申告後に相続財産の価値が下がったときにできること|相続税は見直せるのか、使える制度と代替策

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相続した株式の株価が申告の頃から大きく下がってしまった、相続した土地を売ろうとしたら相続税の評価額を大きく下回る価格しかつかなかった——「相続税は相続した時の価値で払ったのに、今の価値はこれほど低い。税金は見直してもらえないのか」という相談は少なくありません。

結論から言えば、相続後の市況による値下がりを理由に、相続税そのものを見直すことは原則としてできません。相続税は、相続により財産を取得した時点の価額で計算する仕組みだからです。

ただし、値下がりのように見えて実は当初の評価の前提に誤りがあった場合や、災害によって財産が被害を受けた場合には、税額が変わる可能性があります。また、相続税を見直せない場合でも、売却や納税の方法を工夫することで、値下がりの影響を和らげられることがあります。この記事では、その線引きと選択肢を整理します。

なぜ値下がりしても相続税は変わらないのか

相続税法22条は、相続などで取得した財産の価額を「財産の取得の時における時価」によると定めています。相続の場合、取得の時とは原則として被相続人が亡くなった日(相続開始日)です。

相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です(国税庁 No.4205)。この間に株価や地価が動いても、評価の基準となる日は相続開始日のままです。専門書でも、相続後の経済情勢による価額の変動による損益は考慮されないことが説明されています(武田秀和『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』Q1-8)。

なお、上場株式の評価には、相続開始日の終値と、相続開始月・前月・前々月の各月の終値の月平均額のうち、最も低い価額を使える仕組みがあります(No.4632)。ただしこれは相続開始前の株価の動きを反映するもので、相続後の値下がりを反映するものではありません。

「値下がり」と「評価の誤り」を区別する

申告後に税額を見直す手続として、更正の請求があります。国税通則法23条1項による更正の請求は、申告書の計算が法律の規定に従っていなかったことや計算に誤りがあったことにより税額が過大である場合に、法定申告期限から5年以内に限り認められるものです。

つまり、更正の請求の対象になるのは「相続開始時点の評価が正しくなかった」場合です。「相続開始時点の評価は正しかったが、その後に値下がりした」場合は、原則として対象になりません。

ただし、値下がりをきっかけに申告内容を見直すと、評価の前提に誤りが見つかることがあります。

気づいたこと相続税の見直し考え方
相続後に株価・地価が市況で下がった原則としてできない評価の基準日は相続開始日(相続税法22条)
売却価格が評価額を大きく下回り、調べると土地の形状・道路・利用状況などの減額要素が評価に反映されていなかった更正の請求を検討できる相続開始時点の評価の誤り(国税通則法23条1項)
非上場株式の評価で、会社規模の判定や資産・負債の計上に誤りがあった更正の請求を検討できる同上
申告期限前に地震・火災などで財産が被害を受けた被害部分を控除して計算できる場合がある災害減免法6条
申告期限後に地震・火災などで財産が被害を受けた被害部分に対応する税額が免除される場合がある災害減免法4条

土地評価で見落とされやすい減額要素については関連記事「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で、更正の請求の手続全般は「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。

災害で財産が被害を受けた場合の取扱い

市況による値下がりとは異なり、地震・風水害・火災などの災害で相続財産が被害を受けた場合には、「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律」(災害減免法)による救済があります。

申告期限前に被害を受けた場合

相続税の申告期限前に、相続で取得した財産が災害で甚大な被害を受けたときは、被害を受けた部分の価額を控除して財産の価額を計算します(災害減免法6条)。課税価格の計算の基礎となる財産の価額(債務控除後)または動産等の価額のうち、被害を受けた部分の割合が10分の1以上であることが要件です(同法施行令12条)。保険金や損害賠償金で補てんされる部分は控除の対象から除かれ、適用を受けるには申告書に適用を受ける旨や被害の状況、被害額を記載する必要があります(同条。国税庁 No.8006では、被害の状況や被害額等を記載した「相続税等の財産の価額の計算明細書」を申告書に添付するよう案内されています。武田・前掲Q1-8、Q1-9)。

申告期限後に被害を受けた場合

申告期限後に被害を受けたときは、すでに確定した税額のうち、被害があった日以後に納付すべき税額で被害を受けた部分に対応するものが免除されます(災害減免法4条)。延滞税や加算税は免除の対象外です。適用を受けるには、課税価格の計算の基礎となった財産の価額のうち被害を受けた部分の割合が10分の1以上であることなどの要件を満たし、災害のやんだ日から2か月以内に申請書(国税庁 No.8006では「相続税等の免除承認申請書」)を税務署長に提出する必要があります(災害減免法施行令11条)。

ここでいう被害は、建物や家財の損壊・滅失といった物的な損害を指し、地価の下落のような経済的価値の減少は含まれないとされています(武田・前掲Q1-9に収録の計算明細書の注記)。災害の影響で地価や株価が下がっただけでは、この制度の対象にならない点に注意が必要です。

相続税を見直せないときに検討したい3つの選択肢

相続税そのものが変わらない場合でも、次のような制度や判断によって、値下がりの影響を和らげられることがあります。

1. 売却するなら「取得費加算の特例」の期限を意識する

相続した財産を売却する場合、一定の期間内であれば、支払った相続税のうちその財産に対応する部分を、譲渡所得の計算上の取得費に加算できます(取得費加算の特例。国税庁 No.3267)。期間は、相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までです。

ただし、この特例は譲渡益を限度に加算する仕組みで、売却しても譲渡損失となる資産には効果がありません(No.3267、『要点 譲渡所得』第Ⅱ部第6章)。値下がりした資産を売却するか保有を続けるか、どの資産から売却するかを考えるときは、資産ごとの取得費(被相続人の取得価額の引継ぎ)と含み益・含み損を確認したうえで、3年の期限内に判断する必要があります。

2. 納税資金が足りないなら「物納」の要件を確認する

相続税は金銭で納付するのが原則ですが、延納によっても金銭で納付することが困難な事由があるなどの要件を満たす場合には、相続財産そのもので納める物納が認められています。物納財産を国が収納する価額は、原則として相続税の課税価格計算の基礎となった財産の価額とされています(国税庁 No.4214)。上場株式は不動産などとともに第1順位の物納財産です(No.4214)。

このため、相続後に大きく値下がりした上場株式などを物納すると、相続税評価額で税額に充てられる可能性があります(山本和義・水品志麻『上場株式等の相続と有利な物納選択』第三章・第四章)。ただし、物納は「延納によっても金銭で納付することが困難」であることが前提で、預貯金や収入の状況によっては認められません。値下がりを理由に自由に選べる制度ではない点に注意が必要です。物納の申請期限は相続税の納期限(または納付すべき日)までです(No.4214)。

3. 分割前なら、値下がりのリスクを分け方に織り込む

遺産分割がまだ終わっていない場合は、分け方の段階で値動きの大きい財産をどう扱うかを話し合うことができます。相続税は相続開始時の評価額で計算されるため、値下がりしやすい財産を取得した相続人は、他の相続人より実質的な負担が重くなりがちです。評価額だけで公平を図るのではなく、売却可能性や収益性、納税資金の確保の見通しも含めて分け方を検討することが、後の不満を防ぐことにつながります。

AEGISの視点

申告後の値下がりの相談を受けると、AEGISはまず「税額を見直せるか」と「これからどう動くか」を分けて考えることにしています。

相続税は、相続開始という一時点の評価で確定する税金です。その後の値動きを税額に反映させる仕組みは、災害のような限られた場面にしかありません。しかし、値下がりをきっかけに申告書を読み直すと、土地の利用状況や評価単位、非上場株式の評価の前提など、相続開始時点の評価そのものに見直しの余地が見つかることもあります。感覚的な「高すぎる」を、相続開始時点の事実に照らした「評価の誤り」と、市況による「事後の変動」に仕分けることが、最初の一歩です。

一方で、見直しの対象にならない値下がりについては、売却の時期と方法、納税資金の確保、家族の中で誰がそのリスクを負うかという判断が中心になります。取得費加算の特例の期限、物納の要件、二次相続の見通しなど、税務と資産の管理を同じ表の上で検討することが、損失を広げないための現実的な方法だとAEGISは考えています。資産税務や承継に関するAEGISの考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。

相続税と事業承継を一体で考える全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」で、納税資金の準備方法の比較は「相続税の納税資金をどう準備するか」で解説しています。

値下がりではなく、申告時の評価そのものに見直しの余地がないかを確認したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

まとめ

  • 相続税は、相続により財産を取得した時点の時価で計算します。相続後の市況による値下がりを理由に、相続税を見直すことは原則としてできません。
  • 更正の請求の対象になるのは、相続開始時点の評価や計算に誤りがあった場合です。値下がりをきっかけに、土地や非上場株式の評価の前提を点検する意味はあります。
  • 災害で財産が被害を受けた場合は、申告期限の前後に応じて、災害減免法による控除や免除を受けられる場合があります。地価や株価の下落のような経済的価値の減少は対象外です。
  • 見直しができない場合でも、取得費加算の特例の期限、物納の要件、分け方の工夫などで影響を和らげられることがあります。具体的な適用可否は個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 相続した株式が申告期限までに半値になりました。相続開始時の株価で申告しなければなりませんか?

相続税の評価の基準は相続開始時点のため、申告期限までの値下がりは原則として評価に反映されません。上場株式は、相続開始日の終値と、相続開始月以前3か月の各月の月平均額のうち最も低い価額で評価できますが、これは相続開始前の株価を対象とするものです。納税資金の確保が難しい場合は、延納や物納の要件を確認します。

Q. 相続した土地が評価額より大幅に安くしか売れませんでした。更正の請求はできますか?

売却価格が低かったことだけを理由に更正の請求をすることは、原則としてできません。ただし、売却の過程で、道路の条件や土地の形状、利用上の制約など、相続開始時点から存在していた減額要素が評価に反映されていなかったことが分かれば、評価の誤りとして更正の請求を検討できます。法定申告期限から5年以内という期限があります。

Q. 地震で相続した建物が損壊しました。相続税はどうなりますか?

申告期限前の被害であれば、被害を受けた部分の価額を控除して計算できる場合があります。申告期限後の被害であれば、被害割合などの要件を満たすと、被害を受けた部分に対応する税額が免除される場合があり、災害のやんだ日から2か月以内に申請が必要です。保険金などで補てんされた部分は除かれます。

Q. 値下がりした相続財産を売ると、取得費加算の特例は使えますか?

取得費加算の特例は、譲渡益の範囲内で相続税額の一部を取得費に加算する制度です。売却しても譲渡損失となる場合には、その資産について特例の効果はありません。特例を使うには、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却し、確定申告で手続する必要があります。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』武田秀和 著、税務研究会出版局、2013年、P.26-34
  • 『相続税の物納制度が大改正! 上場株式等の相続と有利な物納選択』山本和義・水品志麻 著、清文社、2017年、P.123-126、141-142、149
  • 『実務家のための「基本書&ハンドブック」 要点 譲渡所得【第一編 総説・不動産譲渡の特例等関係】』塩野入文雄 著、法令出版、2020年、P.401-403、409、413-414

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。