不動産を相続する前に確認したいこと|評価・収益性・共有・納税資金を整理する

複数の住宅模型と鍵束が並ぶ机を囲んで話し合う人々の手元

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自宅のほかに賃貸アパートや貸地、駐車場などを持っている場合、相続は「不動産をどう引き継ぐか」という問題になります。不動産は現金のように簡単に分けられず、評価の仕組みも複雑で、相続税を払うための資金が足りなくなることもあります。

結論から言えば、不動産の相続に備えて確認すべきことは、①何を持っているか(棚卸し)、②いくらと評価されるか、③その不動産は稼いでいるか(収益性)、④誰がどう引き継ぐか(共有と分割)、⑤税金をどう払うか(納税資金)の5つです。この記事では、相続が起きる前の段階で、これらをどの順番で確認すればよいかを解説します。

なぜ「相続の前」に確認する必要があるのか

相続が発生してからでは、確認に使える時間が限られます。

  • 申告期限:相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります(国税庁 No.4205)。
  • 分割の期限:遺産の分け方が決まらないまま申告期限を迎えると、一部の特例を当初の申告で適用できないことがあります(国税庁 No.4208)。
  • 登記の義務:令和6年4月1日から、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務化されています。正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります(法務省)。

10か月という期間は、不動産が多い相続では決して長くありません。物件の調査、評価、遺産分割の話し合い、納税資金の準備を同時に進めることになるからです。相続前にできる確認を済ませておくことで、相続後の判断に時間を充てられるようになります。

確認1:何を持っているか(不動産の棚卸し)

最初に行うのは、所有している不動産の一覧づくりです。意外に思われるかもしれませんが、本人も家族も、すべての不動産を正確に把握しているとは限りません。

一覧づくりに使える主な資料は次のとおりです。

  • 固定資産税の課税明細書:市区町村から毎年送られてくる書類で、所在地、地目、面積、固定資産税評価額などが記載されています。
  • 登記事項証明書:所有者の名義、持分、抵当権などの権利関係を確認できます。
  • 売買契約書・権利証(登記識別情報):取得の経緯と取得費の確認に使います。
  • 賃貸借契約書:誰に、どのような条件で貸しているかを確認します。

一覧を作る過程で、次のような「見えにくい不動産」がないかも確認しておきたいところです。

  • 先代(親や祖父母)の名義のままになっている不動産
  • 他人の土地の上に建物を所有している場合の借地権のように、登記に現れにくい権利
  • 他の市区町村にある土地や、私道の持分など、課税明細書が別に届くもの
  • 共有名義で、自分の持分を正確に把握していないもの

特に先代名義の不動産は、今回の相続の前に、先代の相続の手続きから整理しなければならないことがあります。

確認2:いくらと評価されるか

相続税評価の基本

相続税では、財産は取得の時の時価で評価するのが原則です(相続税法第22条)。国税庁は財産評価基本通達で具体的な評価方法を定めており、不動産の基本は次のとおりです(国税庁 No.4602)。

対象評価方法
土地(宅地)路線価が定められている地域は路線価方式、それ以外は倍率方式(固定資産税評価額×倍率)
建物(家屋)固定資産税評価額×1.0
貸している建物の敷地(貸家建付地)自用地としての価額 −(自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

貸家建付地の計算に使う賃貸割合は、貸している部分の床面積の割合です(国税庁 No.4614)。空室が多い時期に相続が発生すると、評価額が変わる可能性があるということです。

小規模宅地等の特例を使えるか

自宅の敷地や事業用・貸付用の土地については、一定の要件を満たすと、評価額を減額できる「小規模宅地等の特例」があります(国税庁 No.4124)。

宅地等の区分限度面積減額割合
特定居住用宅地等(自宅の敷地など)330㎡80%
特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等400㎡80%
貸付事業用宅地等(アパート・駐車場など)200㎡50%

※適用には、誰がその宅地を取得し、その後どのように使うかなどの要件があります。複数の区分を併用する場合は面積の調整計算が必要です。

この特例は、相続税の申告書に適用を受ける旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付して申告することが必要です。また、原則として遺産分割が決まっていることが前提になるため、分割が申告期限に間に合わない場合は、当初の申告では適用できません(国税庁 No.4124、No.4208)。

つまり、「誰がどの土地を取得するか」という分割の判断が、評価額そのものに影響するということです。

全体のおおよその規模を把握する

相続税には基礎控除があり、その額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です(国税庁 No.4152)。不動産の評価額と金融資産などを合計して、基礎控除をどの程度上回りそうかを把握しておくと、どこまで準備が必要かの見当がつきます。相続税の概算に必要な情報は、関連記事「相続税の概算に必要な情報」で整理しています。

なお、相続税評価額は実際に売れる価格とは一致しません。その理由は関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格の違い」で解説しています。

確認3:その不動産は稼いでいるか(収益性)

相続税評価が同じでも、相続人にとっての価値は不動産ごとに大きく異なります。相続の前に、物件ごとに次の点を確認しておきます。

  • 収支:年間の賃料収入から、管理費、修繕費、固定資産税、借入れの返済などを差し引いて、手元に残る資金
  • 将来の支出:外壁や設備の更新など、近い将来に必要になる大きな修繕
  • 借入れ:残高、金利、返済期間、連帯保証の有無
  • 管理の手間:誰が入居者対応や業者とのやり取りをしているか

収益性を確認する目的は、「相続人が引き継ぎたい不動産」と「引き継いでも負担になる不動産」を見分けることです。収益が乏しく修繕負担が重い不動産は、相続前に売却や組替えを検討する余地があるかもしれません。反対に、安定した収益を生む不動産は、相続後の納税資金や相続人の生活を支える資産になります。

確認4:誰がどう引き継ぐか(共有と分割)

不動産の相続で最も難しいのが分け方です。相続人の間で公平を保とうとして、一つの不動産を複数の相続人の共有にすることがあります。共有は分割の時点では公平に見えますが、次のような問題を将来に残しやすい方法です。

  • 売却、建替え、大規模な修繕などの判断に、共有者の合意が必要になる
  • 共有者の一人に相続が起きると、共有者がさらに増える
  • 賃料の分配や経費の負担をめぐって、共有者間の調整が必要になる

共有を避けるための考え方としては、不動産ごとに取得する人を分ける、不動産を取得する相続人が他の相続人に金銭を渡す、相続前に一部の不動産を売却して分けやすい資産に変える、などがあります。どの方法が適しているかは、不動産の数や規模、相続人の関係によって異なります。

分け方を決めるうえで大切なのは、相続人それぞれが、その不動産をどう使い、どう管理していくつもりかを事前に確認しておくことです。遺言で分け方を示しておくことも、相続後の話し合いの負担を軽くする方法の一つです。

確認5:税金をどう払うか(納税資金)

財産の大部分が不動産の場合、相続税を現金で払えるかどうかが大きな論点になります。

現金で払えない場合の制度

相続税は金銭で一括納付するのが原則ですが、一定の要件のもとで分割払い(延納)や、財産そのもので納める物納の制度があります。

  • 延納:相続税額が10万円を超え、金銭で納付することが困難な事由があり、担保を提供するなどの要件を満たす場合に、申請により認められます(国税庁 No.4211)。
  • 物納:延納によっても金銭で納付することが困難な事由がある場合に、その困難な金額を限度として、一定の財産で納めることが認められます。物納に充てられる財産には順位があり、不動産は第1順位に含まれます(国税庁 No.4214)。

いずれも申請と許可が必要で、どのような不動産でも物納できるわけではありません。たとえば、共有の不動産は、共有者全員が物納を申請する場合などを除き、物納に適さない財産(管理処分不適格財産)とされています(相続税法施行令18条、同法施行規則21条)。制度があることを前提に準備を怠らないことが大切です。

売却して払う場合

相続した不動産を売却して納税資金に充てる場合、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すれば、一定の相続税額を取得費に加算して譲渡所得を計算できる特例があります(国税庁 No.3267)。

ただし、相続税の納付期限は申告期限と同じ10か月以内です。売却に時間がかかる不動産(境界が確定していない土地、借地人がいる土地など)を納税資金のあてにしている場合は、相続前から売却の準備を進めておくか、別の資金手当てを考えておく必要があります。

相続前の確認リスト

ここまでの内容を、相続前に確認しておきたい項目として整理します。

視点確認すること主な資料
棚卸し所有不動産の一覧、名義と持分、先代名義・未登記の権利課税明細書、登記事項証明書、契約書
評価路線価・倍率による評価、貸家建付地、小規模宅地等の特例の候補路線価図・評価倍率表、賃貸借契約書
収益性物件ごとの収支、修繕計画、借入れ収支の記録、借入れの資料
共有・分割誰がどの不動産を取得するか、共有の有無家族の意向、遺言
納税資金現金で払えるか、売却の見込み、延納・物納の可能性金融資産の一覧、売却可能性の確認

実務上注意したいポイント

  • 境界と測量:売却や物納を考える土地は、隣地との境界が確定しているかを確認しておきます。境界の確定には時間がかかることがあります。
  • 使っていない不動産:空き家や遊休地は、収益を生まない一方で固定資産税や管理の負担が続きます。相続人が使う予定がなければ、相続前の段階で方針を考えておく価値があります。
  • 家族との共有:資料をそろえても、家族が内容を知らなければ相続後に活かせません。どこに何があるかだけでも共有しておくことが大切です。

AEGISの視点

不動産の相続というと、相続税の金額や評価を下げる方法に関心が向きがちです。しかしAEGISは、不動産の相続を「次の世代が、その不動産を持ち続けられるかどうかを確認するプロセス」と捉えています。

評価額が下がっても、相続人が管理できず、収益も生まず、共有で身動きが取れなくなれば、その不動産は家族にとって負担になります。反対に、評価額はそれなりでも、収益が安定し、取得する人が明確で、納税資金の見通しが立っていれば、相続は円滑に進みます。

そのためAEGISでは、評価・収益性・分け方・納税資金を別々に検討するのではなく、一つの表に並べて検討することを重視しています。不動産の購入から承継までを一連の流れで考える全体像は、関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

相続に関わる不動産税務・資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

相続が起きたあとの相続税の申告や手続きについては、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもご相談をお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 不動産の相続では、棚卸し・評価・収益性・共有と分割・納税資金の5つを確認することが大切です。
  • 相続税の申告期限は10か月以内で、相続登記も令和6年4月1日から義務化されています。
  • 土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額で評価され、貸している場合や小規模宅地等の特例の適用によって評価額が変わります。
  • 小規模宅地等の特例は、原則として遺産分割が決まっていることが前提であり、分け方が評価額に影響します。
  • 不動産が財産の多くを占める場合は、延納・物納の要件や売却にかかる時間も踏まえて、納税資金の見通しを立てておく必要があります。
  • 具体的な対応は、不動産の内容や家族構成などの個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 相続前に、まず何から手を付ければよいですか?

所有している不動産の一覧づくりから始めるのがおすすめです。固定資産税の課税明細書と登記事項証明書を並べ、名義、持分、所在地、固定資産税評価額を一覧にするだけでも、評価や分割を考える土台ができます。

Q. 小規模宅地等の特例は、相続すれば自動的に適用されますか?

自動的には適用されません。相続税の申告書に特例の適用を受ける旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付して申告する必要があります。また、取得する人やその後の利用状況などの要件があり、原則として遺産分割が決まっていることが前提です。

Q. 相続人が複数いる場合、不動産は共有にしたほうが公平ではないですか?

分割の時点では公平に見えますが、売却や建替えに共有者の合意が必要になり、次の相続で共有者が増えるなど、将来の判断が難しくなりがちです。不動産ごとに取得する人を分ける、取得する人が他の相続人に金銭を渡すなど、共有以外の方法も含めて検討することをおすすめします。

Q. 相続税を払うために、相続した不動産を売ることはできますか?

可能です。相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却すれば、一定の相続税額を取得費に加算できる特例があります。ただし、納付期限は10か月以内のため、売却に時間がかかる不動産の場合は、相続前から準備を進めておくことが大切です。

Q. 相続登記をしないと、どうなりますか?

令和6年4月1日から相続登記の申請は義務となり、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。令和6年4月1日より前の相続で未登記の不動産についても、令和9年3月31日までに登記する必要があるとされています(法務省)。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。