災害で被害を受けた土地と相続税|特定非常災害の評価の特例・申告期限の延長・災害減免法をどう使い分けるか

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地震や水害などで相続した土地や建物が被害を受けた場合、相続税には被害を評価や税額に反映させるための仕組みが用意されています。主なものは次の3つです。

  • 特定非常災害の評価の特例:大規模な災害として指定された災害の場合に、土地などを「災害の発生直後の価額」で評価できる
  • 申告期限の延長:災害で申告ができない場合に期限が延びる。特定非常災害では申告期限そのものが後ろにずれる特例もある
  • 災害減免法による軽減・免除:財産が一定以上の被害を受けた場合に、課税価格から被害額を差し引く、または税額を免除する

どの制度が使えるかは、「相続と災害のどちらが先か」と「災害が申告期限の前か後か」という2つの時点でほぼ決まります。この記事では、時点ごとに使える制度を整理し、申告後に被災した場合の見直しまでを解説します。

前提:相続税は「相続開始時の時価」で計算する

相続税の財産評価は、原則として相続開始の時の時価によります。相続開始から申告期限までの約10か月の間に地価が下がっても、原則として評価は変わりません。この原則の例外として、災害については特別な手当てが設けられています。

ここで押さえておきたいのは、災害による損失には2つの種類があることです。

  • 物理的な損失:地割れや液状化による陥没、建物の倒壊・流失など、財産そのものが傷んだことによる損失
  • 経済的な損失:周辺の道路やライフラインの被害、街並みの損壊などによって、土地の価格そのものが下がる損失

災害減免法は主に前者を、特定非常災害の評価の特例は主に後者を手当てする仕組みと整理すると、全体が理解しやすくなります。

時点別に見る、使える制度

相続と災害の関係主に検討する制度申告・手続のポイント
相続 → 災害(申告期限前)特定非常災害の評価の特例(指定された災害の場合)、災害減免法6条申告書に特例を受ける旨や被害の状況を記載。期限延長の対象になることが多い
相続 → 災害(申告期限後)災害減免法4条(税額の免除)災害のやんだ日から2か月以内に免除承認申請書を提出
災害 → 相続(同じ年の年末まで)特定非常災害発生日以後に取得した財産の評価(通達)指定された災害で、特定地域内の土地等が対象
災害 → 相続(翌年以降)通常の評価(その年の路線価等に被害が反映)物理的な損失の有無を個別に確認

※AEGISが制度の関係を整理したものです。各制度の要件は以下で確認してください。

特定非常災害の評価の特例

どのような災害が対象か

「特定非常災害」とは、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律の規定により、特定非常災害として指定された非常災害です。すべての災害が対象になるわけではなく、大規模な災害について個別に指定されます。指定の状況は内閣府のホームページで公表されています(国税庁 タックスアンサーNo.8006)。

相続の後に災害が起きた場合(租税特別措置法69条の6)

特定非常災害の発生日より前に相続や遺贈で財産を取得し、相続税の申告期限が発生日以後である場合、特定地域内にある土地や借地権など(特定土地等)で、発生日に所有していたものは、相続開始時の時価ではなく「特定非常災害の発生直後の価額」で評価することができます(租税特別措置法69条の6)。

「特定地域」とは、その災害で被災者生活再建支援法の適用を受ける地域(適用がない場合は財務大臣が指定する地域)をいいます。発生直後の価額は、国税局長が地域ごとに「調整率」を定めている場合、その年の路線価や評価倍率に調整率を掛けて計算できます。

非上場株式でも、特定地域内にあった不動産などの資産が保有資産の10分の3以上を占める会社の株式(特定株式等)は、同様に発生直後の価額で評価できます。

この特例は、申告書(期限後申告書・修正申告書を含む)や更正の請求書に適用を受ける旨を記載した場合に限り適用されます(同条3項)。

災害の後に相続が起きた場合

特定非常災害の発生日以後、その年の12月31日までに相続などで取得した特定地域内の土地等は、発生直後の価額に準じて評価することができます。地割れなどで土地の形状が変わった場合には、さらに原状回復費用に相当する額を差し引いて評価できます(国税庁「特定非常災害発生日以後に相続等により取得した財産の評価について」)。

その年の路線価は1月1日時点の価格をもとに定められているため、年の途中で起きた災害の影響が反映されていません。この取扱いは、そのずれを埋めるためのものです。

被災した家屋の評価

被災した家屋で、被災後の現況に応じた固定資産税評価額がまだ付けられていないものは、災害直前の家屋の評価額から、条例に基づいて適用された固定資産税の軽減・免除の割合に相当する額を差し引いて評価することができます。被災後に修理をした場合は、その費用の一定割合を加えます(同通達)。

申告期限の延長

災害による期限の延長(国税通則法11条)

災害などやむを得ない理由で期限までに申告や納付ができないときは、その理由がやんだ日から2か月以内に限り、期限が延長されます(国税通則法11条)。延長の方法には、国税庁長官が地域と期日を指定する地域指定と、税務署長への申請による個別指定などがあります(国税庁 タックスアンサーNo.8001)。

地域指定は納税地で判断されるため、被災地に不動産を持っていても、相続人の納税地が指定地域の外にある場合は自動的には延長されません。その場合は個別指定の申請を検討します。

特定非常災害の場合の申告期限の特例(租税特別措置法69条の8)

同じ被相続人から財産を取得した人のうち一人でも69条の6の評価の特例を受けられる人がいる場合、相続税の申告期限が「特定日」より前であれば、申告期限は特定日まで延びます。特定日とは、その災害による国税通則法11条の延長後の期限と、特定非常災害発生日の翌日から10か月を経過する日の、いずれか遅い日です(租税特別措置法69条の8)。

災害直後は、土地の状況の把握や調整率の公表を待つ必要があり、通常の申告期限では評価が難しいことへの手当てと考えられます。

災害減免法による軽減・免除

災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律(災害減免法)は、特定非常災害に限らず、災害一般に適用される制度です。

対象となる被害の程度

次のいずれかに該当する場合に適用されます(国税庁 タックスアンサーNo.8006)。

  • 課税価格の計算の基礎となった財産の価額(債務控除後)のうち、被害を受けた部分の価額(保険金や損害賠償金で補てんされた額を除く)の割合が10分の1以上
  • 動産等(動産・建物などの不動産〔土地等を除く〕・立木)の価額のうち、被害を受けた部分の割合が10分の1以上

土地の地価下落そのものは、ここでいう被害には含まれにくい点に注意が必要です。土地については、地割れなど物理的な損失があった場合の原状回復費用の見積額が、被害額として扱われる考え方がとられています。

申告期限の前に被災した場合(災害減免法6条)

財産の価額から、被害を受けた部分の価額を差し引いて課税価格を計算します。申告書に、被害の状況や被害額を記載した計算明細書を添付して提出します。

申告期限の後に被災した場合(災害減免法4条)

すでに税額は確定していますが、災害のあった日以後に納付すべき相続税のうち、被害を受けた部分に対応する税額が免除されます。延滞税などの附帯税や、災害の時点ですでに滞納していた税額は対象外です。免除を受けるには、災害のやんだ日から2か月以内に、免除承認申請書を所轄の税務署長に提出します。

延納中の相続税がある場合も、災害のあった日以後に納付すべき部分は免除の対象になり得ます。期限が短いため、被災後は早めに確認することが大切です。

申告後に被災した場合の見直し

すでに申告を終えていても、次のような場合は見直しの余地があります。

  • 申告期限前に申告書を提出し、その後・申告期限前に被災した:特定非常災害の評価の特例は、更正の請求書に記載して適用を受けることもできます(租税特別措置法69条の6第3項)。災害減免法6条の適用も含め、更正の請求による見直しを検討します。
  • 申告期限後に被災した:災害減免法4条の免除承認申請(2か月以内)が中心です。
  • 相続時精算課税で贈与を受けた土地・建物が被災した:令和6年1月1日以後の災害で一定の要件を満たす場合、相続税の課税価格に加算する価額から被害額を差し引ける措置があり、原則として災害発生日から3年を経過する日までに承認申請が必要です(国税庁 タックスアンサーNo.8006)。

なお、相続した財産が災害で損害を受けた場合、所得税の雑損控除の対象になることもあります(国税庁 タックスアンサーNo.1110)。相続税と所得税の両面から確認しておきたいところです。

申告後に財産の価値が下がった場合の考え方全般は、関連記事「申告後に相続財産の価値が下がったときにできること」で、更正の請求の期限と手続は「相続税を払いすぎていたときの更正の請求」で解説しています。

AEGISの視点

災害時の相続税の特例は、手続の期限が短く、要件も時点によって細かく分かれています。しかし、AEGISは、被災した不動産の相続で本当に大切なのは「評価をいくら下げられるか」より先に、「その不動産をこれからどうするか」だと考えています。

被災した土地は、再建する、売却する、当面は更地として管理する、といった選択を迫られます。その判断には、保険金の受取り、建物の解体や修繕の費用、借入金の返済、相続税の納税資金と延納の可否、さらに相続人の生活の拠点がどこにあるかが関わります。評価の特例は、その判断を支える前提条件の一つにすぎません。

また、被災直後に何より役立つのは記録です。被害の写真、自治体などが発行する被害の証明書類、修繕の見積書、保険の支払通知を、早い段階から整理しておくこと。これが、評価の特例・災害減免法・所得税の雑損控除のいずれにも共通する土台になります。

制度変更や特例が保有不動産と承継計画のどこに影響するかを点検する考え方は、親記事「不動産評価や相続に関する制度変更時の点検事項」で整理しています。相続税申告の土地評価全般の見直しは「相続税申告の土地評価を見直すときの確認点」も参考にしてください。資産税務や承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

相続税の申告や相続の手続きをまとめて相談したい場合は、アイジス税理士法人・アイジスファミリーオフィスでもお受けしています。詳しくは、相続税申告・相続手続きのご相談をご覧ください。

まとめ

  • 災害時の相続税の扱いは、「相続と災害のどちらが先か」「災害が申告期限の前か後か」で使える制度が変わります。
  • 特定非常災害に指定された災害では、特定地域内の土地等を「発生直後の価額」(路線価等×調整率)で評価できる特例があります。
  • 特定非常災害では、申告期限が「発生日の翌日から10か月を経過する日」などまで延びる特例もあります。
  • 災害減免法は災害一般が対象で、被害割合が10分の1以上の場合に、申告期限前なら課税価格から被害額を差し引き、申告期限後なら税額が免除されます(申請は2か月以内)。
  • 申告後でも、更正の請求や免除の申請で見直せる場合があります。具体的な適用は、被害の内容と時点によって異なります。

よくある質問

Q. 相続した土地が水害に遭いました。どの災害でも評価の特例は使えますか?

「発生直後の価額」で評価する特例は、特定非常災害として指定された災害に限られます。指定されていない災害でも、災害減免法による軽減・免除は、被害の割合などの要件を満たせば利用できます。まずは、その災害が特定非常災害に指定されているかを確認しましょう。

Q. 被災して申告の準備ができません。申告期限はどうなりますか?

災害で申告ができない場合は、国税通則法に基づき、地域指定または個別の申請によって期限が延長されます。特定非常災害で評価の特例を受けられる人がいる相続では、申告期限が「発生日の翌日から10か月を経過する日」などまで延びる特例もあります。ご自身の納税地が地域指定の対象かどうかを確認してください。

Q. 土地の価格が下がっただけでも、災害減免法は使えますか?

災害減免法は、財産そのものが受けた被害を対象とする制度です。土地については、地割れなど形状が変わったことによる物理的な損失が中心で、周辺の被害による地価の下落は、特定非常災害の評価の特例で手当てされる性質のものと整理されています。

Q. 相続税を納め終わった後に被災しました。還付はありますか?

災害減免法4条の免除は、災害のあった日以後に納付すべき税額が対象です。すでに納付を終えた税額は、原則として免除の対象になりません。延納中の場合は、残りの納付分が免除の対象になり得ますので、災害のやんだ日から2か月以内に申請を検討してください。

Q. 被災した家屋は、どのように評価しますか?

被災後の固定資産税評価額がまだ付けられていない場合、特定非常災害では、災害直前の評価額から固定資産税の軽減・免除の割合に相当する額を差し引いて評価する方法が示されています。全壊・流失などで価値がない場合も含め、被害の状況を示す資料を残しておくことが重要です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『令和6年版 土地評価の実務』小野 徹 編、大蔵財務協会、2024年、P.487-510
  • 『一般動産・知的財産権・その他の財産の相続税評価Q&A』武田秀和 著、税務研究会出版局、2013年、P.26-33
  • 『実務家のための「基本書&ハンドブック」要点 譲渡所得【第一編】』塩野入文雄 著、法令出版、2020年、P.410-411

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。