会社で持つ物件を売るときの税金と資金の取り出し|法人税の課税、配当・役員報酬・退職金・清算の比較、株価への影響

住宅模型の横で鍵を受け渡す手元

資産管理会社で持っている物件を売ると、税金はどうなり、売却代金はどうすれば個人の手元に移せるのか。個人で売る場合と比べて、考えることが一段多いのが法人保有の物件の売却です。

結論から言えば、ポイントは次の3つです。

  • 会社の課税:売却益は会社の他の損益と合算され、法人税等の対象になります。個人のような長期・短期の区分や分離課税はありません。
  • お金の取り出し:売却代金は会社のものです。個人に移すには、役員報酬・役員退職金・配当・会社の清算・会社への貸付金の返済などの方法があり、それぞれ課税のされ方が違います。
  • 株価への影響:物件が現金に変わることで、自社株の相続税評価額が上がることがあります。

この記事では、売却から資金の取り出し、株式の承継までを一つの流れとして整理します。

会社が物件を売ったときの課税

売却益は「会社の所得」に合算される

会社が不動産を売ったときの売却益は、売却価額から、帳簿価額(土地は取得価額、建物は減価償却後の未償却残高)と譲渡費用を差し引いた金額です。この売却益は、賃料収入などの他の損益と合算され、その事業年度の所得として法人税等の対象になります。

個人の売却と比べると、主に次の違いがあります。

項目個人で売る場合会社で売る場合
課税の方式他の所得と分離して課税(分離課税)会社の他の損益と合算して課税
所有期間による区分長期・短期で税率が違う区分なし
損失が出た場合原則として他の所得と相殺できない他の損益と相殺でき、繰越欠損金にもなり得る
売却代金の行き先個人の手元に入る会社に入る(個人に移すには別の手続と課税)

※国税庁 No.3202・No.2250などをもとにAEGISが整理しました。

法人税の税率

法人税の税率は、資本金1億円以下の中小法人などでは、年800万円以下の所得部分に軽減税率(15%。所得が年10億円を超える事業年度は17%)が適用され、それを超える部分は23.2%です(国税庁 No.5759、令和7年4月1日現在法令等)。実際の負担は、法人住民税や法人事業税などを合わせて考える必要があり、令和8年4月からは防衛特別法人税も創設されています。

売却益が大きい年は、会社の所得が一時的に大きくなり、軽減税率の範囲を大きく超えることになります。また、法人の土地の譲渡益に対する追加課税(いわゆる土地重課)は、現在、適用が停止されています。

会社が使える特例

会社が事業用の資産を売って一定の資産に買い換える場合には、法人向けの「特定の資産の買換えの場合の課税の特例」があり、圧縮記帳によって売却益の課税を繰り延べられることがあります。個人の買換え特例と同じく、課税がなくなるわけではなく、買い換えた資産の帳簿価額が小さくなる仕組みです。個人の買換え特例の考え方は、関連記事「収益不動産を買い替えるときの課税の特例」で整理しています。

売却代金を個人に移す方法を比べる

売却で会社に入った資金は、そのままではオーナー個人のお金ではありません。個人に移す主な方法は次のとおりです。

方法会社側個人側主な注意点
役員報酬損金(定期同額給与などの要件あり)給与所得として総合課税売却した年だけ増額することは難しい。社会保険料も増える
役員退職金原則として損金(不相当に高額な部分は除く)退職所得(原則、控除後の2分の1に課税)退任の実態が必要。役員勤続5年以下は2分の1計算なし
配当損金にならない配当所得(源泉徴収のうえ総合課税、配当控除あり)法人税を払った後の利益から支払う
会社の清算残った財産の処分益に法人税等残余財産のうち資本金等を超える部分はみなし配当会社がなくなり、承継の器も失う
会社への貸付金の返済課税なし課税なし(元本の返済)オーナーが会社に貸し付けている残高の範囲に限られる

※国税庁 No.5211・No.1420・No.1330などをもとにAEGISが整理しました。

役員報酬:売却の年だけ増やすことは難しい

役員報酬は会社の損金になりますが、損金になるのは、毎月同額の「定期同額給与」、事前に税務署へ届け出た「事前確定届出給与」、一定の「業績連動給与」のいずれかに該当するものに限られます(No.5211)。物件が売れたからといって、事業年度の途中で役員報酬を引き上げても、原則として増額分は損金になりません。役員報酬は、売却代金を一度に移す手段というより、会社の毎年の利益を継続的に配分する手段と考えるのが現実的です。

役員退職金:売却益と同じ年に損金が生じる

役員退職金は、不相当に高額な部分を除いて会社の損金になり、個人の側では退職所得として、退職所得控除額を差し引いた後の2分の1が課税対象になります(No.1420)。物件の売却益が出る事業年度に役員退職金を支給すれば、会社では売却益と退職金の損金が同じ年に計上され、個人では他の所得と分けて比較的軽い負担で受け取れることになります。

ただし、退職金には実際に退任している、または職務内容が大きく変わっている実態が必要です。また、役員としての勤続年数が5年以下の場合は「特定役員退職手当等」として2分の1の計算が適用されません(No.1420)。退職金の時期や金額の考え方は、関連記事「役員退職金はいつ・いくら支給するか」で詳しく扱っています。

配当:法人税の後に、もう一度課税される

配当は会社の損金にならず、法人税等を負担した後の利益から支払います。非上場株式の配当は、支払時に源泉徴収されたうえで原則として総合課税となり、配当控除の対象になります(No.1330)。所得税・住民税の税率が高い方では、法人税と配当課税の二重の負担が重くなりやすいため、大きな売却益を一度に配当で移すと負担が大きくなることがあります。

清算:会社をたたんで残余財産を受け取る

物件を売り終えて会社を使う予定がなくなった場合は、会社を解散・清算して、残った財産を株主に分配する方法もあります。個人株主が受け取った残余財産のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として配当所得になり、残りの部分は株式の譲渡として扱われます。会社に長年蓄積した利益を一度に受け取ることになるため、その年の個人の税負担が大きくなりやすい点に注意が必要です。解散・清算の手続と税務は、関連記事「資産管理会社の解散・清算を考えるとき」で整理しています。

会社への貸付金の返済

オーナーが会社に資金を貸し付けている場合、その返済を受けるのは元本の回収であり、会社・個人とも課税は生じません。物件の取得時にオーナーが資金を出している資産管理会社は多いため、売却代金の使い道を考える前に、会社とオーナーの間の貸し借りの残高を確認しておくことが出発点になります。会社とオーナーの資金の整理については、関連記事「資産管理会社と事業会社の資金管理」も参考になります。

売却が自社株の評価に与える影響

資産管理会社の株式を家族に引き継ぐ予定がある場合は、売却が株価(相続税評価額)にどう影響するかも確認しておく必要があります。

純資産価額:物件が現金に変わると評価が上がりやすい

資産管理会社の株式は、会社の資産を相続税評価額で評価し直して計算する「純資産価額」の影響を強く受けます。賃貸している土地や建物は、路線価や固定資産税評価額を基に評価され、賃貸による減額も考慮されるため、一般に時価より低く評価されます。一方、物件を売って得た現金は、そのままの金額で評価されます。そのため、物件を売却して現金に変わると、純資産価額が上がることが多くなります。

また、純資産価額の計算では、相続税評価額と帳簿価額の差(評価差額)から法人税額等に相当する金額(現行38%)を控除できます(財産評価基本通達185・186-2)。売却によって評価差額の構成も変わるため、売却前後で株価を試算しておくことが大切です。

さらに、売却代金で別の不動産を取得した場合、取得後3年以内の土地や建物は、通常の取引価額で評価されます(財産評価基本通達185)。買い替えた直後に相続が起きると、評価が下がらない点にも注意が必要です。

類似業種比準価額:売却益は利益から除かれる

会社の規模によっては、同業種の上場会社と比べる「類似業種比準価額」も株価の計算に使われます。この計算で用いる1株当たりの利益金額からは、固定資産の売却益などの非経常的な利益が除かれます(財産評価基本通達183)。売却益で会社の利益が一時的に増えても、この要素がそのまま上がるわけではありません。

会社の区分が変わることもある

資産のうち土地等の割合が高い会社は「土地保有特定会社」として、原則として純資産価額で評価されます。物件を売って資産の構成が変わると、この判定も変わる可能性があります。判定の考え方は、関連記事「土地保有特定会社・株式等保有特定会社とは」で扱っています。

売却の前に決めておきたい順番

順番確認すること
1. 売却後の会社の役割会社を続けて別の運用に使うか、清算するか
2. 会社の課税の見込み売却益、他の損益、繰越欠損金、法人税等の概算
3. 貸し借りの残高オーナーから会社への貸付金、会社からの借入れ
4. 取り出す金額と方法退職金・配当・清算・報酬の組合せと個人の税負担
5. 株式の承継売却前後の株価、株式を誰にいつ移すか
6. 次の運用先会社で再投資するか、個人で使うか

※AEGISが売却前の整理のために作成した一覧です。

個人で保有する物件を売る場合の手取りの考え方は、関連記事「不動産を売却したとき、税引後にいくら残るか」で整理しています。

AEGISの視点

資産管理会社で持つ物件の売却は、「会社の税金」と「個人の税金」の二段階で考える必要があります。多くの場合、会社の段階の売却益の税金だけに目が向きがちですが、オーナー一族の手元に最終的に何が残るかは、売却後のお金を会社に残すのか、個人に移すのか、移すならどの方法を使うのかで大きく変わります。

AEGISは、法人保有物件の売却を、会社という「器」をこれからどう使うかを決める機会だと考えています。会社を続けるなら、売却代金は次の物件や他の資産に再投資され、株式の承継の設計が重要になります。会社を閉じるなら、清算の時期と個人の税負担、家族への分け方を一緒に設計する必要があります。役員退職金は売却益と同じ年に損金を生む有力な手段ですが、オーナーが本当に退任するのか、会社の経営を誰が引き継ぐのかという判断と切り離すことはできません。

売却の契約を結ぶ前に、会社と個人、そして次の世代の株式までを一枚の表に並べて比較すること。それが、税負担と家族の資産の両方を守る近道です。資産管理会社の全体像は、親記事「資産管理会社はいつ設立を検討すべきか」で整理しています。

会社と個人にまたがる資産税務・承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 会社が物件を売ったときの売却益は、会社の他の損益と合算され、法人税等の対象になります。個人のような長期・短期の区分はありません。
  • 売却代金を個人に移す方法には、役員報酬・役員退職金・配当・清算・貸付金の返済があり、会社と個人の課税のされ方がそれぞれ異なります。
  • 役員報酬は事業年度の途中で増やしても原則として損金になりません。役員退職金は退任の実態が前提です。
  • 物件が現金に変わると、純資産価額が上がり、自社株の評価が高くなることがあります。買い替えた不動産は取得後3年以内は通常の取引価額で評価されます。
  • 売却前に、会社の役割、課税の見込み、資金の取り出し方、株式の承継を順番に整理することが大切です。具体的な判断は個別の事情によって異なります。

よくある質問

Q. 会社で持っている物件を売った場合も、所有期間5年超かどうかで税率が変わりますか?

変わりません。個人の土地・建物の売却には所有期間による長期・短期の区分がありますが、会社の売却益は他の損益と合算して法人税等が課税され、所有期間による税率の区分はありません。

Q. 物件が売れた年に、役員報酬を増やして利益を減らすことはできますか?

事業年度の途中で役員報酬を引き上げても、定期同額給与などの要件を満たさない増額分は、原則として損金になりません。売却の年の利益を役員報酬で調整することは難しいと考えておく必要があります。

Q. 売却益が出る年に役員退職金を支給するのは問題ありませんか?

役員が実際に退任する、または職務内容が大きく変わるなど退職の実態があり、金額が不相当に高額でなければ、退職金は会社の損金になります。売却益と同じ年に支給すること自体は可能ですが、退任の実態や金額の根拠が問われるため、慎重な準備が必要です。

Q. 売却代金を配当で受け取る場合と、会社を清算して受け取る場合では何が違いますか?

配当は会社を続けたまま利益の一部を受け取る方法で、配当所得として課税されます。清算は会社をなくして残った財産をまとめて受け取る方法で、資本金等を超える部分はみなし配当として配当所得になります。清算では会社という承継の器もなくなるため、会社を今後どう使うかと合わせて判断します。

Q. 物件を売却すると、自社株の評価は下がりますか?

多くの場合、上がる方向に働きます。賃貸不動産は相続税評価額が時価より低くなりやすい一方、売却代金の現金は額面で評価されるためです。会社の株式を家族に引き継ぐ予定がある場合は、売却前後で株価を試算しておくことが大切です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

  • 『なるほど税務 財産・事業・一族承継のノウハウ』鈴木豊 著、中央経済社、2014年、P.201-209
  • 『現物分配制度の実務詳解―法務・税務・会計上の取扱いと活用法』勝間田学・西村美智子・中島礼子・松下欣親・金井孝晃 著、中央経済社、2012年、P.76-86

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。