家業や家の財産についての次世代教育は、「後継者を育てること」と「財産を受け継ぐ家族を育てること」を分けて考えるのが出発点です。会社を継ぐのは一人でも、株式や不動産、金融資産は、将来、複数の子や孫に受け継がれていく可能性があるからです。
この記事の結論は次のとおりです。
- 伝える内容は、年代に応じてお金の感覚 → 家業の理解 → 株主としての責任 → 相続の仕組みの順に深めていくと無理がありません。
- 家業を継ぐかどうかの話と、財産を受け継ぐ家族としての教育は切り離して進めます。継がない選択をした子にも、株主や相続人としての学びは必要です。
- 家族会議への参加は、見学 → 報告を聞く → 意見を言う → 議題を持つと段階的に広げ、家業以外の場での経験も大切にします。
なぜ次世代教育が必要なのか
「継ぐのが当たり前」ではなくなった
中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」は、事業承継に占める親族内承継の割合が大きく落ち込んでいることを指摘し、その背景として、事業の将来性への不安や、家業にとらわれない職業選択など、子ども側の多様な価値観の影響を挙げています。子どもが家業を継ぐかどうかは、親が決めることではなく、子ども自身が選ぶことになっています。
だからこそ、選ぶための材料を早くから渡しておくことが大切です。家業のことも、家の財産のことも何も知らされないまま成人した子どもは、「継ぐか、継がないか」を判断する手がかりを持てません。
後継者の育成には時間がかかる
同じガイドラインは、後継者候補が経営者になるために必要だと思う準備期間について、5年以上との回答が約5割を占めるという調査結果を紹介し、後継者教育には十分な期間を準備する必要があるとしています。経営に必要な知識や経験は短期間では身に付かないため、逆算すると、子どもが社会に出る前後から準備が始まることになります。
継がない子も、いずれ「株主」や「相続人」になる
後継者に株式を集中させる設計をしても、他の子には遺留分があり、相続の結果として株式の一部や財産が後継者以外の子に移ることは珍しくありません。会社に関わらない子が株主になったとき、配当や会社の情報の受け止め方を知らなければ、行き違いが生まれやすくなります。次世代教育は、後継者だけでなく家族全員を対象にすることに意味があります。
年代別に「何を、どう」伝えるか
AEGISでは、次世代に伝える内容を4つのテーマに分け、年代に応じて深めていくことをおすすめしています。下の表は一つの目安です。家族の状況や子どもの性格に合わせて調整してください。
| 年代の目安 | お金の感覚 | 家業の理解 | 株主としての責任 | 相続の仕組み |
|---|---|---|---|---|
| 小学生まで | お小遣いのやりくり、働くことと対価 | 親の仕事場を見る、会社の商品やサービスに触れる | — | — |
| 中学・高校生 | 貯蓄と投資の基本、家計の考え方 | 会社の歴史、創業の経緯、地域や取引先とのつながり | 会社は誰のものか、株主・経営者・従業員の違い | 家族のつながりと、財産が受け継がれていくこと |
| 18歳から20代前半 | 自分名義の財産の管理、契約の責任 | 決算書の読み方の入口、インターンや職場体験 | 株主の権利と責任、配当と議決権、株式の譲渡制限 | 遺言・遺留分・相続税の基本的な仕組み |
| 20代後半以降 | 資産全体の見方、借入れと保証の意味 | 家業での勤務または他社での経験を踏まえた理解 | 家族の株主としての方針への参加 | 家族の財産の全体像と、自分に関わる承継の見通し |
小学生まで:働くことの意味を体験で伝える
この時期は、制度や数字を教えるよりも、親が何のために働いているのかを体験として伝えることが中心です。休日に仕事場を見せる、会社の商品を一緒に使ってみる、といった小さな機会の積み重ねが、家業への関心の土台になります。
中学・高校生:家族と会社の歴史を物語として伝える
創業の経緯や、会社が苦しかった時期をどう乗り越えたかといった歴史は、子どもにとって家族の物語でもあります。財産の金額よりも、その財産や会社がどのような努力の上にあるのかを伝えることが、後に財産を受け継ぐときの姿勢につながります。
18歳から:一人の大人として法律上の責任が生まれる
民法では18歳で成年となります(民法第4条)。未成年の間は、子どもの財産は親権者が管理し、財産に関する法律行為も親権者が子を代表して行います(民法第824条)。18歳を過ぎれば、子ども自身が契約の当事者となり、株主であれば自ら議決権を行使する立場になります。
税金の面でも、たとえば贈与税の相続時精算課税は、原則として贈与を受けた年の1月1日に18歳以上の子や孫などが対象です(国税庁 タックスアンサーNo.4103)。成年は、家の財産について「知らされる側」から「自分で判断する側」に変わる節目だといえます。
子どもの名義の財産は、本人が知っていることが前提
相続対策として子どもや孫の名義で預金や株式を持たせている家族もあります。しかし、贈与は、あげる側の意思表示と、もらう側の受諾によって成立する契約です(民法第549条)。本人が財産の存在を知らず、実際の管理も親が続けているような場合には、その財産が本当に子どものものなのかが、後に相続の場面で問題になることがあります。子どもが成長した段階で、名義の財産について説明し、管理を引き継いでいくことは、次世代教育の一部でもあります。
株主としての責任は「権利」と「約束」をセットで伝える
非上場の同族会社の株式は、上場株式のように自由に売ることができないのが一般的です。多くの会社では定款で株式の譲渡に会社の承認を必要としており、相続人に株式の売渡しを求める定め(会社法第174条)を置く会社もあります。次世代に株式の話をするときは、配当を受け取る、議決権を行使するといった権利だけでなく、次の点もあわせて伝えておくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。
- 会社の株式を家族の外に出さないために、どのようなルールがあるのか
- 家族として議決権をどう行使してきたのか、その考え方は何か
- 配当や会社からの情報提供について、家族の中でどのような方針があるのか
家業以外の道を選ぶ子への接し方
家業を継がない選択をした子に対して、親が落胆を隠せないこともあるでしょう。しかし、本人が自分で選んだ道でなければ、たとえ家業に入っても困難な場面で踏ん張る力が生まれにくいものです。後継者の育成に関する専門書でも、後継者が自らの人生の選択として事業を継ぐと決めることの重要性が指摘されています。
継がない子との関係で意識したいのは次の点です。
- 選択を尊重したうえで、家族としての関わり方を話し合う:会社に関わらなくても、株主や相続人として家族の一員であることは変わりません。
- 家業の情報を閉ざさない:継がないと決めた子を家族会議から外すと、将来株主になったときに会社の状況を知る機会がなくなります。
- 他の分野での挑戦を応援する:家業以外で起業したい、学びたいという子を一族としてどう支援するかを考える家族もあります。考え方は関連記事「家業を継がず起業する子をどう支援するか」や「一族の資金で次世代の起業や学びを支援する仕組み」で取り上げています。
家族会議への参加を段階的に広げる
家族会議は、次世代教育の最も実践的な場です。いきなり大人と同じ立場で参加させるのではなく、段階を踏むと無理がありません。
- 見学:行事や近況共有の回に参加し、家族が集まって話し合う雰囲気に触れる。
- 報告を聞く:会社の業績や家の財産の状況についての説明を聞き、分からないことを質問する。
- 意見を言う:テーマを決めて、次世代としての意見を発表する機会を設ける。
- 議題を持つ・進行する:次世代が自ら議題を提案したり、会議の進行役を務めたりする。
家族会議を継続して運営する方法は、関連記事「家族会議(ファミリーミーティング)の続け方」で詳しく解説しています。
外部での経験をどう積ませるか
後継者候補の育成については、事業承継ガイドラインも、社内での教育と社外での教育を組み合わせることを示しています。社内では、各部門をひととおり経験することで現場の知見や従業員との信頼関係が得られます。社外では、取引先や同業他社での勤務を通じて自社を客観的に見る力が養われ、後継者向けの講座や教育機関で経営を体系的に学ぶこともできます。
AEGISでは、外部での経験を考えるときに、次の3点を意識することをおすすめしています。
- 「家業の子」として扱われない環境を選ぶ:取引先での勤務は学びが多い一方、特別扱いされやすい面もあります。評価が率直に返ってくる環境で働く経験は貴重です。
- 戻る時期を決めすぎない:外部での経験の期間をあらかじめ固定しすぎると、本人が経験から得たものを十分に生かせないことがあります。節目ごとに家族で話し合う方が現実的です。
- 経営の数字と人の両方を学ぶ:決算書を読む力と、人を動かす経験の両方が、将来の経営に必要になります。
AEGISの視点
次世代教育というと、後継者をどう育てるかに目が向きがちです。しかしAEGISは、次世代教育の本当の目的は、家族の誰もが、受け継ぐ財産と会社に対して責任ある判断ができるようになることだと考えています。会社を継ぐ子も、継がない子も、いずれ株主や相続人として家族の重要な判断に関わります。
また、次世代教育は、税金や法律の手続とも深く関わっています。子ども名義の財産の扱い、株式の贈与の時期、成年後の財産管理の引継ぎなどは、教育の進み具合と切り離して考えることはできません。財産を移す計画だけが先に進み、受け取る側の準備が追い付いていない状態は、家族にとっても会社にとってもリスクになります。財産を移す時間軸と、次世代が育つ時間軸をそろえて考えることを、AEGISは大切にしています。
家族全体のルールの中で次世代教育をどう位置付けるかは、関連記事「ファミリーガバナンスとは何か」で解説しています。
承継に関わる資産構造や評価の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 次世代教育は、後継者の育成と、財産を受け継ぐ家族全員の教育を分けて考えることが出発点です。
- 年代に応じて、お金の感覚、家業の理解、株主としての責任、相続の仕組みの順に深めていきます。
- 18歳の成年は、家の財産について自分で判断する側に変わる節目です。子ども名義の財産は、本人が知り、管理を引き継いでいくことが前提になります。
- 家業を継がない子にも、株主や相続人としての学びと、家族会議への参加の機会を用意します。
- 外部での経験は、自社を客観的に見る力を養います。進め方は家族と子どもの個別事情によって異なります。
よくある質問
Q. 家の財産のことは、何歳から子どもに話せばよいですか?
金額や内訳を伝える時期は家族によって異なりますが、財産や会社が家族の努力の上にあることは、中学・高校生の頃から物語として伝えられます。具体的な財産の内容や相続の仕組みは、民法上の成年である18歳以降、本人の成熟度を見ながら段階的に伝えるのが一つの目安です。
Q. 子どもが家業を継がないと言った場合、教育は必要ありませんか?
必要です。会社を継がなくても、相続などで株式や財産の一部を受け継ぐ可能性があります。株主としての権利と責任、配当や議決権の意味、家族の財産の全体像を知っておくことは、継がない子にとっても家族にとっても大切です。
Q. 子ども名義の預金や株式があることを、本人に伝えるべきですか?
成長に応じて伝えることをおすすめします。贈与は、もらう側が受け入れることで成立します。本人が知らず、管理も親が続けている財産は、後に相続の場面で誰の財産なのかが問題になることがあります。伝える時期や方法は、税理士などの専門家と相談しながら決めると安心です。
Q. 後継者候補には、家業以外の会社で働く経験が必要ですか?
必須ではありませんが、事業承継ガイドラインでも、他社での勤務経験は経営手法や会社のあり方について多様な経験を積み、自社を客観的に見直す力になると示されています。社内での経験と組み合わせ、本人の資質や会社の実情に合った形を選ぶことが大切です。
Q. 孫の世代にも同じように教育すべきですか?
孫の世代では、親(子世代)の考え方を尊重しながら進めることが大切です。祖父母が直接伝えるよりも、家族会議の行事や近況共有の場に参加してもらい、家族の歴史や価値観に触れる機会をつくる方法が取り組みやすいでしょう。
関連するAEGISのソリューション
この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。
- 事業承継:後継者、経営権、株式、資金、ご家族の意向を確認し、贈与・相続・売買・M&Aなどを比較しながら承継計画を支援します。
- 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入とご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継の実行を一体で検討します。
参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」(令和4年3月改訂)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf
確認日:2026-10-17 - e-Gov法令検索「民法」(第4条、第549条、第824条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089/20260624_508AC0000000045
確認日:2026-10-17 - e-Gov法令検索「会社法」(第2条第17号、第174条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086/20260812_508AC0000000064
確認日:2026-10-17 - 国税庁 タックスアンサー No.4103「相続時精算課税の選択」(令和8年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm
確認日:2026-10-17
書籍
- 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部、辻・本郷 ファミリーオフィス株式会社、岩崎隼人 編著、東峰書房、2025年1月、P.25-26、P.43-44、P.285-286
- 『ファミリービジネス白書 2018年版 ―100年経営とガバナンス―』ファミリービジネス白書企画編集委員会 編、後藤俊夫 監修、白桃書房、2018年5月、P.128-131
- 『専門家のための事業承継入門』事業承継支援研究会 編、ロギカ書房、2018年12月(第3刷 2020年1月)、P.29-60









