家族を資産管理会社の役員にするときの報酬|職務の実態・金額の決め方・社会保険と扶養への影響

会議室で家族と専門家が話し合う様子

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資産管理会社をつくると、配偶者や子を役員にして報酬を支払う設計がよく検討されます。不動産から生じる収益を家族に分けることで、家族全体の税負担を抑え、家族それぞれの手元に資金を蓄えられるからです。

ただし、家族への役員報酬は「家族だから払える」ものではなく、「その人が会社のために担っている職務の対価」として説明できる必要があります。役員報酬のうち職務の内容などに照らして不相当に高額な部分は、会社の損金に算入されません。また、報酬を受け取った家族の社会保険の扶養や、オーナー本人の配偶者控除にも影響が及びます。

この記事では、家族を資産管理会社の役員にするときに、職務の実態をどう整え、金額をどう決め、社会保険や扶養への影響をどう確認するかを整理します。

役員報酬が損金になるための前提

まず、法人税の基本的な仕組みを確認しておきます。国税庁によれば、役員に支給する給与のうち会社の損金に算入されるのは、主に次の3つの類型です。

類型概要資産管理会社での使われ方
定期同額給与1か月以下の一定期間ごとに、同額を支給する給与毎月の役員報酬として最も一般的
事前確定届出給与あらかじめ時期と金額を定め、届け出たとおりに支給する給与役員賞与を支給する場合
業績連動給与利益などの指標に連動する給与で、一定の要件を満たすもの同族会社は、同族会社以外の法人との間にその法人による完全支配関係があるものに限り対象となり、同族会社の資産管理会社では使える場面が限られる

さらに、これらの類型に当てはまる給与であっても、不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません。家族役員の報酬で問われるのは、主にこの「不相当に高額かどうか」です。

なお、役員報酬・配当・内部留保の全体的な考え方は、関連記事「役員報酬・配当・内部留保の考え方」で扱っています。

「不相当に高額」はどう判断されるか

役員報酬が過大かどうかは、大きく二つの基準で判定されます(法人税法34条2項、法人税法施行令70条1号)。いずれか多い金額が「不相当に高額な部分」として損金に算入されません。

  • 形式基準:定款や株主総会の決議で定めた役員報酬の限度額(または算定方法)を超えていないか
  • 実質基準:その役員の職務の内容、会社の収益や使用人に対する給与の支給状況、同種・同規模の法人の役員報酬の状況などに照らして、職務の対価として相当な額を超えていないか

資産管理会社の家族役員で特に重要なのは、実質基準です。たとえば、物件の管理を外部の管理会社にほぼ任せていて、家族役員の業務が月に数回の書類確認にとどまる場合、常勤の役員と同じ水準の報酬を支払えば、職務の内容との釣り合いを説明することは難しくなります。

専門書でも、同業他社の水準を把握しておくことに加え、その会社自身が、役員の職務内容や貢献を具体的に示せるようにしておくことが重要だと指摘されています。会社の内情を最もよく知っているのは会社自身だからです。

役員でない家族への給与にも注意

家族を役員にせず、従業員として給与を支払う場合も同じ問題があります。役員の親族、役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者、役員から生計の支援を受けている者(特殊関係使用人)に支払う給与のうち、不相当に高額な部分は損金に算入されない仕組みがあり(法人税法36条、法人税法施行令72条)、国税庁の法人税基本通達では、その範囲に関わる「生計の支援を受けているもの」などの解釈が示されています。役員か従業員かにかかわらず、家族への報酬・給与には算定の根拠が求められると考えておくのが安全です。

また、取締役に就任していなくても、会社の経営に実質的に従事している人は、税務上は役員として扱われることがあります(法人税基本通達9-2-1では、相談役や顧問などで実質的に経営に従事している者が例示されています)。肩書きではなく、実際の関わり方で判断される点に注意が必要です。

職務の実態をどう整え、どう記録するか

家族役員の報酬の根拠は、「誰が、何を、どのくらい担っているか」です。AEGISでは、報酬を決める前に、職務を次のように書き出すことをおすすめしています。

家族役員の例担う職務の例残しておきたい記録の例
配偶者(常勤に近い関与)賃料の入金確認と督促、入居者対応、修繕業者への発注、月次の収支管理業務日誌、入金管理表、発注書、月次報告書
子(他に勤務先あり)年に数回の取締役会での意思決定、物件の現地確認、資金計画の検討取締役会議事録、現地確認の報告、検討資料
高齢の親(引継ぎ期間)長年の管理の知見の引継ぎ、主要な取引先との関係の維持引継ぎの記録、面談記録

※上記は職務と記録の考え方を示す例です。報酬の水準は、職務の量と内容、会社の収益などを踏まえて個別に検討します。

ポイントは、職務の量に応じて報酬に差をつけることです。家族全員に同じ額を支払う設計は、職務の違いを説明しにくくなります。また、資産管理会社が受け取る管理料と、家族役員の報酬はつながっています。管理料の根拠となる業務を、実際に家族役員が担っているかも確認したいところです。管理料の考え方は、関連記事「資産管理会社に管理を任せるときの管理料」で扱っています。

定期同額給与の運用で気をつけたいこと

毎月の役員報酬を定期同額給与として支払う場合、事業年度の途中で金額を自由に変えることはできません。国税庁によれば、改定が認められるのは、主に次の場合です。

  • 事業年度開始の日から3か月以内の改定
  • 役員の職制上の地位の変更や職務内容の重大な変更などによる改定(臨時改定事由)
  • 経営状況が著しく悪化したことなどによる減額(業績悪化改定事由)

資産管理会社では、「今年は利益が多く出たので、期末に家族の報酬を上げる」といった運用は、損金算入の要件から外れるおそれがあります。報酬額は、期首に1年間の収支見込みを立てたうえで決め、株主総会などの決議を記録に残すことが基本です。

社会保険への影響

見落とされやすいのが社会保険です。日本年金機構によれば、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。資産管理会社も、役員に報酬を支払う形をとれば、社会保険の手続が必要になる可能性があります。役員が被保険者になるかどうかは、勤務の実態や報酬の内容によって判断されます。

家族が、オーナー本人や他の家族の健康保険の被扶養者になっている場合は、特に注意が必要です。日本年金機構の案内では、被扶養者として認定される収入の基準は、原則として年間収入130万円未満(60歳以上または一定の障害のある方は180万円未満)で、同居の場合は被保険者の収入の半分未満、別居の場合は被保険者からの仕送り額未満であることなどとされています。19歳以上23歳未満の人(被保険者の配偶者を除く)については、令和7年10月1日以降の認定から150万円未満の基準が示されています。また、令和8年4月1日以降は、一定の条件を満たす場合に、労働契約の内容から見込まれる年間収入で判定する取扱いも示されています。

確認したいこと影響の例
家族が被扶養者になっているか役員報酬により基準を超えると、扶養から外れ、自ら保険料を負担する可能性
配偶者が国民年金の第3号被保険者か被扶養配偶者でなくなると、第3号被保険者の資格にも影響
家族に他の勤務先があるか勤務先での加入状況と、資産管理会社での加入の要否の整理

※社会保険の取扱いは、勤務の実態や報酬の額によって判断されます。設計の段階で確認してから報酬額を決める順番が安全です。

所得税の扶養・配偶者控除への影響

オーナー本人の所得税にも影響があります。国税庁によれば、令和8年分以降、配偶者控除の対象となる配偶者は、年間の合計所得金額が62万円以下(給与のみの場合は給与収入136万円以下)であることなどが要件です。また、控除を受けるオーナー本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除は適用されません。

配偶者に役員報酬を支払えば、配偶者の所得が増える一方で、オーナー本人の配偶者控除などが使えなくなる場合があります。家族全体で見たときに、手取りと負担がどう変わるかを、社会保険とあわせて試算することが大切です。

実務上注意したいポイント

  • 名目だけの役員にしない:登記上は役員でも、会社の業務にまったく関与していない場合、報酬の根拠を説明することは困難です。
  • 報酬は本人が受け取り、本人が管理する:家族役員の報酬が実際には本人の口座に入らない、あるいは本人が自由に使えない状態では、報酬としての実態が疑われかねません。
  • 定款・株主総会での限度額を確認する:形式基準との関係で、役員報酬の総額の限度額を定めている場合は、その範囲内であるかを確認します。
  • 将来の退職金も視野に入れる:長く会社の業務を担う家族役員には、将来の退職金も検討対象になります。在任期間や職務の記録は、その根拠にもなります。
  • 勤務先の規定を確認する:家族が会社員などの場合、勤務先の兼業規定との関係も確認します。給与所得者が資産管理会社をつくる場合の論点は、関連記事「会社員・医師など給与所得者が資産管理会社をつくる前に」で整理しています。

AEGISの視点

家族への役員報酬は、資産管理会社の効果を説明するときによく挙げられる要素です。しかしAEGISは、これを「所得を分ける手段」としてではなく、「家族が資産の管理に参加する仕組み」として設計することが大切だと考えています。

家族が実際に賃料の管理や修繕の判断に関わり、その職務に見合った報酬を受け取る。そうした積み重ねは、報酬の根拠を明確にするだけでなく、オーナーが一線を退いたときに家族が資産を引き継ぎ、管理を続けていくための準備にもなります。反対に、名目だけの役員に報酬を払い続けると、税務の説明が難しくなるうえ、いざというときに資産の状況を理解している家族がいないという事態にもなりかねません。

報酬額は、税負担だけでなく、家族の社会保険や扶養、将来の承継まで含めて決めるもの。そのためにも、まず職務を書き出すところから始めることをおすすめします。資産管理会社をいつ、どのような軸で検討するかは、Pillar記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

まとめ

  • 家族への役員報酬は、その人が担う職務の対価として説明できることが前提です。
  • 役員報酬は定期同額給与などの類型に当てはまる必要があり、職務の内容などに照らして不相当に高額な部分は損金に算入されません。
  • 役員でない家族への給与や、肩書きのない実質的な経営者への支払にも、同様の考え方が及ぶことがあります。
  • 職務の内容を書き出し、職務の量に応じて報酬に差をつけ、日常の記録を残すことが基本です。
  • 報酬により、家族の社会保険の被扶養者の資格や、オーナー本人の配偶者控除に影響が出ることがあります。
  • 具体的な取扱いは、職務の実態や家族の状況など個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 家族役員の報酬は、いくらまでなら問題ありませんか?

一律の上限はありません。役員の職務の内容、会社の収益、使用人の給与の状況、同種・同規模の法人の役員報酬の水準などに照らして、職務の対価として相当かどうかで判断されます。金額から決めるのではなく、職務の内容から説明できる額にすることが大切です。

Q. 業務をしていない家族に、少額の役員報酬を払うことはできますか?

少額であっても、職務の実態がなければ報酬の根拠は説明しにくくなります。年に数回の取締役会での意思決定など、役員としての職務を実際に担っているかを確認し、その内容に見合った額にすることが基本です。

Q. 期の途中で家族役員の報酬を増やすことはできますか?

定期同額給与の改定は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行う必要があります。職務内容の重大な変更などの臨時改定事由がない限り、期の途中で増額すると、増額分が損金に算入されないおそれがあります。

Q. 配偶者に役員報酬を払うと、扶養から外れますか?

健康保険の被扶養者の基準は、原則として年間収入130万円未満(60歳以上または一定の障害のある方は180万円未満)などとされています。役員報酬によって基準を超えると、被扶養者から外れる可能性があります。所得税の配偶者控除の要件も別にあるため、両方を確認することが大切です。

Q. 子どもが学生でも、役員にして報酬を払えますか?

役員に就任すること自体は可能ですが、学業と両立しながら担える職務の内容と量を具体的に示せるかが問われます。報酬額によっては、親の扶養控除や健康保険の被扶養者の資格にも影響するため、慎重な検討が必要です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『新版 税務調査事例からみる役員給与実務Q&A』安部和彦 著、清文社(2016年)、第2章 Q2-7(P.32-35)、Q2-46・Q2-47(P.178-184)、Q2-59(P.224-227)

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。