株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか|配当の変動に備え、活動を続けるための資金設計

ビル模型と積み上げた硬貨、グラフ資料を前に検討する男女

株式を寄附して財団をつくると、多くの場合、その株式の配当が財団の主な収入源になります。設立時には「毎年これくらいの配当があれば、この規模の助成ができる」という見通しを立てますが、会社の業績や配当方針は、10年、20年のうちに必ず変わります。

結論から言えば、株式寄附を前提とする財団の資金設計で大切なのは、「配当がいくらあるか」ではなく、「配当が想定を下回った年にも、活動と法人運営を続けられるか」という視点です。そのためには、収入を一つに頼らないこと、固定費を把握すること、そして制度が認める積立ての仕組みを活用して年ごとの変動をならすことが必要になります。

この記事では、財団の収入と支出の構造を整理したうえで、配当の変動にどう備えるかを、令和7年4月施行の公益法人制度改革の内容も踏まえて解説します。

財団のお金の流れを整理する

財団の資金設計は、収入と支出を次のように分けて考えると見通しやすくなります。

収入の4つの源泉

源泉主な内容特徴
財産から生まれる果実寄附された株式の配当、預金・債券の利息、不動産の賃料元本を維持しながら毎年得られるが、金利や業績で変動する
継続的な寄附設立者・家族・会社・一般の方からの寄附、会費外部からの支援を広げられるが、毎年の確実性は低い
事業収入講座の受講料、施設の利用料など公益目的事業の対価公益目的事業では、対価は事業に必要な費用の範囲が基本となる
収益事業の利益公益目的事業以外の事業(不動産賃貸など)からの利益財源を補えるが、法人税の課税対象となり、本来の目的とのバランスが必要

支出の3つの層

層主な内容考え方
公益目的事業費助成金、奨学金、自主事業の費用財団の存在意義そのもの。規模は収入に応じて調整し得る
法人運営費事務局の人件費、事務所費、役員会・評議員会の運営、会計・監査、行政への提出書類の作成活動の規模にかかわらず毎年発生する固定費
将来への備え将来の事業拡充や、収入が減った年のための積立て変動をならし、活動を途切れさせないための原資

株式寄附型の財団で見落とされやすいのは、2番目の法人運営費です。助成の規模を小さくしても、評議員会・理事会の開催、決算と監査、行政庁への定期提出書類などの事務は毎年必要です。配当が減った年に最初に圧迫されるのは、この固定費の部分です。

財団の全体設計については、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で整理しています。

配当収入に頼る財団が抱えるリスク

株式の配当を主な財源とする財団には、次のようなリスクがあります。

  • 業績連動による変動:配当を業績に連動させる会社では、業績が落ちた年に配当が大きく減ることがあります。
  • 無配のリスク:会社が大規模な投資や業績悪化で無配になると、財団の収入がほぼ途絶えることがあります。
  • 会社と財団の利害の対立:会社にとっては内部留保や成長投資が合理的でも、財団にとっては配当が必要という場面が生じ得ます。
  • 税制上の要件との関係:株式を寄附して譲渡所得等の非課税の承認を受けた場合、その株式から生じる配当の全部が継続して公益目的事業に充てられることが重要な判断材料になります。配当が毎年定期的に生じない株式は、公益目的事業の用に直接供されているとは扱われない可能性があります。

株式の寄附そのものに伴う議決権・配当・運営体制の論点は、関連記事「非上場株式を財団に寄附する際の検討事項」で詳しく解説しています。

公益財団法人の財務規律:令和7年4月からの考え方

公益財団法人の場合、資金設計は公益認定の財務基準と切り離せません。令和6年改正(令和7年4月1日施行)により、財務規律は次のように見直されました。資金の変動に備えるうえで、いずれも重要な仕組みです。

中期的収支均衡

改正前は、公益目的事業の収入がその費用を上回らないよう、単年度ごとに収支を合わせる考え方(いわゆる収支相償)が運用されていました。改正後は、公益目的事業の収入と適正な費用について、5年間で均衡が図られるようにする「中期的収支均衡」の考え方に改められ(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律14条、同法施行規則15条)、過去に生じた赤字も通算して判定されることになりました。

配当が多い年に収入が費用を上回っても、その後の年度で公益目的事業に充てていけば、中期的に均衡させることができます。単年度の配当の増減に、事業の規模を毎年合わせる必要性は小さくなったと言えます。

公益充実資金

将来の公益目的事業を充実させるために積み立てる資金として、「公益充実資金」が創設されました。従来の特定費用準備資金と資産取得資金を統合したもので、積立額は中期的収支均衡の判定上、費用とみなされます。

たとえば、数年後に奨学金の対象を広げる計画や、拠点となる施設を取得する計画がある場合、その目的に沿って計画的に積み立てることができます。

また、公益認定等ガイドラインでは、既存の事業を続けるための将来の収支変動への備えや、保有する株式の配当が減少傾向にあり今後も続く可能性が高いなど、将来の収入減少が合理的に見込まれる場合の積立ても可能とされています。株式寄附型の財団では、配当の見通しを根拠とともに説明できるかが鍵になります。ただし、繰越金や予備費のような単なる備えは対象になりません。

使途不特定財産と公益目的事業継続予備財産

公益法人は、使い道が定まっていない財産(使途不特定財産)を過大に保有することが制限されています。保有の上限は、原則として過去5年間の公益目的事業費の平均額(1年分相当)とされています。

そのうえで改正により、災害その他の予見しがたい事由が生じても公益目的事業を継続するために必要な財産を「公益目的事業継続予備財産」として、この上限の計算から除外できるようになりました。保有する場合は、その額と理由を自ら公表する必要があります。対象は自然災害や感染症のまん延、国際情勢の急変など予見しがたい事態への備えであり、通常の配当の増減には中期的収支均衡や公益充実資金で対応するのが基本です。それでも、こうした事態で配当収入が途絶えても事業を続けるための資金を、必要性と限度額を説明したうえで持てるようになった点は、株式寄附型の財団にとって意味のある変更です。

区分経理と情報開示

公益法人には、公益目的事業・収益事業等・法人運営の3つに区分して経理することが原則として求められるようになり、定期提出書類も原則として公表されることになりました。資金の流れを「事業」と「運営」に分けて説明できるように設計しておくことが、これまで以上に重要になっています。

一般財団法人と公益財団法人で求められる基準の違いは、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で解説しています。

配当の変動に備える資金設計の考え方

AEGISでは、株式寄附型の財団の資金設計を、次の4つの層で考えることをおすすめしています。

層目的具体的な設計
1. 運営費の確保法人として存続し続ける法人運営費の数年分を、配当以外の安定した資産(預金など)で確保する
2. 中核事業の維持毎年必ず続けたい活動を守る配当が想定の下限でも続けられる規模を「中核事業」として定める
3. 変動の吸収配当の増減をならす中期的収支均衡の範囲で、多い年の収入を後の年度の事業に充てる。減収が合理的に見込まれる場合は公益充実資金で備え、災害など予見しがたい事態には公益目的事業継続予備財産を検討
4. 将来の拡充活動を育てる配当が想定を上回った年に、目的を定めて公益充実資金として積み立てる

この設計のポイントは、「配当の想定」を一つの数字で置かないことです。過去の配当実績や会社の配当方針から、楽観・標準・悲観の幅で収入を見積もり、悲観的な想定でも層1と層2が守られるかを確認しておくと、寄附後の運営が安定しやすくなります。

財源を一つに頼らない

株式の配当だけに頼らず、次のような組み合わせを検討することも有効です。

  • 寄附する財産の一部を金銭や配当の安定した資産にする
  • 設立者や家族による継続的な寄附を、計画的に組み込む
  • 公益財団法人として、外部からの寄附を受けやすい体制を整える

公益社団法人・公益財団法人への個人の寄附は、所得税の寄附金控除の対象となるほか、一定の要件を満たす法人への寄附では、所得控除に代えて税額控除を選ぶこともできます(国税庁タックスアンサーNo.1266)。外部からの寄附を広げることは、財源の分散であると同時に、財団の活動を社会と共有することでもあります。

一般財団法人の場合の注意点

公益認定を受けていない一般財団法人には、公益法人のような財務規律は課されません。その一方で、2事業年度連続して純資産額が300万円未満となった場合には解散することとされています。また、財団は評議員会の決議によって自由に解散できる法人ではありません。赤字が続いても簡単には畳めない以上、資金が尽きる前に手を打つ設計が必要です。

実務上注意したいポイント

  • 寄附前に5年分の資金計画を作る:寄附の規模を決める前に、配当の想定幅と、支出の3つの層を並べた資金計画を作成します。
  • 会社の配当方針を文書で共有する:会社の経営陣・後継者と、配当についての基本的な考え方を確認しておきます。財団が株主として配当の決定にどう関わるかも整理しておきたい点です。
  • 配当の受け取り後の管理方法を決める:株式の寄附について非課税の承認を受ける場合、承認の種類によっては、寄附財産を一定の基金に組み入れて管理することが要件となるなど、管理方法が税制と結びつきます。国税庁の通達では、基金に組み入れた株式の配当金は全額を基金に組み入れ、定められた事業に充てる必要があるものの、受領後直ちに充てる必要はないとされています。受け取った配当をいつ、どのように公益目的事業に充てるかの手順を、あらかじめ決めておくことが大切です。
  • 事務局の担い手を確保する:資金があっても、事務を担う人がいなければ財団は動きません。外部の専門家への委託を含め、法人運営費として見込んでおきます。

AEGISの視点

財団の運営資金というと、「どれだけ大きな財産を寄附するか」に目が向きがちです。しかしAEGISは、財団の資金設計を「寄附者がいなくなった後も、財団が自分の足で立ち続けられるようにする設計」と捉えています。

株式の配当は、会社が事業を通じて生み出した価値の一部が、財団を経由して社会に流れていく経路です。その経路が太く安定していることは理想ですが、会社にも好不調の波があります。会社の判断を財団の都合で縛らず、財団の活動を会社の業績で途切れさせない——その両立を可能にするのが、収入の分散と、制度が認める積立ての仕組みを組み合わせた資金設計です。

会社・財団・家族のいずれかに無理を強いる設計は、長くは続きません。事業と資産と承継を一つの全体像で捉え、その中で財団の資金の流れを位置付けることが大切だとAEGISは考えています。財団や寄附に関わる税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 株式寄附型の財団では、配当が主な財源になる一方、会社の業績や配当方針によって収入が大きく変動します。
  • 財団の支出は「公益目的事業費・法人運営費・将来への備え」の3層で捉え、特に毎年必要な法人運営費を把握しておくことが重要です。
  • 公益財団法人では、令和7年4月から、5年間で収支の均衡を図る中期的収支均衡、公益充実資金、公益目的事業継続予備財産などの仕組みが導入され、変動をならす設計がしやすくなりました。
  • 運営費の確保、中核事業の維持、変動の吸収、将来の拡充の4層で資金を設計し、配当の想定を幅で見積もることが有効です。
  • 一般財団法人は財務規律の制約が少ない反面、純資産が一定額を下回ると解散する仕組みがあり、資金の枯渇に注意が必要です。

具体的な資金計画は、寄附する財産、会社の配当方針、財団の活動内容などの個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 配当が多すぎて使い切れない年は、どうすればよいですか?

公益財団法人の場合、令和7年4月からは5年間で収支の均衡を図る考え方になったため、多い年の収入を後の年度の公益目的事業に充てていくことができます。将来の具体的な事業計画がある場合は、公益充実資金として積み立てる方法もあります。一方で、株式寄附について非課税の承認を受けている場合は、配当を公益目的事業に充てることが求められるため、承認の条件もあわせて確認が必要です。

Q. 会社が無配になった場合、財団はどうなりますか?

配当以外の収入や積み立てた資金で、法人運営と中核の事業を続けることになります。無配が続くと、助成の縮小や、場合によっては財団の存続にも影響します。また、非課税の承認を受けて寄附された株式の場合は、承認の取消しにつながる可能性もあるため、早めに専門家と状況を確認することが望まれます。

Q. 財団の運営には、毎年どのくらいの費用がかかりますか?

活動の規模や事務局体制によって大きく異なります。少なくとも、評議員会・理事会の運営、決算・会計処理、公益財団法人であれば行政庁への定期提出書類の作成などの費用が毎年発生します。寄附の規模を決める前に、これらの固定費を見積もっておくことが重要です。なお、自ら財団を設立せず、運営体制を備えた既存の財団の中に基金を設ける場合は、こうした機関運営や会計の負担は受け手の財団が担い、寄附者は財団が定める事務運営費を負担する形になります(たとえばアイジスレガシー財団の冠基金では、所定の事務運営費を寄附者が負担します)。

Q. 設立者が毎年寄附を続けることは問題ありませんか?

継続的な寄附自体は、財源を安定させる有効な方法です。ただし、寄附を通じて設立者や家族が財団を私的に支配する関係にならないよう、運営体制を整えておく必要があります。寄附の方法や財産の種類によって税務上の扱いも異なるため、事前の確認が望まれます。

Q. 財団が収益事業を行って財源を補うことはできますか?

可能です。ただし、収益事業から生じた所得には法人税が課されます。公益財団法人の場合は、公益目的事業が主たる目的であることや、費用全体に占める公益目的事業の費用の割合(公益目的事業比率)を50%以上とする基準などとの関係にも配慮が必要です。収益事業はあくまで公益目的事業を支える手段として位置付けることが大切です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
  • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
  • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。