オーナーが保有する自社の非上場株式を財団に寄附し、その配当を社会貢献の原資にする——事業承継と社会貢献を結びつける方法として、こうした構想が検討されることがあります。
ただし、株式の寄附は、現金の寄附とは性質が大きく異なります。株式には議決権と配当を受け取る権利が付いているため、寄附をした瞬間に、会社の株主構成と財団の財源の両方が同時に変わるからです。
結論から言えば、非上場株式を財団に寄附する前には、少なくとも次の3点を決めておく必要があります。
- 議決権:財団が持つ株式の議決権を、誰が、どのような手順で行使するのか
- 配当:会社の配当方針と財団の予算を、どのように結びつけるのか
- 運営体制:寄附者や会社から独立した判断が、財団の中でどう担保されるのか
そのうえで、寄附に伴う税金の扱いを確認します。この記事では、それぞれの論点を、オーナーの意思決定の順番に沿って整理します。
株式を寄附すると何が起きるか
非上場株式を財団に寄附すると、次の変化が同時に起こります。
| 変化する対象 | 起きること |
|---|---|
| 会社 | 財団が株主となり、株主総会で議決権を行使する立場になる |
| 後継者 | 後継者が確保できる議決権の割合が、寄附した分だけ相対的に変わる |
| 財団 | 配当が主な収入源となり、会社の業績と配当方針に財団の活動が左右される |
| 寄附者と家族 | 寄附した株式は寄附者の財産から外れ、家族が相続する財産の構成が変わる |
| 税務 | 寄附者に対するみなし譲渡課税、財団に対する課税などの論点が生じる |
このうち、税務の論点は最後に確認すればよいものではありませんが、議決権・配当・運営体制の設計が固まっていないと、税制の要件を満たせるかどうかも判断できません。まずは株式の寄附によって何を実現したいのかを整理することが出発点です。
財団設計の全体像は、関連記事「社会貢献を続ける財団をどう設計するか」で解説しています。
決めること1:議決権をどう行使するか
財団の議決権は理事会の判断で行使される
財団が保有する株式の議決権は、通常、理事会の決議などに基づいて代表理事が行使します。財団は寄附者の持ち物ではないため、寄附者や会社の経営陣が、財団の議決権行使を直接指示できる関係にはありません。
この点は、寄附を検討するオーナーにとって重要な意味を持ちます。
- 経営陣と財団の考えが一致している間は、財団は安定的な株主として機能しやすい
- しかし、創業家と経営陣の対立、第三者からの買収提案、増資などの場面では、財団がどう判断するかが会社の行方を左右し得る
- 財団の理事に会社の役員が多く就いていると、財団の判断の独立性や、会社法上の支配関係が問題になることがある
つまり、「財団に寄附すれば安定株主になってくれる」とは限りません。財団がどのような方針で議決権を行使するのかを、あらかじめ議決権行使の方針として定めておくなど、財団の独立性と会社の安定の両立を考えておく必要があります。
後継者の議決権への影響
寄附する株式の割合によっては、後継者が単独で確保できる議決権が過半数や3分の2を下回ることもあります。事業承継の計画上、後継者がどの程度の議決権を持つべきかを先に決め、その範囲内で寄附の規模を考えるのが順序です。
議決権と配当を切り分けて設計する考え方(種類株式の活用など)については、関連記事「議決権と配当を分けて設計できるか」で扱っています。寄附する株式を議決権のない株式にするなどの設計も考えられますが、会社法上の手続や評価・税務への影響を個別に確認する必要があります。
保有割合の上限にも注意
税制や公益認定の基準には、財団が保有できる株式の割合に関わるものがあります。たとえば国税庁は、株式の寄附について譲渡所得等の非課税の承認を受けるための判定の一つとして、寄附によって公益法人等が保有することになる株式(寄附前から保有するものを含む)が、その会社の発行済株式総数の2分の1を超えないことを示しています(租税特別措置法施行令第25条の17第6項)。また、公益法人については、他の団体の意思決定に関与できる株式等を保有する場合、その会社の議決権の過半数を有していないことが公益認定の基準とされています(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第5条第18号、同法施行令第8条)。前者は「発行済株式総数」、後者は「議決権」を基準とする別々のルールです。寄附の規模を考える際には、両方の上限を確認しておくことが欠かせません。
決めること2:配当と財団の予算をどう結びつけるか
株式の寄附は「配当が公益に使われること」が前提
株式は、建物や土地のように公益目的事業にそのまま使うことができない財産です。そのため、株式を寄附した場合には、その株式から生じる配当の全部が、継続して公益目的事業に充てられるかどうかが、税制の適用上の重要な判断材料になります。
裏を返すと、次のような状態は注意が必要です。
- 会社が無配、または配当が毎年定期的に支払われない
- 配当を受け取っても、財団の公益目的事業に使い切れず、使途が定まらないまま残る
- 配当金が財団の事務所や役員のための施設に使われる
会社の配当方針と財団の活動計画をすり合わせる
会社側にとって、配当は成長投資や財務の安定とのバランスで決めるものです。一方、財団側は、一定の配当がなければ助成や事業を継続できません。両者の利害は、時に対立します。
寄附の前に、次の点を経営陣・後継者と共有しておくことが望まれます。
- 会社の配当方針(安定配当か、業績連動か)
- 財団の活動に必要な年間予算の目安と、配当が想定を下回った場合の対応
- 配当の決定に財団が株主としてどう関わるか
配当の変動を財団がどう吸収するか、運営資金の考え方は、関連記事「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」で詳しく扱っています。
決めること3:財団の運営体制をどう組むか
株式を寄附する財団では、運営体制が「財団が会社やオーナー家から独立しているか」を示す要素になります。国税庁は、寄附に係る非課税の承認の判定の考え方として、次のような点を示しています。
- 理事・監事・評議員のうち、親族関係がある人などの占める割合が、それぞれ3分の1以下とする旨の定款の定めがあること
- 寄附者、法人の役員等やその親族等に対して、施設の利用、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任などで特別の利益を与えないこと
- 解散した場合の残余財産が、国・地方公共団体や他の公益法人等に帰属する旨の定款の定めがあること
- 寄附者やその親族が役員となっている会社の株式を寄附する場合は、その議決権の行使にあたり、あらかじめ理事会で理事総数の3分の2以上の承認を得る旨の定款の定めがあること(租税特別措置法第40条関係通達18)
運営体制の設計では、次の点も検討しておきたいところです。
- 評議員・理事に、会社や創業家から独立した有識者をどの程度迎えるか
- 会社の役員が財団の理事を兼ねる場合、利益相反の場面でどう判断するか
- 助成先の選考を、誰がどのような基準で行うか
運営体制を自ら組まないという選択肢
ここまでの運営体制を寄附者の家族だけで整え、何十年も維持するのは簡単ではありません。株式の寄附先として、自ら財団を設立する代わりに、独立した役員構成と事務局をすでに備えた財団の中に基金を設ける方法もあります。AEGISでは、この考え方に基づき、一定額の配当が確実に見込まれる株式等を、専門家の確認と理事会の決定を経て受け入れるアイジスレガシー財団を設立しています。
議決権のない配当優先株式を寄附する設計と組み合わせれば、後継者の議決権を保ちながら、配当を社会貢献の財源に充てることができます。後継者が財団の理事や事務局として運営を担う必要もありません。ただし、この場合も、本記事で見てきた議決権・配当・税務の確認は同じように必要です。
税務上の確認ポイント
寄附者:みなし譲渡と非課税の特例
個人が株式を法人に寄附すると、寄附した時の時価で譲渡があったものとみなされ、取得時からの値上がり益に所得税が課されるのが原則です。創業者が保有する自社株式は、取得価額が低く値上がり益が大きいことが多いため、この点は特に重要です。
公益法人等への寄附で、一定の要件を満たし国税庁長官の承認を受けた場合には、この所得税が非課税となる特例があります(租税特別措置法第40条)。国税庁によれば、主な要件は次のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 公益の増進への寄与 | 寄附が教育・科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与すること |
| 公益目的事業への供用 | 寄附財産が、寄附の日から2年を経過する日までに、公益目的事業の用に直接供されること(またはその見込みであること) |
| 不当減少でないこと | 寄附により、寄附者の所得税や、寄附者の親族等の相続税・贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないこと |
承認申請は、原則として寄附の日から4か月以内に、寄附者の所得税の納税地を所轄する税務署に提出します。また、公益財団法人など一定の法人への寄附で、寄附者がその法人の役員等やその親族等に該当しないことなどを要件とする「承認特例」もあり、こちらは申請から一定期間内に判断がなければ承認があったものとみなされます(原則1か月。株式などの寄附は、受け手が国立大学法人等である場合を除き3か月。租税特別措置法施行令第25条の17第8項)。
承認を受けた後でも、寄附財産が公益目的事業に直接供されなくなった場合などには承認が取り消され、寄附者または財団に所得税が課されることがあります。
財団:持分の定めのない法人への課税
財団への寄附によって、寄附者の親族等の相続税・贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合には、財団を個人とみなして贈与税(遺贈の場合は相続税)が課される仕組みがあります(相続税法第66条第4項)。運営体制の設計は、この判定とも直結します。
相続後に寄附する場合
相続や遺贈で取得した株式を、相続税の申告期限までに公益財団法人などに寄附した場合には、その株式を相続税の課税対象としない特例があります(国税庁タックスアンサーNo.4141)。ただし、公益認定を受けていない一般財団法人への寄附は対象外です。生前に寄附するか、遺言で寄附するか、相続人が寄附するかによって、適用される制度が変わります。
株式の評価
非上場株式の寄附では、寄附時の株式の時価をどう算定するかが、みなし譲渡の計算や各種判定の前提になります。みなし譲渡の計算に用いる時価は、所得税基本通達59-6により、一定の条件のもとで財産評価基本通達の取引相場のない株式の評価方法の例により算定するとされています。評価方法は会社の規模や株主の立場によって異なるため、寄附の計画段階で確認しておく必要があります。
実務上注意したいポイント
-
事業承継の計画と一体で考える:寄附の規模は、後継者が確保すべき議決権から逆算します。事業承継の全体像は関連記事「事業承継は何から始めるべきか」で整理しています。
-
受け手の財団の状態を先に整える:寄附を受ける財団の定款、役員構成、公益認定の有無によって、使える税制が変わります。寄附の時点で要件を満たしている必要がある点に注意が必要です。一般財団法人と公益財団法人の違いは、関連記事「一般財団法人と公益認定の違い」で解説しています。
-
家族の理解を得る:寄附した株式は家族が相続する財産から外れます。遺留分を含め、家族との合意形成を先行させることが望まれます。
- 一度に全部を寄附しない選択肢:寄附の規模や時期を段階的に分けることで、会社・財団双方の変化を確かめながら進めることもできます。
AEGISの視点
自社株式を財団に寄附するという判断は、「相続税をどう減らすか」という発想から語られることがあります。しかしAEGISは、この判断を「会社の所有の一部を、家族ではなく社会に託す」という承継の設計として捉えています。
会社は創業者一人のものではなく、従業員、取引先、地域とともに育ってきた存在です。その会社が生み出す利益の一部を、財団を通じて社会に還していく仕組みは、承継を合理的に突き詰めた先に現れる、一つの自然な形だとAEGISは考えています。
ただし、そのためには、財団が会社や創業家の「別の財布」になってはいけません。議決権の行使、配当の使い道、運営体制のいずれにおいても、財団が自らの目的に沿って独立して判断できることが、税制上の要件を満たすためにも、想いを長く続けるためにも不可欠です。株式の寄附を検討する際の税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 非上場株式を財団に寄附すると、会社の株主構成と財団の財源が同時に変わります。
- 寄附の前に、議決権の行使方法、配当と財団予算の関係、財団の運営体制の3点を決めておくことが重要です。
- 寄附者には原則としてみなし譲渡課税が生じますが、国税庁長官の承認を受けた場合の非課税特例(租税特別措置法第40条)があります。承認申請は原則として寄附の日から4か月以内です。
- 国税庁は、株式の寄附について、財団が保有する株式が発行済株式総数の2分の1を超えないことを判定要素の一つとして示しています。
- 財団を個人とみなして課税する仕組み(相続税法第66条第4項)もあり、運営体制の設計と税務は切り離せません。
具体的な適用可否や設計は、会社の状況、家族構成、財団の状態などの個別事情によって異なります。
よくある質問
Q. 自社株を財団に寄附すれば、相続税の対象から外れますか?
寄附した株式は寄附者の財産ではなくなりますが、寄附によって家族の相続税・贈与税の負担が不当に減少すると認められる場合には、財団に贈与税などが課される仕組みがあります。また、寄附者にはみなし譲渡による所得税の論点もあります。「寄附すれば非課税」と単純には言えないため、要件の確認が必要です。
Q. 財団に寄附した株式の議決権は、寄附者が行使できますか?
財団が保有する株式の議決権は、財団の理事会の決議などに基づいて行使されるのが通常であり、寄附者が直接行使するものではありません。寄附者が財団を通じて会社を支配するような設計は、税制上・公益認定上の要件と合わない可能性があります。
Q. 会社が無配の場合でも、株式を財団に寄附できますか?
寄附自体は可能ですが、配当がなければ財団の財源にならず、みなし譲渡の非課税特例の適用上も問題となる可能性があります。株式の寄附では、配当の全部が継続して公益目的事業に充てられるかどうかが重要な判断材料とされているためです。配当方針とあわせて検討する必要があります。
Q. 承認申請の期限を過ぎてしまうとどうなりますか?
承認申請書は、原則として寄附の日から4か月以内(その前に所得税の確定申告期限が到来する場合はその期限まで)に提出する必要があります。期限内に申請しなければ、非課税の特例を受けることはできません。寄附の実行前に、申請の準備を整えておくことが重要です。
Q. 一般財団法人に株式を寄附する場合と、公益財団法人に寄附する場合で違いはありますか?
あります。たとえば、相続財産を寄附した場合の相続税の非課税特例は、公益財団法人などが対象で、公益認定を受けていない一般財団法人は対象外です。みなし譲渡の非課税特例でも、手続が迅速な承認特例は公益財団法人など一定の法人に限られます。受け手の法人の状態によって選択肢が変わります。
関連するAEGISのソリューション
この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。
- 社会貢献を軸にした事業承継:財団の活用や非上場株式の寄附など、事業承継と社会貢献を両立する方法を検討します。
- 社会貢献型事業承継:自社株・経営権・ご家族への配分と、社会貢献の形を一つの設計として検討します。
- 自社株評価と資本設計:非上場株式の評価と株主構成を確認し、承継・売買・寄附などの目的に合う資本設計を検討します。
- 事業オーナーの方へ:会社と株式、ご家族の承継を一つの計画として整理する、AEGISの支援の流れをまとめています。
参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 国税庁「公益法人等に財産を寄附した場合における譲渡所得等の非課税の特例のあらまし」(令和8年4月(令和8年9月改訂))
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020006-125.pdf
確認日:2026-10-07 - 国税庁「[手続名]租税特別措置法第40条の規定による承認申請(公益法人等用)」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/joto/annai/23300007.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.3105「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 タックスアンサー No.4141「相続財産を公益法人などに寄附したとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4141.htm
確認日:2026-10-07 - 国税庁 法令解釈通達「贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)及び持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があった場合の取扱いについて」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640609-2/01.htm
確認日:2026-10-07 - e-Gov法令検索「租税特別措置法施行令」(第25条の17)
https://laws.e-gov.go.jp/law/332CO0000000043
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(第5条第18号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000049
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令」(第8条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/419CO0000000276
確認日:2026-10-09 - 国税庁 法令解釈通達「租税特別措置法第40条第1項後段の規定による譲渡所得等の非課税の取扱いについて」13
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/800423/08.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 法令解釈通達「租税特別措置法第40条第1項後段の規定による譲渡所得等の非課税の取扱いについて」17〜19の2
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/800423/09.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/12/02.htm
確認日:2026-10-09
書籍
- 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会
- 『公益法人・一般法人のQ&A 運営・会計・税務(五訂版)』稲葉威雄・鳥飼重和・中田ちず子 監修、大蔵財務協会
- 『令和7年4月施行対応 フローでわかる 一般/公益 社団・財団法人運営ガイドブック』富川昌之 著、新日本法規出版
