続の財産が分割される前に配偶者が亡くなった場合でも、同様に配偶者の取得した財産として確定させたものがあれば、配偶者が分割で取得したものとして扱うことができます(相続税法基本通達19の2-5)。

家庭裁判所の調停・審判で分割された場合に、亡くなった人の具体的相続分が金額や割合で示されているだけのときも、その人の共同相続人全員の合意で、対応する財産を特定させれば、同様の扱いができることが示されています。

ただし、どちらの特例も分割期限の要件は変わりません。一次相続の申告期限から3年以内(やむを得ない事情があり承認を受けた場合はその後の一定期間)に分割することが前提です。二次相続が起きたことで話合いが長引くと、この期限を過ぎてしまうおそれがあります。

二次相続の申告:一次相続の未分割の遺産をどう含めるか

二次相続の申告時点で一次相続の分割がまだ終わっていない場合、母は一次相続の遺産について法定相続分などに応じた共有持分を持ったまま亡くなったことになります(民法898条2項)。この持分は、母の遺産として二次相続の課税の対象に含めて考えます。

評価の時点は、二次相続で取得した時、つまり母の相続開始時です(相続税法22条)。一次相続の時の評価額ではない点に注意が必要です。

その後、一次相続の分割がまとまり、母の取得分が法定相続分による持分と異なることになれば、二次相続の申告内容にも影響します。母の取得分が増えれば二次相続の税額が増える方向に、減れば減る方向に動きます。このときに、修正申告や更正の請求のどの手続を、いつまでに使えるかは、事実関係によって判断が分かれるため、分割の前に確認しておくことが大切です。

相次相続控除:短い期間に続いた相続の負担を調整する

相次相続控除は、二次相続の被相続人(母)が、二次相続の開始前10年以内に開始した一次相続で財産を取得し、相続税を課されていた場合に、母から相続で財産を取得した相続人の相続税額から一定額を控除する制度です(相続税法20条、国税庁No.4168)。控除額は、母が一次相続で課された相続税額を基に、1年につき10%ずつ逓減する計算で求めます。

一次相続から二次相続までの期間が短いほど、控除額は大きくなります。また、適用対象は相続人に限られ、相続を放棄した人は、遺贈で財産を取得しても適用を受けられません。

一次相続が未分割のまま法定相続分で申告・納税していた場合でも、母は法定相続分に応じて財産を取得したものとして相続税を課されていることから、相次相続控除の計算の基礎になり得ます。控除の計算は、一次相続の申告内容が修正されると連動して変わるため、二つの申告の数字を一緒に管理します。

進め方の順番

AEGISでは、相続が連続したときは次の順で進めることをおすすめしています。

順番やることポイント
1二つの相続の期限を一覧にする一次の申告期限(承継した場合は延びた期限)、3年以内の分割期限、二次の申告期限
2一次相続の当事者を確定する母の相続人(母の前婚の子なども含む)を戸籍で確認
3一次相続の分割方針を決める母の取得分を確定させるか(特例・軽減との関係)、二次相続の税額への影響を試算
4一次相続の分割を成立させる母の取得分として確定させる財産を協議書に明記
5一次相続の修正申告・更正の請求分割を知った日の翌日から4か月以内の手続を確認
6二次相続の申告と見直し一次の分割結果と相次相続控除を反映

ポイントは、一次相続の分け方を、二次相続の税額まで含めて決めることです。母の取得分を多くすれば一次相続では配偶者の税額軽減を使えますが、その財産は二次相続で再び課税されます。二次相続まで見通した分け方の考え方は、関連記事「二次相続まで見通した遺産の分け方」で整理しています。

また、遺産に非上場株式が含まれる場合は、分割されるまでの議決権の行使方法も問題になります。関連記事「株式が相続人の共有になったときの議決権行使」もあわせて確認してください。

AEGISの視点

相続が連続すると、家族は短い期間に二度の喪失と、二つの手続を同時に抱えることになります。一次相続の話合いが進まなかった背景には、すでに家族間の意見の違いがあることも多く、そこに二次相続が重なると、当事者が増え、利害もさらに複雑になります。

AEGISは、この状況を二つの相続を一つの設計図として扱う場面だと考えています。一次相続の分け方は、二次相続の財産と税額を決め、特例を使える期限にも関わります。どちらか一方の申告だけを見て進めると、全体として不利な結果になったり、期限を逃したりするおそれがあります。

まずは二つの相続の期限と当事者を一覧にし、一次相続の分け方の選択肢ごとに二つの相続税の合計を比べるところから始めることをおすすめします。申告後であっても、分割の確定に合わせて二つの申告を点検し直すことで、見落としに気づくことがあります。資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でも考え方を紹介しています。

相続対策の全体像は、親記事「相続対策と事業承継を一体で考える」で整理しています。

相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 一次相続の遺産分割前に相続人が亡くなると、その人の相続人が立場を引き継いで一次相続の分割協議に加わります。
  • 一次相続の申告期限前に亡くなった場合、その人の申告義務は相続人が引き継ぎ、期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内になります。
  • 亡くなった人の取得分として確定させれば、一次相続で小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を使える取扱いがあります。ただし3年以内の分割などの期限要件は変わりません。
  • 二次相続には、一次相続の未分割の遺産の持分を、二次相続開始時の価額で含めて考えます。
  • 相次相続控除は、一次相続から10年以内であれば、期間に応じて使える場合があります。具体的な手続と税額は個別の事情によって異なります。

よくある質問

Q. 父の遺産分割の途中で母が亡くなりました。父の遺産は誰が分けるのですか?

父の相続人のうち存命の人と、母の相続人(母の立場を引き継いだ人)の全員で分割協議を行います。母に前婚の子など他の相続人がいれば、その人も当事者になります。

Q. 父の相続税の申告期限前に母が亡くなりました。母の分の申告期限はどうなりますか?

母が父の相続の申告書を提出しないまま亡くなった場合、その申告は母の相続人が引き継ぎ、期限は母の相続の開始を知った日の翌日から10か月以内となります(相続税法27条2項)。

Q. 母が亡くなった後でも、父の相続で配偶者の税額軽減を使えますか?

母の相続人と父の他の相続人が分割を行い、母が取得した財産として確定させたものがあれば、母が分割で取得したものとして扱うことができます(相続税法基本通達19の2-5)。分割期限の要件は満たす必要があります。

Q. 父の遺産が未分割のまま、母の相続税の申告期限が来そうです。どう申告しますか?

母は父の遺産について法定相続分などに応じた共有持分を持っていたことになるため、その持分を母の遺産に含め、母の相続開始時の価額で評価して申告することが考えられます。分割後に取得分が変わった場合の手続は、事前に確認しておくことが大切です。

Q. 父と母の相続が数年おきに続きました。税負担を調整する仕組みはありますか?

相次相続控除があります。母が父の相続で相続税を課されていた場合、二次相続が10年以内であれば、母の相続人の相続税額から一定額を控除できます。期間が短いほど控除額は大きくなります。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『令和7年版 相続税・贈与税関係 租税特別措置法通達逐条解説』甲斐裕也 編、大蔵財務協会、P.151-154
  • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、P.92-93、P.114

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。