夫婦の一方が亡くなったときの相続(一次相続)では、配偶者の税額軽減により、配偶者が取得する財産には相続税がほとんどかからないことがあります。しかし、配偶者に多く相続させるほど、その配偶者が亡くなったときの相続(二次相続)で子どもの税負担が重くなることがあります。
結論から言えば、配偶者の取得割合は「一次相続の税額が最も少なくなる割合」ではなく、一次と二次を通算した税額、配偶者のこれからの生活資金と住まい、不動産を誰が持つと特例や管理がうまくいくか、の3つを並べて決めるのが基本です。税額だけで最適な割合を探すと、配偶者の生活を細らせてしまうこともあります。
この記事では、二次相続で税負担が重くなる仕組みと、分け方を決めるときの考え方を整理します。
二次相続とは
二次相続とは、一次相続で財産を取得した配偶者が亡くなったときの相続をいいます。一般的には、両親のうち一人目が亡くなったときを一次相続、二人目が亡くなったときを二次相続と呼びます。
一次相続と二次相続は、税務上はそれぞれ別の相続として計算されます。ただし、一次相続で配偶者に渡した財産は、配偶者が使い切らない限り、二次相続で再び相続税の対象になります。そのため、一次相続の分け方が、二次相続の税額をほぼ決めてしまうという関係にあります。
なぜ配偶者に多く渡すと二次相続で重くなるのか
理由は大きく3つあります。
1. 二次相続では配偶者の税額軽減が使えない
配偶者の税額軽減は、配偶者が取得した正味の遺産額が「1億6千万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までであれば、配偶者に相続税がかからない仕組みです(国税庁 No.4158)。この制度は配偶者がいる相続でしか使えないため、二次相続では、相続人が子どもだけになる典型的なケースでは利用できません。
2. 相続人の数が減り、基礎控除が小さくなる
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(国税庁 No.4152)。配偶者と子2人の一次相続では法定相続人が3人ですが、二次相続では子2人となり、基礎控除は600万円小さくなります。
3. 財産が一人に集まり、累進税率が高くなる
相続税は、課税遺産総額を法定相続分で分けた金額ごとに累進税率(10%〜55%)を適用して計算します(国税庁 No.4152・No.4155)。配偶者の財産に一次相続で受け取った財産が上乗せされると、二次相続の課税遺産総額が大きくなり、より高い税率の区分にかかりやすくなります。
数字で見る一次・二次の通算税額
イメージをつかむため、簡単な例で比べてみます。
前提:夫が亡くなり、財産(課税価格)は2億円。相続人は妻と子2人。二次相続は妻が亡くなったとき(相続人は子2人)とし、一次相続で取得した財産はそのまま残るものと仮定します。財産の値動き、相次相続控除、小規模宅地等の特例などは考慮していません。
| 配偶者の取得割合(一次) | 一次相続の税額 | 二次相続の税額(妻の固有財産なし) | 通算 | 二次相続の税額(妻の固有財産5,000万円) | 通算 |
|---|---|---|---|---|---|
| 0% | 約2,700万円 | 0円 | 約2,700万円 | 約80万円 | 約2,780万円 |
| 25% | 約2,025万円 | 約80万円 | 約2,105万円 | 約770万円 | 約2,795万円 |
| 50% | 約1,350万円 | 約770万円 | 約2,120万円 | 約1,840万円 | 約3,190万円 |
| 100% | 約540万円 | 約3,340万円 | 約3,880万円 | 約4,920万円 | 約5,460万円 |
※国税庁の速算表・基礎控除の算式に基づきAEGISが試算した説明用の概算です。実際の税額は財産の評価、特例の適用、二次相続までの期間や財産の増減によって大きく変わります。
この例から読み取れることは、次のとおりです。
- 配偶者に全財産を相続させると、一次相続の税額は最も小さくなりますが、通算では最も重くなります。
- 配偶者に固有の財産がない場合は、一部を配偶者が取得する分け方で通算税額が小さくなる傾向があります。
- 配偶者に固有の財産がある場合は、配偶者の取得を少なくするほど通算税額が小さくなる傾向があります。
つまり、「法定相続分まで配偶者が取得する」や「1億6千万円まで配偶者に渡す」といった目安が、どの家庭にも最適というわけではありません。配偶者自身の財産の大きさが、分け方を大きく左右します。
税額以外に必ず確認したい3つのこと
通算税額が小さくなる割合が分かっても、それだけで決めると後悔につながることがあります。次の3点をあわせて確認します。
1. 配偶者の生活資金
配偶者がこれから何年、どのような生活を送るかによって、必要な資金は変わります。介護や住み替えの可能性、医療費なども含めて考えると、配偶者に一定の金融資産を残すことは、税額よりも優先すべき場合があります。また、配偶者が生活の中で使った財産は二次相続の対象から外れるため、「使う予定の資金」を配偶者に渡すことは、税の面からも理にかなっていることが多いといえます。
2. 配偶者の住まい
自宅を誰が取得するかは、配偶者の住まいの安心と、子どもへの承継の両方に関わります。令和2年4月1日に施行された民法の改正で創設された配偶者居住権は、配偶者が無償で自宅に住み続ける権利を、遺産分割や遺言による遺贈で取得できる制度です(法務省)。自宅の所有権を子が、居住権を配偶者が取得するという分け方も選択肢の一つになりました。
配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅するため、二次相続の財産から外れるという性質があります。一方で、設定後は自由に売却しにくくなるなどの制約もあるため、住み替えの可能性や家族関係を踏まえて検討することが大切です。
3. 不動産の配分と小規模宅地等の特例
自宅の敷地については、要件を満たせば限度面積330㎡まで評価額を80%減額できる小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)があります(国税庁 No.4124)。この特例は、誰が取得するかによって要件が変わります。
| 取得する人 | 主な要件(概要) |
|---|---|
| 配偶者 | 取得者ごとの要件はない |
| 同居していた親族 | 申告期限まで引き続き居住し、かつ所有していること |
| 同居していない親族 | 被相続人に配偶者や同居の相続人がいないこと、一定期間持ち家に住んでいないことなど、複数の要件をすべて満たすこと |
※国税庁 No.4124 の記載をもとにAEGISが整理。実際の要件は詳細に確認が必要です。
一次相続で配偶者が自宅を取得すれば特例は使いやすくなります。しかし、二次相続のときに同居している子がいない場合、二次相続では特例を使えない可能性があります。一次相続で使える特例と、二次相続で使えそうな特例をセットで見ることが欠かせません。
賃貸不動産がある場合は、家賃収入を誰が受け取るかも論点です。配偶者が取得すれば生活資金になりますが、収入が配偶者に積み上がると二次相続の財産も増えていきます。子が取得すれば、収入は子の手元に残ります。
分け方を決める手順
AEGISでは、次の順番で検討することをおすすめしています。
- 財産と家族の現状を把握する:夫婦それぞれの財産、子の状況、自宅や賃貸不動産の利用状況を一覧にします。
- 配偶者に必要な資金と住まいを先に決める:生活資金の目安と、自宅に住み続けるか住み替えるかの方針を決めます。
- 配偶者の取得割合を複数パターンで試算する:一次・二次の通算税額を、配偶者の固有財産も含めて比較します。
- 不動産の取得者を特例と管理の両面から決める:小規模宅地等の特例の要件、賃貸経営を担える人、共有を避けられるかを確認します。
- 納税資金を確認する:一次相続・二次相続それぞれで、申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)までに納税できるかを確認します。
- 遺言や生前の準備に落とし込む:決めた方針を遺言や家族の話し合いに反映します。
実務上注意したいポイント
- 申告期限までに遺産分割がまとまらないと、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は原則として使えません(国税庁 No.4208)。申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、期限から3年以内に分割すれば適用を受けられますが、その場合は分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求が必要です(国税庁 No.4158)。
- 配偶者の税額軽減は、申告して初めて適用されます。税額がゼロになる場合でも申告書の提出が必要です(国税庁 No.4158)。
- 二次相続が一次相続から10年以内に起きた場合は、一次相続で配偶者が納めた相続税の一部を二次相続の税額から差し引ける相次相続控除があります(国税庁 No.4168)。一次相続で配偶者が税額を負担していない場合、この控除の効果は限られます。
- 年齢や健康状態だけで二次相続の時期を想定しないことも大切です。試算は「近い将来」と「長い期間後」の両方で行い、結論が大きく変わらない分け方を探すと判断が安定します。
AEGISの視点
二次相続の対策というと、「配偶者に何%渡すと税金が最も少ないか」という問いに注目が集まりがちです。もちろん通算税額の比較は欠かせませんが、AEGISはこの問いを「配偶者の残りの人生と、次の世代への承継を、一つの計画として設計すること」と捉えています。
配偶者に渡す財産は、配偶者の生活を支えると同時に、いずれ子へ渡る財産でもあります。現金・自宅・賃貸不動産・自社株式など、財産ごとに「配偶者が持つ意味」と「子が早く持つ意味」は異なります。たとえば、生活に使う金融資産は配偶者に、値上がりや収益が見込まれる不動産は早めに子に、という組み合わせは、税と生活の両面で筋の通った考え方になりやすいものです。
また、二次相続では、親という調整役がいなくなるため、兄弟姉妹間の話し合いが難しくなることがあります。一次相続の時点で、二次相続まで含めた全体の方針を家族で共有しておくことは、税負担以上に大きな意味を持ちます。
相続税の概算に必要な情報は関連記事「相続税の概算に必要な情報とは」で、納税資金の準備については「相続税の納税資金をどう準備するか」で解説しています。全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」をご覧ください。
不動産や自社株式を含む相続の評価・特例の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。
まとめ
- 二次相続では配偶者の税額軽減が使えず、相続人の数も減るため、一次相続で配偶者に多く渡すほど二次相続の税負担が重くなりやすくなります。
- 配偶者の取得割合は、一次と二次の通算税額で比較します。配偶者自身の財産が多いほど、配偶者の取得を抑える方向に働く傾向があります。
- 税額だけでなく、配偶者の生活資金、住まい(配偶者居住権を含む)、不動産の取得者と小規模宅地等の特例をあわせて検討します。
- 申告期限までの遺産分割と、特例の適用のための申告が前提になります。
- 最適な分け方は家族と財産の状況によって大きく異なるため、複数のパターンで試算して判断することが大切です。
よくある質問
Q. 配偶者は1億6千万円まで相続税がかからないなら、1億6千万円まで相続させるのが得ですか?
一次相続の税額だけを見れば有利に見えますが、二次相続まで通算すると不利になることがあります。特に配偶者自身に一定の財産がある場合は、二次相続の税額が大きく増える可能性があります。配偶者の固有財産を含めて、一次・二次の通算で比較することが大切です。
Q. 二次相続の対策として、配偶者は何も相続しないほうがよいのでしょうか?
税額の試算でそのような結果になることもありますが、配偶者の生活資金や住まいを確保できなければ本末転倒です。配偶者がこれからの生活で使う資金は、配偶者が取得しても二次相続の負担にはつながりにくいため、生活に必要な額を先に確保したうえで、残りの配分を考える方法が現実的です。
Q. 配偶者居住権を設定すると、二次相続の税金は少なくなりますか?
配偶者居住権は配偶者の死亡によって消滅するため、二次相続の財産には含まれません。その意味で二次相続の財産を小さくする効果があります。ただし、自宅の売却や住み替えがしにくくなる、小規模宅地等の特例との関係で有利不利が分かれるなどの論点もあるため、個別の試算と家族の意向を踏まえて判断します。
Q. 遺産分割がまとまらないまま申告期限が来たらどうなりますか?
法定相続分で取得したものとして申告し、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は原則として使えません。「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、その期間内に分割がまとまれば、更正の請求によって特例を適用した税額に見直すことができます。
Q. 一次相続のときに、二次相続の試算まで必要ですか?
配偶者の取得割合を決めるうえで、二次相続の試算は欠かせない判断材料です。二次相続の時期や財産の増減は分からないため、いくつかの前提で試算し、どの前提でも大きく不利にならない分け方を探すと、判断が安定します。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 国税庁 タックスアンサー No.4158「配偶者の税額の軽減」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4152「相続税の計算」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4155「相続税の税率」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4132「相続人の範囲と法定相続分」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4132.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4124「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4168「相次相続控除」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4168.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4208「相続財産が分割されていないときの申告」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4208.htm
確認日:2026-10-07 - 法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00028.html
確認日:2026-10-07
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