古い店舗・倉庫を改修して事業に使う|用途変更の手続・建物の安全性・改修費の税務を先に確認する

作業服の管理担当者がタブレットを手に建物の外壁を点検する様子

シャッターを閉めたままの店舗や、使わなくなった倉庫。取り壊して建て替えるには費用がかかり、かといってそのままでは固定資産税だけがかかり続けます。こうした建物を改修し、カフェや教室、工房、地域の交流拠点などとして使い直す活用は、初期投資を抑えながら土地と建物に新しい役割を与える方法として関心が高まっています。

結論から言えば、古い店舗・倉庫を改修して事業に使うときは、工事の見積りより先に「建物の履歴」「用途変更の手続」「安全性」の3点を確認し、そのうえで改修費の税務と事業の組み立てを検討することが大切です。建物の状態や書類によっては、思っていた用途に使えなかったり、改修費が想定を大きく上回ったりするためです。

改修して使う(コンバージョン)とは

既存の建物の構造を生かしながら、内装や設備を改修して、元とは異なる用途に使うことを、一般にコンバージョン(用途転換)と呼びます。店舗を飲食店や教室に、倉庫を工房やスタジオに、といった使い方がその例です。

建替えと比べると、次のような違いがあります。

比較の視点既存建物を改修して使う取り壊して建て替える
初期投資抑えやすいが、建物の状態次第で増える大きいが、見積りの見通しは立てやすい
開業までの期間比較的短い設計・確認・工事で長くなりやすい
建物の制約既存の構造・規模・法令上の状態に縛られる現行の規制の範囲で自由に計画できる
事業の試しやすさ小さく始め、様子を見ながら広げやすい事業の規模を先に決める必要がある
建物の残り期間老朽化の程度により限られる長期の利用を前提にできる

改修による活用は「小さく始めて、事業の手応えを確かめる」のに向いています。一方で、建物の状態や法令上の制約という「見えにくいリスク」を抱えている点に注意が必要です。

確認1:建物の「履歴」を書類でたどる

最初に確認したいのは、その建物が建築時から現在までどのような手続を経てきたかです。

  • 確認済証・検査済証:建築時に建築確認を受け、工事完了後の検査に合格したことを示す書類です。手元にない場合でも、自治体の建築指導担当の窓口で、確認や検査の記録(台帳記載事項証明書など)を確認できることがあります。
  • 建築計画概要書:建築確認の際に作成された建物の概要で、自治体で閲覧できる場合があります。
  • 登記と現況の一致:登記上の床面積や構造と、実際の建物が合っているかを確かめます。増築部分が未登記の場合、建築時の手続を経ていない可能性もあります。
  • 建築された時期:建築時期によって適用されていた耐震基準などが異なります。

検査済証がない、増築の手続が不明といった建物では、用途変更の手続を進める前に、建物が当時の基準に適合していたかを調べ直す必要が出てくることがあります。この調査に時間と費用がかかる場合もあるため、事業の計画より先に書類を集めるのが現実的な順番です。

確認2:用途変更の手続が必要か

建築確認が必要になる場合

建築基準法では、学校、病院、劇場、集会場、百貨店、旅館、共同住宅、倉庫など、法律の別表に掲げる用途の「特殊建築物」について、その用途に供する部分の床面積の合計が200平方メートルを超えるものを、建築確認の対象としています(第6条第1項第1号)。既存の建物の用途を変更して、その用途の床面積が200平方メートルを超える特殊建築物とする場合にも、確認の手続(いわゆる用途変更の確認申請)が必要になります(第87条。政令で定める類似の用途相互間の変更を除きます)。

国土交通省によれば、平成30年の建築基準法改正により、既存建築ストックの活用を進める観点から、用途変更に伴って建築確認が必要となる規模の見直しが行われました(令和元年6月25日施行)。小規模な建物の用途変更では、確認の手続が不要となる場合が広がっています。

ただし、確認の手続が不要であることと、法令の基準を満たさなくてよいことは別の話です。変更後の用途に求められる防火・避難などの基準を満たしているかは、手続の有無にかかわらず確認が必要です。具体的な要否と基準は、建築士や自治体の窓口で個別に確認してください。

なお、現行の建築基準法(令和7年4月1日施行の改正後)では、2階建て以上または延べ面積200平方メートル超の建物などについて、用途を変えない場合でも、大規模の修繕や大規模の模様替をするときは建築確認が必要とされています(第6条第1項)。改修の範囲が大きい場合は、この点もあわせて確認が必要です。

用途地域と区域の制限

建物の用途は、都市計画の用途地域によっても制限されます。たとえば住居系の用途地域では、一定の規模を超える店舗や、作業場を伴う事業が認められないことがあります。また、市街化調整区域にある建物の用途を変更する場合は、別途の許可が必要になることがあります。その場所で、その事業ができるかを、建物の手続とは別に確認しておきます。

確認3:建物の安全性と事業の基準

用途が変わると、建物に求められる安全性の水準も変わります。

  • 耐震性:古い建物では、現在の耐震基準を満たしていないことがあります。特に昭和56年5月31日以前に新築の工事に着手した建物は、法令上「地震に対する安全性が明らかでない建築物」の要件とされています(建築物の耐震改修の促進に関する法律施行令3条)。多くの人が利用する事業に使う場合は、耐震診断と必要に応じた補強を検討します。
  • 防火・避難:飲食店や教室などは、倉庫や事務所と比べて、避難経路や内装の不燃化などの基準が厳しくなることがあります。
  • 消防用設備:用途によって必要な消防用設備が異なります。所轄の消防署への事前の相談が欠かせません。
  • 事業の許認可:飲食店の営業許可など、事業ごとの許認可や施設基準を満たす必要があります。
  • 設備の容量:給排水、電気容量、換気、空調などが、新しい用途に足りるかを確認します。

これらの対応費用は、内装工事の見積りには含まれていないことがあります。「安全性と基準への適合にいくらかかるか」を先に見積もることで、改修か建替えかの判断がぶれにくくなります。

確認4:改修費の税務(資本的支出と修繕費)

改修にかかった費用は、税務上、その年の経費(修繕費)になるものと、建物の取得価額に加えて減価償却していくもの(資本的支出)に分かれます。

国税庁によれば、固定資産の価値を高めたり耐久性を増したりする支出は資本的支出とされ、その例として「用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用」が挙げられています(法人税基本通達7-8-1、個人の場合はタックスアンサーNo.1379)。店舗や倉庫を別の用途に使うための改修は、原則として資本的支出に当たると考えておく必要があります。

一方、通常の維持管理や、壊れた部分を元に戻すための費用は修繕費とされます。また、形式的な基準として、次のような場合は修繕費として扱うことが認められています。

  • 一の修理・改良等の費用が20万円に満たない場合、またはおおむね3年以内の周期で行われる場合
  • 資本的支出か修繕費か明らかでない金額で、60万円に満たない場合、または前期末(個人は前年末)の取得価額のおおむね10%相当額以下である場合

実務上は、用途変更の工事と、あわせて行う傷んだ部分の補修を一体の工事として発注することが多く、その区分が問題になります。用途変更を目的とした一連の工事の中で行われる補修は、用途変更の費用に含めて資本的支出と判断される可能性があります。見積書や請求書の段階で工事の内容を分けておくと、後の判断がしやすくなります。

なお、改修にあたって撤去した既存の内装や設備の帳簿価額は、除却損として処理できる場合があります。いずれも具体的な判断は工事の内容によって異なるため、工事の発注前に税務の扱いを確認しておくと安心です。

確認5:固定資産税と、事業用の資産

固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に課される税金で、家屋は再建築価格を基準とする方法で評価され、土地と家屋は3年ごとに評価が見直されます(総務省)。大がかりな改修を行った場合、その内容によっては家屋の評価に影響することがあります。

また、事業のために取り付けた設備や備品は、家屋とは別に、事業用の資産(償却資産)として固定資産税の申告の対象になることがあります。改修後の税負担も事業の収支に織り込んでおきましょう。

事業との組み合わせ方:自分で使うか、貸すか

改修した建物を事業に生かす形は、大きく二つです。

  • オーナー(またはオーナーの会社)が自ら事業を行う:改修の内容を事業に合わせて決められる一方、事業のリスクも負います。土地・建物を個人が持ち、事業は会社が担う形にする場合の論点は、関連記事「土地所有者と事業運営会社を分ける設計とは」で解説しています。

  • 改修して事業者に貸す:改修をオーナーが行うか、借りる事業者が内装を行うかによって、費用負担・賃料・退去時の原状回復の範囲が変わります。契約の前に、誰が何を負担し、退去時に何を残すかを取り決めます。

どちらの場合も、事業が想定どおりに進まなかったときの出口を、改修前に考えておくことが大切です。撤退の条件と方法の決め方は、関連記事「土地活用の事業計画で撤退基準を決める」で整理しています。

改修か、建替えか、売却か

改修で進めるかどうかは、次のような順番で判断すると整理しやすくなります。

確認の順番確認すること改修が難しいサイン
1. 書類検査済証、建築計画概要書、登記と現況手続の履歴がたどれず、調査の負担が大きい
2. 法令用途変更の手続、用途地域、区域の制限予定の用途が認められない
3. 安全性耐震、防火・避難、消防、設備容量補強・設備更新の費用が建替えに近づく
4. 収支改修費、税務、固定資産税を含む事業収支建物の残り期間内に投資を回収できない
5. 承継土地・建物・事業を誰が引き継ぐか承継する家族が事業や建物の維持を望まない

いずれかの段階で改修が難しいと分かれば、建替えや売却、更地での活用も含めて比較し直します。土地の活用方法全般の比較は、関連記事「土地を貸す以外の活用方法とは」が参考になります。

AEGISの視点

使われなくなった店舗や倉庫は、多くの場合「負担」として語られます。しかしAEGISは、既存の建物を「事業を小さく試せる場」として捉え直すことに意味があると考えています。

建替えを前提にすると、大きな投資と長期の借入れが先に決まり、事業の中身が後から合わせられがちです。改修による活用では、地域にどのような需要があるか、自分たちがどのような事業を担えるかを、比較的小さな投資で確かめることができます。手応えがあれば次の投資へ、なければ別の活用へと進む判断がしやすくなります。

一方で、古い建物には書類・法令・安全性という見えにくい論点があり、改修費の税務や固定資産税、将来の承継にも影響します。工事の見積りを取る前にこれらを確認し、建物・事業・税務・承継を一つの計画として見ることが、改修による活用を成功させる前提だとAEGISは考えています。

土地と建物の活用を「貸す・活用する・売却する」の全体から考える視点は、Pillar記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で整理しています。

不動産の改修や事業化に伴う税務・承継の論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。

まとめ

  • 古い店舗・倉庫を改修して事業に使う方法は、初期投資を抑えて事業を試しやすい一方、建物の状態と法令上の制約に左右されます。
  • まず検査済証などの書類で建物の履歴を確認し、用途変更の手続と用途地域などの制限、耐震・防火・消防などの安全性を確認します。
  • 用途変更のための改修費は、原則として資本的支出に当たります。工事の内容を区分しておくことが大切です。
  • 固定資産税や事業用の資産の申告も含めて、事業の収支を作ります。
  • 書類・法令・安全性・収支・承継の順に確認し、難しい場合は建替えや売却も比較します。

よくある質問

Q. 床面積が200平方メートル以下なら、用途変更の手続は何もいりませんか?

建築確認の手続が不要となる場合があっても、変更後の用途に求められる防火・避難などの基準を満たす必要があります。また、用途地域の制限、消防用設備、事業ごとの許認可は別に確認が必要です。建築士や自治体の窓口で個別に確認してください。

Q. 検査済証がない建物は、事業に使えませんか?

直ちに使えないわけではありませんが、用途変更の手続などで建物の適法性を確認する場面では、調査や図面の作成などに時間と費用がかかることがあります。自治体で確認・検査の記録を調べられる場合もあるため、まずは記録の有無を確認することから始めます。

Q. 改修費は、すべてその年の経費にできますか?

用途変更のための模様替えや改造に直接要した費用は、原則として資本的支出となり、建物の取得価額に加えて減価償却します。通常の維持管理や原状回復のための費用は修繕費となりますが、用途変更と一体で行う補修は区分が問題になるため、工事の発注前に確認しておくことをおすすめします。

Q. 耐震補強の費用はどう扱われますか?

耐震補強は、一般に建物の価値や耐久性を高めるものとして資本的支出と考えられることが多いですが、工事の目的や内容によって判断が分かれることがあります。補助制度を設けている自治体もあるため、あわせて確認するとよいでしょう。

Q. 改修して貸す場合と、自分で事業を行う場合では、どちらがよいですか?

貸す場合はリスクが小さい代わりに収益も限られ、自ら事業を行う場合は収益の可能性が広がる代わりに事業のリスクを負います。オーナーや家族が事業に関われるか、撤退時にどうするか、将来誰が引き継ぐかを踏まえて選ぶことが大切です。

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参考資料・出典

公的資料・一次情報

書籍

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  • 『減価償却資産の取得費・修繕費(基本通達ケース・スタディと質疑応答)』河手博・成松洋一 共著、税務研究会出版局、第2編(印刷 p.406-409、p.512-513、p.545-547)
  • 『「全部自分でできる人」になる「不動産の仕事」大全』山本健司 著、ソシム、第4章(印刷 p.189-192、p.203、p.252-253)

この記事の監修者

監修者 保手浜 洋介

保手浜 洋介

ほてはま ようすけ

公認会計士・税理士・宅地建物取引士|アイジスグループ代表

相続税・資産税、事業承継、非上場株式評価、 不動産保有設計、ファミリーオフィス業務を 専門領域とする。

税務・会計の専門知識を基盤に、 事業オーナーや資産家の資産管理、 事業承継、財産承継に関する助言を行う。

AEGIS Knowledgeでは、税務・資産管理・ 事業承継等に関する記事の専門的な監修を担当する。