遺贈寄附とは、遺言によって、亡くなった後に財産の一部(または全部)を公益法人・NPO法人・学校法人・自治体などに寄附することです。
生前の寄附と違い、手元の資金を減らさずに「最後に社会へ何を遺すか」を決められる点が特徴です。一方で、遺言の書き方、寄附する財産の種類、受け取る団体の選び方によって、税金や手続の負担が大きく変わります。家族がいる場合は、家族の生活や遺留分への配慮も欠かせません。
この記事では、遺贈寄附の基本的な仕組みと、遺言で寄附を実現するために確認したいことを、税務と家族の両面から整理します。
遺贈寄附とは:社会に財産を遺す3つのルート
「亡くなった後の財産を社会に役立てる」方法は、大きく次の3つに分けられます。本人が遺言で決めるのか、家族に託すのかによって、確実性と税務の扱いが異なります。
| ルート | 誰が寄附を決めるか | 実現の確実性 | 主な税務の論点 |
|---|---|---|---|
| 遺言による寄附(遺贈) | 本人(遺言で指定) | 遺言が有効で、受け手が受け入れれば実現 | 現物の場合は本人のみなし譲渡と非課税の特例 |
| 相続人による相続財産の寄附 | 相続人(本人の希望を受けて) | 相続人の判断に委ねられる | 相続税の非課税の特例(申告期限までの寄附) |
| 遺言による公益信託の設定 | 本人(遺言で信託を設定) | 受託者の引受けと行政庁の認可が必要 | 公益信託の税制 |
本記事では、このうち中心となる遺言による寄附と、それを補う相続人による相続財産の寄附を扱います。信託を使う方法は、関連記事「公益信託の新制度と財団の違い」で比較しています。
財団の設立まで含めた社会貢献の全体像は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。
特定遺贈と包括遺贈の違い
民法は、遺言者が遺言によって、財産の全部または一部を「包括」または「特定」の名義で処分できると定めています。遺贈寄附でも、どちらの形で書くかが最初の分かれ目です。
- 特定遺贈:「〇〇銀行の預金のうち1,000万円を〇〇財団に遺贈する」のように、対象の財産を特定する方法です。受け手は指定された財産だけを受け取ります。
- 包括遺贈:「財産の3分の1を〇〇法人に遺贈する」のように、割合で指定する方法です。民法上、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を持つとされるため、借入金などの債務も割合に応じて引き継ぎ、遺産分割の協議にも加わることになります。
受け手の団体から見ると、包括遺贈は債務の引継ぎや遺産分割への参加という負担を伴います。そのため、金銭による特定遺贈を基本とし、不動産などは換価してから寄附する形(いわゆる清算型の遺贈)を指定する例が多く見られます。不動産や非上場株式の現物は受け入れていない団体もあるため、書く前に受け手の方針を確認しておくことが大切です。
なお、受遺者は遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄できるとされています。受け手が受け取れない財産を指定すると、本人の想いが実現しないまま終わることもあります。
遺贈寄附にかかる税金
遺贈寄附の税務は、「どの財産を」「誰が寄附するか」によって変わります。ここでは、オーナーが特に押さえておきたい3つの論点を整理します。
1. 相続税:寄附した部分は家族の課税対象から外れる
遺贈によって財産を受け取った法人は、原則として相続税の納税義務者にはなりません(相続税法第1条の3は、納税義務者を個人として定めています)。遺贈寄附した財産は家族が取得しないため、その分は家族の相続税の課税対象に含まれない、というのが基本的な考え方です。
ただし、受け手が一般財団法人などの持分の定めのない法人で、寄附によって寄附者の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、その法人を個人とみなして相続税が課される仕組みがあります(相続税法第66条第4項)。家族が役員を占める法人に遺贈する場合は、特に注意が必要です。
2. 所得税:不動産・株式の遺贈には「みなし譲渡」がある
含み益のある不動産や株式を法人に遺贈すると、亡くなった本人がその財産を時価で譲渡したものとみなされ、値上がり益に所得税がかかるのが原則です(国税庁タックスアンサーNo.3105)。この所得税は、相続人が本人に代わって行う準確定申告で納めることになり、実質的には家族の負担になります。
公益法人等への遺贈で一定の要件を満たし、国税庁長官の承認を受けた場合には、この所得税を非課税とする特例があります(租税特別措置法第40条)。国税庁によれば、遺贈の場合の承認申請は遺贈をした人の相続人と包括受遺者が行い、期限は原則として寄附の日から4か月以内(その前に準確定申告の期限が来る場合はその期限まで)です。
承認の要件には、寄附財産が原則として2年以内に受け手の公益目的事業に直接使われることなどが含まれます。たとえば、賃貸用の建物を遺贈して受け手がそのまま賃貸し、賃料を活動に充てる形は、「直接使われた」とは扱われないとする解説もあります。現物の遺贈は、受け手がその財産を何に使うかまで決めておく必要があるということです。金銭の遺贈であれば、みなし譲渡の問題は生じません。
3. 相続人が相続財産を寄附する場合の特例
遺言がなくても、相続人が本人の希望を受けて、相続した財産を寄附することができます。相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限までに国・地方公共団体や公益財団法人などの一定の法人に寄附した場合、または公益信託の信託財産とするために支出した場合には、その財産を相続税の課税対象としない特例があります(租税特別措置法第70条、国税庁タックスアンサーNo.4141)。
この特例には、次のような条件があります。
- 寄附先は、公益社団法人・公益財団法人、社会福祉法人、認定NPO法人など一定の法人に限られ、公益認定を受けていない一般財団法人は含まれません
- 寄附を受けた法人が、2年以内に対象法人でなくなったり、財産を公益目的の事業に使っていなかったりする場合は適用されません
- 寄附した人や親族が、寄附先を通じて特別の利益を受けている場合は適用されません
- 相続税の申告書に、寄附した財産の明細書など一定の書類を添付する必要があります
この特例は、寄附の時点ですでに設立されている法人が対象とされています。「相続後に家族で財団を設立して寄附する」という形では使えない点に注意が必要です。また、相続人の判断に委ねる方法であるため、本人の想いを確実に実現したい場合は、遺言で指定しておくほうが確実です。
受け手をどう選ぶか
遺贈寄附の受け手を選ぶときは、想いに合う活動をしているかに加え、次の点を確認しておくと安心です。
- 法人の種類:公益財団法人、認定NPO法人、学校法人、地方公共団体など。法人の種類によって、税の特例の対象になるかどうかが変わります。
- 遺贈の受入方針:金銭のみか、不動産や有価証券も受け入れるか。換価の手間を受け手が担えるか。
- 使途の指定:特定の事業や地域に使ってほしい場合、その指定を受け入れてもらえるか。基金や冠の名称を付けられるか。
- 継続性:遺言を書いてから実際に寄附が行われるまで、何年も空くことがあります。受け手の活動が続いていくか、定期的に見直すことが大切です。
可能であれば、遺言を書く段階で受け手と事前に相談し、受入れの可否や手続の流れを確認しておくと、死後の行き違いを減らせます。
家族への配慮と遺留分
遺贈寄附は、本人の財産を本人の意思で処分するものです。ただし、家族がいる場合には、遺留分に配慮する必要があります。
民法では、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分が認められており、その割合は、直系尊属のみが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1とされています(これに各自の法定相続分を掛けた割合が、各相続人の遺留分になります)。兄弟姉妹には遺留分がありません。
遺留分を侵害する遺贈があった場合、遺留分を持つ相続人は、受遺者に対して遺留分侵害額に相当する金銭を請求できます。この請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始の時から10年を経過すると行使できなくなります。
寄附を受けた団体が家族から請求を受けるのは、本人が最も望まない展開でしょう。寄附の割合を決める際は、家族の生活に必要な財産と遺留分を先に確保し、その外側で寄附額を決めるのが基本です。遺言の中に、寄附を選んだ理由や家族への想いを書き添えておく(付言事項)ことも、家族の理解を得るうえで役立ちます。
遺言の形式と執行の準備
遺贈寄附は遺言があって初めて実現するため、遺言が確実に見つかり、確実に執行されることが重要です。
- 遺言の形式:公正証書遺言のほか、自筆証書遺言を法務局で保管する制度もあります。保管制度では、遺言者の死亡後に、遺言者があらかじめ指定した人へ保管の事実を通知する仕組みも設けられています。
- 遺言執行者の指定:遺言では、遺言を実行する遺言執行者を指定できます。寄附先への連絡、財産の換価、引渡しまでを担う人を決めておくと、家族の負担を軽くできます。
- 財産の特定:口座や不動産の表示を正確に書き、財産の内容が変わったときは遺言を見直します。
遺言と民事信託(いわゆる家族信託)をどう組み合わせるかは、関連記事「遺言と家族信託の使い分け」で整理しています。
実務上注意したいポイント
- 金額より先に「割合」と「順番」を決める:家族の生活資金・納税資金・遺留分を確保した後に、寄附に回す部分を決めます。
- 現物は「使い道」とセットで考える:不動産や株式は、みなし譲渡と非課税の特例の要件を踏まえ、換価して寄附するか現物で寄附するかを決めます。
- 納税資金を確認する:遺贈寄附で家族の相続税は減りますが、準確定申告の所得税が生じる場合は、その資金をどこから出すかも確認します。
- 相続人がいない場合は特に早めに:子や兄弟姉妹がいない場合、遺言がなければ財産が最終的に国庫に帰属することもあります。この点は関連記事「相続人がいない場合、財産はどうなるか」で扱っています。
AEGISの視点
遺贈寄附は「財産が残ったら寄附する」ものと考えられがちです。しかしAEGISは、遺贈寄附を相続設計の一部として、最初から「何を、誰に、どれだけ遺すか」の中に位置付けるものと考えています。
家族に渡す財産、会社や事業に残す財産、社会に遺す財産。この3つを同じ一枚の上に並べると、遺留分や納税資金とのぶつかり方、現物で遺すか換価して遺すかといった判断が具体的になります。逆に、寄附だけを切り離して遺言に書き込むと、家族の手続や税負担が想定外に重くなることもあります。
もう一つ大切なのは、寄附の理由を言葉にすることです。なぜその団体なのか、なぜその割合なのか。その説明が家族に届いていれば、遺贈寄附は家族にとっても誇りになり得ます。財産を遺す行為を、想いを引き継ぐ行為に変えることが、遺贈寄附の本当の価値だとAEGISは考えています。
遺贈寄附に伴う財産評価やみなし譲渡、相続税の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 遺贈寄附とは、遺言によって亡くなった後に財産の一部を公益法人・NPO法人などに寄附することです。
- 受け手の負担を考え、金銭による特定遺贈や、換価してから寄附する形が多く使われます。包括遺贈では受け手が債務も引き継ぎます。
- 不動産や株式を法人に遺贈すると本人にみなし譲渡課税が生じ得ますが、国税庁長官の承認を受けた場合の非課税の特例があります(申請は原則4か月以内)。
- 相続人が相続税の申告期限までに一定の法人へ相続財産を寄附した場合の非課税の特例もありますが、対象法人や2年以内の使用などの条件があります。
- 家族がいる場合は、遺留分と家族の生活資金を先に確保し、寄附の理由を伝えておくことが大切です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。
よくある質問
Q. 遺贈寄附は、少額でもできますか?
できます。遺言で特定の金額を指定する方法であれば、財産の規模にかかわらず利用できます。受け手の団体によっては最低額や受入れの条件を設けている場合もあるため、事前に確認しておくと安心です。
Q. 遺言を書いた後に、寄附先を変えることはできますか?
遺言は、本人がいつでも新しい遺言を作ることで変更や撤回ができます。受け手の活動内容や本人の考えが変わることもあるため、数年ごとに内容を見直すことが望まれます。
Q. 自宅などの不動産をそのまま寄附できますか?
受け手が不動産の受入れに応じれば可能ですが、受け入れていない団体も少なくありません。また、法人への遺贈はみなし譲渡の対象となり、非課税の特例を受けるには、受け手がその不動産を公益目的の事業に直接使うことなどの要件があります。換価して金銭で寄附する方法とあわせて比較することをおすすめします。
Q. 遺言がなくても、家族が代わりに寄附すれば同じ効果がありますか?
相続人が相続税の申告期限までに一定の法人へ寄附すれば、その財産を相続税の対象外とする特例があります。ただし、寄附するかどうかは相続人の判断になり、寄附先も既存の一定の法人に限られます。本人の想いを確実に実現したい場合は、遺言で指定しておく方が確実です。
Q. 寄附先の団体が遺留分の請求を受けることはありますか?
あります。遺贈が相続人の遺留分を侵害している場合、遺留分を持つ相続人は受遺者である団体に金銭の支払いを請求できます。寄附の割合を決める前に遺留分を計算し、家族と話し合っておくことが、団体と家族の双方を守ることにつながります。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 国税庁 タックスアンサー No.3105「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁「公益法人等に財産を寄附した場合における譲渡所得等の非課税の特例のあらまし」(令和8年4月(令和8年9月改訂))
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020006-125.pdf
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4141「相続財産を公益法人などに寄附したとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4141.htm
確認日:2026-10-07 - e-Gov法令検索「民法」第964条・第986条・第990条・第1006条・第1042条・第1048条(法令API)
https://laws.e-gov.go.jp/api/1/articles;lawId=129AC0000000089;article=1042
確認日:2026-10-07 - 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
確認日:2026-10-07 - 法務省「自筆証書遺言書保管制度」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
確認日:2026-10-07 - e-Gov法令検索「相続税法」(第1条の3、第66条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
確認日:2026-10-09
書籍
- 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
- 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
- 『令和2年版 租税特別措置法第40条関係通達逐条解説』大野隆太 編、大蔵財務協会





