グループ法人税制とは、100%の資本関係(完全支配関係)にある会社どうしの取引について、取引の時点では課税関係を生じさせないようにする一連の仕組みです。平成22年度の税制改正で導入されました。
オーナーが資産管理会社と事業会社の両方を100%持っている場合、その2社の間で土地や建物を売買すると、売り手の会社の譲渡益(または譲渡損)は、その年度の所得から除かれて繰り延べられます。ここまでは比較的知られていますが、注意が必要なのは次の2点です。
- 繰り延べられた損益は、いずれ売り手の会社に戻ってくること
- 個人オーナーが直接持つ兄弟会社どうしでは、寄附金・受贈益の特例は使えないこと
この記事では、グループ法人税制のうち、オーナー企業で特に問題になりやすい「資産の売買」と「寄附(無償・低額の取引)」を中心に、資産管理会社と事業会社の関係に当てはめて整理します。
完全支配関係:個人オーナーと親族を含めて判定する
グループ法人税制の対象になるのは、完全支配関係がある会社どうしの取引です。完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係などをいいます(法人税法2条12号の7の6)。
オーナー企業で重要なのは、次の3点です。
- 一の者が個人の場合も含まれる:オーナー個人が資産管理会社と事業会社の株式をそれぞれ100%持っていれば、2社は「同一の者による完全支配関係」にある兄弟会社です。
- 親族の持分を合算する:一の者が個人の場合は、その個人と特殊の関係のある個人(親族など)の保有分を合わせて判定します(法人税法施行令4条の2第2項)。オーナーと配偶者・子で100%を持っている場合も、完全支配関係になり得ます。
- 一定の従業員持株会などは除いて判定する:従業員持株会などが持つ株式が発行済株式(自己株式を除く)の5%未満であれば、その株式を除いて判定する定めがあります。
つまり、「グループ」という意識がなくても、家族で株式を持つ会社が複数あれば、知らないうちに完全支配関係にあることがあります。
資産を売買したとき:譲渡損益の繰延べ
どの資産が対象になるか
完全支配関係がある内国法人(普通法人または協同組合等)の間で「譲渡損益調整資産」を譲渡した場合、売り手の会社では、その譲渡利益額または譲渡損失額に相当する金額を所得から除き、繰り延べます(法人税法61条の11第1項)。
譲渡損益調整資産とは、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含む)、有価証券、金銭債権、繰延資産です。ただし、売買目的有価証券や、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産などは除かれます(法人税法施行令122条の12第1項)。棚卸資産(土地を除く)は対象外です。
取引は「時価」で行う
繰延べの対象になるのは、時価で売買したことを前提に計算される譲渡損益です。売買価格そのものは、通常の取引と同じく時価で決める必要があります。買い手の会社は、支払った代金(時価)で資産を受け入れ、減価償却などもその価額を基に行います。
いつ、どちらに戻ってくるか
繰り延べた損益は、次のような事由が生じたときに、売り手の会社の所得に戻し入れられます(法人税法61条の11第2項・第3項)。
- 買い手の会社が、その資産を譲渡・償却・評価換え・貸倒れ・除却したとき
- 売り手と買い手の間の完全支配関係がなくなったとき
たとえば、事業会社が資産管理会社に建物を売却した場合、資産管理会社がその建物を減価償却するたびに、事業会社側で繰り延べた譲渡益の一部が戻ってきます。また、将来どちらかの会社を第三者に売却したり、株主構成を変えて100%の関係が崩れたりすると、その時点で残りの繰延べ額がまとめて実現します。
| 場面 | 売り手の会社(例:事業会社) | 買い手の会社(例:資産管理会社) |
|---|---|---|
| 売買の時点 | 譲渡益(損)を計上し、申告上で同額を減算(加算)して繰り延べる | 時価で取得。代金の支払い(資金の手当て)が必要 |
| 保有中 | 買い手の減価償却に応じて、繰延べ額の一部を戻し入れ | 時価を基に減価償却 |
| 外部への売却時 | 残りの繰延べ額を戻し入れ | 時価との差額で譲渡損益を計上 |
| 100%関係がなくなったとき | 残りの繰延べ額を一括で戻し入れ | ― |
「売っても税金がかからない」のではなく、「税金の発生時期が後ろにずれ、その間は売り手の会社に繰延べ額が残る」と理解しておくことが大切です。
寄附・低額取引:兄弟会社では特例が使えない
法人による完全支配関係に限られる特例
時価より低い価額で資産を譲ったり、無償で資金を融通したりすると、税務上は差額が寄附金(出し手)と受贈益(受け手)として扱われるのが原則です。グループ法人税制では、完全支配関係がある会社間の寄附について、出し手で寄附金を損金不算入、受け手で受贈益を益金不算入とする特例があります(法人税法37条2項、25条の2第1項)。
ただし、この特例は「法人による完全支配関係」に限られています。親会社と100%子会社、あるいは同じ親会社の下にある子会社どうしは対象ですが、オーナー個人が直接100%を持つ兄弟会社どうしは対象外です。なお、個人が親会社を通じて間接に持つ子会社どうしの寄附には特例が適用されることが、法人税基本通達9-4-2の5で確認されています。
兄弟会社で寄附が生じると
オーナー個人が直接持つ資産管理会社と事業会社の間で、時価より低い価額の売買や無償の取引をした場合、出し手の会社では寄附金の損金算入限度額を超える部分が損金にならず、受け手の会社では受贈益が益金に算入されるのが原則です。両社で課税が生じ得るうえ、株式の価値が一方から他方へ移ることで、株主である家族の間の財産の移転として別の論点が生じることもあります。
| 株主構成 | 譲渡損益の繰延べ(61条の11) | 寄附金・受贈益の特例(37条2項・25条の2) |
|---|---|---|
| 親会社と100%子会社 | 対象 | 対象 |
| 同じ親会社の下の100%子会社どうし | 対象 | 対象 |
| オーナー個人(と親族)が直接100%を持つ兄弟会社どうし | 対象 | 対象外 |
| 持株比率が100%未満の関係会社どうし | 対象外 | 対象外 |
資産管理会社と事業会社でよくある場面
-
事業会社の本社土地を資産管理会社へ移す:譲渡益は繰り延べられますが、資産管理会社には時価での買取資金が必要です。借入れで賄う場合は、事業会社から受け取る賃料で返済できるかを確認します。資金の流れの整理は、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」で解説しています。
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含み損のある資産をグループ内で売って損を出したい:完全支配関係がある会社へ売っても譲渡損は繰り延べられるため、損失を実現させる手段にはなりません。
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管理料・賃料を決める:グループ内の賃料や管理料が時価から離れると、寄附金の問題になり得ます。兄弟会社では特例が使えないため、特に根拠のある金額設定が必要です。管理料の考え方は「資産管理会社に管理を任せるときの管理料」も参考になります。
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個人の不動産を会社へ移す:個人と法人の間の取引にはグループ法人税制は適用されません。個人から法人への移転の比較は「個人保有の不動産を法人へ移す前の比較」で整理しています。
実務上注意したいポイント
- 株主名簿で完全支配関係を確認する:親族の持分の合算や、名義株の有無で判定が変わります。
- 繰延べ額を管理し続ける:繰り延べた譲渡損益は申告書の別表で管理し、買い手の償却や売却に応じて戻し入れます。担当者が替わっても追えるように記録を残します。
- 将来の株主構成の変更に注意する:後継者への株式の移転や一部の株式の売却で100%関係が崩れると、繰延べ額が一括で実現します。承継計画と合わせて確認します。
- 時価の根拠を残す:グループ内の売買でも時価が前提です。不動産鑑定評価などの根拠資料を残しておくことが望まれます。
- 自社株の評価への影響:グループ内の売買や寄附によって各社の資産と利益が変わり、株価にも影響します。なお、完全支配関係にある親子会社間の寄附に伴う税務調整で親会社の利益積立金額が増減する場合でも、類似業種比準方式の「1株当たりの純資産価額」の計算上、基本的には法人税法の処理どおりに扱い、調整の必要はないとする国税庁の質疑応答事例があります。
AEGISの視点
グループ法人税制は、「グループ内で資産を動かしても課税しない」制度と説明されることがあります。しかしAEGISは、オーナー企業にとってこの制度の本質は「課税のタイミングと場所を、グループの株主構成に結び付ける仕組み」だと考えています。
繰り延べた損益は、100%の関係が続く限り表に出ませんが、承継やM&Aで株主構成を変えた瞬間に戻ってきます。つまり、今日のグループ内取引は、将来の承継やM&Aの選択肢に影響を与えます。また、兄弟会社の寄附のように、制度が適用されない領域では、思わぬ課税が生じることもあります。
資産管理会社と事業会社の間で資産を動かすときは、「誰がその資産を持ち、どの会社に将来の課税を残すのか」「その会社の株式を誰が承継するのか」を、取引の前に一枚の図で確かめておくことが大切です。グループ内で資産を移す別の方法として、現物分配の考え方は関連記事「現物分配で子会社の資産を親会社へ移す」で解説しています。
グループ会社間の取引と資産税務・承継の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- グループ法人税制は、完全支配関係にある会社どうしの取引について、その時点の課税を生じさせないようにする仕組みです。
- 完全支配関係は、オーナー個人が一の者である場合も含み、親族の持分を合算して判定します。
- 土地・固定資産・有価証券などの譲渡損益調整資産を売買すると、売り手で譲渡損益が繰り延べられ、買い手の償却・売却や100%関係の解消時に売り手へ戻ります。
- 寄附金・受贈益の特例は「法人による完全支配関係」に限られ、個人オーナーが直接持つ兄弟会社どうしには使えません。
- 個別の取引の課税関係は、株主構成と取引条件によって異なるため、事前の確認が大切です。
よくある質問
Q. 自分(個人)が100%持つ2つの会社の間で土地を売買すると、譲渡益は繰り延べられますか?
2社がオーナー個人による完全支配関係にあり、土地が譲渡損益調整資産に当たれば、売り手の会社で譲渡益は繰り延べられます。ただし、時価での売買が前提であり、買い手の会社には代金の支払いが必要です。
Q. グループ内で含み損のある土地を売れば、損失を計上できますか?
完全支配関係がある会社への売却では、譲渡損も繰り延べられるため、その時点で損失を計上することはできません。買い手の会社がその土地を外部に売却したときなどに、売り手の会社で損失が実現します。
Q. 兄弟会社の間で、資金を無利息で貸すと問題になりますか?
個人オーナーが直接持つ兄弟会社の間では、寄附金・受贈益の特例が使えません。無利息であることに合理的な理由がない場合、利息相当額が寄附金や受贈益として扱われる可能性があります。貸付の条件と根拠を整理しておくことが大切です。
Q. 繰り延べた譲渡益は、いつまで繰り延べられますか?
期限はありませんが、買い手の会社がその資産を償却・譲渡・除却したときや、両社の完全支配関係がなくなったときに、売り手の会社で戻し入れます。償却資産であれば、償却に応じて少しずつ戻ってきます。
Q. 帳簿価額が1,000万円未満の資産を売った場合はどうなりますか?
譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産は、譲渡損益調整資産から除かれているため、繰延べの対象になりません。売却した会社で通常どおり譲渡損益を計上します。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- e-Gov法令検索「法人税法」(2条12号の7の6、25条の2、37条2項、61条の11)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034/20261001_508AC0000000012
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「法人税法施行令」(4条の2、122条の12)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097/20261001_507CO0000000121
確認日:2026-10-09 - 国税庁「法人税基本通達」第9章第4節第2款「完全支配関係がある法人間の寄附金」(9-4-2の5、9-4-2の6)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_04_02.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 質疑応答事例「1株当たりの純資産価額-寄附修正により利益積立金額が変動する場合の調整」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/07/10.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 質疑応答事例「清算結了する場合におけるグループ法人税制で繰り延べた譲渡損益の取扱いについて」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/04/17.htm
確認日:2026-10-09
書籍
- 『組織再編税制大全』佐藤信祐 著、清文社、2023年、第13章(P.821-838)
- 『令和7年版 図解組織再編税制』中村慈美 著、大蔵財務協会、2025年、第8章(P.501-518)
