相続した農地・生産緑地をどうするか|続ける・貸す・転用するを、特定生産緑地と納税猶予から比べる

草地の未利用地で、資料を手に話し合う土地オーナーと企画担当者

相続した農地をどうするかは、「農業を続ける」「農地のまま貸す」「宅地などに転用する・売却する」の3つの方向から考えるのが基本です。ただし、宅地とは異なり、農地には生産緑地の指定、相続税の納税猶予、農地法の許可といった固有の制度が重なっています。どの選択肢を選ぶかによって、過去に猶予された相続税と利子税の納付が必要になったり、固定資産税の負担が大きく変わったりすることがあります。

この記事では、主に都市部の市街化区域内にある農地、とくに生産緑地を相続した方を想定して、判断の前に確認したいことと、3つの選択肢の比べ方を整理します。

まず確認したい4つのこと

選択肢を比べる前に、相続した農地が「どのような状態にあるか」を確認します。同じ農地でも、次の4点によって取れる選択肢が大きく変わります。

  1. 区域:市街化区域か、市街化調整区域か。三大都市圏の特定市に当たるか
  2. 生産緑地の指定:生産緑地か。特定生産緑地の指定を受けているか、その指定期限はいつか
  3. 納税猶予の適用:今回の相続や過去の相続で、相続税の納税猶予を受けている(受けようとしている)か
  4. 家族の意向:農業を続けたい相続人がいるか、誰が農地を取得するか

生産緑地かどうかは、市区町村の都市計画の担当課で確認できます。固定資産税の課税明細書や名寄帳の記載から分かる場合もあります。

生産緑地と特定生産緑地の仕組み

生産緑地とは

生産緑地は、市街化区域内の農地のうち、良好な生活環境の確保に効用があり、一定の規模(原則500㎡以上、市区町村の条例により300㎡以上まで引下げ可能)を備えた農地について、都市計画で指定されるものです。指定されると、建物の新築や宅地の造成などには市町村長の許可が必要になり、農業に必要な施設などを除いて、原則として農地以外には使えなくなります。

その代わり、固定資産税では、市街化区域内の農地に適用される宅地並みの課税に対し、生産緑地には軽減措置が講じられています。また、後で説明する相続税の納税猶予の対象にもなります。

買取りの申出と行為制限の解除

生産緑地の所有者は、次のいずれかに当たる場合、市町村長に対して時価での買取りを申し出ることができます。

  • 生産緑地の告示の日から30年を経過したとき(特定生産緑地は指定期限日以後)
  • 農業の主たる従事者が死亡したとき、または農業に従事できない故障を有するに至ったとき

申出の日から3か月以内に所有権の移転が行われなかった場合には、行為の制限が解除され、宅地への転用などが可能になります。

特定生産緑地とは

平成29年の生産緑地法の改正で、告示から30年を迎える前に、市町村長が所有者の同意を得て特定生産緑地に指定できる制度が設けられました。特定生産緑地は、買取りの申出ができる時期が10年先送りされ、さらに10年ごとに指定期限を延長できます。

特定生産緑地の指定を受けなかった生産緑地は、買取りの申出をしない場合でも、これまでの税制上の措置が受けられなくなるとされています。指定期限がいつ到来し、延長するかどうかは、相続した後の判断に直結する論点です。

相続税の納税猶予の仕組み

どのような制度か

農業を営んでいた被相続人などから、一定の相続人が農地等を相続し、農業を続ける場合には、一定の要件のもとで、農地等の価額のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税の納税が猶予されます(国税庁 No.4147)。三大都市圏の特定市の市街化区域内にある農地は、生産緑地地区内の農地など一定のものに限って対象になります。

猶予された税額が免除される場合

猶予された相続税は、農業を続けた相続人が死亡した場合などに免除されます。市街化区域外の農地では、申告期限の翌日から20年間農業を続けた場合も免除の対象になりますが、生産緑地など都市営農農地等(東京都の特別区や三大都市圏の特定の市の市街化区域内にある、生産緑地地区内の農地など)を有する相続人は、この20年での免除の対象外とされています(租税特別措置法70条の6)。つまり、都市部の生産緑地で納税猶予を受ける場合は、原則として生涯にわたり農業を続けることが前提になります。

猶予が打ち切られる場合

次のような場合には、猶予されていた相続税の全部または一部と、利子税をあわせて納付する必要があります。

  • 特例の対象となった農地等の面積の20%を超えて、譲渡・贈与・転用などをした場合(20%以下の場合は、その割合に応じて納付)
  • 農業経営を廃止した場合
  • 3年ごとの継続届出書を提出しなかった場合
  • 生産緑地について買取りの申出をした場合
  • 特定生産緑地の指定を受けなかった場合、指定期限の延長をしなかった場合、指定が解除された場合

利子税は、猶予期間に応じて計算されるため、猶予を受けてから年数が経っているほど負担が大きくなりえます。なお、相続時精算課税の適用を受ける農地等には、この特例は使えません(国税庁 No.4147)。

相続税の評価:生産緑地は利用の制限を反映する

生産緑地は、生産緑地でないものとして評価した価額から、買取りの申出ができるまでの期間に応じた割合(5%〜35%)を控除して評価します(財産評価基本通達40-3)。課税時期に買取りの申出ができる生産緑地は5%の控除です。農業の主たる従事者が亡くなった場合には、相続人は買取りの申出ができる状態になるため、控除の割合が小さくなることがあります。

市街化区域内の農地の評価は、宅地であるとした場合の価額から宅地造成費を差し引く方法が基本で、宅地に近い水準の評価になることが少なくありません。また、小規模宅地等の特例は、建物や構築物の敷地である宅地等が対象で、農地は対象外とされています(国税庁 No.4124)。農地の相続では、評価額が高いわりに特例による減額が見込めず、納税資金をどう確保するかが大きな論点になります。納税資金の準備の考え方は、関連記事「相続税の納税資金をどう準備するか」で整理しています。

3つの選択肢を比べる

項目農業を続ける農地のまま貸す転用・売却する
生産緑地の指定維持(特定生産緑地の指定・延長)維持買取りの申出→制限解除
相続税の納税猶予継続(都市部では原則終身)一定の貸付けなら継続しうる打切り(猶予税額と利子税を納付)
固定資産税軽減措置が続く軽減措置が続く宅地並みの課税へ
家族の負担営農の担い手が必要借り手の確保と契約管理開発・活用・売却の判断と資金
将来の自由度低い低い(ただし営農の負担は軽い)高い

※AEGIS作成。具体的な扱いは、区域・指定の状況・納税猶予の適用の有無によって異なります。

農業を続ける

相続人の中に農業を続けたい人がいる場合は、最も制度に沿った選択肢です。納税猶予を受ければ、相続時の納税負担を大きく抑えられます。一方で、都市部の生産緑地では猶予が原則として終身にわたり、途中で営農をやめれば利子税を含めた納付が必要になります。その相続人が、本当に生涯農業を続けられるかを、家族で現実的に話し合うことが出発点です。

農地のまま貸す

自ら耕作するのは難しいが、農地としては残したい場合の選択肢です。従来、農地を貸すと農地法の規定により契約が更新されやすく、返してもらいにくいことが、貸付けをためらう理由になっていました。

平成30年に制定された都市農地の貸借の円滑化に関する法律(都市農地貸借法)では、生産緑地地区内の農地について、市町村長の認定を受けた事業計画に従って貸し付ける場合、農地法の許可が不要とされ、農地法の法定更新の規定も適用されないこととされています。さらに、この仕組みによる貸付け(認定都市農地貸付け)や、市民農園としての貸付け(農園用地貸付け)、農地中間管理事業の仕組みを使った貸付け(特定貸付け)では、一定の要件のもとで相続税の納税猶予が継続されます。貸付けの方法を誤ると猶予が打ち切られるおそれがあるため、制度の要件に沿った貸し方かどうかを事前に確認することが大切です。

転用・売却する

宅地として活用したり売却したりする場合は、生産緑地の買取りの申出を行い、市町村が買い取らず、ほかの農業者へのあっせんも成立しなければ、3か月後に行為の制限が解除されます。市街化区域内の農地の転用は、農業委員会への届出で足りるのが原則です。

ただし、納税猶予を受けている場合は、買取りの申出の時点で猶予が打ち切られ、猶予税額と利子税の納付が必要になります。また、生産緑地でなくなれば固定資産税は宅地並みの課税になり、保有コストが上がります。解除後に土地をどう使うか(売却、定期借地、賃貸住宅、事業用地など)の計画と、納付に必要な資金の見通しを申出の前に立てておくことが重要です。土地を貸す場合の考え方は、関連記事「定期借地で土地を貸すときの考え方」で解説しています。

判断の順番

順番確認すること主な確認先
1区域、生産緑地・特定生産緑地の指定と指定期限市区町村の都市計画の担当課
2過去の相続を含む納税猶予の適用状況、打切り時の税額と利子税の見込み過去の申告書、税理士
3相続人の営農の意向と、担い手の有無家族、農業委員会
4貸付けの可能性(都市農地貸借法、市民農園など)市区町村、農業委員会
5転用した場合の活用・売却の見通しと収支不動産・建築の専門家
6相続税の納税資金と、ほかの財産を含めた分け方税理士、家族

実務上注意したいポイント

  • 主たる従事者の死亡と買取りの申出:相続をきっかけに買取りの申出ができるようになりますが、相続人が納税猶予を受ける場合には、申出が猶予の打切り事由になります。申出の要否は、納税猶予の方針と一体で判断しましょう。
  • 指定期限の管理:特定生産緑地の指定期限の延長をしなかった場合も、納税猶予の打切り事由になります。期限を家族で共有しておくことが大切です。
  • 申告期限との関係:相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。納税猶予を受けるかどうかは、この期間内に、遺産分割とあわせて判断する必要があります。納税猶予を受ける相続人は、申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められることについて農業委員会の証明を受けることや、申告期限までに担保を提供することが必要です(租税特別措置法70条の6、同法施行令40条の7)。
  • 相続による取得の届出:相続で農地を取得した場合、農地法の許可は不要ですが、農業委員会への届出が必要です。

具体的な適用の可否や税額は、農地の状況と家族の事情によって異なります。

AEGISの視点

都市部の農地の相続では、「今回の相続税をいくら抑えられるか」に目が向きがちです。納税猶予は確かに大きな効果がありますが、AEGISは、猶予を受けることは、将来の土地の使い方を長期にわたって固定する選択でもあると考えています。

生産緑地で納税猶予を受ければ、農業を続ける相続人は原則として生涯その選択に縛られます。途中で営農が難しくなったとき、貸付けで猶予を継続できるのか、転用して猶予税額と利子税を納めるのか。その判断の時点で、手元に資金があるか、ほかの財産で対応できるかによって、取れる選択肢は変わります。

そこでAEGISは、農地を「誰が、いつまで、どのような形で関わるか」という時間軸の上で設計することをおすすめしています。営農を続ける期間、貸付けに切り替える可能性、転用するとしたらその後の活用の姿、そしてそのときの納税資金。これらを、宅地や金融資産などほかの財産の分け方と一緒に考えることで、家族にとって無理のない選択が見えてきます。自宅や賃貸物件の敷地など、小規模宅地等の特例の対象となる土地を誰が取得するかとの組み合わせは「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」で解説しています。

土地を貸す・活用する・売却するという大きな選択肢の比較は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で解説しています。

農地の評価や納税猶予など資産税の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 相続した農地は、「続ける」「農地のまま貸す」「転用・売却する」の3つの方向から考えます。
  • 生産緑地は原則として農地以外に使えませんが、告示から30年経過(特定生産緑地は指定期限日以後)や主たる従事者の死亡などで買取りの申出ができ、3か月で行為制限が解除されます。
  • 都市部の生産緑地で相続税の納税猶予を受ける場合、原則として終身の営農が前提となり、買取りの申出や特定生産緑地の指定を受けないことなどで猶予が打ち切られ、利子税を含めた納付が必要になります。
  • 都市農地貸借法による貸付けなど一定の貸付けでは、農地のまま貸しながら納税猶予を継続できる場合があります。
  • 生産緑地の相続税評価は利用制限を反映して減額されますが、小規模宅地等の特例は使えないため、納税資金の計画が重要です。

よくある質問

Q. 父が亡くなりました。生産緑地はすぐに売却できますか?

農業の主たる従事者が亡くなった場合は、市町村長に買取りの申出ができます。市町村が買い取らず、あっせんも成立しないまま申出から3か月が経過すると、行為の制限が解除され、売却や転用が可能になります。ただし、相続人が納税猶予を受ける場合は申出が猶予の打切り事由になるため、納税猶予を受けるかどうかと一緒に判断してください。

Q. 特定生産緑地の指定を受けないと、どうなりますか?

特定生産緑地の指定を受けなかった生産緑地は、買取りの申出をしない場合でも、これまでの税制上の措置が受けられなくなるとされています。また、納税猶予を受けている場合は、指定を受けなかったことや、指定期限の延長をしなかったことが猶予の打切り事由になります。指定期限の到来前に、家族で方針を確認しておきましょう。

Q. 納税猶予を受けている生産緑地を、人に貸すことはできますか?

都市農地貸借法に基づく認定都市農地貸付けや、市民農園としての農園用地貸付けなど、一定の貸付けであれば、要件のもとで納税猶予が継続されます。一方、制度の要件に沿わない貸付けは猶予の打切り事由になりえます。貸し付ける前に、制度上の手続と要件を確認してください。

Q. 納税猶予が打ち切られると、どのくらいの負担になりますか?

猶予されていた相続税額に加え、猶予期間に応じた利子税を納付する必要があります。利子税の割合は、都市営農農地等の有無などによって異なり、特例基準割合に応じて軽減される仕組みもあります。猶予期間が長いほど負担は大きくなりうるため、具体的な金額は過去の申告内容を基に試算することが大切です。

Q. 生産緑地にも小規模宅地等の特例は使えますか?

使えません。小規模宅地等の特例は、建物や構築物の敷地として使われている宅地等が対象で、農地は対象外とされています。生産緑地の相続税評価には、買取りの申出ができるまでの期間に応じた減額の仕組みがありますが、納税資金の計画は別途立てておく必要があります。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、大蔵財務協会、P.416-426
  • 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、P.42-47
  • 『〔机上調査→現地調査→役所調査→評価〕4STEPで身につく〈入門〉土地評価の実務』風岡範哉・田中泰男 著、清文社、P.376-391

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。