不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項|保有不動産と承継計画の何を見直すか

住宅・マンション模型と資料、電卓が並ぶ机

不動産は、多くのオーナーにとって財産の中で大きな割合を占めます。そのため、不動産の相続税評価に関する制度が変わると、相続税の見込み額だけでなく、誰に何を渡すか、納税資金をどう確保するか、どの形で保有するかといった承継計画の前提にまで影響が及ぶことがあります。

結論から言えば、制度変更があったときは、「評価額がいくら変わるか」を計算する前に、「自分の不動産のうち、どれが対象になり得るか」を取得時期・取得方法・保有形態の3つの軸で仕分けることから始めるのが確実です。この記事では、近年の制度変更の例を踏まえ、保有不動産と承継計画の点検事項を整理します。

不動産の相続税評価はどのように決まり、なぜ変わるのか

相続税法は、相続や贈与で取得した財産の価額を「取得の時における時価」によると定めています。この時価の具体的な算定方法は、国税庁の財産評価基本通達で定められており、土地であれば路線価方式や倍率方式、建物であれば固定資産税評価額を基にした方法などが用いられます。

不動産の評価が変わる要因は、大きく3つあります。

変わる要因内容頻度の目安
評価の基準となる価格の更新路線価や評価倍率などが毎年公表される毎年
通達の改正評価方法そのものが見直される不定期(必要に応じて)
税制改正特例の要件、加算期間、評価の考え方などが変わる毎年度の改正で項目ごと

このうち、承継計画の前提を大きく揺るがしやすいのは、評価方法そのものの見直しです。近年は、相続税評価額と市場で取引される価格との差(乖離)に着目した見直しが続いています。

近年の制度変更の例

例1:居住用の区分所有財産(分譲マンション)の評価

国税庁は、令和5年9月28日付で「居住用の区分所有財産の評価について」という通達を定めました。近年の取引実態等を踏まえ、分譲マンションの一室について、築年数、総階数、所在階、敷地持分の狭小度を反映した「評価乖離率」を基に補正を行う仕組みです。令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産に適用されています。

なお、地階を除く階数が2以下の建物や、居住用の専有部分が3室以下ですべてを所有者やその親族が居住用に使っているものなどは、対象外とされています。

例2:貸付用不動産の評価の見直し(令和8年度税制改正の大綱・国税庁の通達案)

令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)では、「相続税等の財産評価の適正化」として、貸付用不動産の市場価格と相続税評価額との乖離の実態を踏まえ、次の見直しを行うとされました。

  • 被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築をした一定の貸付用不動産は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する(課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80に相当する金額によって評価することができる)
  • 不動産特定共同事業契約や、信託受益権に係る金融商品取引契約のうち一定のものに基づく権利の目的となっている貸付用不動産は、取得の時期にかかわらず、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する
  • 令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用する(ただし、1つ目の見直しは、改正を通達に定める日までに、被相続人等が5年前から所有している土地に新築をした家屋〔建築中のものを含む〕には適用しない)

具体的な取扱いは通達で定められます。国税庁が公表した通達案「貸付用不動産の評価について」では、大綱の内容が次のように具体化されています(2026年10月9日時点では意見公募中で、最終通達は出ていません)。

  • 対象は、課税時期前5年以内に対価を伴う取引で取得・新築された貸付用不動産(借家権の目的となっている家屋とその敷地)。取得の時期は原則として引渡しの時で判定する
  • 取得価額が取得時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、土地は「取得価額×地価変動率」、建物は「取得価額-償却費」の100分の80で評価できる
  • 収用・交換・一定の買換えで取得したものや、5年以内に取得したものではない建物の増改築部分などは対象外
  • 経過措置として、通達制定日までに、その日前5年以内に取得したものではない土地や、5年以内に相続等で取得した土地に新築した家屋(建築中を含む)は対象外。通達制定日はまだ決まっていない(AEGISは、意見公募の締切(2026年10月18日)を踏まえ、10月下旬から11月上旬になる可能性が高いとみています)
  • 「特定小口化商品」は、元本等相当額の90%などを使う簡便な方法がある

例3:生前贈与の加算期間の延長

不動産を生前に贈与する計画にも、制度変更は影響します。令和5年度の改正により、暦年課税の贈与を相続財産に加算する期間は相続開始前3年から7年へと段階的に延びており、国税庁によれば、令和13年1月1日以後の相続では相続開始前7年以内の贈与が加算の対象となります。

制度変更があったときの点検事項

制度変更の情報に接したら、保有不動産を次の観点で点検します。AEGISでは、評価の前に「仕分け」を行うことを重視しています。

点検1:取得時期と取得方法

  • 不動産ごとに、いつ、どのような方法で取得したか(購入、新築、相続、贈与など)を一覧にします。
  • 貸付用不動産の評価の見直しのように、「課税時期前5年以内」「対価を伴う取引」といった条件が付く改正では、取得時期と取得方法がそのまま対象かどうかの判断材料になります。
  • 自分が所有している土地に建物を新築した場合など、取得の経緯によって扱いが分かれる可能性がある点にも注意が必要です。

点検2:保有形態

  • 個人で直接保有しているか、共有か、不動産小口化商品(不動産特定共同事業契約に基づくものなど)や信託受益権の形で保有しているかを確認します。
  • 大綱と通達案では、不動産特定共同事業契約などに基づく貸付用不動産は、取得時期にかかわらず見直しの対象になるとされています。保有している商品の契約形態を、契約書や事業者の説明資料で確認しておきましょう。
  • 資産管理会社など法人を通じて保有している場合に、制度変更がどのように影響するかは、改正の内容に即して個別に確認する必要があります。

点検3:評価額と時価の関係

  • 不動産ごとに、相続税評価額の目安と、実際に売却した場合の価格の目安を並べてみます。
  • 両者の差が大きい不動産ほど、評価方法の見直しの影響を受けやすい傾向があります。
  • 相続税評価額と売却価格がなぜ異なるのかについては、関連記事「不動産の相続税評価額と売却価格の違い」で解説しています。

点検4:承継計画上の役割

  • その不動産を「誰に」「どの方法で」渡す計画になっているかを確認します。
  • 評価額が変われば、相続人間の配分のバランスが変わることがあります。不動産を後継者に、金融資産を他の家族に、といった配分を考えている場合は特に注意が必要です。
  • 生前贈与を予定している場合は、加算期間の延長も含めて、贈与のタイミングと方法を見直します。

点検5:納税資金と収益性

  • 評価額が上がる見込みなら、相続税の見込み額と、それを支払う資金(金融資産、不動産収入、売却の可能性)を改めて確認します。
  • 同時に、その不動産の収益性(賃料収入、空室、修繕費、借入金の返済)を確認します。評価の変化をきっかけに、保有を続けるべきか、組み替えるべきかを考える機会にもなります。

点検の結果は、次のような一覧にまとめると全体が見えやすくなります。

不動産取得時期・方法保有形態評価の目安時価の目安承継の予定収益・納税資金のメモ
自宅昭和○年 新築個人単独——配偶者居住用
賃貸マンション令和○年 購入個人単独——長男借入残あり
小口化商品令和○年 購入契約に基づく持分——未定換金性を確認

※上表は記入例のイメージです。実際の項目は保有資産に応じて調整してください。

実務上注意したいポイント

評価の有利・不利だけで判断しない

不動産の取得や保有は、評価額の差だけで判断すべきものではありません。賃貸経営としての収益性、修繕や管理の負担、売却のしやすさ、家族の意向など、多くの要素が関わります。評価方法の見直しは、こうした要素を改めて点検するきっかけと捉えるのが健全です。

特例の要件も合わせて確認する

不動産の相続では、小規模宅地等の特例が大きな影響を持つことがあります。国税庁によれば、特定居住用宅地等は330㎡まで80%、特定事業用宅地等は400㎡まで80%、貸付事業用宅地等は200㎡まで50%を減額できるとされていますが、区分ごとに要件があり、適用には申告が必要です。評価方法の見直しと特例の要件は、セットで確認しておきましょう。

確定した情報で最終判断する

大綱の段階では、細部が通達で定まる前です。売買や贈与など取り消しにくい行動は、確定した情報を一次情報で確認してから判断することをおすすめします。改正情報の追い方は、関連記事「制度改正の情報をどう追い、いつ相談するか」で解説しています。

AEGISの視点

不動産の評価に関する制度変更が続く背景には、「相続税評価額と実際の価値の差」をどう扱うかという問題意識があります。評価額の低さを主な理由として不動産を取得する考え方は、その前提自体が見直しの対象になり得る、ということです。

AEGISは、不動産を「評価額で選ぶもの」ではなく、「所有の目的と、事業・家族・承継の中での役割で選ぶもの」と考えています。賃貸不動産であれば、安定した収益を生み、管理できる体制があり、将来誰がどのように引き継ぐかが描けているか。自宅であれば、家族の暮らしをどう守るか。そうした役割が明確な不動産は、評価の方法が変わっても、計画全体が揺らぐことは少なくなります。

制度変更は、保有不動産の一つひとつに「なぜ持っているのか」を問い直す機会です。取得時期・保有形態・評価と時価・承継上の役割・収益性を一枚に並べることで、税務だけでなく、所有と承継の設計を見直すことができます。不動産の購入・保有・売却を一体で考える視点は、関連記事「不動産の購入・保有・売却を一体で考える」で解説しています。

税制改正が承継計画に与える影響の全体像は、親記事「税制改正は自分の承継計画に関係するか」で整理しています。

不動産の評価や資産税務に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 不動産の相続税評価は、路線価等の更新、通達の改正、税制改正によって変わります。
  • 近年は、分譲マンションの評価の見直し(令和6年1月1日以後)や、令和8年度大綱で示された貸付用不動産の評価の見直し(令和9年1月1日以後の相続等)など、評価額と市場価格の乖離に着目した見直しが続いています。
  • 制度変更時は、まず取得時期・取得方法・保有形態で対象になり得る不動産を仕分けます。
  • そのうえで、評価と時価の関係、承継計画上の役割、納税資金と収益性を点検します。
  • 細部は通達で定まります。取り消しにくい行動は、確定した一次情報を確認してから判断します。

個々の不動産への影響は、取得の経緯や保有形態など個別事情によって異なります。

よくある質問

Q. 貸付用不動産の評価の見直しは、いつから適用されますか?

令和8年度税制改正の大綱では、令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価に適用するとされています。国税庁の通達案でも、令和9年1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した財産の評価に適用するとされています。2026年10月9日時点で最終通達は出ていないため、発遣後に確認が必要です。

Q. 以前から持っている賃貸不動産も対象になりますか?

大綱と通達案では、課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得または新築した貸付用不動産が対象とされています。それより前から持っている物件は、原則として対象になりません。一方、不動産特定共同事業契約などに基づく貸付用不動産は、取得の時期にかかわらず対象とされています。保有している不動産がどちらに当たるかは、取得時期や契約形態によって異なります。

Q. 分譲マンションの評価はどう変わりましたか?

令和6年1月1日以後の相続等で取得した居住用の区分所有財産については、築年数や所在階などを反映した評価乖離率を基に補正する方法が導入されました。階数が2以下の建物や、親族の居住用で3室以下のものなど、対象外となるケースもあります。

Q. 評価方法が変わったら、すぐに不動産を売却したほうがよいですか?

評価方法の変更だけを理由に売却を急ぐことはおすすめしません。売却には譲渡所得税や取引費用がかかり、収益源を手放すことにもなります。収益性、管理負担、承継の予定、納税資金などを総合的に点検したうえで判断することが重要です。

Q. 制度変更の点検は、どのくらいの頻度で行えばよいですか?

税制改正の大綱や通達の改正が公表されたとき、そして少なくとも年に一度、承継計画を見直すタイミングで点検するのが目安です。不動産の取得や売却、家族の状況の変化があったときにも見直すことをおすすめします。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。