土地区画整理事業の途中で相続が起きたら|仮換地の評価・小規模宅地等の特例・清算金・活用と売却の制約

大規模な開発敷地の模型を囲んで検討する4人

執筆者:

カテゴリ:

,

土地区画整理事業が進行中の土地を相続した場合、相続税の評価は、仮換地が指定されていれば原則として「仮換地」の価額で行い、指定がなければ「従前地」(もともとの土地)の価額で行います。ただし、仮換地が指定されていても使い始められず工事も始まっていない場合は従前地で評価し、工事が長引く場合は95%で評価するなど、事業の進み具合によって扱いが変わります。

区画整理の事業期間は長期に及ぶことが多く、その途中で相続が起きることは珍しくありません。この記事では、事業の段階ごとに、相続税の評価、小規模宅地等の特例、清算金、そして事業中の活用・売却の制約を整理します。

土地区画整理事業の基本

土地区画整理事業は、道路・公園などの公共施設を整備し、土地の区画を整えて宅地の利用価値を高める事業です(土地区画整理法2条)。地権者は土地の一部を道路や公園の用地、事業費に充てる保留地として提供し(いわゆる減歩)、区画が整った新しい土地(換地)を受け取ります。施行者には、個人・組合・区画整理会社・地方公共団体などがあります。

事業は、おおむね次の流れで進みます。

  1. 都市計画決定・事業計画の決定(認可)
  2. 仮換地の指定:将来の換地の位置と範囲を仮に定める
  3. 建物の移転、道路築造・宅地整地などの工事
  4. 換地処分:従前地の権利が換地に移り、清算金が確定する
  5. 登記、清算金の徴収・交付

仮換地が指定されると、地権者は従前地を使えなくなる代わりに、仮換地を使ったり貸したりできるようになります(土地区画整理法99条)。ただし、施行者が「使用収益を開始できる日」を別に定めた場合は、その日までは仮換地も使えません。

事業の段階と相続税評価

相続税の評価は、財産評価基本通達24-2と国税庁の質疑応答事例「土地区画整理事業施行中の宅地の評価」で、次のように整理されています。

相続開始時の状況評価の基準補足
仮換地が指定されていない従前地の価額路線価図で「個別評価」とされている地域は、税務署に申し出て示される価額を用いる
仮換地が指定され、使用収益できる仮換地の価額清算金で確実なものは加減する
仮換地の造成工事が施行中で、完了まで1年超の見込み工事完了後の仮換地の価額の95%清算金で確実なものは加減する
仮換地は指定済みだが、使用収益の開始日が別に定められ、かつ造成工事も行われていない従前地の価額二つの条件をいずれも満たす場合

※AEGISが財産評価基本通達24-2と国税庁質疑応答事例をもとに整理したものです。

清算金を評価に反映する

換地処分では、地権者間の不均衡を調整するために、金銭で清算金を徴収または交付します(土地区画整理法94条)。相続の時点で金額が確実と見込まれる清算金がある場合は、徴収されるものは仮換地の価額から差し引き、交付されるものは加えて評価します。事業計画や施行者からの通知で、見込額がどの程度確実かを確認しておきましょう。

「事業中だから大きく下がる」とは限らない

事業が長期化し、仮換地の指定時期も見通せないような土地では、利用の制約が大きいとして不動産鑑定評価による申告が争われた例があります。国税不服審判所の裁決では、通達による評価の合理性を基本的に認めつつ個別の事情を検討したもの、建築制限を理由とした一律の控除を認めなかったものなど、判断は事案ごとに分かれています。区画整理中であること自体を理由に大きな減額を見込むのではなく、まず通達の定めに沿って段階を正確に把握することが出発点です。

小規模宅地等の特例はどうなるか

小規模宅地等の特例は、相続開始の直前に被相続人などの居住や事業に使われていた宅地等が対象です。区画整理中は、従前地も仮換地も使えない期間が生じるため、「相続開始の直前に使っていた」といえるかが問題になります。

この点について国税庁の通達(租税特別措置法関係通達69の4-3)は、公共事業の施行による仮換地の指定に伴い、相続開始の直前に従前地と仮換地の使用収益がともに禁止されていた場合でも、被相続人などが仮換地を居住や事業に使う予定がなかったと認められる特段の事情がなければ、もともと居住や事業に使っていた従前地は特例の対象に含まれることを示しています。特段の事情の例として、従前地の売買契約を結んでいた場合、代わりの住まいや事業用地を取得していた場合、物納を申請していた場合などが挙げられています。

ただし、特例を受けるには、取得した親族が申告期限まで居住や事業を続けるなどの要件も必要です。使用収益が禁止されている期間に申告期限を迎える場合、その要件をどう満たすと考えるかは、仮換地の使用開始後の利用計画なども踏まえた個別の判断になります。「将来どう使うか」が決まっていない状態では、特例の適用が難しくなる可能性があるため、相続人の間で仮換地の利用方針を早めに話し合っておくことが重要です。

事業中の活用と売却の制約

建築や土地の形を変える行為の制限

事業計画の認可などの公告があった後、換地処分の公告までの間は、施行地区内で事業の障害となるおそれがある建築物の新築・増改築や土地の形質の変更をするには、都道府県知事等の許可が必要です(土地区画整理法76条)。仮換地の指定を受けた後は、工事と調整しながら仮換地上に建物を建てられるようになりますが、指定前は建築が厳しく制限されると考えておく必要があります。

このため、事業中の土地活用は、駐車場や資材置場のような一時的な利用が中心になりやすく、本格的な建物の計画は、仮換地の使用収益が始まってから立てるのが一般的です。

売却するときの注意

事業中の土地を売る場合、登記上は従前地の売買として行い、買主は仮換地を使うことになります。仮換地そのものに所有権の登記があるわけではないため、売買契約では次の点を明確にしておく必要があります。

  • 対象となる従前地と、それに対応する仮換地の位置・面積
  • 将来の清算金を売主・買主のどちらが受け取る(負担する)か
  • 組合施行の場合の賦課金などの負担
  • 換地処分の見込み時期

清算金については、仮換地の売買で「清算金は売主に帰属する」と特約していた場合には、課税上も売主に帰属するものとして扱う考え方が国税庁の質疑応答事例で示されています。

清算金と所得税

換地処分により土地区画整理法の清算金を受け取った場合は、土地の一部を譲渡したものとして譲渡所得の対象になりますが、収用等の場合の課税の特例の対象とされており、要件を満たせば5,000万円の特別控除などを検討できます。清算金の収入すべき時期は、換地処分の公告があった日の翌日とされています(国税庁質疑応答事例「土地区画整理事業の換地処分により清算金を取得した場合」)。

相続が起きたときに集めたい資料

区画整理中の土地の評価や特例の判断は、事業の段階を示す書類がそろっているかどうかで精度が大きく変わります。相続が起きたら、次の資料を施行者や被相続人の書類から集めておくとよいでしょう。

  • 仮換地指定通知書(指定の効力発生日、仮換地の位置・面積)
  • 使用収益開始日の通知(別に定める旨の通知を含む)
  • 仮換地の重ね図など、従前地と仮換地の対応がわかる図面
  • 造成工事の進捗や完了予定がわかる資料
  • 清算金の見込額や換地計画に関する通知
  • 組合施行の場合の賦課金の請求書や総会資料
  • 相続開始直前の従前地・仮換地の利用状況(居住・貸付け・事業)がわかる資料

これらが手元にないと、相続税の申告期限までに段階の判定ができず、評価や特例の判断が保守的にならざるを得ないことがあります。

AEGISの視点

区画整理は、土地の価値を高める一方で、数年から十年以上にわたって「使えない・決められない」期間を生む事業です。AEGISは、区画整理中の土地を持つオーナーにとって大切なのは、事業のスケジュールと家族のスケジュールを重ねて見ることだと考えています。

仮換地の指定や使用収益の開始がいつ頃になるのか。その時点でオーナーや相続人は何歳で、誰が土地を使い、誰が管理するのか。換地後に賃貸住宅や事業用建物を建てるなら、その資金はどうするのか。こうした見通しがないまま相続を迎えると、評価の段階判定や特例の要件、清算金の扱いで家族が迷うことになります。

施行者からの通知や事業計画書、清算金の見込額の資料を一か所にまとめ、換地後の活用方針と承継者をあらかじめ決めておくことが、相続時の判断を確かなものにします。

土地の活用方法の比べ方は、関連記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で、申告後に土地評価を点検する方法は「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」で解説しています。

特例を誰が受けるかの考え方は「小規模宅地等の特例は誰が取得するかで変わる」、相続前の整理は「不動産を相続する前に確認したいこと」もあわせてご覧ください。

土地の評価や不動産の相続に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 区画整理中の土地は、仮換地の指定がなければ従前地、指定があれば仮換地の価額で評価するのが原則です。
  • 仮換地の造成工事が施行中で完了まで1年超の見込みなら95%で評価し、使用収益の開始日が別に定められ工事も未着手なら従前地で評価します。
  • 確実と見込まれる清算金は、徴収分を差し引き、交付分を加えて評価します。
  • 使用収益が禁止されていても、特段の事情がなければ小規模宅地等の特例の対象になり得ますが、申告期限までの要件には個別の判断が必要です。
  • 事業中は建築や形質変更に許可が必要で、売却では仮換地の範囲と清算金の帰属を契約で明確にすることが重要です。

よくある質問

Q. 路線価図に「個別評価」と書かれている土地はどう評価しますか?

土地区画整理事業の施行地区などで路線価が定められていない地域は、所轄の税務署に個別評価を申し出て、示された価額を基に評価します。示された価額が実際の取引価格と比べて明らかに高いと考えられる場合は、根拠をそろえたうえで鑑定評価などを検討することになりますが、慎重な判断が必要です。

Q. 仮換地のほうが従前地より狭いのに、評価が高くなることはありますか?

あります。区画整理では減歩によって面積が減る一方、道路などの整備で土地の利用価値が上がるため、仮換地の価額が従前地より高くなることもあります。評価は仮換地の路線価や個別評価の価額を基に行うため、面積だけで判断しないことが大切です。

Q. 相続した後、換地処分で清算金を受け取ったら、誰の所得になりますか?

清算金は換地処分の公告の翌日に確定し、その時点の土地の所有者が受け取るのが原則です。相続後に確定した清算金は、土地を相続した人の譲渡所得の対象になり、収用等の場合の課税の特例を検討できます。相続前に金額が確定していた場合などは扱いが異なることがあるため、確定日と相続開始日の前後関係を確認してください。

Q. 区画整理中の土地を物納することはできますか?

物納には、管理や処分に支障がないことなどの要件があります。区画整理中の土地は、仮換地の状況や清算金の扱いなどによって物納の可否の判断が複雑になるため、早い段階で納税資金の確保方法を複数用意しておくのが現実的です。なお、物納を申請していたことは、小規模宅地等の特例の「特段の事情」の例にも挙げられています。

Q. 仮換地の指定を待たずに、従前地のまま売却したほうがよいですか?

事業の進み具合によって買い手の評価は大きく変わります。仮換地の位置や使用開始時期が見えない段階では、買い手が限られ価格も下がりやすい一方、換地後には整備された宅地として評価されることもあります。売却の目的(納税資金、分割のためなど)と事業のスケジュールを照らし合わせて判断してください。

関連するAEGISのソリューション

この記事のテーマに関連する、AEGISのソリューションです。

  • 不動産の最適活用:立地・敷地・建物・周辺需要・投資負担から、賃貸・売却・組換え・事業活用を比較します。
  • 相続と資産承継:不動産・自社株・金融資産・借入・ご家族の意向を確認し、納税資金・財産配分・遺言・承継実行を一体で検討します。
  • 不動産オーナーの方へ:3つの独自分析で承継の負担と資金を確認し、不動産ごとの方針を決める支援の流れをまとめています。
  • 高所得者の方へ:所得と資産の両面から、税負担と資産形成を整理する支援をまとめています。
  • 不動産の最適保有設計(POD):個人・法人等の取得形態と、税引後の手残り・融資・出口を、物件の購入前に設計します。
  • 事業オーナーの方へ:会社と株式、ご家族の承継を一つの計画として整理する、AEGISの支援の流れをまとめています。

参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『改訂版 税理士が知っておきたい! 土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』結城敏勝・越田圭 著、第一法規、P.32-35
  • 『難解事例から探る 財産評価のキーポイント[第3集]』笹岡宏保 著、ぎょうせい、CASE11・CASE13(土地区画整理事業)
  • 『税理士を悩ませる相続・贈与の土地評価Q&A 第2集』鎌倉靖二 著、ぎょうせい、P.143-144

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。