会社売却で得た資金を社会貢献に生かす方法|寄附・基金・公益信託・財団をどう比べるか

地球儀のある部屋で専門家と話す年配の男性

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会社を売却し、まとまった資金を手にしたオーナーから、「この資金の一部を社会のために使いたい」という相談を受けることが増えています。長年の事業を支えてくれた地域や業界、次の世代に何かを還元したいという想いは、とても自然なものです。

結論から言えば、売却資金を社会貢献に生かす方法は、①公益法人などへの直接の寄附、②公益法人などに基金を設ける寄附、③公益信託、④財団の設立の4つに整理できます。どれが適しているかは、「自分がどこまで関わり続けたいか」「どのくらいの期間・規模で続けたいか」「運営の手間と費用をどこまで引き受けられるか」によって決まります。税制はその次に比べるものです。

この記事では、売却後の「現金」を前提に、4つの方法の違いと、売却の年に確認しておきたい税務の考え方を整理します。株式のまま財団に寄附する方法は、関連記事「非上場株式を財団に寄附する前に決めること」で扱っています。

まず、売却後の資金の性格を確認する

社会貢献の方法を考える前に、手元に残る資金がどのようなものかを確認しておきます。

個人が非上場株式を売却した場合、その譲渡益は他の所得と分けて税金を計算する申告分離課税の対象となり、税率は所得税15%・住民税5%の合計20%に、復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加わります(国税庁タックスアンサーNo.1463)。令和9年分以後は、復興特別所得税が基準所得税額の1.1%(令和8年分までは2.1%)に引き下げられ、あわせて防衛特別所得税(同1%)が課されます(財務省「令和8年度税制改正の解説」)。税金は売却した年の翌年の確定申告で納めるため、売却代金を受け取った時点では、まだ納税前の資金が含まれていることに注意が必要です。

さらに、売却契約によっては、代金の一部が一定期間預けられたり(エスクロー)、業績に応じて後から支払われたり(アーンアウト)、表明保証に基づく補償の可能性が残ったりします。社会貢献に回す金額は、税金・費用・補償リスクを差し引いた「確定した手取り」から逆算するのが基本です。

会社売却の準備から売却後の資産管理までの全体像は、関連記事「会社売却を考えるなら何年前から準備するか」で解説しています。

4つの方法を比べる

売却資金を社会貢献に生かす4つの方法を、オーナーの意思決定に関わる項目ごとに比べると、次のようになります。

比較の視点①直接の寄附②基金型の寄附③公益信託④財団の設立
仕組み既存の公益法人・認定NPO法人などに寄附既存の公益法人などに、目的や名称を定めた基金を設けて寄附受託者に財産を託し、行政庁の認可を受けて公益事務を行う一般財団法人を設立し、必要に応じて公益認定を受ける
立ち上げの手間小さい小さい〜中程度中程度(受託者・信託管理人の選定と認可)大きい(設立・機関設計・公益認定)
寄附者の関与寄附した時点でほぼ終わる使途の希望を伝える程度設定時に目的を定め、運営は受託者に委ねる理事・評議員などとして関わり続けられる
継続性寄附先の活動に依存基金の存続期間に依存信託の目的と財産が続く限り法人として長期に存続し得る
運営費用ほぼなし管理費が差し引かれる場合あり受託者・信託管理人への報酬人件費・事務所・会計監査など
向いているケース特定の団体の活動を応援したい名前や目的を残しつつ手間は抑えたい助成・奨学金を長く続けたい自ら事業を運営し、活動を育てたい

①直接の寄附:最も簡単で、税制も分かりやすい

既存の公益法人や認定NPO法人などへの寄附は、最も手間が少ない方法です。寄附先の活動内容や財務を確認したうえで、寄附の目的(使途)を指定できる場合もあります。一方、寄附した後の活動に寄附者が関わることは基本的にありません。

②基金型の寄附:名前と目的を残し、運営は任せる

公益財団法人などの中には、寄附者の名前を冠した基金を設けたり、寄附者の希望を聞きながら助成先を選んだりする仕組みを持つところがあります。海外で「ドナー・アドバイズド・ファンド」と呼ばれる形に近いものです。法的には公益法人への寄附であり、助成先の最終的な決定権は受け手の法人にあります。基金の運営方針や管理費、存続期間は受け手によって異なるため、契約や覚書で確認することが大切です。

AEGISも、寄附者の名前や想いを冠した基金を設ける器としてアイジスレガシー財団を設立しています。自ら財団を設立する場合と比べて、理事会の運営や事務局を自ら抱える必要がなく、後継者に運営の負担を残さない点が特徴です。基金を設ける基準や事務運営費、寄附金控除などの税務上の扱いは受け手の法人ごとに異なるため、あわせて確認が必要です。

③公益信託:組織をつくらずに長く続ける

令和8年4月から新しい公益信託制度が始まり、受託者の範囲や信託できる財産が広がりました。財団のような組織をつくらずに、奨学金や研究助成などを長く続けたい場合の有力な選択肢です。詳しくは関連記事「公益信託の新制度と財団の違い」で比較しています。

④財団の設立:自ら活動を育てる

売却資金で財団を設立すれば、目的や活動を自ら設計し、理事などとして関わり続けることができます。事業を経営してきた経験を、社会課題の解決に生かしたいオーナーにとっては、最も想いを形にしやすい方法です。ただし、組織を運営する人と費用が長期にわたって必要になります。設計の考え方は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。

税制のポイント:現金で寄附する場合

売却後の現金を寄附する場合、株式や不動産と違って、寄附した時点での「みなし譲渡」の問題は生じません。主な論点は、寄附した個人の所得税の扱いです。

寄附金控除と税額控除

公益社団法人・公益財団法人や認定NPO法人などへの寄附は、所得税の寄附金控除(所得控除)の対象となります。控除額は、その年の特定寄附金の合計額と、総所得金額等の40%相当額のいずれか低い金額から2,000円を差し引いた額です(国税庁タックスアンサーNo.1150)。

また、行政庁から一定の証明を受けた公益社団法人等への寄附については、所得控除に代えて、税額控除を選ぶこともできます。税額控除の額は、寄附金の額(総所得金額等の40%が限度)から2,000円を差し引いた額の40%で、所得税額の25%が上限です(国税庁タックスアンサーNo.1266)。所得控除は税率の高い人ほど効果が大きく、税額控除は税率にかかわらず一定の割合で税額が減る、という性格の違いがあります。どちらを選ぶかの考え方は、関連記事「寄附金控除と税額控除の使い分け」で扱います。

売却の年は「上限の計算の基礎」が大きくなる

寄附金控除の上限の基準となる「総所得金額等」には、申告分離課税の所得の金額も含まれるとされています(国税庁「税務用語の意味」)。つまり、株式の譲渡益が生じた年は、寄附金控除の上限の計算の基礎が大きくなります。

ただし、控除によって実際にどれだけ税負担が軽くなるかは、その年の所得の構成や、控除がどの所得から差し引かれるかによって変わります。所得控除は、まず給与所得などの総所得金額から差し引き、引ききれない部分を非上場株式の譲渡所得などから差し引く順序とされています(所得税法第87条第2項、租税特別措置法第37条の10第6項)。また、令和7年分以後は、基準所得金額が3億3,000万円を超える場合に所得税が加算される特例(租税特別措置法第41条の19、国税庁タックスアンサーNo.2270)があり、大きな売却益が生じた年はこの影響も含めて考える必要があります。「売却の年に寄附すれば必ず有利」とは言い切れないため、寄附の時期と金額は、売却の年と翌年以降に分けて試算してから決めることをおすすめします。住民税についても、自治体の条例で指定された寄附金には税額控除の仕組みがあります(内閣府 公益法人information)。

財団を設立する場合の注意

自ら設立した一般財団法人への拠出は、その財団が公益認定を受けていない段階では、寄附金控除の対象となる特定寄附金には当たらないのが一般的です。また、持分の定めのない法人への財産の移転によって親族等の相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、法人に贈与税等が課される仕組みもあります(相続税法第66条第4項)。財団を設立する場合は、公益認定を目指すのか、拠出をどの順番で行うのかまで含めて設計する必要があります。

公益信託に寄附する場合

内閣府によれば、新しい制度で認可を受けた公益信託に個人が寄附したときは、所得税の寄附金控除を受けられます。法人が寄附した場合も、一般の寄附金とは別枠で損金算入が可能とされています。

時間軸で考える:一度に寄附しない選択

売却直後に大きな金額を一度に寄附する必要はありません。むしろ、次のように時間軸で分けて考えると、判断の質が上がります。

  1. 売却直後:納税資金・生活資金・家族への配分・補償リスクへの備えを確保する。
  2. 1〜3年目:直接の寄附や基金型の寄附で、関わりたい分野や団体を試す。活動の現場を知る。
  3. 方針が固まった段階:公益信託や財団の設立など、長く続く器を検討する。
  4. 相続まで見据えて:残りの資金を、遺言による寄附(遺贈寄附)として位置付ける。

遺言で社会に財産を遺す方法は、関連記事「遺贈寄附とは何か」で解説しています。

実務上注意したいポイント

  • 寄附先の確認:法人の種類(公益法人、認定NPO法人など)によって税制の扱いが変わります。寄附の前に、受領証の発行や税額控除の証明の有無を確認します。
  • 家族との合意:売却資金は、相続財産の大きな部分を占めることがあります。寄附の規模は、家族への配分や遺留分との関係も踏まえて決めます。
  • ガバナンス:財団を設立する場合、家族だけで運営すると税務上の要件や公益認定の基準に抵触するおそれがあります。外部の理事や評議員を迎える前提で設計します。
  • 公表の仕方:寄附の事実や金額をどこまで公表するかは、本人と家族の考え方によります。基金の名称などを決める前に、家族の意向も確認しておきます。

AEGISの視点

会社の売却は、オーナーにとって「事業を手放す」出来事であると同時に、「資産の形が変わる」出来事です。事業という形で社会と関わってきた財産が、現金という自由度の高い形に変わる。AEGISは、この転換点こそ、社会との関わり方を改めて設計し直す機会だと考えています。

売却資金の社会貢献を考えるとき、AEGISが大切にしているのは、税制の有利不利より先に「関わり方」を決めることです。寄附して見守るのか、名前と目的を残すのか、自ら活動を率いるのか。関わり方が決まれば、選ぶべき器と、必要な資金の規模、運営を支える人が自然に見えてきます。

また、売却資金の使い道は、社会貢献だけで完結しません。家族の生活、次の事業への投資、相続への備え。これらと社会貢献を同じ一枚の上に並べ、どの資金に、どの役割を持たせるかを決めることが、売却後の資産設計の要だとAEGISは考えています。

売却に伴う税務や、寄附・財団に関する資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 売却資金を社会貢献に生かす方法は、直接の寄附、基金型の寄附、公益信託、財団の設立の4つに整理できます。
  • 選び方の中心は、関わり方・継続期間・運営の手間と費用であり、税制はその後に比べます。
  • 寄附に回す金額は、譲渡益に係る税金・費用・補償リスクを差し引いた確定した手取りから逆算します。
  • 現金の寄附は、寄附金控除(所得控除)または一定の場合の税額控除の対象になり得ます。売却の年は控除の上限の計算の基礎が大きくなりますが、実際の効果は試算が必要です。
  • 一度に寄附せず、時間軸で器を選んでいく方法も有効です。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 売却した年に寄附すると、税金はどのくらい減りますか?

寄附金控除は、特定寄附金の合計額と総所得金額等の40%相当額のいずれか低い金額から2,000円を差し引いた額を所得から控除する仕組みです。売却の年は総所得金額等に株式の譲渡益も含まれるため上限は大きくなりますが、実際の軽減額は所得の構成や控除の順序によって変わります。寄附の前に、売却の年と翌年以降のそれぞれで試算することをおすすめします。

Q. 自分で財団をつくって、そこに売却資金を入れれば税金は軽くなりますか?

公益認定を受けていない一般財団法人への拠出は、一般に寄附金控除の対象になりません。また、家族だけで運営する財団への拠出は、相続税法上の課税の対象となるおそれもあります。財団は税負担を軽くする手段ではなく、活動を続けるための器として設計することが大切です。

Q. 基金型の寄附では、助成先を自分で決められますか?

一般的には、寄附者は希望を伝えることができても、最終的な決定は受け手の法人が行います。法的には公益法人への寄附であり、寄附者が支配する形になると公益性が損なわれるためです。どこまで意向が反映されるかは、受け手の法人の規程や覚書で確認する必要があります。

Q. 売却代金の一部がエスクローで預けられています。寄附額はどう決めればよいですか?

エスクローやアーンアウトなど、受取りが確定していない部分は、寄附の原資に含めないのが安全です。補償の請求があった場合に備える必要もあるため、確定した手取りから、納税資金や生活資金を差し引いた範囲で寄附額を決めることをおすすめします。

Q. 会社を売却する前に株式を寄附する方法と、売却後に現金で寄附する方法は、どちらがよいですか?

前提が大きく異なります。売却前の株式の寄附は、寄附した株式が売却の対象から外れるため、買い手との交渉や議決権、みなし譲渡と非課税の特例の要件を慎重に検討する必要があります。売却後の現金の寄附は、仕組みが簡単な一方、譲渡益に係る税金を納めた後の資金になります。売却の検討段階から、どちらの方法をとるかを決めておくことが望まれます。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『目的&ケース別 M&A・組織再編成の税務ストラクチャー徹底比較』蝋山竜利・中島礼子・小林誠 著、中央経済社
  • 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
  • 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。