資産管理会社で物件を買い増そうとしたとき、金融機関から「決算書を3期分見せてください」と言われることがあります。そして、思っていたほど融資の条件が良くならない、あるいは追加の担保や保証を求められる、といった経験をするオーナーも少なくありません。
結論から言えば、金融機関は資産管理会社の決算書を通じて、①借入れを返していける収益力があるか、②財務が健全か(債務超過になっていないか)、③会社とオーナー個人の関係が整理され、情報が正しく開示されているかを見ています。税負担を抑えることだけを目的にした決算は、この3つの見え方を悪くし、次の融資に影響することがあります。
この記事では、金融機関が決算書のどこを見ているかを整理し、債務超過・役員借入金・利益の圧縮・連帯保証という4つの論点について、オーナーとしての考え方を解説します。
金融機関が見ている3つの視点
金融機関の審査の具体的な基準は機関ごとに異なり、公表されていません。ただし、中小企業の融資に関する公的なルールからも、どのような点が重視されるかを読み取ることができます。
全国銀行協会と日本商工会議所が策定した「経営者保証に関するガイドライン」(平成26年2月1日適用開始)は、経営者保証を求めない融資を検討する際の要件として、次の3つを示しています(中小企業庁ウェブサイト)。
- 法人と経営者の資産の所有や資金のやりとりが明確に区分・分離されていること
- 法人のみの資産や収益力で返済できるだけの財務基盤があること
- 金融機関に対して、財務情報が適時適切に開示されていること
この3要件は、経営者保証の扱いだけでなく、資産管理会社の決算書が金融機関にどう見えるかを考える物差しとしても役立ちます。また、東京都の制度融資を例にとると、保証を行う信用保証協会は、経営者の人物、資金の使い道、返済能力などを総合的に判断して保証の可否や金額を決めるとされています。
決算書のどこを見られているか
資産管理会社の決算書で、金融機関が特に注目しやすい項目を、AEGISの整理で一覧にすると次のようになります。
| 決算書の項目 | 金融機関の関心 | オーナーとして準備しておきたいこと |
|---|---|---|
| 賃料収入 | 安定して入っているか、物件ごとの稼働はどうか | 物件別の賃料・稼働率の一覧 |
| 減価償却費 | 現金の支出を伴わない費用として、返済原資に足し戻して見られることが多い | 償却の方法と、物件ごとの償却費 |
| 支払利息・返済額 | 収益で利息と元本を返せているか | 借入金ごとの残高と返済予定表 |
| 役員報酬・家族への給与 | 会社から個人へ流れる金額が過大でないか | 役員の職務内容と報酬の決め方 |
| 純資産(自己資本) | マイナス(債務超過)になっていないか | 債務超過の理由と、解消の見通し |
| 役員借入金・貸付金 | 会社と個人のお金の区分ができているか | 貸し借りの経緯と残高の明細 |
| 不動産の帳簿価額 | 時価と比べて含み益・含み損はあるか | 物件ごとの時価の目安 |
ポイントは、金融機関が損益計算書の「利益」だけを見ているわけではないということです。資産管理会社のように減価償却費の大きい会社では、利益に減価償却費を足し戻した金額(キャッシュフロー)で、借入れの返済が賄えているかが重視されやすくなります。
論点1:債務超過は「理由」と「見通し」を説明する
債務超過とは、負債の合計が資産の合計(帳簿価額)を上回り、純資産がマイナスになっている状態です。資産管理会社では、物件取得の初期に諸費用や減価償却費が大きく計上されることや、設立時の資本金が小さいことから、設立から数年は債務超過になりやすい面があります。
決算書上の債務超過がただちに融資を受けられないことを意味するわけではありませんが、審査上は不利な材料として見られやすい項目です。大切なのは、次の点を説明できるようにしておくことです。
- 債務超過がどの費用から生じているか(初期費用・減価償却費など)
- 保有物件の時価で見直すと、実質的な財務の状態はどうか
- 今後何年で解消する見通しか
論点2:役員借入金は「区分」と「扱い」を整理する
資産管理会社では、オーナー個人が会社にお金を貸している(会社から見て役員借入金)ケースがよくあります。金融機関によっては、返済を急がない代表者からの借入金を、実質的に自己資本に近いものとして考慮する場合もありますが、その扱いは金融機関ごとに異なります。
注意したいのは、役員借入金がいつ、何のために生じ、どう返す予定なのかが曖昧なまま膨らんでいる状態です。これは、ガイドラインの要件にある「法人と経営者の資金のやりとりの区分」が整理されていない状態とも言えます。また、債務超過の解消のためにオーナーが貸付金を放棄(債務免除)すると、会社側では原則として債務免除益が生じ、法人税の課税の対象になる点にも注意が必要です。貸付金の整理の仕方には、資本への振替なども含めて複数の方法があるため、税務と財務の両面から検討します。
会社とオーナーの間の貸し借りの整理は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で詳しく解説しています。
論点3:利益を圧縮した決算は、次の融資で「返済余力の小ささ」に見える
税負担を抑えるために、役員報酬を高く設定したり、費用を前倒しで計上したりして、会社の利益を小さくする決算は珍しくありません。しかし、金融機関から見れば、利益が小さい決算は「返済に回せる余力が小さい会社」に映ります。
たとえば次のような選択は、税務上の効果と、融資での見え方の両方から考える必要があります。
- 役員報酬:会社から個人へ多く支払うほど会社の利益は減ります。役員報酬は事業年度の初めに決めた額を毎月同額で支払うのが基本で、期の途中で簡単には変えられないため、次の買い増し計画を踏まえて設定します。
- 減価償却:法人税法上、減価償却費は会社が損金経理した金額のうち償却限度額までが損金になります(法人税法第31条)。償却費を計上しない決算は利益を大きく見せますが、金融機関は償却費を足し戻して見ることが多いため、見かけの利益を増やしても評価が大きく変わるとは限りません。
- 保険や前払費用:支出による税負担の軽減と、手元資金の減少の両面を確認します。
大切なのは、決算を「税金を最小にする」ためだけでなく、「次の資金調達に向けて会社の実力を正しく示す」ものとしても設計することです。数年先の買い増しの計画があるなら、税負担と融資の見え方のどちらを優先する期なのかを、決算前に決めておくことをおすすめします。
論点4:オーナー個人の連帯保証と、個人の資料
資産管理会社の融資では、オーナー個人の連帯保証を求められることが多くあります。資産管理会社は収益源が不動産に限られ、オーナー個人の資産や収入と一体で見られやすいためです。審査では、会社の決算書に加えて、オーナー個人の確定申告書や資産・負債の一覧を求められることもあります。
ガイドラインの3要件を将来にわたって満たせる体制を整えることで、経営者保証を求めない融資や既存の保証の見直しが検討される場合があるとされています。ただし、保証を外すかどうかの最終的な判断は金融機関に委ねられます。経営者保証を外すための準備の考え方は、関連記事「経営者保証を外して事業承継する方法」でも整理しています。
金利が上がる局面で、決算書の重みは増す
日本銀行の統計で国内銀行の新規貸出約定平均金利(総合)は、2025年8月の1.149%から2026年8月には1.782%に上昇しました。金利が上がると、同じ借入額でも利息の負担が増え、収益で返済を賄えるかどうかの余裕が小さくなります。金融機関の審査でも、返済余力の確認はより慎重になりやすいと考えられます。
金融機関への説明資料を整える
決算書だけでは伝わらない情報を補うため、次のような資料を用意しておくと、金融機関との対話がしやすくなります。
| 資料 | 内容 | 伝わること |
|---|---|---|
| 物件別収支表 | 物件ごとの賃料・稼働率・経費・返済額 | 収益の安定性と、弱い物件の有無 |
| 借入金一覧 | 金融機関別の残高・金利・返済期間・担保 | 返済負担の全体像 |
| 資産一覧(時価) | 物件ごとの帳簿価額と時価の目安 | 実質的な財務の状態 |
| 今後の計画 | 買い増し・修繕・売却の予定と資金計画 | 借入れの使い道と返済の道筋 |
| 会社と個人の関係 | 役員報酬・貸借・保証の状況 | 資金の区分と透明性 |
これらは、融資を申し込むときだけでなく、決算のたびに更新しておくことで、金融機関との継続的な関係づくりにも役立ちます。
AEGISの視点
資産管理会社の決算は、どうしても「税金をいくら納めるか」に目が向きがちです。しかし、物件を買い増していく段階にある会社にとって、決算書は金融機関に会社の実力を伝える、最も重要な対外資料でもあります。
AEGISは、資産管理会社の決算を、税務と財務の両方の目的を持つものとして設計することが大切だと考えています。税負担を抑える選択が、次の融資の条件を悪くし、結果として資産形成のスピードを落としてしまうのであれば、それは全体として最適とは言えません。会社と個人のお金を区分し、物件ごとの収支を見える化し、計画とともに説明できる状態をつくること。それが、オーナー個人の保証に頼りすぎない資産管理会社への第一歩になります。
資産管理会社の設立を検討する際の比較の軸は、親記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で、次の物件を個人と会社のどちらで買うかは関連記事「個人で買うか、資産管理会社で買うか」で整理しています。
まとめ
- 金融機関は資産管理会社の決算書から、返済の余力、財務の健全性、会社と個人の区分と情報開示の3点を見ています。
- 減価償却費の大きい会社では、利益に償却費を足し戻したキャッシュフローで返済が賄えているかが重視されやすくなります。
- 債務超過は理由と解消の見通しを、役員借入金は経緯と扱いを説明できるようにしておきます。
- 利益を圧縮した決算は、次の融資では返済余力の小ささに見えることがあります。税務と融資の両面から決算を設計します。
- 融資の可否や条件は金融機関と個別の状況によって異なります。
よくある質問
Q. 資産管理会社が債務超過だと、融資は受けられませんか?
ただちに受けられないとは限りませんが、審査上は不利な材料として見られやすい項目です。債務超過の原因、保有物件の時価で見た実質的な財務の状態、解消の見通しを、資料とともに説明できるようにしておくことが大切です。
Q. 役員借入金は、金融機関から自己資本として見てもらえますか?
金融機関によっては、返済を急がない代表者からの借入金を自己資本に近いものとして考慮する場合がありますが、扱いは機関ごとに異なります。借入れの経緯と返済の予定を明確にし、必要に応じて金融機関に確認してください。
Q. 減価償却費を計上しなければ、決算の見栄えは良くなりますか?
利益は大きく見えますが、金融機関は減価償却費を足し戻してキャッシュフローを見ることが多いため、評価が大きく改善するとは限りません。税務上の影響もあるため、償却の方針は継続性を踏まえて判断します。
Q. 資産管理会社の融資で、オーナー個人の連帯保証は外せますか?
経営者保証に関するガイドラインの3要件(資産・資金の区分、法人のみでの返済力、適時適切な情報開示)を満たす体制を整えることで、保証を求めない融資や保証の見直しが検討される場合があります。最終的な判断は金融機関に委ねられます。
Q. 決算書以外に、金融機関に提出するとよい資料はありますか?
物件別の収支表、借入金の一覧、物件の時価の目安を含む資産一覧、今後の買い増しや修繕の計画などが考えられます。決算のたびに更新しておくと、金融機関との継続的な対話に役立ちます。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 中小企業庁「経営者保証」(経営者保証に関するガイドラインの概要)
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/index.html
確認日:2026-10-10 - 日本銀行「貸出約定平均金利」(国内銀行、新規・総合、2026年8月分)
https://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/mtshtml/ir04_m_1.html
確認日:2026-10-10 - e-Gov法令検索「法人税法」(第31条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034/20261001_508AC0000000012
確認日:2026-10-10 - 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」(令和7年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
確認日:2026-10-10
書籍
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