代償分割とは、ある相続人が不動産などの遺産を現物で取得し、その代わりに他の相続人へ金銭などを支払う遺産分割の方法です。実家や事業用の土地のように、分けにくく、売りたくない財産を一人に集めるときに使われます。
税金の面で押さえたい結論は3つです。第一に、相続税は代償金を払った人は取得した財産から代償金を差し引き、受け取った人は代償金を加えて計算します。第二に、代償金を不動産の「時価」で決めた場合は、相続税評価額との差を調整する計算方法が認められています。第三に、代償金の代わりに自分の不動産を渡すと、渡した人に譲渡所得の課税が生じます。
この記事では、代償金の決め方から、相続税・所得税の扱い、資金の準備と書類の作り方まで、代償分割を選ぶときに確認したい点を整理します。
代償分割とは:他の分け方との違い
遺産の分け方には、主に次の3つがあります。
| 分け方 | 内容 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 財産をそのまま分ける | 財産の種類や数が多い | 価値の差が埋まりにくい |
| 換価分割 | 売却して代金を分ける | 誰も使う予定のない不動産 | 売却の手間・譲渡所得税・売り時の問題 |
| 代償分割 | 一人が取得し、他の人に代償金を払う | 住み続けたい・事業で使う不動産 | 代償金の資金と金額の合意 |
代償分割は、不動産を手放さずに相続人間の公平を図れる点が大きな利点です。その反面、代償金を払う人に資金がなければ成立しないこと、代償金の額をどう決めるかで意見が分かれやすいことが課題になります。
国税庁は、代償分割を「共同相続人などのうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の共同相続人などに対して債務を負担するもの」と説明しています(タックスアンサーNo.4173、相続税法基本通達11の2-9(注))。代償金を払う人は、遺産を現物で取得した相続人であることが前提です。
代償金の額はどう決めるか
金額は相続人の合意で決められる
代償金の額に、法律で決められた基準はありません。遺産分割は相続人全員の合意で行うものなので、法定相続分どおりでなくても、全員が納得すればその金額で成立します。
ただし、合意の出発点として「その不動産をいくらとみるか」は避けて通れません。ここで問題になるのが、時価(実際に売買される価格)と相続税評価額の違いです。土地の相続税評価額は路線価などで計算され、一般に時価より低くなることが多いとされます。
- 相続税評価額を基準にすると、代償金は低くなり、受け取る側が不満を持ちやすい
- 時価を基準にすると、代償金は高くなり、払う側の資金負担が重くなる
実務では、不動産会社の査定や不動産鑑定などで時価の目安を把握し、それを基に話し合うことが多くあります。評価額と時価がずれる理由は、関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格はなぜ違うのか」で解説しています。
時価で決めると、相続税の計算でずれが生じる
代償金を時価で決めたのに、相続税は評価額で計算すると、払った人と受け取った人の課税価格のバランスが崩れることがあります。この点について、相続税の計算では調整の方法が用意されています(次章)。
代償分割をしたときの相続税の計算
基本の計算
代償分割があった場合の各人の相続税の課税価格は、次のように計算します(相続税法基本通達11の2-9、国税庁No.4173)。
- 代償金を払った人:取得した財産の価額 - 支払った代償財産の価額
- 代償金を受け取った人:取得した財産の価額 + 受け取った代償財産の価額
小規模宅地等の特例などを使う財産は、特例で減額した後の価額を基に計算します(国税庁No.4152)。
時価を基に代償金を決めた場合の調整
代償財産の価額は、原則として代償債務の額(相続開始の時における金額)です。ただし、代償分割の対象となった財産が特定され、代償金がその財産の代償分割の時の時価を基に決められている場合は、次の算式で代償財産の価額を計算します(相続税法基本通達11の2-10)。
代償財産の価額 = 代償金の額 × (その財産の相続開始時の相続税評価額 ÷ その財産の代償分割時の時価)
また、相続人全員の協議に基づいて、この算式に準じた方法や他の合理的な方法で計算して申告した場合は、その申告した額が認められます。
AEGISで仮の数字を置いて、調整の有無による違いを比べると次のとおりです。
前提:遺産は土地のみ(相続税評価額6,000万円、代償分割時の時価8,000万円)。相続人は兄弟2人。兄が土地を取得し、弟に時価の半分の4,000万円を代償金として支払う。
| 項目 | 調整しない場合 | 調整する場合 |
|---|---|---|
| 代償財産の価額 | 4,000万円 | 4,000万円 × 6,000万円 ÷ 8,000万円 = 3,000万円 |
| 兄(払った人)の課税価格 | 6,000万円 - 4,000万円 = 2,000万円 | 6,000万円 - 3,000万円 = 3,000万円 |
| 弟(受け取った人)の課税価格 | 4,000万円 | 3,000万円 |
| 課税価格の合計 | 6,000万円 | 6,000万円 |
※説明のための仮定の数字です。小規模宅地等の特例などは考慮していません。
課税価格の合計は変わらないため、相続税の総額は同じです。変わるのは各人の負担の割り振りです。時価で半分ずつ分けたのであれば、相続税も半分ずつ負担する形に近づけるのが自然でしょう。調整しないと、代償金を受け取った弟の負担が重くなります。
配偶者が代償金を払う場合
配偶者が不動産を取得して他の相続人に代償金を払う場合、配偶者の税額軽減の計算でも、配偶者が負担する代償債務は配偶者の課税価格相当額の計算の基礎から差し引くことが示されています(相続税法基本通達19の2-6)。配偶者の取得分が減るため、軽減額にも影響します。二次相続を含めた配偶者の取得の考え方とあわせて検討します。
代償金を不動産など現物で支払う場合
代償金を現金ではなく、払う人がもともと持っていた不動産や株式で渡すこともあります。この場合は所得税に注意が必要です。
- 渡した人:代償債務の履行として資産を移転したことになり、その時の価額で資産を譲渡したものとして譲渡所得が課税されます(所得税基本通達33-1の5、国税庁No.4173)。
- 受け取った人:その時の価額でその資産を取得したことになります(所得税基本通達38-7(2))。
渡す資産に含み益があれば、代償分割のために所得税・住民税が生じます。現金の代わりに不動産を渡すことは、資金がなくても成立させやすい反面、思わぬ税負担につながる点に注意が必要です。
なお、相続した遺産そのもの(たとえば相続した土地の一部)を他の相続人に渡すのであれば、それは現物分割にあたります。どの財産を、どの立場で渡すのかを分割協議書で明確にしておくことが大切です。
取得した不動産を後で売るときの注意
代償金を払って不動産を取得した人が、その不動産を後で売る場合、次の点を押さえておきます。
- 払った代償金は、その不動産の取得費に含まれません(所得税基本通達38-7(1))。相続で取得した資産は被相続人が引き続き所有していたものとみなされ、取得費も引き継ぐのが原則(所得税法60条1項)のため、代償金を多く払っていても、譲渡所得の計算では差し引けません。
- 相続税の申告期限から3年以内に売る場合の相続税額の取得費加算の特例は、代償金を払った人については、払った代償金を考慮した算式で加算額を計算します(租税特別措置法通達39-7)。
「いずれ売るかもしれない」不動産を代償分割で取得する場合は、売却時の手取りまで試算しておくと判断を誤りにくくなります。
代償金の資金と書類の準備
資金をどう用意するか
代償金を払う人に十分な資金がない場合、次のような方法が検討されます。
- 自己資金で支払う
- 金融機関からの借入れで支払う(取得した不動産を担保にする場合を含む)
- 分割払いとし、支払期限や回数を決める
- 生命保険金を充てる(被相続人が保険料を負担し、代償金を払う人を受取人とする契約)
生命保険金は、受取人固有の財産として受け取るものなので、代償金の原資として使いやすい資金です。生前の保険契約の設計については、関連記事「生命保険を相続対策に使うときの考え方」で扱っています。また、相続税そのものの納税資金の準備は関連記事「相続税の納税資金をどう準備するか」で比較しています。
一方、代償金を払う人以外の家族が資金を出して代わりに払う場合などは、その資金の移動が贈与と判断されないかの確認が必要です。
遺産分割協議書に書くこと
代償分割は、遺産分割協議書の書き方で税務上の扱いが左右されることがあります。少なくとも次の点を明確にします。
- 誰がどの財産を現物で取得するか
- その取得の代償として、誰に、いくらを支払うか(代償分割である旨)
- 支払の期限と方法(分割払いの場合は回数・各回の金額)
- 時価を基に代償金を決めた場合は、その前提となった価額
遺産分割とは別の合意として後から金銭のやりとりをすると、代償金ではなく相続人間の贈与とみられるおそれがあります。分割の内容は、協議書の中で一体として定めておくのが基本です。
AEGISの視点
代償分割は、「不動産を守る人」と「お金で受け取る人」の間で、家族が折り合いをつけるための方法です。金額の合意だけに目が向きがちですが、AEGISは代償分割を資金・税金・将来の不動産の扱いを一体で決める設計だと考えています。
代償金を払う人には、借入れの返済や、取得した不動産の維持費が続きます。受け取る人にとっては、相続税の負担が代償金の額に見合っているかが関心事になります。さらに、取得した不動産を将来売るのか、次の世代に引き継ぐのかによって、代償金の決め方の納得感も変わります。
だからこそ、代償分割を選ぶときは、時価の把握、相続税の調整計算、資金計画、売却時の取得費までを一度に並べて検討することをおすすめします。共有のまま相続して後から解消する方法との比較は、関連記事「共有名義の不動産を解消する方法」で整理しています。資産税務の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でも考え方を紹介しています。
相続対策を会社と個人の財産を通じてどう設計するかの全体像は、親記事「相続対策と事業承継を一体で考える」で解説しています。
相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。
まとめ
- 代償分割は、一人が遺産を現物で取得し、他の相続人に代償金などを支払う遺産分割の方法です。
- 代償金の額は相続人の合意で決められますが、時価と相続税評価額のどちらを基準にするかで金額が大きく変わります。
- 相続税は、払った人は代償金を差し引き、受け取った人は加えて計算します。時価を基に決めた場合は、評価額との比率で代償財産の価額を調整する方法があります。
- 代償金の代わりに自分の不動産を渡すと、渡した人に譲渡所得が課税されます。払った代償金は、取得した不動産の取得費には含まれません。
- 資金の準備と遺産分割協議書の書き方まで含めて検討することが大切です。具体的な取扱いは個別の事情によって異なります。
よくある質問
Q. 代償金は法定相続分どおりに払わなければいけませんか?
その必要はありません。遺産分割は相続人全員の合意で決めるものなので、法定相続分と異なる金額でも、全員が納得すればその内容で分割できます。
Q. 代償金を時価で決めました。相続税の申告では何に気をつければよいですか?
時価を基に代償金を決めた場合は、代償金の額に「相続税評価額÷時価」の割合を掛けて代償財産の価額を計算する方法があります(相続税法基本通達11の2-10)。調整しないと、代償金を受け取った人の課税価格が相対的に大きくなるため、相続人全員で計算方法を確認しておくことが大切です。
Q. 代償金を払うお金がありません。借入れで払っても問題ありませんか?
借入れで代償金を支払うことを妨げる規定は見当たりません。ただし、返済計画と取得した不動産の収益・維持費を踏まえて無理がないかを確認する必要があります。他の家族が資金を出す場合は、贈与と判断されないかにも注意します。
Q. 代償金の代わりに自分名義の土地を渡すと、税金はかかりますか?
渡した人には、その時の価額で土地を譲渡したものとして譲渡所得が課税されます。受け取った人は、その時の価額で土地を取得したことになります。含み益の大きい資産を渡すときは、事前に税負担を試算しておくことが大切です。
Q. 代償金を払って取得した土地を売るとき、代償金は経費になりますか?
払った代償金は、譲渡所得の計算上、その土地の取得費には含まれません。相続税額の取得費加算の特例を使う場合も、代償金を考慮した算式で加算額を計算します。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- 国税庁 タックスアンサー No.4173「代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」(令和8年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4173.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 タックスアンサー No.4152「相続税の計算」(令和8年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 相続税法基本通達 第11条の2《相続税の課税価格》関係(11の2-9、11の2-10)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/01.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 相続税法基本通達 第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》関係(19の2-6)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/06.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 所得税基本通達 法第33条《譲渡所得》関係(33-1の5)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/07.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 所得税基本通達 法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》関係(38-7)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/18.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 租税特別措置法通達(山林所得・譲渡所得関係)(39-7 代償金を支払って取得した相続財産を譲渡した場合の取得費加算額の計算)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/sochiho/710826/sanrin/sanjyou/soti39/02.htm
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「所得税法」(施行日2026-10-01版。60条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033/20261001_507AC0000000070
確認日:2026-10-09
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