市街化調整区域の土地は、原則として建物を建てるための開発や建築が制限されているため、活用の選択肢が限られ、売却も簡単ではありません。一方で、相続税の評価では、こうした制限を反映して評価額を下げる「しんしゃく」の考え方が用意されています。
活用を考えるときは、まず「その土地で何が建てられるのか(または建てられないのか)」を役所で確かめ、そのうえで建物を前提としない用途と、許可を得られる可能性のある用途を比べていくことになります。この記事では、建築の可否、使える用途、相続税評価、売却の難しさの4つの視点から整理します。
市街化調整区域とは
都市計画法では、無秩序な市街化を防ぐため、都市計画区域を「市街化区域」と「市街化調整区域」に分けることができます(区域区分。いわゆる線引き)。市街化区域が「すでに市街地を形成している区域と、おおむね10年以内に優先的・計画的に市街化を図るべき区域」であるのに対し、市街化調整区域は「市街化を抑制すべき区域」とされています(都市計画法7条)。
このため、市街化調整区域では、道路や上下水道などの整備も市街化区域ほど進んでいないことが多く、土地の価格水準も一般に低くなります。
建物は建てられるのか:開発許可と建築の制限
開発行為には許可が必要
建物を建てる目的で土地の区画や形質を変えること(開発行為)は、都道府県知事等の許可が必要です(都市計画法4条12項・29条)。市街化区域では一定規模未満の開発は許可が不要ですが、市街化調整区域では、規模にかかわらず原則として許可の対象になります。
さらに、市街化調整区域での開発許可は、技術的な基準に加えて、都市計画法34条に列挙された立地の基準のいずれかに当てはまらなければ受けられません。主なものは次のとおりです。
- 周辺に住む人の日常生活に必要な店舗や、診療所・保育所などの公益上必要な建築物(1号)
- 沿道サービス施設(ドライブイン・給油所など)(9号)
- 市街化区域に隣接・近接し、建築物が連たんする地域のうち、自治体の条例で指定した区域での開発(11号)
- 自治体の条例で区域・目的・用途を限って定めたもの(12号)
- 線引きの際に自己の居住・業務用の建築目的で権利を持っていた人が、届出をして一定期間内に行うもの(13号)
- 開発審査会の議を経て、周辺の市街化を促進するおそれがないと認められたもの(14号)
11号・12号の条例区域は、災害の防止などを考慮した政令の基準に従って定めることとされており、近年は災害のおそれのある区域を含めない運用が明確にされています。
開発をしない建築にも許可が必要
開発許可を受けた区域以外でも、市街化調整区域内で建築物を新築・改築したり用途を変更したりするには、原則として都道府県知事等の許可が必要です(都市計画法43条)。農林漁業用の一定の建築物や、農林漁業を営む人の住宅などは例外とされています(同法29条1項2号)。
つまり、「今ある建物を建て替えられるか」「倉庫を店舗に変えられるか」も、個別に確認が必要です。過去に許可を得た建物であっても、用途や規模が限定されていることがあります。
現実的な活用の選択肢
建築の制限を前提にすると、市街化調整区域の土地活用は「建物を建てない活用」と「許可の見込みがある建物を建てる活用」に分かれます。
| 活用方法 | 建物 | 主な確認事項 | 収益性・転用 |
|---|---|---|---|
| 資材置場・駐車場として貸す | 原則なし | 地目・農地転用、条例、近隣との関係 | 収益は小さいが転用しやすい |
| 太陽光発電設備 | 建築物でない設備が中心 | 農地法・条例・系統連系・撤去費用 | 長期固定だが設備撤去の負担 |
| 福祉施設・診療所など | 許可を得て建築 | 34条の該当性、事業者の運営力 | 長期契約・建物の転用が難しい |
| 沿道サービス・日用品店舗 | 許可を得て建築 | 幹線道路沿いか、周辺の需要 | 立地次第で事業者の需要あり |
| 農地として続ける・貸す | 農業用施設のみ | 農地法・農業委員会 | 収益は小さいが相続での特例の検討余地 |
※AEGISが法令と一般的な事例をもとに整理したものです。可否は自治体の基準や個別の事情で大きく異なります。
開発行為は「建築物の建築または特定工作物の建設のための区画形質の変更」と定義されているため、建物を建てない資材置場や駐車場、地上設置の太陽光発電設備などは、開発許可の対象にならない場合があります。ただし、農地であれば農地法の転用許可が必要ですし、自治体の条例や盛土の規制、景観の規制がかかることもあります。
福祉施設などを建てて事業者に貸す活用は、地域に必要とされる施設を支える意義がある一方、建物の用途が限定されるため、事業者が撤退したときに次の借り手を見つけにくいリスクがあります。
相続税ではどう評価されるか
雑種地は「状況が類似する付近の土地」から比べる
資材置場や駐車場として使っている土地は、一般に雑種地として評価されます。雑種地は、状況が類似する付近の土地の価額を基に、位置や形状の差を考慮して評価します(財産評価基本通達82)。
市街化調整区域内の雑種地では、まず周囲の状況から「何と比べるか」を決めます(国税庁質疑応答事例「市街化調整区域内にある雑種地の評価」)。
- 周囲が純農地・純山林などの地域:農地・山林などの価額を基に評価(資材置場・駐車場として使われている場合は、農地等の価額に造成費相当額を加える方法が原則。ただし宅地を基にした価額が上限)
- 周囲に宅地が多い地域:付近の宅地の価額を基に評価(宅地比準)し、法的な規制を「しんしゃく割合(減価率)」として考慮
しんしゃく割合の目安
宅地比準で評価する場合のしんしゃく割合は、市街化の影響度と土地の利用状況で個別に判定するのが原則ですが、国税庁の質疑応答事例には目安となる区分が示されています。
| 周囲の状況(市街化の影響度) | しんしゃく割合の目安 |
|---|---|
| 農地・山林等と宅地の中間的な地域(建物の建築が難しい) | 50% |
| 店舗等の建築が可能な幹線道路沿いや、市街化区域との境界付近 | 30% |
| 宅地と同等の取引実態がある地域(郊外型店舗が建ち並ぶ地域など) | 0% |
※国税庁質疑応答事例の区分を、AEGISが読みやすく言い換えたものです。都市計画法34条11号の条例区域内は、この表によらず個別に判定します。
固定資産税の評価額にすでに「調整区域であること」が織り込まれていても、それは市街化区域との価格差を反映したものであり、相続税評価でいう建築制限のしんしゃくとは意味が異なることがあります。役所で建築の可否を確認し、どの区分に当たるかを根拠をもって判断することが重要です。
大きな土地の評価減は原則として使えない
面積の大きな宅地の評価を下げる「地積規模の大きな宅地の評価」は、市街化調整区域に所在する宅地は原則として対象外です。ただし、都市計画法34条10号または11号に基づいて宅地分譲の開発ができる区域は除かれます(国税庁タックスアンサーNo.4609)。
評価額が時価を上回ることもある
市街化調整区域の土地は、買い手が限られるため、通達どおりに計算した評価額が実際に売れる価格を上回ることがあります。そのような場合は、不動産鑑定評価などで時価を示す方法も検討対象になりますが、費用と効果、説明の根拠を慎重に比べる必要があります。
売却が難しい理由と備え
市街化調整区域の土地が売りにくいのは、次のような理由が重なるためです。
- 買主が建物を建てられないか、建てられる人や用途が限られる
- 金融機関の担保評価が低く、買主が融資を受けにくい
- 道路・上下水道などのインフラ整備に費用がかかることがある
- 農地の場合、買主が農業者などに限られることがある
相続のときにこの土地しか分ける財産がない、あるいは納税資金のために売却を予定している、という場合は、売却に想定以上の時間がかかることを前提に計画を立てておく必要があります。隣接地の所有者や、資材置場・事業用地を探す事業者など、買い手になり得る相手を早めに把握しておくことも一つの備えです。
AEGISの視点
市街化調整区域の土地は「使い道がない土地」と見られがちですが、AEGISは「誰にとって価値があるか」から考え直すことが大切だと考えています。建物を建てたい人には価値が低くても、資材や車両を置く場所を探す事業者、幹線道路沿いでサービスを提供したい事業者、地域の福祉施設を運営する法人にとっては、必要な土地であることがあります。
同時に、活用の判断と相続の判断を切り離さないことも重要です。評価額がしんしゃくで下がっても、売れない・貸せない土地を相続人が持ち続ければ、固定資産税や管理の負担が続きます。どの相続人がその土地を引き継ぎ、どう使うのか。地域の需要に応える事業として活用できるのか、それとも早めに手放す準備をするのか。土地の性格を正しく把握したうえで、家族の資産全体の中で役割を決めることが、将来の負担を軽くします。
事業として土地を活かす具体的な方法は、アイジスソーシャルインパクトの土地活用ページでも紹介しています。
土地の活用方法の比べ方は、関連記事「土地は『貸す・活用する・売却する』のどれを選ぶか」で、農地の場合の選択肢は「相続した農地・生産緑地をどうするか」で解説しています。
福祉施設への貸付けを検討する場合は「介護・保育施設に土地を貸すときの考え方」、評価額と売却価格の関係は「不動産の相続税評価額と売却価格はなぜ違うのか」もあわせてご覧ください。
土地の評価や不動産の相続に関わる論点については、アイジス税理士法人の専門領域でもAEGISの考え方を紹介しています。
まとめ
- 市街化調整区域は「市街化を抑制すべき区域」で、開発も建築も原則として許可が必要です。
- 許可が得られるのは、都市計画法34条の立地基準に当てはまる場合などに限られ、自治体の条例や基準で大きく異なります。
- 建物を建てない資材置場・駐車場・太陽光などは、開発許可の対象外となる場合がありますが、農地法や条例の確認が必要です。
- 雑種地の相続税評価では、周囲の状況に応じて比べる土地を決め、宅地比準の場合は建築制限をしんしゃく割合(目安50%・30%・0%)で考慮します。
- 地積規模の大きな宅地の評価は、原則として使えません。
- 売却には時間がかかることが多いため、相続や納税資金の計画に織り込んでおきましょう。
よくある質問
Q. 市街化調整区域の土地に家を建てることはできますか?
原則として建てられませんが、都市計画法34条の基準に当てはまる場合や、自治体の条例で指定された区域、農家の住宅などの例外があります。線引き前からの経緯や周辺の状況によって判断が変わるため、市町村や都道府県の開発許可の窓口で個別に確認してください。
Q. 調整区域の雑種地は、必ず50%しんしゃくできますか?
必ずではありません。しんしゃく割合は、周囲の市街化の影響度と土地の利用状況によって判定します。建物の建築が難しい地域では50%、店舗等の建築が可能な幹線道路沿いなどでは30%、宅地と同等の取引実態がある地域では0%という目安があり、条例で指定された区域は個別に判定します。
Q. 資材置場として貸している土地の相続税評価はどうなりますか?
雑種地として評価したうえで、借主が賃借権を持つ場合は、その賃借権の価額を差し引いて評価します。賃借権の価額は、契約の内容や残存期間によって異なり、賃貸借期間が短く更新が見込まれない場合などは差し引けないこともあります。
Q. 市街化調整区域の土地は、相続土地国庫帰属制度で手放せますか?
制度の要件を満たせば申請できますが、建物がある土地、資材置場などとして人に貸している(使用収益の権利が設定されている)土地、土壌汚染や境界争いがある土地などは申請できず、承認された場合も10年分の管理費用を基にした負担金が必要です。売却や隣地所有者への譲渡など、他の方法と比べて検討するのが現実的です。
Q. 調整区域にある古い倉庫を、別の用途で貸すことはできますか?
建物の用途を変更するには、原則として都道府県知事等の許可が必要です。過去の許可で用途が限定されていることも多いため、まず当時の許可の内容を確認し、新しい用途が許可の基準に当てはまるかを窓口で相談してください。
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参考資料・出典
公的資料・一次情報
- e-Gov法令検索「都市計画法」(4条12項・7条・29条・34条・43条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC0000000100/20260527_508AC0000000023
確認日:2026-10-09 - e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(2条3項・10条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/503AC0000000025/20250601_504AC0000000068
確認日:2026-10-09 - 国税庁 質疑応答事例「市街化調整区域内にある雑種地の評価」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/04/38.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁「財産評価基本通達 第2章第10節 雑種地及び雑種地の上に存する権利」(82・86・87)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/02/16.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 タックスアンサー No.4609「地積規模の大きな宅地の評価」(令和8年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4609.htm
確認日:2026-10-09 - 国税庁 質疑応答事例「雑種地の賃借権の評価」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/04/18.htm
確認日:2026-10-09
書籍
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- 『税理士を悩ませる相続・贈与の土地評価Q&A 第2集』鎌倉靖二 著、ぎょうせい、P.112-121
- 『令和6年版 土地評価の実務』小野徹 編、大蔵財務協会、P.453-458
