依頼した相続税申告書のセルフチェック|家族が確認したい表の読み方と10の確認項目

書類と電卓を前に話し合う家族3人

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相続税の申告を税理士に依頼し、完成した申告書の控えを受け取った。何十ページにもなる書類を前に、「専門家が作ったのだから大丈夫だろう」と、そのまま保管していないでしょうか。

相続税の申告書は、税理士が作成していても、申告するのは相続人自身です。そして、財産の存在や生前の贈与、家族の事情といった申告の前提となる事実は、家族のほうがよく知っていることも少なくありません。

結論から言えば、家族が行うセルフチェックの目的は、税額の計算を検算することではなく、「申告書に載っている財産・債務・贈与・特例の前提が、家族の知っている事実と一致しているか」を確かめることです。この記事では、申告書を構成する主な表の役割と、確認したい10の項目を整理します。

申告書の全体像:まず「どの表に何が書いてあるか」を知る

相続税の申告書は、複数の表で構成されています。国税庁の「相続税の申告書等の様式一覧(令和8年分用)」には、第1表から第15表までの各表と付表が掲載されています。すべてを読み込む必要はありませんが、主な表の役割を知っておくと、確認すべき場所が分かります。

表主な内容家族が見るポイント
第1表相続税の申告書(各人の課税価格・納付税額など)相続人全員が記載されているか、各人の取得額が分け方と合っているか
第2表相続税の総額の計算書法定相続人の数と基礎控除額
第4表の2暦年課税分の贈与税額控除額の計算書生前贈与で納めた贈与税が反映されているか
第5表配偶者の税額軽減額の計算書配偶者の取得財産と軽減の適用
第9表・第10表生命保険金・退職手当金などの明細書受け取った保険金・退職金が漏れていないか
第11表相続税がかかる財産の合計表(明細は第11表の付表1〜4)知っている財産がすべて載っているか
第11・11の2表の付表1小規模宅地等についての課税価格の計算明細書特例を適用した土地と取得者
第13表債務及び葬式費用の明細書借入金・未払金・葬式費用の計上
第14表加算される暦年課税分の贈与財産価額などの明細書生前贈与の記載
第15表相続財産の種類別価額表財産全体の構成

おすすめの読み方は、第15表で財産全体の構成をつかむ → 第11表・第13表・第14表で中身を確認する → 第1表・第2表で人数と各人の金額を確認する → 第5表と付表1で特例を確認するという順番です。

確認したい10の項目

国税庁は、申告の準備として、相続人の確認、遺言書の確認、遺産と債務の把握、遺産の評価、遺産の分割、申告と納税という流れを示しています(No.4202)。また、「相続税の申告のためのチェックシート」や「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」も公表しています。これらを手がかりに、家族の立場で確認しやすい項目を10に整理しました。

【人】相続人と人数

1. 相続人が正しく記載されているか
第1表に記載された相続人が、戸籍で確認した相続人と一致しているかを確認します。相続放棄をした人がいる場合も、基礎控除額などを計算する際の法定相続人の数は、放棄がなかったものとして数えます。また、養子は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか法定相続人の数に含めません(No.4152)。

2. 2割加算の対象者が正しく扱われているか
配偶者・父母・子など一親等の血族以外の人(兄弟姉妹、甥・姪、代襲相続人ではない孫養子など)が財産を取得した場合は、相続税額が2割加算されます(No.4157)。誤りやすい事例集でも、兄弟姉妹や孫が取得した場合の2割加算が取り上げられています。

【財産】漏れと名義

3. 不動産がすべて載っているか
固定資産税の課税明細書や名寄帳と、第11表の不動産を突き合わせます。先代名義のままの不動産、共有持分、他の市区町村にある土地、建物だけを所有している場合の借地権などは、漏れやすいとされています(東北篤『ここが違う!プロが教える土地評価の要諦』第1章)。

4. 家族名義の預貯金・有価証券の扱いを確認したか
誤りやすい事例集には、被相続人以外の名義の預貯金の取扱いが挙げられています。名義が家族であっても、実質的に被相続人の財産と判断されるものは相続財産になり得ます。税理士にどのような前提で判断したかを聞いておくと安心です。

5. 生命保険金・退職金が明細に載っているか
死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税ですが、相続人以外の人が受け取った保険金には非課税の適用はありません(No.4114)。受け取った保険金・退職金の支払通知と、第9表・第10表を照合します。

【贈与】生前贈与の加算

6. 生前贈与が漏れなく記載されているか
相続などで財産を取得した人が、被相続人から暦年課税による贈与を受けていた場合、一定期間内の贈与財産は相続税の課税価格に加算されます。加算期間は段階的に7年へ延長されており、経過措置があります(No.4161)。相続時精算課税を選択して受けた贈与も加算の対象です(No.4103)。家族が把握している贈与(贈与税の申告書の控え、通帳の記録)と第14表を照らし合わせます。

【債務】控除の漏れと過大計上

7. 債務・葬式費用が適切に計上されているか
誤りやすい事例集では、未納の固定資産税・住民税、お墓の購入費用に係る借入金、団体信用生命保険により返済が免除される住宅ローンの扱いなどが取り上げられています。控除できるもの・できないものの線引きがあるため、計上の有無だけでなく、その根拠を確認します。

【特例】適用の前提

8. 小規模宅地等の特例の対象地と取得者は合っているか
特例は、宅地の利用区分(事業用・居住用・貸付用)と、取得した人の要件の組合せで適用の可否や減額割合が決まります(No.4124)。付表1に記載された土地の利用状況や、取得者の居住・保有の状況が、家族の知っている事実と合っているかを確認します。

9. 配偶者の税額軽減の前提は合っているか
配偶者の税額軽減は、申告期限までに分割された財産などが対象で、申告書の提出が適用の前提です(No.4158)。第5表に記載された配偶者の取得財産が、遺産分割協議書と一致しているかを確認します。分割がまとまっていない場合の手続は「遺産分割が後から決まったときの相続税の手続」で解説しています。

【分割・納税】書類どうしの整合

10. 分割協議書・申告書・納付書が一致しているか
第1表の各人の取得額が遺産分割協議書と一致しているか、各人の納付税額と納付の期限(亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内。No.4205)を確認します。延納や物納を予定している場合は、その申請の準備も同じ期限までに必要です。

気になる点が見つかったら

セルフチェックで疑問が生じても、それがすぐに誤りを意味するとは限りません。評価の方法や財産の判断には専門的な根拠があることが多いため、まずは作成した税理士に、どのような前提で判断したのかを尋ねることから始めます。そのうえで、次のように対応します。

  • 申告期限前:前提の修正が必要であれば、申告書を修正してから提出します。
  • 申告期限後で税額が過大だった場合:法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求を検討できます(国税通則法23条)。手続の詳細は「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。
  • 申告期限後で税額が過少だった場合:修正申告を検討します。税務調査で確認されやすい点は「相続税の税務調査で指摘されやすい点」で整理しています。

土地評価の専門的な見直しの観点は「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」も参考になります。

AEGISの視点

相続税の申告は、税理士と家族の共同作業です。税理士は評価や計算の専門家ですが、財産の存在、贈与のいきさつ、土地の実際の使われ方、家族の暮らし方といった事実は、家族からの情報がなければ正確に反映できません。AEGISは、申告書のセルフチェックを「専門家を疑う作業」ではなく、「家族の知っている事実を申告書に正しく届ける最後の機会」と考えています。

申告書を読み解くことには、もう一つの意味があります。相続税の申告書には、家族の財産の全体像と、それぞれが何を受け継いだかが一覧になっています。これは、次の世代の相続(二次相続)や、不動産・事業の今後の持ち方を考えるうえでの出発点にもなります。申告が終わったら控えをしまい込むのではなく、家族の資産の「現在地」として活用していくことをおすすめします。資産税務や承継に関するAEGISの考え方は、アイジス税理士法人の専門領域でも紹介しています。

相続と事業承継を一体で考える全体像は「相続対策と事業承継を一体で考える」で解説しています。

セルフチェックで気になる点が見つかった場合や、土地の評価を専門家の目で確認したい場合は、アイジス税理士法人でもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税還付のご相談をご覧ください。

相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 相続税の申告書は税理士が作成していても、申告するのは相続人自身です。前提となる事実の確認は家族にしかできない部分があります。
  • まず第15表で全体像をつかみ、第11表・第13表・第14表で財産・債務・贈与を、第1表・第2表で人数と各人の金額を、第5表と付表1で特例を確認します。
  • 確認したい項目は、相続人と人数、2割加算、不動産の漏れ、家族名義の預貯金、保険金・退職金、生前贈与、債務・葬式費用、小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減、分割協議書との整合の10項目です。
  • 疑問があれば、まず作成した税理士に判断の前提を確認します。申告後に誤りが分かった場合は、更正の請求や修正申告を検討します。具体的な判断は個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 税理士が作った申告書を家族がチェックする必要はありますか?

申告の内容に責任を負うのは申告する相続人自身です。税額の計算を検算する必要はありませんが、財産の漏れや生前贈与の有無、土地の使われ方など、家族しか知らない事実が正しく反映されているかを確認する意味は大きいといえます。

Q. どの表から読めばよいですか?

財産全体の構成が分かる第15表から読むと全体像をつかみやすくなります。次に、財産の合計と明細(第11表とその付表)、債務・葬式費用(第13表)、生前贈与(第14表)を確認し、最後に第1表・第2表で相続人の人数と各人の税額を確認する順番がおすすめです。

Q. 自分の名義の預金が相続財産に入っています。誤りではないのですか?

名義が家族であっても、資金の出どころや管理の状況から、実質的に被相続人の財産と判断されるものは相続財産になり得ます。国税庁の誤りやすい事例集でも取り上げられている論点です。税理士にどのような事実に基づいて判断したかを確認してください。

Q. 申告した後で財産の漏れに気づきました。どうすればよいですか?

申告期限前であれば、申告書を修正して提出します。申告期限後に漏れが分かり税額が増える場合は、修正申告を検討します。反対に、評価の誤りなどで税額が過大だった場合は、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求を検討できます。

Q. 申告書の控えは、申告が終わった後も保管しておくべきですか?

保管しておくことをおすすめします。申告後に更正の請求や修正申告を検討する場面、税務調査への対応、相続した財産を売却するときの取得費の確認、さらに次の世代の相続(二次相続)の準備など、申告書の控えと評価の明細、遺産分割協議書を参照する機会は少なくありません。電子データで受け取った場合も、家族が見つけられる場所にまとめておくと安心です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『資料収集・現地調査から評価まで ここが違う!プロが教える土地評価の要諦(第4版)』東北篤 著、清文社、2024年、第1章(P.1-5)
  • 『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)』PwC税理士法人 編、税務研究会出版局、2018年、P.68、116-117
  • 『税理士のためのポケットブック 2026』東京税理士政治連盟 企画・編集、東京税理士会、2026年、P.20-21

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。