株式の配当を社会貢献に回す公益信託|株式配当活用型の契約の組み立て、受託者と信託管理人、みなし譲渡非課税と議決権

ビル模型から公園・地域施設の模型へ続くジオラマを囲む4人

保有している株式の配当を、毎年、奨学金や地域の活動への助成に充てる仕組みはつくれるのか。財団法人を設立しなくても、2026年(令和8年)4月1日に施行された新しい公益信託制度を使えば、その選択肢があります。

内閣府は、令和8年5月に「公益信託における信託契約イメージ(株式配当活用型公益信託)」を公表しました。上場株式と金銭を信託し、株式の配当金などで奨学金を給付する公益信託を想定した契約の例です。

結論として押さえておきたいのは次の4点です。

  • 株式を信託財産にでき、配当を公益事務(奨学金の給付など)に充てる設計が可能です。
  • 個人が値上がりした株式を拠出すると、原則としてみなし譲渡所得が課税されますが、国税庁長官の承認(承認特例など)を受ければ非課税にできます。
  • 公益信託の信託財産として、他の会社の議決権の過半数を有する株式は保有できないのが原則で、自社株を使う場合は経営権との関係を先に整理する必要があります。
  • 信託した財産は委託者に戻らず、終了時の残余財産も公益目的の先に帰属します。

この記事では、内閣府の契約イメージに沿って、株式配当活用型の公益信託をどう組み立てるかを整理します。

株式配当活用型公益信託とは

公益信託は、委託者が契約や遺言で受託者に財産を託し、受託者がその財産を使って公益事務を行う仕組みです。特定の受益者がいないため、受託者を監督する信託管理人を置くことが必須とされ、行政庁の認可を受けて効力が生じます。

株式配当活用型は、その中でも次のような形を想定したものです(内閣府の契約イメージの想定ケース)。

  • 委託者が、上場株式と金銭を受託者に信託する
  • 株式は売却せずに保有し、配当金は預金などで運用する
  • 配当金と金銭を、奨学金の給付などの公益事務に充てる
  • 奨学生の選考のため、合議制の機関として「選考委員会」を置く
  • 当初と同じ株式の追加信託や、第三者からの金銭の寄附も受け入れられる

元本である株式を取り崩さず、その果実である配当を毎年の活動資金にするという点で、「基金」を持つ財団に近い発想を、法人をつくらずに実現する方法といえます。公益信託と財団の違い全般については、親記事「公益信託の新制度と財団の違い」で解説しています。

新しい制度で株式の信託が現実的になった

旧制度の公益信託は、主務官庁の許可制のもとで、信託財産は事実上金銭に限られ、受託者も信託銀行などが中心でした。新しい公益信託法(令和6年法律第30号)では、次の点が変わりました。

  • 信託財産として、金銭のほか株式や不動産なども受け入れられるようになった
  • 受託者として、信託会社のほか公益法人、NPO法人などが想定されるようになった
  • 主務官庁の許可から、行政庁(内閣総理大臣または都道府県知事)の認可に一本化された
  • 令和6年度税制改正により、認可を受けた公益信託には、公益法人とおおむね同等の税制優遇が適用されるようになった

なお、旧制度で設定された公益信託は、施行日から2年間の移行期間内(令和10年3月31日まで)に移行認可を申請することで、新制度の公益信託となることができます。

契約の組み立て:何をどこに書くか

内閣府の契約イメージは、条項ごとに「必要的記載事項(定めがないと認可されないもの)」「相対的記載事項(予定がある場合に定めが必要なもの)」「任意的記載事項」を区別しています。株式配当活用型で特に検討したい項目を、AEGISで整理すると次のとおりです。

契約で決めること主な内容株式型で考えたいポイント
目的と公益事務何のために、どの地域で、どのような事務を行うか配当水準で継続できる規模の事務にする
信託財産の受入れ当初信託財産、追加信託、第三者からの寄附どの株式を何株、金銭をいくら入れるか
株式・金銭の管理と運用振替口座での管理、金銭の運用方法、増資への対応原則として株式を売却しないのか、買換えを認めるのか
議決権・株主権の行使誰が、どの手続で行使するか信託管理人の同意、内部規程、助言の受け方
基金みなし譲渡非課税(承認特例)用の区分管理基金規程と基金明細書の作成体制
合議制の機関選考委員会の構成・権限委託者や受託者の親族等の比率
信託報酬受託者・信託管理人の報酬基準配当収入とのバランス
終了事由と残余財産目的達成・不達成のほか、株式に関する事由連続無配や株価下落時の扱い

契約イメージでは、終了事由として通常の目的達成・不達成に加え、「一定期間連続して無配当となった場合」や「株価が一定額を下回った場合」といった株式特有の事由を加える例が示されています。配当に依存する仕組みである以上、配当が出なくなったときにどうするかを最初に決めておくことが重要です。

受託者と信託管理人の役割

受託者

受託者は信託財産の名義人となり、株式の管理、配当の受領、奨学金の給付などの公益信託事務を行います。行政庁は、受託者が公益信託事務を適正に処理するために必要な経理的基礎と技術的能力を持っているかを審査します。受託者には善管注意義務、忠実義務、分別管理義務などが課され、受託者が法人の場合は理事等も一定の場合に責任を負います。

契約イメージでは、受託者として一般社団法人を想定しています。委託者自身が設立した法人を受託者にする設計も考えられますが、後述するみなし譲渡非課税の承認特例では、寄附者が受託者の理事等やその親族等でないことが要件の一つになっている点に注意が必要です。

信託管理人

信託管理人は、委託者・受託者から独立した立場で受託者を監督します。委託者や受託者の親族等は信託管理人になれません。事業計画や財務諸表の承認、受託者の選任・解任への関与、利益相反行為の承認などの権限を持ちます。

株式配当活用型の契約イメージでは、議決権の行使、増資への払込み、基金への組入れなど、株式に関わる重要な判断の多くに信託管理人の同意を要する形になっています。誰に信託管理人を依頼するかは、仕組み全体の信頼性を左右します。

現物拠出のみなし譲渡所得の非課税

個人が株式などの現物を公益信託に拠出すると、原則として、取得時から拠出時までの値上がり益に所得税が課税されます(みなし譲渡所得)。ただし、一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けると、この所得税は非課税になります(租税特別措置法40条1項後段)。制度には「一般特例」と「承認特例」があり、株式配当活用型の契約イメージは承認特例の利用を前提にしています。

承認特例の主な要件は次のとおりです(内閣府の契約イメージ・手引き)。

  • 寄附者が、受託者・信託管理人(法人の場合はその理事等を含む)やその親族等に該当しないこと
  • 寄附財産を、行政庁の証明を受けた「基金」で、他の経理と区分して管理すること
  • 寄附の受入れと基金での管理について、合議制の機関の決定または信託管理人の同意があること
  • 基金明細書を、毎信託事務年度終了後3か月以内に行政庁へ提出し、5年間保存すること

手続面では、承認申請書を寄附の日から4か月以内または寄附した年分の確定申告期限のいずれか早い日までに、所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出します(国税庁 No.3108)。承認特例では、株式などの場合、申請から3か月以内に承認・不承認の判断がなければ承認があったものとみなされる仕組みがあります。

注意したいのは、承認後の管理です。承認特例を受けた株式を売却する場合は、売却による収入金額の全部で買換えを行う必要があり、合議制の機関の決定または信託管理人の同意も必要です。公益信託の認可が取り消された場合などには、非課税承認が取り消され、寄附者または受託者に課税されることがあります。また、承認特例には財務省令で定める要件もあるため、自社株のような非上場株式を拠出する場合は、要件の当てはめを個別に確認する必要があります。

財団などへの寄附を含む措置法40条の制度全体は、関連記事「財団に土地や株式を寄附したときの譲渡所得の非課税」で整理しています。

寄附金控除・信託財産の非課税

認可を受けた公益信託では、個人が拠出した場合の寄附金控除(所得控除)、法人が拠出した場合の別枠の損金算入、信託財産に生じる所得の非課税(利子・配当などの源泉所得税を含む)といった税制優遇があります。配当を受け取るたびに源泉所得税が差し引かれないことは、配当を原資とする仕組みにとって実務上の意味があります。具体的な控除額は、寄附者の所得や寄附額によって異なります。

議決権と自社株の扱い

過半数の議決権を持つ株式は保有できない

公益信託法8条12号は、信託財産に他の団体の意思決定に関与することができる株式などが属しないことを認可の基準としています。公益信託認可等ガイドラインでは、議決権の過半数を有する株式を信託財産として保有することはできないとされ、無議決権株式は規制の対象外と整理されています。株式を通じて営利企業の事業を実質的に支配することを防ぐための規律です。

議決権は「公益信託の目的」に沿って行使する

信託財産に属する株式の議決権は、株主である受託者が行使します。受託者は信託の本旨に従う義務があるため、議決権も公益信託の目的を踏まえて行使する必要があります。契約イメージの解説では、受託者が信託行為や内部規程に基づいて行使する方法、委託者や外部の助言をもとに受託者が判断する方法、議決権行使を委託する方法が挙げられ、信託行為で手続を定めることが適切とされています。

自社株を公益信託に入れる場合、オーナー一族の経営権を維持するための手段として議決権を使う設計は、制度の趣旨と合いません。議決権の過半数に届かない範囲であっても、受託者がどのような方針で議決権を行使するかを、契約や内部規程で明確にしておくことが大切です。財団が保有する自社株の議決権の考え方は、関連記事「財団が保有する自社株の議決権をどう行使するか」も参考になります。

配当の変動にどう備えるか

配当は会社の業績や配当方針によって変動します。公益信託には、中期的(5年)な収支の均衡、公益事務の割合(費用ベースで70%以上)、使途の定まっていない財産の保有制限といった財務の規律もあります。配当が多い年に使い切れない、少ない年に給付が足りないということが起きないよう、次の点を設計段階で考えておきます。

  • 配当の過去の推移と、減配・無配の可能性
  • 毎年の給付額を固定するのか、配当に連動させるのか
  • 金銭をあわせて信託し、配当の変動を吸収する余地を持たせるか
  • 連続無配や株価下落を終了事由にする場合、その水準をどう決めるか

株式の配当を原資とする活動資金の考え方は、関連記事「株式寄附と財団の運営資金をどう考えるか」でも整理しています。

AEGISの視点

株式の配当を社会貢献に回す仕組みは、オーナーにとって「資産を手放さずに貢献し続ける」方法に見えるかもしれません。しかし公益信託では、信託した株式は委託者の手を離れ、受託者が公益目的のために管理し、残余財産も委託者や相続人には戻りません。AEGISは、この「手放す」という性質を受け入れられるかどうかが、最初の判断になると考えています。

そのうえで、株式配当活用型の公益信託は、財団法人を設立・運営するほどの規模や体制は必要ないが、長く続く支援をしたいという方にとって、有力な器になりえます。特に、上場株式や一部の自社株を使い、議決権の過半数とは切り離して社会貢献の原資にする場合、事業承継と社会貢献を一つの設計として考える余地が生まれます。

検討の順番としては、①何を支援したいのか、②どの株式をどれだけ手放せるのか、③経営権や家族への配分との関係、④受託者と信託管理人を誰に依頼するか、⑤税務上の承認手続、の順に整理すると、判断がぶれにくくなります。財団関連の税務や承継の論点は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。

まとめ

  • 新しい公益信託制度(2026年4月施行)では、株式を信託し、その配当を奨学金などの公益事務に充てる「株式配当活用型」の設計が可能です。
  • 内閣府の契約イメージでは、株式の管理、議決権行使、基金、選考委員会、株式特有の終了事由などの定め方が示されています。
  • 個人が株式を拠出する場合、承認特例などで国税庁長官の承認を受ければ、みなし譲渡所得を非課税にできます。承認後の売却には買換えなどの要件があります。
  • 議決権の過半数を有する株式は信託財産にできず、議決権は公益信託の目的に沿って行使する必要があります。
  • 信託した財産は委託者に戻らないため、手放せる株式の範囲と経営権・家族への配分を先に整理することが大切です。

よくある質問

Q. 非上場の自社株を公益信託に入れることはできますか?

新制度では株式を信託財産にできます。ただし、議決権の過半数を有する株式は保有できず、議決権は公益信託の目的に沿って行使する必要があります。また、みなし譲渡所得の非課税を受けるには要件を満たして承認を受ける必要があり、非上場株式の場合は配当の安定性や評価も含めて個別に検討が必要です。

Q. 委託者が受託者や信託管理人になることはできますか?

信託管理人は委託者・受託者から独立している必要があり、委託者やその親族等はなれません。受託者については、承認特例を使う場合、寄附者が受託者(法人の場合はその理事等を含む)やその親族等でないことが要件の一つです。

Q. 配当が出なくなったら、公益信託はどうなりますか?

契約で定めた終了事由によります。内閣府の契約イメージでは、一定期間連続して無配となった場合などを終了事由に加える例が示されています。終了すると清算手続に入り、残余財産は契約で定めた公益目的の帰属先に移ります。

Q. 株式を売却して別の銘柄に買い換えることはできますか?

契約で株式の売却や取得について定めることは可能です。ただし、承認特例を受けた株式を売却する場合は、売却収入の全額で買換えを行い、合議制の機関の決定または信託管理人の同意を得る必要があります。

Q. 遺言で株式配当活用型の公益信託を設定できますか?

公益信託は契約のほか遺言によって設定することもできます。遺言による場合は、受託者の引受けや認可の手続を相続開始後に進めることになるため、受託者候補との事前の調整が重要になります。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

  • 内閣府「公益信託における信託契約イメージ(株式配当活用型公益信託)」(令和8年5月公表)
    確認日:2026-10-10
  • 内閣府公益法人行政担当室「新しい公益信託制度について」(令和8年5月版)
    確認日:2026-10-10
  • 内閣府公益認定等委員会・公益法人行政担当室「公益信託認可等に関する運用について(公益信託認可等ガイドライン)」(令和7年12月)
    確認日:2026-10-10
  • 内閣府/都道府県「公益信託に対する個人からの現物資産拠出のみなし譲渡所得税非課税承認~証明申請等の手引き~」(令和8年6月15日現在)
    https://www.koeki-info.go.jp/
    確認日:2026-10-10
  • e-Gov法令検索「公益信託に関する法律」(8条)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/506AC0000000030/20260401_000000000000000
    確認日:2026-10-10
  • 国税庁 タックスアンサー No.3108「国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人等に財産を寄附したとき」(令和8年4月1日現在法令等)
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3108.htm
    確認日:2026-10-10
  • 国税庁「公益信託に財産を拠出した場合における譲渡所得等の非課税の特例のあらまし」
    https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0025012-037.pdf
    確認日:2026-10-10(内閣府の手引きに記載のURL)

書籍

  • 『社団・財団・信託を活用した資産・事業承継対策』品川芳宣 編著、大蔵財務協会、P.302-307(旧制度の公益信託と見直しの経緯)

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。