ファミリー憲章のつくり方|家族会議の進め方・盛り込む項目・法的な仕組みとのつなぎ方

会議室で家族と専門家が話し合う様子

ファミリー憲章とは、事業や資産を共に受け継ぐ家族が、大切にする価値観と、事業・資産との関わり方のルールを、話し合いを通じて文書にまとめたものです。家訓を現代の言葉で明文化したもの、と考えると分かりやすいかもしれません。

ファミリー憲章は、それ自体では原則として法的な拘束力を持ちません。それでも作る意味があるのは、事業承継や相続で起きる家族の対立の多くが、財産の金額そのものよりも、「何を大切にするか」「誰がどんな役割を担うか」についての期待の食い違いから生じるからです。

この記事では、ファミリー憲章をつくるための進め方を6つのステップで整理し、盛り込む項目の構成例と、遺言・定款などの法的な仕組みとのつなぎ方、見直しの方法までを解説します。

ファミリー憲章の役割と限界

最初に、ファミリー憲章で「できること」と「できないこと」を整理しておきます。

区分内容
できること家族が共有する価値観や、事業に関わる際の考え方を言葉にする/家族会議などの話し合いの場と進め方を決める/後継者以外の家族の役割を明確にする/将来の判断に迷ったときの「立ち返る基準」をつくる
できないこと署名したことだけで、株式の譲渡や遺産の分け方を法的に強制する/遺留分などの法律上の権利を一方的に制限する/会社の意思決定(株主総会・取締役会)を直接拘束する

たとえば、「株式は家族の外に出さない」と憲章に書いても、それだけでは株式の譲渡を止めることはできません。相続人の遺留分を相続開始前に放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です(民法1049条1項)。憲章で合意した内容を実際に機能させるには、定款・株主間の契約・遺言・民事信託(いわゆる家族信託)などの法的な仕組みに落とし込む作業が別に必要になります。

それでも、憲章は意味を持ちます。法的な仕組みは「何を実現するか」が決まっていなければ設計できず、その「何を」を家族で合意する場が憲章づくりだからです。

ファミリー憲章をつくる6つのステップ

AEGISでは、次の6つのステップで進めることをおすすめしています。

ステップ内容目安となる期間
1. 目的と範囲を決めるなぜつくるのか、何を対象にするのか1〜2か月
2. 参加者を決める誰を「家族」として話し合いに加えるか同時に検討
3. 一人ひとりの考えを聞く個別に本音を聞き、論点を洗い出す2〜4か月
4. 家族会議で話し合う論点ごとに話し合い、方向性をそろえる数回〜十数回
5. 文書にまとめ、合意する草案を作り、修正を重ね、署名する2〜3か月
6. 運用し、見直す定例の家族会議で確認し、必要に応じて改める継続

※期間は目安です。家族の人数や論点の多さによって大きく異なります。

ステップ1:目的と範囲を決める

まず、「なぜ今、憲章をつくるのか」を言葉にします。事業承継を控えて後継者と他の家族の役割を整理したい、複数の家に株式が分かれていく前に考え方をそろえたい、財産の一部を社会に還元する方針を家族で共有したい——目的によって、盛り込む項目も参加者も変わります。

対象とする範囲も決めておきます。家業である会社だけか、資産管理会社や不動産、財団まで含めるのか。最初から全部を対象にせず、最も重要な事業と資産から始めるほうが進めやすくなります。

ステップ2:参加者を決める

誰を「家族」に含めるかは、思った以上に重要な判断です。

  • 現経営者とその配偶者
  • 後継者候補と、後継者でない子
  • 子の配偶者(いわゆる姻族)
  • 孫世代(年齢に応じて段階的に)

子の配偶者を含めるかどうかは家族によって判断が分かれますが、家庭の中で大きな影響力を持つ存在であることは確かです。少なくとも、話し合いの結果をどこまで共有するかは決めておくべきでしょう。

ステップ3:一人ひとりの考えを聞く

いきなり全員で集まるのではなく、まず一人ひとりから個別に話を聞くことをおすすめします。家族全員の前では言いにくいこと——後継者になりたくない、自分の取り分が気になる、配偶者の考えが違う——は、個別の場でないと出てきません。

聞いておきたいのは、たとえば次のような点です。

  • 創業者や現経営者が、事業を通じて何を大切にしてきたか
  • 家族それぞれが、事業や資産とどう関わりたいと考えているか
  • 将来に向けて不安に思っていること、避けたいこと

中小企業庁の事業承継ガイドラインでは、経営理念を企業の競争力の源泉となる知的資産の一つと位置づけています。専門書籍でも、後継者が現経営者との対話を通じて経営理念を確認することの重要性が指摘されています。ファミリー憲章の価値観の部分は、この経営理念と重なることが多く、会社の理念を家族の言葉に置き換える作業ともいえます。

ステップ4:家族会議で話し合う

個別の聞き取りで出てきた論点を整理し、家族会議で一つずつ話し合います。進め方のポイントは次のとおりです。

  • 議題を事前に共有する:その場で突然重い話題を出さない
  • 一度にすべてを決めない:価値観→役割→株式と財産、のように段階を踏む
  • 第三者に進行を任せる:家族だけでは、親子の上下関係や過去の感情が議論を左右しやすくなります
  • 議事録を残す:何が合意され、何が未決なのかを全員が確認できるようにする

合意できない論点は、無理に決めずに「未決事項」として残しておくことも大切です。

ステップ5:文書にまとめ、合意する

話し合いの結果をもとに草案をつくり、修正を重ねます。表現は、法律の条文のような硬さよりも、家族が読み返したくなる言葉であることを優先します。そのうえで、全員が内容を確認し、署名して保管します。署名には法的な拘束力はありませんが、家族の約束として重みを持たせる意味があります。

ステップ6:運用し、見直す

憲章は、つくって終わりではありません。年に一度など定期的に家族会議を開き、事業や資産の状況を共有し、憲章に照らして確認する場を設けます。見直しの方法は次の節で説明します。

ファミリー憲章の構成例

盛り込む項目は家族によって異なりますが、たとえば次のような構成が考えられます。

章主な内容書き方の例
前文憲章をつくった経緯と目的創業の経緯、次の世代に伝えたい思い
価値観家族として大切にすること誠実さ、地域への貢献、学び続けること
家族の範囲憲章が対象とする家族直系の子孫と配偶者、成人後に参加
事業との関わり家族が事業に入る条件、役割入社の条件、社外での経験、評価の考え方
株式と議決権株式の持ち方、譲渡の考え方株式は家族外に譲らない方針、議決権行使の考え方
配当と資産配当や家族への資産配分の考え方配当方針の考え方、事業に関わらない家族への配慮
家族会議開催頻度、参加者、決め方年1回の定例開催、議事録の作成
社会への還元寄附や社会貢献の方針利益や資産の一部を地域や社会に還元する考え方
意見が対立したとき話し合いの手順第三者を交えて協議する
見直し見直しの時期と方法定期見直し、改定の手続き

注意したいのは、細かく書き込みすぎないことです。憲章は長く尊重される「基本の考え方」を示すものであり、配当の具体的な金額や個別の財産の分け方まで書き込むと、状況が変わるたびに改定が必要になります。具体的なルールは、別に定める運用ルールや、遺言・契約などに委ねるのが現実的です。

法的な仕組みとのつなぎ方

憲章で合意したことを実際に機能させるには、内容に応じて次のような仕組みを組み合わせます。

憲章で合意したことつなぐ仕組みの例
株式を家族外に出さない定款の株式譲渡制限(会社法107条・108条)、相続人等に対する売渡請求の定め(同法174条)、株主間の契約
後継者に株式を集める遺言、生前贈与、種類株式(会社法108条)、民事信託(いわゆる家族信託)
後継者以外の家族に配慮する遺言での財産配分、生命保険、遺言の付言事項
判断能力の低下に備える任意後見契約、民事信託
社会への還元遺贈寄附、財団の設立

なかでも遺言は、憲章で共有した考え方を財産の配分として実現する中心的な手段です。遺言に添える付言事項で、配分の理由や家族への思いを伝えることもできます。付言事項の書き方は、関連記事「遺言の付言事項の書き方」で扱っています。

株式を分散させない具体的な手段は、関連記事「自社株を分散させずに次世代へ承継する方法」で整理しています。

見直しの考え方:変えない部分と見直す部分を分ける

憲章をどの程度変えてよいかは、悩ましい問題です。頻繁に変えれば重みが失われ、まったく変えなければ時代や家族の変化に合わなくなります。

AEGISでは、憲章の中身を二つの層に分けて考えることをおすすめしています。

  • 変えない部分:前文と価値観。世代を超えて受け継ぐ核であり、改定には家族全員の合意を必要とするなど、変更のハードルを高く設定します。
  • 見直す部分:事業との関わり方、家族会議の運営、配当や資産の考え方など。事業の状況、税制、家族の構成の変化に合わせて、定期的に点検します。

見直しのタイミングとしては、定例の家族会議のほか、代表者の交代、相続の発生、結婚や出産による家族の変化、事業の売却や大きな投資などが考えられます。

AEGISの視点

ファミリー憲章は、完成した文書そのものよりも、つくる過程で家族が交わした対話に価値があるとAEGISは考えています。普段は話題にしにくい事業の将来や財産のこと、家族それぞれの思いを、時間をかけて言葉にしていく過程そのものが、承継に向けた最も確かな準備になります。

一方で、憲章を「理想を書いた文書」で終わらせないことも大切です。株式の持ち方、財産の配分、社会への還元の方針は、遺言・定款・信託・財団などの具体的な仕組みに落とし込んで初めて実現します。AEGISは、憲章を家族の価値観と、承継の法的・税務的な設計とをつなぐ「上位の設計図」と位置づけています。事業承継計画の「家族」のブロックとの関係は、関連記事「事業承継計画に含める項目とは」も参考になります。

事業承継の全体像は「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。

まとめ

  • ファミリー憲章は、家族が大切にする価値観と、事業・資産との関わり方のルールを文書にしたものです。
  • 原則として法的な拘束力はないため、合意した内容は定款・契約・遺言・信託などの仕組みに落とし込む必要があります。
  • 目的と範囲の設定、参加者の決定、個別の聞き取り、家族会議、文書化と合意、運用と見直しの6つのステップで進めると整理しやすくなります。
  • 細かく書き込みすぎず、変えない部分(価値観)と見直す部分(運用ルール)を分けることが、長く使える憲章につながります。
  • 具体的な内容は家族ごとに異なり、法的な仕組みとの接続には個別の検討が必要です。

よくある質問

Q. ファミリー憲章に法的な効力はありますか?

原則として、憲章そのものには法的な拘束力はありません。株式の譲渡制限や財産の配分などを確実に実現するには、定款の定め、株主間の契約、遺言、民事信託などを別に整える必要があります。憲章は、それらの仕組みが何を目指すのかを家族で共有するための土台と考えるとよいでしょう。

Q. 家族の人数が少なくても、作る意味はありますか?

あります。家族が少ない段階のほうが話し合いはしやすく、次の世代で家族が増える前に考え方をそろえておくことができます。数ページの簡潔なものから始め、家族の変化に応じて充実させていく方法もあります。

Q. 後継者でない子にも参加してもらうべきですか?

参加してもらうことをおすすめします。事業承継や相続での対立は、後継者でない家族が「知らされていなかった」と感じることから深まることが少なくありません。事業に関わらない家族の役割や配慮の考え方を、本人も交えて話し合うことが大切です。

Q. 憲章に遺留分を放棄すると書いておけば、遺留分の請求は防げますか?

防げません。相続開始前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。憲章で家族の理解を得たうえで、遺言での配分の工夫や、必要に応じて家庭裁判所の手続を検討することになります。

Q. 作成にはどのくらいの期間がかかりますか?

家族の人数や論点によりますが、個別の聞き取りから家族会議、文書化までを含めると、半年から1年程度を一つの目安としてください。急いで形だけ整えるよりも、時間をかけて合意を積み重ねるほうが、運用の段階で機能しやすくなります。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『資産家のためのファミリーガバナンスガイドブック 〜相続・事業承継・資産運用・ファミリーオフィス〜』辻・本郷 税理士法人 ファミリーオフィス事業部、辻・本郷 ファミリーオフィス株式会社、岩崎隼人 編著、東峰書房、P.14-20、P.55-63
  • 『専門家のための事業承継入門 事例で学ぶ!事業承継フレームワーク』事業承継支援研究会 編、ロギカ書房、P.62-66

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。